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tider-tigerさん
平均点: 6.71点 書評数: 369件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.229 6点 イルカの日- ロベール・メルル 2018/09/16 11:00
1967年フランス作品 
イルカに言葉を教えることはできるのか? セヴィラ教授はこの画期的な研究に打ち込んでいる。そして、実験の成功により国家のイルカ軍事利用計画にセヴィラとイルカたちは巻き込まれていく。

四、五日前に以下のようなことがあった。
東京オリンピックのテスト大会として開催されたセーリング大会の開会式でイルカショーが披露された。

国際連盟「開会式でイルカショーが行われたことに失望している。このようなショーが行われることは容認できない」
日本連盟「イルカの扱いについては個人や国によって考え方が違い、イルカショーを披露したことは慎重さを欠いていたと思います。不快な思いをされた方にはおわび申し上げます」

こういうニュースを聞くたびに本作のことを思い出す。
初読は学生時代。手話のできるゴリラの話(マイクル・クライトン 失われた黄金都市)を読んで面白かったので、次はイルカの話を読んでみたのだが、序文が長すぎ……。導入も丁寧過ぎるくらいの書き込み。
英語タイトルは『The Day of Dolfin』で、日本ではこの直訳が採用されて『イルカの日』となったが、原題(仏語)は直訳すると『理性ある生き物』となるらしい。そう。Animal rightsなる運動が展開され始めた頃の作品であり、純粋なエンタメではなく真面目にイルカについて考えさせようとしている作品でもある。
そうはいってもガチガチな話ではなく、イルカが言葉を覚えはじめるまでは面白かった。ファとビは可愛らしいし、実験の様子など楽しく読める。
ただ、イルカが言葉を覚えて人間と会話を交わしはじめると、いくらなんでもイルカにここまでの理解力はないだろうという思いが強くなっていった。
前述『失われた黄金都市』のゴリラはギリギリのところでどうにかリアリティを保っていたが、このイルカたちはいくらなんでも賢すぎる。
イルカは仮定の質問をすると現実と混同してしまうとか(もし仲間が死んだら悲しいですか、などと質問されるとイルカは本当に仲間が死んだと思ってしまう)、このくらいまではなるほどなと思った。
だが、イルカが「ジョンソン大統領はいい人です(悪い人だったかも)」とか言いはじめると、正直なところギャグとしか思えなくなってしまった。これは話の根幹に関わる部分なのでどうしても読んでいて白けてしまう。イルカドリームをほどほどに抑えていてくれればなあ。
アクションシーンはまあまあといったところだが、ラストもなかなか感動的で、なかなか面白い作品だと思うのだが。うーん。
※ジョンソン大統領がいい人(もしくは悪い人)だとわかるくらい賢いなら、イルカ漁が行われる地域には近づいてはいけないと学習するのではないかと。
※本作はイルカの軍事利用について書かれた最初の作品かもしれません。ちなみにロシアなどでは実際にイルカは軍事利用されております。

イルカを特別視する人にとってはバイブルとも成り得る作品かもしれない。だが、私はそこまでのめりこめなかった。
そもそも牛は食べるための生き物でイルカは殺してはいけない生き物。こういう考え方がまず理解できない。さすがは人種差別をしまくっ……危険な話題なのでこのくらいにしておきましょう。

No.228 8点 暗き炎/チューダー王朝弁護士シャードレイク- C・J・サンソム 2018/09/07 19:49
2005年イギリス作品
16世紀ロンドンは悪名高きヘンリー8世の治世。
法廷弁護士シャードレイクは従弟を殺害した容疑で逮捕された少女エリザベスの弁護を頼まれる。だが、エリザベスは完全黙秘を決め込み、このままでは拷問による死は免れない。この少女は無実ではないかと予感するシャードレイクだったが、本人が死ぬ気まんまんではどうしようもない。
そこへ摂政クロムウェルよりシャードレイクに交換条件が出される。エリザベスの審議を先送りする代わりに、古より伝わる「ギリシャ火薬」の秘密を探れと。
ギリシャ火薬の秘密に肉薄したとされる兄弟を訪ねるシャードレイク。だが、その兄弟は何者かに殺害されていた。

とても面白かった。弁護士シャードレイクがクロムウェルより遣わされた助手兼監視役ジャック・バラクと共に二つの事件を追っていくのだが、車はねえ、電話もねえ、もちろん科学捜査もねえ、ので馬に乗ってあちこち訪ね歩き聞くだけの捜査。タイムリミット12日間なのに遅々として進まない。そうした中での読みどころはやはり当時の風俗、社会、人間などの描写と生真面目なシャードレイク、横柄なバラクのキャラだろう。人権意識など皆無な世界でシャードレイクやバラクが見せる思いやり、それほど深みはないが、宗教的な絶望などに触れた部分は興味深かったし、時代の枠をきちんと踏まえた人物、物語に好感を抱いた。いくつかの事件が複雑に絡み、意外な展開もあって楽しめた。翻訳もいいと思う。
ギリシャ火薬の正体はほとんどの方は察しがつくと思うが、それにまつわる政争、陰謀はまあまあよく考えられていた。エリザベスの事件はやや肩透かしな真相だった。

別に英国史に興味もないのに手にとってしまった本。ヘンリー8世と言われましても、ハーマンズ・ハーミッツの『ヘンリー8世君』(別にヘンリー8世のことを歌っているわけではない)でその存在を知り、世界史の授業で暴君であったと教わった。そんな程度の知識しかない。なので本作の歴史考証に関してはもっともらしく聞こえるとしか言えない。実在の人物と架空の人物が入り混じり、本筋の二つの事件は架空のものらしいが、背景にある政変などは実際に起きたことらしい。
当時のロンドンの不潔さ、裁判の適当さ、刑罰の残酷さなどなど同時代の日本と比べても酷いんじゃないかと思った。政治的な立場により正義が歪められるさま、宗教までも政争に絡んで歪められているさまは現代にも通じる醜悪さがある。
本作はシリーズ二作目。こちらの方が一作目よりも面白いと思うし、先に読んでしまってもさほど支障はないが、一作目から読んだ方がクロムウェルとシャードレイクの微妙な関係がよりよく理解できる。

No.227 8点 その先は想像しろ - エルヴェ・コメール 2018/09/02 21:45
2014年フランス作品
フランスの北部では二人のチンピラが地元の顔役から金を盗んで逃亡した。些細な事件だった。それから数年、全世界で爆発的な人気を誇るロックバンド「ライトグリーン」のヴォーカリストがシチリア島で失踪した。本作はあらすじを書くのが難しいので、その先は想像して欲しい。~

前作『悪意の波紋』がアレで、こっちもタイトルがタイトルなものだから、きっとバカミス系かなあなんて思いつつ手に取った。
プロローグでロックスターの失踪事件が簡潔に語られる。そして、第一章カルル 第二章ニノ 第三章セルジュ と、三人の人物の視点から三人称形式で過去の話が語られる。それぞれに思い込みや誤解があることが判明し、ロックスター失踪事件の輪郭が浮かび上がるのだが、その真相が話の肝ではない。
第四章オール・トゥギャザーで端役たちも含めて全員の人生の断片がしりとりのように語られて幕を閉じる。この第四章が素晴らしい(ちょっと説教臭いが)。もちろん一章~三章までの少しくどいくらいの書き込みによってラストがさら輝いたのだと思う。
ジャンル選定には迷った。クライムノベルになるのか、その他にすべきか。
文章はリズミカルであり、詩的でもあり、声に出して読みたくなるようなものだったが、いかんせん五〇〇頁のヴォリュゥム(芥川風表記)、改行少、会話少、読むのが大変だった。先が見通せない作品だった。変な作品だった。どうということもなさそうでいて素晴らしい作品だった。
カルルの章がやや退屈であったが、なぜかこのカルルが私は一番好きだったりする。
読んでいる最中は、徐々に胸糞展開になって読後感は悪いのだろうなあなんて思わなくもなかったが、とんでもない。本作は人生賛歌とでもいうべき作品で無情で切ない部分がありながらも、温かな気持ちで本を閉じることができた。多くの人に読んでもらいたい。そんな作品だった。
※裏表紙には注目のフレンチミステリなどとあったが、ミステリ度は低い作品でした。あらすじはぜんぜん違いますが、なんとなくアレッサンドロ・バリッコの『海の上のピアニスト』を思い出してしまいました。

訳者は田中未来(たなかかなた)さん。御本人、もしくは御両親がお茶目な方のようである。

No.226 7点 極夜 カーモス - ジェイムズ・トンプソン 2018/09/02 21:39
2010年ノルウェー作品
ソマリア移民の映画女優が惨殺された。彼女は雪原に放置され、Snow Angelを形作っていた。損壊酷く、さらに差別的な言葉が遺体に刻まれている。人種差別主義者による犯行か、はたまた快楽殺人なのか。村の警察署長カリ・ヴァーラ警部はかつて自分から妻を奪った男を容疑者として逮捕するのだったが……カリ・ヴァーラ警部のデビュー作~

夏の盛りに北欧ミステリをと思っていたが、いつのまにか八月ももう終わっていた。そんなわけでややタイミングを外してのフィンランドミステリ。フィンランド在住のアメリカ人作家ジェイムズ・トンプソン。名前負けが心配だったが、なかなかの良作。
人物造型は水準。愉しく読んだが、採点となるとプロットも水準よりやや上といったところか。「俺」を用いた一人称でテンポよく話が進むが、そこにフィンランドの国柄をうまく溶け込ませている。背景(フィンランド)が物語にうまく活かされている。
田舎とはいえブラック・ダリア事件を彷彿とさせるような本件をたった4、5人で捜査することに驚いた。まあ小さな村なので捜査はどんどん進む。あっという間に容疑者が割り出され、早々に逮捕。だが、次々に新事実が浮かび上がり、意外な展開もあり、そして暗澹とさせるような結末を迎える。
カリ・ヴァーラの断定的な思考、事を性急に運びすぎる点が気になった。このような人物設定であれば別によいのだが、カリはそういう人物ではないような。プロットに人物が引き摺られている印象。
そして、最大の問題はラスト。どうにも納得がいかない。
このラストがうまく決まっていれば8点をつけていた。
詳細は末尾ネタバレにて。

本作は純然たるフィンランドミステリとはいえないと思う。
作者はアメリカ人である。
私が言いたいのは、例えば日本人作家は「きんぴらごぼう」の説明など書かない。だが、日本在住のフランス人作家なら「牛蒡や人参、蓮根などを甘辛く炒めた日本の代表的な家庭料理」などと説明したくなるだろう。それを書いてしまっては日本のミステリとはいえないのではなかろうか。
要するに本作がフィンランドミステリではないからこそ、フィンランドをよりよく知ることができたということ。
フィンランド人はあまり英語を話そうとしないらしい。彼らはミスを怖れ、完璧にできないことはやりたがらないという。この他にも随所に日本人との共通点があって親近感がわいた。
本作でもっとも印象深かったのは「フィンランド人の沈黙」だった。日本人のそれと似ているようで、少し異なっている。多くの場面で沈黙がはっきりと、もしくはさりげなく顔を出す。
本筋とは関係のない殺人事件が一件発生するのだが、本作の最良の部分の一つだと思った。ピルッコという登場人物一覧表にも載っていない端役の女性の哀しみに胸を衝かれた。本作は点数化はしづらいが、心に残るなにかがある。
この作者は絶対に追いかけようと思ったのだが、衝撃のオチが待っていた。2014年に49歳の若さで亡くなっている……邦訳されているのは本作を入れて四冊。哀しい。 

原題は『Snow Angels』~新雪の上に付けた人型。寝転んだ状態で両腕を上下に動かすと、起き上がったときに天使の形のように見えることから~英辞郎webより
本作は「女たち」の物語だったのだと思う。
邦題『極夜』もいい。甲乙つけ難い。

以下ネタバレ


カピ・バーラもとい、カリ・ヴァーラ警部はその人物が犯人である根拠がろくにない(と私は思った)のに罠にかけようとするが、かなり危険な賭けだったのでは。自分はむしろ犯人は別の人物だと思った。動機の面でも機会の面でもその方が自然だし、おそらく読者の多くもそう考えるのでは。事実そのとおりだったし。
それから、個人的にはほのぼのとしたラストに違和感あり。

No.225 6点 シャーロック・ホームズ最後の解決- マイケル・シェイボン 2018/08/28 21:35
2004年アメリカ作品
~時は1944年。第二次大戦も終盤。親と別れ、祖国を離れ、ユダヤ人の少年は英国の司祭に養ってもらっている。少年は口が利けないが、よく喋るオウムをいつも連れていた。ある日、少年は殺人事件に巻き込まれ、親友のオウムは何者かに連れ去られてしまう。警察は近所で養蜂を行っている老人に意見を求めた。この老人はどこかで聞いたことのあるような物言いをするのであった。~

オウムを肩に乗せて線路脇を歩く少年。その少年を「老人」は遠くから観察します。
老人は久しぶりに「容易に秘密を明かそうとしない世界の美しい拒絶」に直面し、苛立ちと快感を覚えるのでした。
こんな風に物語ははじまります。
実は本作の原題は『The Final Solution』ホームズのホの字もありません。
さらに、ホームズは「老人」と表記されるのみです。作中では「老人」の過去の業績がほのめかされ、いくつかの事件の断片が紹介されますが、シャーロック・ホームズの名前は完全に伏せられております。邦題がなければ、ホームズだと気付かないで読み終えてしまう読者もいるでしょう。そんなわけで、とんでもないネタバレ邦題なのです。
ホームズものだと知らずに読みはじめて、あれ? これってもしかしてホームズなんじゃ……と気付く。この瞬間を味わうことができれば最高だったと思います。
でも、ホームズものだと思ったからこそ読んだわけなので、邦題のネタバレなしでは本作を手に取る人がグンと少なくなるでしょう。非常に悩ましい。

ミステリとしては残念ながら面白くありません。
文体もドイルとはまるで違います。わかりづらい文章、回りくどい表現がままあります。
年老いたホームズをことさら美化していないのがいいです。
きちんと年を取り、体は弱り、おそらくは頭脳にも衰えが見えている。なのに性格の悪さだけは健在だったりして。コカインはやめたようですが。
事件に巻き込まれた子供に養蜂の仕事を手伝って貰うシーンがありましたが、心温まる交流なんてものではなく、ホームズはこの子はお喋りをしないから助かるなどとのたまいます。それでいて、ホームズなりの思いやりはあるのです。少年は少年でこの狷介な老人をいつしか頼るようになります。馴れ合いはありませんが。
ホームズの名推理が健在なわけでなく、事件もさほど面白いものではありませんが、ホームズの老後を遠くから見守る。ホームズの変化に一抹の寂しさを覚える。そんな作品なんだと思います。

No.224 7点 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ 2018/08/07 21:42
実直な建築家が住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。場所柄、男は素っ裸で、身につけているものは金縁の鼻眼鏡のみ。一体これは誰の死体なのか?~Amazonより 

1923年の作品です。100年近くも前の作品とはとても思えませんね。
読み易さ然り、キャラ造型然り、シリーズ一作目にしてミステリに対する問題意識まで仄見えます。また、同じ衒学系でもヴァン・ダインなんかと比べて小説全体が非常に柔らかな印象があります(訳文のせいか?)。それでいて要所要所に深みがある。
ミステリとして平凡なのはみなさまに同意いたします。トリックは大山鳴動して鼠が一匹といった気もしますし、犯人もわかりやすい。さらに伏線が赤い線で引いてあるかのようで張り方があまりにも下手。
ですが、私は本作がとても好きです。シリーズ内でも上位に入ります。
(未読作品ありますが)
開幕早々に主要人物三名を説明ではなく描写で手際よく紹介してしまうところなんかはうまいなあと思いました。
好きな場面はたくさんありますが、ピーター卿とパーカー警部が学生から話を訊きだすシーンなんかは特に印象的です。機知、そして黒いユーモアを感じます。
犯人の最後の手記は、ちょっと書き過ぎかなという気がしました。
動機は一聴他愛もないものですが、その考察には興味深いものがありました。犯人の頭の中で起こっていたことは緻密に組み立てられているように思いました。
かつての邦題『自我狂』の方が本質を衝いているような気がします。ですがタイトルを『自我狂』に戻すべきとはまったく思いません。

本作は風桜青紫さんの仰るように、キャラ小説として読むのがもっとも楽しい読み方かもしれません。
この人もチャンドラー同様にミステリに文学を持ち込もうとした人でありますが、リアリティにこだわったチャンドラーとは違う方向に進んでおります。このシリーズは最終的に極めて美しいミステリを輩出したと思います。
自分が高校生くらいの頃だと海外の作家は読みたくても本が手に入らないことがよくありました。自分の場合はシオドア・スタージョンがその筆頭でした。そして、ドロシー・セイヤーズもそうした一人でした。

No.223 6点 メグレとリラの女- ジョルジュ・シムノン 2018/07/21 01:08
友人のパルドン医師に薦められてメグレは夫人とともにヴィシー温泉に湯治に行く。同じ時刻に同じ場所で温泉の湯を飲む毎日。そのため同じ人間を何度も見かけることになる。リラ色の服を着た婦人もそんな一人だった。孤独を誇りに感じているようなこの奇妙な婦人にメグレは関心を持った。
数日後、この婦人の写真が地方紙に大きく掲載された。

1968年(67年かも)発表。前回書評した「メグレと殺人予告状」の一つ前に書かれた作品。殺人予告状が「メグレと火曜の朝の訪問者」だとすると、こちらはさしづめ「メグレと若い女の死」といったところか。
被害者の過去をほじくり返すいつものメグレだが、事件の裏で起きたある出来事が鍵となっていて、この出来事がわかってしまえば犯人は自然と特定される。
この出来事がなかなか面白いと思った。さらに読者がこの出来事について推測ができるようきちんと材料が提示されている。ミステリとしては「メグレと殺人予告状」は殺される人間を推測するという楽しみ方ができたが、本作には事件の原因となる裏の出来事を推測する楽しみがあると思う。
両者ともシムノンらしからぬ読者を意識した(のか?)丁寧さがある。
リラの女の造型、特にその二面性の描き方なんかが面白い。
相棒となる元部下のルクール警視とメグレの絡みもいい。犯人が確定しての最後の尋問でもたつくところなんかもよかった。
「殺人予告状」と「リラの女」は地味だが、意外と完成度は高くて、遊び(無駄な場面)もあって、小説としてなかなか面白いのではないかと思っている。
気になったのは犯人の人物像がちょっと単純な点。それから、この事件が殺人に至ってしまったのはかなり強引。チャンドラーのとある作品でも本来は殺人に事件になるはずはなかったのに犯人が~ゆえに殺人になってしまったものがあったが、本作は犯人の人物像からしてチャンドラーの作品よりも強引さが際立ってしまう。

ちなみに本作での自分のお気に入りの場面。
~(温泉のお湯を適量飲むため)彼(メグレ)も他の人同様、目盛りのついたコップを買い込んだが、メグレ夫人は自分も欲しいと言い張った。~
本作はメグレ夫人の出番がかなり多い。どの作品でも夫人はメグレの気分をつねに察知する。今さらだがシムノンはどの作品においてもメグレ警視の気分を執拗に描く。ここまで登場人物の気分を大切にする作家は珍しいように思う。メグレものになれてくると、こちらもセリフだけでメグレの機嫌の良し悪しがわかったりする。シムノン自身が非常に気分屋で、もっと言うと精神的に不安定な人物だったのだろうと憶測したくなる。

おまけ
本作は訳者による「あとがき」がすごかった。「後足で砂をかける」という言葉がピタッとあてはまる前代未聞の代物だと思う。
簡単にまとめると以下のようなことが書かれていた。
メグレ警視シリーズはミステリとしては優れているのかもしれないが文学としては二流。シムノンは人種差別主義、階級差別主義があり、それがメグレ警視に投影されている。本来文学というのは弱者に寄り添ってウンヌンカンヌン。
あとがきを長々と評価しても仕方がないので詳述しないが、とにかく肝腎なところでピントがずれているし、文学観も独善的に過ぎるよう自分は感じた(いくばくかは理解できなくもない部分はあったが)。
第三者の書評ならなにを書こうと勝手だが、訳者があとがきでこんなことを書くのはありなのか? 底意地悪く作者を貶し、褒めている部分でさえ嫌味が仄見える。こんなあとがきは見たことがない。ある意味貴重。

No.222 6点 メグレと殺人予告状- ジョルジュ・シムノン 2018/07/16 19:50
メグレの元に殺人を予告する手紙が届く。これはただのイタズラではないとメグレは直感した。部下に便箋を調べさせたところ、特殊なものだったので海法専門の弁護士エミール・パランドンの家で使用されている便箋だと判明した。メグレはパランドン家を訪ない、家人たちと話をする。この手紙を書いたのは誰なのか。本当に殺人は実行されるのか。

1968年メグレシリーズ後期の作品です。以前に書評した『メグレと火曜の朝の訪問者』の焼き直し的な面が色濃い作品です。脂っこさがなくてさらりと流したような趣ある作品ですが、こういう老成した味も意外と好きです。
殺人予告状など届いても手に汗握るようなことはなく、おどろおどろしい事件が起こるわけでもありません。メグレがパランドン家の人間と話をして、徐々にこの家の人間関係、問題が浮き上がってくるばかり。話が動くのは非常に遅く、ミステリというよりは家族小説のような様相です。
奇妙な家族ではありますが、各人物にメグレと火曜の朝の訪問者ほどの作りこみはありません。そうかといって類型に流された安易なキャラ作りはしていないと思います。ちょっとした一文で類型から外れた人物に仕立て上げる技術は健在です。
殺人予告状を書いたのは誰なのか、なんのために書いたのか。
さらに本作は登場人物が多いこともあり「誰が殺されるのか」を考えながら読み進めると面白いと思います。推理する楽しみとは少し違いますが、いくつかの可能性を想像することはできます。驚きはありませんが、納得のいく展開でした。各人物の言動などは自然でありながらきちんと計算もされているので、洞察する愉しみのある作品です。

No.221 6点 かわいい女- レイモンド・チャンドラー 2018/07/11 00:00
~小石をはめこんだような模様のガラスのドアにはげかかった黒ペンキで、「フィリップ・マーロウ……探偵調査」としるしてある。~
シナリオ調の書き出しで物語は幕を開ける。
この事務所でマーロウは~私は蠅叩きを持って、青蠅を叩き落そうと、身構えていた。~
そこへ今回の依頼人オファメイ・クエストより電話が入る。数頁読んで「またマール(高い窓)のようなキャラを使うのか」と思った。あのキャラは一度でいいだろうと。ところがどっこい。
邦題の「かわいい女」はちょっとどうなのかと疑問を持つ人も多いと思う。村上春樹氏は「リトルシスター」と改題した。まあこれが無難かもしれない。でも、個人的には皮肉たっぷりの「かわいい女」がけっこう気に入っている。アリス(ミュージシャンです)の「チャンピオン」みたいなものだと思えば。いや、それは違うか……。
とにかく、チャンドラー作品に登場する女性でもっとも印象的だったのは高い窓のマールと本作のオファメイなのであります。

本作は一般的な評価は低いようで、作者自身も不満を漏らしていた作品。
筋を錯綜させるのはいいが、こんがらがった結び目を解く作業がいい加減なのでなにが起こっているのか非常にわかりづらい。正直私も理解できているのかどうか疑わしい。それから、理解し難い理由で人物が動く。
次々にひっくり返される展開、意外な真相などなどきちんと書けばなかなか面白い作品になったのではないかと思う。
では、チャンドラーはどうしてこの作品が嫌いなのか。本作は出来が悪いとチャンドラー自身も言及していたことがあるらしいが……。
本作は当時の状況などからチャンドラーの個人的な感情が色濃く反映された作品のようだ。それはもちろんハリウッドへの思い。どのような思いなのか。
たとえばこんな場面がある。
愛犬家の映画会社社長が池に葉巻を捨てるのを見たマーロウが「金魚によくないのでは」と言う。
「わしはボクサー(犬種)を育ててるんです。金魚などはどうでもよろしい」
確かにハリウッドの醜悪さを描いているのだろう。この場面は印象的だし、いかにもハリウッドならありそうなことである。だが、チャンドラーの筆にはまだいくばくかの客観性があり、冷静さがあるように思える。ハリウッドを描いているように見える部分はわりと表面的で、さらに奇妙なのは物語がさほどハリウッドと密着してはいないように思える点。もっともっとハリウッドに寄せたものが書けたのではなかろうか。
むしろ一読ハリウッドとは関係のなさそうな部分こそがチャンドラーのハリウッドへの心情のように思えてしまう。チャンドラーはハリウッドでの仕事に魅了され、恋に落ちた。だが、しかし。
~電話が鳴ってくれ。頼む。誰か電話をかけて、私を人類の仲間に戻してくれ。~中略~この凍った星から降りたいのだ。~
このマーロウの独白は作品の中ではハリウッドと関係がない。だが、チャンドラーがハリウッドの仕事をしていた頃、痛切に感じたことなのではなかろうか。人類の仲間に戻りたい、凍った星から離れたい。
さらに言うと、チャンドラーにとってハリウッドを体現しているのは作中の二人の女優ではなく、むしろオファメイ・クエストではないだろうか。
本作においてマーロウは時にチャンドラーであり、オファメイはハリウッドなのではなかろうか。
本作でもっとも印象に残っているのは33章の最後の数頁~芝居は終わった。私は空になった劇場にすわっていた。~で始まるマーロウのモノローグである。ネチネチとした皮肉、嫌味には静かな怒りが満ち満ちている。
オファメイを皮肉っているのだが、これはそのままチャンドラーのハリウッドへの感情としても読めないものだろうか。
こうした負の感情はしばしば自己嫌悪の原因となる。チャンドラーが本作を嫌うのは作品の出来ウンヌンもあるのだろうが、そうした己の負の感情、弱さのようなものを作品に反映させすぎたことを嫌ったのではないだろうか。
だが、読者にとっては作者の負の感情こそが面白かったりする。
この章の最後がちょっと奇妙に感じられた。マーロウは~イギリス人が虎狩りから帰ってきたときのように悠々と階下へ降りて行った~のである。
なんか急に自信にあふれてきた。悪口言いまくってスッキリしたということか。(チャンドラーは)とにかくこの作品を書き上げて、次へいこうと吹っ切れたのか。

「かわいい女」は理解し難い作品だった。なぜこれを書いたのか。
チャンドラーの書きたかったものはやはりミステリなんだと思っている。うまく説明できないので簡単にいうとリアリティのある文学的なミステリ。
「大いなる眠り」から「湖中の女」までの変遷は理解できる。自分の書きたいものにだんだん近づいていたんだろうなあと思える。読みやすさも増して小説技術も上がってきているように思えた。
※作品の評価、好き嫌いとは別問題です。
そして「湖中の女」の次が「長いお別れ」なら腑に落ちる。なぜに「かわいい女」のようなものを書いたのか。「高い窓」「湖中の女」と積み上げてきたものを卓袱台返しして「さらば愛しき女よ」のあたりまで退行しているように思えた。
そういう意味では最後の「プレイバック」も理解し難い作品だったが、これは先行き考えず好き勝手にやった遺書のようなものだと思っております。

チャンドラーは不器用な作家で、作家としての総合的な能力はけして高くはないと思う。自分が目指した水準の作品を書くことができなかった作家であり、チャンドラーの作品は好きだが、それほど高く評価していない。
ただし、作家レイモンド・チャンドラーのことは非常に高く評価している。作家性とでもいうのだろうか。彼ほど真似をされる作家はなかなかいない。真似しやすいというのもあるが。
※クリスティ再読さんが「前衛小説」なることを書評で言及されていたが、その点はまさに同感です。人気があるのも確かに不思議です。
チャンドラーが本当に書きたかったもの、理想としていた類の作品はまだ地球上に存在していないのではないかと思う。それに近づいたものもほとんどない。そもそもこの理想形なるものを書くのは不可能ではないかと。目標が現実離れしていた哀しい人だったのではないかと妄想してしまいます。

チャンドラー長編、最後の書評にしていつにも増して妄想過多になってしまいました。


ややネタバレ


33章のモノローグの中に、マーロウからオファメイの雇い主であるザグスミス医師に向けてこんなメッセージがある。
――オファメイ・クエストに何か要求されたら、断ってはいけません。~中略~いつでもあの娘のいうことを聞いておやりなさい。そして、尖ったものをそのへんにほうりだしておかないことです。――
初読時これを読んで、尖ったもの=氷かき(アイスピック)が当然想起された。氷かきを使った殺人はオファメイの仕業だったのか、と思った。
ところが、そういうわけではないようだ。
チャンドラーはどういうつもりでこのようなことを書いたのだろう? オファメイが氷かき殺人をやりかねない女だとマーロウは言及していたが、それにしたって紛らわしい。

長いお別れのネタバレあり


次作の「長いお別れ」でチャンドラーは理想とした作品にもっとも近づけたとは思う。そういう意味では最高傑作だと思う。
長いお別れでチャンドラーが書きたかったことはたくさんあったのだろうが、ミステリ作家として、マーロウのセリフ↓で
「もちろん知らない。二人とも彼女が殺したんだ」
読者に死ぬほど驚いて欲しかったのではないかと。
私はかなり驚いた。だがしかし、ディープなミステリ読みにとってはどうなのだろう。

No.220 8点 マフィアをはめた男- ジョセフ・ピストーネ 2018/07/10 20:34
FBIの捜査官ジョセフ・ピストーネはニューヨークのマフィア組織に潜入捜査を試みる。マフィアに近い人物や平の構成員と付き合いを始め、やがて組織に認められて幹部クラスにまでのし上がっていく。そして、ピストーネのもたらした情報はマフィア壊滅作戦へと昇華していく。

これはノンフィクションです。ジャンル選定に悩みましたが、その他として小説枠に登録としました。落合信彦ことノビー訳。この時点でなんとなく胡散臭さを――失礼!――感じてしまうが、もちろん胡散臭くはないノビー作品もあるわけです。

ピストーネ氏がマフィアに信用され、出世していく過程はエンタメ小説顔負けの面白さで、リアリティは抜群だし、ここに家庭の問題やら友情やら、己の正体が発覚する恐怖やらが絡んできて読み応えは抜群。マフィアの内幕ものとしてはピカイチではないかと。
ピストーネ氏の用心深さは尋常ではないが、マフィア構成員たちの疑り深さもまた尋常ではない。下部構成員に食い込むだけでも非常な困難が付きまとう。ゆえに序盤は話の進行は遅々としている。このへんがまたリアルでいい。ノンフィクションなので、エンタメ作品であれば描かれなかったであろう細部も描かれ、エンタメとしては賛否あるのではないかと思う。
『ゴッドファーザー』なんかを読んでいるとドンの家の前で警護をしている連中なんかは雑魚キャラでしかないが、本作を読めばそうした雑魚キャラになることさえもかなり大変なんだということがよくわかる。ワルなら誰でもマフィアの一員になれるってわけではないのである。審査のようなものがあって、定員も決まっていたり、とにかく徹底した信用社会である。一般的な信用とは異なるものではあるが。
知名度はいまいちの作品だが、非常に面白い。
映画化もされているが、映画は観ておりませぬ。

No.219 7点 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー 2018/05/11 22:07
もちろん好きな作品です。が、特にこれが好きというわけでもない作品。
とりあえず導入~序盤はすごくいい。チャンドラー作品の中でいちばん好きかも。マーロウはなぜレノックスに魅かれたのか。これはもうその人が持つ天性の愛嬌とでもいうしかないでしょう。なぜかわからんけど好きになってしまうような人間。
そして、レノックスと別れ、次の事件が起こる。これがサボテンを桜に接ぎ木したみたいに不細工。初読時はわけがわからなくなって苦労しました。読解力のなさもあったのでしょうが、二冊の本を同時に読まされているような違和感。相変わらずの麻薬を処方する医者。ですが、まあこんなのはチャンドラーにはよくあることです。
本作にあまり夢中になれない最大の原因は、テリー・レノックスが好きになれないからです。意志の弱さというのか、なんというのか。あの人物が本当に勇気を出して戦友を救ったのか?
「おばあさんが狙っているのは本当に~?」は笑いました。チャンドラー作品で一番笑ったセリフはこれかもしれません。
それから、村上訳で大きな収穫が一つありました。
清水訳では「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」となっていたこの一文。名文とされていますが、正直なところ私にはどこがいいのかさっぱりわからない文章でした。いい悪い以前に意味がよくわからなかったのです。
※再会を予期しての言葉なら理解できるのですが、文脈的にそんな風ではなかったため。
ですが↓
村上訳「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」
これでようやく合点がいきました。近親者が亡くなったときなど「片腕をもがれたような悲しみ」なんて表現することがありますが、それに近いニュアンスの言葉だったんですね。むろんこの部分に関しては村上訳を推します。
清水訳は、この一文に関しては誤訳といっていいレベルだと思います。

チャンドラーについてよく言われていることに対する私見
「チャンドラーは普通の小説を書きたがっていた」
本当にそうなのか? 私はチャンドラーはミステリが書きたくて書きたくてたまらなかった(けど書けなかった)人だと思っています。
※チャンドラーの評伝などは読んだことありません。あくまで作品を読んでの憶測に過ぎません。
「大人のための読み物」
本当かなあ。もちろん子供にはわからないと思いますが、そうかといって完全に成熟した大人が楽しめるのかというとそれも疑問なのです。
※makomakoさんが本作の書評で仰っていたことは理解できます。本当にその通りだと思います。
文章表現の面白さなどは除外して、フィリップ・マーロウにどの程度感情移入できるか、彼を理解できるのかという観点で見ると、むしろある種の子供っぽさを残した人の方が愉しめるのではないかと思うのです。青臭い理想主義、青臭い反抗心、融通の利かなさ、若さゆえの潔癖、こうしたものを大人になっても抱えている人こそがチャンドラーに向いているのではないかと。チャンドラーがわからない人は子供なのではなく、むしろ大人なのではないかと。
そんなわけで、私にはまだフィリップ・マーロウにさよならを言う方法がみつかっておりません。

2018/05/12 訂正及び追記

No.218 8点 鷲は舞い降りた- ジャック・ヒギンズ 2018/04/01 07:41
第二次大戦で敗色が濃厚となっていたドイツ軍はとある情報を入手する。イギリス東部の寒村ノーフォークに英国首相ウィンストン・チャーチルが立ち寄るというのだ。
チャーチルを誘拐することはできないだろうか。できそうな奴らがいる。
かつては精鋭中の精鋭といわれた男たち、歴戦の勇士クルト・シュタイナ中佐率いるドイツ落下傘部隊の連中だった。彼らは現在、囚人部隊として自殺的な任務に従事させられている。彼らにヒトラーの密命が下った。

ドイツの軍人を英雄として扱っているが、「ナチスが悪かった。ドイツ人は悪くない」というオーソドックスな(ずるい)歴史観から外れた作品ではない。「ナチ党員にも立派な人がいた」となると話は変わってくるが。
しばしば冒険小説の金字塔などと称される作品であり、読みやすくて非常に面白い。作戦の成否そのものは歴史が明示しているが、そこはあまり問題ではない。
この作戦が成功したところで、それが一体なんになるのか?
(チャーチル1人をいまさら攫ったところで戦況が変わるとは思えない)
無意味だとわかっていながら、彼らはなにゆえ作戦を遂行しようとするのか。
作中、シュタイナ中佐についてこのような言及がなされる。
「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンティックな愚か者」
これはシュタイナに限ったことではなく、本作の登場人物はロマンティックな愚か者ばかりだ。
善玉と悪玉があまりにも両極端に描かれている点が気になる。ものすごくかっこいい奴か悪い奴かといった風なのでキャラは立っているが、いささか単調。ただ、本作の場合はそこがまさに面白さの源泉なのである。
前半はわりと静かに進む。シュタイナ中佐らが囚人部隊に格下げされた経緯や作戦の準備、訓練、そして、先発の工作員リーアム・デブリンの英国潜入などが描かれる。彼らが舞い降りてからはピンチの連続で息をつかせない。たるい部分のほとんどない作品だが、個人的には特に前半が好き。

旧版も完全版(削除されていたエピソードが追加されている)も読んだが、完成度は旧版の方が上だと思う。完全版は旧版を読んで惚れこみ、さらに余計なお金を払うことも厭わないような――私のような――人だけが読めばいいのではないかと。
特にリーアム・デブリンに惚れこんでしまった人向きか。
(私はリタ・ノイマンと鳥好きの隊員が贔屓だが)
「飛び立った」もとっくの昔に購入してあるが、読む勇気がない。
最後に一つ。作者は登場しなくていい。

No.217 7点 森の死神- ブリジット・オベール 2018/03/31 19:51
一年前、エリーズは爆弾テロに巻き込まれて全身が麻痺、視覚も失い、聴くことはできても話すことはできず、たった一本の指を動かすことしかできない。
彼女はある日、幼い少女から『森の死神』について聞かされる。森の死神は男の子を殺して回っているという。だからといってエリーズにはなにもできはしない。だが、森の死神の魔の手が彼女自身にも迫ってくるのであった。

ブリジット・オベールは四作読んだが、、その中ではこれが一番面白かった。次々と新事実が浮かび上がり、次々と事件が起こる。強引なところもあるが、多少のことには目を瞑って作者の用意したローラーコースターに身を委ねてしまうのが吉。
語り手エリーズの境遇がかなり過酷だが、空さん御指摘のとおり陰鬱ではない。
エリーズは以前に書評したマーチ博士のヒロインに似て、強く明るくお人好しで、応援したくなるような人物。
語り手が全身麻痺で意思の疎通もままならない、しかも視覚まで奪われている。この設定が相当な縛りとなるはずだが、多少の御都合主義はあるものの縮こまることなく伸び伸びと描き切っている。
ラスト前のシーンなど相当にスリルがある。
最後に事件の全貌をとある人物が長々と語るのは不格好だが、この設定では止む無し。むしろ作者はよく頑張ったと思う。

語り手は視覚を奪われているため、描写の範囲はかなり限られているが、単調にならないよう緩急を付けるのがうまい。ごくごく短い文を連ねていく手法が多用されるが、うるさくない。
特に自分の無力さを自覚しているが故の語り手の焦燥感が非常によく書けている。そして、なぜか映像的ですらある。語り手には見えていないものが読者の目にはありありと見える。
こうした臨場感は父親が映画館を所有していて、子供の頃から映画漬けだったという作者の出自が関係しているのかもしれない。
この人は本格向きではなく、サスペンス、スリラーの書き手として優れている。ついでに個人的には本格と映画は相性があまりよくないと思っている。

No.216 6点 パイは小さな秘密を運ぶ- アラン・ブラッドリー 2018/03/31 19:48
英国の片田舎にあるお屋敷に父と二人の姉、使用人らと暮らす11歳のフレーヴィア・ド・ルース。趣味は化学の実験、とりわけ関心が深いのは毒物、治験?には姉を使用、こんな具合に楽しく日々を送っていた。
そんなある日の早朝、フレーヴィアは畑で赤毛の男が苦しみ、死んでいく現場に遭遇してしまう。
現場は自分たちの畑、しかも、この男が昨夜父と口論をしていたことを知っている。このままでは父が牢屋行きになってしまう。フレーヴィアは即座に行動を開始するのであった。

シリーズ一作目にして作者のデビュー作。
フレーヴィアにいまいち共感できず、理解すらできず、序盤はあまり乗れなかったものの、事件の背景、父親の過去が明らかになるにつれて、どんどん面白くなっていく。フレーヴィアのエキセントリックなところも理解はできた。共感はできないが、だんだんとこのキャラが好きなっていった。
犯人探しの点は弱い。事件の背景を探っていくという点ではなかなか面白い作品だった。プロットもしっかりしている。が、冗長。筆力あるのが仇となった感あり。400頁超のヴォリュームなのだが、300頁くらいにまとめた方が良かったのではないかと思う。
ミステリというよりはおしゃまな少女の冒険譚といった風で、そういう意味ではとても面白かった。ミステリとしては弱いので6点。
※nukkamさんの御書評によれば本シリーズには本格としてなかなか楽しめる作品もあるようです。

読み進めていくうちに物語の時代が1950年代だということがわかった。とすると、作者はフレーヴィアと同世代ということになる。現在作者は……え? えーっ!?
読後に作者がカナダ出身の70歳男性(執筆時)ということを知って非常に驚いた。

No.215 6点 ズッコケ心霊学入門- 那須正幹 2018/03/20 20:52
低学年の頃に読んで二週間一人でトイレに行けなくなった。
このシリーズは十冊ほど読んだが、本作がもっとも記憶に残っている。
改めて読んでみて、子供向けのわりにプロットや細部がしっかりしているなと感じた。また、季節から入って、情景、人物ときちんと描写している。
このシリーズは大人には見向きもせず、子供を教育しようなどとは考えず、ひたすら子供を愉しませることのみに専心している。
その姿勢が潔く、これこそがプロフェッショナルだなと感じた。

No.214 8点 わたしを離さないで- カズオ・イシグロ 2018/03/20 20:29
提供者と呼ばれる人たちの世話をする仕事、いわゆる介護人であるキャシー・Hが自身の過去を振り返る。その回想を通じて彼女が育ったヘールシャムという施設の秘密が徐々に浮かび上がる。

「オフィス」という言葉を聞くたびにこの作品のことを思い出してしまう。なんの変哲もない言葉なのに、なんとも物悲しい響きが籠められている。
キャシー(語り手)は『窓の外にいたみんなを見ていた』それだけなのに、どうしてこうも心を揺さぶられるのだろう。

受け入れ難いという方も多く存在するであろう作品。
抑制された筆致と評されているが、突飛と陳腐が同居した妄想を強力な筆力でつなぎ合わせたかのような矛盾に満ちた作品。
こんな話(世界、物語)はあり得ない。でも、この人たち(作中人物)は読者の眼前に確かに存在する。
たいていの人はヘールシャムの秘密には早いうちに気付く。星新一がこのネタでショートショートを書いているし、以前私が書評した作品の中にもこれを扱ったものがある。探せばいくらでも出てくる手垢のついた題材ではある。
しかも、ヘールシャムの秘密は早々に察しがついてしまう上、すっきりと謎が解かれずに曖昧なままに終わってしまう部分が多い。ミステリ的には物足りない。
また、費用対効果の問題など、設定には隙が多く、また曖昧な部分が多すぎて作中の世界にリアリティはない。これは書けなかったのではなく、書かなかったのだろうと思う。そこは重要ではないと。つまりSF的な要素はあるも本作はSFともいえないと思う。
そして、もっとも不可解な点はこの世界を語り手たちが受け入れてしまっているように映るところ。ここが引っかかるという方は多いと思う。
だが、私は逆だった。
運命に抗う姿が印象的な作品もあるが、本作では諦観、受け入れようとする姿が良くも悪くも非常に印象的であった。作者のルーツ(日系人)を窺わせるような気がした。 
読後感が似ていると感じた作品は、ヴォネガットの『スローターハウス5』。フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に共通するテーマも見え隠れする。
登場人物が自分の運命を儚んでいない(ように見える)。だから余計にこの物語は不快である。だが、過酷な運命を淡々と受け入れていく登場人物たちには非常に好感を持った。
物語の最後の一文の後に、どうしようもなく哀しいキャシーのセリフが
『Never let me go(本作の原題)』が聞こえた。
『ロックンロールの自殺者』(デヴィッド・ボウイ)を歌いたくなる。
この人には死んで欲しくない。生きていて欲しい。
いい年して、こんな小学生みたいな感想を抱いてしまう作品だった。

No.213 5点 犬橇レースの殺人- スー・ヘンリー 2018/03/03 01:18
舞台はアラスカ。1500マイル近い距離を犬橇で走破するアイディタロッド・レースの参加者が木に激突して無残な最期を遂げる。さらに別の参加者も橇の下敷きとなって死亡する。
アラスカ州警のアレックス・ジェンセン巡査部長はこれらの出来事が事故ではなく殺人事件だと確信した。
ジェンセンはレースの参加者であるジェシー・アーノルドに協力を求め、調査を開始するのだが、またも新たな犠牲者が……。

「犬橇レース」なるものに惹かれて購入したのですが、この点では満足できる内容でした。筆力もそこそこあります。
アラスカの自然、犬橇レースの駆け引きなどはよく描けており、本で得た知識だけではなく、ちょっとした描写から現場の空気までもが感じられます。コース途上にある町の様子なども詳細で、レースの参加者がいかに歓迎され、英雄視されているかなどが良くわかります(これらの町には他に楽しみがないのではという気もしますが)。
ただ、導入~序盤あたりまでは良いのですが、あまりに淡々と進み過ぎて中盤がややだれます。終盤は少しギアが上がるのですが、ラストでの犯人の行動がアホ過ぎる。結局犯人がなにをしたかったのかよくわからないのです。犯人の目的と標的が噛み合っていない。他に狙うべき人間がいるだろうに。しかも殺す必要はないのに殺してしまったとかムニャムニャ。
仕掛けらしい仕掛けがなくて、ミステリとしてどうこう以前に、ミステリになっていないような。
ある種のクローズドサークルともいえそうな状況をうまく使ってユニークなミステリに仕立ててくれれば。
もしくは殺人事件にしないで純粋に冒険小説にした方が良かったのではないかと思いました。
犬橇レースに興味のない方は読む必要のない作品といえそうです。
犬橇レースの世界を描いた作品として個人的にはまあまあ楽しめました。
この作者は邦訳作品がもう一作あるらしいのですが、そちらの方も読んでみたい。

No.212 7点 高い城の男- フィリップ・K・ディック 2018/02/17 10:53
アメリカは第二次大戦で敗北し、勝利した日本とドイツにより分割統治されることとなった。それから十五年、日本に統治されているアメリカ西部では日本人が中国より持ち込んだ易(占いのようなもの)によって自らの行動を決定することが当たり前となっている。そして、最近になって奇妙な書物が大流行していた。『イナゴ身重く横たわる』この書物には第二次大戦でドイツと日本が敗北した世界が描かれていた。
上記のような舞台背景の下、サンフランシスコに在住する日本の通商団の一員である田上氏は交渉相手であるバイネス氏から怖ろしい情報を入手した。
ドイツは日本に大規模な核攻撃を加えるべく動き始めているという。

1962年の作品。本作のオマージュと思しき作品が糸色女少さんによりレビューされていたので、私はこちらを。
不安定な世界に生きる人々、何故かくも人々は不安を抱え、易などに頼って生きているのか。
古物商を主要人物の一人に据えて、本物と偽物に関する考察が興味深く語られていくあたりは非常にうまい。すべての事象が収斂し、ある意味わかりきった結論へと導かれる。
登場人物も魅力的であり、ストーリーも安定している。ディック作品の中では読み易い部類ではないかと思う。去年あたり映像化もされたらしく、そちらも是非観てみたい。
トレヴェニアンほどの日本理解はないが、日本への好意は感じ取れる。少なくとも悪虐非道には描かれていない。ドイツの扱いは酷いが。
ディックはインタビューで「取るに足りない人間がときおり見せる勇気、それが私の一番書きたいものだ。そういう人物が読者の記憶に残ることを望んでいる」みたいなことを言っていた。本作にも確かにそうした場面がある。
※上記のインタビュー、ソース失念。言葉も正確には記憶していないので参考程度にして下さいませ。

普通の世界に普通ではない人間を配置して物語を展開するシオドア・スタージョン。ディックは逆で、普通ではない世界に普通の人間を放り込む。
スタージョンにはなくてディックにあるもの、ディックの決定的な魅力、それは人間があがく姿だと思う。普通ではない世界、状況、絶望、そこから逃れよう逃れようと。彼らのその必死さ、生々しさに圧倒されて読者は心動かされるのだ。

No.211 7点 モンマルトルのメグレ- ジョルジュ・シムノン 2018/02/16 10:13
キャバレー『ピクラッツ』で働く踊り子のアルレットが酔っ払って警察署にやって来た。
アルレットはリュカ巡査部長に「伯爵夫人がオスカルに殺される」などと主張するも、急に態度を変え、自分は作り話をしたのだと言を翻す。
作り話というにはいささか具体的で真に迫ったところもある。
半信半疑のまま、リュカは彼女を家に帰した。
そして、数時間と経たぬうちにアルレットは何者かに絞殺されるのであった。

1950年発表のメグレシリーズ黄金の50年代の嚆矢となる一作であります。ハヤカワミステリマガジン1990年3月号「ジョルジュ・シムノン追悼特集」にて矢野浩三郎、野口雄司、長島良三、都筑道夫の四氏にメグレシリーズのベスト5作品をそれぞれ選んで貰ったところ、四名全員が選んだ唯一の作品が本作『モンマルトルのメグレ』だったようです。
※ソースは瀬名秀明氏のwebでの連載です。

冒頭から被害者(アルレット)に盛んに言い寄っていた若い男の存在が明らかになっております。
この若い男の正体は最初の数頁で仄めかされ、63頁(河出文庫版)であっさり判明してしまいます。
この男が犯人である可能性を仄めかしつつ正体を伏せたまま後半まで引っ張るのも一つの手というか常道でしょうが、シムノンはこの道を採りません。こんなプランは彼の脳裏を過ぎりもしなかったことでしょう。なぜならシムノンだからです。
この謎の男R氏は熱弁を振るいます。
「彼女は違うんです、ぼくのことを真剣に考えてくれていました」
「ふうん、そうなの(ニヤニヤ)」と、メグレはこういう感じ。
このへんの会話は面白い。キャバクラに嵌っていた知人のMくんを思い出します。Mくんも「彼女は違う」と言ってました。
脇役も良く、ロニョンはいつもの通りいい味を出している。ピクラッツにおける人間模様などなかなか面白くて、後半にはスリリングな展開もあったりして非常に出来が良い作品です。お薦めの一作です。
犯人がなかなか興味深く、読者に好奇心を抱かせるような書き方がされています。正体が明らかになるにつれてメグレとの絡みを少し期待しました。ところが、人物像は曖昧なままに終わってしまいました。
ラストを考えるに仕方ありませんが、残念でした。
また、アルレットについても曖昧な部分が残されておりました。
なぜアルレットはオスカルのことを密告しようとしたのか。
なぜ急に態度を変えて、オスカルなんて知らないなどと言いだしたのか。
謎の男R氏の言うように『彼女は(本当に)違うんです』そんな風に思いたいですね。

確かに本作のタイトルは『メグレとR氏』の方がよかったかも。もしくは原題に忠実に『ピクラッツのメグレ』にして欲しかったところです。

以下、参考までに前述のミステリマガジンアンケートの結果を記載しておきます。
「メグレ・シリーズ・ベスト5」
•矢野浩三郎『メグレのバカンス』『メグレと若い女の死』『メグレ罠を張る』『モンマルトルのメグレ』『メグレと幽霊』
•野口雄司『黄色い犬』『メグレと殺人者たち』『モンマルトルのメグレ』『メグレと若い女の死』『メグレ間違う』
•長島良三『メグレと若い女の死』『メグレと殺人者たち』『モンマルトルのメグレ』『メグレ罠を張る』『メグレと首無し死体』(番外)『メグレ警視の回想録』
•都筑道夫『メグレ罠を張る』『メグレと首無し死体』『モンマルトルのメグレ』『メグレと優雅な泥棒』『猫』(非メグレもの)。

私が選ぶとしたら『メグレと若い女の死』と『メグレと殺人者たち』は入れると思います。都筑さんが『メグレと優雅な泥棒』に一票投じてくれているのがとても嬉しい。人さまにお薦めはしづらいが、私も大好きな作品です。
概ね良い作品が選ばれているとは思いますが、もう少しヴァリエーションがあった方が面白いのになあとも思いました。
特に初期作品にあまり票が入っていないのが気になります。
日本ではもっとも有名な作品と言えそうな『男の首』に一票も入っていない! これは私もベスト5には入れませんが。

2018/05/11 追記
R氏としましたが、L氏とすべきでした。綴りを知らなかったもので。

No.210 6点 警(サツ)官- エド・マクベイン 2018/02/16 10:10
87分署に脅迫電話が掛かる。公園局長を殺されたくなかったら、五千ドル用意しろ。87分署一同はそれなりに手を打つも結果→公園局長死亡。
続いて、「副市長を殺されたくなかったら五万ドル用意しろ」→副市長爆殺。
一連の事件には補聴器をつけた長身の男が絡んでいる。そう、あのデフマンだ。うんざりだった。
一体、デフマンは今度はなにを企んでいるのか。

『電話魔』の続編です。あの男デフマンが還ってきます。事件の性質、全体のトーンも似通っております。署内はイヤな空気に包まれます。本作もデフマンの遠回しな狙いがなかなか面白い。
さらに87分署シリーズでは御馴染のパターン、並行して別の事件も起こります。連続浮浪者襲撃事件、若造の強盗計画などなど。マクベインには珍しくこれらの事件が一つにまとまりますが、少しも巧妙ではありません。とんでもない偶然によってまとまってしまっただけなのです。
裏表紙には『犯人と刑事たちの熾烈な頭脳戦をスリリングに描く傑作』などと謳われていますが、ぜんぜんそんな話ではありません。事件の解決は青天の霹靂としかいいようがなく、偶然と失敗が織りなすしようもない物語です。「偶然によってプロットが動く」「キャラのマヌケな失敗」は読者を白けさせます。
本作では刑事がやたらと失敗します。登場人物の失敗にはストーリーをより面白くするものありますが、読者をイライラさせるだけのものもあります。本作では後者の色合い濃厚。服に引っ掛かって拳銃が抜けないとか、初歩的な尾行の失敗とかそういうのは止めて欲しいわけです。
そういう失敗はリアルに起こり得るのかもしれませんが、小説的にはそんなリアルを描かれても面白くない。
87分署シリーズはキャラのマヌケな失敗をしばしば目にしますが、本作に至ってはほぼ失敗しかしていない。
ですが、失敗はともかく、偶然に関してはマクベインはこれを自覚的に、むしろ誇張してみせているふしがあります。
本文内で市警本部長による遠回しな言及があります。「警察の仕事には偶然が多く、多くの事件が偶然無くしては解決しなかった」本作はまさにこの言葉の体現なんですよ。失敗続きでも偶然解決しちまうのさと。
本作はシリアスなものではなく、かなり遊びの要素が強いと私は見ています。
シリーズも中期に進み、マクベインも飽きてきて少し変わったことをしてみたかった。穿った見方をすれば書くのが嫌になりかけていて投げやりな気持ちだった。いずれにしても、作者本人はわりと醒めた目でこのシリーズを見ていたように思えます。
駄作認定される素質は充分の作品でしょうが、ジェネロ巡査のエピソードやマイヤーマイヤー事件などの細部、馬鹿馬鹿しさ、電話魔と似た空気感などなど、意外と好きな作品です。高得点はつけません。

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tider-tigerさん
ひとこと
方針
なるべく長所を見るようにしていきたいです。
書評が少ない作品を狙っていきます。
書評が少ない作品にはあらすじ(導入部+α)をつけます。
海外作品には本国での初出年を明記します。
採点はあ...
好きな作家
採点傾向
平均点: 6.71点   採点数: 369件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(35)
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