皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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クリスティ再読さん |
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| 平均点: 6.38点 | 書評数: 1670件 |
| No.17 | 6点 | 宇宙の一匹狼- フレドリック・ブラウン | 2026/10/15 12:51 |
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| ブラウンというと、戦前はなんでも書く短編作家だったわけだけど、戦後はミステリはほぼ長編のみ、SFは長編も短編も、と比較的ジャンルの使い分けが偏ったことになる。5冊あるSF長編の4作目だからブラウンでも終盤。原題も「Rogue in Space」で邦題の「一匹狼」よりもさらに「無法者」というニュアンスが強いかな。いやガチのハードボイルド悪漢小説というべきで、読んでいて連想するのはまさに悪党パーカー。
名うての悪党クラッグが仕事で呼び寄せられた。しかしそれは罠。濡れ衣で逮捕されて裁判になるが、その判事で有力者のオリヴァーに逆に仕事を持ちかけられる。火星の天才科学者からあるものを奪う計画だった。クラッグはオリヴァーの計画に乗らざるを得ない...その計画の中で裏切られたクラッグを救ったのは宇宙を漂う「考える岩」だった! という話。ストーリーラインがブチブチと断続していて、かろうじてクラッグのキャラクターで統一されているという、なかなかイビツな小説なんだよね。だから客観的な出来がいいかといえば、悪い。しかしこの悪党クラッグのハードボイルドっぷりが徹底していて、それに妙な魅力がある。SF設定にあまり意味がないのでは?と思ってしまうくらい。究極に孤独で、自分のサバイバルだけに全フリの、肉食獣のような男一匹の話。最後の方など寂滅感さえも感じる。 出来は悪いが、評者は好き。ヘンな魅力がある小説。 |
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| No.16 | 6点 | 交換殺人- フレドリック・ブラウン | 2026/10/06 22:26 |
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| 邦題はド直球の「交換殺人」(原題は The Murderers)。当然犯人側からの倒叙というかクライムノベル、というべきか。短めの長編で、まあこの殺人の行く末をちょいと捻って、というタイプの小説であることは、読む前から見当がつくよね、ブラウンだもん。
でまあ、あまり期待せずに読んでいったけど、そこそこ面白いよ。最初は適当なアリバイで自分で殺そうと計画していたけど、別途殺したいほど憎んでいる相手がいる男が身近に見つかる...なら、交換殺人で、両方が完璧なアリバイを作っておけばいい。動機からすれば真っ先に疑われる立場にあっても、アリバイ完璧なら十分じゃん? こんなプロセスが丁寧に進行していることが、好印象の理由だね。ちゃんと変装して下見にいくとか、そういう積み重ね。ナイスなのはこの二人の結束を高める予行演習! まあオチはなんとなく「こうか?」という気はしていたが、部分的に当たってただけ。オタクで凝りすぎるのは不安材料なんだよなあ。 あと興味深いのは、ブラウンの音楽知識がしっかりしていること。さらにビートニクたちの生態が窺われていて興味深い。傑作・名作というわけではないが、サクッと軽めに仕上げた「小品」といったもの。 |
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| No.15 | 6点 | 3、1、2とノックせよ- フレドリック・ブラウン | 2026/09/17 13:27 |
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| 晩年のノンシリーズのミステリ長編。解説によるとアメリカでは「ハイ・アドヴェンチャー」という雑誌に短縮版で掲載された後、単行本化(1959)。ブラウンらしいアイデアストーリー、というわけで本質的には短編なアイデアを、賭博狂いの酒類セールスマンが追い詰められて金策に走る話で連載読者の興味を釣って実現した小説。そこでキーになるのがタイトル「3,1,2とノックせよ」。
街を徘徊する強姦殺人魔〈痴漢〉はすでに二人の女性を毒牙にかけていた。震え上がる町。このために女性たちは警戒手段を講じていた。そのために、その夜〈痴漢〉は二人の女性に近づいたがあわやのところで失敗。この二人の男と、知恵遅れの新聞売子の運命が交錯する... 天国か地獄の一角で、以下のような会話がおこなわれていると想像しよう。 と「素晴らしき哉、人生!」みたいに機械仕掛けの神を持ち出したくなるような話。一種の「ゼロ時間へ」なんだよ。 まあよくできたサスペンス。他の皆さんの評価が低いのは、同情されるようなキャラが少ないためかな。そこそこ悪い奴ばっかりの群像劇(苦笑)しかし内面に踏み込んでいるようで踏み込まない映画的なサスペンスが横溢していると思うがなあ。 (〈痴漢〉は原文では Psycho だそうだ。ヒチコックの「サイコ(1960)」の前からこんな風に呼ばれていたんだな) |
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| No.14 | 7点 | 三人のこびと- フレドリック・ブラウン | 2026/08/13 17:21 |
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| さてエド&アム・シリーズの第二作。ブラウン大好きサーカス話...と思うと、細かいことを言うと違う。作中では「カーニー(Carny)」と「カーニバル」の略で呼ばれている。ギョーカイでは同じような移動型娯楽施設であっても、アクロバット芸中心の曲馬団のサーカスと、こういうCarnyと呼ばれる移動型遊園地とは区別されていることが、少しだけだが触れられている。要するに夜店の香具師の大規模なグループのようなものだな。「シカゴ・ブルース」の後、エドくんはアム伯父とともに、アム伯父の身過ぎ世過ぎの稼業であるこの業界に飛び込む。
香具師でも昔はよくお化け屋敷や見せ物小屋があったように、このカーニイでも小人がいたり、チンパンジーが芸をしたり、キレイな女の子が踊って見せたりするわけだ。そんな中で、降って湧いたように小人の他殺死体がこのカーニイに出現する。しかしカーニイの小人である「モート少佐」は全然知らない小人...そして移動した先では病気になってたチンパンジーが水死体で発見、さらに黒人少年ダンサーが...と「なぜ小人(小さな人間)ばかりが殺されるのか?」というミッシングリンクものとして話が展開する。 いやノリはねえ有名な「笑う肉屋」と同タイプの、「確かに説明つくけど、誰も想像しないよ、そんな真相!」というもの。いや実は「復讐の女神」の中にちょいと似た話は確かにあるんだけどもねえ...う〜ん(苦笑)やられた、というのが正直なあたりかな。 とはいえドラマ部門の充実感があるのがイイあたり。カーニーの「ポーズ・ショー」でお色気を振りまく女子二人に想いを寄せられる果報者のエドくんの「青春の惑い」がしっとりと描かれ、それに対してまさに「世間師」と呼ぶべきアム伯父の酸いも甘いも噛み分けた肖像が対比される。ナイスなコンビであるのはいうまでもない。 いやイイねえ、このシリーズ。シリーズ全体のファンになりそうだ。 |
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| No.13 | 6点 | 復讐の女神- フレドリック・ブラウン | 2026/06/25 20:09 |
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| 「まっ白な嘘」に続く1963年のミステリ短編集。2023年に「死の10パーセント」が日本オリジナル短篇集で編まれているのを別にして、生前のオリジナル短篇集で言えば、ミステリ短編集は2冊、SF短編集が4冊となってミステリの方が少ないことにはなるかな。
軽く調べたが、SF短編は戦前も戦後もブラウンは盛んに書いているけども、ミステリ短編はほぼ1940年代にしか書いていない。だから1951年に編まれた「まっ白な嘘」は最近作+過去のお気に入りで出来たベスト集みたいなものだろう。それに対してこの1963年に編まれたこの短編集は、過去のパルプ時代1940年代のアンソロという性格のもののようだ。だから明らかに時系列では「まっ白な嘘」よりも前の作品メインということになる。 だから「まっ白な嘘」と比較すると、こっちはオーソドックスにミステリしている感じが強い。その分おとなしいかな。「笑う肉屋」みたいな破天荒な作品とか実験的な作品はない。 本作だと「生命保険と火災保険」「姿なき殺人者」と、ファランクス生命保険の勧誘員ヘンリー・スミス氏活躍作を収録。パルプな味わいがあるなあ。シリーズで書いていたフシもある。「毛むくじゃらの犬」あたりは軽ハードボイルドといった感覚のものだし、中編「踊るサンドイッチ」はまさにウールリッチ調。 だから、パルプ作家ブラウンを把握するにはナイスな短編集ということになろう。才気はもちろんあって、最初からソツなく読ませる技に長けた作家だな。 個人的にはアホっぽい趣のある「すりの名人」が好き。「黒猫の謎」は改訳版の「サタン1.5世」の方がタイトルはいいかな。猫は九つの命を持つ、っていうから、復活したのか子どもなのか?を巡って意外な真相。「象と道化師」はブラウン大好きなサーカス話。エドくん第二作「三人のこびと」が楽しみになった。 |
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| No.12 | 6点 | シカゴ・ブルース- フレドリック・ブラウン | 2026/06/22 17:18 |
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| 「死にいたる火星人の扉」「アンブローズ蒐集家」とシリーズ中盤作を先にやってしまい、「しまったな、エドくんストーリーとして最初から追うんだった」と後悔したことで、シリーズ第一作に回帰することにした。
まだ18歳、見習い印刷工で、同じ職場の父ウォレスと一緒に働くエドくんが主人公。その父が夜の路地で撲殺された。この父の死によって、継母のマッジ・マッジの連れ子で生意気盛りの少女ガーティとで成立していた、エドの「家庭」は崩壊していく...いや、マッジとガーティと直接の仲たがいをしたわけではない。それぞれが結びつく理由をただただ失くしてしまったからだけなのだ。エドは父の弟アンブローズ(アム伯父)に逢いに行き、父の若き日の冒険を聞いて、実直な印刷工として働く父の意外な側面を見つける。そして、アム伯父と共にウォレスの死の真相を追求していく... こんな話。エドはナリと頭は大人と言えても、ココロはまだ子供なんだ。これが如実に伝わってくるのがブラウンの筆力。バーに行って酒を飲むのもまだビクビクもののエド君だから、アム伯父はエドにとっての「大人の世界への案内人」でもある。人間関係にしっとりとしたリアルがあって、これが読みどころ。 最後の方にはヤクザの情婦としっぽりと... ここらへん「手斧が首を切りにきた」と共通するテイストだ。あっちが本作のリライトみたいな側面があるんだね。 ミステリとしては特筆するところはないといえばはない。風俗ミステリといえばその通り。でも小説としてはナイスだ。 高層ビル最上階のバーで、アム伯父がエドに、シカゴの街を「でっかい低俗なキャバレー(fabulous clipjoint)」として示すことから原題が来ている。このでっかいが金次第のボッタくり酒場という「世間」に、エド君は乗り出していくのである。 |
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| No.11 | 7点 | アンブローズ蒐集家- フレドリック・ブラウン | 2026/04/22 16:57 |
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| ビアスやったのは、本作の予習だったよ。タイトルとあら筋見たら、やはりアンブローズ・ビアスの失踪をネタにした本だって分かるからね。でもね、しまったな。このシリーズはサーガみたいなところがあるから、時系列で最初から読まないと面白さが薄れるようだ。反省してブラウンの次には「シカゴ・ブルース」を取り上げることにしよう。
エドくんと相棒のアム伯父(アンブローズ・ハンター)は今ではスターロック探偵社に勤務する探偵。しかし、事件の相談を受けたのち、アム伯父がは失踪してしまった....心配するエド。失踪する理由のないアム伯父の行方を追って、エドとスターロック探偵社、恋人未満なエステルらは調査に乗り出し、非公式にレギュラーの殺人課バセット警部にも協力を求めた..アム伯父をおびき出した男はアンブローズ・コレクターという偽名を名乗っており、エステルが偶然耳にした「アンブローズ蒐集家」という言葉の関連は? と、ビアスの失踪事件の知識があると、なかなかオカルトな話だとピンとくる内容なんだ。超常現象の教祖みたいな人物であるチャールズ・フォートが、ビアス失踪事件を扱っている本が作中でちょっとしたアイテムにもなっている。だから「エド&アム・ハンター」ものが、青春ハードボイルドだと思っているとちょっと違う。一種の仕掛け物小説なんだな。そう思っていると、実際解説では、堀燐太郎氏が「ギミック・ミステリー」と呼んでいて、そういう言い回しに納得する。「死にいたる火星人の扉」なんてまさにそうじゃない? で訳者あとがきでも、登場人物のデイゴン、という珍しい姓が、聖書やラヴクラフトでお馴染みの「ダゴン」というのは評者も気が付いたな。あと、420というラッキーナンバーについては、Four Twenty で Charles Fort にも掛かっているよ。というか、アンブローズ・ハンターって名前自体、「アンブローズの狩人」じゃない? というわけで、解決編はなんとなく想像していた感じだけど、そういうことを言うのも野暮な気もする。いいじゃないの。このシリーズはちゃんと読みたいな、という気にさせる。 (スターロック探偵社のボス、ベンはなかなかナイスなボスだと思う。ちょっと惚れる) |
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| No.10 | 6点 | 手斧が首を切りにきた- フレドリック・ブラウン | 2025/09/17 21:01 |
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| まあこれ賛否両論作じゃないのかな。
解説でも触れられているが、時代背景は朝鮮戦争直前のあたり。米ソ核戦争の不安に怯えつつ、アカ狩りの予感で街が萎縮しているような時期。貧民階級出身の主人公は、街のボス・ミッチの下で富くじ販売の半端仕事をしていた。元バーテンダーの父は強盗事件に関わって命を落とし、不幸な少年時代を過ごした主人公には、トラウマとして固着した2つの恐怖対象があった。ろうそくと手斧。 街のボスは主人公が「使える」ことに気づき、ギャング仕事の適性のテストをいろいろして、仲間に誘う。そんな中で出会った二人の女、エリーとフランシーヌ。同じ下宿で出会った堅実なエリー、そしてミッチの愛人であり妖艶なフランシーヌ。この二人の女の両方に魅かれながらも、主人公はミッチの手引きでそれとなくギャング教育を受けていくことになり、どんどんと深みにはまっていく。一度は一味に加わることを望んだのだが、堅実なエリーはそれを歓迎するわけがない。しかし、誘いをかけてくるフランシーヌに手を出すと、ミッチの嫉妬が恐ろしい... ミステリとかサスペンスというよりも、ノワール風味の青春小説。ストーリーの展開を追っかけるというタイプの小説じゃない。それよりもギャングとしての適性を試すちょっとした「試練」が興味深い。ギャンブル、酒、車、忠実さ、口の固さなど、さまざまな側面からなかなかシビアにテストされている。 引き金は引くんじゃない。ぎゅっと握りしめる要領を忘れるな。 この一味の殺し屋ディクシーが指導する銃講座が面白い。銃の専門家でガンマニアでもある。常に実弾を装填しておけば、「抜いたつもり」「空砲のつもり」の事故を防ぐことができるという、なるほどの教えもある。 まあそんな話なんだけども、この小説というと、ラジオ番組形式で主人公の夢や空想が挿入される変わった構成になっている。だから実験小説とかそういう紹介をよくされる作品なんだけども、人並さんのご書評の「作者ブラウンのはにかみ」が正鵠を得ていると思う。まあだから、作者の客気といえばそうで、あまりツッコんでも意味はないと思う。ラジオが「ゴーホーム」の火星人のようなお節介さを発揮したり、フロイトまがいの心理劇をやってみたりとか、どっちかいえば悪趣味だと思う。 それより人並さんご指摘のように第三次世界大戦の予感に怯えるアメリカ社会の暗さの方が印象的かな。主人公の年長の友人レイは左翼だから、とくにアカ狩りの予感はシビアでもある。要するにクイーンの「九尾の猫」と同じ時代背景だ。 というわけで、小説としての読みどころもあるけども、ミステリ、じゃないなあ。 |
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| No.9 | 6点 | 不思議な国の殺人- フレドリック・ブラウン | 2025/06/30 22:12 |
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| ユーモア、という感覚でもないか。
要するにブラウンの短編作品の延長線上にあって、短編の豪華版みたいな長編だと思う。スモールタウンの週刊新聞発行人(兼編集者)が一晩に遭遇する怪事件の数々、という話。スモールタウンということでロクなネタがなくて、新聞を発行する甲斐もないと嘆くわけだが、前半ではこれでもか!と単発的に事件が起き続け、しかもそれがどれも翌日発行の新聞には載せることができないという悲運wに逢う。夜半からはとんでもない濡れ衣が主人公にかかってしまい、一転追われる立場になり....でも翌朝にはすべて解決。主人公もネタ満載の新聞が発行できてめでたしめでたし、な話。ブラウンらしい楽天主義である。 ホント目まぐるしく事件が起きていく。ジェットコースター的スリラーである。各章の先頭にルイス・キャロルからの引用文があり、夢幻的な雰囲気を作るが...雰囲気作り以上というものでもないか。主人公を幽霊屋敷に誘き出すためのネタではあるのだが。 最優秀助演賞はバーのマスターのスマイリー。なかなかハードボイルドなマスターで渋い。意外なくらいに荒事での活躍を見せるし、主人公をサポートしてくれる!あとウィスキーを遠くから投げ込むように飲むルイス・キャロルのマニアのエフィーディ・スミス。あれ本作女性キャラが端役二人だけでほぼ登場しない! タイトルからして "night of the jabberwock" だから、「ジャバウォックの殺人」とかそういうのを期待してしまったけどね。細かい辻褄とかそういうことはあまり気にせずに、ひと夜の夢幻劇みたいに読むのが吉かな。 |
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| No.8 | 8点 | 通り魔- フレドリック・ブラウン | 2025/06/30 13:27 |
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| Wikipedia の執筆者が妙に本作を推しているので、読んでみたよ。
...いやブラウン舐めてた。すまぬ。 もちろん短編の名手だとは重々承知しているのだけど、ミステリ長編は仕掛け先行で解決は竜頭蛇尾、小洒落てはいても小説としての本来の趣きには欠ける...というイメージを持っていた。が本作はそんな先入観を十分覆す力量のある名作。知名度が低いのが本当にもったいない。 アル中気味のシカゴの新聞記者スイーニーは、ブロンド女性だけを狙って刃物で腹部を斬る「通り魔」事件の直後に遭遇する。しかし通り魔を猛犬が阻んだため今回の被害者ヨランダは軽傷で助かった。スイーニーはヨランダに一目惚れをし、ヨランダを手に入れようとアル中から立ち直り「通り魔」の追求に乗り出す。最初の事件の際の小道具として登場した「悲鳴をあげるミミ」と題された彫像が暗示するものとは? で原題は「悲鳴をあげるミミ」でこの彫像がなかなかサイコホラーな役割を果たす。ブルブル、である。スイーニーが遭遇した「通り魔」直後の現場では、倒れている白衣の女とその背後で唸る猛犬、女は意識を取り戻して立ち上がるがその腹部にはべったりの血が...その時猛犬は伸び上がり、女の背ファスナーを一気に引き下ろして....という印象的な場面あり。ヨランダは事実上ストリップというべきショーのダンサーで、猛犬はまさにショーの相棒。お色気サービスと言わば言え、この場面のイマジネーションが素晴らしい。 比較的キャラ造形の印象が薄めのブラウンだが、本作はなかなか印象に残る人物も多い。ヨランダのマネージャーで、スイーニーは第一の容疑者として念頭におきつつも「共闘」みたいになるドク・グリーン、ミミの作者の変人彫刻家、なかなかのナイスガイであるブライン警部など、キャラもよく描けている。 そして...結末はある程度読者の予想を引っ張りながら、絶妙のひっくり返しがある。「こう、ちゃう?」と思い込みで読んでいくと、まさに引っかかるタイプのもの。純ミステリとして上出来。ガチ真っ向勝負のサイコスリラー。 ブラウンって力量のある作家だよ。マジで。 (けどシカゴの酔っ払いというとマローン弁護士なんだよなあ。そんなにシカゴはアル中が多いのかww。真夏のシカゴで公園で野宿するルンペン親父とスイーニーは昵懇で、このオヤジが見事にオチを締めてくれる。ここらへんは短編作家ブラウンの安定の切れ味) |
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| No.7 | 6点 | 彼の名は死- フレドリック・ブラウン | 2025/06/18 12:52 |
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| 殺人者側から事件経過を描いていく、倒叙というかクライムなんだけども、ちょっとした仕掛けが作品のイノチになっている技巧派作品。毛色が違った意味でのアイデア・ストーリー。
各章の冒頭で「彼(彼女・私)の名は○○」とこの章の視点人物が名乗る。本当のキャラの場合もあれば、犯人などが身元を偽る目的で名乗る偽名もあるけどもね。とある事情で殺人を選択した印刷工場主の行動を追いつつ、偶然の悪戯で殺さなくてはならないターゲットが次から次へと登場していくサスペンス。もちろんこの仕掛けの中には、自分が狙われているとは夢にも思わない被害者側もカバーされていて、視点の切り替えによって呑気な被害者側と、対照的に神経質な犯人の心の動きが描かれていく。思わず「考えすぎだろ!」とツッコミたくはなるが(苦笑) まあ、犯人はかつて妻を殺してバレなかった前歴があり、いわゆる「殺人は癖になる」そのまま。章の切り替えで適度に経過をすっ飛ばすとか、ブラウンの編集感覚とでもいうべきセンスが楽しめる。 狙いは面白いとは思う。着地は大体想定内くらいかな。「狙い以上の面白さ」とまではいかないか。 (ちなみにブラウンの代名詞みたいな小道具である、ライノタイプが本作も登場。キーボードを打つことで、そのまま鉛を鋳造して印刷用の印版を一貫して自動で作成してしまう優秀な機械) |
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| No.6 | 7点 | スポンサーから一言- フレドリック・ブラウン | 2025/06/10 17:21 |
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| ブラウンって子供の頃に大人気だった覚えがある。星新一ブームの中で「星新一が好きなら次はブラウン」って流れがあったんだ。そんな経緯で昔読んだ。
この短編集の前半はショートショート。後半は文庫50ページ超の「地獄の蜜月旅行」「闘技場」があり、30ページほどの表題作。宇宙戦争を回避するために選ばれた戦士よる決闘で文明の興廃を決めるアイデアでガチSFな「闘技場」は、面白いけどもこれブラウンじゃなくても書けるかな。汎用的なSFアイデアでもはや大古典。 そうしてみると「スポンサーから一言」は何というかブラウンらしい話だとも思う。これは「神さまから一言」でも「地球から一言」でも成立しない話だというのが鋭い。「スポンサー」という曖昧で放置せざるを得ない話者だからこその効果、というのがイイ。スポンサーからのあからさまな誘導には、誰しも反発をおぼえるという普遍の人間心理は、今ハリウッドでまさに起きていることの原因でもあるわけだ。ある意味「永遠のSF」かもしれないな(苦笑) 他の作品でも見受けられるけども、ブラウンって一種のリドルストーリーな傾向があるんだよね。「スポンサー」だってそうだし、あるいはもっとジョーク仕立てにした「かくて神々は笑いき」や「翼のざわめき」もそうだし、ショートショートだと「鏡の間」はそういう合わせ鏡の想像力。矛盾する論理の間で置いてきぼりにされて、読者が戸惑うのをブラウンは意地悪くニヤニヤ眺めている。 とはいえとてもアメリカンなホラ話の良さもあるわけで、わざわざ人類のサンプルにアル中を選んでしまい、動物園に収容された酔っ払いの天国「選ばれた男」とか笑えるよ。 もちょっとブラウン、やってもいいかなあ。 |
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| No.5 | 5点 | 死にいたる火星人の扉- フレドリック・ブラウン | 2024/03/29 15:03 |
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| 原題がさほど面白いわけではない「DEATH HAS MANY DOORS」なのを、これほどキャッチーな訳題にした、というだけでもとにかく目立つ作品だからねえ。ついつい手を出したくなるよ。いや、火星人....ブラウンと言えば「ゴーホーム」の方の火星人もいるわけだが、青春ハードボイルドのエド&アンクル・アムシリーズなんだから、「火星人に殺される...」とエドに護衛を依頼した女がたとえ不審な死を遂げたとしても、SFにはならないし、また悪趣味なアメリカンジョークの世界に突入するわけでもない。
一応ハウダニットものではあるんだよ。そうすれば「火星人が殺した!」はミスディレクション?かもしれないが、サリー殺しの方は物理トリックに気が付くんじゃない?(場違いに詳細な描写でピンとくる...)キャラはそれぞれごく普通にうまく書けていて、エドくんのホロ苦青春と酢いも甘いも噛み分けたアンクル・アムのコンビ感の良さは、スレてないウルフ&アーチ―といった味わいもある。ボクシングのエピソードとかセイシュンしてるよ(モニカくんレギュラー化したらいいのに) けどね、どうもプロット展開が悠長なんだよなあ。そしてハッタリに納得の真相があったなら、ミステリ史に残る不可能犯罪の名作なんだろうけど、正直ハッタリがハッタリで終わった残念感が強い。(第二の殺人のハウダニットは評者はアホか!) なんかいろいろ惜しい、残念という印象の作品だけど、これは訳題でハードルを上げまくった結果みたいな気もするよ。 |
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| No.4 | 6点 | さあ、気ちがいになりなさい- フレドリック・ブラウン | 2023/12/03 20:06 |
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| 「異色作家短編集」の1冊で出た本。何よりのウリは、星新一訳。
日本のアイデア・ストーリーの第一人者が、アメリカのアイデア・ストーリーの教祖の名作集をやるわけだ。 確かに星新一っぽい言葉の使い方もあるが、こうしてみると意外なくらいに資質の差が出ているようのも感じる。ストイックなペシミストである星新一と、楽天性を恥ずかしがって意地悪なイタズラをを好むブラウン、といった構図で評者は読んでいたなあ。だから「シリウス・ゼロ」とか文明批判というよりも、「真面目さゼロ」な話として読んだ方がいいと思ってる。アホみたいな話が書ける、というのがブラウンの一番の強みじゃないのかしら。 そうしてみると表題作も、ナポレオン狂という誇大妄想をいかに変な風に着地させるか、を巡って(わざと)こねくり回した話のような気がするよ。こういう無意味なくらいに叙述でややこしくして煙に巻くのがブラウンらしいあたり。「ノック」なんてそうでしょう。「地球最後の男が聞いたノックの主」というテーマで、いろいろ思考実験する話じゃないのかな。 そういう意味だと、ブラウンの体質として、ミステリの多重解決みたいなノリがある。多くの作品にリドル・ストーリーな面があり、この二重性を一番ミステリらしくオチにしたのが「沈黙と叫び」だと思う。 |
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| No.3 | 7点 | 火星人ゴーホーム- フレドリック・ブラウン | 2022/06/25 14:01 |
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| SF古典、といえば古典なんだけども、笑えないアメリカン・ジョークがそのままSFになったような作品。火星人の悪趣味さってガチにアメリカン・ジョークの世界、じゃない? タイトルからして、「ヤンキー・ゴーホーム」のパロディのわけだから、それをヌケヌケとアメリカ人作家がやってみせるあたりの批評性を、自虐ギャグみたいに面白がるべき作品なんだろう。
それだけだと時代の証言に過ぎないわけだけども、SFとしてのキモはやはり「唯我論」というものなのだろう。要するに火星人ってアル中の妄想の象徴「ピンクの象」みたいなものなんだよ。火星人がもし主人公の作家ルークの想像の産物に過ぎないのなら、それによって悩まされる全地球人もルークの想像の中にしかいない。そして、それを読んでいる「読者」もルークの想像の中....いやいや逆に読者からすれば、読者の読む世界の中のルークも、ルークが想像する火星人も、すべて自分の想像の産物であって、読者が存在を否定すれば火星人も消えるがルークも消えて....こんな往還をブランコのように楽しむのが、やはりSFとしての楽しみ方、というものなのだろう。 |
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| No.2 | 8点 | 天使と宇宙船- フレドリック・ブラウン | 2018/06/21 21:53 |
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| ヘヴィな作品/書評が続いたのでさすがの評者も疲れた。こんなときにはお気楽極楽な作品を読むに限る。というわけでフレデリック・ブラウンでもSF系の短編集である。もちろん狙いはかの傑作「ミミズ天使」。
本作作者による序があって、SFとファンタジーの違いを説明している。SFでは現実にないフィクションの部分について「もっともらしい説明を必要とする」のだが、ファンタジーは「説明を要するものは、なにもない」。本作ではどの作品も「もっともらしい説明」をしているからSFということになるのだが、その「もっともらしい説明」を最後に持ってきて、その説明に向けて作品が収斂していくのをブラウンは得意とする...だからその「説明」がきわめてミステリっぽい「解決」になる。斎藤警部さん同様に、本作きわめてミステリファン向けと評者も思う。 でまあこの短編集、改めて読んでもやはり中編でボリューム感のある「ミミズ天使」が頭一つ抜き出た傑作である。ある朝、主人公が釣りに出かけるのに餌のミミズを庭で掘って捕まえようとしていたら、そのミミズが急に後光と白い羽を生やして昇天していった...主人公はそれからさまざまなシュールで奇怪な事件に遭遇する。その原因は? まあ落語みたいなおバカな話ではある。が最上の落語を聞いた気分になれるよ。一度読んだら終生忘れられないくらいの印象を残す傑作。そういえば波津彬子によるマンガがあるんだね。絵になったのを見てみたいな。 本短編集の最後のあいさつは「Fuck yourself」である。文脈によってはこれだってナイスになることもあるんだよ。 |
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| No.1 | 7点 | まっ白な嘘- フレドリック・ブラウン | 2018/05/28 21:34 |
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| ブラウンというと、典型的なアイデア・ストーリーの作家、というイメージなんだけど(まあSFはとくに)、こうやって読んでみると1作1作丁寧に肉付けして書いているのが伝わる...内容も実にバラエティに富んでいて、本当に万能選手の部類だ。まあ器用すぎるかもしれないけどもね。
「笑う肉屋」だって、ウソ!っとなるような足跡トリックものとして読むばっかりでなく、肉屋と小人のキャラを楽しんで読むのもありでは?と今になっては思ったりするわけだよ。「キャサリン、おまえの咽喉をもう一度」なんて音楽的な書き込み部分がリアリティを醸し出していて、いいしね。 で最後の「うしろを見るな」は有名な仕掛けモノ作品なんだけど、これだってサイコな偽札犯の語りが、仕掛け以上にホラーで怖い、というのがブラウンの腕の見せ所のように感じるよ。というわけで、ブラウンの小説の腕前を見せつけられて、どっちかいうと今回その「上手さ」の部分に感銘を受けてたなぁ。 エリンの「九時から五時までの男」と連続して読んだこともあるが、アメリカの雑誌全盛期の、短編小説の幅と深さ、アイデアと粋、切れ味とショックを改めて実感した気がする。さすが。 (久々にミミズ天使とか読み直したくなった..) |
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