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弾十六さん
平均点: 6.10点 書評数: 446件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.326 7点 河畔の悲劇- エミール・ガボリオ 2020/11/21 16:50
『オルシバルの殺人事件』牟野素人さんによる完訳。Kindleで入手可能です。
1867年出版、初出は新聞Le Soleil 1866-10-30〜1866-12-20及びLe Petit Journal 1866-10-30〜1867-2-6(連載開始は同じで、終わりが違う。何だろう。新聞にあたってみるしかないのかなあ。そもそも同時連載ってのが変だ。読者層が違うのか?) (2020-11-21追記: 両方とも社主が同じ新聞でLe Soleilの方は高級紙、Le Petit Journalは非常に安い大衆紙のようだ。Le Soleilは入手出来なかったので、そっちの連載が終わった次の日のLe Petit Journal 1866-12-21を見てみたら(仏国立図書館Web版で入手可能)第17章の途中(全体の57%)で、区切りとしても悪い。どーゆー終わり方だったのか気になる。続きはLe Petit Journalで! みたいな感じだったのかな?)
ルコック・シリーズ第二作。いやあ、『ルルージュ』が凄くよかったので、期待して読んだら中盤までは、ああ、この程度?とちょっとがっかりしてたら、怒涛の後半が素晴らしい。やや無理なんだけど、かなり上手な企み。大ロマンが味わえます。何でこれが埋もれてるのか、実に不思議。堂々たるメロドラマです。(推理味はちょっと薄いのですが…)
登場人物も上手く書けています(端役もいきいきしてる)。ルコックのキャラ設定も素晴らしくて、後半の記述が非常に良い。
あと、ドイルの例の構成は本書から思いついたのかも。(似てたらパクリ呼ばわりは阿保の所業ですね。すみません) (2020-11-21追記: と思ったら、二部構成形式をドイルはガボリオに学んだのでは?という説が昔からあるようだ。『オルシバル』も、今読んでる『書類百十三号』も途中で話が中断し、過去の出来事が長めに物語られる(ドイルの長篇で)お馴染みの形式。犯罪の証拠というものは現時点の事しか示せないのだから、動機を探るなら過去に遡る必要がある。実に理にかなっており、オルシバルの展開は実に流れが良くて、ガボリオもドイルも探偵小説における二部形式の威力を本作で実感したのだと思う。)
牟野素人さんの翻訳は淀みなく読ませる達者なもの。しかも値段設定がタダ同然です。次の『ファイルナンバー113』(書類第百十三号)も非常に楽しみ。
トリビアは後で。(まだ『ルルージュ』も終わってない…)
(以上2020-10ごろ記載)
———
dédicace : « A mon ami, le Docteur Gustave Mallet. »
p33/8893 186*年7月9日木曜日♣️

No.325 7点 俳優パズル- パトリック・クェンティン 2020/11/17 01:03
1939年出版。ダルースもの第二作。創元文庫の新訳(2012)で読了。
共通する重要な登場人物が多いので、第一作『迷走パズル』(1936)から読むのがおすすめ。
かなり面白い作品だが、文章が稚拙(翻訳のせいではないと思う)。ラノベっぽい未熟感。Wheelerは当時27歳だから仕方ないか。筋立ては非常に良い(かなり無茶苦茶なところが多いのだが、演劇界ならあり?とも思っちゃう)。順々に謎が解明されてゆく工夫がスムーズ。ラストには違和感ありだが、脳内補正は可能なレベルだと思う。
相変わらず主人公の情念が薄い。特に前妻とアイリスに対する想いはもっと妄想出来るはず。
この時期、劇場を舞台にした探偵小説が結構多い印象。最近私が読んだのでもEQ『ローマ帽子』(1929)、マクロイ『家蠅とカナリア』(1941)など。当時の娯楽の王様は映画ではなく、やはり演劇だったのだろう。まあ役者という設定は犯罪者として非常に便利。役者だから…と説明すればどんな変装も立居振る舞いも可能になっちゃう。
QP/PQコンビへの興味(私の主眼はそこなんだが)としては、権威的な医者の存在が、WheelerにとってのWebb(当時38歳)だったのでは?と妄想(逆にWebbがWheelerに指導者として振る舞いたい、という願望か)。治療としての演劇というアイディアは『マラ/サド』(1964)を連想してしまった(古いっすね)。演劇シーンはかなり素晴らしい。後年Wheelerが演劇界に入ったきっかけはこの作品か(前作では演劇の感じ無し)。ただし本書では素人が演劇界に触れている感じで、全然インサイダーっぽくない。
以下トリビア。私が参照した原文(Mysterious Press/Open Road 2018)には私でも分かるスペル誤りが数件あった(fire→fine, look→took, Gobbs→Gibbs、OCRで変換した感じ)。
p7 インターナショナル・カジノのてっぺんには丸い目をしたけばけばしい金魚を描いたリグリー社の看板がそびえている(the Wrigley goldfish loomed, lurid and popeyed, above the International Casino)♦︎これ、当時の名物。例えるなら「ススキノのニッカおじさんが我々を見下ろしていた」(ローカルネタで失礼)というような表現。誰でも知ってるランドマークを冒頭に登場させちゃうところが素人っぽい。この看板はガムのリグレー社がタイムズ・スクエアに建立した百万ドルの巨大ネオンサイン(50.6x20.3m)。当時最大の広告だったようだ。times square wrigley's signで検索。一見の価値あり。International Casinoの方は1936年建築の二階建て。劇場、各種店舗、ナイトクラブが入っていた。名前に反して賭博は行っていない。1940年閉鎖(戦時体制のためだろうか)。
p7 『洪水』(Troubled Waters)♦︎劇のタイトル。自然災害の洪水(flood)と区別するなら『奔流』が良いか。floodについてはp35のトリビア参照。(この項目2020-11-19追記)
p7『雨』以来の素晴らしい脚本に間違いない(the surest fire[fine] script the theater had struck since Rain)♦︎このRainはモーム作の短篇Miss Thompson(1921)をJohn Colton & Clemence Randolphが脚色した1922年ブロードウェイ・ヒット作のことだろう。Maxine Elliott’s Theatre(109 W. 39th St., New York)で1922-11-7〜1924-5-31の間、608公演のロング・ランとなった。
(ここまで2020-11-17記載)
p8 ラント夫妻♦︎「訳注 アルフレッド・ラントとリン・フォンテン。夫婦で多数の映画に出演」Alfred Lunt(1892-1977)& Lynn Fontanne(1887-1983)どちらかというと演劇界の人たちのようだ。
p8 くそったれ(Hell)♦︎当時はかなりの罵り語だったはず。日本語には罵りのレパートリーが少なくて…と誰かが嘆いていた。小実昌さんが『郵便配達』(1934)でhellcatを「ヒド猫」と訳したエピソードが記憶にこびりついている。
p13 『峠の我が家』(Home on the Range)♦︎Brewster M. Higleyの詩(1872出版)に友人のDaniel E. Kelleyがギターで曲をつけたという。1947年にはカンサス州歌に制定された。
p16 アメリカのしきたり… 第一楽屋はヒロインが使う(usual custom in American theaters... The female lead gets the first star dressing-room)♦︎ということは欧州では主演男優に優先権ありか?
p34 ペンシルヴァニア・ダッチ♦︎「訳注 17-18世紀にペンシルヴァニア南東部に移住した南部ドイツ人とスイス人の子孫」1930年代の雑誌にAmishがPennsylvania Dutchとして紹介され始めたらしい。ここら辺の描写だと一切の近代化を拒否しているアーミッシュ(私は映画『刑事ジョン・ブック』(1985)で知った)の感じではない。独自の文化を保持していた古風なドイツ系農民のイメージか。ジャック・ニクラウス、ダリル・ホール、ドワイト・アイゼンハワーがこの系統らしい。
p35 『海の夫人』(Lady from the Sea)♦︎イプセンの劇(1888)、ニューヨーク初演は1911-11-6(Lyric Theatre)か。
p35 洪水(flood)♦︎1936年3月にペンシルヴァニア州に大洪水があった。Wiki “Pittsburgh flood of 1936”参照。WebbとWheelerが米国で最初に住んだのはフィラデルフィアだから、この洪水で被害に遭っているかも。
(以上2020-11-18追記)
p43 ランカスターに住む友人から本物のペンシルヴァニア・ダッチの棺を送ってもらった♦︎Lancasterならアーミッシュのものか?
p57 『名誉なくして』(Without Honour)♦︎架空の劇と思われる。
p59 冷え冷えとした十一月の夜(cold November night)♦︎作中時間は11月。
p59 ひどい仕打ちをし(had done... wrong)♦︎翻訳の印象より、かなり漠然とした表現。
p60 ゲイリー・クーパー主演、ゴールドウィン制作のカウボーイ映画から出てきたような(like a Gary Cooper-cum-Goldwin cowboy)♦︎映画The Cowboy and the Lady(Goldwin 1938)が念頭にある? 前出のHome on the Rangeもこの映画の中で歌われているらしい。
p91 五百ドル♦︎米国消費者物価指数基準1939/2020(18.73倍)で$1=2017円。500ドルは101万円。
p97 ヒトラー♦︎1938年3月オーストリア併合前夜の状況が語られ「しばらく前のこと」だという。作中では現在1938年11月か。
p101 ペンシルヴァニア・ダッチ風の頰ひげ(Pennsylvania Dutch side-whiskers)♦︎アーミッシュは頰ひげと顎ひげは伸ばすが、口ひげは生やさないらしい… そのイメージか。
p133 五ドル札♦︎=1万円。デザインはリンカーン。サイズは156x66mm。
p187 ギルバート・ゲイブリエルなら、ウォルコット・ギブスなら(and Gilbert Gabriel and Wolcott Gibbs)♦︎訳注のあるBrooks Atkinson(1894-1984、New York Drama Critics’ Circleの初代会長)同様、Gilbert Wolf Gabriel(1890-1952)はThe New York Americanの、Wolcott Gibbs(1902-1958)はThe New Yorkerの劇評を担当。
(以上2020-11-19追記)
p206 戦前の恋愛映画のイギリス人ヒロイン、レディ・グウェンドリン・マーチバンクス(Lady Gwendoline Marchbanks, the haughty British heroin of a pre-war romance)♦︎補い訳かと思ったら原文通り。ただしググっても全く出てこない。訳し漏れのhaughty(尊大な、人を見下す)がヒント? 映画じゃないのかも。
p209 役者が銃を持つのはよくあること(The gun was a typical piece of theater)♦︎試訳「劇では銃なんてありふれた小道具」そういう趣旨の訳かもだが、読んだ時には誤解した。
p231 夜勤交換手の控室(night-operator’s hide-out)♦︎ホテルのロビー(foyer)にある。外線はここを通るようだ。
p232 一ドル札♦︎=2017円。頼み事のチップとして。$1札のデザインはジョージ・ワシントン。サイズ156×66mm。
p258 惨めな気分で、自動販売機の軽食をとった(had a miserable sort of snack... in an automat)♦︎試訳「自動販売式食堂で、残念な食事を…」オートマットって結構古くからある(世界初が1895ベルリン、米国初が1902年フィラデルフィア。ニューヨーク上陸1912年)。新型コロナで再流行するかも。
(以上2020-11-20追記)
p279 フロロドーラ風のドレス(Florodora gown)♦︎Florodoraはエドワード朝喜歌劇、ロンドン初演1899-11-11, Lyric Theatre(455公演)、ブロードウェイ初演Casino Theatre1900-11-10(552公演)。
p305 何とかいう、木の魔女についての曲(playing Whosit, the witch of the wood)♦︎『メリー・ウィドウ』第2幕 第1場「ヴィリアの歌」Es lebt' eine Vilja, ein Waldmägdeleinのことか。
(以上2020-11-21追記、完)

No.324 8点 ジャンピング・ジェニイ- アントニイ・バークリー 2020/10/14 00:25
1933年10月出版(5月、7月説もある)。国書刊行会の単行本で読みました。再読のはずなんですが、全然覚えていなかった… 本当に再読なのかなあ、と思うくらい。
実にバークリーらしいひねくれ方、でも割と素直なので初心者にもわかりやすい。ストーリー展開の妙が素晴らしい。結構な綱渡りだと思うけど、作者は悠々と言う感じ。読書の途中で何度も唸りました。キャラ付けも非常に良い。
コメディですね。ちょっとズレるかもだが、ヒッチ『ハリーの災難』のテイスト。
英国の離婚事情とバークリーの実人生の知識があると、なお興味深く感じられると思うので、ジジイ心ながら簡単に解説。
まずは当時の英国離婚事情から。参考文献として田中和夫「イギリス離婚法の沿革」(1974)がお薦め。学術的かつ楽しい素晴らしい論文。1920年代、1930年代の英国探偵小説好きなら必読!
ものすごく簡単にまとめると、当時、EnglandとWalesでは(Scotlandは例によって法律制度が別。調べてない)、離婚の訴因としては不貞のみが認められており(1937年に改訂)、離婚を訴えた側(原告)は綺麗な手(自分は不倫してない)であることが原則(1930年の判決によると、あらかじめ自分から、こーゆー理由で私も不倫しちゃいました、と告白しておけば事情によっては認められる場合もあり)。そのため、調査官King's Proctorがそこら辺を調べる。探偵を雇うような事例も。色々調べて離婚しても良いだろうと裁判官が判断すると、まず仮判決が出て、世間からの異議がないか6ヶ月程度様子をみた後(情報がKing's Proctorに寄せられ、怪しいとなると、様子見期間が中断され審理再開)、最終的に離婚確定となる。そーゆー制度なので、例えば愛人が出来た夫が離婚したければ、妻に訴えてもらう必要がある。アガサ・クリスティ(1928年離婚成立)もそーだったのだろう。(離婚及び結婚無効件数の統計を見ると1928年4018件、1929年3396件、1930年3563件、1931年3764件、1932年3894件。1929年の一時的な落ち込みは不況の影響かも)
さて作者バークリーも実人生では離婚経験者だ。最初の妻Margaret Fearnley Farrar(アイルズ『殺意』1931年2月出版を献呈)と1931年に離婚し、1932年にHelen Peters(アイルズ『犯行以前』1932年5月出版を献呈)と再婚している。Helenはバークリーの著作権代理人A.D. Petersの元妻(1931年離婚か)。このA.D. Petersにバークリーは『第二の銃弾』(1930年10月出版)の序文で謝意を示している。でも前述の通り離婚には訴えから確定まで時間が結構かかるから、親しげな序文を書いてる時は、裏で不倫進行中だったのでは? (バークリー夫妻とPeters夫妻の離婚裁判では、それぞれ誰が原告だったのか、非常に気になる)
本作は、こーゆー作者自身の経験が反映されているのでは、と想像する。
歴史的な犯罪者のネタが沢山あるので、最初の数ページは脚注だらけ。単行本の解説には詳しめな解説あり(文庫版は未確認)。これ訳者の「前説」としてくれた方がありがたい。私は、解説はネタバレ危険物件なので絶対最後に読む派なので… (あっ、今、巻末の若島正「バークリーと犯罪実話」をチラ見したらネタバレ多数物件のようだ。もー!ちゃんと注意書きしてほしい。「●と●未読の方は…」とかね。とは言え、犯人や重要トリックをバラして無いから良いもんね、という感覚の人もいるから困る。一番良いのは一切読まないこと。なので、私は面白そうな評論や評伝も読めません。エドワーズのデテクション・クラブのやつも買ってあるけど封印中。まーこーゆーのは自己責任で。とりあえず、皆さま、ご注意)
原文は入手が難しいようだ。トリビアは少しずつ書きます…
(以上2020-10-14記載。その後若干訂正あり)
p5 W. N. ラフヘッドに「思い出——とても愉快な」♣️献辞。訳者解説にある通りWilliam Roughhead (1870-1952) スコットランド人。英国の犯罪実話や裁判記録に関する著作多数(アマゾンでも著書Classic Crimesなどが入手可能)。本書のスコットランド人コリンのモデル?
p17 ジャンピング・ジャック♣️「訳註 手足や胴についている紐を引っ張ると人形が飛んだり跳ねたりする人形」jumping jack toyで検索すると見られます。Rolling StonesのJumpin‘ Jack Flashはこれのことではないらしい。 ここのイメージはスティーヴンスン『カトリアナ』(1893) 第3章から。
p20 パーティ♣️英国の社交生活の重要要素。この小説はパーティの感じがよく出ていると思う。(時代は違うがパーティというとゴダール映画Pierrot le fouの冒頭を思い出す。ligne jeune!) ところで、私はMurder Partyがいつ始まったのか?とここ数年思っている。(今のところ、バークリー『第二の銃弾』(1930)以前の例を見つけていないのだが…)
p25 離婚の仮判決♣️「訳注 期間内に相手方の異議がなければ確定判決となる」としてるけど、上述の通り「相手方」だけではない。匿名の手紙などで「原告が不倫してまっせ…」とチクられ証拠が見つかれば、離婚判決は出ない。 あくまで原則は、神の前の結婚は聖なるもので永遠、という概念で、裁判官が「確信を持って」離婚やむなしとするなら例外的に認める、という制度である。この原則がやっと変わったのは1969年のこと。
p27 国王代訴人♣️上の英国離婚制度で触れたKing's Proctorのことだろう。ここら辺の結婚論はバークリーの本音っぽい。
p29 元ミセス・ストラットンと未来のミセス・ストラットンが同席♣️Mrs Berkeleysでこーゆー情景はあったのだろうか。作者の理想だったようにも思う。
p34 大きなラジオ・セット♣️現代のテレビ並みのでっかい床置きのがあった。radio set 1930などでググると一家団欒の写真が結構出てくる。
p35 ジャズ♣️ベニー・グッドマンが有名になったのは1935年ごろ。ベイシーもまだ。当時は初期のルイ・アームストロング(Hot Seven)のニューオリンズ系が全盛。
p36 ズボンは彼女には大きすぎた♣️ここはクリッペンの愛人のネタ。
p39 シャレード♣️訳註 ジェスチャーで言葉などを当てるゲーム。ここの主催者の定番のパーティ余興。ここのシャレードは、二つの組に分かれて、一方が答えの言葉を三幕の芝居に仕立てて演じ、他の組に当てさせる、ものらしい。「三幕の芝居」とはWilliam Archer(1856-1924)がPlay-making(1912)でthe rhythm of growth, culmination, solutionと表現した演劇要素のことか。「設定 (Set-up)—対立 (Confrontation)—解決 (Resolution)」と定式化されたのは1979年。4世紀ローマ帝国のAelius Donatusはprotasis, epitasis, catastropheと書いていたようだが、古典劇では長らく五幕構成(prelude, protasis, epitasis, catastasis, catastrophe)が主流だった。
p40 ロナルドは黒髪で、デイヴィッドは金髪♣️原文はdark/fairだろう。
p52 ピーター・ウィムジイ卿♣️リレー小説“Ask a Policeman”(1933)で共演してるので、ここに登場したのだろう。
p61 ラグビーのフォワード♣️私は全然詳しくないのだが、これで肉体的特徴がパッとイメージされる筈だ。(調べたらbigger, stronger, and slower ladsとのこと。アメフトのラインメンで良い?)
p64 アパッシュダンス♣️こーゆーのは某Tubeで見るのが一番。Apache danceで検索すると1930年のキートン、1935年のチャーリー・チャン映画の一場面、1934年の本場フランス・スタイルなどが見つかった。ええと… 虐待だよね。最後はジャイアント・スラロームでぶん投げて締め。
(ここまで2020-10-16追記)
p78 車♣️このページに4台登場しているが、メーカーや車種の記載は一切なし。ディテールをあまり描写しないのがバークリー流。
p79 ラジエーターを一杯にしているあいだ♣️自動車は全然詳しくないのだが、水を継ぎ足すらしい。車庫に給水設備があるのだろうか。
p79 玄関の掛け金♣️夜中だけ施錠するのか。お客がまだいるので施錠していないだけか。
p99 ジェイムズ一世時代風の暖炉♣️Jacobean era(1603-1625)。しばらくjamesianで虚しく検索してしまいました… 検索はJacobean fireplaceで。Elizabethan fireplaceも見てみたが、区別出来る自信は全くありません…
p122 昔からおなじみの決まり文句… 自殺したいという人間で実際にしたやつはいない♣️結構古い言い伝えなのか?起源が知りたいところ。
(ここまで2020-10-18追記)
p175 五ポンド対六ペンスの賭け♣️200対1の賭け。英国消費者物価指数基準1933/2020(72.04倍)で£1=9518円。47590円対238円の賭け。
p181 検死審問♣️この小説では二日後に、当の屋敷で開催する予定。不審な死の発見後48時間以内に開催、とWebで見たが、当時も同じルールかは不明。場所はある程度広いところならどこでも良いのか?
p187 チョークとチーズ♣️different as chalk and cheese 外見は似ているが本質は全く異なる物の例えに用いられる。製品のチョークではなく白亜の岩(natural chalk)の外見が似ているということか。
p206 四月♣️何年かは不明だが、この事件は4月に発生。
p217 昼食の銅鑼♣️広い屋敷には必須のもの。
(ここまで2020-10-19追記)
(蛇足の蛇足) 本書再読のきっかけはエディ・ヴァン・ヘイレン追悼。JumpからJumping Jennyというわけ。Beat Itのギター・ソロで知ったので、そっちで何かないかなあ、と考えたがアル・ヤンコビッチしか思いつかないよね。エレキ・ギターの神様はJimiだが、エディは永遠のギター小僧だと思う。

No.323 7点 誤配書簡- ウォルター・S・マスターマン 2020/10/07 01:59
1926年出版。アガサ・クリスティ『アクロイド』と同期。
いや素晴らしい!
特にチェスタトンの序文。これ完璧な探偵小説論(かつミステリ書評論)なのでは?今まで読んだことがないので原文を探してググったが、どうやら主要なエッセイ集には未収録のようだ。でもこの序文の翻訳が、とても生堅くて荒削りなので、電子本サンプルで読むと本文の翻訳大丈夫?と思うかも。
全部読んだので断言すると、小説パートの翻訳は、序文と比べるとずっと良いので安心して欲しい!ただ?なところがあり、多分インクエストを「大陪審」とか、ウェブリー拳銃を「警察用」とか(原文service revolver?軍用が正解…と思ったが良く調べたらヴィクトリア朝に短銃身のWebley Police Revolverというのがあった。訳者さんごめん)他にもちょこっと気になるところはところどころあるけど、会話がとても良いしほとんど問題なし。チェスタトンのひねくれ文章に手こずっただけだと思います。
ミステリとしても、堂々たるもの。大ネタ、小ネタともに良い。キャラ設定も上出来。ただし純本格の域までは達していない。この作家の第一作なのかな?書きっぷりは素人っぽさが残る感じ。
小説としてはコクが薄い。手練れならもっと盛り上げられるはず。でもまあこの薄さがかえって良いのかもしれない。映画化するとちょうどよいミステリ映画になる感じ。
1920年代英国好きなら非常におすすめ。電子本のみで値段も安い。ただしタイトルWrong Letterは「違った手紙」とかニュートラルなのを採用して欲しいなあ…
以下トリビア。原文を取り寄せたいけど、結構高価。
p139 日頃〈相棒〉と呼んでいる♠️部下なんだが… 原文は何だろ?
p151 シャーロック・ホームズ♠️黄金時代の特徴。探偵小説との比較があちこちに。(p384 何百種類もの灰を見分けられる、など)
p151 法廷弁護士… 勅撰弁護士♠️ここら辺の制度はよく調べてない。
p394 「ウェブリーだ。警察用だな。今はもう使われていないが」♠️Webley Police Revolverと思われる。https://www.theabi.org.uk/news/sherlock-holmes-and-the-webley-revolversの記事が一番詳しそう。.450口径で1883年から製造。1911年に32口径の自動拳銃Webley Self-Loading Pistolが採用されているので、そこら辺までの制式だったようだ。
p421 夏の暑い日♠️事件発生は夏。月は不明。
p486 銀箔張りの小型回転式拳銃♠️表面がニッケルメッキで銀光りするやつ、という意味か。銀メッキは高価なアンティークならあるけど、ここに出てくる普段使いならニッケルメッキなのでは?
p510 フォレストゲート♠️ロンドン東部のForest Gateのことか。
p557 最高裁判所判事…有給判事…郡裁判所判事♠️ここら辺の制度はよく調べてない。
p654 『ナポレオンの最後の局面』♠️趣味の良い絵画、とのことだが何を指してるか調べつかず。
p721 フェニックス・パークの連続殺人♠️ Phoenix Park Murdersは1882年ダブリンで起きた過激派による政治家暗殺事件。英Wikiに項目あり。
p801 南アメリカのモンテヴィデオ♠️ Montevideo: ウルグアイの首都。スペイン語なので「モンテビデオ」と発音してね。(英国人が言ってるので「ヴィ」で良い?)
p827 ウィルトン・オン・シー♠️架空地名だが、ウェストン= スーパー=メア(Weston-super-Mare)がモデルか。
p889 泣くのはご婦人方だけ♠️男は涙を見せぬもの
p1045 配達人がこの電報も一緒に届けてきました。お返事はいかがいたしましょう?♠️メッセージや電報は少年が自転車で運んでいた時代(district messenger)。返事があれば、その場で書いて渡せるのだろう。
p1069 昼食どきを告げる銅鑼♠️確かに広い屋敷ならそーゆーお知らせ用の銅鑼が必要だね。
p1213 ギルバート&サリヴァンのオペラ… 『古城の衛士』… 「よく生きるよりもよく死ぬがやすし。われはいずれも試したれば」とフェアファックス大佐が唄う♠️The Yeomen of the Guard, or The Merryman and His Maid(1888) Colonel Fairfaxの何の歌かは調べつかず。
p1370 自動式拳銃♠️これは前述の警察用Webley Self-Loading Pistol 32口径か、軍仕様の.455口径(制式1912年)だと良いなあ。(ただの妄想です)
p1452 空薬莢に合致♠️線状痕検査は1925年にやっと実用的な方法が米国で開発されたばかりで、有名になったのは1929年ヴァレンタインデーの虐殺事件からなので、当時の英国では大雑把に薬莢と弾頭が一致、とかで判別するしかなかったのだろう。
p1463 軍用弾♠️軍用だとダムダム弾の禁止に関するハーグ宣言(1899)により体内で潰れて無用の苦しみを与える柔らかい弾頭が禁止されているので、硬い外皮があり貫通しやすい。
p1540 クリケットの試合で、白熱した終盤を期待していたのに、二十オーバーほどで敵方が全員アウトになってしまったようなものです♠️ルールが良くわからない。調べてません。
p1708 警察は容疑者を特定できないまま事案を大陪審に引きわたし、陪審団は単独か複数かもわからない未知の容疑者を起訴するか否かを決定すべく審問を開始した♠️ここはインクエストの場面のはず。お馴染み「一人または複数の犯人による殺人」という評決を出した…という意味では?
p1837 車掌にチップをたっぷりはずんで客車車輛ひとつを占有予約した♠️コンパートメントを独占した、という事だと思う。さすがに一輌全部は無理だろうし、そうする意味もない。
p2011 『ミカド』…「生け贄の羊はいつか見つかるもの」♠️ The Mikado; or, The Town of Titipu(1885)第一幕Ko-Koの唄As some day it may happen that a victim must be found
p2022 ステニー・モリスン事件♠️Steinie Morrison、1911年に逮捕され、死刑宣告を受けたが、無罪を主張。抗議のハンスト中に獄死。Webサイト「殺人博物館」にまとめあり。
p2152 とても良いラジオ受信機♠️ 英国のラジオ放送は1922年5月開始。1925年夏には聴取数が150万件に達していた(当時の人口480万人)。
p2261 探偵という職業は彼女の嫌うもの♠️イヌとかスパイというイメージだろうか。でもウィムジイものからは、そんな感じを受けないが。
p2271 チェダー峡谷洞窟(Cheddar Gorge)♠️有名な観光地。〈ソロモン王の寺院〉(King Solomon's Temple)も登場する。
p2855 ピカデリー・サーカスの公衆電話局♠️public call officeなら、ホテルのロビーや駅の待合室などに設置された公衆用電話ブースや屋外の公衆電話ボックスのこと。有名な赤い電話ボックス(Kiosk No.2, K2)は1926年からの設置。Kiosk No.1は1921年から設置されている。
p3181 まずは夕食… そちらのお三方は正装をお持ちじゃないようですから、ありあわせのもので…♠️私的な夕食でも正装が要求される…
p3192 ワインを飲みながら葉巻など吸っては、祖先が墓のなかであばれだす♠️味覚的にダメだよね。
p3496 「Zはどうした?」Aが声をあげた。女中は驚いた顔になった。この邸ではそんなに荒っぽく話しかけられることがないのだろう♠️上品な邸ではそういうものらしい。
p3557 いちばん調子のいい車♠️一番スピードの出せる車、かも。

No.322 7点 グリンドルの悪夢- パトリック・クェンティン 2020/10/04 21:09
1935年8月出版。Q. Patrick名義。WebサイトThe Passing Trampの説(2019)では、従来と異なりWebb単独作品だろうと言う。私も読んでみてそう思う。Webbの独白じみた若い男(30ちょい)の一人称小説。同居人は知性と肉体美を誇るイタリア系医師(ほぼ同年代)、主人公は彼に劣等感を感じている。その塩梅が良い。各キャラの設定が上手で、展開も見事。素晴らしい場面(凄く悲しいけど)があって、最近の読書ではピカいち。
相変わらず物証が希薄で暗闇大好きだが、この小説ではぴったりハマっている。素人の手記、という設定なので多少の不手際は全然問題なし。ラストの盛り上げ方も良いのだが、解決編はややゴタつき(純本格ものとすると不満が多いけど、本格風サスペンスとして見れば傑作。「太陽がいっぱい」テイストで映像化したらピッタリ)。Q. Patrickの第1作、第2作も読みたいなあ…
この作品、p235のアレが重要なファクターなので知らない人はググって欲しい。
ああ忘れてた。グリンドル村の素敵な手書き地図(多分初版に掲載されてたもの)がGrindle Nightmare site:thepassingtramp.blogspot.comで見られるので、ぜひ。この本のダストカバー裏面の写真もあり、そこにはQ. Patrickは謎の男だが「日中はimportant Earstern executive」で「昔、南アフリカでギリシャ語を教えていたことがあり、パリで新聞関係に携わっていたこともある」と書いてある。
The Passing TrampとGadetectionから集めたWebbの個人情報を追加しておくと、1926年に英国から米国に移り住んだときに、"Research man" としてフィラデルフィアの chemical companyで働き、Robert E. Turnerという男と同居していた。1930年の国勢調査で彼のことをpartnerといったん書いて消してlodgerとしている(えっそこまで情報公開してるの?)。このTurnerは1966年のWebbの死にあたって遺産管財人の一人に選ばれている、という。
WebbがWheelerと知り合ったのは1933年のロンドン。大学を卒業したばかりだった。Webbは同年Wheelerを米国フィラデルフィアに連れてきた、という(同居していたかは不明)。大戦中、Webbは赤十字関係でHollandia, Dutch New Guinea(現在のJayapura, Indonesia)にいた。Wheelerはずっと米国内にいられたようだ。
また、Webbは1943-1948にFrances Winwarとの結婚歴あり。イタリア系で伝記作家として結構有名らしい(英Wikiに項目あり。注にWebbの名が出ていた)。WebbとWheelerが戦後すぐ(1946?)受けたインタビューでは、二人はMontereyで同居しているようなのだが…
トリビアは後で詳細を。こちらも原書は入手済みです。
p9 今日びの裕福な母親にとって、誘拐の恐怖は…♠︎米国の有名誘拐事件の相場は、Charlie Ross(1874)2万ドル、Bobby Franks(1924)1万ドル、Marion Parker(1927)1500ドル、Charles Augustus Lindbergh Jr(1932)5万ドル

No.321 7点 迷走パズル- パトリック・クェンティン 2020/10/02 04:42
1936年出版。Patrick Quentin名義。初出はDetective Story Magazine 1936-3 as “Terror Keepers” by Dick Callingham (本項のQ.Patrick/Quentin Patrick/Jonathan Stagge(QP/PQ/JS)情報はほぼ全てWebサイトThe Passing Tramp: Wandering through the mystery genre, book by bookによるもの。Web主は詳しい評伝を準備してるというから全貌がついに明らかになるようだ)
Richard Wilson Webb(当時35歳)が、Hugh Wheeler(当時24歳)と共著した最初期の長篇。ダルース・シリーズ第一弾。
設定が素晴らしい!一人称で病院が舞台。ぼんやりした記述が許されるし、自分がオカシーのでは?という不確定性性抜群。自由が奪われ、権威(医者)に逆らえない惨めな気持ち…(私の入院体験は1か月程度だが、そうそうこんな感じ…とこの本を読んでて思い出した。作者は大人になってからの入院経験がありそう) それに警察の捜査をかなり排除できる状況に仕組んでいて、素人探偵が活躍できる舞台が整っている。ある理由で飲んだくれになった主人公、という設定も良い。色々膨らませそう。
でも最初の50ページの記述から私が妄想したのと違ってて、後半はちょっと消化不良。ああこの初期設定パクった、もっと情念満開の作品が読みたいなあ、と思いました。
大体、理想的美女が登場するんですが、主人公はアレを経験してるんでしょ?そーゆー思い入れ(フラッシュバック)を全然出さない。
ところで、これで三冊QP/PQを読んだのですが、犯行の物証が極めて軽い。あと暗闇の場面(歌舞伎でいう「ダンマリ」)がとっても好きみたい。
面白かったけど、感情部分が薄すぎる(24歳なら仕方ないか)。次の『俳優パズル』も楽しみです。
タイトルは昔なら『狂人パズル』で平気だったろうけど、漢字二文字の縛りなら『病院パズル』で良いのでは?(『愚者のパズル』でも良い。このシリーズ、間に「の」を入れた方がしっくりくるのだが…)
原書も手に入れてトリビア書く気満々だったけど。後でゆっくり書きます。
(ところでWheelerは70年代の舞台脚本(Sweeny Toddとか)で著名だがStephen SondheimやHarold Princeの話ではゲイだった、という。元Philadelphia pharmaceutical executive(製薬会社重役)のWebbとも長いこと共同生活をしていたらしい)

No.320 6点 死を招く航海- パトリック・クェンティン 2020/09/28 00:14
1933年出版。Q. Patrick名義。ウェッブ(男)とアズウェル(女)のコンビ。多分、小説はアズウェルがメイン。トリックはウェッブかな? ダフネのキャラが女性ならでは、と思う。まーメイン・トリックは男の発想だよね。女性なら、誰も気づかないなんて有り得ない、馬鹿馬鹿しい!と感じちゃうはず。
書簡もので、読者への大胆な挑戦入り、という企画。黄金時代のパズラーの王道作品ですね。上記のような難点はあるけど、語り口が良く、展開も工夫があって非常に楽しめました。Q. Patrick名義の第1作Cottage Sinister(1931)もぜひどこかでお願いします!
ブリッジが重要な小道具ですが、まーわからなくても謎解きには支障はないのでご心配なく。でも黄金時代ものが好きな人は、結構出てくるので、一度ちゃんとルールや常識を勉強しておくともっと楽しめると思う。
女性の書簡文なんだけど、だからって末尾に「わ、よ」付けが多すぎなのが気に入らない(かなり削れます)。でも翻訳は安定した感じ。原文はkindle化されてるけど日本では入手不可。ここら辺の権利関係がよくわからない。
銃はリボルバーと小型リボルバーが登場。最初のは多分38口径(空包が意味不明、もしかして暴発の用心で1発分空けてある、という意味?)、小さい方は32口径だろう。
以下トリビア。(2020-9-30追記: 原書を入手しました!)
p5 十一月十三日金曜日♦︎直近では1931年が該当。
p6 五十ドル♦︎米国消費者物価指数基準1931/2020(17.10倍)$1=1842円。50ドルは92096円。
p6 シャッフルボード♦︎shuffleboard: スティックを使うペタンク・カーリング系のゲーム。詳細は英Wikiで。船が舞台のJDC/CD『九人と死人』にも出ていた。
p6 掛け率1/20セントのブリッジの勝負(bridge battles at a twentieth of a cent)♦︎麻雀のレート風に言えば「点1/20セント」他愛無いお楽しみ程度の低いレートなのだろう。ブリッジはラバー(2ゲーム先取の3回戦)で勝つと最低500点のボーナスが加わるから(麻雀風に言えば)半荘当たり25セント(=460円)程度の賭け(もちろん他にも色んなボーナスあり。グランドスラムなら1ゲーム最低1000点など)。
p6 ラウベンタール事件のことで出かけていたときに、あなたのために書き綴っていた日記(the diary I kept for you when I was off on the Laubenthal case)♦︎ この小説のあちこちに出てくるこの事件(p16 あの「L」事件、p49、p51など)、詳しいことが語られないまま。後書きにも全く説明がない。Q. PatrickのCottage Sinister(1931)かMurder at the Woman’s City Club(1932)の中の事件なのか。それとも語られざる事件なのか。
Pp7 水先人(pilot)♦︎外洋に出るまでは、タグボートを介して直接のやりとりが出来る、という意味?
p7 ジョージタウン(Georgetown)♦︎George Townは、西インド諸島、英領ケイマン諸島の首府(Wiki)
p7 てんしさまがまもってくれますように(Mayangelskeepyou)♦︎小さな頃に…との説明。回らない口で唱えた祈りなのだろう。
p11 透かし模様の入ったストッキング… 青いベルベットの茶会服(open work stockings and the blue velvet tea-gown)♦︎非難がましく見る、とあるので結構大胆なヤツか、と思ったらtea-gownって英国1870年代流行のちょっと古臭いデザイン。Helen Menckenのインタヴューの成果(outcome)というのだが、関連がよくわからない。古典劇に多く主演してた女優(1901-1966)なので、インタヴューをしてその影響を受けて思わず購入した、ということ? この女優、正しい綴りはMenken(ボガートの最初の妻。当時は既に離婚)。Menckenの綴りで有名なのは「米語」の主導者、評論家のH. L. Mencken(1880-1959)。まさか彼を指してる?(でも古臭いというイメージではないからしっくりこない)
p11 十把ひとからげの女(Women in Bulk)♦︎大文字になってるのが気になるが… 何かのタイトルのもじりかも。
p12 「魅惑とは、心の状態である。地理のではない」(Glamour is a state of mind, not of geography)♦︎三文小説を誤って引用(misquoting from some trashy novel)とある。state of geographyって州(ステート)の洒落?ちょっと調べてみたがよくわからない。
p13 ジョン・ギルバート(John Gilbert)のような黒い口髭♦︎訳注 米国映画俳優(1895-1936)
p13 同伴者(companion)♦︎うっかり見逃してた。コンパニオン。使用人ではない「雇われ」友人。「話し相手」くらいかな?
p13 イギリス人で「g」をはしょって発音する(clips her g’s)♦︎ingをin’というような感じか。イングランド北部訛りの特徴らしい。
p15 キプリングが言ったように、われわれはリオを目指している!(as Kipling said... we go rolling down to Rio!)♦︎Kipling作の童話”Just So Stories”(1902)から12の詩にSir Edward Germanが曲をつけた”Just So Songs”(1903)の中の有名曲”Rolling down to Rio”のこと。某Tubeにも沢山アップされている(Leonard Warrenの歌声に痺れる)。
p21 ブリッジの手の表記法♦︎重要な札(基本10以上、場合によって9も)のみ。他は×で示している。「バー氏 スペードK××× ハート10×× ダイヤ××× クラブAK×」など。ディーラーとビッドの全てを記載。
p26 大枚三、四ドルも負けていた(losers to the tune of three or four dollars)♦︎後でわかるがこの時のレートは1/5セント(p55)。半荘1ドル(=1842円)レベル。ということは1500点〜2000点の負け。
p30 1点につき1/10セント♦︎上よりちょっと手加減したレート。
p47 くそったれのポルトガル人(damned Dagoes)♦︎dagoリーダース英和によると「イタリア[スペイン,ポルトガル,南米](系)人」とのこと。幅広い。「ラテン野郎」ということか。
p47 去年のミルレースの暴落♦︎milreis(訳注 ポルトガル、ブラジルの古い通貨単位) ポルトガルは1911年にエスクードに変わってるので、ブラジルの話だろう。ブラジル=米国の為替レートは1929年12月までは1ミルレース=11.9セントで安定してたが、世界恐慌の影響でジリジリ値下がりし1930年12月には9.6セント(約20%の下落)、さらに下落し1931年10月には5.6セントになっている(その後は若干持ち直した)。
p57 園遊会で角砂糖を盗む(stealing lumps of sugar at a garden party)♦︎何かのネタだと思うが知りません…
p75 アルゼンチン♦︎当時、若干低迷してたがWWI以前までは非常に経済成長してた国。ヘイスティングズのように一旗あげるために移民するイメージ。
p82 ウェールズ人の祖先たち(Welsh ancestors)♦︎主人公ルエリン(Llewellyn)は綴りを見ればウェールズ系であるのは明白。
p89 週給45ドル♦︎82886円。月給換算で36万円。新聞記者の給料としては安い?(主人公のほうはもっと高給だという) 1924年の米国新聞記者の話で週給50ドルは雀の涙、と言ってたのがあった(ビガースの短篇)。
p112 コナン・ドイルかミス・ラインハート♦︎この二人が探偵小説家の代表か。黄金時代の特徴である探偵小説への言及。
p128 最初の一発には弾を込めていない(The first chamber is loaded with blank)♦︎この書き方だと空包を仕込んでいる感じ。空けてあるならunloadとかnot loadedとかemptyとか。引き金を引くときは、こーゆー中途半端ではなく、殺す覚悟でお願いしたいところ。o
p128 五十セント貨大(large as fifty-cent pieces)♦︎当時の半ドル銀貨はWalking Liberty half dollar(1916-1947)、直径30.63mm、重さ12.5g。貨幣面の表示は「FIFTY CENTS」ではなく「HALF-DOLLAR」この大きさは訳注を入れて欲しいところ。
p130 上段寝台(The Upper Berth)♦︎訳注 F・マリオン・クロフォード作の恐怖小説。初出はUnwin’s Christmas Annual 1886(1885)、この号掲載の次の作品はスティーヴンソン「マークハイム」。
p144 やや頭が弱そうな感じで笑いだした(he started to laugh, rather foolishly)♦︎試訳「馬鹿みたいに笑い出した」思い出して、つい声を上げて笑っちゃった、という感じか。
p183 グレッグ式速記(Gregg)♦︎John Robert Greggが1888年に開発した速記法。米国では主流。
p204 ラモン・ノヴァロ(Ramon Novarro)♦︎訳注 1899-1968メキシコ生まれの米国俳優。
p207 少年が「十字のしるし」を見たときに(the dear little boy said when he saw the “Sign of the Cross”)♦︎キリスト教関係のありがたい話? lionとクリスチャンが出てくるようだ。
(以下2020-10-03追記)
Mary Louise Aswell(旧姓White)の経歴が詳しく書かれていた。
Bruyn Mawr(有名女子大)卒業で、Atlantic Monthy誌の編集部に入りハーヴァード大卒の同誌assistant editor、Edward C. Aswellと結婚(1933以降?)、夫はThomas Wolfeと近く、妻の方は後年Harper’s Bazaar小説部門の編集者になった。カポーティは彼女をMarylouと呼んでいた。二児をもうけるも1940年代に離婚、その後ゲイのFritz Peters(カポーティが誘惑されたと言う)と再婚するが、夫婦喧嘩で彼に殺されそうになりすぐに離婚。Mary Louiseはその後レズ芸術家Agnes Simsと死ぬまで一緒に暮らしたという。(出典はWebサイトGadetection、情報提供者はCurt。多分The Passing Trampの主Curtis J. Evans)LGBT関係は詳しくないので用語が間違ってたらごめん。こーゆー個人情報だだ漏れってどうか?とも思うが、興味深い。New York TimesにMary Louis Aswellの死亡記事(1984-12-25)があったが、Q. Patrickについては一言も言及なし。Harper’s BazaarとReader’s Digest Cpmdemsed Booksの編集者、単独名義の歴史小説Abigailとサスペンス小説Far to Goの作者という紹介。
トリビア2件追加。
p7 あなたの大好きなジェーン・オースティン(your beloved Jane Austen)♦︎Q. Patrick名義の1940年ごろのエッセイ’The Naughty Child’ of Fictionで(多分Webbは)好きなミステリは?と聞かれたら『高慢と偏見』と答える、と書いている(Webサイト”The Passing Tramp”より)。なのでアズウェルがウェッブ宛に書いた楽屋落ちなのだろう。
p234 お友達のパトリック・クェンティンの書いた探偵小説♦︎この本は元々Q. Patrick名義なので、この本に出てくる全てのパトリック・クェンティン(序文や注釈など)は、本当は「Q・パトリック」なのだが、私の参照した原文(Open Road, Mysterious Press)では、この探偵小説の題が翻訳文にあるMurder at Cambridge(1933)ではなく、Death for Dear Clara(1937)で、後段のその本の舞台は「古いイギリスの大学」と書いているところも“New York literary agency”と変えている。販促のために書籍名と内容を差し替えたものか。翻訳は初版によるものなのだろう。

No.319 6点 ソーンダイク博士短篇全集:第1巻 歌う骨- R・オースティン・フリーマン 2020/09/22 00:02
遂に渕上さん個人訳のソーンダイク博士短篇全集が発売! 挿絵、図版、写真はピアスンズ誌掲載時のものを全て収録。残念ながら米国マクルーア誌などの挿絵は(それが初出であっても)ピアスンズ掲載がない場合のみ収録の方針。第2巻には中篇版『ニュー・イン31番地』(米Adventure誌1911年1月号掲載のものだろう)が収録される予定。
以下は渕上さんの解説により初出順に並べ替え。カッコ付き数字は本書の収録順。⑴〜⑻が第一短篇集John Thorndyke’s Cases(1909)収録、⑼〜(13)が第二短篇集The Singing Bone(1912)収録のもの。黒丸数字は創元文庫の収録巻。
翻訳は文句なし、端正な日本語が良いですね。決定版と言えるでしょう。語釈は私のイチャモンと若干違うところもありますが、まーそれはそれで…(でもあの作品のラストは「消音」じゃないと思う… 博士の予想が合ってた、という大事な語なので原文通り「空気圧縮式(compressed-air)」が良いのでは?)
では各話を発表順に読んでゆきましょう。
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⑷The Blue Sequin (初出Pearson’s Magazine 1908-12 挿絵H. M. Brock)「青いスパンコール」❶ 評価5点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の評を参照。トリビア漏れとか翻訳上の違いのみ、ここで。
p131 返信料前納(reply-paid)♣️の電報。なるほど。受領側が返事をするための料金をあらかじめ送信側が支払ってあるわけだ。何語くらい返せる仕組みなのだろう?
p139 干し草を燃やしている(a rick on fire)♣️翻訳ではわからないが原文では「工夫がrickを燃やすよう言われている」この後も数回rick(積まれたもの)が出てくるが「干し草」を示す修飾語は無い。保線工事で交換した古い「枕木」の積んだヤツを燃やしてる説をしつこく主張しておきます…
p141 右側(off-side)♣️英国の言い方。左側はnear-side。❶では理解してない感じ。(反対側、手近、と訳している)
p146 黒髪を脱色したブロンドだね(a dark-haired blonde)♣️博士は脱色を「罪なこと」と評している。❶では「黒っぽいブロンド」これでは次の文と上手く繋がらない。
(2020-9-21記載)
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⑵The Stranger’s Latchkey (初出Pearson’s Magazine 1909-1 挿絵H. M. Brock)「よそ者の鍵」評価6点
サスペンスフルな状況設定、話の流れも素晴らしい。ジャーヴィスの軽口とか最後のお茶目な一文がとても好き。まあ謎解きはいつもの流儀だが、ややジャーヴィスと読者に親切かも。自転車が大活躍する作品。
p89 年50ポンド♠️英国消費者物価指数基準1909/2020(119.82倍)£1=15831円。50ポンドは79万円。
p94 “ミツバチ”時計("Bee" clock)♠️訳注 アンソニア社製の目覚し時計。Ansonia Bee Clockは19世紀の小型一日巻き時計で旅行用の目覚し時計に最適のようだ。
p94 普通に街で見るラッチ錠の鍵だ(It is an ordinary town latchkey)♠️Night latchなら、内側はスライド式のノブで、外からは鍵で開け閉めするタイプ(latchが張り出して施錠)。latch key=night latchの鍵という理解で良い? この家の鍵ではない! とチラッと見ただけでわかっているのがちょっと気になる。(古いナイト・ラッチの鍵を見ると、鍵穴方向の長さが普通の鍵より長め。テコでラッチを動かすから?これが特徴?) (追記: 鍵の先端が筒状になっているという描写。凸錠に凹鍵を差し込んで支点を固定してから回してラッチを動かす構造かも。必ず先端が筒状になってるのもラッチ鍵の特徴なのだろう)
p103 大きなリボルバー(a very large revolver)♠️英国陸軍伝統の455口径Webley Revolver Mk IV (大きさ286mm)で良いんじゃない?(適当)
(2020-9-22記載、若干追記)
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⑶The Anthropologist at Large (初出Pearson’s Magazine 1909-2 挿絵H. M. Brock)「博識な人類学者」評価5点
帽子から色々細かい証拠を集めて推理するが、人の手にも渡るものだから注意しないと、と暗にS.H.『青いガーネット(1892)』を批判してる感じ。
日本人(Jap)が出てくる。名前はフタシマとイトウ(Futashima、Itu)。フリーマンはちゃんと日本語っぽい苗字を選んでいる。ソーンダイクが「コテイ(Kotei)」というのも出鱈目感があっていい感じ。ここではガサツ者に合わせてJap呼ばわりだが、後段ではちゃんとJapaneseと言っている。特に差別的な感じはなさそう。
p106 朝刊一紙を贔屓にしていた(he patronized a morning paper)♣️新聞が適当なので嫌いなソーンダイク(夕刊だけ嫌ってる訳じゃないのね。❷収録の「焼死体の謎」参照)だが、一紙だけは許している。タイムズ紙か?
p107 金髪の典型的なユダヤ人(typical Hebrew of the blonde type)♣️金髪ユダヤ人の典型。具体的にどんな感じなのかちょっと気になる。
p110 馬車のナンバー(the number of the cab)♣️p125の挿絵に描かれてる。必ずついてるものなのか。知らなかった… (翻訳のナンバー表記が「72、836」(縦書)なのだが、間の読点が紛らわしい。最初、二つの数字かと思った。原文通り「72,836」(横書)とするか「72836」で良いと思う。実際のナンバー表記は挿絵を見るとコンマ無しのようだ。1877年の写真では「7575」と4桁のがあった)
p112 紙幣と金貨で4000ポンド(four thousand pounds in notes and gold)♣️Sovereign(=£1)金貨はEdward VIIの肖像(1902-1910) 8g、直径22mm。上述の換算で4000ポンドは6332万円。
p113 なにやらくたびれた山高帽(a rather shabby billycock hat)♣️Bowler hatのニックネーム。米国ではthe Derbyとも。
p113 リンカーン・アンド・ベネット社(Lincoln and Bennett)♣️Lincoln, Bennett & Co. 1800年ごろ創業のロンドンの有名帽子メーカー。
p115 まるで罰金ゲームだね(It is like a game of forfeits)♣️訳注 失敗したり条件満たせないとなにかを取り上げられるゲーム。WebでVictorian Games Forfeitsを調べると、物を提供する、というより阿呆な行動を「罰ゲーム」にしている。試訳「失敗したら罰ゲームのようだね」
p128 最も太い毛髪は…♣️へー、というトリビア。
(2020-9-22記載)
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⑺The Alminium Dagger (初出Pearson’s Magazine 1909-3 挿絵H. M. Brock)「アルミニウムの短剣」❶ 評価6点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の評を参照。トリビア漏れとか翻訳上の違いのみ、ここで。
p226 早変わり芸人(quick-change artists)♠️マジック・ショーの出し物のイメージだろうか。すげーのが某Tube(“Impossible: Quick Change Artists”)にあった。西洋の舞台ではFregoli(1897)が早い例のようだ。歌舞伎は1800年ごろ大南北が確立。
p227 妙な手紙で(in a very singular letter)♠️❶では「簡単な返事」。奇妙さはp239で説明されている。
p239 サドラーズ・ウェルズ劇場(Sadler's Wells)♠️1896-1915は映画館に改装されていた(落ちぶれていた)。in its primeはかつての栄華と現在のショボさを対比したものか。
p248 小型武器(small arms)♠️これは「小火器」が定訳。具体的には「1人で携帯操作できる拳銃、小銃(ライフル)、ショットガン、手榴弾など」なんですぜ。当時のイメージだと主としてライフル銃。現代なら米国M4や露AK47みたいなアサルトライフルを真っ先に思い浮かべるはず。
(2020-9-22記載)
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(13)The Old Lag (初出Pearson’s Magazine 1909-4 as “The Scarred Finger” 挿絵H. M. Brock)「前科者」❶ 評価5点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の評を参照。トリビア漏れとか翻訳上の違いのみ、ここで。
サスペンス感が良い。指紋の弄びかたがちょっとねえ。でも前読んだ時より不自然さが気にならないのは翻訳のせいだろうか。
p489 憂鬱な11月の夜(on a dreary November night)♣️このように舞台は11月のはずだが…
p496 君がホロウェイ刑務所にいたときに(when you were at Holloway)♣️HM Prison Hollowayはロンドンの刑務所。女性専用となったのは1903年以降なので、居たのはそれ以前の話。(後段で指紋が取られたのは「六年前」と書かれている)
p525 最後のイースターの翌日—二ヶ月前ちょっと前—(last Easter Monday—a little over two months ago)♣️イースターは1909年は4/11、1908年は4/19... など。どう頑張っても作中時間は11月じゃない。1908年6月下旬の事件ということだろうか。イースター・マンデーは英国ではBank holidayの一つ。なので子供連れで動物園に行ったのだろう。なお8月の第一月曜日もBank holidayだが、これと間違えた説(1908年は8/3)でも「二ヶ月ちょっと」後はせいぜい10月中旬で11月には届かない。
(2020-9-22記載)
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(5)The Moabite Cipher (初出Pearson’s Magazine 1909-5 挿絵H. M. Brock)「モアブ語の暗号」❶ 評価6点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の書評参照。この作品は当時もかなり出回ってただろう暗号解読ものに対するフリーマンの批評なんだろう。私もそー思うところがあるのでこの作品は結構好み。
(2020-9-23記載)
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(6)The Mandarin’s Pearl (初出Pearson’s Magazine 1909-6 挿絵H. M. Brock)「清の高官の真珠」評価4点
つまらない作品。フリーマンは発明おじさんなのだろう。仕掛けが出てくる他の作品でもそうだが、有効性より自分のアイディアに酔ってしまうタイプ。(まあ今回のネタは実効性もあると思うけど使い方に工夫がない) 本作はソーンダイクの行動も変だ。先に何かアドバイスして安心させるなり何なり方法があったのでは? (例えば不意打ちでぶっ壊せとか。そーすると相手が逆上して危険か)
p191 一年前… 鉄道事故に遭って(about a year ago. He was in a railway accident)♠️1906年から1907年にかけて英国鉄道では死者20名クラスの大事故が数件発生している。1906-6-30(Salisbury rail crash), 1906-9-19(Grantham rail accident), 1906-12-28(Elliot Junction rail accident), 1907-10-1(Shrewsbury rail accident) 作者の頭にあったのもそーゆー事だろう。
p192 五ポンド(five pounds)♠️上述の換算で79155円。結構な値段。
p194 ブリッジやバカラ(played bridge and baccarat)...悪運の強い賭博師(a rather uncomfortably lucky player)♠️クラブ賭博の主要種目か。「かなり不自然に幸運な(ほぼ確実にイカサマ)」というニュアンスかな。
p203 ポケットの中をまさぐり、二フランを差し出しました(felt in his pocket, drew out a couple of francs)♠️ここはフラン硬貨2,3枚の意味? 仏国物価指数基準1909/2020(2666.79倍)1フラン=€4.07=493円、2フランなら983円。
(2020-9-26記載)
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(8)A Message from the Deep Sea (初出Pearson’s Magazine 1909-7 挿絵H. M. Brock)「深海からのメッセージ」評価6点
ソーンダイクものの典型例。インクエストの場面が結構長いので個人的には好み。
p259 バシャンの王オグ(Og, King of Bashan)♣️申命記3:11「彼の寝臺は鐵の寝臺なりき...人の肘によれば是はその長九キユビトその寛四キユビトあり」英wikiによるとそれぞれ13フィート(396cm)と6フィート(122cm)。
p259 国王陛下の脳下垂体窩(His Majesty's pituitary fossa)♣️当時の国王はエドワード七世(在位1901-1910)。身長ネタに続いての発言だから「成長ホルモン分泌不全性低身長症」の話題? でも低身長じゃないし… (身長5’8”(=173cm)と5’11”(=180cm)説あり) 女性関係が派手で有名だったというから、性腺刺激ホルモンの分泌過多、という意味か。
p278 よくこうした法廷を彩る無神経な顔の辛辣な“プロの陪審員たち”(the stolid-faced, truculent "professional jurymen" who so often grace these tribunals)♣️ここはインクエストの場面。検死官の権限で陪審員を集めるのだろうか。日当稼ぎのレギュラーが結構いたのだろう。
(2020-9-26記載)
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(1)The Man with the Nailed Shoes (初出は短篇集John Thorndyke’s Cases 1909)「鋲底靴の男」評価6点
いつものようにソーンダイク博士は隠密行動。なので読者は謎解きに参加できない。インクエストから本裁判への流れが書かれているので、個人的には興味深かった。
本作の発生年月は「九月二十七日月曜日(p58)」と明記。該当は1909年(その前は1897年)だが、ソーンダイクとジャーヴィスの関係性からは訳者解説にある通り『赤い拇指紋』(1901年3月)以降のあまり離れていない時期のはず。
(2021-10-25記載)
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(10)A Case of Premeditation (初出McClure’s Magazine 1910-8 挿絵Henry Raleigh)
「練り上げた事前計画」❶ 評価6点
本書の挿絵はPearson’s Magazine 1912-1のH. M. Brock画を収録。本作のマクルーア誌の挿絵はフチガミさんのWebサイト“海外クラシック・ミステリ探訪記”で見られます。そちらも良い感じ。マクルーア誌には⑶が1910-5、⑷が1910-6、⑺が1910-7、本作、⑼のアブリッジ版が1911-12に掲載され、挿絵は全てRaileigh画。⑷のマクルーア版挿絵も上記サイトに載ってるが、他の作品は一部のみの紹介があるだけ。是非見てみたいのでフチガミさま、よろしく。
ブロドスキーと比較すると、犯行時のドキドキ感がちょっと薄い。でもこの結末なら最初からそうすれば良かったのに、とも思うが… トリビアは❶に記載済み。
(2021-10-25記載)
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(12)A Wastrel’s Romance (初出Novel Magazine 1910-8 as “The Willowdale Mystery”)「ろくでなしのロマンス」❶ 評価6点
女性がこんな感情になるかなあ… 男と違って結構現実的だと思うんだ。
p451 ホテル・セシル(Hotel Cecil)♠️ストランド街サヴォイ・ホテルの隣にあった当時最大級の高級ホテル(1896-1930)。最近読んだA・E・W・メイスン『セミラミス・ホテル事件(The Affair at the Semiramis Hotel)』(1916)のモデル。
p452 大型のネイピア(a large Napier)♠️D. Napier & Son Limitedは英国の自動車メイカー。当時なら1907 60hp T21あたりか。
p461 歯を治す(fixing up my teeth)♠️当時はアレを使うんだね。という事はアレは結構身近なものだったのか。
p466 チケットポケット(ticket-pocket)♠️背広やコートの左襟元内側にあるスリット・ポケット。私は毎日背広を着てたのに最近まで存在を知らなかった。と思ったら、訳注では右ポケットの上のポケットとある。よく調べてみると、英国では右ポケットの上に小さめのポケットがあり、これをticket pocketと言うようだ(懐中時計なんかもここに入れるようだ)。じゃあ左襟のスリットは何て呼ぶのか?
p467 スラング♠️若い女性が何でも"ripping"(イケてる)か"rotten"(つまんない)のどっちかで形容する、と文句を言っている。rippingはリーダース英和に「古俗: すてきな、すばらしい」とあった。この時代の流行語であっという間に廃れたのだろうか。
p479 イェール錠の鍵(The Yale latch-key)♠️当時のイェール錠の鍵を探してみると、今のシリンダー錠の鍵と同じ形。ここではラッチキーと言っているが、上記(2)p94のナイトラッチとは明らかに異なる形状。
p479 フラットと思われる… 一人住まいの(rather suggests a flat, and a flat with a single occupant)♠️ここら辺は当時の人なら当然の推測なのか。
p483 吊し首♠️米国ならば、と言っている。
p486 オランダ製の時計(dutch clock)♠️ディケンズ由来の安いドイツ製(dutch=deutsch)の柱時計。なんの修飾もないシンプルな文字盤(face)なので、こういう比喩になったのだろう。
(2021-10-25記載)
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(9)The Case of Oscar Brodski (初出Pearson’s Magazine 1910-12 挿絵H. M. Brock)「オスカー・ブロドスキー事件」(創元『世界短編傑作集2』収録) 評価8点
迫力満点の挿絵!やはり力のこもった作品だと思う。訳者解説に雑誌版との異動が書かれていて興味深い。トリビアは創元『世界推理短編傑作集2』を参照願います。
(2021-10-25記載)
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(11)The Echo of Mutiny (初出Pearson’s Magazine 1911-9 as “Death on the Girdler” 挿絵H. M. Brock)「船上犯罪の因果」❶
作者が序文の最後で、名誉毀損で訴えられないように、この舞台を、実際は灯台船(light-vessel)なのだが、固定の灯台(lighthouse)に変えた、と書いている。light-vessel Girdlerで、昔の写真が見られる。へーこんなのもあるんだ。
p432 固形煙草('hard)♠️hard tobaccoというものらしいが、Webでは画像を拾えなかった。文中では水けがありナイフで削ってパイプに詰めるようだ。
p437 大きな白い文字で記された“ガードラー”♠️実際の灯台船は、船の横腹に名前が書いてある。
p440 刻み煙草は保存がきかない(the cut stuff wouldn't keep)♠️海辺の湿気でやられてしまうのだろう。
p449 歌う骨(Singing Bone)♠️骨はどこに出てくるのかな?と思ったら、ここだったのか。確かに短篇集のタイトルに採用するのに相応しい言葉。
(2021-10-26記載)
以上でやっと読了。フリーマンは読者とのクイズごっこは目指してなかったのだろう。こーゆー工夫をして捜査したら真実に到達できるのでは?と警察関係に科学捜査のアイディアを提供した、という事ではないか。フリーマンは実験大好きだったようだし、発明家の一面もあったようだ(実際にやるとなったら手間も費用もかかるので公的機関の手法として現実的ではないし、大抵の事件はもっと単純でソーンダイク博士は無用と思われるが…)。第二巻も非常に楽しみ。

No.318 7点 八人の招待客- パトリック・クェンティン 2020/09/17 23:51
ミスリーディングな解説なのでしょーがないなあ、なのだが、『そして誰も…』の元ネタというのは、山雅さんが昨年発見した、名前を明かしてない作品で、それを海外Webで紹介したらスペインのIgor Longo氏から、こんなのあるよ、と教えられたのが、Q.Patrick名義の二つのこの中篇だった…という。
なんか怪しいけど、まあいいや。初出はいずれもEQMMのように最初は誤読したけど、再録とちゃんと書いてあった。調べると両方ともThe American Magazineが初出(詳しくは後述)、Webサイト“Pretty Sinister Books”のQ Patrick & the Pseudonym Enigma(2011-6-12)に両作品が素敵なイラスト付きで紹介されています。
いずれも企みまくってる作品で、もちろん無理は沢山あるけど楽しく読めました。実はクエンティンをちゃんと読んだのは初めて。こーゆー作風なら凄く好みなので、とりあえず30年代の作品を年代順に読んでいこうと思いました。まだ本が手に入るよね?
実は一番気になったのはWebbの合作遍歴がちょっと変テコなこと。どんな人だったんだろう(最初に女性二人と合作してるのが気になりました。最初の女性は恋人関係だったのかなあ)。
それでは個別にトリビアを。
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1 「八人の中の一人」Murder on New Year’s Eve (初出The American Magazine 1937-10 “Exit Before Midnight” by Q. Patrick、挿絵Matt Clark) 再録EQMM1950-1、再録時の名義もQ. Patrick、この時のタイトルが左記のもの。評価7点
上述のWebサイトに冒頭のタイプライターのシーン(p15)とp51ページのシーンの美麗イラストが掲載されてるので是非。
設定が素晴らしい!もちょっと恋愛模様を書き込めばもっと良かったかなあ。『そして誰も』とは、ほとんど関係ありません。
p19 浅黒い肌、高い頬骨…♠️多分、ほぼ間違いなくdark=黒髪の。
p29 交換台は、メイン・オフィスの隅の、エレヴェーターのすぐそばにあった♠️電話交換機はビルの各階に設置されていたようだ。 各会社ごとにあったのかも。ペリー・メイスンもポール・ドレイクもそれぞれのオフィスで交換手を雇っていた気がする。
p43 端末装置♠️コンセントのこと?
p103 『可愛いアデライン』♠️ "(You're the Flower of My Heart,) Sweet Adeline" 詞Richard Husch Gerard、曲Harry Armstrongの1903年の曲。
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2 「八人の招待客」The Jack of Diamonds (初出The American Magazine 1936-11、挿絵Seymour Ball) 再録EQMM1949-2、いずれも名義はQ. Patrick。評価7点
上述のWebサイトにはp186(重要シーン!)のカラーイラストが(残念ながら半分だが)載ってるので是非。
これは『そして誰も』っぽい導入。でも手紙の文面にもっと工夫が欲しいなあ… その後の展開は素晴らしい。いずれの作品も女性が大胆に参加するのが良い。英国が舞台なら女性はもっと奥に引っ込んでた時代ではないか、と感じました。養女をもっと上手に魅力的に描けばかなり良い作品になったと思います。
p107 メトロポリタン歌劇場で≪マダム・バタフライ≫を…♠️1935年11月〜1936年2月で探すと、12/26(木)、1/8(水)、1/26(日)、2/1(土)、2/10(月)、2/21(金)、2/27(木)に『蝶々夫人』が上演されているが、ここに出てくる日は週末ではないので、12/26(木)、1/8(水)、2/10(月)、2/21(金)、2/27(木)が該当か。
p110 五ドル札♠️米国消費者物価指数基準1936/2020(18.70倍)$1=2014円。五ドル札(10071円)は1928年からサイズが小さくなった。(156 × 66 mm) 肖像は1914年からリンカーン。
p174 ダイヤのジャック♠️このカードが選ばれたのに理由はあるのかな?
p174 ≪闇の中の叫び≫♠️英国のゲームだというが…
p177 小型の自動拳銃(オートマチック)♠️p214の状況は実はちょっと難しいかもしれない。この拳銃は32口径のFN1910だと妄想。
p213 小説の中に出てくる博識な執事♠️ジーヴス?

No.317 6点 ソーンダイク博士の事件簿Ⅱ- R・オースティン・フリーマン 2020/08/29 18:21
創元文庫Ⅱでは第3短篇集(1918)から2作、第4短篇集(1923)から3作、第5短篇集(1925)から1作、第6短篇集(1927)から3作の全9短篇を収録。
フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集、第1巻がついに予約可能状態になった! 値段も意外と安い! 早速、紀伊國屋で予約してきました。予行演習も兼ねて創元文庫を少しずつ読んでゆく。
以下、初出や挿絵画家はS・フチガミさん情報によるもの。時々FictionMags Index(FMI)を参照してるが、FMIにはこの頃のピアソン誌情報がほとんど無いので、バックナンバーをお持ちのフチガミ様におかれましては是非目次データを提供してやって欲しい。
黒丸数字は英国短篇集の番号。カッコ付き数字は本書収録順で、以下は初出順に並べ替えています。
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⑴ Percival Bland’s Proxy (初出Pearson’s Magazine 1913-12 挿絵H. M. Brock) ❸「パーシヴァル・ブランドの替玉」評価6点
まあ当たり前の帰結なんだが、フリーマンは制度に対する批判を書いてる。ここではインクエスト。運営は検死官次第らしいので、事故死と判定された殺人も結構あったろう、と思われる。
p8 イングランド銀行の偽造紙幣(flash Bank of England notes)♣️5ポンド以上の高額紙幣(当時の最高額面は1000ポンド)。裏が白紙だしデザインも単純、偽造しやすく見えるよねえ。
p8 イングランド銀行の関係者の手に渡って(are tendered to the exceedingly knowing old lady who lives in Threadneedle Street)♣️the Old Lady of Threadneedle Streetで「イングランド銀行」を差す。James Gillrayによる風刺画(1797)が由来だとBoE公式ホームページが書いてる。
p9 いとこ(first cousins)♣️普通cousinと言ったらfirst cousinのこと。「はとこ」(いとこの子)ならsecond cousin。さらに、いとこの孫はthird cousinというらしい。
p10 三千ポンドの生命保険♣️英国物価指数基準1913/2020(116.15倍)£1=現在の15346円なので4604万円。
p14 昔気質の御者なら、大きな声で軽率な歩行者に警告してくれるだろうが、いまどきの御者は…(The old horse would condescend to shout a warning to the indiscreet wayfarer. Not so the modern chauffeur...)♣️この対比はhorseとautomobileだろう。「昔の馬車なら… いまどきの運転手ときたら…」Webで調べるとデータの出どころがよくわからなかったがGrüberのグラフだと石油自動車と馬車の数が交差してるのは1915年あたり。同グラフで見ると馬車のピークは1910年、急激に減少し出すのは1925年だ。
p14 辻馬車(taxi-cab)♣️taximeter cabの略なのでここは自動車の方だろう。
p14 集合馬車(omnibus)♣️当時ロンドンのomnibusを独占していたLondon General Omnibus Companyでは1902年に馬車から自動車に移行し始め、最後の馬車は1911年。なのでここは数行前と同様、「集合バス」(原文はmotor omnibus)が正解だろう。
p15 いよいよ身を隠すときが来た/まっさかさまに—身を躍らせて(Then is the time for disappearing,/Take a header—down you go—)♣️登場人物がハミングする歌。続きも書いてある。「上の空が晴れたら/何食わぬ顔で/ひょいと姿をあらわす(When the sky above is clearing, When the sky above is clearing, Bob up serenely, bob up serenely, Bob up serenely from below!)」色々探すと元はフランスのコミックオペラLes noces d'Olivette(オリベットの結婚)初演1879年11月13日パリThéâtre des Bouffes Parisiens、音楽Edmond Audran、台本Alfred Duru & Henri Charles Chivot。ロンドンでもH.B. Farnieによる英語版Olivetteがヒットした。1880〜1881年、Strand Theatreで466回の上演。ここで歌われるのは第1幕の公爵(tenor)ソロ、“Bob up serenely”。この歌、某Tubeに登録されてないので音楽は聴けなかったが、実は楽譜が無料公開されてる。
p32 「信頼された十二人の善良な人々」(“twelve good men and true”)♣️陪審員を指す由緒ある言い方のようだ。ここではインクエストの陪審員。
p32 「医学的な証言?」検死官は嘲るように… 「専門家をやとって公金を浪費[する気はない]」♣️インクエストは検死官の広い裁量に任されている。
p38 ダートムア地方の見通しのよい高台(the breezy uplands of Dartmoor)♣️Daniel Asher Alexanderデザインによる1809年に建造された捕虜収容所。ナポレオン戦争、米英戦争で使われたが、1815年に役目を終えた。1851年〜1917年には一般人の刑務所として再利用されていた。(英wiki)
(以上2020-8-29記載、2020-9-16若干修正)
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⑵ The Missing Mortgagee (初出Pearson’s Magazine 1914-6 挿絵H. M. Brock) ❸「消えた金融業者」評価5点
あまり盛り上がらずに終わる話。これは博士が出馬するまでもなく保険会社で調査が完了してもおかしくないレベルだろう。
p39 最近、ある冗談好きの男が、南アフリカに大勢いる「スコットランド人」を二つのグループに分類(A contemporary joker has classified the Scotsmen who abound in South Africa into two groups)♠️「最近の冗談だが…」というような感じ? グラスゴーにはユダヤ人移民の結構大きなコミュニティがあったようだ。ユダヤ人が南アフリカに移民する時もスコットランドっぽい苗字を名乗るのが好まれたのか。ここに出てくるGordonもスコットランド系の苗字なのだろう。
p40 『蟻を見習え』(‘Consider the ant.’)♠️『箴言』Proverbs 6:6 KJV “Go to the ant, thou sluggard; consider her ways, and be wise”から来た表現らしい。『惰者よ蟻にゆき其爲すところを觀て智慧をえよ』(文語訳)
p41 返済額は20ポンド、つまり四半期分の利子だ(...)払わないと、これが元金に繰り入れられて、一年で、さらに4ポンドかえさなくちゃならなくなる(Here’s a little matter of twenty pounds quarter’s interest.(...)If it isn’t, it goes on to the principal and there’s another four pounds a year to be paid.♠️恐ろしい高利。利率20%って事で合ってる?
p48 はっきりしるしを(marking them so plainly)♠️下着に他人のと紛れないようマークがついていたようだ。洗濯屋に出すときの備えなのだろうか。
p50 合わせると年に百ポンド近い出費… 稼ぎ出す収入のほぼ半分(That’s close on a hundred a year; just about half that I manage to earn)♠️英国物価指数基準1914/2020(116.15倍)で£1=15837円。年収200ポンド(=317万円)
p52 激昂したユダヤ人(the infuriated Jew)♠️この作品中でJewという単語はここだけ。Palestineとかthe drooping nose(たれさがった鼻)とかの表現で判るのだろう。
p67 なんとなく子供のペリカンを思わせる格好(somewhat after the fashion of the juvenile pelican)♠️伝説にある乳の出ない母鳥にせがむ子ペリカンのイメージ?
p73 この抵当証書が、以前つくられたのと同じ形式で作成されたことはご存知ですね?(are you satisfied that the mortgage deed was executed as it purports to have been?)♠️purportには「偽造っぽい」ニュアンスがありそう。「古いものだと装って作られたものだと思いませんか?」という感じか。
(2020-9-16記載)
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⑼ The New Jersey Sphinx (初出Pearson’s Magazine 1922-4 挿絵Sydney Seymour Lucas) ❹「ニュージャージー・スフィンクス」評価6点
タイトルが謎めいてるが、いわくは語られずじまい。作中、在ロンドンのインド人商人を偏見なく描いている。
p280 アパー・ベッドフォード街(Upper Bedford Place)…ブルームズベリにはアフリカ人や日本人やインド人が、たくさん住んでいる(there must be quite a considerable population of Africans, Japanese and Hindus in Bloomsbury)♣️漱石の最初の下宿先(1900年10月末)も、その辺から徒歩十分くらいのGower Streetだった。
p280 服装はきちんとしているが、帽子はかぶらず…(His hatless condition—though he was exceedingly well dressed—)♣️外出時には帽子あり、が当然の時代
p286 流行の山高帽子の高級品…黒くて堅いフェルト製(black, hard felts of the prevalent "bowler" shape, and of good quality)♣️ボウラー・ハットは「1850年の発明…元々は乗馬用の帽子であるが、上流階級が被るシルクハットと労働者階級が被るフェルト製ソフトハットの中間的な帽子」(wiki)とのこと。
p288 五カラット程度の上質のルビーで、だいたい3000ポンドくらい(A fine ruby of five carats is worth about three thousand pounds)♣️英国消費者物価指数基準1922/2020(57.20倍)£1=7558円、3000ポンドは2267万円。
p289 革のヘッドバンドの裏…折りたたまれた紙片がたくさん♣️帽子の中に色々紙を挟むのは普通だったようだ。
p289 ガス・ストーブの料金表(a leaf from a price list of gas stoves)♣️「料金表」だとガス料金のことか?と誤解する。「価格リスト」が良いのでは?
p294 郵便配達用の人名簿(Post Office Directories)♣️ソーンダイク博士お馴染みの七つ道具。1799創設、と自称していたKelly's Directoryのことだろう。現在のYellow Page(職業別電話帳)のようなもの。1836年ごろの郵便局長?Frederic Festus Kellyが半公式的に出版し、その後、出版権を世襲したようだ。「郵便局人名簿」と言うのが適訳か。Post Office london Directory 1914 part 1で無料版を見ることが出来る。
p296 近頃新聞で(as the papers call him)♣️何故そう言うあだ名なのかがよくわからない。米国由来だろうが…
p302 ミカエル祭の日(Michaelmas)♣️訳注は「9月29日」とだけ。四半期日(quarter day)の第三番目、という情報が抜けている。四半期単位の貸間契約のようだ。
p302 一階の5番(a ground floor at No. 5)…二階の51番(a good first-floor set at No. 51)が空いています… [借りてたキャリントンが急に外国に行ったので] ♣️「5番地の一階、51番地の二階」だろう。訳者はマンモス集合住宅とでも思ってるのかな?(p299でクリフォード・イン51番を訪ねて、そこが三階建てで二階にキャリントン、とちゃんと書いてるのに…)
p303 「…背の高い色の浅黒い人(a tall, dark man)じゃありませんか?」「…背が低くて、すこし頭の禿げた、血色のいい人です(a little, fairish man, rather bald, with a pretty rich complexion)」♣️博士がよくやる、ワザと正反対の人相を聞く手。答えがまずfairish(訳し抜け「薄い色、金髪」)、bald(禿げ)なので、当然darkは黒髪の意味だろう。
p303 意味ありげに鼻をなで、小指を立てた(tapped his nose knowingly and raised his little finger)♣️このジェスチャーは、鼻を軽く叩くで「秘密だよ」、小指を立てるで「悪い(bad)」(親指を立てるgoodの反対)だろうか。(モリス『ボディートーク』参照) 日本と違い小指に「女」の意味はあまり無いようだ。
p308 自動拳銃(an automatic pistol)♣️しゃれたFN1910ではなく無骨なSavageM1907を連想(個人の見解です)。
p309 辻馬車(in a hansom)♣️1922年だが馬車はまだ現役。
(2020-9-19記載)
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⑻ The Funeral Pyre (初出Pearson’s Magazine 1922-9 挿絵Howard K. Elcock) ❹「焼死体の謎」 評価6点
原題は「火葬用の積み薪」という意味らしい。インクエストの場面が興味深い作品。外部の人間が自由に発言を許されている。(ソーンダイク博士が有名だからだろうか)
p246 夕刊(an evening paper)♠️博士は気にくわないようだ。(作者も?) 1881年創刊のEvening Newsが草分けらしい。(2020-9-26追記: 夕刊紙は大衆紙、というイメージらしい。wiki「ジョージ五世」より)
p246 堆積された乾草が燃えている(a rick on fire)♠️ 「青いスパンコール」ではrick=枕木の束?との説を出したが、ここは藁で間違いない。
p263 〈喫煙者の友〉(smoker's companion)♠️そーゆー通称のパイプ掃除道具に似てるから?
p264 二組のトランプのカード(playing cards... from two packs)♠️があったのだから大きな勝負だった、という推理。そういうものか。ゲームの種類は何だろう。
p270 いくらかアイルランド訛り(with a slight, but perceptible, Irish accent)♠️セリフの原文には訛りは反映されていない。
p272 反対訊問のために立ちあがった(rising to cross-examine)♠️ここは「反対訊問」(法律用語)ではなく「厳しく追及する, 詳しく(細かく)詰問する」という一般的な意味だろう。インクエストは、検察と弁護の対決の場ではなく、反対訊問は禁止されている(実際は結構無視されている原則のようだが)。
p276 粘土(クレイ)パイプ♠️ああ、そーゆー常識があるんだ。
(2020-9-20記載)
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⑸ Phillis Annesley’s Peril (初出Pearson’s Magazine 1922-10 挿絵Howard K. Elcock) ❺「フィリス・アネズリーの受難」評価5点
このPerilはもしかして映画のタイトル風に「危機一髪」という感じで使ってる? (Perils of Pauline 1914のイメージ) ロス・アンジェルスの映画会社の関係者が出てくる。もちろん当時はまだ無声映画。ヴァレンチノ『血と砂』(1922)、バスター・キートンはまだ短篇時代、チャップリンが『キッド』(1921)の世界的大ヒットでロンドンに凱旋帰国した頃。この翻訳は、描かれてる微妙な男女関係を表現しきれてない感じ。ミステリとしては、ちょっとアレなトリック。
p145 裁判のためにも(for the inquest)♣️ここは「検死審問(インクエスト)」と訳して欲しいところ。インクエストの前から関わってもらっていたら… という後悔だろう。p146などからわかるが既にインクエストは終わっている。
p145「まだ弁護に着手したわけではないのでしょう?」(You reserved your defence)♣️正式な法廷用語はよく知らないが「弁護(方針)を留保している」という意味か? この翻訳では意味不明。法廷戦術として、どういう趣旨で抗弁するのかをあらかじめ表明することが多いのだろうか。
p146 検死の結果(The cause of death was given at the inquest)♣️ここも「インクエストで明らかになった死因は…」
p146 ミス・フィリス・アネズリー(...)この秋旅行をしたときに家のなかを片づけて...(Miss Phyllis Annesley. It is her freehold, and she lived in it until recently. Last autumn, however, she took to travelling about and then partly dismantle the house)♣️色々重要なところが訳し漏れてて経緯がわかりにくくなっている。「彼女の相続財産で、最近まで住んでいた」「この秋からあちこち旅に出て、家具もある程度処分」
p147 別にいやらしい関係ではありませんが(though there is no suggestion of improper relations between them)♣️ここは断定してるニュアンスではない。「不適切な関係を示すものはありませんが」状況はクロだよねえ。いやらしい関係って、子供か。
p147 夫婦仲は…決して仲が悪いわけではなく(they don't seem to have been unfriendly)♣️微妙な夫婦関係の表現を理解してない翻訳。試訳「非友好的という感じではないようでした」続く財産関係の説明もズレてる。以下試訳「夫は金銭的な義務をきちんと果たしていました。妻に自由にお金を使わせていただけでなく、妻のため財産確保にも努めていたのです」
p148 離婚話… あるはずがありませんよ(It couldn't be)♣️そーゆーニュアンスではなく、「出来なかったでしょう」という感じか? これは近年の条件だが「イングランドとウェールズの現行制度では裁判所で「婚姻の回復しがたい破綻」があったと認められた場合に限り、離婚が認められています(破綻主義) ⑴不貞 ⑵同居を著しく困難にする行動 ⑶2年の遺棄 ⑷別居(合意があれば2年、なければ5年)が離婚の成立条件」当時も似たような制度なら、まだ別居して間がないから離婚事由にならないよ、ということだろう。(ちょっと調べたら当時は全然違い、離婚はかなり難しかったようだ。全然知りませんでした! wiki「妻売り」参照)
p152 警察が訊問したときの口述書(a verbatim report of the police court proceedings and of the inquest)♣️ここも「インクエスト」抜け。ここまで来ると故意なのか。
p156 シャッター♣️フランス窓なので「鎧戸」が良い感じ。開いてた穴(1インチほど)はデザインなのか?
p161 ブリクストン(Brixton)… ホロウェイ(Holloway)♣️HM Prison Brixtonは1820建設の男性刑務所。HM Prison Hollowayは1852建設で1903年以降は女性専用刑務所。
p161 揮発油で髪を洗った(I was having my hair cleaned with petrol)♣️何かの油なんでしょうね。ググったらPétrole Hahnというヘアオイル(1885年からのブランド)の広告が見つかった。この場面はパリでの出来事なのでフランス語の表現か!と納得。(英語だと「ガソリン、石油」の意味が強そう)
p163 裁判(trial)♣️ここからは本当の裁判シーン。
(2020-9-21記載)
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⑷ Pandora’s Box (初出Pearson’s Magazine 1922-11 挿絵Howard K. Elcock) ❻「パンドラの箱」評価6点
翻弄される犠牲者が良い。
p116 あとで申しあげるように、彼の生活ぶりは一風変わっているんですが、このときの行動も、ちょっとかわっていたのです(The circumstances were peculiar, as you will hear presently, and his proceedings were peculiar)♠️試訳「後で話すように色々奇妙な事件が起こったんですが、このときの彼の行動も奇妙だったのです」
p117 乗合馬車(omnibus)♠️第一話のトリビアに書いた通り、ロンドンでは馬車の時代はすでに終わっている。ここは「バス」
p117 車掌が料金を集めにくる(the conductor was coming in to collect the fares)♠️運転手と車掌の二人体制なんだね。
p119 もとは舞台に立って、くだらないショーに出ていた(she had been connected with the seamy side of the music-hall stage)♠️フリーマンの描くダメ女の典型。
p123 ハンテリアン博物館(Hunterian Museum)♠️ロンドンのイングランド王立外科医師会(The Royal College of Surgeons of England)にある博物館。数千もの解剖学的な標本と多数の外科器具が展示されている。
(2020-9-22記載)
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⑺ The Blue Scarab (初出Pearson’s Magazine 1923-1 挿絵Howard K. Elcock) ❹「青い甲虫」評価6点
多分、ツタンカーメンの王墓発見のニュース(1922-11)に反応して書かれた、かなり早い時期のエジプトもの。他のミステリ作家はカーナヴォン卿が死んだ1923年4月以降ネタにしている。(クリスティ1923年9月号、ヴァンダイン1929年12月号) フリーマンは言語学への興味と素養があったのだろう。ソーンダイクはピクニックに行くような感じで楽しそう。なんか愉快な雰囲気が良い。
解説にあるようにシャーロックのアレを意識してます。メカ好きフリーマンならではのネタの料理法。
p212 小型の証書保管箱(a small deed-box)♣️鍵がかけられ持ち手の付いた金属製の書類保管用の箱、というイメージ。
p212 フランス窓(French window)♣️今調べて初めて理解したのだが、ドアとしての役割が最初から想定されてるのね。窓としても役に立つドア、という感じ。
p213 六月七日の火曜日♣️直近では1921年が該当。
p214 甲虫を転写した(an impression of the scarab)♣️ここら辺、意味がよく分からないかったが、スカラベって古代エジプトでお守りの他、印章としても使われてたんだ! 知りませんでした… 翻訳は「甲虫」を「スカラベ」とすべきですね。試訳「スカラベで封印した」
p218 姿を変えて(in disguise)♣️「変装して」
p223 機械は、明らかにエリート型のコロナで(The machine was apparently a Corona, fitted with the small "Elite" type)♣️試訳「見た感じでは機械はコロナで、小型エリート活字使用のものだ」Elite活字は数枚のカーボン紙を挟んでも視認出来るデザインとのこと。
p224 陸地測量局(Ordnance)♣️ Ordnance Survey (OS) は1791年創立の英国公的地図作成法人。
p225 気の毒なミス・フリート(poor Miss Flite)♣️Dickens “The Bleak House”(1853)の登場人物。『荒涼館』も他のディケンズ作品も私は全く読んでない。コリンズに行く前に読みたいなあ。(また20世紀が遠のく…) フリーマンはかなりのディケンズ・ファンと見た。
p227 あの学識豊かなグラス夫人の古代学の講義でもきいたほうがよかった(you are rather disregarding the classical advice of the prudent Mrs. Glasse)♣️ベストセラー料理本The Art of Cookery, Made Plain and Easy(1747)の著者Hannah Glasse(1708-1770)のことだろう。ここで言ってる「古き良き助言」とはタイトルのplain and easyか。
p227 細字用のペンとゼラチン版のインクで(with a fine pen and hectograph ink)♣️hectographはgelatin duplicatorとかjellygraphとも呼ばれる昔のコピー方法。1869年の発明。15分で100部ほどの複写が可能、という当時の広告があった。Webをざっと見た感じでは左右逆にコピーされるようだが… (原版作成時に裏側からなぞって逆版を作るのかも)
p228 『釣魚大全』(The Compleat Angler)♣️17世紀の有名な本。ソーンダイクは遊ぶ気満々だ。
p238 どうしてわかったのだろう(and you know it)♣️お笑い草だ、出鱈目を言うな!と言うニュアンスだと直感(あんま根拠なし)。
p238 きれいな水で体を洗い(after a leisurely wash)♣️原文で洗う対象は示されていない。手や顔を、だと思う。
p245 パンを海に投げよ。いつの日か、それはまた汝の手に戻るであろう(Cast thy bread upon the waters and it shall return after many days)♣️KJVでは後半がちょっと違う。Ecclesiastes 11:1 (KJV) Cast thy bread upon the waters: for thou shalt find it after many days. 小説の言い方もWebで若干見つかったが、英語訳聖書の正式バージョンではないようだ(一応数種を調べたが一致無し)。Revised Version(1884)ではCast your bread upon the waters, for you will find it after many days. 傳道之書11:1(文語訳) 汝の糧食を水の上に投げよ 多くの日の後に汝ふたたび之を得ん。
(2020-10-14記載)
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⑶ Mr. Ponting’s Alibi (Pearson’s Magazine 1927-2 挿絵Reginald Cleaver) ❻「ポンティング氏のアリバイ」評価5点
作品自体は新し物好きのフリーマンらしい作品。戸板さんの解説は、有名二作品を巻き込んでいて、全部がネタバレになっちゃう悪質物件。こういう書き方、気持ちはわかるがプロの探偵小説評者として工夫して欲しいなあ。時代としては、そーゆー物がちょっとした家庭にあっても普通な感じだった、ということが窺える。(有名二作品の場合は金持ち。本作品ではちょっと特殊な家庭だが)
p82 辻馬車(a taxi)... 辻馬車の馭者(a taxi-driver)♠️流石に1920年代後半だから馬車ではない、と翻訳を読んで思ったが、原文ではcabですらなく、ハッキリtaxi。
(2021-4-10記載)
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⑹ Gleanings from the Wreckage (初出Flynn’s Weekly 1927-3-12, as “Left by the Flames”) ❻「バラバラ死体は語る」
ソーンダイク博士シリーズで最後に発表された作品。この米国パルプ雑誌(Detective Fiction Weeklyの前名)のみの登場でピアソン誌の掲載が無いという。何故だろう。

No.316 8点 ルルージュ事件- エミール・ガボリオ 2020/08/09 12:33
出版1866年だが、初出は新聞Le Pays(14 septembre – 7 décembre 1865)。その後1866年から1867年にかけて4紙が再度連載している。(読者層が違うのかな?) まあ大人気だった、 というのが窺われる。
いやでも、素晴らしい小説。大デュマの歴史ものを、現代の殺人事件をテーマにしてみたら… という大ロマン小説。第2章まではゆったりとしてて時代だなあ、と思わせるんですが、第3章からの流れが絶妙。キャラ描写も良い。作者がハマって書いてるのが感じられます。多分、二作目以降は自己模倣になっちゃってるんだろうなあ、と今から想像してますが、でも裏切って欲しい。続きも牟野素人さん(ご本人は無能なシロートと自称されておりました)が訳しておられるので、すぐ読めます。(安いし)
個人的にはアレ?と思ったボーナスポイントもあり。是非、余計な予備知識を入れずに読んで欲しい。かつての人気は伊達じゃない!
さて、トリビア書くのが辛い。仏語は英語の半分以下の能力だし、シャーロックに比べると19世紀末の資料は少ない。(ミステリ関係が薄いだけで、文化関係はかなり豊富だ。私に知識が無いだけです、ハイ) なので進まないので、とりあえず今は項目だけ書いて、後で埋めます…
この小説、クリスティ再読さまは多分かなり気に入ってくれるんじゃないか、と思います… 是非!
p11 1862年3月6日木曜日、マルディグラの翌々日(Le jeudi 6 mars 1862, surlendemain du Mardi gras)♠️
p14 現場は一切合切このままで(Il faut tout laisser ici tel quel)♠️
p15 半年分として320フラン、しかも前払いという条件だが(moyennant trois cent vingt francs payables par semestre et d’avance)♠️●円。一軒家の家賃。田舎の小別荘ふう。1階に2部屋と屋根裏部屋のみ。菜園付き。周囲は石壁で囲われている。
p15 朝方、よく木綿のナイトキャップをかぶった姿が見られたところから、どうもノルマンディー地方の出身らしかった(On la supposait Normande, parce que souvent, le matin, on l'avait aperçue coiffée d'un bonnet de coton)♠️第一帝政のころノルマンディの婦人に木綿のボンネットが流行った。写真で見ると布を帯でぐるっと巻いて留めてる感じ。日常的なファッションらしいので「ナイトキャップ」とは違うかも。教会にこの頭で行くご婦人もいて聖職者にcoiffure abominable(酷いかぶりもの)と評判が悪かったようだ。
p18 記憶の天才♠️『バティニョールの爺さん』にも登場した特殊技能。
p20 前科者から探偵に♠️ヴィドック風。そーゆーキャラ付けだったのね。
p21 引き出しに金貨…320フランも♠️
p22 チロクレールの親父(le père Tirauclair)♠️フランス語で“Bringer of Light” or "Brings-to-light"(英Wiki)。tirer aux clairsということ?仏Wikiにはこの語は分解無しで「別名Tirauclair」とだけ記載されているので、この綴りで常識的にすぐ意味がわかる、ということか。
p26 月に60フラン♠️●円。食料品店での買い物
p27 十スー♠️●円。子どもの手伝いに対する駄賃
p29 ビー玉(des billes)♠️ここらへんの感じが好き。可愛い雰囲気がよく出ていると思う。
p31 丸みをおびた顔は、びっくりしているような、それでいてどことなく不安げな表情… パレ=ロワイヤル座の二人の喜劇俳優にひと財産をもたらした、あの表情(Sa figure ronde avait cette expression d’étonnement perpétuel mêlé d’inquiétude qui a fait la fortune de deux comiques du Palais-Royal)♠️具体的な俳優を念頭に置いて、の書きっぷり。多分当時は明白だったのだろう。ググったらPaul Grassotという喜劇俳優?が引っかかった。仏Wikiなので、記事を読むのが大変。よくわからないので保留。
p34 鳩時計♠️いつも寝る前にねじを巻く。動くのはせいぜい14-5時間だろう
p34 五時をさして止まっているのは何故か。その時刻に時計にふれたから(Comment donc se fait-il que ce coucou soit arrêté sur cinq heures? C'est qu'elle y a touché.)
p38 百フラン…紙幣(Ils réclament cent francs qu'on leur a promis)♠️発見の報酬
p39 数種類の指紋(les diverses empreintes)♠️急に科学捜査が進展した?ここは「いくつかの足跡」という意味だろう。指紋が科学捜査に使用された初例は1892年アルゼンチンのはず。
p42 年に2000フランの収入。30年ほど?前の話
p44 二十五フラン支払って野兎を仕留める
p54 ピケやインペリアル
p64 三十万フラン♠️相当の額。まあ目的が目的だ。
p117 八十万フランを超える金♠️良地の代金
p121 二万フランの年金… 減少
p147 小型のピストル
p168 いつの世にあっても、権力を手中にするのは富を、つまりは土地を所有する者だ
p169 土地の価値は日に日に上昇している
p171 召使の使命
p223 今日では誰でも司法を尊重し
p223 ちりの中を転げ回り
p225 ヴァレリーもそれには反対でした♠️ちょっと意味不明。
p235 記述によるミスディレ
p238 千フラン札2枚
p239 コーヒーを飲みながら、食堂で葉巻をくゆらしていた… 家の規則に反すること
p271 わたしが40歳のとき、父親はもうろくして子どもに返ってしまった
p271 月々4000フラン
p278 息子たちはあらゆる愚行とは無縁な時代に生をうけたから、父親の世代の悪行、情熱、熱狂を知らない♠️フランスでは、政体がコロコロ変わった時期。裏切りも当たり前だったろう。
p278 五フランの金を御者に投げわたし♠️チップ。多分過大な。
p279 夫人の頭のうえには小さな容器… 冷たい水が一滴一滴こぼれ落ち… 額を冷やしていた
p279 血でよごれた布きれ… 蛭による治療がおこなわれた…
p281 吸い玉
p282 きみの政治的信念からして、聖ヴィンセンシオの修道女に…♠️「宗教的」信念じゃないの?ポリシーの誤訳か?
p285 利子というのが五分から一割五分…
p286 利子の話を好まず、その話をもちだされると面目をうしなったように感じた…♠️高利貸みたいな男の心情。やはり利子はタブーなのか。
p304 猟犬♠️ここでもう既に卑しい仕事に苦悩する探偵像
p311 三フラン欲しさに♠️刑事にデタラメな証言をする奴が… 何故3フランなのか。ただの言葉の綾か?情報料の相場なのか?
p313 英国式に手を差し伸べた
p322 女たちには理性も分別もそなわっていない
p343 レジヨンドヌールのオフィシエ勲章
p346 伝承によれば、雷に打たれた者は
p356 部屋の消毒
p358 刑事♠️タイピンでわかるって何かの合図?
p361 船乗り… 身体を揺する♠️このイメージって誰が始めたんだろ?
p364 聖ヨハネの祭
p366 金貨で3000フラン以上
p372 カタロニア・ナイフ️♠️これも『バティニョールの爺さん』に登場
p382 通行料… 10スー硬貨… 釣り銭の45サンチーム♠️10スー=50サンチーム
p389 二十フラン硬貨
p390 リチャード三世のように
p403 四連発のピストル

No.315 7点 シャーロック・ホームズ事典- 事典・ガイド 2020/07/23 05:19
日本 Japan 東アジアにある帝制の島国。推定人口、五千万。トレヴァ老人は日本を訪れたことがあった(グロリア・スコット号)。ハロルド・ラティマの家には日本の甲冑が…(以下、略)
原著1977年出版(翻訳1978年。パシフィカのシャーロック・ホームズ全集 別巻として。現在は新版が出てるはず)、著者の編集方針は「ホームズが知悉していたヴィクトリア朝の知識で全て説明すること」
素晴らしいアイディアで、内容も忠実にその方針で記されている。(大体1914年ごろの観点で書かれているはず)
人名、地名、建物、事柄、商品名、など、大抵の項目は網羅している感じ。シャーロッキアンが積み上げたトリビアの重みを感じる。(オレンジは出てくるがリンゴは出てこないらしい、とかのクイズねたにも使える)
拳銃関係では「まだらの紐」に出てくる有名な「イーリ型2番の拳銃」は「イーリ・ブラザーズ(Eley Bros.)」の項に出ている。日本語の表記の揺れで探しにくい場合は、現綴の索引があるので、そこで探すことが出来る。(ただし、項目の索引なので、記述に出てくるgunとかは探せないのが残念。
特約(プライヴィット)ホテル(緋色等に出て来る)は「ホテル」の項に「酒の販売を許可されていない」と書かれており、そーゆーミニ知識もさりげなく埋め込まれている。こーゆーヴィクトリア朝の背景知識がもっと充実していれば、さらに良い事典となるのだが…
パシフィカ版は何度もひもとくと、背の造本が弱いので、ページがバラバラになりそうな感じが残念。少なくとも事典を想定した作りではない。
同趣向で一貫したペリー・メイスン事典は無理だろう。何せ活躍期間が1933-1969と長すぎる。どの時代にフォーカスを当てるか迷うし、デラの美魔女ぶりを突きつけられるのは嫌だ(1933年の設定では約27歳、とすると…)。

No.314 5点 アリ・ババの呪文- ドロシー・L・セイヤーズ 2020/07/07 02:19
日本オリジナル編集(1954年、日本出版協同株式会社) 編者は翻訳者の黒沼 健だと思われる。「異色探偵小説選集④」となっているシリーズの一冊。中央公論社版『アリ・ババの呪文』(1936年)から2篇削除し、4篇追加(*で表示)。
部屋を整理してたら見つけました。100円で入手した紙質の悪い古書。でもモンタギュー・エッグがまとめて読めるのは、今のところこの本だけです。
収録7作目「バッド君の霊感」(これは中公版の題。本書の訳題「緑色の頭髪」は当初訳者がつけたもので中公編集者に変えられたから今回戻した、というのだが、どーゆーこと? 全く困った人だ。『新青年読本』によると雑誌掲載時(昭和8年10月増大号)も「バツド君の霊感」感覚がオカシイのは訳者だけのようだ)を原文と比べて読んでみたところ、都築道夫が忌避したような新青年式の翻訳で、面倒なところはパス、意が通じれば良しで、原文からちょっと離れても気にしない自由調。日本語としては読みやすいんだけど、ところどころ大丈夫?な感じ。大意は通じるが、雰囲気がスカスカになっています。創元さん、セイヤーズ探偵小説全集の完結をお願いしますよ!(少なくともピーター卿全集は完成させて欲しい…)
初出はいつものようにFictionMags Index(FMI)調べ。原題はAga-search.comの情報を元に、原書短篇集のものを採用。カッコ付き数字は本書の収録順、ここでは初出順に並べ替えています。ピーター卿シリーズには創元①②として創元文庫版『ピーター卿の事件簿』の番号を表示。黒丸数字は作品が収録されている原書短篇集❶= Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928、❷= Hangman’s Holiday, Gollancz 1933、❸= In the Teeth of the Evidence, Gollancz 1939を示しています。

⑺ The Inspiration of Mr. Budd (初出: Detective Story Magazine 1925-11-21, as “Mr. Budd’s Inspiration”)❸「緑色の頭髪」: 評価6点
ノンシリーズ。TVシリーズOrson Welles' Great Mysteries(1973)の第15話として放映されている。タイトルは原題と同じ。日本では1977年テレビ朝日系で『オーソン・ウェルズ劇場』第10話「理髪師の第六感」として放送されたようだ。(私はたぶん未見。ただし有名なCMを見た記憶がぼんやりあるから外国ミステリ・ドラマ大好きだった私はこのシリーズを観てたか?)
なかなか良く出来た話ですが(緊張と弛緩のユーモア感が良い)、翻訳タイトルで台無し。読むときには忘れること!って無理な注文… FMIにより上記の米国Pulp誌初出(今回、調べてて気付いたのだが、この雑誌の1925-5-30号から5回分載でCloud of Witnessが連載されている。単行本出版1926年なのでこれが初出?掲載タイトルはGuilty Witnesses。単行本ではおかしなことになってる事件発生の日付と曜日が、連載時にどう記されていたのか、非常に気になる)としたが、英国雑誌(当時セイヤーズを掲載してたPearson’sなど)の初出の可能性もありそう。FMIには1920年代のPearson’s情報がほとんど無い。有名な雑誌なのに…
p130 五◯◯磅♣️英国消費者物価指数基準1925/2020(61.20倍)で£1=8086円。500ポンドは404万円。
p130 顔色稍々黒味を帯び銀鼠色の頭髪を有す。髭、鬚、眼とも灰色(complexion rather dark; hair silver-grey and abundant, may dye same; full grey moustache and beard, may now be clean-shaven; eyes light grey, rather close-set)♣️翻訳の調子を見ていただくため、少々長く引用。手配書の人物描写なのだが、後の方で木霊のように響く重要表現”dye same”を含め、”clean-shaven”、”close-set”はばっさり削除。文章は引き締まるけど、忠実とはとても言えない。全篇、こんな感じの翻訳です。浅黒警察として注目は、まず肌の色に言及していること。そして頭髪、口髭、あご鬚、目の色の順。単独で出てくるdarkを「浅黒い肌」と解釈するのも一理ある、という例証か。(まー私は単独のdarkはfairの対義語と考えてますが…) こういう触れ書きの容貌描写に決まった順番ってあるのだろうか?
p132 七志六片(seven-and-sixpence)♣️シリング、ペンスの漢字表現。毛髪染めの値段。3032円。原文では前段で「9ペンスの客、いやチップ込みで1シリングにはなるか」と踏む描写があるのだが、この翻訳ではばっさりカット。散髪代(場末の理容店という設定)が9ペンス(=303円)とは随分安い感じ。2020年英国の記事では安い店で平均£5(=661円)だという。1940年米国では35セント(=690円)という情報あり。
(2020-7-7記載)

⑵ The Abominable History of the Man with Copper Fingers (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-1「銅指男」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫の書評を参照願います。

(12)* The Vindictive Story of the Footstep That Ran (初出: Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-7「嗤う蛩音」
ピーター卿もの。創元未収録。HMM1984年1月号の書評を参照願います。

⑷ The Bibulous Business of a Matter of Taste (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-8「二人のピーター卿」
ピーター卿もの。創元②収録。創元文庫の書評を参照願います。

⑴ The Adventurous Exploit of the Cave of Ali Baba (初出: 短篇集Lord Peter Views the Body, Gollancz 1928)❶-12「アリ・ババの呪文」: 評価6点
ピーター卿もの。創元未収録。直近の翻訳は『嶋中文庫 グレート・ミステリーズ12: 伯母殺人事件・疑惑』(2005)に収録されたもの。
冒頭にはワクワクするが、急に安っぽいスリラー調になっちゃう。セクストン・ブレイク大好きなセイヤーズなので致し方ないところ。話の展開は結構面白い。
p7 鳶色の頭髪… 濃い目の山羊髭(with brown hair … a strong, brown beard)♣️こちらの人物描写では頭髪、髭の順
p8 五十万磅♣️英国消費者物価指数基準1928/2020(63.24倍)で£1=8356円。 50万ポンドは41億円。37歳(1928年1月時点)のピーター卿の資産。
p14 二年の歳月♣️この設定だとピーター卿不在期間は1927年12月から1930年1月まで。確かに第4作『ベローナ・クラブ』と第5作『毒』の間には、そのぐらいの空白がある。
p17 拳銃(ピストル)(a revolver)♣️ここは英国伝統のブルドッグ・リボルバーで。(←個人の妄想です)
p18 蓄音機から洩れるジャズのメロデイ(A gramophone in one corner blared out a jazz tune)♣️当時BBC放送で活躍してたFred Elizaldeを聴くとニューオリンズ風のジャズ。ここでかかってるレコードは米国のものだろうか。
p28 臀ポケットから自動拳銃(オートマテツク)を取出すと…(took an automatic from his hip-pocket)♣️尻ポケットに収まるサイズの小型ピストル。ブローニングFN1910の38口径仕様を持たせたい。(←個人の妄想です)
(2020-7-7記載)

⑶ The Man Who Knew How (初出: Harper’s Bazaar 1932-02)❷「殺人第一課」
ノンシリーズ。

⑹ The Fountain Plays (初出: Harper’s Bazaar 1932-12)❷「噴水の戯れ」
ノンシリーズ。

⑸ The Poisoned Dow '08 (初出: The Passing Show 1933-02-25, as “The Poisoned Port”)❷「エッグ君の鼻」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの。シリーズは全11作。最後の1作を除き、全て週刊誌The Passing Show掲載(最初の6話は毎週連続掲載。この雑誌、表紙絵が英国版Saturday Evening Postといった感じで当時の英国風景を見事に描いてて好き)。最初を飾るのがこの作品だが、主人公に華がなく、話もパッとしない。いつもうんざりさせられる古典などの引用が無いのが良いところか。エッグ君は酒のセールスマンという設定。セイヤーズはお酒大好きだったんでしょうね。偶然なんですが先日馴染みのイタリア料理屋で食べてたら目の前にDow’s Fine Ruby Portの瓶が!早速試してみたら、しっかり葡萄味ですが甘々〜でした。
p101 (ダウ)葡萄酒でしたら私の手で六ダースほど納めましたが…(the Dow ’08. I made the sale myself. Six dozen at 192s. a dozen.)♣️「ダウ1908年もの」「1ダース192シリングで」という大事な情報は削除。1本16シリング(=7614円、1933年英国物価指数基準72.04倍) もちろんこっちはVintage Port、私の飲んだ年代すら入ってない普及品とは違う… Dowのホームページによると1908年ものは"Light, Delicately Flavoured Wines" Declared by all producers, 1908 was a great vintage with light, delicately flavoured wines.ということらしい。
(2020-7-7記載)

(11)* Sleuths on the Scent (初出: The Passing Show 1933-03-04)❷「香水の戯れ」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの第2話。第1話同様、パッとしない話。
p203 「大瓶(large bottle)の方を… 僅か三シリング六ペンスで—」「それじゃ原料の酒精税(the duty on the spirit)にも足らんでしょう」♣️3s.6d.=1666円。香水の大瓶の相場を当時の広告から拾うとYardleyが21シリング、No.4711が30シリングくらいか。
p203 三十五歳、中肉中背で頭髪はブロンド。青目勝ち、短い口髭(age thirty-five, medium height, medium build, fair hair, small moustache, grey or blue eyes, full face, fresh colour)♣️ラジオで流れた指名手配の容貌描写。翻訳では最後の「丸顔、明るい肌色」をカット。
p205 モリス(Morris)を運転して来た男… ひょっとするとオースチンかウォルスレー(Austin or Wolseley)であったかも♣️この宿には、モリスの男が4人もいた。国民車なんだね。ところでこのくだり、この翻訳では「素人の」証言は当てにならない、という書き方だが、原文では「若い女(メイド)の言ってることだから」車種は当てにならない、となっている。
(2020-7-7記載)

⑽* Maher-Shalal-Hashbaz (初出: The Passing Show 1933-04-01)❷「メール・シャラール・ハッシュバッス」: 評価5点
モンタギュー・エッグもの第6話。何故かAga-searchさんちではエッグものに入れていない。この作品から考えてセイヤーズさんが猫好きじゃないのは間違いないと思います。タイトルはイザヤの二番目の息子の名。聖書中で最も長い名前、という称号があるらしい。
p187 ミイコ♣️原文ではpussとかkitty。猫撫で声でネコを呼ぶときの言い方。
p189 十シリング♣️4759円。この値段で人が集まるかなあ。まあ何処かで捕まえて持ってくれば良いが…
p191 なんでも跳びついてはすぐに毀すので(because he ‘make haste to the spoil.’)メール・シャラール・ハッシュバッスという名をつけた♣️イザヤ書8:1に出てくる名前。ヘブライ語で "Hurry to the spoils!" or "He has made haste to the plunder!"という意味らしい。この翻訳では訳注とか説明は全く無い。
p192 電車賃… 半クラウン♣️2s.6d.=1190円。
(2020-7-7記載)

⑻ The Image in the Mirror (初出: 短篇集Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「鏡に映った影」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫で読む予定。

⑼ The Queen's Square (初出: 短篇集Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「白いクイーン」
ピーター卿もの。創元②収録。 FMIでは初出1932(雑誌等の言及なし)。コピーライトがそういう表記なのか。短篇集収録前に何処かに発表されてた可能性あり。創元文庫で読む予定。

(13)* The Incredible Elopement of Lord Peter Wimsey (初出: Hangman’s Holiday, Gollancz 1933)❷「妖魔遁走曲」
ピーター卿もの。創元①収録。創元文庫で読む予定。

No.313 6点 ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ- R・オースティン・フリーマン 2020/07/05 06:04
第2短篇集『歌う白骨』(1912)のほぼ全篇4作(未収録は「オスカー・ブロズキー」だけ)とソーンダイク初短篇(1908)を含む第1短篇集(1909)からの3作に1924年発表の1作で合計8作収録。
7月4日はソーンダイク博士の誕生日(藤原編集室ネタ)。フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集企画記念。予行演習のため創元の1、2を読んでます。なんと言っても挿絵完全収録というのが良い。あらためてWEB「海外クラシック・ミステリ探訪記」を読んだら、博士の初出情報や雑誌に掲載されたイラストがたくさん載ってるんですね。是非、短編全集には初出を記載したフリーマン全著作リストもお願いしたいところです。
以下、初出はS・フチガミさん情報によるもの。時々FMIを参照しています。

⑴A Case of Premeditation (米初出McClure’s Magazine 1910-8 挿絵Henry Raleigh)「計画殺人事件」評価6点
倒叙ソーンダイクもの。冒頭から素晴らしい作品。犯行前に犯人が色々なものを揃えるのですが、何故それを、が示されないのが面白い。警察犬を無茶苦茶批判してるけど、それは使いようじゃないの?と思いました。作者は犬嫌いか。これがフリーマンによる倒叙作品の初登場。執筆も実は先?(オスカー ブロズキーはPearson’s 1910-12初出)
p16 年200ポンド♠️消費者物価指数基準1910/2018で114.4倍、現在価値322万円。
p17 チェンバー百科事典(Chambers’s Encyclopaedia)♠️10巻本の百科事典。初版1868年完成。1908年には改訂版(第5版?)が出ています。
p19 半クラウン銀貨(half-a-crown)♠️エドワード7世の銀貨(1902-1910)は重さ14.1g、直径32mm。半クラウン=2シリング6ペンス=0.125ポンド、現在価値2010円。なお1ペニー銅貨は同時期のものだと重さ9.4g、直径30mm、現在価値67円。半クラウンで4ペンスのお釣りなのでここでの買い物は1742円相当。
(2018-12-31記載)

⑵The Echo of a Mutiny (初出Pearson’s Magazine 1911-9 挿絵H. M. Brock, as “Death on the Girdler”)「歌う白骨」評価5点
倒叙ソーンダイクもの。偶然の犯行なので手がかりが豊富、博士には赤子の手を捻る程度の事件。
p65 リカルヴァ沿岸警備所の双子塔(the twin towers of Reculver)♠️海沿いの聖メアリ教会に12世紀に加えられたtwin towersで有名。原文に「沿岸警備所」はありません。
(2019-1-6記載)

⑶A Wastrel’s Romance (初出Novel Magazine 1910-8 as “The Willowdale Mystery”)「おちぶれた紳士のロマンス」評価5点
倒叙ソーンダイクもの。かつての素晴らしき日々への感傷、からの暗転が唐突。結末もちょっとどうかなあ。
p121 親しくしている弁護士さんの言い草ではないけれど「名前になんか、なんの意味も」ない(as our dear W. S. remarks, 'What's in a name—')♠️残念じゃがWriter to the Signetでは無い。沙翁Romeo and Julietteじゃのう…
p133 イエール鍵(Yale latch-key)♠️1844年、米国人Linus Yale Jr(1821-1868)の発明。
p150 郵便局の人名簿(Post Office Directory)♠️英国ではstreet別、commercial(商売)別、trade(職業)別、court(貴人・公人)別などの名簿を郵便局が発行していたらしい。
p161 オランダ時計の文字盤みたいに表情がなかった(devoid of expression as the face of a Dutch clock)♠️オランダ製はシームレスに針が動くのかも。花のセリに使われるDutch clockは針が急がしく動くらしいので違うと思う。(2020-3-9追記) Dutch Clockとは盤面に贅沢な彫刻などない普通の振り子時計、とDickens関係のWebページに書いてありました。
(2020-3-8記載)

⑷The Old Lag (初出Pearson’s Magazine 1909-4 挿絵H. M. Brock, as “The Scarred Finger”)「前科者」評価4点
かなり手間のかかるトリック。倒叙として構成してみれば、作者も不自然だと気づくはずなのに… ソーンダイクの推理もパッとせず、警視が間抜け過ぎるのも面白くない。
p169 舌を見ただけで… 当てるバクダードの占い女(the wise woman of Bagdad… by merely looking at his tongue)♠️面白そうな話だが、調べつかず。有名な占い師なのか。
p189 昔話の狐と鳥(the old story of the fox and the crow): イソップ童話より。
p189 きみは、ぼくに一生けんめいしゃべらせておいて、自分は耳を楽しませながら(the old story of the fox and the crow; you 'bid me discourse,' and while I 'enchant thine ear,')♠️Shakespeare “Venus and Adonis”(1593)より。作曲家Henry Bishop(1786-1855)がこの詩をもとにBid me discourse(1822)という曲を作っている。
p202 ハンカチの隅にゴムのスタンプで(printed in marking-ink with a rubber stamp)♠️新しく買った半ダースのハンカチに奥さんが名前を入れた(p202)。洗濯屋に出している、というから紛れないための工夫なのか。(他の衣類にも名前を入れるのだろうか?)
(2020-4-3記載)

⑸The Blue Sequin (初出Pearson’s Magazine 1908-12 挿絵H. M. Brock)「青いスパンコール」評価5点
現場のコンパートメントは通路が無いタイプなので、列車が動いている時は密室状態、だから最後に降りた者が犯人なのは確実、という話なのだが、当時は当たり前で説明無用の前提条件が現在の人間にはわかりにくい。(20世紀初頭から通路ありのCorridor coachが導入され始めたようだ) 本篇の解決がそーゆーことなら、物理的にはこーゆー現場の状況にはならないような気がします。(室内中央に戻る可能性はかなり低いと思う)
p217 干し草を燃やす(set a rick on fire)♠️このrickは交換後の「枕木」ではないか?保線の話に干し草が出てくるのが不思議なのだが… (その後に家畜の話題が出てきて話が繋がってるように見えるが、本来、保線工事の話)
p223『ゲインズボローの肖像に描かれたデボンシャーの公爵夫人』(Duchess of Devonshire in Gainsborough's portrait)♠️ゲインズバラが描いた「デヴォンシャー公爵夫人の肖像」(1787?) 大きな帽子の有名な絵。
(2020-3-8記載)

⑹The Moabite Cipher (初出Pearson’s Magazine 1909-?? 挿絵H. M. Brock)「モアブ語の暗号」評価6点
ジャーヴィスとアンスティ揃い踏みなのが楽しい。アンスティは反抗的な性格のようだ。謎の解決はフリーマンらしくて良い。(読者もジャーヴィスも置いてけぼりだが…)
p237 救急車を(ambulance)♠️ロンドンで最初の救急自動車は1904年。救急用連絡ポストが市内数カ所に設置され、電信でセンターに知らせる仕組みだったようだ。(1907 ambulance city london policeで検索)
p237 患者に変化が♠️ここら辺の描写は医者ならでは。
p238 ポーク・パイ(Pork-pie)♠️英国伝統の甘くないパイ。冷やで食べるのが良いらしい。ここの感じでは普通に製品として販売されていたのか。
p239 呼鈴のボタンの列(a row of brass bell-handles)♠️がオルガンのストップみたいに見える… と言うので画像を探したら本当にそんなのがあった。https://www.flickriver.com/photos/stonerabroad/6372235067/ 翻訳では「押した」となっているが原文ではpulledとあるので、このタイプなんだろう。
p239 赤毛型の典型的なユダヤ人(a very typical Jew of the red-haired type)♠️調べると欧米で「赤毛」はユダヤ人の属性という偏見があったらしい。だから「にんじん」や「赤毛のアン」なのか?とすると「赤毛連盟」はPC的にヤバいのか?
p253 夕食の駅弁を買ったり(furnish ourselves with dinner-baskets)… 駅弁の冷えた鶏肉(cold fowl from the basket)♠️「駅弁」というから、そーゆー商品があった?と思ったら自分たちで食べ物をバスケットに詰め込んだ… という意味だろう。(駅弁というのも、おそらく日本独自のものではないでしょうか。ヨーロッパの大きな鉄道駅には、テイクアウト可能なサンドイッチ等を販売する様々な店舗が並んでいますが「テイクアウト用に最初からパッケージされたもの=弁当」は、まず見たことがないのです。〜“EKIBEN”は英語になるか? 2018.09.26 WEB「鉄道チャンネル」)
p253 いらいらした口調で… 「もう七分も遅れている!」(exclaimed irritably. "Seven minutes behind time already!")♠️列車の遅れ7分でこれ。やはり昔は結構定刻どおりだったのでは?
p260 あらゆる銀器に良心的な反感(a conscientious objection to plate of all kinds)♠️ソーンダイク博士の感想。贅沢を象徴してるから?
(2020-7-4記載)

⑺The Aluminium Dagger (初出Pearson’s Magazine 1909-3 挿絵H. M. Brock)「アルミニウムの短剣」評価6点
立派な密室殺人なんだから、もっと盛り上げて良いのに。サスペンスが全く無い。筋立てが直線的過ぎるんだよなあ。
p274 「入浴」という神聖な儀式(The sacred rite of the "tub")♠️たまたまwikiにあった雑誌版(McClure’s 1910-7)を見たらmy bathとあっさり表現。単行本時に洒落た文章に直したようだ。
p286 不潔な猿を肩に乗せた男が手回しオルガンを持って... 神聖な曲とコミック・ソングの—『ロック・オブ・エイジス』『ビル・ベイリー』『クジュス・アニマル』『オーヴァー・ザ・ガーデンウォール』などを、ごちゃまぜに... 『ウェイト・ティル・ザ・クラウド・ロール・バイ』を演奏しはじめ…(there was a barrel-organ, with a mangy-looking monkey on it... Kept mixing up sacred tunes and comic songs: 'Rock of Ages,' 'Bill Bailey,' 'Cujus Animal,' and 'Over the Garden Wall.' ... started playing, 'Wait till the Clouds roll by.')♠️McClure版ではWait till the Clouds roll byのくだりは無い。沢山の曲名が出てきて嬉しいねぇ。調べたら大体判明したので満足です。
①Rock of AgesはHymn. 詞Augustus Montague Toplady(1763), メロディは数種あるが、英国では"Redhead 76", also called Petra, by Richard Redheadが普通(英Wiki)。
②Bill Baileyは1902年作詞作曲Hughie Cannon(米国人)のBill Bailey, Won't You Please.... Come Home?だろう。英Wikiに(Won't You Come Home) Bill Baileyの項目あり。
③Cujus AnimalはRossiniのStabat mater(1841)第二楽章Cujus animam(テノール独唱)のことか。
④Over the Garden Wallは作詞Harry Hunter、作曲G. D. Fox、1879年出版のmusic-hall piece。
⑤Wait till the Clouds roll byは作詞H. J. Fulmer、作曲J. T. Wood、1881年出版のポピュラーラヴソング。
p288 サドラー基金賞の最高賞がもらえるぞ(They are worthy of Sadler's Wells in its prime)♠️基金賞では見当たらず。1683年リチャード・サドラーが見つけた、薬効のある井戸のほとりのミュージックハウスが起源の由緒ある劇場名だと思われる。日本語Wiki「サドラーズウェルズ劇場」参照。本作の頃はすっかり落ちぶれたボロ劇場だったようだ。スケートリンクや映画館に改装されたというのもこの頃か。全盛期のサドラーズウェルズ劇場みたいに古いネタ(あるいは素晴らしいネタ)、というニュアンス?
p291 約2万ポンド♠️全財産。英国消費者物価指数基準1908/2020(121.09倍)で£1=15999円。2万ポンドは3億2千万円。
p294 小柄で、色白で、痩せぎすで、髭をきれいに剃って(he is rather short, fair, thin, and clean-shaven)♠️浅黒警察出動!「金髪で」
p295 お礼に一ソヴリン♠️探しものの謝礼。=£1なので15999円。当時のソヴリン金貨はエドワード七世、純金、8グラム、直径22mm。
p296 空中ごま(デイアボロ)(diabolo)… その玩具は、往復する紐から外れ(the shuttle missed the string)♠️英wikiに項目あり。ああ、アレね。日本では流行ってないと思う。
p297 背が高く、痩せていて、色黒で(was tall and thin, dark)♠️浅黒警察ふたたび出動!「黒髪で」
p299 この前の四季支払日(クオーター・デイ)に来たばかりで—六週間ほど前から♠️英国(イングランド&ウェールズ)ではLady Day(3/25)、Misdummer Day(6/24)、Michaelmas(9/29)、Christmas(12/25)で、スコットランドやアイルランドでは別の日が指定されている(英Wiki)。微妙にズレてるのがなにか伝統っぽい。本作は「夏の陽光(p278)」とあるので約6週間前が6/24、つまり8月上旬の事件。
p299 半ソブリン♠️御者への駄賃。8000円。当時の半ソヴリン金貨はエドワード七世、純金、4グラム、直径19mm。
p300 フランス製の小型武器—1870年の悲劇の形見—の廃物(obsolete French small-arms—relics of the tragedy of 1870)♠️ small armsとは「1人で携帯操作できる拳銃、小銃(ライフル)、ショットガン、手榴弾など」のこと。定訳は「小火器」。1870年の悲劇とは自信満々の仏軍があっさり敗れた普仏戦争のこと。
p305 どの部分をみても『イギリスの製作者が作ったもの』であることは明白(there is plainly written all over it 'British mechanic.')♠️その後の説明を聞いても明白だとは思えないが… まーお国自慢の一種かな。
p309 ドレイパー社製の変色性インク(Draper's dichroic ink)♠️Bewley & Draper社(Dublin)の黒インク。1886年の広告には“The Best Black Ink Known — Draper’s Ink (Dichroïc)“とある。dichroicは漆黒性と高輝度を併せ持った、という意味での「二色性」か。1891年の広告ではturns at once jet blackと表現してるので「変色性」で良いのか。
p310 インクを入れた石の壜(a stone bottle)♠️Stone wareの訳語は「炻器(せっき)」。半磁器や焼締めとも呼ばれ、日本では備前・常滑・信楽・伊賀焼きに見られる」ものらしい。ヴィクトリア朝に流行したようだ。
(2020-7-4記載; 2020-7-8追記)

(8)A Mystery of the Sand-Hills (初出Pearson’s Magazine 1924-12; 米初出Flynn’s 1924-11-29 as “Little Grains of Sand”)「砂丘の秘密」評価5点
Flynn’sは有名な米国パルプ誌Detective Fiction Weeklyの前身。
ひた隠しにする依頼人にズバリと失踪者の特徴を言い当てる場面だけが楽しい物語。あまりに読者に手がかりが隠されているので面白い話として成立しません。御託宣をははぁと聞くだけ。
p318 背の高い、髭をきれいに剃った、色の黒い男だった (Tall, clean-shaven, dark fellow)♠️しつこいようですがdarkな髪の色だと思うのです。
p328『クランプス』というゲーム(the game of "Clump")♠️Webにclumpsという指定人数の塊を作る子供用ゲームの動画がありましたが… George Ellsworth Johnson著 Education by plays and games(1907)にYes, No, I don’t knowのいずれかで答える推測ゲームClumpsの項あり。源平戦で、推測が当たったら相手方から一人奪い、最後に人数が多い方のグループが勝ち、というゲームのようです。(kindle版を手に入れましたが、OCRの精度が低くてちょっと読みにくい…)
p333 狐狩りの猟犬♠️ここでは大活躍してます。「犬嫌い」ではないらしい。⑴参照。
(2019-8-31記載)

以上で全巻終了。全体を通して捻りが無い感じ。ミスディレクションというかアッチに振ってからの〜意外な解決、というテクニックを使わないのがシリーズの物足りなさですね。ソーンダイク博士のキャラもおんなじで、欠点の無いハンサムキャラじゃ、可愛げ全く無しです。これで超美人だが超性格の悪い恋人or妻が登場すれば面白かろうに… まあでも第二巻も楽しみです。もちろんフチガミ全集も。1冊5000円じゃ収まらないのかな?
あれ?弾十六得意のネタを書いてない…と思われた方もいるのでは?でもアレ書いちゃうとムニャムニャじゃないですか…なので以下、ちょっとぼかして銃関係のトリビアを書きます。
「ライフル銃」は、名称が作品中にバッチリ明記してあるので、興味がある人は各自でwikiを調べてくださいね。この銃にはwikiにある通り皮肉なエピソードがあって銃世界でも結構有名です。
「消音器(a compressed-air attachment)」が出てくる作品があるのですがマキシムの特許は1909年3月。となると作中年代の方が先になっちゃって整合性が取れないかも。手作りのオリジナルと考えれば良いでしょうか… 22口径(5.7mm)程度の小口径なら結構効果は高いようですが… 最後の方で「強力で大きな消音ライフル(a large and powerful compressed-air rifle)」とあるので犯人は空気銃に改造した、という設定なのかも。こっちの解釈なら博士が「いかなる爆発の痕跡も残さないために[attachmentを使った](prevent any traces of the explosive)」という発言とも合致します。フチガミさま、いかがでしょうか?
「携帯便利な武器—大口径のデリンジャー型ピストル(a more portable weapon—a large-bore Derringer pistol)」も登場します。お馴染み41口径レミントンダブル(1866)ですね。口径は大きいんですが、弾は寸詰まりで火薬量が少なく銃身も短いのでパワーはそんなにありません。
(2020-7-8記載)

No.312 4点 推理小説の誤訳- 事典・ガイド 2020/07/02 04:30
誤訳の指摘って、昔『翻訳の世界』で別宮先生が欠陥翻訳を大胆に連載されていたのだが、する側もされる側も労多くて益少ない行為です。まあ大人が他人を非難するって大変な行為であることは社会人になったらわかるよね?学生気分が抜けて無い青年ならともかく、分別ある大人なら普通は面倒くさいことになるからしないもの。(別宮先生も最初は他多数の評者が欠陥翻訳を切るという企画だったのだが、結局他の評者は途中で辞めちゃった) だからこーゆー評論風文章も顔を晒してなんてとても私には出来ません。
そういう意味では貴重な本なんだけど、本書の感じは弱いものいじめに見える。大体、実名を出す必要ある?まあ早川や創元は今となっては翻訳大手なんだけど、戦後のドサクサでミステリ翻訳に手を出した翻訳業界の新興出版社だし、ミスの内容も翻訳後の日本語をちゃんと編集が読んでいれば、変テコだとわかるレベル。数だって1ページ数箇所なら誤訳の欠陥商品だが、単行本全体で100以下なら立派なもの。それに早川も創元も編集者も翻訳者もそのほとんどは英語の専門家じゃないからねえ。(まあプロなら言い訳出来ないだろうが…)
大体、この著者の時折混ぜるふざけた調子が不愉快。本気で誤訳を指摘したいなら、あんたの本業の法律業界のをやれば良い。(飛田さんの立派な新書『アメリカ合衆国憲法を英語で読む』は、法律の専門では無いが…と断りながらも、従来の大学のセンセーの翻訳の間違いを真摯に指摘しています。もちろん訳者名は明記していません。まあ著書名や出版社は明記してるので調べればわかるのですが、これがマナーでしょう)
以上はともかくとして、日本人が間違いやすい英語の本としては(現在でも多分)非常に有益。英語の辞書や授業で習った一般的な語意に引きずられたり、慣用句を知らなかったり、特殊知識が無かったり、と言った原因がほとんどです。
私が浅黒警察としてこだわってるdarkも記載されていますよ。この著者は「黒髪」でも不満で「ブリュネット」が正解だと言う。それ日本語じゃ無いよ…
文庫にもなったので売れたんでしょうね。(最近私が誤訳を知ったケースで『ボートの三人男』の有名なサブタイトル「犬は勘定に入れません」があった。河出古典の良い仕事。でもドスト亀山はかなり問題があるらしい。検証ページを見たことがあるだけですが…)

No.311 9点 デロリンマン- ジョージ秋山 2020/07/02 01:32
これミステリか?と言われると、アレなんですが、時期が時期なんで許してください。(PKD『アンドロ羊』が現時点で海外3位のサイトですから…)
初出は少年ジャンプ1969年。私は徳間コミック文庫(1995年8月)で読みました。ジャンプ版と少年マガジン版(1975年から連載)が収められているのですが、いずれも最後まで収録されていないようです。(今、調べたらWikiに書かれてるラストと違うので…)
現在はkindle版も出てるので(収録内容不明)簡単に入手出来ますが、当時は古本屋を探してやっと入手した記憶があります。じいちゃんちで多分叔父が買ってた少年マガジンで1エピソードだけ読んだのが最初で、強烈な印象を受けました。(むしろトラウマか)
偽善を告発する心のなかの他人オロカメンは、それからずっと私に住みついています。
正義とか美醜とか、テーマがダイレクトに突き刺さります。子どもに読ませるとひねくれる確率はかなり高いのでは?(いや捻くれ者の素質が無いと心に響かないか… じゃあ捻くれ者発見機として使えますね)

No.310 7点 バティニョールの爺さん- エミール・ガボリオ 2020/06/30 00:40
フチガミ先生の素晴らしいソーンダイク短編全集が出るらしい、と遅まきながら藤原編集室のページで知って、アマゾンで予約しようかな?と思って検索したら、謎の「牟野素人」さんの存在を知りました。ガボリオやソーンダイク博士の翻訳をkindleで廉価に販売されていて、進行中の翻訳はWEB「エミール・ガボリオ ライブラリ」に連載されておられます。現在はソーンダイクものの未訳長篇「もの言わぬ証人」後半を訳出中。
これは貴重!でも翻訳の質(私が言う資格は… まー気にしないで)はどうか?そんな訳で試しに短篇『バティニョールの爺さん』を買ってみました。参照したテキストは仏語Le Petit Vieux des Batignolles (1884 E. Dentu, Paris, 10e édition)と英語The Little Old Man of Batignolles (1886 Vizetelly, London)、恐ろしいことにこの二冊は無料でWebに転がっています… 正直、非常にありがたい事なんですが、これで良いのか?ちょっと文化の行く末が心配です。(なお『クイーンの定員1』文庫版収録の松村喜雄訳は残念ながら未入手で参照出来てません…)
結論から言うとちょっと辞書に引きずられすぎで生硬い感じはあるものの、実直な翻訳。変に慣れ崩した感じが無いのが良いですね。大学のフランス語の授業を思い出しました…(遠い目)
ガボリオの長篇を精力的に翻訳されており、この価格で長篇も読めるのは非常にお得だと思います。是非この調子で現在手に入りにくい作品を翻訳していただきたいものです。
さて、この『バティニョールの爺さん』、仏wikiには何の説明も無く1870年発表、と書かれています。色々探すとWeb上のガボリオ著作リストで一番詳しいのがロシア製のhttp://rraymond.narod.ru/rf-gaboriau-bib-fru.htm。≪Mémoires d’un agent de la Sureté : Le petit vieux des Batignolles≫ publié sous le pseudonyme de J.-B.-Casimir Godeuil. - Le Petit Journal : 7 juillet – 19 juillet 1870、とありました。つまり初出は登場人物の「ゴドゥイユ」名義だった訳ですね。(13回連載?だが単行本は12章) 実は短篇集にはプチ・ジュルナル紙編集部の前書きとゴドゥイユの前説があって、編集部前書きには「謎の原稿が我が編集部持ち込まれたが名義の「ゴドゥイユ」は正体不明で所在不明… 内容が良いので掲載する」という如何にもな設定。ゴドゥイユの前説は「先日、犯罪者が判決を受けた時に、警察の実力を先に知ってたら正直に暮らしていた、と嘆くのを聞いて、我が回想録が犯罪防止に役立てば… 犯罪は上手に隠しても必ず露見する!」というもの。これ、英訳には短篇『バティニョールの爺さん』の中に収録されていますが、仏オリジナル短篇集では小説の外についてて、短篇集全体の前書きの扱い。(しかし短篇集の他の作品にはゴドゥイユは登場しない) なので英訳本の取扱いが良いですね。
ロシア製著作リストでは当初連作の予定で、作者自身が続く作品としてUn Tripot clandesitn. – Disparu. – Le Portefeuille rouge. – La Mie de pain. – Les Diamants d'une femme honnête — La Cachetteというタイトルを挙げているという。(結局、発表されなかったようだ)
訳者さんは「実際に書かれたのはかなり初期ではないかと推測… 全体として、素描という感じがする」とおっしゃっていますが、素人の手記という設定なので手慣れてない感じをワザと出したのかも。
まあこーゆー細けえところは別として、面白い、興味深い作品です。
何たって(いつもと異なり粗筋を紹介しますが)
医学校を卒業したばかりの医者、23歳の私、アパートの隣人が奇妙。時間が不定期、勲章をぶら下げたりゅうとした格好だったりボロボロの服だったりして怪しい。ある夜中、血だらけで私の部屋に飛び込んできて治療を求めてきた。それで付き合いが深くなったが秘密を明かしてくれない。管理人も知ってるみたいだが教えてくれない。だがある日、私は冒険の同伴を許された。現場には指で書いた血のメッセージ!殺人事件だ!彼は探偵(刑事)だったのだ!
ドイルは無意識にパクっちゃったのかなあ…
この作品、とてもワクワク感があります。この後の展開も結構楽しい。(微笑ましい)
ガボリオやるじゃん!という感じです。今『ルルージュ事件』を読んでますが、大デュマの殺人事件版と言った感じで非常に流れが良い。
ところで『緋色』の先行作品として、この作品が挙げられていないような感じがするんですが(Stephen Knight著Towards Sherlock Holmes(2017)に本作への言及あり)私が知らないだけでしょうか?ドイルと言えばみっちょんさんのサイトを参照してる私なんですが、ホームズとタバレ爺(といっても五十代)の共通点が挙げられているだけのようです。
以下トリビア。フランス語は英語よりさらに読めないし、量も読んでないのでかなり怪しい事をあらかじめお断りしておきます。(翻訳の感じを知っていただくために長めに引用しています)
p2/1325 二十三歳のときであった---ムシュー・ル・プランス通りとラシーヌ通りが交差する辺りに住んでいた(j’avais vingt-trois ans – je demeurais rue Monsieur-le-Prince, presque au coin de la rue Racine)♣️いずれも実在の通り。パリ六区Odéon地区。パリ第五大学(医学部?)があるようだ。学生街なのかも。rue Monsieur-le-Princeは1851年4月命名、rue Racineは1835年以降か。(いずれも仏wiki情報)とするとこの話は1850年代なのか。
p2 二十三歳のときであった---ムシュー・ル・プランス通りとラシーヌ通りが交差する辺りに住んでいた(j’avais vingt-trois ans – je demeurais rue Monsieur-le-Prince, presque au coin de la rue Racine)♣️いずれも実在の通り。パリ六区Odéon地区。パリ第五大学(医学部?)があるようだ。学生街なのかも。rue Monsieur-le-Princeは1851年4月命名、rue Racineは1835年以降か。(いずれも仏wiki情報)とするとこの話は1850年代なのか。
p2 家具付きの部屋が賄い付きで月三十フランだった。今なら優に百フランはすることだろう(trente francs par mois, service compris, une chambre meublée qui en vaudrait bien cent aujourd’hui)♣️金基準1850/1903(1.01倍)、仏消費者物価指数基準1903/2020(2666.79倍)で合計2693.5倍。当時の1フラン=€4.11=1709円。月30フランは51270円。これが作品発表時1870には2673.2倍なのでインフレ率は1%程度。19世紀のインフレ率はあまり高くないようだが、家賃だけ急上昇したものか。パリ地区の人口は1836年100万人、1851年128万人、1872年185万人で急拡大している。(2022-2-25追記: ふと計算をやり直して見たら、ユーロ円換算時に大間違いをしている。1フラン=€4.11なら当時493円。なんで間違ったんだろう… なので30フラン=14790円)
p66 殆ど毎日アブサンを飲む時間になると、彼はルロワのカフェに来て私とドミノゲームをしたものだ(presque tous les jours, au moment de l’absinthe, il venait me rejoindre au café Leroy, et nous faisions une partie de dominos)♣️「アブサンの時間」って何?と思ったら「仕事を終え疲れきった労働者達が安価な逃げ道(アブサン)を求めてカフェなどに集う時間(午後5時からの数時間)は「緑の時刻 (Heure Verte)」と呼び習わす」(アブサンの凄いWEBページから。情熱に圧倒されます…)ということらしい。
p66 七月のある夜、金曜日の五時きっかりのことであったが、彼がダブル・シックスで私をこてんぱんに負かしていた最中(un certain soir du mois de juillet, un vendredi, sur les cinq heures, il était en train de me battre à plein double-six)♣️このsurはaboutのはず。ドミノの札は仏語でも英語表現なんだね。(特殊技の通称なのかも)
p92 オデオン広場で… バティニョールまで… 急いでやってくれ!御者は、その遠さに悪態を並べた(aux Batignolles... et, bon train! La longueur de la course arracha au cocher un chapelet de jurons)♣️距離にして5kmほど。最初、近すぎるので文句を言った風に受け取った私は近場タクシーのイメージ強すぎか。
p100 嗅ぎタバコの癖♣️キャラ付けの工夫だが、あまり効果を上げていない。
p151 血で書かれているMONIS…という文字♣️ダイイング・メッセージの嚆矢…なのかな?専門家の公式見解をよく知りません。
p186 パトリ紙の夕刊(un journal du soir, la Patrie)♣️1841創刊の日刊新聞。基調は第二帝政支持のようだ。
p196 特別な能力♣️今『ルルージュ事件』を読んでますが同じ能力のキャラがいた。
p223 カタロニア地方で使われる恐ろしいナイフであろう。掌ほど幅が広く、諸刃でしかも針のように尖った先端を持つ、あのナイフである……(un de ces redoutables couteaux catalans, larges comme la main, qui coupent des deux côtés et qui sont aussi pointus qu’une aiguille…)♣️カタラン・ナイフというのが定訳?特殊な形のフォールディング式でデザインが素敵だが、傷口からわかるかなあ… 当時流行してたのか。
p399 ピゴローさんとおっしゃいます。ですが、専らアンテノールと呼ばれておいででした。なんでも昔やっておられた商売の関係でそう呼ばれるようになったのだとか(Il s’appelait Pigoreau... mais il était surtout connu sous le nom d’Anténor, qu’il avait pris autrefois, comme étant plus en rapport avec son commerce)♣️Anténorはギリシャ神話でトロイの貴族らしい。理髪師関係ではないようだ。なんかフランス人って「あだ名」で呼ぶのに抵抗が薄い感じ。(←個人の感想です)
p407 理髪師(coiffeur)♣️「パリじゅうの別嬪さんたちの髪を…」と書いてるから「美容師」が適当か。英訳はhairdresser。
p407 百万フラン(pour un million)♣️具体的な金額というわけではなく「百万長者」みたいな用法か。17億円。(2022-2-25追記: 修正後の換算だと4億9300万円)
p486 スピッツ(ポメラニアン?)… 昔の運転手がよく飼っていたようなやつで、身体は真っ黒で耳の上に白い斑点がついていて、プルトンって名前(C’est un loulou, comme les conducteurs en avaient autrefois, tout noir, avec une tache blanche au-dessus de l’oreille ; on l’appelle Pluton)♣️翻訳文中に?をつける律儀な訳者。ただこの書き方だと訳注っぽくない。conducteurは時代的に(自動車の)運転手では無い。ポメラニアンは昔馬車の番犬としてダルメシアンと双璧、というのを知って(loulou de Poméranie—the good old loulou of the stagecoachと表現した本あり。the horse’s friendとあるので馬の護衛のようだ)「馭者」で間違いない。残念ながら英訳はHe’s a watch dog... quite black, with just one white spot... で済ませて犬種の言及なし。Plutonは冥王ハデスのこと。真っ黒からの連想だろう。
p603 使った拳銃(le revolver qui vous a servi)♣️時代的にパーカッション式かピンファイア式の廻転式拳銃と思われるが、デリンジャーのような廻転式じゃない拳銃も仏語ではrevolver。なので「拳銃」で正解。1850年代なら米国製コルト、ベルギー製ルフォーショーあたりか。
p862 青いダマス織のカーテン(rideaux de damas bleu)♣️ダマスカス地方発祥の「ダマスク織」が一般的。
p862 金髪の若い女… というより、正真正銘の金髪の若い女(une jeune femme blonde..., ou plutôt... une jeune femme très blonde) ♣️trèsは強調表現だが「実に綺麗な」という感じ?英訳はa young woman, with fair hair and blue eyes。北欧系ブロンド、という含意か。
p1133 なかなか化けるのが上手いものだ!(Jolie toilette d’instruction!) ♣️ toiletteはドレスの意味。instructionの意味が私にはよくわからない。「化ける」だと非難の意味が強すぎるような気がする。英訳はShe’s a clever wench.... she means to excite the magistrate’s compassion and sympathy(賢いヤツだ… 判事の同情を引こうとしている。instructionを「判事対策」と解して、やや説明調に訳している。なるほど... 一理ありますね)
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(2020-07-04追記)
そういえばBNF(Biblioteque Nationale de France フランス国立図書館)のWEBでは古い新聞を無料公開してたなあ、と思い出し、検索すると連載当該号がちゃんとありました。かなり明瞭な印面で、しかも無料でPDFダウンロードができちゃう…なんて素晴らしい!
そこで発見したのですが、連載1回目(1870年7月7日)は編集長Thomas Grimmの「明日から始まるよ!」と言う原稿入手の経緯を綴った予告だけの掲載。物語自体は7/8から章の数どおり12回連載です。Mémoires d’un agent de la Sureté(警視庁の密偵の回想)と言うシリーズ企画が明確な紙面づくり(『バティニョール』の連載ではMémoires d’un agent de la Sureté(1)と表記されている。続話のタイトルを紹介してるのは編集長でした…)なのですが、連載最後の7月19日の編集部後書きには「戦争が始まり今日で第一話の完結なので、いったんシリーズ連載は中止。事情が許せばすぐに再開します」普仏戦争が始まって、それどころじゃなくなったんですね。
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(2020-7-18追記)
『クイーンの定員1』文庫版収録の松村喜雄訳をやっと読めました!図書館で読んだので、以下は記憶に頼ったものです。
まず原書Dentu版は機構本で松村さんは苦労して手に入れた、と前書きにあった… 現在では初出本も初出の新聞さえ誰でも入手出来ると知ったら松村さん、喜んでくれるかな?
編集部の前説(私は誤読してたようだ。最後の方でプチ・ジュルナル紙に作者ゴドゥイユ氏が名乗り出て、無事連載開始となったことになってる)、作者の前書き、いずれもちゃんと翻訳してて良い。
p66 二倍のシックス♣️私は上でdouble-sixをフランスでも英語で書く、としたが、この綴り、フランス語(ドゥーブル・スィス)も同じじゃん!恥ずかしい… double-sixはドミノ牌セットのことなので「ドミノでコテンパンに」が正訳か。
p186 夕刊紙のパトリ♣️こちらが正解。BNFでも見てみた。1850年だと1部2スー(=85円)。「欧米の新聞は朝刊紙、夕刊紙いずれかの単独発行であり、アメリカではむしろ夕刊紙のほうが圧倒的に多い。」(ニッポニカより) 日本の朝夕刊セットは珍しいんですね…
p486 むく犬… 羊飼いが飼ってたような…♣️確かに羊飼いは羊をconduire(率いる)人だがconducteurと呼ばれるのかなあ。確かにloulouは語源「狼っ子」で特定の犬種を指すものではないようだが…
p862 ここはさらっと「金髪の若い女」と流してた。(冗長な繰り返し無し)
p1133 作法通りの服装♣️ああinstructionを作法ととったのね。こっちの方が正解かも。

No.309 6点 ぬれ手で粟- A・A・フェア 2020/06/28 03:54
クール&ラム第25話。1964年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
保険会社からニセ被害者を暴く依頼、アリゾナの牧場でレジャーを楽しむラム君、ちゃんと馬に乗れる男です。持ち前の勤勉さで真相を突き止めます。筋はあまり複雑ではありませんが大胆な犯行にちょっとビックリ。
なお、編集部Nによるあとがきで、メイスン物への献辞日本人第一号 小片重男教授のいきさつが詳しく書かれています。
(2017年7月16日記載)

No.308 5点 不安な遺産相続人- E・S・ガードナー 2020/06/28 03:43
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第74話。1964年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
冒頭からの文章の感じが変です。いつもと違う。病院と屋敷と空港。メイスン登場は第3章の後半から。予審が開かれ判事の秤が新聞ダネに。モールテッド・ミルク(malted milk)を飲む元秘書。ミセスではなくミスと名乗れば秘書になりやすい。メイスンの工作はちょっとやりすぎ。予審再び、バーガーは不出馬、最初のDAが再登板。全体的に筋が弱い感じです。自動車は2-4年前の型のオールズモビルが登場。
(2017年5月20日記載)

No.307 5点 つかみそこねた幸運- E・S・ガードナー 2020/06/28 03:36
ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第73話。1964年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
晩餐会で注目を浴びる美しいデラ。評判が良いドレイクの仕出し屋稼業。ドレイクのコーヒーの好みは砂糖とクリームたっぷり。久しぶりのホルコム(1959年1月刊「恐ろしい玩具」以来)でも活躍は無し。バーガーはメイスンの非行を見つけ締め上げます。法廷シーンは予審、冒頭からバーガーはメイスンを厳しく告発。レッドフィールドの証言をきっかけに、メイスンはバーガーとトラッグを引き連れ仲良く現場を再捜索。最後はメイスンがバーガーに逆捩じを食らわせて幕。全体的に薄い味付けです。
銃は38口径レヴォルヴァ、スミス・アンド・ウエッソン製が登場、詳細不明。
巻末には、1964年11月に虎の門の晩翠軒で開かれた日本探偵作家協会主催のガードナーを囲む会の記録あり(署名「N」による)
(2017年5月20日記載)

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.10点   採点数: 446件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(95)
A・A・フェア(29)
ジョン・ディクスン・カー(27)
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