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クリスティ再読さん
平均点: 6.38点 書評数: 1664件

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No.24 6点 ブラック・マスクの世界2 ブラック・マスクの英雄たちⅡ- アンソロジー(国内編集者) 2026/10/03 12:35
「しらみ野郎の死」が良かったので、W.T.バラードに興味を持った。
でも名のみ聞くブラック・マスク常連作家。唯一短編の翻訳がある本書で読んでみた。
この「ブラック・マスクの世界」は小鷹信光氏がムック形式といった感じで国書刊行会から出したシリーズ。だから書籍のクセにポール・ケイン「裏切りの街」が連載形式で載っているし、コラム形式で「ヒーロー登場回数」とか人気リスト、本書だとコレクターで有名なビル・プロンジーニとブラック・マスク関連の人々のインタヴューとか載っている。

小説は短編が4作とチャンドラーのブラックマスク登場作である「ゆすり屋は撃たない」、ショートショートで3編。で「ゆすり屋は撃たない」は小鷹氏の翻訳。創元で出てた稲葉明雄訳よりも読みやすく感じるな。稲葉訳では舞台転換とかもう一つ飲み込みにくいところがあったけど、練れているように感じる。ただ、終盤の決着は蛇足っぽい印象。ロンダ・ファーと再会して終りでもいいような気がする。

でこの本で強調されるのが、「ブラック・マスク」は私立探偵小説じゃない、ということ。ヒーローたちは多種多様な仕事師なんだよね。というわけで、それぞれそういう視点で紹介。

・ジョージ・ハーモン・コークス「ウェイドを救え」
報道カメラマンのフラッシュガン・ケイシーが活躍。ケイシーの相棒で見習いカメラマンのウェイドが、ヤバい場面を撮影してしまったことでギャングに拉致されたのを救い出すケイシー。ややコミカルな味わい。
・シオドア・ティンズリー「リンカーンの口ひげ」
ゴシップ誌コラムニストのジェリー・トレイシー。本人は腕っぷしは弱いが、ボディガードに腕力担当のブッチを従えている。このブッチがたまたま受け取った、リンカーンに口ひげが落書きされた5ドル札をめぐって追いかけっこ。暗号といえばまあそうか。
・フレデリック・ネベル「ボストンから来た女」
地方都市リッチモンドのマクブライド警部と新聞記者ケネディのコンビ。前2作は文体的には全然ハードボイルドではないけども、本作は客観描写主体の映画的な三人称ハードボイルド。愛する女のために夜のビジネスから足を洗おうとした男マラーキーの顛末。濡れ衣がかかったマラーキーを分かってて見逃すマクブライド警部とのやり取りにクールな哀感があっていいなあ。
・W.T.バラード「賭博師の厄日」
映画会社のトラブルシューター、ビル・レノックス。レギュラーでレノックスの雇い主である大物プロデューサー、ソル・スパークやら映画記者ナンシー・ホッブスやらに取り巻かれ、映画業界でのレノックスの仕事や立ち位置を丁寧に描写するあたりから、評者とか「早すぎたネオ・ハードボイルド」ではないか、なんて思っている。今回はスパークが手を出した競馬興行で、素人のスパークに代わってレノックスがトラブルを裁いていく。
・チャンドラー「ゆすり屋は撃たない」
やっと私立探偵マロリー。
・ポール・ケイン「裏切りの街」
一匹狼のギャング、ジェリー・ケルズ。賭博船ビジネスとロサンゼルスの市政全体にかかわる暗黒街との関係に、ケルズは介入することになる(ようだ)5回連続で、とりあえず初回分だけでも国立国会図書館デジタルコレクションで読んでから連載2回目を。きわめてストーリーは錯綜していて、登場人物は多すぎ。こんな連載にしないでよ!と思うくらい。

ショートショートはカナダの騎馬警官が、極北のツンドラ地帯に逃亡犯人を追跡するL.R.シャーマン「雪原の追跡」が、冒険小説とハードボイルドの合体で面白い。

そんな感じ。そういえば昭和末期の単行本で装丁も凝って、口絵にブラックマスク本誌の表紙などをガンガン収録した、豪華本的な扱いで2600円。手が出なかった記憶があるよ。できれば少しづつでもやっていきたいな。

ブラック・マスク=ハードボイルド、といっても、ハードボイルド文ではない犯罪スリラーも多い。三人称ハードボイルド作品が質的にいい、という傾向もなんとなく感じられる。しかし、一人称私立探偵小説がけして多数派ではないというのが興味深いあたりでもある。これを実証するのが小鷹氏の狙いでもあるわけだ。

No.23 7点 新・幻想と怪奇- アンソロジー(国内編集者) 2026/09/25 09:39
ハヤカワで「幻想と怪奇」って何度も使われたアンソロ・タイトルなんだが、ポケミス初期の2巻、ハヤカワ文庫の仁賀氏編の3巻とあり、この本はポケミスでだけどハヤカワ文庫の「新」という意味で仁賀氏の編・訳で編まれたアンソロ。

個人的にはレイ・ラッセル「射手座」がお目当て。S始まりのネオゴシック中編三部作の残りだったしね。これは「ジキル博士とハイド氏」・切り裂きジャック・青ひげジル・ド・レとネタ満載で、ハイド氏の息子をめぐって、老伯爵の思い出話を聞く設定。ベルエポックのグランギニョールまでおまけつき。大ネタを堂々とさばいていく包丁さばきがいい。ネオゴシック三部作でも一番出来がいいと思う。

まあこのアンソロはラッセル以外にもシェクリイ・ボーモント・マシスン・ブロックと「異色作家短篇集」の落穂ひろいみたいなニュアンス(「壜づめの女房」収録のゴア・ヴィダル「こまどり」も収録)というわけで、仁賀氏がお気に入り作品をわがままに集めた、というニュアンスが強いのかな。だから既訳のあるものも結構ある。どうもきっかけは仁賀氏が気に入ったほぼ未紹介の作家ローズマリー・ティンパリーを紹介したくて、こんな豪華協賛陣を用意したみたいだ。確かに浮気夫への復讐というありふれたネタをちょっと違う切り口で見せた「マーサの夕食」、幻想的ゴーストストーリーというべき「レイチェルとサイモン」と、なかなかの味わいを見せている。あっさりしたシャーリー・ジャクスンといった雰囲気か。

あといいのは、長距離ドライバーが無人の街をただ走り抜ける話のリチャード・ウィルスン「ひとけのない道路」が、コズミックな奇譚といった感覚で面白い。大人の鬼ごっこの中で出現する怪異を描いたA.M.バレイジ「暗闇のかくれんぼ」もヒヤッとした感覚が鋭い。今市子「百鬼夜行抄」中の名作「目隠し鬼」と同様の鬼ごっこに妖しいモノが忍び込む話。

そしてロバート・ブロック「スクリーンの陰に(The Movie People)」がハリウッドの古参エキストラをめぐる泣ける話。ブロックというとハリウッド神話を扱った名作が結構ある人で「べッツィーは生きている」とか「最後の演技」とかその路線。いや評者も以前1900年代のサイレント記録映画を見て「ここに写っている人たちはすべて、とうの昔に亡くなった人たちだ...」と感傷的な思いにふけったことがあるが、

座席の後方にあるものを映写機と呼ぶが、それは実はタイムマシンなのだ。

とこの一文が心にしみる。いいなあ。映画に写っている人は有名無名ひっくるめて時間を超えた「Movie People」という存在に変容しているのである。

No.22 6点 13の暗号- アンソロジー(国内編集者) 2026/09/14 14:45
さて70年代の名アンソロ・シリーズだった渡辺剣次13シリーズ第二弾が本アンソロ。今回は暗号小説。

確かに乱歩の「二銭銅貨」が暗号小説で、日本ミステリ史で暗号小説が大きな役割を果たしたといえばその通り。このアンソロには含まれないが小栗虫太郎のように暗号(暗合)に精力を傾けた作家もいるわけで、暗号という「謎」が戦前のミステリでとくに重要な役割を果たしたことは言うもまでもないんだが....いや暗号小説って難しいんだよね。

密室なら解けばミステリとして成立するが、暗号は「こう解きました」で読者が納得するとは限らない。そもそも暗号らしい暗号だったら提示されたとたん「無理!」とアレルギーを発症する読者の方が多いわけだ。というわけで「暗号小説」として成立させるためには、この暗号をめぐってドラマをうまく仕掛けるなどの工夫がないとストレートにミステリとしては成立しづらいという根本的な課題が存在する。

まあだから、このアンソロでも、解読プロセスに重きを置いた本格暗号小説は、乱歩「二銭銅貨」、岩田賛「風車」くらいのもので、暗号解読に絡めて仕掛けがある「広義の本格暗号小説」で火野葦平「詫び証文」と佐野洋「三億円犯人の挑戦」となるが、「詫び証文」は乱歩に対する詫び証文の枠組みをとった小洒落たメタ志向の遊戯文学で面白い。解読に重きを置かずに暗号をめぐる争いを描いたのが甲賀三郎の「アラディンのランプ」、海野十三「獏鸚」、木々の「虫文字」、幾瀬勝彬「紙魚の罠」といったあたりになろう。この中ではモダン小説としての楽しさがある「獏鸚」がいいかな。
そして、ダイイングメッセージを暗号とした捉えた場合に、それを主題とするのが大阪圭吉「闖入者」、仁木悦子「粘土の犬」、鮎川哲也「砂の時計」になってくる。それでもなかなかクイーン流の単純なダイイングメッセージではなく、仕掛けの中で活用する形になる方が一般的だろう。プロファイリング風な扱いに変形した仁木悦子「粘土の犬」がいいなあ。
とはいえ、暗号というよりも宝探しといった趣でロマン性の高い奇譚を構築した九鬼紫郎「暗号海を渡る」がこのアンソロでは評者は一番好き。オチが決まっている。

いやまあさらに暗号小説って難しくなっているとも思う。実社会で普通に暗号が使われるようになったのだけど、DES暗号だAESだBlowfishだ、公開鍵暗号だ量子鍵配送だと言ってもそれを小説に反映するハードルがさらに上がったようにも感じるんだよ。
(ちなみに幾瀬「紙魚の罠」で5次の魔法陣で暗号解読する場面があるけど、実は5次の魔法陣はユニークな数で2億7530万5224通り存在する。作中ではいわゆる「ヒンズーの連続方式」という特定の魔法陣の作り方に依拠した解読法でしかない。数学的に美しくないな)

No.21 6点 エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇- アンソロジー(国内編集者) 2026/09/07 13:09
さて「異色作家」の世界篇である。こりゃ大変だ。エジプト・チェコ・カナダ・ウルグアイ・フランス・ポーランド(イディッシュ)・イタリア・台湾・ベルギー・スコットランド・キューバ...と国際色豊か過ぎるから、翻訳は大変だろうなあ。すべて本邦初訳、初紹介作家も多数。まあそれでもチェコ語・スペイン語・イタリア語・中国語については専門家の翻訳を労しているが、英語からの重訳(エジプト・イディッシュ)があったり、国籍はそうでも英語やフランス語で書かれている小説もある(苦笑)執筆年代はバラバラで最古のキローガ「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」は1923年、「エソルド座の怪人」なら1983年とスパンが広い。やはり「異色作家」というのはアメリカ篇での戦後の高級誌掲載のジャンル色の薄い「中間小説」といった作風がベースに会って、その雰囲気をもった短編をアメリカ以外からセレクトしたアンソロということになるんだろう。

確かに中にはお国柄が窺われる作品、共産国家での陰鬱な体制を反映したシュクヴォレツキー「奇妙な考古学」もあれば、南米のワイルドな奇譚キローガ「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」も、あるいは東欧ユダヤ人っぽさ全開の聖俗がごっちゃに同居する神秘小説のシンガー「死んだバイオリン弾き」といったものを収録する一方、新しめの作品ならコラージュを方法論としたポストモダン小説というべきデイヴィス「トリニティ・カレッジに逃れた猫」やガブレラ=インファンテ「エソルド座の怪人」もある。結構ごっちゃである。

切れ味系とか意外なオチ系というものは少なく、不条理っぽい面白さを狙ったものが総じて目立つかな。広義のミステリになるマフフーズ「容疑者不明」もシュレヴォレツキー「奇妙な考古学」も、徒労に満ちた捜査の不条理ミステリ。だから長めの作品の方が印象がいい。敬虔なユダヤ人夫婦の娘にヤクザ男と売春婦の死霊が憑依するシンガー「死んだバイオリン弾き」は不条理な民話風の語り口が素晴らしい。

でやはり表題作の「エソルド座の怪人」は、「オペラ座の怪人」を、ルルーの原作からロン・チェイニーのサイレント映画からデ・パルマの「ファントム・オブ・パラダイス」に至るヴァリエーションを飛び移りつつ、ダジャレと下ネタでイメージを散乱させていくポストモダン小説。なかなかの力技で面白い。

いやこうなってくると、一種のインターナショナル・スタイルの問題のようにも思えてくるなあ。文学とポップの間をどう往還するのか、というのが「異色作家」の根幹にあるようにも思えてくる。そうしてみると、クノーの「トロイの馬」なんて先鋭な言語実験がナンセンスに突入する臨界点だったのかもしれないし、キローガのものだってラテンアメリカ文学のマジック・リアリズムのとば口に立っているのかもしれないよ。

No.20 7点 棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇- アンソロジー(国内編集者) 2026/07/28 11:12
「狼の一族」がアメリカ篇で、ややSF味のホラ話をひねった切れ味系だとすると、このイギリス篇でSFファンタジー風は確かにそうでも、やや心理主義的なブンガク味が出てくるあたり、国民性というものなのかな?で「棄ててきた女」に関しては、たとえばヒュー・ウォルポールとかジョン・メカトーフとかL.P.ハートレイとか19世紀生まれのやや古めの作品も収録しているあたりが特徴といえばそうなのかな。評者に言わせれば「奇妙な味」とは、戦前のアメリカのエンタメの主力がパルプに代表されるジャンル小説の形をとっていたのが、戦後のスリックマガジン(高級雑誌)にジャンル混合的なエンタメ短編のかたちに変化した現象みたいにとらえていたんだが、イギリスとなると出版状況が全然違うこともあって、こういうセレクションになるのだろうか。実際、雑誌初出を拾っているより、短編集からの収録が多い。

「トリフィド時代」で有名なウィンダムの「時間の縫い目」はまあ、うまくまとまったタイムトラベル物を、かつての貴族の没落に絡めて描いた技あり作。いいけどまとまりすぎると奇妙な味ではないかもしれない。SF。
カーシュ「水よりも濃し」は奔放でマスキュリンな伯父に虐められる情けない甥がアレルギーを使って復讐しようとする話だが、やはりネタの復讐よりもこの伯父甥関係の妙なリアリティに面白みがあるんじゃないのかな。犯罪小説?
メカトーフの「煙をあげる脚」はコテコテな怪談をひねってナンセンスな味わいに転化させたようなもの。バカみたいな良さがある。ホラー?
ジョン・キア・クロス「ペトロネラ・パンー幻想物語」は「赤ちゃんコンクールが人生を過ごす場所」になった女性の話。いやこれ個人的には皮肉と不気味なわけのわからなさで好きだ。ジャンル?
ウォルポール「白猫」はまあ、飼い猫と女主人の関係でまあクラシックな味わいというべきか。ホラー。
ハートリー「顔」は理想の顔だけに執着する究極のメンクイ男と、その顔の女の微妙な関係性の話。「なぜ」が欠落したあたりに面白さがあるのかな。?
エイクマン「なんと冷たい小さな君の手よ」は引きこもり気味の画家が電話でかかってくる女性の声に執着し続ける話。ホラー。
コッパード「虎」、サンソム「壁」、スパーク「棄ててきた女」と短めの作品が3作続き、これらはジャンル分化しないところに味わいがあるのかな。そういえば「壁」は「キートンの蒸気船」だねw
ウィリアム・トレバー「テーブル」は、骨董商が売り主の複雑な事情を手玉に取るような話だが、事実上イギリスでのユダヤ人差別を扱ったシリアスなテーマを、奇譚風に描きなおした手腕を見るべきか。ジャンル?
バージェス「詩神」はタイムトラベルならぬタイムトラベルで並行世界のシェイクスピアの真実をめぐる歴史SF。ハッチャけた味わいだあな。
でラストのリチャード・カウパー「パラダイス・ビーチ」は、完璧なイリュージョンを作り出す装置をめぐるSF風の話なんだけども、実はこれ読みようによって完全犯罪の話になるという凝ったもの。素晴らしい。

というわけで、アメリカ篇より落ち着いた雰囲気もあるかな。全体的に少しアメリカ篇より古めのセレクションかもしれない。

No.19 6点 ドラキュラ・ドラキュラ- アンソロジー(国内編集者) 2026/05/18 17:13
種村季弘「吸血鬼幻想」の資料編みたいな立場にある本。「吸血鬼幻想」の中で触れられているカルメ「吸血鬼たち」やヴォルテール「吸血鬼」のテキストも収録しているが、これはオリジナルの薔薇十字社単行本だけのようで、再販文庫では割愛されているのが惜しい。

なんだけども「吸血鬼幻想」のテーマに則り、ブラム・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」を通俗小説として退けて、「ドラキュラ以前」の地層から発掘された/典拠を持った吸血鬼作品集というカラーがある。だからお約束の弱点を備えた悪のヒーローのドラキュラではなく、土俗的な「甦る死者」という感覚を保持した作品というカラーが通底しているようにも感じる。「ドラキュラ以前」という面ではポリドリ「吸血鬼」も収録するが、晦渋な佐藤春夫訳というのが面白い。そして「吸血鬼幻想」でも参照されるメリメの「グズラ」も抄録ながら雰囲気がわかる。要するに種村らしく擬古的なパロディの文脈での吸血鬼譚の収集というニュアンスがあったりするのだ。

この擬古的なパロディという面ではもちろんホフマン「吸血鬼の女」やシュオッブ「吸血鳥」、ダレル「謝肉祭」といったあたりの作品が吸血鬼が象徴する貴族的な典雅さを表現している。その頂点がジャン・ミストレル「吸血鬼」である。いやこれ、あまりに種村の論拠におあつらえ向きすぎるために「種村の模作?」と疑ったが、実在する小説のようだ。そのくらい模範的な貴族的典雅さと野蛮さを結び付けた小説で読み応えがある。

だからこれらのパステーシュ的な典雅な吸血鬼小説が現代化した場合には、当然あらさまなパロディの文脈に置かれることになる。シュルレアリストの女性詩人でブルトンの最後の愛人と言われたベレン「吸血鬼を救いにいこう」は外国吸血鬼歓迎協会による吸血鬼の介護をテーマにしたショートショート。吸血鬼は自分と同じ血液型の血しか吸えないそうだ(苦笑)
そして表題作になっているH.C.アルトマン「ドラキュラ・ドラキュラ」は断片化されたパロディ的ドラキュラ譚ででっち上げてきないかがわしさが満開。吸血鬼が跳梁するマンドラーク近隣の農夫たちの秘密連祷と題された「ドラキュラ ビールのように血を飲むものよ/われらを護れよかし」とかサイコー(苦笑)
でここにお馴染みホームズが活躍するドイル「サセックスの吸血鬼」もこのパロディの文脈で理解すべきだろうな。

しかしヴェルヌ「カルパチアの城」は一見ホフマン風のオペラ歌姫を巡っての謎の恋敵との張り合い話だが....実は吸血鬼とは誰か、リドルストーリー風の面白味があって、見事に背負い投げを喰らわされる。

いや吸血鬼とは、オリジナルの存在しない、すべてが言説の上で成立した本質的にパロディ的な、パスティーシュ的な存在なのであろう。いや死後の生命というもの自体が、生命のパロディに過ぎないのだ。

No.18 7点 狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇 - アンソロジー(国内編集者) 2026/05/14 20:46
早川書房「異色作家短篇集」のアンソロ巻は当初「壜づめの女房」だったのだけど「内容と訳文が、思ったよりも年輪を刻んでしまっているように見えた」という理由で、2007年の「新装版」の編者に指定された若島氏は、すべて捨て去って新しく三巻のアンソロを選んだ。この新装版の方針は、1)旧アンソロは50-60年代中心だが、新アンソロは60-70年代を軸に90年代までを含む、2)旧アンソロにはダール・ブラッドベリ・エイメといった既存巻に個人集がある作家も一部含まれたが、これは止める。3)旧アンソロは日本語版EQMM掲載作だが、今回は本邦初訳で揃える。こんな方針で新しくアメリカ篇・イギリス篇・その他世界篇で3巻のアンソロが編まれたわけである。

この巻はアメリカ篇。初出雑誌はいろいろで50-70年代の作品。内容はSFとかファンタジー主体という印象が強いな。
狭義のミステリはリッチーの「貯金箱の殺人」と、一見ホラーとみせかけたチャールズ・ウィルフォードの「鶏占い師」くらいかな。「貯金箱~」はちょっと人情物っぽい味わい。「鶏占い師」は転んでもタダでは起きない?ロバート・クーヴァー「ベビーシッター」も犯罪小説かもしれないが、記述手法があまりに前衛的でわけわからん感が漂う。断片化されすぎて辻褄が合っているようにも思えないんだ。これじゃ読者は困る、けどこれが狙い目なんだろうな。

アホアホなファンタジーとして面白いのはウィリアム・コツウィンクルの「象が列車に体当たり」。童話っぽいと言えばそうだが、象vs機関車のタイマン勝負!いやホントそれだけの内容。振り切った面白さがある。
子どものコマ対決をあたかもウェスタン小説のガンマンの対決みたいに描いた、ジーン・シェパードの「スカット・ファーカスと魔性のマライア」だって、一見アホだけど子どもにも子どもの「シリアス」があるというのは確かなことなんだ。そういう辺りを突いていて鋭い。
奇妙な貝と共生しているかのような少年を描いた R.A.ラファティの「浜辺にて」は異能SFみたいなものだけどもファンタジーっぽい明朗さがあっていいな。雰囲気が好き。
パズラー書いていて有名なジョン・スラディックの「他の惑星にも死は存在するのか?」は、タイトルから予想されるようにSFなんだけど、スパイ小説っぽい設定のワイドスクリーンバロックSF...のパロディみたいなもの。すごくバカっぽい面白さがある。ハチャハチャSF風かな。

というわけで、編者の好みかもしれないが、アホっぽい陽性な作品が多い。意外に好き。

No.17 8点 37の短篇(傑作短篇集)- アンソロジー(国内編集者) 2026/04/03 20:04
さてこの本でハヤカワの世界ミステリ全集が評者はコンプになる。普通は3冊分くらいのボリュームになる異例の本。早川書房が総力を挙げた名作アンソロになっている。だから後に「天外消失(2008)」と「51番目の密室(2010)」で別途ポケミスから出版されることになったのだが、それから漏れた作品もまだある。この頃に手に入れやすい作品が落とされたみたいだ。サーバー「虹をつかむ男」ケメルマン「九マイルは遠すぎる」トマス・フラナガン「北イタリア物語」ダール「おとなしい兇器」マシスン「長距離電話」ハンター「歩道に血を流して」スレッサー「死刑執行の日」フィニイ「死者のポケットの中には」イーリイ「ヨット・クラブ」リッチー「クライム・マシン」ブルテン「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」というのが落ちたもののラインナップ。もう一冊のアンソロがあれば「J.D.カーを読んだ男」かな?

全37作読んで(評者は既読作も基本読み直す)の感想は、やはりどの作品も「語り口」が上手。だから意外なくらいにストレスなしに読み進めることができる。名作短編って、ネタやオチ以上に、読者の興味を惹きつける独自の「語り口」が重要なんだと思うんだ。その条件の上でネタやオチが優れた作品が残っているのだろう。だから巻末の対談で石川喬司・稲葉明雄・小鷹信光の三人が一致して推したブランドの「ジェイミイ・クリケット事件」は、カーっぽい密室・怪奇の要素以上に語り口と皮肉なオチの強烈さが評価されているとも感じる。

このハヤカワの世界ミステリ全集といえば、「カーもクロフツもいない」モダンな編集方針が徹底していたために、マニアからは嫌われた「ミステリ全集」だった。だからこのアンソロも実際パズラー枠は1/3程度、しかしパズラー枠にパロディ的な作品が目立つという興味深い選び方である。「五十一番目の密室」「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」「最後で最高な密室」「長方形の部屋」といった選定に密室興味が目立つのと同時に、パロディ的な処理も目立つわけで、これはオーソドックスな密室パズラー短編を素直に書くことの「無理さ」がパロディの含羞への逃避とフィージビリティ問題を回避しようとする心理の表れだろう。「新本格のお約束」に逃げることができない時代なんだよ。そういうパロディ+密室だとスティーヴン・バーの「最後で最高の密室」が一頭地抜いていると思う。

このアンソロでは紙数制限で100枚以下が設定されていたために、わりを喰うのはハードボイルド短編で、ブレット・ハリディ「死刑前夜」と「マンハント」からはエヴァン・ハンター「歩道に血を流して」、アル・ジェイムズ「白いカーペットの上のごほうび」だけ。ハードと言うよりどうしても人情っぽい方向に流れることになる。「歩道に血を流して」はいうまでもなくヒューマンな名編。

「異色作家短篇集」作家の比率は高くて、サーバー・ブラウン・ブロック・ダール・マシスン・フィニイが採用されている。でもブロックはポオの「灯台」を加筆完成した「燈台」で、これいいなあ。ブラウンはミステリ枠での採用でトリッキーな「後ろを見るな」なのは納得。「奇妙な味」が盛りだくさんなのが、ハヤカワらしい。「異色作家短篇集」にもし第四期があればイーリイ「ヨット・クラブ」やジャック・リッチー「クライム・マシン」、あとホック「長方形の部屋」の世界だったろうね。「クライム・マシン」はよくできているよ。「ヨット・クラブ」は大好き。

でも、個人的なイチ押しはC.B.ギルフォードの「探偵作家は天国へ行ける」。眠っている間に刺殺された男が天使に掛け合って、大きく状況を変えないことを条件に死の前日を再体験して(まだ実行していない)犯人を捜す話。ユーモア感とミステリ感・華麗なオチが素晴らしい。次はどうかな、心理派のクライムストーリーとして評者は、リース・デイヴィス「選ばれた者」が好き(これは少数派だなwややシャーリー・ジャクスンっぽい)

まあ、明らかに遊びで選んだバロウズ「ジャングル探偵ターザン」とか、SFクロスオーバーでパロディ色がある、ポール・アンダースン「火星のダイヤモンド」などの珍品も収録した「モダンなアンソロ」として、やはり全篇を通して読むのがいいようにも思う。大変だけどね(苦笑)

No.16 6点 名探偵登場 6- アンソロジー(国内編集者) 2026/01/28 22:09
さて早川の古典的アンソロ。でも最終巻のこれはハードボイルド派特集。それも通俗ハードボイルド系の収録が多いという面白いコンパイル。だから読んでみたかったんだ。今言及する人少ないもんね(本サイトだと人並さんやnukkamさんが取り上げてる。素晴らしい)

ロイ・ハギンズ「闇は知っていた」
往年のテレビ探偵ドラマの「サンセット77」の原作とプロデューサーを務めたハギンズが、その主人公スチュアート・ベイリーを起用して書いた短編。ノベライズというわけではないようだ。リーゼントで一世を風靡した見習い探偵クーキーも一瞬登場。暗闇の一瞬に殺された事件に居合わせたベイリーが、消えた凶器の謎を解明。けどあるのこんなの(苦笑)「サンセット77」となると、さすがに古すぎて評者もタイトルしか知らない。ハギンズによる小説版がオリジナルのようだね。ポケミスの「サンセット77」(No.961)にも本作は収録されている。
R.S.プラザー「殺しのストリップ・ティーズ」
「男はあっけなくくたばった。悲鳴をあげる暇さえなく死んでいった」でいきなり、始まる。こういう呼吸こそが通俗ハードボイルド!金髪角刈りの海兵隊上がりのシェル・スコットが活躍する本作、スコットの元を訪れた依頼人がいきなり窓の外から射殺される。依頼はユスリの対応だった...絵画教室、ストリッパーと怪しげな連中をかき分けてスコットは真相を...という話。そういえば実家に別冊宝石の「人みな銃を持つ」があるはずだな。そのうちやろう。
ヘンリイ・ケイン「一杯のミルク」
私立探偵ピート・チェンバースは、初めての依頼人とバーで待ち合わせた。お互いミルクを注文するのが合図。この合図によって美女と待ち合わせして、その家を訪れたが依頼は不成立。翌朝この女が殺されているのが見つかり、容疑はチェンバースにかかる。シンプルでタイトな良さがある。
チャンドラー「犬の好きな男」
「さらば愛しき人よ」の原型作でもある。マーロウが捕らわれて精神病院に入れられて、脱出して賭博船に乗り込むあたりだね。何度も読んでる気がする。
ハメット「殺人助手」
ブ男探偵ラッシュが活躍する三人称。ある女を尾行する男の正体を調べよという依頼を受けたラッシュ。しかし、その尾行者はその女を殺すように、別々の二人からの依頼を受けていた...とあっけらかんとラッシュに話した。尾行者は殺人なんてする気はゼロ(苦笑)でもこの背景には、資産家殺しの一件が?
さすがハメット、というか話がハードボイルドの類型性から遠く離れた、ストリートでまさに起きている事件の雰囲気が漂う。比較するとリアリティのレベルが違う。
シムノン「タクシーの中の男」
論創社の「十三の謎と十三人の被告」で既読。地方出張の多い刑事G7(ジェ・セット)と語り手が遭遇したシリーズ第一話。確かに行動派探偵には違いないね。
ハロルド.Q.マスル「やもめ待ち」
「そのご婦人の亭主はしきりと課外授業にいそしんでいるらしいのだが、こんな素敵な宿題があるというのに、男はどうして暖炉のそばを離れていきたがるのだろう。それが私にはさっぱりわからなかった」離婚事件での密通現場を押さえるために、ジョーダン弁護士は依頼を受けてホテルの一室に踏み込んだ...しかしそこには自殺に偽装した死体が!まあ謎は大したことではないし、ハードボイルドというよりもぺリイ・メイスンに近い行動派探偵。でも文章に軽妙な良さはあるよ。気になってた作家だからちょっと読んでもいいのかな。

というわけで、50年代でのハードボイルドのサンプラーCDみたいなものだな。楽しく読めました。

No.15 6点 壜づめの女房- アンソロジー(国内編集者) 2025/12/13 23:39
さて早川書房「異色作家短篇集」でも、アンソロのこの巻は最初の刊行(第三期,1965)だけでしか出なかったために、稀覯扱いをされている巻としてその筋では有名。まあ第三期は「くじ」以外は改訂版(1974,76)ではオミットされたので、新装版(2005-2007)でしか読めない。この新装版ではアンソロは「内容が古くなった」ということで、完全に新しい内容で差し替えて3巻編成になった。だから旧版アンソロは手に入れづらく、古本は5000円程度の値がついている。図書館にあったのでありがたくさせて頂く。

内容は、
「夜」 レイ・ブラッドベリ
「非常識なラジオ」 ジョン・チーヴァー 
「めったにいない女」 ウィリアム・サンソム
「呪われた者」 デイヴィッド・アリグザンダー
「駒鳥」 ゴア・ヴィダル
「壜づめの女房」 マイクル・フェッシャー
「破滅の日」 ロバート・トラウト
「剽窃」 ビル・ヴィナブル
「崩れる」 L・A・G・ストロング
「プレイバック」 J・T・マッキントッシュ
「二階の老婆」 ディラン・トーマス
「変身」 マルセル・エイメ
「わが友マートン」 ジュリアス・ファースト
「災いを交換する店」 ロード・ダンセイニ
「私の幽霊」 アンソニイ・バウチャー
「マダム・ロゼット」 ロアルド・ダール
となっており、本編で採用された作家ではブラッドベリ、エイメ、ダールが収録されているだけで、他の作家を含めて日本語版EQMMで紹介された作品だそうだ。解説が短いのだが、いわゆる「奇妙な味」とは「文学と大衆小説の間にある短編」と定義している。とはいえ、この定義はやや問題ありで、おそらくアメリカの出版事情を考慮すると、専門ジャンルで特化したパルプマガジンに掲載される「ジャンル小説」ではなく、ザ・ニューヨーカー、ハーパーズ、エスクァイアといったスリックマガジン(一般高級誌)に掲載された短編を集めた編集方針だと言いたいのだろう。
だから江戸川乱歩的な定義とは断絶していて、ミステリ・SF・ファンタジー・ホラーといった「ジャンルに収まりづらいエンタメ」をとりあえず「奇妙な味」と呼んだ、とするべきだろう。ヴィダルの「駒鳥」なら少年時代を描いて文学性が強いことになるし、バウチャーの「私の幽霊」ならばホラーともSFともつかない「幽霊が死んだらどうなる?」という話。ダールのは「飛行士たちの話」収録の戦争中の女遊びの話。
秀逸はサンソムの「めったにいない女」がロマンスともホラーともつかない話でまさに奇妙。ヴィナブルの「剽窃」は小説アイデアを提供してくれる緑の小人をめぐる話でSFともユーモアともつかない。でもダントツにいいのはエイメの「変身」。オルゴールを手に入れるために老人三人を惨殺した死刑囚が突如赤ん坊に変身してしまい、死刑にすべきかで混乱する話。ファンタジーだけども根底にあるのは奇蹟譚。素晴らしい。

まあだけど「古臭いから」で新装版で全面改訂されたのは、全体から見ると仕方ないかな。

No.14 6点 名探偵登場 5- アンソロジー(国内編集者) 2025/10/31 15:07
さて早川版の「世界短編傑作集」である「名探偵登場」。第5巻は「すこし毛色の変わった人物を中心にえらんでみた」と解説にある。まあ第4巻で評者でも「カブリの多い巻」と言っちゃったくらいにオーソドックの度が過ぎた巻でもあったからね。今回の既読作はアーチャー登場の「女を探せ」だけ。秀作だからいいよ。

・A.バウチャー「パルミエリ伯のように」
SPレコードコレクターの妄執による犯罪。探偵役はアル中で退職した元刑事のニック・ノーブルで、なかなかキャラ良し。
・チャータリス「神の矢」
ご存知「聖者」。砂浜で寝ていた男の上にビーチパラソルが刺さって死んだ!という一件。トリックは想定内だが、まあよくできている。
・Q.パトリック「さよなら公演」
ギリシャ悲劇「メディア」をさよなら公演に選んだ女優の部屋に転がった死体。トラント警部は容疑者筆頭の女優にさよなら公演に出演するのを許す...
・C.ライス「うぶな心が張り裂ける」
ご存知マローンの初登場作だそうだ。マローンが弁護して審理のやり直しを勝ち取った青年が獄中で自殺。マローンは刑務所ソングが耳について離れない...「網走番外地」とか「練鑑ブルース」みたいなのがアチラにもあるんだね。これは雰囲気があって小説としての出来がいい。
・C.ロースン「入れ墨の男と折れた脚」
グレート・マーリニ登場の推理パズル二編。
・ロバート・アーサー「大金」
「謎の旅行者」というわけのわからないキャラが話し手みたいに振る舞う犯罪物語。ちょっと異色、というか「幽霊紳士」の元ネタなのかな?
・R.マクドナルド「女を探せ」
いわずとしれた秀作。中田耕治氏の訳が凝り過ぎかな。
・F.ブラウン「スミス氏、顧客を守る」
甘目だけど監視型密室。「最後の一行もの」で全面解決だけど、これがバカミスの味わい。保険勧誘員スミス氏が探偵役(保険調査員ではない!)。
・P.G.ウッドハウス「名探偵マリナー」
ウッドハウスらしいユーモアと皮肉の話。今回マリナーは別に名探偵じゃない(苦笑)

とバラエティがある。やはり6巻では「ハードボイルド派」の「名探偵登場」を予告しているから、そっちもやりたいな。

No.13 8点 冷たい方程式(2011年 早川SF文庫版)- アンソロジー(国内編集者) 2025/07/14 10:38
アメリカの50年代というと、ミステリは飽和状態で不振のイメージが強いが、対照的にSFは黄金期の定評がある。そんな50年代SFを伊藤典夫の選と翻訳で編んだ有名アンソロである。表題作が有名過ぎ(苦笑)評者も表題作を取りあげたくて読んだのだが、他作品も極めてレベルが高い。

なぜ表題作「冷たい方程式」を読もうと思ったのか?というと、本作の設定を基にした「方程式もの」と呼ばれる一群の作品があり、SFでの立ち位置がミステリでの「密室もの」と同じようなものではないか?ということだったりする。「密室」はジャンルではなくて、「本格」というジャンルの一部だとするべきだし、たとえば「連続殺人」という大雑把なプロットの類型とも違って、もっと明確な定義づけをもった領域だろう。「冷たい方程式」は、緊急用で運用に強い制限がある宇宙船で、密航者を見つけた時の倫理的ジレンマを扱った作品である。ルールは密航者を即時船外に放り出すことを求め、かつそうしなければ緊急事態の解決のために派遣されたこの宇宙船の任務が果たせずに、全体的に大きな損害が不可避になる。しかし密航者は若い少女であり、兄に逢いたいという心情から、それが大事になるとは知らずに密航を企てたという情状酌量の余地がないわけではない...まさに道徳的なジレンマに宇宙飛行士が遭遇する。
この小説の結末はすべてを受けいれた少女が自ら宇宙船を出る(死ぬ)ことを選択するという、悲劇的なものである。だからこそその非情な「方程式」に心を痛める読者が「そうではない解決法」を求めて、「方程式もの」というジャンルが立ち上がったことになるわけだ。ありえない「密室殺人」の解決に頭をひねる読者がさまざまな「密室の解き方」を提案してできた「密室殺人」とは方向性がズレながらも、ジャンルを支えるファン層の自発的な要求に応じて、こういう特殊な立ち位置の作品群が形成されてきた、とは言えるだろう。

「密室」も「方程式」を両方うまく指し示す言葉があればいいなあ、と思っていろいろと調べてみたら「トロープ」という言い方があるようだ。明白に定義された制約を前提に、その制約の中で解決に工夫を凝らすというジャンルでも技法でもない、メタな「デザインパターン」を示す言葉として有用かもしれない。

次に気に入ったのはアシモフの「信念」。急に空中浮揚の能力を得た物理学者が、科学法則に反するこの現象を一向に信じてくれない同僚たちを、どう説得するのか?という話。アシモフらしいロジカルな話で、ミステリとして見ても面白いかも。一種の「背理法」が使われていて興味深い。

C.L.コットレル「危険!幼児逃亡中」はキングの「ファイアスターター(炎の少女チャーリー)」の元ネタともいわれる。危険な超能力を制御不能なままに、幼女が暴れまわる話。「AKIRA」っぽいテイストも感じるなあ...総じて50年代SFというものが、冷戦状況という緊張感の中で、SFガジェットを発想の軸に発想を膨らませているのが見て取れる。未来のイメージとは、核戦争の危機感によって支えられてるという逆説が、興味深い。

だから逆に言えばそういう危機感に対する慣れと感覚の鈍麻が、60年代のスパイ小説の流行に繋がったのかもしれないな。SFとミステリと、たまにはガチに比較してみるのもなかなか興味深いものだ。
(評者はSFはファンとまでは言えないから、「方程式もの」は「機動戦艦ナデシコ」の「温めの「冷たい方程式」」で覚えたんだった..まああれ「ラブコメのフリをしたハードSF」と呼ばれたアニメだからね)

No.12 6点 続・13の密室- アンソロジー(国内編集者) 2025/06/17 14:38
渡辺剣次編「13」シリーズって、70年代を代表する名アンソロだ。まあだからこそ正編「13の密室」だと、大正義「密室ミステリ」が連発されることで、アンソロとしての妙味がなくて面白くない。なので、「続」の方がしたいんだ(ニヤリ)ラインナップは次の通り。

乱歩「何者」、大阪圭吉「坑鬼」、杉山平一「赤いネクタイ」、双葉十三郎「密室の魔術師」、渡辺啓助「密室のヴィナス」、山村正夫「二重密室の謎」、高木彬光「妖婦の宿」、土屋隆夫「「罪深き死」の構図」、楠田匡介「妖女の足音」、多岐川恭「みかん山」、天城一「明日のための犯罪」、斎藤栄「水色の密室」、佐野洋「大密室」

面白いセレクションである。山村・土屋・多岐川は処女作で、マニアが「自分でも!」という意気込みで書いたことが窺われる稚気とか気負いみたいなものが面白いし、杉山・双葉は映画評論家としては著名でも「え?小説書いてたの?」となるレア作品。さらにいえば高木のものも元々探偵作家クラブの新年会の余興の犯人当てゲームの出題作。プロもアマもこぞって集うお祭りのような企画本という側面がある。これが正編とは全然違うカラーとなっている。

さらにいえば、乱歩・楠田・佐野の作品だと、密室殺人というよりも、考えオチの「考えようによっては密室」という感覚のものである。

まあ「密室殺人」というものは、小説としての扱いが難しい物なのである。アマチュアの蛮勇や勢いで書いてしまうことはできるが、プロ作家となればなるほど、お約束に満足しないのならば「どう扱うといいのか?」に悩むことにもなるのだろう。そういう意味では、環境設定自体が密室でありその密室の崩壊をドラマの頂点として表現した大阪圭吉「坑鬼」が「密室短編ミステリ」のあらゆる意味で頂点なのだろう。

評者的にナイスな作品は...「みかん山」かなあ。土屋隆夫のは密室以上に画家の生理を扱ったあたりが興味深い。天城は一種のバカミスっぽさがいいなあ。「妖婦の宿」はヤリ過ぎ感がお祭り。
(評者その昔、杉山平一先生とはご一緒したことがあったよ。関西の詩と映画評論の最長老、気さくでダンディなお爺さんだった...三好達治・堀辰雄の「四季」派同人だもんなあ)

No.11 7点 下り”はつかり” 鉄道ミステリー傑作選- アンソロジー(国内編集者) 2025/01/14 20:10
創元の鮎川傑作選のタイトルで「下り”はつかり”」を使っちゃっているのは、オールドファンとしてはちょっとばかり残念。1975年のカッパブックス「下り”はつかり”」といえば、このあと「急行出雲」などと続く鉄道ミステリ傑作選というイメージが強いんだ。
というのも、70年代までの鮎川氏というと酒もタバコもギャンブルもやらない堅物として知られていて、文壇活動には消極的な「孤高の作家」イメージがあったんだよ。探偵文壇といえば乱歩高太郎といった親分たちが取り巻きを引き連れて飲み歩くというカラーがあったわけで、そういうのから鮎哲さんは外れていた。
それが75年のこのアンソロに端を発して沢山のアンソロを編むようにもなるし、「幻の探偵作家を求めて」もやれば、「鉄路のオベリスト」を翻訳連載するとか、このアンソロをきっかけに業界リーダーとしての活動範囲がぐっと拡大した。そんな記念すべき本だと思っているんだ。
収録作は、城昌幸「ジャマイカ氏の実験」、乱歩「押絵と旅する男」、岩藤雪夫「人を喰った機関車」、大阪圭吉「とむらい機関車」、横溝正史「探偵小説」、芝山倉平「電気機関車殺人事件」、青池研吉「飛行する死人」、坪田宏「下り終電車」、土屋隆夫「夜行列車」、角田喜久雄「沼垂の女」、多岐川恭「笑う男」、鮎川哲也「下り”はつかり”」、加納一郎「最終列車」、星新一「泥棒と超特急」、森村誠一「浜名湖東方15キロの地点」、斉藤栄「二十秒の盲点」

それぞれに鮎川氏の軽い解説がついて、かなりボリュームあり。有名作家の有名作も目白押しなんだが、そういう有名作はハッキリ言ってどうでもいい。
このアンソロで「面白い」のは、芝山倉平「電気機関車殺人事件」、青池研吉「飛行する死人」、坪田宏「下り終電車」といった作品なんだ。
フツー知らないでしょ!ってなるような作家、作家紹介も「経歴その他一切不詳」とだけ書かれるような作家たち。鮎川氏が「新青年」「ロック」「宝石」といった雑誌の上だけで作品を知った作家たち(それも1作きりとか)の作品を丁寧に拾い上げているあたりなのだ。アンソロとはまさにそんな「追憶」を「愛」に変える行為だ。
評者も「飛行する死人」(「天狗」に発想してリアルなトリックで二連発。語り口佳し)、「下り終電車」(私鉄の終電の後に電車が通った?のアリバイトリック)、「電気機関車~」(絶対に作者は国鉄職員!)の3本がこのアンソロのトップ3だと言おう。
そんな鮎川氏の「愛」に打たれるアンソロである。

No.10 6点 名探偵登場 4- アンソロジー(国内編集者) 2024/02/07 11:49
創元の「世界短編傑作集」への早川ポケミスでの対抗馬が「名探偵登場」。「名探偵登場」が1956~1963に刊行で、創元の1960~1961より少し先んじているが、創元は「世界推理小説全集」版(1957~1959)がベースなので、本当にライバル的な関係と言っていいだろう。で、こっちは作者ベースではなく名探偵ベースでの全6巻。だから名探偵の出ない「密室の行者」とか「オッタモール氏の手」が収録できないが、代わりにクリスティはポアロとマープル、ハメットはオプとスペードで2作収録がある。
とはいえ乱歩選の創元の方がずっと定着していて、ポケミス「名探偵登場」の方がマイナーという印象。さらに作品も創元とカブりがちだし、他の短編集で読める作品が多いこともあって、「お買い損」なアンソロ....でも「名探偵登場6」だと創元が手薄な軽ハードボイルド系の作品が多いとか、そういう特色もある。
とくにこの「名探偵登場4」はというと、カブリの多い巻になる。評者も5/10が既に書評済。それでも再読に耐える作品が収録されているからまだいいや。

・ジョン・ロード「逃げる弾丸」
他に収録ががないレア作。まあ最近でこそロードは紹介されているが...「アイデア勝負作家」と言われるけど、まあそういう短編。
・アリンガム「ボーダー・ライン事件」
創元3(新5)で読む人が多いだろう。評者も好きなモダン・ディティクティヴな名作。
・ミニオン・エバハート「スザン・デア紹介」
レア作。いわゆる「もしも知ってさえいたら(HIBK)派」。まあでもこれ、今でいえばロマサス。女性主人公の主観描写てんこ盛りで、昔だからのんびりしている。いかに今のロマサスが進化しているか、って思っちゃう。
・ハメット「スペードという男」
創元なら「ハメット短編集」か創元4.3本しかないサム・スペード登場短編の一つ。評者にとってハメットとはオプ物短編。スペード短編は大した出来とは思ってない。
・ポースト「大暗号」
創元だと「暗号ミステリ傑作選」に収録あり。アブナー伯父ではなく、パリ警視庁のヨンケル長官物。暗号物だけど一種のバカミス的味わい。
・ストリブリング「チン・リーの復活」
河出の「ポジオリ教授の冒険」に収録。大名作揃いの「カリブ諸島の手がかり」に続く時期のものだけど、軽めの仕上がり。これもバカミス的なとぼけた味わい。
・クイーン「チークの巻煙草容器」
「クイーンの冒険」収録。お得意の「手がかりの欠如」ネタで、まとまった「らしい」作品。
・シムノン「メグレの煙管」
講談社「メグレ警視のクリスマス」収録。規模的には中編で、メグレ物短編をアンソロで何を選ぶ?と聞かれたら、普通に挙がる作品だと思うよ。読み応えあり。でもこれ日影丈吉訳で、そういう愉しみもあるなあ(リュカがみょうに下世話w)
・クリスティ「管理人と花嫁」
創元だと短編全集3、ハヤカワなら「愛の探偵たち」に収録。評者大好き後年の某名作の元ネタ。あれは「名探偵小説」じゃないからいいんだけども、元ネタはミス・マープルがアームチェアするパズラー。
・フランシス・クレイン「青い帽子」
レア作。夫婦探偵としてたまに言及されるアボット夫妻物。いやこれカントリー風の味わいのある洒落た行動派ミステリで、キャラ描写もしっかりしていて面白い。日本人にはピンとはこない、アメリカ人の「偏見!」かもしれないものだが「へ~~」という笑える面白味があるオチ。未読作だと一番良かった。

このアンソロの選考基準に、ユーモア感みたいなものを感じたりする。意外。
ちょっと気になったのは、「シメノン」「エラリー・クイーン」表記。ハヤカワなら「シムノン」「エラリイ・クイーン」だと思うんだがなあ。社内で統一しないのかな。

No.9 7点 世界短編傑作集5- アンソロジー(国内編集者) 2023/03/19 09:21
さて評者もこのシリーズ最終巻。今となっては「現代」を扱ったはずの最終巻も大古典になっている。昔読んだときには「創元の海外ミステリのモダン」の定番紹介だった本だったのだが、隔世の感も強いなあ(約50年前か...)

だから古典的な「名探偵小説」だとマーチ大佐登場の「見知らぬ部屋の犯罪」くらいしかない、ということにもなる。「黄色いなめくじ」だと名探偵登場ではあっても、清張の「鬼畜」を連想するのが自然じゃないのかな。貧困問題を陰鬱な心理描写でドラマチックに描いたヒューマンな味わい。
「心理」が重視されることもあって、小説としての側面が追及されることになるから、長めの作品にいいものが多い。「ある殺人者の肖像」なんてそうじゃないかな。子供のプライドと親の愛の相克がよく描けていて、心が痛い作品。
中編で名探偵小説、といえばネロ・ウルフ登場の「証拠のかわりに」が、モダンな意味での「名探偵小説」の回答、ということになるのだろう。キャラクター小説の側にシフトして、それで成功している人気シリーズのわけだからねえ。いややっぱり楽しいよ、これ否定しちゃいけないことだと思ってる。前にも書いたが、ウルフ&アーチ―物って、ホームズ探偵譚にあった「度胸一番の駆け引きや土壇場での機知」といった「ミステリのパズラー化」の中で意図的に無視された部分の楽しさを、しっかりと再現したシリーズなのでは?なんて評者は思っているのだ。

だから逆に、短い作品というのは「アイデア・ストーリー化」してしまう。それは当然なのだが、技巧に走るわけだから、定型的な要素を排除したインパクト重視の語り口に傾いてくる。だからこそ「ミステリ古典」からはこちらも逸脱しつつあるわけだ。

というわけで、評者もいろいろと考えることも多いこのシリーズでした。

No.8 7点 世界短編傑作集3- アンソロジー(国内編集者) 2023/02/13 11:53
3巻目は1925~29年の作品。一応長編黄金期に入るのだけども、短編はホームズ様式(というかソーンダイク博士風?)がまだ盛ん。2巻で顕著な科学トリック傾向も「キプロスの蜂」や「茶の葉」に覗われるが、バカトリック風の「密室の行者」「イギリス製濾過機」も登場...とこれをやや拡散傾向、と捉えるがいいんじゃなかろうか。

そうすると、ホームズ形式のクセに実話のリアリティを備えた「堕天使の冒険」に注目した方がいいし、あるいは名探偵をパロった皮肉な話の「完全犯罪」にそろそろ「名探偵小説」を相対化する視点が芽生えてきていると思うんだ。その相対化の総仕上げが実のところ「偶然の審判」を長編化した「毒チョコ」だった、というのはいかかなものだろう?

あ、作品的には「ボーダー・ライン事件」がモダン・ディテクティヴな佳作。「二壜のソース」が形式的には意外なくらいに「名探偵小説」なんだけども、ワトソンの妙が光って「名探偵小説」から逸走。こんな芸がすばらしい。

No.7 7点 真紅の法悦- アンソロジー(国内編集者) 2022/07/24 16:39
教祖平井呈一とチルドレン、といえば荒俣宏やら紀田順一郎となるわけだが、それに種村季弘のエッセイ「吸血鬼小説考」、吸血鬼に造詣の深い仁賀克雄...とオールスターによる吸血鬼アンソロ。この「怪奇幻想の文学」のシリーズ自体、ちょっと伝説的と言っていいくらいの幻想文学の金字塔となったシリーズなのだが、その第一弾。シリーズ自体の狙いは「オトラント城奇譚」の初訳にあったようだが、この本には吸血鬼小説の本家であるポリドリの「吸血鬼」、平井の名訳で今も創元にある「カーミラ」などなど収録。
ポリドリの「吸血鬼」って「バイロン真似っこ」とか意外に軽んじられている小説、というイメージがあるけども、いや悪くない。ルスヴン卿の両刀使いっぷりがなかなかナイス。要するに吸血鬼ってさあ「性的逸脱」をモンスター化したようなところがあるからね。実際、このポリドリの作品が、バイロン卿の乱行っぷりを当てつけたように読まれたらしい(種村の序文によるとね)。

E.F.ベンソンの「塔の中の部屋」はだんだん実現していく夢の話。雰囲気結構。前半はイギリス中心で、イギリスの吸血鬼小説はオーソドックスなゴシック小説のカラーが強いものが多い。後半はアメリカ物だが、こっちはSF作家が書いているケースが多いようだ。だから突飛な発想や仕掛けを楽しむのがいい。ウェルマンの「月のさやけき夜」はポオを主人公にして「早すぎた埋葬」から始めて怪異譚の中で「黒猫」のアイデアを思いつく話(苦笑)。で...だけど吸血鬼モノが得意のマシスン「血の末裔」。これね〜子供の頃読んでガチ怖かった記憶があるからぜひ取り上げたかったんだ。

ぼくは大きくなったら吸血鬼になりたい。ぼくは永遠の生命をえて、みんなに復讐をし、女の子を吸血鬼にするんだ。死の匂いを嗅ぎたいんだ

と学校で作文を発表する少年、ジュールスの話。泣ける。というか、怪奇小説というものが、実は怪奇小説の愛読者というものを扱った一種の「読者論」になっているという性格(ラグクラフトなら「アウトサイダー」とか「インスマスの影」)が覗くと、実に味わいが深くなる。怪異に魅了されるのは、犠牲者も読者も同じことなのだ。

No.6 7点 世界短編傑作集4- アンソロジー(国内編集者) 2022/07/05 23:27
この巻の目玉は何といっても「オッタ―モール氏の手」。意外な犯人とか言っていると実はこの作品の本当の怖さを見逃すのでは?なんて感じる。いやこの話だったら「誰もが連続絞殺魔でもありうる」し、自分はそうでないと思っていても、そうなる時にはどうしようもない...そんなタイプの怖さなんだよ。そして、動機が全くない殺人というものが、

自分たちが生活している平和な社会をささえる柱が、じつは、だれでもへし折ることのできる藁にすぎなかったということを、彼らは悟りはじめた。

いや、実に作者よく分かってる。この人間というものの、社会というのものの「危うさ」が主題なんだと思ってる。大傑作。

で、この巻の収録が1927年-33年、ということで、たとえばヘミングウェイの「殺人者」やハメットの「スペードという男」、チャータリスの「いかさま賭博」といったハードボイルド系作品も登場することになる。1920年代は「本格黄金期」という「本格史観」というのは、単なるイデオロギーでしかなくて、ホームズ・ライヴァルも黄金期本格もハードボイルドもすべて同時に起きているのが1920年代というもの。そういう実相を乱歩編のアンソロでさえちゃんと示しているわけだ。
どちらかいえば「信・望・愛」もハードボイルド寄りのクライム・ノヴェルと見るのがいいんだろう。因果話みたいなものだが、皮肉で非情な成り行きが面白い。ニューメキシコ州が舞台で、ペキンパーの世界みたいなものだ。好きな人が意外に多い...

(あれ、面白い。誰もクイーン御大の作品に触れていない!)

No.5 6点 世界短編傑作集1- アンソロジー(国内編集者) 2022/06/08 08:40
乱歩編で昔からある5巻のアンソロの1巻目。乱歩の時代にもすでにクラシック扱いになるドイル以前&同世代作家のウェイトが高い巻。
「名探偵」確立以前と確立期のバラエティ、と見るのがいいと思う。考えてみれば、なぜ「理性による推論」で事件が解決するか?というミステリ成立の根幹部分での試行錯誤がなされている巻だ、と見ると面白い。コリンズの「人を呪わば」もチェホフの「安全マッチ」でも、インテリの理論的推論がハズレであり、ベテランの経験知が正解、という体裁をとる。これが本来の犯罪小説のフォーマットだったのを、ポオが力業でひっくり返し、ドイルがそれをヒーロー小説化した...こういうショックがミステリというジャンルの原動力になったのではないのだろうか?
だから「ホームズのライヴァル」世代のヒューイットもヴァン・ドーゼンも「ホームズというショック」という「現象」を証言するだけの、形骸だけのB級ヒーローのような気がしてならない。それでもダークヒーロー寄りで推理機械ではない「隅の老人」は独自ポジションなんだけどもね...
そういう意味では、ホームズ以前の最良の「探偵」小説のモデルに、「医師とその妻と時計」がなるようにも感じられる。浮ついた印象のホームズのライヴァルではなくて、こういうリアルでしっとりした話としての「探偵」小説..シムノン風家庭悲劇、というようにも見えるのだが。
そして「放心家組合」(「健忘症組合」の方が今は適切だろうね)は、リアル・タイプの探偵であるヴァルモンが、鋭いあたりを見せながらも裏をかかれる話。いやだって、今でも「リボ払い」ってあるじゃない?「名探偵(理性)の失敗」というコリンズやチェホフのテーマは、ホームズ以降でもけして失効したわけではない。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.38点   採点数: 1664件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(125)
アガサ・クリスティー(97)
エラリイ・クイーン(49)
ジョン・ディクスン・カー(36)
ロス・マクドナルド(26)
ボアロー&ナルスジャック(26)
アンソロジー(国内編集者)(24)
アンドリュウ・ガーヴ(21)
エリック・アンブラー(17)
アーサー・コナン・ドイル(17)