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[ 短編集(分類不能) ]
壁抜け男(早川書房版)
異色作家短篇集
マルセル・エイメ 出版月: 1976年01月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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早川書房
1976年01月

早川書房
1976年01月

早川書房
2007年01月

No.3 7点 蟷螂の斧 2025/05/28 22:28
「世界ショートセレクション⑬」(理論社)にて。早川版、角川版とも収録作品が違います。表題作以外、ジュブナイル向けで童心に帰りました。
①諺 6点 息子は「諺」の宿題をやっていない。それを叱る父親。同僚の息子は出来がいい。それにしても我が子は…親心がアダ?
②工場 7点 少女は12月24日、1845年にワープ。工場で働く幼い少年を見つける。余命少なそうだ…切ないなあ
③七里のブーツ 7点 七里のブーツを履くとどこへでも飛んで行ける。少年たちは欲しくてたまらない。ショーウィンドウに飾ってあるブーツを見に行った帰り、少年たちは工事中の穴に落ち大怪我。見舞いに来た金持ちの親たちはブーツを買ってやるというが…貧しい親子の運命
④執行官 6点 天国へも地獄へも行けず、現世に戻された執行官は善を施すが…寄付の結果
⑤政令 5点 17年先の世界へ行き、また現在に戻った男…これから、知っていることや同じことを繰り返すのか?
⑥壁抜け男 9点 ある日、男は自分には壁を抜ける力があることに気付く。医者に相談し処方箋をもらうが‥爆笑(これは大人向け)

No.2 8点 クリスティ再読 2025/05/07 16:55
おっと、これほどイイとは思ってなかった!

エイメといえば「第二の顔」くらいしか知らなかった...早川書房異色作家短編集ではランジュランと並んでフランス語作家。読んだ内容からも予想がつくが、童話作家としても活躍しているようだ。

突如自身の「壁を抜ける能力」に気が付いた小役人が、ルパンみたいな怪盗を「愉しんで」しまうのが表題作。でもすぐに怪盗にも飽きてしまうというのが皮肉。
老人の「生存」を月中の幾日かに制限してしまう(月中で「生きる」日数が配給される)「カード」なら、「配給制度」の愚劣さを皮肉ったもののようでもある。
「同時存在」という超能力をもった女ザビーヌは、最終的に6万人を超える「ザビーヌ」に分身する。しかしその結果が自らの性欲と後悔とに翻弄されるだけ、なら「超・浮気」とでもいうべき愚かな(人間的な)行為でしかない...

日本で言えば筒井康隆を人情派にしたような作風かしら。奇抜な発想がホラ話みたいに膨らんでいって、でも人間のヒミツな面に裏打ちされているような話が多い。モンマルトルの地元っ子で庶民派なところは、たとえば「七里の靴」の貧しい家の子供の幻想的な靴への憧れに、奇人の骨董屋や小市民の同級生の親を絡めて、辛辣な社会批評を幻想の甘美さにうまく包み込んで消化していたりする。なるほど童話が得意、というのもわかる。

ベストはそうだね「いい絵」かな。突如自分が描く絵が鑑賞者の食欲を満たしてしまうことを気が付いた作家と、それが食糧問題を期せずして解決してしまうことを巡るホラ話。「絵(音楽)で飯が食えるっていうのか?」とアーチスト志望の若者が周囲から小言を言われる経験って、洋の東西を問わないや。なら「本当に絵で飯が食える」のを実現してやろう!という何とも痛快な話。この絵を巡る美術批評がナンセンスの極みで、諷刺家の面目躍如。

あと「パリ横断」は「いい絵」の裏面みたいなもの。ナチ占領下のパリで闇屋が一頭の豚をサバいたものを、闇で肉屋に配達させるアルバイトに応じた二人の男の話。助手として雇われただけなのに、横柄な男の真意は?
この横柄さが実は「いい絵」のモチーフとも微妙につながっている。

異色作家短編集の中でも明白にお気に入り。

No.1 5点 八二一 2021/07/17 20:17
この作品集ほど古き良き時代のパリをしみじみ味あわせてくれる読み物はない。パリはモンマルトルの庶民の喜怒哀楽がほのぼのと描かれている。


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マルセル・エイメ
2019年12月
エーメショートセレクション 壁抜け男
2000年07月
壁抜け男 (角川文庫版)
1976年01月
壁抜け男(早川書房版)
平均:6.67 / 書評数:3
1957年01月
第二の顔
平均:6.00 / 書評数:2