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ミステリの祭典

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Yの悲劇
悲劇四部作

作家 エラリイ・クイーン
出版日1950年01月
平均点8.05点
書評数62人

No.22 8点
(2010/06/09 10:05登録)
卵酒、パウダー、マンドリン、ヴァニラ、暖炉・・・。読書中、キーワードが登場するたびにすこしずつ記憶がよみがえってくるのですが、幸いにも途中で真相にたどり着くことはなかったので、再読を十分に楽しむことができました。再読であらためて感じたのは、それほどおどろおどろしさがなかったこと。感性が変化したからなのでしょうか。
「X」と比較すれば、謎解きの論理性、真相の意外性、物語性など、ほとんど同格です。舞台設定は全然ちがいますが、私は「X」のように場面に変化があり広がりのある設定も好きだし、本書のように閉塞感があって怪しげな雰囲気(『××家の○○』のようなやつ)も好きなので、物語に対する嗜好の面でも分け。本書がやや上だと思うのは、話の悲劇性(あのラストは日本人好みだと思う)と、納得のゆく犯人です(論理的にはどちらも納得できるが、「X」の意外な犯人はなぜか面白くない点があった)。

No.21 10点 レイ・ブラッドベリへ
(2010/02/20 00:38登録)
〔推理小説の古典〕
 一昔前までこの作品が海外推理小説ベストテンの常連だったのは、乱歩氏の強い推薦があったためという。
作中、奇怪な事件が連続するような印象があるが、実際は四つの(地味な)事件しか起きていない。 ①服毒(たまたま死ななかった) ②殴打(撲殺ではない。たまたまショック死してしまった) ③放火(ボヤである。目的は皆目不明) ④(それから二週間ほどおいての、全く唐突とも思われる)毒殺だ。
 これらの事件を通して、薬物についての豊富な知識と緻密な計画性から、高度な知性をもつ犯人像が窺われる反面、「すべすべした、やわらかな頬」や凄惨な犯行現場にはそぐわない甘いヴァニラのにおい、殺傷には至らない弱い力によるマンドリンでの殴打など、多くの「なぜ?」をまき散らしながら、事件はよろよろと進行していく。

〔仮説演繹法〕
 この作品では第一の事件が発端となり、第二の奇妙な殺人事件をめぐって数々の謎が提出される。その少ない手掛かりから、犯人と犯行の動機を解き明かすのは無理だろう。いくつかの仮説はたてられるが、それはあくまでも「仮説」であり、ひとつの可能性でしかない。
 そこで事件の状況から犯人像の仮説をたて、「その仮説が正しければ、このようなことが行われたはずだ」との推論を行い、その推論を検証することで当初の仮説の正当性を証明しようとする。(仮説演繹法の適用)
 この作品を読み返してみると、探偵が「あるもの」の存在を推論して遺族に確認し、かかりつけの医者を訪れ、実験室で待機するまでの一連の行動が全て「検証」の作業であったことがわかる。そしてその検証結果が正しかったことにより、沈痛な思いで「最悪の犯人」を受け入れている。

〔マンドリンについて〕
 ぼくが再読した集英社文庫によると、当時中学生だった北村薫氏が初めてこの作品を読んだとき、「実際の〇〇〇はこんなに△△ではないぞ!」と憤慨されたそうだ。例の「マンドリンの選択」についてである。でも、ビートたけしさんが戸田奈津子氏と対談した本で知ったのだが、アメリカでは外国映画を上映するとき、つい最近まで「吹き替え」が当たり前だったそうだ。字幕が使われたのは、1990年の「ダンス・ウィズ・ウルブズ」でのインディアンの台詞が最初らしい。アメリカでは今も、文字を読むことに対して強い拒絶反応があるそうだ。
 それに対し、「寺子屋」の伝統がある日本では、字幕(文字)を読むことは全く苦にはしていないようだ。(日本語が「漢字」という表意文字を中心とすることもあるのだろう)。 それらも合わせてアメリカ人の識字率のことを聞くと、あのマンドリンも「充分ありうることだなあ」と納得できるのだ。

〔時代と地域を越えた普遍性〕
 この物語では殺人事件の起きた私邸を警護するため、警察官が四人、交代で泊り込む。そして屋敷の専属料理人から三度の食事を提供される。文中に「人身保護法」という言葉がでてくるように、当時のアメリカではこのような警護が普通のことだったのだろう。
 登場人物はエッグノッグ(玉子酒と訳されている)やバターミルクを日常的に飲み、子供の菓子としてヴァニラ・パウダーなんかが自然と生活に溶け込んでいる。また三階建ての大邸宅には私設の図書室や化学の実験室があり、その図書室に泊まりこんだ警部は、ボトルに入ったウィスキーをちゃっかり、寝酒として失敬している。
 これらの日常は、現代の我々には想像しにくいものだ。
(「いや、私は毎日エッグノッグを飲んでます」とか、「うちの家にも化学の実験室があります」という人もいるかもしれないが、今回はご容赦を願うことにして…)。
 これらが珍しいものではなかったあの時代に、彼の地で書かれた推理小説という文脈で読めば、風俗習慣の違いや時代的な科学知識の誤謬などは、瑣末な事柄として受け入れられよう。そしてプロット全体を貫く骨太のロジックは、今なお普遍の力をもって我々に迫ってくる。
 この作品を「本当に良く出来た推理小説だ」と評価するのは、あながち乱歩氏による洗脳のためだけではないはずだ。

No.20 9点 あびびび
(2010/01/27 17:09登録)
xの悲劇とはまじ一味ちがう。xはあっさり系、そしてこのYはどろどろ系ではないか。しかし、どちらもおもしろい。

採点はこちらの方が低いようだが、自分にはその差が分からない。多分あるとすれば結末の不完全さか…。もう少し早く警察に犯人を示唆していれば…と凡人の私は思う?

No.19 7点 E-BANKER
(2009/11/01 21:39登録)
世界的、歴史的名作というべきでしょうか。
ドルリー・レーンというのは名探偵として非常に魅力的な人物ですね。真犯人や事件の背景を知ってしまって苦悩する本作は、彼の魅力が強く出ている作品だと思います。
ものすごい作品だという評判を聞いたうえ読んだため、世間的な評価よりは厳しめの点数かもしれません。
有名な「マンドリン」という凶器の選択やヴァニラの匂いなど、読者が真相を解くヒントは多いですし、とにかくドラマティックな作品という印象です。
ただ、やっぱり私も”Y”よりは”X”の方がミステリー的には優れているとは思いますが・・・

No.18 5点 isurrender
(2009/07/22 02:10登録)
自分がまだ子供の頃に読んだせいか、犯人がわかってしまった
子供であるが故に、容疑者のリストから外せなかった
だから衝撃も少なめ

No.17 8点 okutetsu
(2009/07/01 05:26登録)
あまりにも前評判がいいので期待しすぎたかもしれません。
何よりXのあとすぐに読んでしまったせいで論理性に若干の疑問が…
まぁそれでもやっぱ傑作というだけあって素晴らしい内容だったと思います。

No.16 9点 測量ボ-イ
(2009/05/27 20:00登録)
海外古典を語る上で、欠かすことのできない作品。海外では
「X」の方が評価されているようですが、僕はやはり「Y」
の方が良かったです(僕もやはり日本人という事か?)。
ミステリを読み始めて間もない時期なので、犯人の意外性
も十分でした。
いま考えると展開が御都合主義的なところもありますが、
何だかんだ言っても名作には違いないです。

No.15 6点 itokin
(2009/05/26 09:29登録)
古典の名作、その後の作家への影響を考えると8点。ただ、犯人は直ぐ解かったし、犯人を作り出す過程を描いているだけに思えて感情移入ができなかった。舞台設定が異常だったのも影響してるかも・・・。 

No.14 8点 白い風
(2009/05/21 20:29登録)
意外な犯人と云う意味では代表的な作品の一つだと思う。
また凶器が”マンドリン”と云うのも読みどころの一つですね。
聾唖者からの情報で触覚・嗅覚を使っての捜査も面白いですね。
ただ個人的にはラストはあまり好きな方じゃないかな。

No.13 8点 frontsan
(2009/02/07 10:05登録)
前もって犯人を知っていたので、面白さが半分になってしまったが、それを抜きにしてもよくできていると感心させられました。

No.12 8点
(2008/12/18 21:45登録)
バーナビー・ロス名義で発表されたこの作品の中で、作者はクイーン流推理への自信を表明していますが、実はその推理も含め、いくつか不満のある作品でもあります。
あくまでX、Zに比べればですが、中だるみの印象がありますし、レーン得意の変装が結局活用されないままなのにも拍子抜けしました。さらに、ルイザが犯人に触れたことから導き出される推理についても、レーンが「難しい」と主張していたことは、実際にやってみればわかりますが、簡単にできるのです。
などと文句もつけてみましたが、上記は犯人特定の推理のごく一部ですし、何といっても初期作品群の中では最も重厚感のある本書は、やはり読みごたえ充分です。ラスト数行も、言外の内容を実に鮮やかに伝えているという意味で記憶に残ります。

No.11 9点 マニア
(2008/11/13 01:03登録)
頭のおかしな家族と関係者が住む「きちがいハッター家」で起こる頭のおかしくなるような犯罪の数々!真相も含めて、物語全体に狂気が見え隠れする舞台設定は、前作『Xの悲劇』よりも自分好み。いい感じで狂ってる登場人物たちは長い物語を退屈させない魅力を持っている。

そして何より、クライマックスでドルリー・レーンが明かす意外な真相と、それを裏付ける論理の嵐には鬼気迫る迫力があり、「これでもか!」というような説得力を突きつけて来る。特に、凶器にマンドリンが選ばれた動機は圧巻!ただ、確かに原書を理解できて読めれば、もっと感動的なんだろうなぁと思う。とにかく、後のミステリ界に与えた影響の大きさも納得できる。

警察の捜査に不可解な点があったのも事実で少し残念だが、ミステリ史に燦然と輝く傑作であることには変わりない!

No.10 3点 いけお
(2008/11/08 21:00登録)
なぜ警察が暖炉の中の隠し場所を気づかないか、なぜ関係者全員、少なくとも女性の頬を証人に触らせないか、なぜ警察は事件のあった時間帯のアリバイを詳しく確認しないか、などなど。
動機や犯人が実際に犯行可能かとかは別としても、他にも不自然な点が多々感じられた。
あまりに目につくので、あら探しみたいな読み方になってしまった。
ロジックは流石と感じる部分が多いだけに、残念。

No.9 7点 シュウ
(2008/10/25 01:26登録)
異常な家族が住む館で起こる奇妙な事件ということで、Xの悲劇よりも好きな設定ではあります。一番印象深いのは凶器としては適さない
マンドリンを使った殺人で、確かに日本語訳だと原書ほどは驚けないのかも知れませんが、それでも謎が解けた時はなるほどと思いました。
ただハッター家にこれほどキャラが立った人物が揃ってるわりにはあまり人間ドラマとして面白くないのが残念。
この作品を絶賛していた乱歩が翻案してくれていればとても面白い怪奇小説になった気がします。

No.8 9点 こう
(2008/09/28 20:52登録)
20年前に初読のときは犯人がネタばれしていて読んでいてもさほど面白みがなかったですが、後年読んだときはロジックの整合性に感動した覚えがあります。やはりX,Y,Zは一貫して現代でもロジックに浸れる傑作たちだと思います。(レーン最後の事件は正直楽しめませんでしたが)
 犯人指摘の鍵となるルイザの尋問の部分は忘れがたいです。あと凶器のマンドリンも忘れがたいです。
「意外な犯人」ということでいえば現代では驚くに値しないかもしれませんがロジック、館ものの雰囲気、名探偵と全てそろっており傑作には違いありません。ロジックはしっかりしておりトリックから推理する作品ではないため犯人あても十分可能な作品だと思います。
 一つ難点をいえば「オランダ」もそうですが「本」を読んだ人のうちの誰かが犯人に決まっているのに警察の捜査が杜撰なことです。「名探偵」の引き立て役であるためしょうがないことではありますが。

No.7 10点 Tetchy
(2008/09/20 19:58登録)
21世紀の世になり、この齢までかなりの小説を消化してきた中で、ようやく着手。
それでもなお、面白く読めた。
もう純粋にロジックの畳み掛けに酔わせていただいた。この作品のロジックにはクイーン特有の美しさというよりも、論理を超えた論理という凄味を感じる。

確かに平成の世、21世紀の世において、この犯人像はもはや目新しい物でもなく、驚くべきものでもないだろう。
しかし、本作は単なる誰が殺ったのか?を当てる犯人当てだけに終わらない、そこに至るまでの様々な事件についての論証が物凄い。
未だに「推理小説で凶器といって何を思い浮かべるか」という質問があったときに、「マンドリン」と答える人が複数いるという。それは暗にこの小説で扱われた凶器がその人たちの記憶に鮮明に残っているからなのだが、これは確かにものすごく強烈に記憶に残る。いやむしろ叩き込まれるといった方が正鵠を射ているだろう。小学校で習う掛け算の九九や三角形の面積の出し方、円周率が3.14であることと同じくらい、死ぬまで残る記憶になるのではないか。それほど、このロジックは凄い。

そして私はこれは未完の傑作だと考える。なぜなら冒頭のヨーク・ハッター氏の真相が明かされていないからだ。
ヨーク・ハッター氏は果たして自殺だったのか、それとも?
なぜヨークは失踪したのか?
まだ『Yの悲劇』は終わらない。

No.6 6点 ElderMizuho
(2008/08/28 20:41登録)
明らかに犯人を示す証拠が目前に示されてるのにスルーとか、これ以上ないほど決定的な証拠を徹底捜査してるはずの警察がなぜか見落とすとか、そんな野暮な突っ込みで点数を低くするつもりはありません。
しかしそこまでして作り上げた筋書きなのにXの悲劇のような犯人コイツだったのか!感がないですし、レーンの理路整然とした推理もかなりクドイし実際は普通の能力を持つ警察なら半日で見つけ出せる事実で凄みを感じない。
結局小説としての完成度が低い気がします。やはり個人的にはXの方がだいぶ上かなあ・・。

No.5 9点 あやりんこ
(2008/06/12 21:08登録)
エラリィ・クイーンを初めて読んだ作品です。
すごく面白かったです。
ただサム警部の横柄さには辟易しました。
ほかの作品も早く読みたいです。

No.4 9点 Akira
(2008/04/05 22:50登録)
申すに及ばず、日本で最も有名な海外ミステリのひとつ。探偵の推理がなんたるかを体現した、本格の中の本格という作品。しらばっくれる怪しげな住民達(登場人物)も個性豊かで面白い。国内ミステリを読むと、多くの作家が、エラリィ作品の推理を(かなり)参考にしていることがわかる。本格物のお手本のような作品。また、文章表現が秀逸で、特に、短いやりとりだったが、なかなか真相に近づけない捜査の進捗を、トロイの木馬で例えた表現が美しかった。

ただ、探偵の推理があまりにも詳しすぎる、それに、殺人現場、実験室と同じ舞台を何度も往復するため、文章が長く、正直読みづらかった。

国内の代表的なミステリを30冊くらい読んだ後、Yの悲劇を読むと、この作品の日本人作家に与えた影響がどれ程のものだったのかよくわかるかもしれない。

No.3 10点 あい
(2008/03/07 22:53登録)
初めて読んだクイーン作品がこの作品でとても感銘を受けた。
最後の衝撃は今でも忘れられない。

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