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[ 時代・歴史ミステリ ] 暗き炎/チューダー王朝弁護士シャードレイク マシュー・シャードレイク |
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C・J・サンソム | 出版月: 2013年08月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
集英社 2013年08月 |
集英社 2013年08月 |
No.1 | 8点 | tider-tiger | 2018/09/07 19:49 |
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2005年イギリス作品
16世紀ロンドンは悪名高きヘンリー8世の治世。 法廷弁護士シャードレイクは従弟を殺害した容疑で逮捕された少女エリザベスの弁護を頼まれる。だが、エリザベスは完全黙秘を決め込み、このままでは拷問による死は免れない。この少女は無実ではないかと予感するシャードレイクだったが、本人が死ぬ気まんまんではどうしようもない。 そこへ摂政クロムウェルよりシャードレイクに交換条件が出される。エリザベスの審議を先送りする代わりに、古より伝わる「ギリシャ火薬」の秘密を探れと。 ギリシャ火薬の秘密に肉薄したとされる兄弟を訪ねるシャードレイク。だが、その兄弟は何者かに殺害されていた。 とても面白かった。弁護士シャードレイクがクロムウェルより遣わされた助手兼監視役ジャック・バラクと共に二つの事件を追っていくのだが、車はねえ、電話もねえ、もちろん科学捜査もねえ、ので馬に乗ってあちこち訪ね歩き聞くだけの捜査。タイムリミット12日間なのに遅々として進まない。そうした中での読みどころはやはり当時の風俗、社会、人間などの描写と生真面目なシャードレイク、横柄なバラクのキャラだろう。人権意識など皆無な世界でシャードレイクやバラクが見せる思いやり、それほど深みはないが、宗教的な絶望などに触れた部分は興味深かったし、時代の枠をきちんと踏まえた人物、物語に好感を抱いた。いくつかの事件が複雑に絡み、意外な展開もあって楽しめた。翻訳もいいと思う。 ギリシャ火薬の正体はほとんどの方は察しがつくと思うが、それにまつわる政争、陰謀はまあまあよく考えられていた。エリザベスの事件はやや肩透かしな真相だった。 別に英国史に興味もないのに手にとってしまった本。ヘンリー8世と言われましても、ハーマンズ・ハーミッツの『ヘンリー8世君』(別にヘンリー8世のことを歌っているわけではない)でその存在を知り、世界史の授業で暴君であったと教わった。そんな程度の知識しかない。なので本作の歴史考証に関してはもっともらしく聞こえるとしか言えない。実在の人物と架空の人物が入り混じり、本筋の二つの事件は架空のものらしいが、背景にある政変などは実際に起きたことらしい。 当時のロンドンの不潔さ、裁判の適当さ、刑罰の残酷さなどなど同時代の日本と比べても酷いんじゃないかと思った。政治的な立場により正義が歪められるさま、宗教までも政争に絡んで歪められているさまは現代にも通じる醜悪さがある。 本作はシリーズ二作目。こちらの方が一作目よりも面白いと思うし、先に読んでしまってもさほど支障はないが、一作目から読んだ方がクロムウェルとシャードレイクの微妙な関係がよりよく理解できる。 |