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クリスティ再読さん
平均点: 6.43点 書評数: 1251件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.89 7点 メグレとしっぽのない小豚- ジョルジュ・シムノン 2024/03/27 17:35
大昔の早川「シメノン選集」で唯一の短編集。全9編収録で「しっぽのない子豚」という短編が巻頭なんだけど、これにはメグレは出ない。メグレが出演するのは「街を行く男」「愚かな取引」の2作だけで、他の7編には登場しない。えっ?と思って調べたが、実は本書の底本は「Les Petits Cochons sans queue」であり、底本みたいに表示されている「Maigret et les Petits Cochons sans queue」が嘘?というのが面白い。訳書は1955年出版で、底本は1950年刊のフランスで編まれた短編集。直輸入みたいな感覚で底本そのままに訳したが、「メグレ」を表題にしないのは営業上まずい、という判断があったんだろう。

「街を行く男(街中の男)」ならこの表題のフランスミステリアンソロがあるくらいの「メグレらしい」短編。尾行された容疑者が家に帰れず金がなくなって窮迫していくのをメグレがじっと見つめるスケッチ風の話。「愚かな取引」は珍しくナントの機動警察にメグレがいた時期の話。
本書収録作のどれもシャープな切り口が楽しめる。いうまでもなく、シムノンの筆に脂がノリに乗った時期。その中でも最初の3作が長めの作品で、読み応えがある。
「しっぽのない子豚」は新妻が夫のオーバーのポケットから見つけた、しっぽのない子豚の置物に、古美術商の実父の秘密ビジネスとの関わりを察知して心配する話。視点設定が素晴らしいけど、このアイデアならメグレ物で使っても面白いだろう。
「命にかけて」はコンゴでの過去の因縁を引き継いだ男二人の対決! なんちゃってなオチが皮肉。
「しがない仕立屋と帽子商」は「帽子屋の幻影」の元ネタ短編。とはいえ、この短編はシリアルキラーの帽子商の犯行を察知した、小心な移民の仕立屋が訴えようかどうか懊悩する話を、仕立屋視点で描いている。長編が帽子商視点でうまくネタバレしないように描いているのと対照的で、同じ話なのに「二度美味しい」。全盛期のシムノンの切り口のシャープさと腕前に感服する。
他の作品も切り口のうまさ、いきなり核心に話を持っていく語り口のうまさに惚れる。
(国会図書館デジタルコレクションで。巻末の予告には「メグレと不運な刑事」が載っているけど、これは出なかったんだよなあ。祝「シメノン選集」コンプ)

No.88 5点 メグレとひとりぼっちの男- ジョルジュ・シムノン 2024/03/11 12:26
メグレ物というと、戦前の作品から「もうすぐ停年」と言い続けて最終的には1972年まで勤め上げたことになる。戦中戦後のメグレ物には引退後のメグレを描いた作品もいくつかあるが、要するに「サザエさん時空」に突入してしまい、メグレ周辺の人間関係はずっとそのままで、世相風俗だけ時代に沿って動いていくことになる。本作は1971年作品で晩期の作品になるが、珍しくも事件が起きた年が1965年と明言されている。そして、メグレが戦後すぐに地方に左遷されていて、パリで起きていた事件について知識がないことが、話のキーになっている。

過去の事件と、その事件の影響で人生を捨ててルンペンになった男の話。徹底的に人間関係を捨てて、誰ともロクな会話をせずに、あばら家に一人住む男が殺された。この男の過去をメグレが追っていく。そういう大枠だから、やはり年代を明記する必要もあるわけだ。そして、訳者の野中雁氏があとがきで「メグレも老いた」と書くように、「サザエさん時空」であってもメグレの人格には、相応にシムノンの老いも反映していく。そういう意味で「枯れた」作品には違いない。

逆に言えば、プロット的にはややアラが目立つのも否定できない。いうほどにこのルンペンの人格と過去の事件が深堀りされるわけではないし、過去の事件とはいえ20年前で、メグレと同世代の刑事なら何となく過去の事件に気がついた可能性も高くて、やや捜査が雑、という印象もある(バカンス中の事件という設定はその言い訳?)。そして密告がきっかけで局面が簡単に打開するのは、ご都合が見えて芳しくはないなあ。

全体的に「粘り」みたいなものが失せてきているようにも感じる。我が身に引き換えても、これが「老い」というものか。

No.87 7点 メグレと殺人予告状- ジョルジュ・シムノン 2024/02/02 15:13
う~む、これ後期の秀作じゃないかしら。
どっちかいえば評者は「猫」あたりに近い世界に感じていたなあ。
今風に言えば、オタクな夫とそのオタクな趣味を嫌ってコレクションをゴミに出す妻。妻は夫のオタクな趣味を「気持ち悪い」「頭おかしい」と決めつけるが、そんな妻の姿に子供たちは辟易する...
まあシムノンだから通例に乗って、これを厳めしい法律家の家に婿入りした庶民出身の弁護士の話として描いている。でもシムノン自身のこのパランドン夫人への嫌悪感が見え隠れするあたりも興味深い。殺人予告状に導かれてメグレがこの一件に事件前から介入することになるのだが、ミステリ的には「誰が被害者になるか?」というのが主軸の「謎」になるというユニークな構成。さらに予告状の意味もしっかりこの一家の病理に根差していて、「運命の修繕人」メグレらしい事件でもある。
海事事件専門の弁護士として成功していても、オタクで気の利かない小男なのを妻にバカにされ続ける夫が、なかなか類型を離れたリアルな造形で興味深い。そして所有意識が強すぎるために自他境界が曖昧になっているかのような妻.....いやいや、この手の人間には評者も閉口しているところだったりするんだ。そんなこともあって、推したい作品。
(あ、あと法文インサートは「片道切符」で効果をあげた手法だなあ)

No.86 7点 ブーベ氏の埋葬- ジョルジュ・シムノン 2024/01/16 16:16
さてそろそろシムノンも最近の翻訳に手を出すことにしよう。
河出の「シムノン本格小説選」なら9冊出たわけで、その昔の集英社のシムノン選集に並ぶボリュームの非メグレの出版になる。だからミステリ色の強いものもあれば、そうでないものもある。実際、シムノンの一般小説というと、ミステリ色が強いもの、自伝的な内容のもの、一種のピカレスク、「第二の人生」といったテーマのもの、性の問題を扱ったものと内容は多岐にわたっている。本作は比較的ミステリ色が強いものだけど、パリの街角で急死した老人の「さまざまな過去」が露わになってくる話。
女性関係もそうだし、若く血気盛んな頃には当時で言えば「アパッシュ」というような不良青年だった経歴も、さらにはパナマで名前を変えて結婚し、コンゴの金鉱山で一山当てて....と波瀾万丈の「過去」が、身綺麗な独居老人の背後に横たわっている。急死によってその死が新聞に載ったことで、そんな過去が芋づる式に明らかになっていく。それを淡々とした筆致で描く小説だけど、「人生的な興味」というやつで、つまらないわけが、ないでしょう?

まあ評者だって、急に死んだら、ヘンテコな過去がいろいろと明らかになって....とかあるかもよ(苦笑) いや人間、実は誰しも「冒険」をしながら生きているものだ。つまらない日常さえも、その由来を探っていけば「冒険」という大仰な言葉でしか言い表せないような因果によって、織りなされているのかもしれないのだ。そういう面白みというのは、やはり「小説」の面白みであり、ミステリはそれを効率よく語るための形式なのだろう。

(ちなみにリュカ登場の作品だけど、上司の司法警察の局長はギョーム氏で、メグレじゃない、あと下積み刑事のムッシュー・ボーベールがナイスなキャラ)

No.85 6点 メグレと優雅な泥棒- ジョルジュ・シムノン 2023/11/22 23:46
困ったね。警察小説としては非常に楽しい本なんだが、ミステリとしては見るべきものがない。警察小説がミステリのサブジャンルというわけではない、ということのようだ(苦笑)

「優雅な泥棒」と本作で呼ばれているキュアンデは、時間をかけて下見をし、わざわざ家人が寝ている中に忍び込み、目を覚まさせずに枕元の貴金属宝石を盗む、という特徴的な手口の泥棒で、メグレもよく知っているが尻尾を掴ませたことはない。原題は「怠惰な泥棒」だそうだが、優雅も怠惰もしっくりいかない。静かな、とかそういう形容詞が似合う読書好きで親孝行な人柄でもある。

いやこんなキャラ設定したら、それだけで小説としては実に生彩が出るのは決まっている。このキュアンデが殺された事件に、メグレは担当外とはいえ非公式に深入りしていく。しかしメグレに割り当てられた仕事は、群集の中で現金輸送をする行員から強奪する武装強盗の捜査。確かに社会的には重大事件かもしれないが、「古いデカ気質」のメグレにはつまらない事件。そんな想いもあってメグレはキュアンデの事件にこだわっていく...

連想するのは「鬼平犯科帳」の「畜生働き」とかそういう隠語。本格の盗賊であるキュアンデにメグレは感情移入し、その死の原因となった背景を知りたいと思う。メグレも古い男なのだ。だから「警察小説」であることは、間違いない話なんだよ。
でも、キュアンデの事件と現金強奪事件がうまく交わるわけではない。もちろん小説としての対比はしっかりとあるのだが、それはミステリというよりも小説としての構成だ。いや、それ言ったらギデオン警視とか87だって、モジュラーの個々の事件が交差するというほどでもないのだから、いいんじゃない?

だから本作は、やっぱり「警察小説らしい警察小説」なんだ。ちなみに本作はメグレの部下たちがほぼオールスターで(最低名前だけは)登場する。意外に珍しいかも。常連のリュカ・ジャンヴィエ・トランス・ラポアントは名前だけで、あまり出番のない二コラやバロンが活躍し、ロニョンは名前だけで、同様な下積み刑事で妻に逃げられたフェメルが活躍する。そういうあたりもちょっと変わっているか。
あと「アルザスの宿」に登場した怪盗ル・コモドールのことをメグレが懐かしく回想するシーンがある。メグレシリーズ開始以前の脇役時代に接点があるのかな。

No.84 7点 メグレとマジェスティック・ホテルの地階- ジョルジュ・シムノン 2023/10/25 07:59
珍しくハヤカワがメグレの未単行本化作を新訳で出してくれた。ありがたい!
「EQ」に載ったきりの作品は面白いものが多いから、ぜひ続けて出して頂きたいな~応援のため、勇んで新本ゲット。
で、本作は「メグレ再出馬」から八年後の戦時中(1942)に出版された「メグレの帰還」という本に、「メグレと死んだセシール」「メグレと判事の家の死体」と合本で出た作品。「EQ」じゃ一気掲載だったから、評者何となく「奇妙な女中」なんかと同じくらいの中編かと思っていたが、堂々の長編。
で「メグレ再出馬」で「開放的なメグレ」に描き方が変わった面を継承していて、雰囲気的には第三期とあまり変わらなくなっている。で、意外にこの第二期から第三期の初めあたりって、結構メグレ物でも「意外な真相」とかパズラー風味を感じる部分もある(関係者一同を集めて謎解きするよ~)から、メグレ苦手な本格マニアにも正面から紹介したら、意外に支持されるかもしれないな。「男の首」が代表作というメグレ観は間違っている。

でこの作品の特徴は、高級ホテルを舞台として、労働者階級の裏方スタッフと、偶然客として宿泊した、アメリカの大金持ちの玉の輿に乗った元仲間との因縁話が描かれる。

<クラーク氏は、きみとは住む世界がちがう。きみには理解できまい。クラーク氏のことは私に任せて」おくんだ>
メグレは骨の髄まで庶民だったので、今、自分のまわりを取り巻いているものに反発を覚えた。

と、無実の罪で逮捕されたカフェの係の男のために、アメリカ人の金持ちを挑発してパンチを喰らい、金持ちと直接交渉する糸口にする....いや、銭形の親分みたいなタイプのカッコよさ。メグレは庶民で英語が分からないから、インテリの予審判事から受けていた「階級差別」を見返すわけだ。

庶民の味方、メグレ

これは大衆小説の王道、というものだ。大傑作というものではないが、佳作ではある。

No.83 5点 判事への手紙- ジョルジュ・シムノン 2023/10/03 00:53
シメノン選集もあと少し。奮発して古書で購入。
この「判事」、エルネスト・コメリヨー予審判事だから、メグレシリーズでお馴染みのあの人かしら。でも小説はコメリヨー判事が予審を担当した殺人犯、アラボワーヌ医師が書く宛先であり、アラボワーヌの目で断片的に僅かに描かれる程度。
このアラボワーヌ医師は、周囲も納得しないようなよくわからない理由で誰かを殺し...だけど、一人称手紙文だから、具体的な事件が小説終盤になるまでわからない。田舎町で開業した医師で、死没した前妻との間に二人の女の子・母が健在で、アルマンドという妻がいる。この医師の人生を丹念に描いていく。
シムノンだと「強い女性に支配される男」というのは本当に頻出パターン。本作のアルマンドも「アラボワーヌ医師の人生のプロデューサー」みたいな強い女性。医師はふとしたきっかけで拾った女性、マルティーヌとの情事に溺れ...殺人事件が予告されて「犯行以前」みたいな格好で手紙が進行していくのだけども、何がどうなるのか、終盤に至るまでまったく予断を許さない。
で、犯罪心理小説か、というとシムノンなので心理の不透明感が強くて、「愛の不条理」とか純文学的な本格心理小説という側面の方が強いな。グレアム・グリーンの「情事の終り」あたりと近い小説。ややサディズムのような描写もある。温厚な田舎医師なんだけどもねえ。
シムノンとしては長めの小説になると思うよ。ガチガチの心理主義だからヘヴィ。「ミステリの形式」は借りただけで、狙いは「ミステリの動機」からは大幅に逸脱している。やや晦渋になりすぎたと本作を反省し、リライトして「可愛い悪魔」になったんじゃないかな。あっちのが小説としてうまく処理されている。
(思うが、この殺人の動機って一番近いのは「彼らは廃馬を撃つ」な気がする)

No.82 6点 メグレとリラの女- ジョルジュ・シムノン 2023/08/22 09:35
メグレ、ヴィシー温泉に湯治に行く。
ヨーロッパだとお風呂に入るわけじゃなっくて「飲む」のが温泉利用の中心のようだ。タルコフスキーの「ノスタルジア」が温泉地が舞台で、屋外プールみたいなのに水着で入っていたけど、日本の温泉とは大きく違うのが面白い。
過労と歳で何となく体調が悪いメグレのために、医者は2種類の源泉を毎日飲むように処方される。こんな利用法らしい。もちろんメグレ夫人と...でもメグレだから事件も追っかけてくる。
湯治場で出会う、特徴的なファッションにより「リラの女」とメグレが秘かに読んでいた中年女性が自分が経営する下宿で絞殺された!ヴィシーを管轄するルクール警視はメグレの旧部下。殺された女性の不思議な佇まいに関心があったメグレは、ルクールに乞われて事件に関わる...この殺された女性の過去とは一体?

こんな話。だから湯治と捜査が並行するようなもので、普段以上にメグレ夫人の出番も多い。旅先のクセに、ほのぼのアットホームな雰囲気が漂う。メグレはアウェイな事件は多いけど、温泉町でも皆メグレを知っていて、リスペクトされているのが、さらに「ゆるめ」の雰囲気を醸し出している。
ミステリとしては..うん、とっても気の毒な犯人。それなりにミスディレクション風の仕掛けもあるんだが、その仕掛けと被害者の「自立した女性像」とミスマッチしている感が強くて、何かね~という印象もある。

まあだけどさ、こういうのはシリーズものでしかできない世界でもあるよ。メグレというシリーズを続けてきたご褒美みたいな作品と思うのがいいんじゃないかな。
(tider-tiger さんもご指摘だけど、訳者伊東守男氏による解説がなかなかヒドい。いやさあ、こういうシリーズものによって、読者とキャラとの間の継続的で親密な関係性を築いてきたことで、はじめて立ち現れる「空気感」というというか、個人を越えた集合的な「世界」もあるとと思う。単発の「作品主義」も、読者と作者が一対一で対峙する「作家主義」も文芸創作のすべてではないし、ジャンル小説としてのジャンルと作者の相克など、エンタメが持つ「文芸論的な論点」というのも非常に興味深いものだと評者は思っているよ)

No.81 6点 アルザスの宿- ジョルジュ・シムノン 2023/06/26 15:07
さて評者は国会図書館デジタルコレクションで本作。
創元で出たが、メグレ物ではない単発のエンタメ。メグレ夫人の出身地がアルザスの設定で、よく「妹の出産」だなんだで帰省するし、名物シュクルート(ザウアークラウトだな)はメグレも好物。そんなアルザスの観光地ミュンスター(仏語だとマンステールと発音した方がいいようだ)の、シケた宿屋に寄宿する冴えない中年男、セルジュ氏。

セルジュ氏はぶらぶらしているくせに金欠のようで、宿の女主人に下宿代を請求されて「待ってくれ」とお願いする始末。でも、宿の雑用を気よく手伝って...と「居残り左平次」みたいなキャラでなかなか、いい。向かいのホテルに投宿したオランダ人銀行家の手元から、金が盗まれる事件が起き、容疑が身元不詳のセルジュ氏にかかった!
セルジュ氏はその容疑を晴らすが、銀行家夫人がセルジュ氏を謎の詐欺師ル・コモドールだと指摘する....ル・コモドールと対決するパリ警視庁ラベ警部がこのセルジュ氏に貼り付いて監視するが、セルジュ氏は詐欺師か?盗難事件の真相は?

というような話。セルジュ氏のキャラとその謎、それから宿の奥にある別荘に住む未亡人とその娘との間のロマンス含みの関係など、「セルジュ氏の謎」として小ぶりながらうまくまとまった作品。
考えてみたら、ホテル探偵居残り左平次って、結構いいネタだと思う。「幕末太陽伝」のフランキー堺のイメージでミステリだったら素敵だな。

シムノン版ルパンみたいな味わいがあって、フランス人のルパン好きと、シムノンらしさとがうまく拮抗して補いあっている。結構な珍味作。

(あ、マンステールって地名、何で聞き覚えがあるんだろう?って思ってたが、ウォッシュタイプのチーズで有名なのがある)

No.80 5点 メグレとルンペン- ジョルジュ・シムノン 2023/06/06 18:19
そういえば船からドボン!で川に落ちて...で助かる、という設定は「第一号水門」でもそうだった。「国境の町」と連続して読んだせいもあるけども、また「川で生活する人たちの話」。シムノンって意外に「世界」のバリエーションは少ない作家みたいにも感じる。

で誰もが指摘するように雰囲気が明るめな作品で、表面的には世捨て人のルンペンの殺人未遂程度の事件。メグレが躍起になるのが不思議みたいなものだけど、ビー玉から殺されかけたルンペンに共感する場面が印象的。でもこの挫折したシュヴァイツァーみたいな元医師の造型をもう少し突っ込んでもよかったのかな、とかは感じる。元妻とか娘とか登場するわりにプロットに絡まないし。

メグレに謎解きを期待する、というのも何だけど、本作だとしつこく証言の矛盾を突いたり、意外な展開を見せるのは確かだし、「取り調べ小説」といえばそんな展開もある。まあ結局の後日譚でオチがついているわけだけども、ミステリとしての真相とかオチからはかけ離れているのも確か。でも作品の柄がどうも小さくまとまってしまうようにも感じる。
「ほんの小品」といった味わいなのが、なんとなく、もったいない。

No.79 5点 メグレ警部と国境の町- ジョルジュ・シムノン 2023/06/05 17:45
「メグレを射った男」の書評で「入手は降参」と書きはしましたが、調べてみると「国立国会図書館デジタルコレクション」というナイスなサービスがあります。身分証明書の画像を送って認証してもらうとかネット上の手続きが必要ですけど、シムノンの創元絶版分はおろか、名のみ聞く春秋社の刊行本やらわっさわっさと読むことができちゃいます。
本書とか「国会図書館で読んだ!」とか声の多い作品ですからね、こんなサービスするなら当然の候補というものでしょう。ただし、OCRではなくて画像としてそのまま取り込んだものですから、やや使い勝手は悪いです。スマホでもPCモニタでも読みづらくて、ノートパソコンを膝に乗せて立膝で寝転んで読むのが楽ちん。
そんな怠惰な読書姿勢でですが、幻の作品、行きましょう。

ベルギー国境の町ジベを、半ば私的な依頼のかたちで訪問したメグレ。パリで会った女アンナ・ピータースの冷たいキャラに興味を引かれて、アンナの弟ジョセフが、婚約者がありながらも子供まで作った女の失踪事件の捜査に乗り出したのだ。食料品店兼で角打ちでジンを提供し、フランス国内でありながら国境の向こうのフランドル人の河川労働者を相手に、利益を上げているピータース一家。そんな余所者一家の長男が、フランスの貧しい一家の娘に手をつけて子供まで作りながらも、許嫁と結婚しようとしている...ジベの街のフランス人からはこの失踪事件が一家の仕業と目されて、不穏な空気が漂っていた。メグレはこの事件をどう収拾するのか?

川沿いの街ということもあり、シムノンお得意の舞台設定、さらにはベルギー国境の街。さらには小商売に成功したプチブル傾向の強い余所者と、貧しい地元民の対立....コテコテのシムノン、と言いたくなるくらいの作品。でも事件は意外に単純。アンナの独特の情の強いキャラはいいんだけども、どうも作品としてはうまく回ってない。瀬名氏は「オランダの犯罪」の焼き直し、と言っているけども、まあそんな感じもあるかな。
さらにオチも第一期にたまにある後日譚で、ここらへんも「オランダの犯罪」っぽすぎるね。

う〜ん、雰囲気にはいいものがあるんだけど、手癖で書き飛ばしたような、と言ってしまえばそれまでか。メグレは本作だとジンばっかり飲んている(苦笑、あ一度グロッグにした)。

No.78 4点 メグレを射った男- ジョルジュ・シムノン 2023/03/25 09:07
「死んだギャレ氏」「国境の町」は入手を諦め気味だから、評者的には第一期メグレの最後の残り。駄作というか、第一期の終盤でシムノンがヤル気なくしていた作品という評価が多いもの。

いやね、それでもツカミとかいいんだ。公用をひっかけてバカンス気分で旧友を訪れようとメグレはボルドーに向かった。寝台列車の上寝台の男の落ち着かない様子に迷惑したメグレは、その男が急に列車から飛び降りたのを目撃した!後を追うメグレは、その男に銃で撃たれる。負傷したメグレは田舎町ベルジェラックのホテルで、呼び寄せたメグレ夫人と旧友を手足にベッドの上で、猟奇殺人鬼の事件の捜査を始める....

面白そうでしょ!列車内でのイライラ感やら興味を持ったメグレが単独行動でムチャやるあたり「サンフォリアン寺院」みたいだし、田舎町アウェイ事件で旧友と対立するのは「死体刑事」やら「途中下車」やら第二期以降によく出るパターンだし、それに珍しいベッド・ディティクティヴが絡む。モチーフ的には大変興味深い.....

原題は「ベルジェラックの狂人」。アウェイのメグレが被害者でベッドに釘付けなせいもあって、街の有力者からは「(内心)妄想を育んでいて、おかしいのでは?」と思われるのともかけてあるが、行きずりの女とSMプレイの果てに心臓に針を刺して殺す猟奇殺人鬼やら、街の有力者の秘密の趣味やら、メグレらしからぬ派手でサイコな話。でもこれが全然、物語として効いていない。何かリアリティのない背後事情と、シムノンらしいといえばらしい家庭悲劇で話がアチラの方向に逸れていって行ったきり。

瀬名氏は本作を「浮ついている」とバッサリ。らしからぬといえば、らしからぬ作品。

No.77 5点 フェルショー家の兄- ジョルジュ・シムノン 2023/02/21 16:48
筑摩書房世界ロマン文庫のシムノン。このシリーズ、「紅はこべ」「ソロモン王の宝窟」「恐怖省」といった古典的なスパイ・冒険小説をコレクションしたものだけども、そこにシムノン。意外と言えば意外なんだが、国際的な広がりが珍しくある小説だから、というような理由だろうか。

事件は、ある。サスペンス色はわりと感じられるのだけども、その事件というのが植民地経営者として「コンゴの王者」のような立場にあったフェルショー兄弟が、植民地での原住民殺害事件をほじくり出されて窮地に陥り、フランスからパナマに逃亡する話。それをフェルショー兄の秘書となった青年ミシェル・モーデの眼から描き、さらにパナマでの亡命生活とその破局に至る経緯を描く。というわけでコンゴでの事件は背景にあるだけで、それ自体がどうこう、という小説ではない。実際主人公は野心的な青年モーデの方で、偏屈な変人、だが植民地で荒っぽく稼いだ伝説の男に魅了されて秘書となるが、自身の野心に苛まれつつ、パナマでの死んだような亡命生活からの脱出を狙う..

事実上「悪の教養小説(ビルドゥングスロマン)」と見るのがいいんじゃないかな。ダイナマイトを投げつけて原住民を三人殺害したフェルショー兄の「伝説」と、現在の偏屈さ、さらにはパナマで生気を失ったような生活を送るみじめな老人を見つめる、モーデの視線のなかに「自分はフェルショーのような『何者か』になれるのだろうか?」という、焦りの気持ちと不安感というものが含まれないわけはない。この憧憬と自尊心と倨傲にさいなまれるモーデの姿が本作の焦点であり、このためにモーデもいろいろなものを犠牲に捧げることにもなる。
だからある意味、「男の首」のラディックを脱ロマン化してずっと小物にしたようなキャラだ、ということにもなるのだ。

一般にシムノンの「ロマン」はすっきりしない話が多いのだけども、本作はとくにすっきりしない話。雰囲気とかグレアム・グリーンとの共通性みたいなものを感じるんだがなあ....シムノンのロマンではわりと長めで、翻訳がやや分かりづらい。大したことないがやや難航、でこんなくらいの評価。

No.76 7点 メグレ再出馬- ジョルジュ・シムノン 2023/02/02 11:28
メグレ物というのは、読者が「何が面白いのか?」を自分で探すことが問われる小説だ、とつねづね評者は感じていたりする。特に本作は第1期の最終作という特異な立場の作品。引退後のメグレがわざわざ甥の事件に介入する話で、第1期の特徴の「犯人との心理的対決」に加えて、第3期で目立つ「組織人メグレ」の要素も兼ね備えた両義的な作品だったりもする。

事件自体は大したことはない。暗黒街(ミリュー)の仲間割れみたいなものである。謎解き的な楽しみはほとんどない、といえばない(でも後述..)。もはや私人であるメグレが殺されかける場面はあるが、スリラー的な面白さでもない。第1期特有の心理サスペンス感は本作では希薄....となると、「何を褒めたらいいんだろう?」と困惑するのはよく分かるんだなぁ。

この小説の魅力というのは「感覚が広がっていく」ようなところ、とか抽象的な言い方で申し訳ないんだけども、そういう言い方をしたいんだ。仕事を引退して田舎に引きこもっていたメグレ。その「屈した」気持ちが久々のパリで出会った人々によって、徐々にほぐれていくさまみたいなものに、評者は面白味を感じながら読んでいた。メグレが味方にしようとして失敗する娼婦フェルナンド、メグレを心配するリュカ、メグレの後任でも妙なライバル意識もあってメグレの行動に困惑するアマデューといった面々との「気持ち」の通わせ方はもう「戦後のメグレ」になっている。組織から離れたがゆえに組織が前景に見えてくる逆説。そして、

「もしよかったら、芝居へでもいくとするか。」「お芝居ですって、フィリップが刑務所に入っているのに?」「ふん!これが最後の夜さ」

で甥の身を案じてパリに駆け付けた母親(メグレの義姉)と一緒に、劇場やらナイトクラブを楽しむシーンが、生き生きとして素敵なんだよなぁ....

で第一期らしい最終対決も、メグレは決め手がなかなか見いだせない。それをメグレらしい「了解」でカチッと鍵と錠がハマるような瞬間が起きる。これこそメグレらしい「謎解き」ではない「謎解き」。そしてそれに至るまでのメグレ自身のジタバタ感が素敵なのである。
第1期のメグレの「ガードの硬さ」がこの作品でほぐれていくのを評者は何か楽しんでいた...なので、内容以上に妙に印象のイイ作品。そういう気持ちを採点に反映したい。

(例の瀬名氏の評が、メグレを読むとは何なのか?というあたりでとても示唆的だった...お勧めします)

No.75 7点 メグレとベンチの男- ジョルジュ・シムノン 2023/01/16 22:38
メグレ物のジャンルって本当は結構幅広いものだけども、たぶん皆「細かいことを言っても...」という判断で「警察小説」にしているんだろうな、なんて思うこともある(苦笑)。でも本作みたいにストライクな「警察小説」のこともある。

「死体が履いている靴が、家を出たときとは違うのはなぜ?」
「失業したはずなのに、家族には毎日出勤しているように見せかけているのはなぜ?」
とかね、そういえば短編の「誰も哀れな男を殺しはしない」だなぁ...だけど短編から見ればさらに話が二転三転して、予想外の方向に転がっていくのが「警察小説」らしさなんだと思うのだ。警察の捜査を通じて、市民たちの生活と秘密が覗き込まれ、人間の意外な姿がパノラマのように浮かび上がる...なら、いいじゃない?

殺された男の二重生活は、小市民的な道徳性への反抗だから、これ自体シムノンの一大テーマなのだけども、この殺された男の娘もしっかり「反抗」を準備していて父と娘の内緒の交流があったりするのもナイスな造形。さらに「しし鼻の女」とか「警官の未亡人」、それに軽業師と一癖二癖あるキャラが次から次へと繰り出される面白さがあって、それで話が転がっていく動力が得られている。そう見ると、プロットの構築的な一貫性を重視したがる方には向いていないのかもしれない。
でもそれが警察小説かも。手練れのシムノンだからか、それでも見過ごした意外なところから「真相」が漏れ出てくるような面白さを感じていた。ちょっと評価を良くしたい。

No.74 6点 妻は二度死ぬ- ジョルジュ・シムノン 2022/12/19 22:57
シムノン最後の「小説」。というのも、この後もシムノンって自伝をいろいろ書いているわけだから、創作活動がゼロになったわけじゃない。まだまだ筆力に余裕があって、本作はきわめてあっさりした仕上がりだけども、それでも十分なシムノンらしさがあるのは、ちょっと驚くくらい。

原題が「Les innocents」だから「無実な人たち」と取ってしまえばミステリぽいんだけども、読んだ後だとブラウン神父じゃないけど「純真な人たち」と取りたくなるような作品だったりする。交通事故死した妻の死の真相を夫が調べる...といえば、スゴく「ミステリ」な興味がありそう!となる。確かに「妻の死の真相」が話の屈折点として機能はするんだが、それ以上に一流の宝石デザイナーとして成功した主人公が備える(やや成功とは裏腹な)「無欲さ」みたいなものの方がヘンでもあり、読者の心にずっと引っかかってくるのではなかろうか。

この本の登場人物たちはある意味「みんな、善人」だったりする。それでも妻を喪った(しかも二度も!)主人公の屈折が、どこかしら不穏なものを感じさせてならない....いやいや、これは評者の妄想。しかし、登場人物の運命を読後妙に気にしてしまうのは、やはり評者がシムノンの術中にしっかりハマっている証拠のようなものなのだろう。

なので本作は「ミステリな題材を思いっきり非ミステリ的に扱った」実にシムノンらしい小説なのだろう。

No.73 5点 メグレ式捜査法- ジョルジュ・シムノン 2022/10/26 21:43
邦題はスコットランドヤードから派遣されて「メグレ式捜査法」を学ぶ目的で派遣された刑事パイクが、メグレに同道することから来ているんだけども....いや、この仕掛けが全然効いてない。まあ「メグレ式捜査法なんて、ない!」というのがメグレの持論でもあるわけで、だったらうまくいくわけないじゃん...という懸念が残念ながら中る作品。
舞台はコートダジュール沖に浮かぶポルクロール島。「なんらかの理由で人生のレールを脱線した人たちが、みんなここに集まる」吹き溜まりのような保養地。「ポルクロールぼけ」という言葉があるくらいの、時間が止まったようなリゾートである。というとね、舞台柄からして戦前の「紺碧海岸のメグレ」を連想する。そうしてみるとリゾート客たちが集まる宿屋兼バーの「ノアの箱舟」は「リバティ・バー」に相当するし、だとすればパイク刑事も遊び人風の地元刑事に相当するのかしら。いや「紺碧海岸のメグレ」も焦点がはっきりしない作品だったけども、この作品の焦点もはっきりしない。

「メグレは友人だ」とこの「ノアの箱舟」で啖呵を切った元ヤクザが、その晩に殺された....こんな事件なので、研修中のパイク刑事を引き連れてメグレがこの島を訪れる。確かにメグレの「お世話になった」ご縁のある男だが、実際には半グレくらいの小物。一番いいキャラはこの男の愛人で結核を病んでいたジネット。男の逮捕をきっかけにメグレが手配してサナトリウムに入れて、今では元気になって娼家の経営補佐をしている女。ちょっとした再会、同窓会効果みたいなものがある...けどもあまり本筋に絡んでこないや。

ボート生活者とか、確かにシムノンお得意の設定をいろいろ投入した作品なのだけども、それがために逆に散漫になってしまったのかな。こんな失敗のしかたもあるものだ。

No.72 5点 ベティー- ジョルジュ・シムノン 2022/10/16 19:57
シムノンでも本作はミステリ的興味はほぼない作品。しかも、女性主人公、というのはかなり珍しい。強いていえばシムノンなら「ペペ・ドンジュの真相」、あるいは「テレーズ・デスケールー」に近い話。要するにフランス伝統の人妻心理小説。SEXと「罪」が主題で自分から破滅を求めていく女性が主人公だから、神父とか登場しないけども一応純文学のカトリシズム小説の部類だろうか。

≪穴≫は終着駅だ。奇人、変人たちの終着駅! 精神病院や死体置場にいく前の最後の停留所。

このバー≪穴≫で酔い潰れた女、ベティー。偶然のことながらベティーを放っておけずに、医師未亡人のロールは、ベティーを自分のホテルに連れ帰り介抱する。ベティーは自身が抱えるトラウマと夫に対する不満から、不倫にふけった報いで、家を追い出されたところだった...

というような話。いや実に話はシンプルで、女性のSEXと罪をテーマにした小説なんだけども、結末もやや釈然としない。シャブロルが映画化したこともあって、訳されたようだが、どうやら日本未公開。

う〜ん、こんなのもシムノン、描くのね。

No.71 7点 メグレの拳銃- ジョルジュ・シムノン 2022/10/06 09:26
中期メグレらしい「良さ」がある作品。いやこれ「奇妙な女中の謎」とちょっと似ている気もして、評者とかイカれやすいタイプの作品のようだ。メグレの父性っぽい魅力がキラキラしている作品。

しかも、問題の青年の父親のキャラというのが、よく描けていて、だからこそメグレが父性を発揮せざるを得ない、というのが何か納得する。空想的にいろいろな商売を思いついては失敗し、金銭的にルーズで悪い意味で「夢を追ってる」男、でしかも度胸のない臆病者だったら、そりゃ「負け組」もいいところ。そんなダメオヤジでも、3人の子供を自分の手で育てるんだが、上の二人の子供はダメな父親に幻滅して....だったらさ、末っ子の問題の青年というのもなかなか気の毒じゃないか。メグレは迷惑をかけられたわけだが、「人情警視」とか呼ばれるのは遠慮しつつも、それでも青年のことを気にし続ける。ロンドンでも有数の高級ホテル、サヴォイのグリルで二人が食事するシーンなんて、シムノンならではの味わいを評者は満喫。

さいごまですばらしい一日だった。まだ夕陽は沈みきらないで、人々の顔をこの世のものとも思われないような色に染めていた。

ロンドンといえばいつでも天気が悪いのが相場。でもたまには「日本晴れ」とでも言いたい「いい日」があるようだ。そんな作品。

No.70 5点 メグレ保安官になる- ジョルジュ・シムノン 2022/10/02 10:38
メグレだって、コカ・コーラをラッパ飲みするのである(苦笑)

アリゾナ州ツーソンというメキシコ国境の米軍基地の街が舞台。研修旅行、は名目で事実上慰安旅行みたいなアメリカの旅。いたるところでメグレは歓待され、名誉待遇で「八つか九つの郡保安官」のバッジを頂いている。けどこの街でふと時間つぶしに傍聴に入った検死法廷の事件に、メグレは興味を持った....

メグレ物の中でも「異色作」といえばこれほど「異色作」もないものである。メグレにはアウェイの事件も多いけど、これほど捜査権限もなく部外者な事件もない。メグレもほぼ検死裁判を傍聴するだけで、積極的な介入はなにもしないくらい。フランスでの捜査のやり方とアメリカの違いについて、感想を言う程度だが、それでも犯人を当ててみせて面目は保つ。だから、シムノンの見たアメリカのホンネみたいなものが、この作品の興味。

メキシコ国境の街、というわけで荒々しい西部の辺境..と思うと、そういうわけでもなくて、アメリカン・ウェイ・オブ・ライフに対するシムノンの「清潔すぎる」という言葉で象徴される違和感がすべて。二日酔いだって「特殊な蒼色の瓶」の薬で撃退! そして事件の背後にある男女関係も、なるべく表に出さないように配慮する清教徒主義などなど、メグレもいろいろ戸惑うことばかり。

「異色作」ついでで言えば、事件に面白味がないし、メグレも活躍しない。まあだから、「こんなのもあるね~」くらいの作品。

(ちなみに「メグレ、ニューヨークへ行く」はメグレ退職後の事件なので、時系列では本作が前(執筆は後)。「ニューヨークへ行く」は明言はしていないけど、初のアメリカ行きみたい。本作で散々出るジュークボックスに驚いている。戦後のメグレはサザエさん時空だからね)

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
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