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ミステリの祭典

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リンゴォ・キッドの休日
二村永爾

作家 矢作俊彦
出版日1978年07月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点
(2019/08/15 04:14登録)
 昭和五十一年春。県警本部捜査一課に所属する二村永爾は六週間ぶりの休日の朝、旧知の横須賀署署長・岡崎の呼び出しを受けた。米軍軍港の突堤先っぽから引き揚げられたワーゲン、その中で拳銃自殺していた男の事件を私的に洗ってほしいというのだ。車が沈んでいたのは、先端から二十メートルも沖合。最終速度が時速九十キロはなくては、そこまでぶっとばない。なのにエプロンの上には急停車の跡がはっきり残り、ハンドブレーキは手がかりになっていた。さらに問題の拳銃は、屍体を飛び越して座席の反対側に転げ落ちていたのだ。
 偽造旅券を所持していた男の名はフェリーノ・バルガス。フィリピン国籍を詐称する日本人と思われ、ドーランで色黒の地肌を偽装し、他にも数年前の高速回数券など奇妙なものばかりを持っていた。
 一一〇番に知らせが入ったのは、今朝七時四分。ボストン訛りの英語でまくしたてた通報はすぐに切られ、高台の館ではクラブに勤める女・清水裕子が撃たれていた。心臓を一発。その銃弾が、バルガスの左こめかみを撃ち抜いた弾と一致したのだ。銃はロシア製の七・六二ミリ"トカレフ"。二つの事件は関連しているが、単純な無理心中といった訳でもなさそうだ。しかも、裏では公安がすでに動いている。
 二村は巨人戦の開幕チケットと署長のポケットマネー二万円を手に、事件以来行方を晦ましている裕子の友人・高城由(より)を探すべく情報屋・ヤマトと接触を試みるが、そんな彼を尾けまわす者がいた・・・
 二村永爾シリーズ第一作。初出は雑誌「ミステリマガジン」1976年12月号~1977年1月号に前後編分載。当時ラジオの仕事に携わっていた作者によると、横須賀を舞台にした映画製作の資金を得るべくシナリオをあわてて小説に書き直したそうですが、これはやや韜晦気味の発言。チャンドラー「長いお別れ」のエピグラフを巻頭に掲げ、文庫化の際には長尺の評論を加えるなど、実際にはかなりの意気込みを持って執筆されたと思われます。
 神奈川県警と公安警察、東西ヤクザに加え特ダネ狙いの雑誌記者、おまけに暴走族など、関係者は多彩ですが事件の骨子は単純。くっついた枝葉を取り払い、最後に浮かび上がる男女の惚れた晴れたをどう評価するかといった作品。とはいえイマイチ思い入れのない時代背景なので、あまり胸に響きません。もう少し年配の方だとまた違うかもしれませんが。
 文章もハヤカワ文庫版当時は「カッコいい!」と思ったんですが、後年のものに比べるとやや露骨。それでも大沢在昌が激賞するくらいスタイリッシュなんですが。矢作はどんどん上手くなってるからなー。実質処女作とはいえ、やはり若書きという事になるんでしょうか。それも凄い話だけど。ちょっと無駄に込み入ってるので、点数は6点相当。

No.1 6点
(2018/09/10 23:08登録)
あまり刑事らしく見えないらしい二村刑事の一人称形式で書かれた作品2編を収録していますが、どちらも彼の休暇日1日だけで済んでしまう事件です。したがって基本的には単独捜査で、なるほど、警察官が主役でありながら、警察小説ではなくハードボイルドにする、こんな手法があったかと感心させられました。文体や雰囲気はまさにハードボイルド、と言うかいかにもという感じの警句や比喩表現が過剰なまでに使われていて、疲れてしまうほどです。
表題作は200ページぐらいですから、短い長編と言っていいでしょう。真相は明かされてみるとごく単純なのですが、脇筋をごちゃごちゃと入れてわかりにくくなっているところ、tider-tigerさんが『真夜中へもう一歩』評で書かれているように、プロットの組み立て方も初期チャンドラーっぽいですね。約150ページの『陽のあたる大通り』の方がすっきりできています。

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