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[ 本格 ]
キャッスルフォード
クリントン・ドリフィールド卿シリーズ
J・J・コニントン 出版月: 2019年09月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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論創社
2019年09月

No.3 6点 弾十六 2022/07/03 12:12
1932年出発。論創社の電子本で読了。翻訳はちょっと気になるところがありましたが全く許容範囲内です。大きな誤りだけはトリビアで記載しました。
人並由真さまからお声をかけていただいていることに遅まきながら気づいて、本書に興味を持ち、読んでみると結構面白い。銃器関係の翻訳は、ベテラン翻訳者でも問題があることが多くて難しく、本書では健闘しているのですがやはり良く判っていない部分も見受けられました。まあマニアじゃないから仕方ないと思います。
最初の数章など、上手な小説家なら本人が語る説明ではなく、関係者の会話の情景でじわじわ状況を読者に知らしめるはず。そういう資質が欠けている理系っぽい作家なのだと思いました。
ミステリとしては当時の科学捜査のレベルが興味深い。お話の進め方はややぎこちないが上手く構成されています。ちょっと意外な展開もあり、手紙で整理する手法が気に入りました。
さて、ここからはガンマニアの時間です。
本書に登場するのは、まず「鳥撃ち用のライフル(a rook-rifle)p13」小口径の単発ライフルで、軽量で短め(1mほど)のものが多いようです。アガサ・クリスティの短篇「マースドン荘の悲劇」(1923)に登場していました。
続いて「A32 (A .32)」口径の自動拳銃二挺(p52)、この「A」は不定冠詞です。『貴婦人として死す』(ハヤカワ文庫)にも同じ過ちがありましたね。本書では他にも大きなポカがあって、この拳銃はコルトだと原文には明記されてるのですが、翻訳では抜けちゃっています。「三十二口径の二挺の拳銃は左巻き螺旋(The two .32 Colt automatics…have left-hand twists) p361」この拳銃はColt Model 1903 Pocket Hammerlessだと思われます。コルトの創始者サミュエル・コルトは左利きだったのか、S&Wなどとは異なり、コルト社の銃は全部左旋回のライフリングです。ところで本書で「その銃は銃弾に左巻き(又は右巻き)螺旋の施条痕を残す」となっている部分は、原文では全て「銃のライフリングが左巻き(又は右巻き)」という表現です。施条痕に統一した方が分かりやすいと思ったのかな?翻訳としては不正確だと思いました。本書に登場する捜査官は、弾頭に残る施条痕より薬莢に残った痕を重要視しています。いろいろ調べると、米国でも施条痕分析が注目されたのは1929年聖バレンタインの虐殺で施条痕分析が大成功をおさめた後、シカゴで研究者が育成され、1932年にFBIが分析ラボを設立してかららしく(それでも各地の警察で分析部門が設置されるには時間がかかっている)、当時の英国ではまだまだ当てにならない科学捜査の一つだったのでは?という感じです。(英国での本格的な研究書は1934年出版。本書でも「同じ銃から撃たれた弾でも、まったく違う施条痕が残ることがある(Sometimes bullets from the same rifling are marked quite differently from others) p272」との発言あり) 分析官の経験も必要ですし、一目でわかるものではないので陪審員への説得力もイマイチだったのかもしれません。薬莢に残された痕のほうが個体差が出やすくて素人目にも分かりやすいですから。なおp398「一、二発撃って、施条痕を比べてみる(we can fire a shot or two from it and make comparisons)」は誤訳。ここは文脈から「薬莢に残る痕を」比べてみようか、ということ。
もう一つ、コルトの.22口径の自動拳銃が登場します。グリップ・セイフティありの型式なので1931年製造開始のColt Aceのようですね。
ところで22口径という銃弾にはいろいろ種類がありますが、最もポピュラーで本書でも登場しているはずなのは.22 Long Rifleという銃弾。この弾丸を撃てるライフルや拳銃が豊富にあるので、安価であり射撃入門用として広く普及しています。
銃器関係の表現上の問題は以下の通り。
p53 弾を込めるには、どうやって弾倉をあけるの?(How do you open it up to load it?)◆open upは「使い始める」というような意味。試訳「弾を込めて使うにはどうすればいいの?」
p53 銃尾部分を器用に操作するローレンスの手元を見つめた(watched him manoeuvre the breech-mechanism)◆私なら、まずマガジンを抜いてからスライドを引きストップレバーを上げ、排莢口を見せますね。原文のbreechは大砲なら「砲尾」で良いのですが、自動拳銃なら薬室の後ろの部分。意味としては「銃弾を入れるところ」、スライドを引く=銃弾一発を弾倉から薬室に移動させる、という動作です。これがbreech-mechanismの意味。試訳「給弾機構を操作する彼の手元を見つめた」
p53 砲身のカバーを一、二度音を立てて戻し(snapped the jacket back once or twice)◆jacketは機関銃などの銃身の「(放熱用、やけど防止用)カバー」という意味が辞書には載っていますが、ここでは「スライド」のことでしょう(jacketという語は普通使いませんが…)。スライドをカチャカチャ言わせている場面が目に浮かびます。試訳「スライドジャケットを一、二回後ろに引き」
p200 銃が発射されたときにエジェクターからはじき出された薬莢… 銃が撃たれた場所の右側に飛び出したはず(the cartridge case which must have been jerked out after the shot by the pistol’s ejector. It’s flung out to the right of the firing-position)◆「エジェクターで」が正しい。ejectorは薬莢を拳銃から弾き出すための部品。訳者はejection port(排莢口)と間違えた?
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人並由真さまからご紹介いただいたネタは、本書の記述の通りだと思うのですが、作者が25口径を全く考慮に入れていないのがちょっと気になりました。そういえばヴァンダイン 『僧正殺人事件』でも「小さな銃」と言えば32口径でした… .22や.25はオモチャ同然なので、殺すには心もとない武器なのかも。なおリボルバーでは無理、というのは、リボルバーの場合、構造上薬室と銃身の間が必ず空いているので、そこから必然的に多くのガス抜けがあって小口径の場合は自動拳銃よりかなり低速になっちゃうから、という事だと思います。
以下トリビア。
作中現在はp29から1931年。英国消費者物価指数基準1931/2022(72.58倍)で£1=11881円。
p7/422 第一陣営(The First Camp)◆このcampは「仲間、同盟」というような意味。意訳して「内輪の相談その1」くらいの感じか。
p7 話し相手(コンパニオン)
p9 ブリッジ(bridge)◆当時の流行
p10 サッカリン(saccharin)
p11 身支度合図のベル(the dressing-gong)◆食事の時間にドラが鳴る場面が、探偵小説黄金時代の英国にはよく出てくる。
p12 新聞の挿絵(from the pictures in the illustrated papers)◆当時なら既に「写真」だろう。
p16 ゴルフ◆当時の流行
p26 二十二歳… 年に百ポンド
p27 年に数百ポンドの年金(that couple of hundred a year behind us)◆試訳: 我々二人で二百ポンドほどの年金
p28 コンパスカード(compass-card)
p28 それには結構な費用がかかる──一回につき四百ポンドから五百ポンドだと人から聞いたことがあるな──当然のことながら、軍はそんな費用などかけたくない(That paint was worth a small fortune, you know—between £400 and £500 per ounce, someone told me once—so naturally they didn’t want to waste it)◆ここは明白な誤訳。訳文を読むと前後で意味が通らないからすぐわかるはず。試訳: その塗料は非常に高価で---1オンス(28g)あたり四、五百ポンドと聞いた---だから当然無駄遣いは避けたい
p29 一九一九年、あのスペイン風邪(in 1919, came that Spanish influenza epidemic)◆この時ヒラリー8歳、今は20歳なので作中現在は1931年
p30 あの莫大な税金(taxation enormous)
p35 ツーリングカー(a touring car)
p42 持参人払い債券(bearer bonds)◆「無記名債」というのが定訳のようだが…
p44 デイリー・スケッチ(Daily Sketch)
p45 スカートの丈が長くなってきている(Skirts are to be longer)◆長いスカートならば階級差を示すことが出来る、という考え方が新鮮だった。当時のスカート丈の流行はVintage Fashion - The History of Hemlines (glamourdaze.com)にわかりやすいグラフがある。
p48 キルヒナー… 『ラ・ヴィ・パリジェンヌ』(Kirchner… La Vie Parisienne)
p49 バウンティフル夫人(Lady Bountiful)
p51『恋人よ、今すぐ甘い口づけを』シェイクスピア(‘Come and kiss me, sweet and twenty.’ Shakespeare)◆コニントンさんは理系の人なのだろう。文系なら引用後に「シェイクスピア」なんて絶対に言わない。
p57 相続税は十四パーセント(The death duty was fourteen per cent)◆当時の税率なのだろう
p62 ヴィクトリア女王(“Sometimes I feel like Queen Victoria... ‘We are not amused.’)
p66 ベンガル花火(Bengal lights)
p68 「色とりどりの光や星明りは、また別の機会にしない?」フランキーは頑として譲らなかった(“We’ll let him see coloured fires and starlights while we’ve got a good chance, shall we?” Frankie suffered himself to be persuaded)◆ここも前後のつながりが悪いので、なんか違うとわかる。試訳: 「ちょうど良い機会だから、お父さんに花火や星明かりを見せるといいわね?」フランキーは説得に応じた。
p70 良家のお作法(a genteel fashion)
p79 あの不文律で(with the unwritten law in force . . .)
p82 無遺言死亡者の遺産(Intestacy. Inheritance)
p82 ドロシー・セイヤーズの『不自然な死』(Dorothy Sayers’s Unnatural Death)
p83 犯罪性のある投球やバッティングに疑惑が持たれるクリケットの試合のようだ。球場に出張った捜査班が、どんな不注意な発言にも飛びつこうと待ち構えている。第一声が死者発見の声明に変わる(It was like a cricket-match, with questions for the bowling, the criminal batting, and the police organisation in place of the field, alert to pounce on any careless answer. The first ball would be the announcement of the discovery of the death)◆ここら辺、登場人物の夢想だろうと思うが、1930年のテスト・マッチでオーストラリアのDonald Bradmanが(英国にとっては)犯罪的な打撃記録を打ち立て大活躍をしたことと関係ある?(なんか違う気がするが)
p85 ジャム瓶用の紙シール(the paper jam-pot cover)… ジャム瓶用シールの糊部分を丹念に舐め、星型に割れた窓ガラスに貼り(She licked the gum of the jam-pot cover thoroughly, and then pasted the disc neatly over the starred glass)◆gum=切手の裏糊。自家製瓶詰めの内容を書いておくために使う、舐めて貼るタイプの白紙のラベルがあって、それを割れたガラスの修繕用に使ったのだろう。
p87 「お疲れ様です、お嬢様」人づき合いが薄く細々とした礼儀にうるさいハッドン夫人は、そう声をかけた(“Good afternoon, miss,” began Mrs. Haddon, who was a stickler for the minor ceremonies of social intercourse)
p94 スピリット・ケトル(spirit kettle)
p97 こうるさい男(fussy)
p97 お巡りさん(The policeman)
p97 聖ギルバートの格言(Gilbert’s dictum)◆訳注では修道士のこと、とあるが、ここはW. S. Gilbertの有名曲A policeman's lot is not a happy one(警察官の生活は楽しくなんかない)のことでは?
p98 <警察法>の手引きと安っぽい犯罪小説(a manual of Police Law and the cheaper type of crime stories)
p98 ずんぐりとした拳銃(a stubby automatic)
p100 郵便局の電話ボックス(the post-office telephone box)
p102 おれはホークショー刑事だ(I am Hawkshaw, the Detective)◆「訳注 トム・テイラー著『仮出獄の男』(1863)の一節」この戯曲では変装を取って“Hawkshaw, the Detective”と主人公に正体を見せ安心させる場面ならある。むしろGus Mager作のシャーロック・パロディの米国新聞漫画“Hawkshaw the Detective”(1913-2-23〜1922-11-1)ならば”I am Hawkshaw, the Detective“が決めセリフなので、そのイメージなのでは? なお、このセリフはベントリー『トレント最後の事件』(1913)、フィル・マク『鑢』(1924)、セイヤーズ 『不自然な死』(1927)に登場する。
p106 伝達だな。つまり──兵士たちが言うところの(That’s hearsay, that is— like what the soldier said)
p107 ゴルフスカート(a golfing-skirt)
p107 わたしにはキッチンにかかっている時計しかないんです。それだって一週間も前から止まったまま(The kitchen clock’s the only one I’ve got, and it stopped last week)◆時計なんて無用の生活なのだろう。教会の鐘が15分おきに鳴るのだから…
p108 その子は小火器免許やガン・ライセンスなんかを取得している(has he a firearm certificate and a gun licence?)
p114 ちょうど十四歳になっていました(He’s just over fourteen)◆14歳が許可年齢だったのだろう。多分現在ではもっと厳しいはず。
p119 五時十八分
p120 シリンダー錠の鍵(a Yale key)◆「イェール錠」のほうがいいなあ。
p121 純正の鉛製(All lead)◆弾頭は金属で覆われたものもあるので、全部鉛だよ、ということ。
p121 射的場にあるような銃から発射されたものかもしれない(Might have come from one of these bulleted breech caps they sell for saloon guns)◆ Bulleted Breech Capとは”.22 BB“弾のこと(英Wiki参照)。威力は非常に小さく、屋内射的場の銃(saloon guns)に最適。
p122 指紋がうまく取れる(does take fingerprints nicely)◆当時の鑑識技術ではものによって指紋採取にも限界があったのだろう。
p122 ロシアンティー(Russian tea)◆ミルクの代わりにレモンのスライスを入れるのを当時の英国ではロシアン・ティーと呼んでいたのか!
p122 ヴァージニア煙草のクレイヴンA、コルクチップつき(Craven A, Virginia, cork-tipped)◆ Carreras Ltd, Arcadia Works, London, England, 1920-1950. コルク・チップが入っているので、喉がいがらっぽくならない、と宣伝していた。
p128 〇×ゲーム(games of Noughts and Crosses)
p137 シャーロック・ホームズ
p139 検死解剖(P.M.)
p139 仮置場(mortuary)
p144 くだらない少年新聞(a twopenny boy’s paper)◆ジョージ・オーウェルの記事Boys’ Weeklies(1939)参照。新聞というより週刊紙のようだ。
p157 トムやらディックやらハリーやらに(Tom, Dick, and Harry)◆誰でも彼でも、という決まり文句。名前の順番は固定しているようだ。
p160 数年前に施行された相続に関する法律(under the Administration of Estates Act which was passed a few years ago)◆1925年の改正法。セイヤーズ『不自然な死』(1927)にも登場していた。
p164 週刊の評論紙(the weekly reviews)
p167 ホークショー警部(Hawkshaw the Detective)
p170 六ペンス硬貨(sixpence) ◆少年への駄賃。ジョージ五世の肖像、1920-1936鋳造のものは .500 Silver, 2.88g, 直径19mm。297円。
p178 自由恋愛、秘密のハネムーン、お試しセックス、友だち結婚(Free love, unofficial honeymoons, trial unions, companionate marriages)◆当時の若者の風潮。
p179 ゴルフやテニスやバドミントン(with golf, tennis, badminton)
p179 ラジオ(a wireless set)
p183 検視陪審(a coroner’s jury)
p189 厄介な事件は持ち上がるのだ。国中の新聞で騒がれ、警察によるまっとうな調査に支障が出てしまうほどの厄介事が(there had been an awkward case not long before which had filled the newspapers of the country and focused attention on the limits to which police questioning could reasonably be carried)◆「少し前に国中の新聞で、警察の質問が適切な範囲で行われたかについて非常に注目を浴びた件があった」という事だろう。何か具体的な事例があったような書き方で気になるが調べつかず。
p191 いかした娘(こ)(A pretty girl)
p194 生活のためなら何でもする男(That fellow would do almost anything for a living)
p197 専門的な検査結果が出るまで、審問を先送りにしていた(had then adjourned his inquiry until a later date when the results of fuller expert investigations might be available)◆この章の検死官の態度(警察の捜査の邪魔をしないよう努めている)が非常に興味深い。
p200 一九二六年に施行された修正検視官法第二十二章における自分の権利を行使(exercise my powers under the Coroners (Amendment) Act of 1926, Section 22)
p205 キャッスルフォード殺人事件(the Castleford murder)
p210 ホイペット(whippets)
p210 新聞に出ているグレーハウンド競争の掛け率とその結果だけです。関心があるのは、ホイペットと馬(the starting prices and the results in the newspaper, nothing else. Whippets and horses)◆グレーハウンド、どこから来た?馬とあるから「競馬」のことだろう。
p214 サンダーブリッジ教会の十五分刻みの鐘の音(the church clock in Thunderbridge chime the quarter)
p231 プラス・フォアーズ(plus-fours)
p287 十シリング紙幣(ten-shilling note)◆英国銀行紙幣の10 Shilling Series A (1st issue)。赤茶、サイズは138x78mm。
p297 傷つければ憎まれる(First injure, and then hate)
p303 ゴルフ… 女の子の遊び(It’s a girls’ game)◆少年の感想
p313 シェイクスピア(Shakespeare’s Henry V. He calls the air a chartered libertine somewhere in the first Act)
p315 電話室(The telephone box)
p324 シェイクスピア『ハムレット』、第三幕第四場(“‘I must be cruel, only to be kind,”’ he quoted. “‘Thus bad begins, and worse remains behind.’ Shakespeare, The Tragedy of Hamlet, Act Three, Scene Four,”)
p326 輸血のためのドナー登録(I’m on the list of donors there, for blood transfusion)
p340 ドイツ歌謡…一人はキスを楽しむため / もう一人は愛するため / 三人目はいつの日か結婚するため(that German song about the fellow who knew three fair maidens?
“Die eine küss’ i’,/ Die and’re lieb’ i’,/ Dritte heirath’ i’ einmal.”)◆ドイツ語は全然ダメなので調査はパス。
p344 スティーブンソン型百葉箱(a Stevenson thermometer screen in the grounds outside)
p344 ジョルダン日照計、最高・最低気温測定器、風力計、晴雨計(Jordan sunshine recorder, maximum and minimum thermometers, anemometer, barograph)
p346 血液型のグループ◆この表はIVとIVの凝集反応が+になっていて誤りだろう。同種の血液なら絶対擬集しないはず。この表からグループIはO型、IVはAB型だと判断出来るが、この表記法はチェコのJanskyのもの。英国で当時主流だったのは米国人MossのI=AB、IV=Oという表記らしいのだが… (英Wikiによる。グループIIはA、IIIはBというのはどちらの表記でも共通) 英Wiki参照。
p347 グループⅠの割合は約42%。グループⅡの割合もほぼ同じくらいで約41%。グループⅢは約12%で、残りのわずか5%がグループⅣ◆英国の現在の統計ではWikiによるとO35%、A30%、B8%、AB2%、ここら辺の記述の感じでは、血液型というのは当時の英国ではまだまだ新しい知識だったようだ。
p350 現場に戻って捜査を開始します。その就任式を見逃す手はありませんよ(I’m starting a Back-to-the-Land movement, and you mustn’t miss the inaugural ceremony)◆Wiki “Back-to-the-land movement”参照。試訳:「大地に還れ」運動をやってみるつもりです(後略)。
p353 安っぽい恋愛小説… シェイク系(訳注 英国の小説家、E・M・ハルの映画化された作品で、女好きのする男が登場) (some cheap sex novels and a few of the Sheik brand of thing)
p355 クリッペン事件… メイブリック事件(Crippen case… Maybrick case)
p361 ニッケルメッキの二十二口径の弾(two nickel-covered .22 bullets)
p363 〝証拠不十分〟というスコットランド人の評決… 陪審員たちも被告人が罪を犯したことはわかってはいるのですが、法律的には完全に起訴することはできないという意味です(
the Scots verdict “Not Proven”? It generally means that the jury are morally sure that the accused committed the crime, but that legally the prosecution has not established its case up to the hilt)◆スコットランドではNot Guilty以外にNot Provenという評決も許されていた。
p398 自動拳銃というのは、吐き出した薬莢にそれぞれ固有の跡を残すものなんです。薬莢抜きの爪痕、撃針痕、銃尾の欠陥によるもっと小さな傷(Each automatic leaves its own peculiar marks on an ejected cartridge-case: the mark of the extractor-hook, the impression of the striker-pin, and some smaller marks due to imperfections in the breech)◆薬莢が銃尾にガス圧で強く押し付けられ、ピストル個体に特有の銃尾の傷などが転写される。銃尾の「個体差」と意訳したいところ。

No.2 6点 人並由真 2020/01/28 05:55
(ネタバレなし)
 少し長めだが、そんなに多くはない主要な登場人物たちが丁寧に書き込まれた英国黄金期パズラーの佳作。
 探偵役は(たぶん本作のみの)地方警察のウェスターハム警部が先に初動、後半になってレギュラーキャラのクリントン・ドリフィールド卿に交代。ただしその新旧の捜査陣がとある容疑者のある物的証拠? をしっかり追求しないのにはちょっと違和感を覚えた。不満はそこだけ。
 犯罪の構造(というか仕掛け)は、やはり英国ミステリの某大家がよく使いそうなもので、その辺が先読みできるかどうかが、多分読み手のミステリファンの犯人当ての決め手になるであろう。
 作中で問われる銃の口径の差異などについては、そんなものなのかな? という箇所もあるが、この辺は弾十六さんみたいな詳しい方の見識をいつか伺ってみたい。
 最後に解説を読んで、コニントンがシモンズから(クロフツやロードと並ぶ)「英国退屈派」に称されていると知ってちょっと驚き。少なくとも論創で新訳の3冊はどれもそれなり以上に面白かったので。サンドーの名作表に入っていることで有名な『当りくじ殺人事件』の新訳・完訳も出してください。論創さま。

No.1 6点 nukkam 2019/09/20 21:06
(ネタバレなしです) 1932年発表のドリフィールド卿シリーズ第10作の本格派推理小説です。裕福な女主人が遺言書を変更すると発表しますが変更前に殺されてしまうという、よくある設定の事件の謎解きです。古い方の遺言書の破棄は達成しているので遺言書なしで死亡したことになり、利害関係がややこしくなりそうですがそこを深く追求するストーリーにならないのがちょっともったいない気もします。人物描写が上手くない作家と評価されているようですが本書では結構頑張っており、第2章「政略結婚」で語られる家族ドラマは読者の心に訴えるインパクトがあると思います。地道で重箱の隅をつつくような捜査が続くし、ドリフィールド卿の出番は後半になってからですがドリフィールド卿に助けを求めながら嘘や隠し事する容疑者など謎を盛り上げる工夫をしています。しぶとく抵抗する犯人を追い詰める、微に入り細に入りのドリフィールド卿の推理説明も読ませどころです。


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