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クリスティ再読さん
平均点: 6.40点 書評数: 1378件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1298 3点 京都利休伝説殺人事件- 柏木圭一郎 2024/09/30 21:06
茶道ミステリ、とはいえねえ。うんまあ広義の「旅情ミステリ」というか、2時間ドラマというか...山村美紗の功罪というのもあるとは思うよ。日本伝統文化を背景に旧家に渦巻く殺意、とかね、そういうフォーマットに乗っかってお手軽に「ミステリ」できちゃう。

暁の茶事での主客の対話から始まり、道端で毒が回って死ぬ男。被害者は建仁寺で開催される「茶道検定」のグランプリ有力候補だった...被害者が手帖に残した言葉から、別な出場者に容疑がかかるのだが?

こんな話。被害者が死んだ毒はカエンタケ、しかし現場に残されたペットボトルには砒素が入っていた、という謎はあるが、大したものではない。いくつかのダイイングメッセージがメインかな。ダイイングメッセージって、クイーンがあんだけコダわったんだけど、ツマらないんだよね。だから「ミステリ」はカタチだけで、レギュラーらしいキャラの掛け合いをファンは楽しむのかな。

タイトルに「利休」って入っているけど、利休七則が参照される程度のこと。「伝説」って何の話だ?真冬に夜明けを待ちながら行われる「暁の茶事」は、評者の先生でも2回体験したことがあるだけ、と伺った。かなりのレアな茶事である。デテール描写にはツッコミどころも目立つ。ちなみに裏千家が主催する「茶道文化検定」が実在しており、紛らわしい。「茶道文化検定」は茶道の知識をいろいろテストしてくれるもので、本作で描かれたような「お点前ショー」ではない。つっか、お点前ってそもそも競技みたいに競うものではないよ。
(あと「結構なお点前でした」なんてホントは言わないものだからね....マンガかドラマの影響と言われるみたい。評者の先生キビシいから濃茶で「結構な服加減です」って答えても「ニワトリかいな!」と叱られる...)

No.1297 6点 炎のなかの絵- ジョン・コリア 2024/09/28 21:13
異色作家短編集という企画自体、とっても常盤新平カラーの強いものだったわけだが、「ミステリ嫌い」を公言する常盤らしさがよく出た作家というと、コリアとサーバー、なんだろう。

けどさ、コリアだと狭義のミステリに入る作品もあるんだよね。創元の世界傑作短編集にも収録の「クリスマスに帰る」とかそうだし、サンゴヘビを夫が妻にプレゼントする「記念日の贈物」も、衝動的に殴って愛人を殺した娘のために父が後始末する「雨の土曜日」など、意外にミステリ色がある。まあとはいえ、皮肉な味わいがこの人の持ち味。サクッとイヂワルな話、というといいのか。

だからユーモアが前に出る作品が妙にうれしい。ミストラルを教えるため漁師から優遇される猫の話「マドモアゼル・キキ」、ハリウッドをノミの視点でパロった「ガヴィン・オーリアリ」とか評者は好きだな。でこの作家「悪魔」が大好き。だから妙にはぐらかされた教訓譚みたいにみえることがある。ドン・ジョバンニみたいな「炎の中の絵」や生死が不明な「旧友」が、物語のお約束の「悪魔」とか「機械仕掛けの神」とかを「わざとわかってやってる」独自の芸風。

ある意味、超然としたあたりが持ち味かな。「ニューヨーカー」という雑誌カラーを体現しているというべきか。

(個人的には真っ白な猛毒キノコで有名なドクツルタケが登場する「死の天使」がヘンにお気に入り。直後に気づいて胃洗浄し一命を取り留めた人によると、半端ない旨味が出て美味しいそうだ、死ぬけど)

No.1296 5点 消えた玩具屋- エドマンド・クリスピン 2024/09/27 20:35
イギリス教養派といえば、大学モノというのが大特徴。セイヤーズなら「学寮祭の夜」イネスなら「学長の死」P.D.ジェイムズなら「女には向かない職業」と数多くの大学モノがあるわけだ。でこれもオクスフォードが舞台。まあクリスピンといえば探偵役が英文学の教授、でもそのホームグラウンドでドタバタ(苦笑)

詩人の友人が遭遇した奇怪な殺人事件?から、消えた玩具屋の謎を...なんだけども、書法が全然パズラーじゃないんだよ。都合よく出くわした人々から自然と謎が割れてくるようなプロセス。読みどころは3回にわたる大規模な追っかけ。まあだから、本作あたりが典型的な「英国スリラー」というものなんだと評者は思うんだ。こういうの、パズラーの評価基準で見るのは見当違いだと思っている。

こんな追っかけの中でも、悠長に詩を引用したりとかさ、そういうのんびりしたあたりがイイといえばイイんだけども、まだ魅力全開とはいえない。「お楽しみの埋葬」と比べたら、ドタバタもミステリも練れていないと感じる。

そういえば本作でよく名が上がるポープの「髪盗み」って、「黒死館殺人事件」で大きな小道具になっている詩だから、妖異耽美...ってオモイコミしちゃうんだが、ホメロスのパロディみたいな風刺詩で全然そんなものじゃない(苦笑)評者は黒死館の読みすぎなんだが、虫太郎のパロディセンスって軽視されがちなのって仕方ない...

No.1295 7点 花の棺- 山村美紗 2024/09/24 10:06
ネタ優先で「京都茶道家元殺人事件」をやってしまったけど「そういうの、よくない」と思う気持ちもあるんだよね。なので代表作かつミス・キャサリン初登場作でもある本作やろう。

カッパブックスで読んだのもあるけど、京都の観光名所をいろいろ織り交ぜてエンタメとして「売れる」ことをしっかり考えて書いている。華道界の確執やら華道の基本ポイントやら「読者の興味」をうまく引いていて、そういうプロ根性、嫌いじゃないよ。茶室密室とキャンピングカー消失という2つの不可能興味と、一種の「見立て殺人」なあたりが本書のギミック。とにかく「読者を楽しませよう」という気合入ったサービス精神を感じるのがいいあたり。
探偵役は米国副大統領の娘で日本の伝統文化大好き娘のキャサリン。日本文化の案内役を兼任してナイスキャストだと思う。

欠点を言えば「トリックのためのトリック」みたいなところもあって、とくにキャンピングカーの話は舞台背景から見るとちょっと浮いてる。一番気に入っているのは密室を含めて「見立て殺人」みたいになっている犯人の不可解な行動パターンの真相。まあ犯人動きすぎでバレやすくなってるじゃん?とツッコむのはなしだ。エンタメだもん。それよりもそういう作為を手段としてドラマを盛り上げてくれた方が評者は好感。

意外なくらいに良作。作者のヤル気がじかに伝わる。
(とはいえ、茶室で水屋がないと使いづらいと思う...まあこれ、密室で解釈のマギレがないように考えたんだろうけどもね)

No.1294 6点 メグレと老外交官の死- ジョルジュ・シムノン 2024/09/23 15:45
う~ん、評者は結構この作品好きだなあ。
シムノンにはありがちだが「ミステリとしてはどうよ?」な面があるんだけども、舞台設定の妙もあってそれが「人生こんなこともあるんだよね」といった方向に印象が流れる結果になっているようにも思う。ミステリとしては?でも小説としてはギリギリ成立するあたりに、評者は面白味を感じてしまう。
でもさ、この面白味というのも、両親の老いを見て悲しみ、介護とか頭に入れつつも、自分の老いも感じてしまうようなあたりに醸されるようなものだから、若い人にはピンとこない話だと思う。原題だって「メグレと老人たち」だよ。そんなもんさ。

でこの舞台設定の妙、というのが、メグレ物にしては珍しい上流階級が舞台。中の上~上の下あたりに成りあがった下層出身者が疎外感を抱く話はシムノンの定番だけど、この事件の被害者は外交官を引退した老伯爵、そしてその人生を賭けた思い人は公爵夫人。政略結婚で結ばれた夫の公爵が事故死し、ようやく結ばれることも可能になった?その夜に老伯爵は4発の銃弾に見舞われて死んでいるのが見つかる...この老伯爵と公爵夫人の恋がホントにプラトニックなもので、公爵に義理を立てて間接的にしか関係を持たない(でも毎日お手紙!)というもので「十八世紀から抜け出してきたか?」とメグレがボヤくようなもの。でも生まれつきの貴族の話だから....でメグレも納得。それには出身の村でのサン・フィアクル伯爵夫人のイメージとか、メグレ自身が抱えるコンプレックスにも理由があることに気がついて、メグレも苦笑い。
上流相手だと勝手が掴めないのはたとえば「かわいい伯爵夫人」もそうだけど、ムリしないのが「メグレ流」でもあり、メグレというキャラに品位が感じられるあたり。
(まあだからメグレ物を系統的に読むつもりがあるならば、少年時代のメグレに言及がある「サン・フィアクルの殺人」は早めに読むべきだと思うよ)

No.1293 5点 卒業−雪月花殺人ゲーム- 東野圭吾 2024/09/22 18:30
さて評者「茶道ミステリ」第二弾。
評者のお茶の先生って花月が大好きなんだよね。2月に一回くらいはしている気がする..「花月百ぺんおぼろ月(百回やっても悩む...)」と言われるくらいにややこしいものだ。回数目、座る位置、当たった役で「すること」のバリエーションがあり過ぎるし、その上に他の方の迷惑にならないように手際よく、さらには動きが揃うと褒められるポイントとかある。茶道でもスポーツっぽいところがある「鍛錬」。
その花月の上位互換のややこしい雪月花式だから「学生が、よくやるよ~~」というのが正直な感想(苦笑)。で、花月は5人でやるものだから、本作のトリックのキモの部分が現象しない。というか、6人でやるからトリックが実現したんじゃないのかな。加賀がもし間に合っていたら、殺人が起きなかったかもよ。

いや別な「結託」を想定して評者別な人が犯人じゃないかと推理してた(苦笑)あと「密室」の話は、話を密室に持っていきたい、という作者の作為が見えすぎて、苦笑するところもあったな。密室のトリックはつまらない。これは「SFは腐る」と言われたのと同じ陳腐化だと思う。

考えてみれば本作の学生さんたちって評者と同じ卒業年度になりそうだ。とはいえ、地方都市で高校からの持ち上がりで大学でも仲良しグループ、しかもサークルは別、という人間関係が評者はあまりピンとこない...というか、大学生というよりも高校生っぽいイメージ。ヘンに明るいナンパ系サークル的な「リア充」っぽさが、そんな印象なのかな。青春ミステリだけども、小峰元の高校生が老成しすぎなのと比較しちゃいけないが、幼いイメージもあるよ...そうか、そういうあたりが「茶道」と少しミスマッチ感なのかなぁ。
評者的には「昭和の学生生活、懐かし~~」とはならなかった。すまぬ。

No.1292 4点 京都茶道家元殺人事件- 山村美紗 2024/09/17 16:35
最近評者、茶道を習いだしている。もう一年半くらいだから、そろそろ面白さを楽しめ始めているあたりかな。だから「茶道ミステリ」って興味がある。もちろん評者最高の茶道ミステリは、塚本邦雄の「十二神将変」だけど、実は習いたくなったのも「十二神将変」の影響が大きかったりする(苦笑)

日本伝統文化をネタにしたミステリを量産したことで有名なのは山村美紗だ。本人も師範の免状を持っているそうで、茶事のデテール描写におかしい個所は特にない。けど事件の背景に京都の茶道の家元の継承問題がある、という話に過ぎない。プロローグ的に清水の焼物市での毒殺があったあと、茶事の濃茶席での毒殺事件、そして琵琶湖畔に立つ別荘での密室殺人(とそのアリバイ)。トリックはあるが、既視感が強い。茶道の歴史とか精神性とかとくに小説では扱われず、俗っぽい人間関係の中での殺人である。軽い文体で読みやすいがただただプロットを追っていくだけ。
まあそろそろ流派の現実、というものも評者も見えてきているところでもあるさ。それでもいろいろな面白さというのは感じるよ。

で、茶道ミステリとしては濃茶回し飲みがある中での毒殺が趣向としては面白い。評者の妄想ネタとしては、茶碗の正面をわざと外して主人が渡し、それが分からない客は毒をスルーして、正面に神経質な被害者がわざと正面を正して毒を口にする、ってどうだろうか(苦笑)専門性が強いから、パズラーだと難しいかな。

No.1291 6点 やとわれた男- ドナルド・E・ウェストレイク 2024/09/16 23:29
「ハメットの再来」とデビュー当時評された処女長編。
主人公はシンジケートのボス、ガレノーゼの「右腕」、組織No.2として汚れ仕事も引き受けるクレイ。復員後の大学生時代に酔って車を盗んで事故って女を殺した現場を、ガレノーゼに救ってもらった恩義から、ガレノーゼの下で働くようになり出世している過去があった...このクレイが巻き込まれた「トラブル」を解決すべく、ガレノーゼの意向からクレイに探偵役のお鉢が回ってきた。

こんな話。名前からしてガレノーゼはイタリア系でマフィアのわけで、クレイはそうではない。「ゴッドファーザー」のコンシリオーリ、トム・ヘイゲンを想わすプロフィールである。ロバート・デュバル演ずるヘイゲンのように、クレイは自らを「機械」と律して、組織のために感情を消して行動する男である。
うん、話はわかる。けどさ、これって「ハードボイルド」ではないと思うんだ。「煮え切った」魂ではあるが、これほどの割り切り過ぎの人物を一人称で主人公に据えると、「不透明な現実を客観描写のみで、読者の読み込みを誘う」というハードボイルド「らしさ」が消えてしまうんだよね...つるつると動く機械を見ているようなものである。

まあもちろん、主人公が同棲中の恋人エラとの関係に悩むあたりは、いつでも自由に「感情を消すことができる」と自己弁護するわけだけども、それはムシがいい。このクレイのプライベートと事件とのオーバーラップぶりが小説の狙いみたいなものになるのは、なかなかの才筆だとは思うよ。で、ギャング組織の中での犯人捜し、というかなりの変化球設定を処女長編でやってのけるのは、さすがこの作家ののちの大成っぷりをうかがわせるものがある。

よくできてはいるけど、個人的には失敗作だと思うよ。たぶん本人もこれは思っていて、無印「刑事くずれ」が本作のリライトだと思う。

(あとラストシーンにちょいとした仕掛けがある...逆に言うと「うますぎる」のが逆に「難」じゃないのかな)

No.1290 4点 - マリオ・ソルダアティ 2024/09/15 11:03
「牝狼」のやりついで。
「牝狼」自体、訳者は岡田真吉である。ミステリの翻訳もしていたが、キネ旬のコアメンバーで映画評論家として活躍した人である。というわけで、短い「牝狼」の穴埋めとして起用された「窓」も訳者は映画評論家の飯島正。作者は50年代にソフィア・ローレンが主演した「河の女」と「OKネロ」が紹介されたイタリアの映画監督である。戦前の「新青年」から翻訳ミステリ業界は洋画との結びつきが強いというのはいうまでもないのだが、こういう人脈からの紹介作品ということになる。

戦争が終わり20年ぶりにロンドンを再訪した「私」は女友達の未亡人トウィンクルと再会する。二人して訪れた画廊で発見した絵に二人は衝撃を受ける。かつて二人の前から蒸発した画家のもの、さらにはこの二人の前からまさに蒸発した忘れ得ない光景が描かれた絵だったのである。この絵の売主のもとを二人は訪れるが、女売主とその同居人女性は言を左右にして、画家の情報を明かそうとはしない...過去に一体なにがあったのだろうか?

こんな話。ポケミス風の判型で90ページほどだから、短め長編にも少し不足気味のボリューム。手法的にはミステリだけど、内容的には私とトウィンクルと画家の微妙な男女関係と、過去の人間関係を「老い」の視点から見つめ直すといったことが主眼。まあミステリ、とは呼び難い。問題の失踪画家のイタリアンな気ままダメ男っぷりにハマる男優をキャストすれば、小洒落た小品文芸映画にはなりそうなものでもある。「かくも長き不在」とかと似たテイストになるかな。

No.1289 6点 牝狼- ボアロー&ナルスジャック 2024/09/14 19:38
最初は創元「現代推理小説全集 14」(1957)にマリオ・ソルダアティの中編「窓」と一緒に収録され、のちに創元「世界名作推理小説体系 21」(1961)に「死刑台のエレベーター」「藁の女」と収録されたボア&ナルの長編第4作。結局文庫にならなくて埋もれた作品ということになり、やや入手難だが読めた。今回は「現代推理小説全集」の側にするので、「窓」の方は別途にしよう。

初期のボア&ナルらしい作品と言えばそう。ドイツ占領下のリヨンに、捕虜収容所から逃れたベルナールとジェルヴェイが到着する。ベルナールの「戦争養母」のエレイヌを頼って逃げてきたのだ。しかし、ベルナールはリヨン駅で事故死してしまう。ジェルヴェイは瀕死のベルナールに勧められて、ベルナールに身元を偽ってエレイヌに匿ってもらうことにした。

こんな設定で始まるのだが、貧しいピアノ教師のエレイヌと、霊媒まがいで戦時下でも密かに稼ぐ妹アニェスが、偽ベルナールを巡って鞘当てして緊張する毎日。出生証明書を問い合わせたことで、ベルナールの姉ジュリアがベルナールを訪れてくる....身元詐称がバレるピンチだが、なぜかジュリアはそれを暴こうとはしない。なぜ?

こんな密室展開がジェルヴェイ視点で描かれていく。この四人の微妙な駆け引きがすべて。真相はそう不思議なものではないが、ドイツ占領下の理不尽な死などが、緊張感を高めるし、実はジェルヴェイは優秀なピアニストの前歴があって(イヴ・ナットの弟子だそうだ)、入れ替わったベルナールはタダの材木商というのもあって、エレイヌの下手なピアノにイライラする(でも顔に出せない)あたりが面白い。意外にボア&ナルって「芸道小説」の味わいがあるんだよね(苦笑)

No.1288 5点 ナポレオン・ソロ⑧/ソロ対吸血鬼- デイヴィッド・マクダニエル 2024/09/13 17:13
さて気楽なものを。ブダペスト駐在のアンクル機関員が、ルーマニアの寒村で変死しているのが発見された。その喉には針で突いたほどの傷があり、一滴の血も残っていなかった....さらに足跡からは、機関員は走って逃げて到達したことが明白なのにもかかわらず、殺害者の痕跡が一切なかった。吸血鬼の犠牲になったとしか考えられない死体の調査のために、ナポレオン・ソロとクリヤキンは派遣された。当代のドラキュラ伯爵を名のるゾルタンと知り合い、地元警察とも協力関係を築くが、同行した通信員ヒルダが吸血鬼らしき男に襲われた!狼の脅威、空飛ぶ吸血鬼、そしてソロたちは怪しいドラキュラ伯爵の城へ..

あとがきだと「密室殺人だ!」なんてアオってくれるのだが、まあ真に受けちゃいけない。もちろん背後には例の組織が? お約束とはわかっているけども、それでもマジメにストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」をなぞってくれていて、ホラー色はそれなりにある。うん、もちろん物理的なタネは放送当時ではSFだけど、今はそれなりに実現されつつもあるようだ。軍事的なニーズはしっかりとあるものだからね。

で...まあお約束だけど、どんでん返しあり。「君たちに感謝する」がオチ。このお気楽さが「カーの...」とか言っちゃいけなくて、なんというか尊い。

(あというと、ソロとクリヤキンが結構「仲よく喧嘩してる」様子にバディ物らしい良さがあるな。でも演じた二人は仲が悪かった、というのが有名な話)

No.1287 5点 モスコー殺人事件- アンドリュウ・ガーヴ 2024/09/12 13:00
かなり稀覯に近い本だろうけど、読めた。時事通信社の時事新書からの刊行である。巻末では「ソ連紀行」「素顔のソ連」「亡霊とフルチショフ」「共産主義の見方」「新しい核の時代」といった本が宣伝されている。この小説もそういう流れで日ソ国交回復の時期の「ソ連」への関心を示すものといえよう。

で、皆さんもご指摘だが、訳者の判断で反ソ的・嫌ソ的な部分は省いて訳した、とあとがきで言っている。まあ「反共小説」とツッコまれるが嫌だったんだろうな....とは理解できる。第二次大戦が終わってようやく英ソの民間交流が再開して...という時期のモスクワを舞台として、イギリスからの民間使節団の団長がホテルで殺された事件に、英米のモスクワ在住特派員たちが巻き込まれる話。まだスターリンが権力握っている時期だよ。

こんな時期だから、殺された団長は牧師上がりでキリスト教と共産主義を融合したような思想の持主、一行には労働党の代議士、マルクス経済学者、平和活動家などなど、さらに社会主義リアリズムにカブれてスターリンの胸像を作りたがる女性アーチストとか、ウェールズ民族主義の闘士とか、イギリスの「親ソ派」のいろいろパターンが描かれている。要するにグレアム・グリーンとか初期のアンブラーとかキム・フィルビーとかドイチャーとかE.H.カーとか、イギリスの特定世代の「ソ連びいき」がこの小説の背景。まあだから「ソ連」について批判的な描写をしっかり完訳した方がずっと小説理解につながったようにも感じるよ。

でもちゃんとパズラー的な「ミステリ」の結構を備えていている。ある人物の「秘密共産党員」疑惑が出たりもするにせよ、この事件をソ連当局が問題を大きくしたがらず無実の庶民を身代わりにする一件はあるが、スパイ小説的な色合いは薄い。訳者がオミットしたのも、ソ連批判とはいえ、庶民的な生活視点のものだったんじゃないのかなあ。

まあ、ガーヴのジャーナリスティックなあたりが出た小説であることは間違いない。謎解きは大したことない。
(登場人物がかなり多いから、登場人物一覧がないとツラいよ...)

No.1286 8点 薫大将と匂の宮- 岡田鯱彦 2024/09/11 16:03
大昔「源氏物語殺人事件」で読んだことがあったなあ。今回は昭和ミステリ秘宝で。

「薫大将と匂の宮」といえば、源氏物語、宇治十帖を「未完」と解釈したうえで、紫式部を探偵役として宇治十帖の登場人物たちの間に起きた奇怪な「連続自殺事件」を描く(清少納言との探偵合戦も!)ことで有名な作品である。作者はちゃんとした国文学者だから、デテールもしっかり源氏物語の「偽作」になっていて、それこそ「源氏物語・現代語訳」レベルで違和感なく読んでいける。

が、私の心の中で不思議な考えが頭をもたげはじめていたのである。...実をいうと、私は今非常な岐路に立っているのである。それは、この血なまぐさい事件―これを描写する新しい芸術はあり得ないものだろうか、という問題である。

叙述は紫式部という「作者」と、薫・匂の宮・浮舟といった登場人物の「モデル」設定のキャラ、それに式部が仕えた中宮やライバル清少納言といった実在の歴史上の人物を虚実とりまぜて自在に入り乱れるわけで、結構メタな物語記述の面白味がある。薫などが式部が創作したキャラでありながらも、リアルな人物として登場するわけだからね。その宇治十帖直後の人間関係のただ中で「探偵小説」を実現してしまう、という強烈な力業。もうこれはこのコンセプトだけで「凄い!」としか言いようがないなぁ。

ちょっとカングると、岡田鯱彦といえば例の「抜打座談会事件」の中で、唯一の「本格派」として、木々高太郎や大坪砂男ら「文学派」の面々に吊し上げを喰った作家なんだよね。だから「源氏物語」という「文学中の文学」の只中で「本格ミステリ」をやってやろうじゃないの?というアイロニカルな挑戦めいた気持ちがあったのではないのか、なんて思うんだ。ヨミスギかな?

とはいえ、昭和ミステリ秘宝収録の短編たちには、パズラー風な作品がない。ほとんど雨月や竹取物語などに取材したパロディ風作品。鼠小僧次郎吉を主人公にした「変身術」がまあ面白いか。でも、それ以上にやはり「夕顔」「空蝉」あたりのプレイボーイ源氏に取材した奇譚「コイの味」に「奇妙な味」な佳さが出ているし、「『六条御息所』の誕生」は源氏の成立過程についての仮説を紫式部と中宮との間の再現的フィクションとして描いて、ここらが短編のベストと思う。

(とはいえ、評者薫よりも匂の宮ヒイキだなぁ...偉大な源氏という父へのコンプレックスに囚われた子供たちの話だと思っているよ。8点は甘口かな。「コイの味」の一途な想いがかなり気に入ってる)

No.1285 6点 黒い塔- P・D・ジェイムズ 2024/09/10 12:51
評者としては狙ったわけではないのだが「学寮祭の夜」の次に「黒い塔」...

イギリス教養派超大作の連続(苦笑)「黒い塔」だって一時的だがポケミス最厚を誇ったわけで、重い暗い長いの三つ揃い作品としてそれなりに有名だったな。出来はもちろん、シルバーダガー受賞。詩人警視ダルグリッシュ「らしい」ポエジーのある作品でもある。

「黒い塔」というタイトルからして禍々しい。クトゥルフか、って思うくらいだが、舞台は身体障碍者の収容施設で次々と起きる不審な死を巡る事件。白血病の誤診から解放されたダルグリッシュが、旧知の神父からの相談の手紙を受けたことから、静養のために施設を訪れる。神父はすでに病死していた。神父の本を遺贈されたダルグリッシュは神父の死に不審の念を抱く...この施設では不審な死が相次いでいた。収容患者が減ったことで所有者はこの施設を閉鎖しようかと苦慮している状態だが、収容患者にもスタッフにもワケアリな過去が顔を覗かせる。さらに施設所有者の祖父がその中で餓死したと伝えられる不吉な「黒い塔」が海岸に聳えたつ....

と雰囲気は「眠りと死は兄弟」とちょっと共通するような、身体障碍者の陰鬱な思いや辺鄙な施設に閉じ込められるスタッフの憂鬱さなどが、強く描かれる小説である。

でもね「学寮祭の夜」より読みやすいよ。セイヤーズだと洒落た感じの省筆が特徴的なので、ぱっと見で意味が分かりづらい時があるけど、ジェイムズだから描写がくどいくらいに丁寧だからね。くどさを嫌がらなければ、断然読みやすい。同じく「文学的」とされるけども、ブンガクの向き具合が逆方向な気もする。

「長いミステリ」。ミステリというものの成り立ちを考えたときに、ある意味「キャラの掘り下げ」がしづらいジャンルでもある。犯人を掘り下げたらバレやすいからね(苦笑)ミステリにはキャラ描写が表面的にならざるを得ない宿命がつきまとう。「学寮祭の夜」ならピーター卿とハリエットの恋愛心理を軸に長さを持たすことができるわけだけど、本作だとこのグルーミーな雰囲気に飲まれるようなダルグリッシュの抒情的資質が「長さ」を持たせるファクターになっているようにも感じる。

まあ「雰囲気ミステリ」といえばそう。最後にルルドへの巡礼に旅立つ一行が、全員事故死したとしても不思議じゃないくらい(そんなことないのだが)。

No.1284 9点 学寮祭の夜- ドロシー・L・セイヤーズ 2024/09/02 17:57
さて、問題の作品である。
ハリエットが卒業したオクスフォードの女子カレッジに出没する悪意の手紙や悪質な悪戯をめぐって、ハリエットが内々に学寮長から調査を依頼される。しかし、その悪戯が度を越すようになり、ハリエットはピーター卿に救援を求める...

そんな話である。そして、この話の結末に、今までピーター卿の求愛を断り続けてきたハリエットは....というわけで、筋立て自体を取り上げたら「女子ミステリ」の典型的な作品、ということにもある。
しかし、セイヤーズだから、そんな甘い小説ではないわけだ。
前作「ナイン・テーラーズ」がセイヤーズの信仰の問題を隠し題に持っていたように、本作ではフェミニズムの文脈でも語られるような、セイヤーズの「女性としての生き方」が問われるかなりシンドイ作品でもある。確かにこれは「ミステリ」ではあるのだが「エンタメ」とは言い難いところにその本質があると思う。

完全に本サイトとは別の私事に関することなのだが、本作のテーマでもある「女学者たち」について、評者はいろいろと苦々しい思いをさせられてきた経緯もある。だから本作の「犯人」による告発の痛烈さに、思いを晴らす気持ちにもなっていた。学園に閑居する連中が、このところのポリコレ騒ぎに関して潮目が変わりつつあり、その無責任さを暴かれて右往左往するのを欣快と感じているところもあるのだ。
「女性とマイノリティのため」を名乗りながら、実はただの内輪のパワーゲームに興じて、結果として当事者を踏み付けにするさまは、評者の中で確かに本作の背景と重ね合わされている。

たしかにセイヤーズをフェミニズムの視点から読むのも有用である。しかし、それ以上に、本作は「フェミニズムへの告発」の「毒」をしっかりと備えている。

まあとはいえ、ハリエットの心理など「ハリネズミのジレンマ」を思わせて、興味深いのだが、事件の真相がこの二人の恋愛に影響(ショックに近いものだろうが)を与えたことだけは間違いない。愛だ恋だではない、結婚というものの宿命めいた重さが、やはり本作の結末に響いている。

No.1283 6点 東海道四谷怪談- 鶴屋南北 2024/08/23 19:52
夏休み納涼番組。日本3大古典ホラーって考えたら、四谷怪談と牡丹燈籠or累ヶ淵は決まりとして、あとなんだろう?雨月から何か取るか、謡曲の鉄輪かなぁ。
(あ〜そういや耳なし芳一があるか。これで決まりか)

でまあ、四谷怪談のオリジナル。義士銘々伝の背景があり、世話物で浪人の貧乏話が続く。有名な伊右衛門とお岩の話を軸に、髪梳きやら隠亡堀の戸板返し、蛇山庵室など超有名シーンが連続する芝居。とはいえ、オリジナルの芝居は仏の喜兵衛とその子の小仏小平の話やら、お岩の妹お袖と与茂七vs直助の救いようがない三角関係話など、感情移入しづらい脇エピソードも多いな。
まあだから、有名な仕掛けがある怪現象の場面は、ビジュアルのショックで押し切るケレン芝居ということにもあるわけだ。そうしてみればこの芝居の真のクライマックスは、お岩が毒を飲まされて、面相が変わった状態で伊右衛門とやり取りする、自分を捨てるDV男との愛憎が暗く燃える場面、ということにもなるんだろうな。そして、その後、髪を梳いて恨み言を述べながら死んでいくあたりは事実上一人芝居になってきて、台本の話というわけではなくなる。

そうしてみると、台本で読むと怖くない(泣)歌舞伎はたとえば孝夫玉三郎で昔やった映像を少し見たけど、玉三郎が髪梳きを一人芝居で延々とやっていて、これが見せ場になってくる。

まあ気を取り直して、名作の誉れ高き中川信夫の映画「東海道四谷怪談」(1959)も納涼ついで。いやこれは江戸の夜の闇の深さを表現した映像美が強く出た作品である。かなり原作は端折っていて、赤穂浪士関連は完全にオミット。原作以上に直助(江見俊太郎)が悪党で、伊右衛門(天知茂)は優柔不断でお岩に対する情もいろいろ覗く。リアルな心理劇としてうまく再構成しているのが素晴らしいよ。

No.1282 6点 ねじれた奴- ミッキー・スピレイン 2024/08/21 17:21
さて復活後マイク・ハマーの異色作として有名なもの。
先行する書評の皆さま方、けっこうバレてる(苦笑)

まあ、バレたくなる気持ちも分かります。

だけども、描き方とかこういうネタのパズラー系作品とニュアンスが違う辺りが面白いなあ。でもクリスティの同系統作(タイトル?)は意外に近いのかも。
ハマーは誰もが文句なしの「ヤンキー気質タフガイ探偵」のわけだから、子供には優しくて懐かれる。本作の焦点の人物は天才少年ラストン14歳。身体的には未熟だから、誘拐されてハマーが体を張って救出。ハマーともワケありな元ストリッパーの女ロキシーを世話係に、ハマーが悪徳刑事から救った運転手を護衛代わりに、と「ハマー・チーム」が何となく出来上がるのが妙に面白い。このラストン君、ハマーと対比したらバットマンに対するロビン。サイドキックっぽくてナイス。

で、この天才少年誘拐事件から始まり、科学者であるその父が女性助手の家におびき出されて殺され、女性助手も失踪...という事件を通じ、その科学者の遺産を狙う甥っ子姪っ子などなどの企みと、この「天才を作る」研究の裏側などクロスオーバーが描かれるわけだ。冒頭で運転手をリンチした悪徳警官にも因果応報を期待してよし。

まあだから、いろいろ内容盛りだくさんで目まぐるしく事件が起きて、ツルツル読める作品でもある。達者に書かれているけども、全体像は取っ散らかっていて、行き当たりばったりなところは否めないな。例によってハマーはいろいろ講釈を垂れるわけだけども、特に本作の訳(佐和誠)だとガラ悪くベランメエなあたりで、講釈の嫌味な部分が出なくて「ハマーってヤンキーだなぁ(苦笑)」といった感じで「ショーモないけども...」と憎めないや。

で、マイク・ハマーと言えば、最後の犯人との直接対決!

なかなかの変化球。こういうの好き。出来の悪い子ほどかわいい、といった感情に揺さぶられる。

No.1281 7点 追いつめる- 生島治郎 2024/08/16 09:45
生島治郎の直木賞受賞作。単身で暴力団に挑む元刑事を描いて、ハードボイルドの導入に強い影響を与えた作品である。この直木賞での松本清張の選評が興味深い。

この作のテーマになった事件の裏側は私も知らないではないので、多少の不満(たとえば組織が描かれてない)もあるが、上質なハードボイルドで、読んで文句なしに面白い。

評者も本作の舞台の神戸に10年以上住んでいたので、山口組と神戸のつながりについてはリアルな「土地勘」みたいなものも感じるんだ。阪神大震災で消滅してしまったが、オシャレな観光都市でない焼け跡闇市の猥雑さを残した神戸の街並みに、山口組の原風景がある。そんな雰囲気をこの小説は活写している。今読むとこの小説の「社会派」のあたりが、ハードボイルド以上に印象深かったりする。

というか、今の人が本作を読んだら「新宿鮫のネタ元」と言われるだろうね。組織に属しているようで属していない一匹狼を主人公にしたハードボイルド警察小説、ということなんだから。結城昌治の真木シリーズがロスマクを日本的な湿度の中に再構築したのとは別口で、チャンドラーのナニワブシ解釈の源流としてやはり本作の歴史的価値は高いことは否定できないよ。
とはいえ、評者の好みから言えば、チャンドラー以上に「語り過ぎる」気はする。斎藤警部さんの引用文にタダ乗りして恐縮だけど、最後の引用文だと「私は扉を閉めた。棺桶の蓋を閉めるときと同じ響きがした。」で終わらせるのが「ハードボイルド」だと思うんだ。まあこれでも十分ロスマクっぽいが。
(余談:主人公側の秘密基地が老舗「トアロード・デリカッセン」なのにニヤニヤしっぱなし)

No.1280 4点 メグレと匿名の密告者- ジョルジュ・シムノン 2024/08/15 15:24
さてお二方が低評価で一致しているメグレ物ラス2作。怖いもの見たさ、みたいな気持ちで今回セレクト。

ヤクザ上がりのレストラン経営者の死体が発見された。シャトーの美術品をごっそり頂く空巣事件と被害者の年若い妻が気になるあたりで、「喪服刑事」ルイが持ち込んだ匿名の密告。この密告はヤンチャなヤクザ兄弟を指していた...

確かに既視感はいろいろあるなあ。メグレ物には暗黒街(ミリュー)が背景にある事件も数多いし、財産狙いの若い妻とか、密告で話が動くあたりとか、今までのメグレ物のモチーフがいろいろ展開されて、飛行機で南仏出張も色を添える。
最終的にはメグレの取り調べがクライマックスに来るわけで、型通りのメグレではあるし、描写もはっとするような生彩があるところもないわけではない。

でもさ、「何やりたかったの?」と言いたくなる話。確かにメグレ物でも「キャラを動かしていると何となく話になってくる」と「手癖」で書いていると思しい作品もあるわけだけど、本作はキャラを動かしても何の化学変化も訪れなくて、そのまんまの話でしかない。充実していた頃はそれでも話になったのだけど、さすがにシムノンの老化をうかがわせることになってしまっているようだ。

それでもリーダビリティがしっかりある、というのは凄いことなのだろうか?

No.1279 5点 黒いアリバイ- ウィリアム・アイリッシュ 2024/08/14 17:03
シリーズ3作目というのは、シリーズを継続するために方向性を定める、一番大事な局面だと思うんだ。「黒衣の花嫁」「黒いカーテン」に続くのがこれ....いや、何かハズしているにも程がある。トンデモ作と呼ばれても仕方ないかも。
確かに「黒シリーズ」で有名なんだけども、ウールリッチがどこまで「シリーズ」を意識していたかって微妙だと思うし、またアイリッシュ・ホープリー名義との差別化ってあってなきがごときにものとも思う。「死者との結婚」とか「暗闇へのワルツ」がウールリッチ名義でいけない理由って、評者はよくわからないや。

で本作、ミステリというよりも、事実上はホラーだと思う。南米の都市に解き放たれた黒豹が次々と巻き起こす惨劇...で、すべて若い女性の被害者視点で語られる「狩り出される者の恐怖」が、小説のメイン。ウールリッチだからそれぞれの女性たち(スラムに住む少女・貴族階級の箱入り娘・人気者の娼婦・アメリカからの観光客)の書き分けもしっかり、不気味な追跡者に怯えつつ逃げ惑う姿をしっかり描いていて、そういう側面だと成功していないわけでもないんだよね。腐っても全盛期のウールリッチの文章なんだもん。でもこの恐怖の感情が小説にテーマになっているわけだから....まあ、ミステリと呼ぶのはちょっとどうよ、というのが評者の評価。

まだからミステリ的な「真相」ってのは、話を収めるための「オチ」みたいなものだから、整合性とかアンフェアとかどうでもいいじゃん?というのが正直なところ。まあウールリッチ、明白にミステリ枠からはみ出す作品を「夜は千の目を持つ」「野生の花嫁」「死はわが踊り手」とか容易に数え上げることもできるわけで、そもそもジャンル感とかシリーズ要素とかあまり意識もしていないのではないのか、なんて思う。

まあ本作からウールリッチを読み出す方もいないと思うけど、そういう人がもしいたら絶対誤解するだろうなあ。いや、「アリバイ崩し」だと思って手に取る本格マニアが?

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.40点   採点数: 1378件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(102)
アガサ・クリスティー(97)
エラリイ・クイーン(47)
ジョン・ディクスン・カー(32)
ロス・マクドナルド(26)
ボアロー&ナルスジャック(26)
アンドリュウ・ガーヴ(21)
エリック・アンブラー(17)
ウィリアム・P・マッギヴァーン(17)
アーサー・コナン・ドイル(16)