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[ SF/ファンタジー ]
第二の顔
マルセル・エイメ 出版月: 1957年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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東京創元社
1957年01月

東京創元社
2008年03月

No.2 6点 クリスティ再読 2025/05/10 20:45
異色作家短編集「壁抜け男」があまりに良かったので、長編「第二の顔」も。

突然顔だけ美男になってしまった男ラウルの話。元がブオトコだから、急にモテモテになり戸惑うあたりがカワイいが、会社経営者で元々秘書と浮気をしていたりもする。でも他人のフリをして妻を「寝取ろう」とするとなるとオダやかじゃない...変人発明家の叔父とか頭の固い親友とか、それぞれラウルが対応にあたふたするあたりが面白い。シムノンも蒸発話は好きだけど、変身譚をリアルな問題として扱うとなるとややこしい。そのややこしいあたりをユーモラスに描く。

心理のアヤをいろいろと追求してニヤリとさせる小説。ヘンな設定を大真面目にやって心理の面白さを狙うという、「壁抜け男」とも共通するスタイルが見て取れる。

でラウルは自分の紹介状を持って自分の会社にセールスマンとして雇ってもらうわけだが、結構営業成績が上がったりしていたりする。美女はトク、というのはいうまでもないが、美男だってトク。そんなことを言うと今時「ルッキズム」とか叱られるのだが、実際人間には「見かけのいい人」を信用する根深い本性があるようで、社会心理学で実験してこれを確認したという話もある。そういうあたりも鋭い。

まあ最後は元に戻るわけだけど、締めは変人の叔父がキメてくれる。

神さまがご臨席なさる日に、わしはいつも神さまに機械を逆にまわしてくださるように苦情を言いに出かけるんじゃ。

まさにエイメの奇想とは「機械を逆に回す」ことなのかもしれないね。

(翻訳者が生田耕作でちょっとびっくり。いやこの本もともと世界大ロマン全集だから、バタイユの翻訳で名を馳せた生田耕作とイメージが合わなかったからね。ひょっとして翻訳者デビュー作かしら)

No.1 6点 人並由真 2021/04/09 04:40
(ネタバレなし)
 1930年代末のパリ周辺。「ぼく」こと38歳の平凡な中年で、広告仲介会社社長ラウル・セリュジュは、役所に出かけたその日、いつのまにか自分の顔が全く変わっていることに気づく。そこにあるのは、30歳前後のかなりの美青年の顔だった。不条理な現実に戸惑いながらも、とにもかくにもこれを事実だと受け入れたラウル。彼は自分の会社から何とか資産を持ち出し、表向きは海外出張を装いながら隠遁生活に入る。「ロラン・コルベール」と名乗ったラウルは、この怪事を妻ルネーの叔父で、好人物ながらいささかボケかけた老人アントナンに述懐。一方でとある考えから愛妻ルネーを、初対面の美青年ロランとして<不倫>の情交に誘うが。

 1941年のフランス作品。
 昭和の広義の翻訳ミステリ分野では、結構有名な不条理ファンタジーだと認識していたが、本サイトでもまだレビューがない。じゃあ、と思い、書庫で見つかったこの一冊(創元文庫の帆船マーク)を読んでみる。
 そういえば、読了後に訳者あとがきを読んで改めて意識したが、この作品、乱歩の『続・幻影城』の中で<変身願望>テーマのサンプルとして取り上げられていたのであった。

 主人公ラウルの唐突な変身の原因は不条理小説の常として? 最後まで読んでも不明(神のみわざらしいとか、そういう観測は作中でなされるが)。

 とにもかくにも、若くてハンサムな顔、そして新たな名前という、これまでと刷新した容姿と素性を手に入れたラウルだが、だからといって行動の枠が大きく広がったりはせず、自分の奥さんを別人を装って寝とりにいくというのが、笑えるような切ないような微妙なところ。そのほか数名のヒロインたちとの関係性をふくめて、若いハンサムに変身したからって何が大きく変わるものでもない、元の位置からそう遠ざかれない、という主張も覗いてくる(まるでサム・スペードの語る、失踪したダンナのその後の逸話のようだ)。
 
 大設定の突拍子なさの反面、その後の展開はおおむね地味で地に足がついた感じだが、それだけに随所のユーモアや人間模様のペーソス感がなかなか味わい深い。ラストの決着はちょっと引っかかるところもあるが、まあその辺は。
 とりあえず、読んでおいて良かった、とは思うけど。


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