皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.70点 | 書評数: 1307件 |
No.30 | 7点 | 砂の城- 鮎川哲也 | 2016/06/22 11:45 |
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とっくの昔に読んだと永年勘違いしてたのを初読、家にあった古い角川文庫。未発表の長篇を発掘された様でちょっと得した気分。
タバコ屋のおやじに通話料を払ったり、合鍵一つ作るのに一手間だった(従ってアリバイ成立にじゅうぶん関わり得た)時代か。。浜松町辺りの本屋の名前が粋だねえ。7.49で惜しくもの7点。 鉄道と雑誌、二つのアリバイトリックの衝撃は弱くスマートとも言えませんが、それぞれの捜査過程、それぞれ更に地方刑事篇と鬼貫篇(但し一部の地方刑事と同行)に分かれるその過程がそれぞれに滋味深く面白く(めちゃそれぞれ言うてます)、やはりどこを切っても玩読出来る、ありがたい一冊でした。そうそう、二つの事件の接点が見えた瞬間から急速に繋がり始める、真相解明の有機的拡がりがね、地味ながら腹にずっしり来る要所連峰でしたね。 言い間違えてネズミイラズw なにしろインテリタイプ、てどないなタイプやw パンをたべているふたり連れ。。 複数のアレを使ったアリバイトリック、黒いやつや朱のやつもそうだけど、クローズアップマジックを連想させる脳内手品が本当に鮎川さんは得意なんですなあ。 贋作ローンダリングの遡及追跡はポイント過多で眩惑の魅力満載!まるでハードボイルド流儀を思わす込み入り様ですが、一方でその最中に忍び込むクスクス笑いを誘う鮎川さんの珍妙な名前趣味、いつもながらキュイっとやられてしまいました。 「だけど、あのふたりはそのどちらでもなかったです。」 おぉう、そこのアナタ見てたねぇ。 鬼貫の登場も最高、それ以前の刑事達も最高。鬼貫登場から瞬殺で捜索の空気が引き締まり、一ページ、一ページが冷静にしてスリルに満ちた偽装アリバイ崩しの水際立った領域を敢然と航行。このせいぜい数十頁の、表情は厳しくも語り口はアットホーム、どこか寂しげで濃密な最終コースは、それ迄の主に地方刑事達による、激しい展開にもどこかしら緩さと優しさを見せた捜査物語の存在感あったればこその際立ち。 最終章、警察側第二の主役と見える島根の槇刑事(EXILEオリジナルメンバーMAKIDAIの親類筋かも知れん)の口から全真相の纏めが語られるという細やかな構成の妙も良い。彼は鬼貫と違って酒がイケる口の所帯持ち。。 |
No.29 | 5点 | 材木座の殺人- 鮎川哲也 | 2016/05/11 17:17 |
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かの”私だけが知っている”脚本をベースとしたと言う、ちょっとしたクローズド・サークルの二作「棄てられた男」「青嵐荘事件」はその出自で興味を引くね。まァ不可能興味の「人を呑む家」はなかなか面白いかな少なくとも結末直前までは、、全体で見渡すとやっぱりミステリ興味、物語興味共に弱さは感じるね。。我が心の中の『俺の本格~鮎川哲也作品大全集』では三番館シリーズは別巻扱いだなァ。
ところで、三番館も四冊目のこのあたりから弁護士の登場をスキップしたり「わたし」がチラッとしか見えなかったり(要は真の探偵役バーテン以外すっ飛ばす傾向)、少しずつレギュラー陣の扱いにイレギュラーが混じって来ますね。そのへんもまあ、地味に面白いっちゃそうなんだけど。 |
No.28 | 5点 | ブロンズの使者- 鮎川哲也 | 2016/05/11 16:05 |
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「百足」は少しばかり印象強いですかね。「相似の部屋」「マーキュリーの靴」もまぁまぁぁ。。
後は(てか全体的に)やっぱり謎解かれが緩いというか脆いというか。。物語としても、氏ならではのサムシングってやつが薄いんだな、これが。 自分にとって特別な存在の鮎川さんですが、三番館シリーズは微妙にのめり込めません。 ノン・シリーズで他にもユルユルの短篇が結構あるんだけどねえ。。本シリーズはやっぱり、レギュラー登場人物の相関図からしてユーモアの流れ出る道筋がだいたい決まっちゃってるのが不用意な弛緩を招くのだろうか。それでも「4点」までは下がりません。 |
No.27 | 5点 | 宛先不明- 鮎川哲也 | 2016/02/09 18:06 |
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こりゃちょっと浅過ぎるでしょう、長篇ミステリとして。長めの短篇に凝縮すりゃあ良かったのに。表題と内容の繋がらなさっぷりも残念。(短篇集の題名が「宛先不明」だったら魅力的だし、その中に本作をギュッと縮めたのが入ってたら素敵だ。) ファンなので、読んでて詰まらなくはありませんでしたがね。ファンなので、読んでよかったとは思うけれど、ファンなので、人には薦めない。 |
No.26 | 7点 | 風の証言- 鮎川哲也 | 2016/02/09 17:57 |
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鮎川さんの短篇には「わるい風」「にくい風」と言った風の系譜がありますがね、こちらは長篇の風です。
トリックもストーリーも小ぶりですけどね、ファンにとっては安定した良さがありますよ。 社会派の塩をちょぃと嘗めてみたような趣向もまあ、気安いお遊びでね、奇抜さ派手さの無い地道なアリバイ崩しがいいんですよ。 わたしゃ悪魔の様に大胆なアリバイトリックも堪らないけど、人間らしく細やかで優しい(?)それも愛おしいからね。まあそういうのが読みたい人向けでしょうね。 |
No.25 | 6点 | 企画殺人- 鮎川哲也 | 2016/01/25 18:10 |
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錯誤 /偽りの過去 /蟻 /墓穴 /憎い風 /尾のないねずみ /てんてこてん
(集英社文庫) 魅力ある題名が体を表し損なった感のある小粒な倒叙ミステリ集。ギザじゅうさん、測量ボーイさんおっしゃる通り犯行の露呈や犯人特定の決め手が偶然頼りな作品ばかりで、では倒叙本格は棄てて倒叙サスペンスに専念したのかと言うとそこまで腹を括っちゃいない。まぁそんな清張流儀を鮎川さんにお願いしても仕方ありません、これはこれで悪くもありません。「TTT」を最後に持ってくるのはちょぃと粋だね。(どうして粋かは言えないよ) |
No.24 | 6点 | 謎解きの醍醐味- 鮎川哲也 | 2016/01/25 17:19 |
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寄せ集めでもファンには嬉しいもの。フーダニット中心、良作も何気にちらほら。謎が興味を引く「塗りつぶされたページ」の論理展開は鮮やか。三本のエッセイも見逃せません! “南区南太田”なるタイトルには思わず「暗闇坂」を思い出してしまいましたがあっちは同じ京急沿線でも”西区戸部”だったか。
離魂病患者/夜の断崖/矛盾する足跡/エッセイ 日記/プラスチックの塔/エッセイ 南区南太田/塗りつぶされたページ/緑色の扉/霧笛/エッセイ ペテン術の研鑽 (光文社文庫) |
No.23 | 7点 | 王を探せ- 鮎川哲也 | 2016/01/06 07:31 |
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亀取二郎が容疑者だけで四人もいると思ったら何と「第五の亀取二郎」まで登場するという実にカメトリィでトレンディな不可思議プロットを誇る作品。しかし最初から同姓同名に必然性が与えられている安定感は頼もしい。
ま、若干お遊びカラ回りの感もありますがね。 |
No.22 | 8点 | 死びとの座- 鮎川哲也 | 2016/01/06 02:39 |
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ATJT(鮎川哲也の叙述トリック)! 見事に釣り吊り上げられました!
殺されたミッキー中野は人気絶頂のロック歌手ジャッキー上野のそっくりさんタレントやて、誰やねんそれ、ミッキー吉野の立場は?? 一般にあまり評判芳しくない様子ですが、わたしはとても好き。 でもまあ、ファンを自認するひと向けですかね。氏の長篇最終便。(その後に「白樺荘」を完遂させて欲しかった。。) |
No.21 | 6点 | 自負のアリバイ- 鮎川哲也 | 2016/01/04 11:14 |
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随分と遅れて来た鮎川ファンの私としては、昔の角川文庫鮎哲名作選に入ってた様な短篇は大抵、後発の創元推理文庫や光文社文庫(集英社もね!)のアンソロジーで読み漁ったものでありますが、これらの作品群を再読するに当たりわざわざ(ささやかな)プレミア付きの角川古本を買ってすると言うのは「道楽読み」以外の何物でもありません。そもそも鮎川を読む事自体道楽に決まってるだろってなもんでありますが、それに輪を掛けてのメタ道楽をせずにいられないのが鮎川ファンの宿命、いや単に私の趣味趣向というものであります。前述した後発文庫繚乱のお陰か本気のプレミアまで付いていない(安い)のがついついの購買欲を誘うのも看過すべからぬ要因ですね。
で、この一冊。「鮎川哲也名作選」と銘打った短篇集で「自負のアリバイ」と来たらこりゃ相当に大きな期待が掛からないわけがありません。事実、LPレコードを樽やトランクの様にアリバイの媒体に使った(かの作品達ほど複雑じゃありませんが)表題作は氏の音楽趣味露出と相俟って興味津々のトリック展開を垣間見せてくれますが。。 偽装の露見が、伏線は充分あったにしても、まさかそんなトリックと何の関係も無い拍子抜け。。 これだったら倒叙形式にせず普通の順叙本格ミステリで、挑みゃ解けそうなアリバイトリック詳細に想いを馳せさせてくれた方が良かった。「自負のアリバイ」なる重みある題名は別の傑作短篇用にとっておいて良かったのでは。。でも詰まらなヵぁないんですけどね。 てんてこてん/声の復讐/憎い風/離魂病患者/自負のアリバイ/灼熱の犯罪/錯誤/尾のないねずみ/冷雨 (角川文庫) さて他に個別コメントしとくと、本格色の強い「離魂病患者」は意外な結末に意外と気付かせない文章技巧が見事。ほとんど小学生向け推理クイズの様な”どうしてバレたんでしょうか?”の「灼熱の犯罪」は内容だけ取れば鮎哲らしからぬエロさ横溢で小学生には不向き。某作品に登場する、浪曲出身流行歌手が唄う架空のヒットソング「涙のスットコドッコイ」って一体どんな歌なんだよ!!(笑)と読むたびに思いを馳せてしまいます。「てんてこてん」、バッドエンドじゃなくて良かったよ、それが意外で面白いんだけどね、ハハ。 さて、うーん、全体通して倒叙推理クイズみたいなのが多いなあ。それをわざわざ小説の意気込みで書き上げるのが良いのだけれど、「これってもしかして昔学研の小学生用学習雑誌に書いてた小学生が主人公のミステリークイズを大人向けに書き直したんじゃないの!?」と思ってしまう作品が目立ちますね。でも好きよ。 |
No.20 | 7点 | アリバイ崩し- 鮎川哲也 | 2015/12/16 12:24 |
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北の女/汚点/エッセイ 時刻表五つのたのしみ/下着泥棒/霧の湖/夜の疑惑/エッセイ 私の発想法
(光文社文庫) 鮎川本で堂々『アリバイ崩し』と銘打つ割には巻頭「北の女」を除き比較的薄味の作が並ぶが、選集ではなく熱心なファン向け拾遺集なのだから、まして二本のエッセイを小説群の間にはさんだ贅沢なプレゼントなのだから、文句は全くありませんよ。鬼貫・星影は出て来ないよ。 |
No.19 | 7点 | 白昼の悪魔- 鮎川哲也 | 2015/12/08 09:07 |
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白昼の悪魔/誰の屍体か/五つの時計/愛に朽ちなん/古銭/金貨の首飾りをした女/首/創作ノート
(光文社文庫) 測量ボーイさん言及の通り「五つの時計」の存在が本短篇集の価値を押し上げていますね。他の作も、多少緩めのもありますが、全般的に悪かぁないです。突飛で猟奇的な設定の「誰の屍体か」が見せる”鮎川、時折静かな暴走”も素敵。「創作ノート」は嬉しいおまけ。巻末の想い出エッセイ(山沢晴雄氏)もね。 |
No.18 | 6点 | わるい風- 鮎川哲也 | 2015/12/07 16:17 |
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青いエチュード/わるい風/夜の訪問者/いたい風/殺意の餌/MF計画/まだらの犬/楡の木荘の殺人/悪魔が笑う/付録エッセイ
(光文社文庫) 全篇鬼貫。創元推理文庫の短篇選集x2の如き破壊力はありませんが、ゆめゆめ落穂拾いとは呼ばせない光を放つ、傑作集とは行かずとも充分読ませる内容の作品集です。作品ノートや満州時代を綴った付録のエッセイもちょっとした贈り物。 |
No.17 | 7点 | 積木の塔- 鮎川哲也 | 2015/11/02 18:00 |
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物語はなかなかに地味な滑り出し。とは言え鮎川流の地味だから当然その先を期待する。すると期待通りの王道アリバイ崩しに道は続く。捜査の過程を小説としてじっくり味わうのが良いです。企画色の薄い地道な作品ですね。ある意味鮎川哲也長篇の最大公約数的なこじんまりした印象を受けますが、鬼貫警部の登場のタイミングが早い事もあり(それは関係無いか?)既に氏の作品に浸かっている人が安心して読むのに適しているのかも知れません。 |
No.16 | 5点 | サムソンの犯罪- 鮎川哲也 | 2015/10/28 14:36 |
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え!? 男色が罪だとでも言うのですか!? と、先にまずボケておきます。
依頼人の巻き込まれたトラブルってのが、なかなか魅力的に込み入ってたり、ちょいと変わった背景があったりの事件ばかりで興味を引きますね。前の「太鼓叩き」よりも趣向の凝らし様に力が入ってます。だけど物語進行と解決にはあまりスリルが無いですねえ、ロジックでわくわくさせるのともちょっと違うし。。ウトウトしそう。このシリーズは多少なりともみんなそう。でもまあ、そう悪かないか。 |
No.15 | 8点 | りら荘事件- 鮎川哲也 | 2015/10/20 18:37 |
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物語の導入から雰囲気キラキラですよね。CCM(クローズド・サークル・ミステリ)の良い所ばかりさり気ない細部にそこかしこ。
MRJ(魅力的な女子)が出て来ないという不満をお持ちの向きもありましょうが、そこは「朱の絶筆」の方で埋め合わせしていただくとして、好みはあれどひとまずイケメン探偵HRZ(星影龍三)で我慢していただきたい。って意味分からねえ。 さて現実性とか人間性とか全く意識の埒外にすっ飛ばしてしまう本格の筆力は流石です。と言うよりちゃんと書けてると思いますけどね、書き過ぎて雰囲気壊さない所まで。 ただ、結末にもっとQTDC(驚天動地)のひっくり返しがあったなら。。と個人的には惜しまれます。それと犯人の意外性にもう一ひねり欲しかった所。終盤にかなり迫る所まで堂々の満点候補作でしたが、「SDNN(そして誰もなくなった)」と同様、その二つの大きなマイナスが採点に響きました。が、言うだけ野暮ながらSDNN同様RSJの方も必読の激烈快楽作です。ATの胆力をひしと感じていただきたい。 お花のUCK(薀蓄)も美味しくいただきました。 |
No.14 | 6点 | 太鼓叩きはなぜ笑う- 鮎川哲也 | 2015/10/20 01:07 |
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相当に遠い昔、気まぐれで初めて手に取ってみた鮎川哲也。徳間文庫の新刊だったと思う。
ところが相性いま一つ、次の一冊に手を出すまで優に十余年を費やしてしまった無念の一冊目。 と言うか鮎川さんの中でもこの「三番館シリーズ」は今でもさほど強く心惹かれるものではありません。流石に詰まらなくはないものの、「ああ、なるほどね」、とそれなりに感心する止まりで感動へ至らず。堂に入ったユーモアはなかなかのものだけどね、物語がなんかチマチマしてますね、チマチマの振りして実際の所はデーーンと構えてるぞ、みたいな、鮎川氏の特にノンシリーズ短篇によくある空気感は無くて、本当にこじんまりしてる寂しい風情。 私立探偵氏がいちいち自分の心情を面白おかしく吐露する(本当の探偵役であるバーテン氏は違うけど)というあまりに逆ハードボイルドな文章が抵抗あるのかも。いえ何も私は鮎川氏にハードボイルドを求めちゃいませんがね。 まあ、立ちっぱなしなのに安楽椅子探偵役のバーテンがいて、伝統的本格推理で言うところの足で稼ぐ警察役の私立探偵がいて、依頼人には既に間に一枚入った形の仲介役である弁護士がいて、更にその後ろにやっと大元の依頼人がいる、というなんだか皮肉でややこしい体制は面白いですよね。更に言えばこのシリーズの真の主役は探偵役ヒーローのバーテンではなく、ワトソン役(=「わたし」)にして間抜けな警官役の私立探偵(へんな言い方)の方じゃないですか? もし彼が「引き立て役クラブ」に加入したら「オマエ本当は主役だろ!」って追い出されるんじゃいかって心配しちゃいます。 ところでこの徳間文庫は巻末解説が(当時は名前を知りもしなかったが)かの中町信氏! 氏が病床にあって出遭った「黒い白鳥」を、古本屋のおやじのせいで犯人はおろかメイントリックまで大いにバラされて憤慨中だったにも関わらず大変面白く一気読してしまった、それが起爆剤となり推理作家を目指し始めた、みたいな文章は何度目を通しても本当に魅力的です。ここで遭遇した「黒い白鳥」なる長篇名がずっと記憶の片隅(よりも少し中央寄り)に在って、十数年の歳月を経て私もやっとそれを読むに至ったという事の次第であります。嗚呼。 色々言いつつ6点も付けちまった。 この第一集はやっぱり悪くない。 |
No.13 | 6点 | 翳ある墓標- 鮎川哲也 | 2015/10/16 18:28 |
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私これにはちょっと点が辛いな。それでも6点。
なんか、スカスカなんすよね。 膵臓の弱いチンピラ作家が書いたみたいな。 アイデアというか、ミステリの核は興味惹くモノあるけど、鮎さんの絶妙な文章世界が好きな身としては、粗筋や骨格だけじゃないからね。 ご本人も「通俗小説とは際どい所で一線を画している」なんて意味の弁解(?)をしてるけどさ、それだけ意識してたんでしょうか、隠しきれない安っぽさを。 ところがですねえ、最後の最後の文だけ唐突に文学気取りな締め方をするのよ。これがまた頭に来てね(笑) おっと、言うまでも無いでしょうがファンなら必読ですよ。数が無いからね、鮎さんの長篇は。 |
No.12 | 8点 | 鍵孔のない扉- 鮎川哲也 | 2015/10/16 06:14 |
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謎の重みに磐石のトリック。 実に押し出しの良い、これぞ昭和高度成長期のA級本格推理。
適度の旅情に音楽話、ほんのオマケと分を弁えつオマケ以上の味わい。これがまた、たまりません。 それにしてもこりゃ良く出来たパズルですなあ、パズラーと言うよりパズルそのもの、密室とアリバイからの、と言うか空間と時間からの脱出パズル。あちらを立てたらこちらが立たず、一体どうした事でしょう?? ところがこれ、小説として読んできっちり面白い! やはり、絶妙にリミッターを掛けた本格流儀の人間ドラマに、抑制の効いたユーモアの底流が上手いこと”つなぎ”の役目を果たしているのでしょうかなあ何かにつけて。言うに及ばずそこはかと無いサスペンスの風圧が常に冷静な目を光らせています。嗚呼、輝ける昭和ミステリの栄光。 鮎川さん、どうして逝かれてしまったんですか。。。(←いつの話だ) 最後にどうでもいい話をすると、大昔この題名をどこかで見て(たぶん小林信彦氏の書評本)しばらくの間「瞳孔のない鍵」なる小説だと思い込んでいたんですよw。何なんだ「瞳孔のない鍵」って!?ふつう無いですよ、鍵に瞳孔も虹彩もつけまつげも、ねえ。 |
No.11 | 9点 | 黒い白鳥- 鮎川哲也 | 2015/10/06 06:27 |
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初めて読んだ鮎川長篇がこれです。どこの文庫も出ていなかった平成一桁鮎川暗黒期、少々プレミア付きで角川文庫の古本を買ったものです。地方ではなく都内のチマチマした路線(国電!)を大胆に使ったトリックは当事者感が強く新鮮で引き込まれました。本格の流儀を保ちつつ贅沢にもダブルで取り込んだ社会問題も謎の陰影に深みと暗い彩りを添えています。緻密なトリックも最後はきっちり露呈され、心地よい推理疲れと(本当は自分じゃロクに推理なんてしないけど)ちょっとした社会派気取りの苦味と、何かが終わって始まるような爽やかな風を感じる上質の読後感が長い間残りました。 |