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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ] シャーロック・ホームズ最後の解決 |
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マイケル・シェイボン | 出版月: 2010年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 2件 |
新潮社 2010年01月 |
No.2 | 6点 | tider-tiger | 2018/08/28 21:35 |
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2004年アメリカ作品
~時は1944年。第二次大戦も終盤。親と別れ、祖国を離れ、ユダヤ人の少年は英国の司祭に養ってもらっている。少年は口が利けないが、よく喋るオウムをいつも連れていた。ある日、少年は殺人事件に巻き込まれ、親友のオウムは何者かに連れ去られてしまう。警察は近所で養蜂を行っている老人に意見を求めた。この老人はどこかで聞いたことのあるような物言いをするのであった。~ オウムを肩に乗せて線路脇を歩く少年。その少年を「老人」は遠くから観察します。 老人は久しぶりに「容易に秘密を明かそうとしない世界の美しい拒絶」に直面し、苛立ちと快感を覚えるのでした。 こんな風に物語ははじまります。 実は本作の原題は『The Final Solution』ホームズのホの字もありません。 さらに、ホームズは「老人」と表記されるのみです。作中では「老人」の過去の業績がほのめかされ、いくつかの事件の断片が紹介されますが、シャーロック・ホームズの名前は完全に伏せられております。邦題がなければ、ホームズだと気付かないで読み終えてしまう読者もいるでしょう。そんなわけで、とんでもないネタバレ邦題なのです。 ホームズものだと知らずに読みはじめて、あれ? これってもしかしてホームズなんじゃ……と気付く。この瞬間を味わうことができれば最高だったと思います。 でも、ホームズものだと思ったからこそ読んだわけなので、邦題のネタバレなしでは本作を手に取る人がグンと少なくなるでしょう。非常に悩ましい。 ミステリとしては残念ながら面白くありません。 文体もドイルとはまるで違います。わかりづらい文章、回りくどい表現がままあります。 年老いたホームズをことさら美化していないのがいいです。 きちんと年を取り、体は弱り、おそらくは頭脳にも衰えが見えている。なのに性格の悪さだけは健在だったりして。コカインはやめたようですが。 事件に巻き込まれた子供に養蜂の仕事を手伝って貰うシーンがありましたが、心温まる交流なんてものではなく、ホームズはこの子はお喋りをしないから助かるなどとのたまいます。それでいて、ホームズなりの思いやりはあるのです。少年は少年でこの狷介な老人をいつしか頼るようになります。馴れ合いはありませんが。 ホームズの名推理が健在なわけでなく、事件もさほど面白いものではありませんが、ホームズの老後を遠くから見守る。ホームズの変化に一抹の寂しさを覚える。そんな作品なんだと思います。 |
No.1 | 4点 | E-BANKER | 2012/03/24 00:39 |
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世界のミステリー史上に燦然と輝く名探偵・シャーロック・ホームズのパスティーシュ作品。
時は1944年、ホームズは何と齢89歳(!)という設定。 ~声を失ったその少年には親友のオウムがいた。彼の代わりのように不思議な数列を連呼するオウムが・・・。少年は9歳。親を失い、祖国を離れ、英国南部の片田舎で司祭の営む下宿屋に引き取られていた。彼が巻き込まれた奇禍とはある殺人事件とオウムの失踪。養蜂家の老人に司祭一家のドラ息子、謎の下宿人。オウムはどこに? そして犯人は?~ 新潮文庫で150頁程度の中編というべき分量で、中身も含めて小品。 ホームズは1903年に探偵業を引退し、サセックスの丘陵地帯で養蜂家となって余生を過ごしたという設定になっており、紹介文に出てくる「養蜂家の老人」とはつまりホームズのこと。 89歳という年齢には勝てず、老骨に鞭打って少年のために最後の冒険を試みる姿や、久しぶり帰ってきたロンドンで、第2次世界大戦で傷つき、アメリカ人が跋扈する姿を見て感慨にふける姿など、ホームズファンならば何とも言えない気持ちになりそう。 一応、殺人事件が起きるのだが、解決のための材料が読者に与えられる訳でもなく、事件は唐突に解決してしまう。 しかも、その場面が何と「鳥目線(!)」 ホームズものの秀作の雰囲気を真似てるかというと、そこまでのレベルに達しているということでもないので、パスティーシュ作品としても中途半端な印象。 まぁ、本当のシャーロキアン以外ならスルーしてもOKでしょう。 (1人寂しく余生を過ごすホームズというのも何だか切ない・・・) |