見えない精霊 |
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作家 | 林泰広 |
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出版日 | 2002年04月 |
平均点 | 6.71点 |
書評数 | 17人 |
No.17 | 7点 | ミステリ初心者 | |
(2021/05/08 19:22登録) ネタバレをしています。 かなり特殊で強固な厳しい条件の密室殺人事件です。 文は読みやすく、かなり早い段階で本題に入っていくため、すらすら読めます。かなり不可解な状況が続いていて、テンポも非常に良いです。 推理小説的要素に関しても、非常に満足でした! 最近では、偶然できてしまった密室や、犯人の意図しない密室など、私の好みではない密室が多くあります。この作品は真っ向から密室に挑んでおり、非常に好感が持てます。 密室状況がかなり特殊であり、このトリックのためにつくった状況…といった感じで、そこが好みを分けるかもしれません。カー作品や島田作品のような感じです。しかし、このトリックを、非常にうまく小説に落とし込んでいると思います。非現実的な感じも少しはしますが、私は気になりませんでした。 ヒントや伏線の張り方もよく、小説の序盤からあります。そこそこページ数のある作品ですが、無駄が一切なく、作者との勝負を純粋に楽しめる、本格好き垂涎の本であると感じます。 私は、挑戦状1回目を2~3ページ過ぎたあたりで、ふと"戦闘力の高いズオウはなぜ殺されたのか?"と疑問を感じ、"油断する相手ではないのか?→ウィザードか?"と考えた瞬間、すべての謎が解けました(笑)。序盤のヒントや疑問が一気に氷解します。本格推理小説の神髄を見させられました(笑)。 以下、難癖ポイント 飛行船の図やドアなどの特徴、人の輪での儀式の図(ウィザードの脳内の図でもいいから)などが欲しかったです。読み終わった後は案外単純な構造だとわかるのですが、読んでいる最中は複雑なように思え、話についていくのに必死でした(笑)。 精霊の行動は結構バレる危険があると思います(笑)。非常にうまく行動していますが、ウィザードと仲間たちがずっと一緒に行動していると、犯行がかなり難しくなってしまう気がします。 |
No.16 | 8点 | 群衆の人 | |
(2017/03/20 00:00登録) ※かなりネタバレ 奇術的トリックを魔術的世界で華麗に実現したパズルミステリの傑作。数々の不可能現象がたった1つのアイテムで解決されてゆく合理的な解決編はちょっと比類がない(強いて言えばフィルポッツの『灰色の部屋』が近い線か)。おそらくほとんどの読者は途中で「その原理」に気付き、しかし、「その原理」だけで何もかも説明出来るとは思えず混乱することだろう。そして解決編で知るのだ、「その原理」だけで何もかも説明出来てしまうことを! 作者は奇術家でもあるという。なるほど、たった1つのタネが移動現象、交換現象、貫通現象等を次々に起こすコイン奇術やボール奇術の合理性ととてもよく似ている。大事なのはタネそのものでなくタネの巧妙な使い方であるという点も。違うのはこれが小説でしか表現出来ない現象であることだ。世界観、犯人像、検証方法──すべてがこの小説奇術を成立させるために設定されている。御都合主義と言うなかれ。これは挑戦状付きパズル小説である。挑戦状以前に提示される特殊設定はすべて手掛かりである。むしろそう捉えてこそ、ただの夢想的な設定が、創造主の確かな意思で構築された力強い架空世界に変貌するのだ。 |
No.15 | 6点 | ボナンザ | |
(2017/03/05 00:08登録) 必殺の大トリックが爽快な良作。肝は一点ですが、それを最大限活かすべく研ぎ澄まされた感のある作品ですね。 |
No.14 | 8点 | 人並由真 | |
(2016/06/12 16:50登録) (ネタバレなし) 最後に明かされる真相。その唖然となる着想から逆算していき、くだんの驚きを最大限に効果的に演出するために組み立てられた、世界観・物語設定・舞台装置・そして登場人物。 二段構えの読者への挑戦を含めて、スタイリッシュかつ極めて工芸的なパズラーを練りあげようとする作者の気概、そしてミステリ愛には、読みながら何度も感動に近いものすら覚えた。 小説的に起伏が少なく、リーダビリティがやや弱いのは難点かもしれないが、本書の場合はあえて余分なものを入れなかった作りで良かったのかとも思う。 しかしこういう書き手が、ほとんど一冊のみでミステリ界を去っていったというのは悲しいなぁ。(言葉は悪いが)同じ一発屋でも中西智明なんかよりはるかに、その才能の行方を惜しむ。 |
No.13 | 6点 | パメル | |
(2016/04/11 12:03登録) 空中に浮かぶ飛行船でそれも暗闇という舞台設定 幻想的な世界観を持ちながら密室での連続殺人が行われる 論理的に精霊の正体を暴こうとする主人公に対し 論理的に精霊以外の犯行は不可能であると証明する少女との やりとりが読みどころ トリックはご都合主義だが十分楽しめる |
No.12 | 7点 | あびびび | |
(2016/03/20 14:00登録) そこそこ伏線を散りばめつつ、くどいほどの状況説明。飛行船を浮かべ、密室にするアイデアもそうだが、これなら別にネパール近辺でなくても…と思うが、そうでなくてはならない理由がある。 途中からうすうす感じていたトリックだが、しかし、あの狭い飛行船内でそれが可能なのか?しかも船内は一方通行である。 そう訝りながらも、ページをめくる手が止まらなかった。かなり読みやすい本だった。 |
No.11 | 9点 | いいちこ | |
(2015/05/14 17:13登録) 久々に会心の本格ミステリとの出会い。 ウィザードが提示する仮説を少女が打破するという一連のプロセスを、迂遠なまでに徹底することにより、提示される謎の不可能性は比類なき強烈さ。 そのうえで、この謎をシンプルなメイントリックの一撃で氷解させるエレガントさが実に見事。 トリック自体はバカトリックスレスレだし、フィージビリティの面でもノーエラーで成立するか疑問の余地もあるのだが、それを問題にしない破壊力。 また、このワンアイデアで、真相解明の論理性を担保しつつ、カタルシスを演出するにあたって、周到に計算し尽くされた特殊な舞台設定と、緻密な手順・伏線が光る。 そのため、催眠術はじめ極端に人工的な世界観となり、読者に若干の違和感を与えている点はやむを得ないだろう。 読者を選ぶ作品であるのは間違いないが、豪速球で押しまくる豪腕と心意気を高く評価して、この評価 |
No.10 | 5点 | nukkam | |
(2014/07/23 18:04登録) (ネタバレなしです) 林泰広(1965年生まれ)の2002年発表のデビュー作で好き嫌いが大きく分かれそうな本格派推理小説です。嘘を見抜く能力を持った人間など超能力ぎりぎりの設定があるのはフェアな謎解きのために必要なのは理解しますが、あまりにも異世界風に感じられます。トリックもシンプルでわかりやすいのはいいのですが、これを成立させるための前提があまりにも好都合すぎるという気もします。そこに目をつぶれば真相はこれしかないという説得力はそれなりにありますけど。 |
No.9 | 7点 | メルカトル | |
(2013/04/28 22:26登録) 再読です。 ワン・アイディアでこれだけの謎を生み出す手腕は認めざるを得ない。 しかし、ストーリー性は全くない上に、人間が全く描けていない。登場人物がまるで記号か何かにかのようで、個性がほぼゼロ。 さらに、文章がやや稚拙なせいもあって読みづらく、情景が全く浮かんでこない。 とまあ、これだけ欠点をあげつらうのだから面白くないのかと言えば、そんなことはなく、あくまでパズラーと捉えれば十分読み物としては面白いのである。 これだけ不可能犯罪を提示して、たった一つのトリックですべての謎を一瞬にして粉砕する破壊力は見事だと思う。 だから、この小説は人間関係だの人情の機微だの、或いは犯罪の背後にある因果律だとかは、すべて無視してひたすらパズルを解く感覚で読み進めるしかない。 たまにはこんなミステリがあってもいいだろう。 ただし、本作は極めて読者を選ぶ作品だということだけは間違いないのではないだろうか。 |
No.8 | 3点 | 蟷螂の斧 | |
(2012/02/17 19:19登録) 物語性がなく、クイズまたはゲームのような感じの小説で、トリックも感心するものではありません。残念ながら、まったく肌が合いませんでした。 |
No.7 | 9点 | 虫暮部 | |
(2011/01/22 10:08登録) 御見事。 難を言えば、殺人四件をまとめて説明しているから止むを得ないが、ラストの謎解きがくどい。ポイントはひとつだけなのに。 リーダビリティがあるゆえに重厚感には欠ける。 あと、大シャーマンの死についてウィザードはなんとも思っていなかったのか? |
No.6 | 6点 | テレキャス | |
(2010/03/19 05:18登録) 一撃必殺の禁じ手。 そして林泰広はいずこへ…。 |
No.5 | 7点 | isurrender | |
(2010/03/16 15:40登録) 面白いけど、あのトリックをフェアに成立させるために くどいくらいに伏線を張ってしまったので トリックに気付きやすくなってしまったのは残念 |
No.4 | 7点 | yoneppi | |
(2009/11/22 16:29登録) 気になっていた作品で、やっと読了。なぜか早い段階で気づいてしまったが、それでもかなり楽しめた。読後も爽快。 |
No.3 | 5点 | ロビン | |
(2009/10/17 17:33登録) 何がすごいって、一撃必殺のこのトリックを破たんなく(?)成立させたこと。ロートレックに勝るとも劣らない活字の魔法。この舞台設定や物語世界も、全てがフリだったとは。 ただ、僕個人としてはナシです。確かに練りに練られた構成ではあるけれども、「たった一つのある事実」さえ明らかになってしまえば、という『首無し』に通じるところもあるのですが、あの作品のように構図の転換や謎が紐解かれていく快感などはなく、単なる脱力。 |
No.2 | 7点 | 江守森江 | |
(2009/05/22 05:02登録) 小説を使った種明かし付きのマジックショーが楽しめる。 沢山の疑問点が列記された読者挑戦があり、全ての疑問点が一撃で解決するのが読み所。 |
No.1 | 7点 | シーマスター | |
(2009/03/15 22:10登録) インド奥地の上空に浮上した飛行船が舞台の、絶対に不可能と思われる連続殺人。 文章はあまり上手くないが幻想的な雰囲気の中でソリッドなシチュエーションを設定した上、客観性の漏れがないように様々な付帯状況を設けるなどして(そのため少なからぬ「ぎこちなさ」は如何ともし難いが)入念かつ緻密に作られたマジック・ミステリといえよう。 催眠術や「嘘を見抜く力」などの眉をひそめたくなるスキルも出てくるが、本筋ではそれらも不可思議性を徹底させるためのツールになっている。 主人公であるウィザード(魔法使い)と呼ばれる伝説のカメラマンと、特異な能力を持つとされる北インド秘境の美少女が繰り広げるクールでホットな論戦なども読み応え十分で、その上「読者への挑戦状」もあったりして、ミステリを純粋に「ロジック・クイズ」として楽しむにはうってつけの展開を呈してくれる。 ただ、メイントリックが明かされた時、それをミステリとして受け入れられるかどうか・・・・・・・・そのために人種的な背景なども含めて伏線が張られてはいるが・・・・・・・・受容できる人にとっては「多くの不可解な現象が、1つの事象によって全て明快に説明される」という点で『首無の如き祟るもの』に匹敵する傑作となるだろう。 このトリックは「ある禁じ手」のヴァリエーションであり、「んなんアリか、ふざけろ」と罵倒され一蹴されても止むを得ないものであるが、それを使うにあたっての周到なセットアップを鑑みれば、思考を煮詰めて煮詰めて煮詰めれば真相はこれしかない、という究極の論理の結晶として焙り出される「推理小説の解答」になり得るものとして個人的にはアリに一票を投じたい。 もちろん本作の真骨頂は「このネタ」ではなく「このネタを使って『見えない精霊』を作り出した、悪魔的なまでに精巧な演出」であることは一読明白であるが、このネタではミステリとしてあまり高い知名度が得られないのは止むを得ないところ。 何はともあれ、これだけ短い長編の中でこれほどゾクゾク、フーダニット、ハウダニットを楽しませてくれたことに対し作者に謝意を表したい。 (余談だけど・・・・ややネタバレ・・・・・・・・ドイルだっけ?「否定せざるを得ない仮定を全て消去した結果、唯一つ残った可能性・・・どんなに意外なものだとしてもそれが真実なんだよ(ワトソン君?)」という文言、それと彼の『唇のねじれた男』やガストン・ルルーの『黄色い部屋』の人間消失トリックに頭を悩ませる名探偵達の脳内を駆け巡った万華鏡の如きインスピレーションの火花の一片が時空を超え昇華して現代ミステリに具現化した作品といっても過言ではないのではないか、と思ったりもする) |