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[ サスペンス ]
森の死神
エリーズ・アンドリオリ
ブリジット・オベール 出版月: 1997年06月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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早川書房
1997年06月

No.2 7点 tider-tiger 2018/03/31 19:51
一年前、エリーズは爆弾テロに巻き込まれて全身が麻痺、視覚も失い、聴くことはできても話すことはできず、たった一本の指を動かすことしかできない。
彼女はある日、幼い少女から『森の死神』について聞かされる。森の死神は男の子を殺して回っているという。だからといってエリーズにはなにもできはしない。だが、森の死神の魔の手が彼女自身にも迫ってくるのであった。

ブリジット・オベールは四作読んだが、、その中ではこれが一番面白かった。次々と新事実が浮かび上がり、次々と事件が起こる。強引なところもあるが、多少のことには目を瞑って作者の用意したローラーコースターに身を委ねてしまうのが吉。
語り手エリーズの境遇がかなり過酷だが、空さん御指摘のとおり陰鬱ではない。
エリーズは以前に書評したマーチ博士のヒロインに似て、強く明るくお人好しで、応援したくなるような人物。
語り手が全身麻痺で意思の疎通もままならない、しかも視覚まで奪われている。この設定が相当な縛りとなるはずだが、多少の御都合主義はあるものの縮こまることなく伸び伸びと描き切っている。
ラスト前のシーンなど相当にスリルがある。
最後に事件の全貌をとある人物が長々と語るのは不格好だが、この設定では止む無し。むしろ作者はよく頑張ったと思う。

語り手は視覚を奪われているため、描写の範囲はかなり限られているが、単調にならないよう緩急を付けるのがうまい。ごくごく短い文を連ねていく手法が多用されるが、うるさくない。
特に自分の無力さを自覚しているが故の語り手の焦燥感が非常によく書けている。そして、なぜか映像的ですらある。語り手には見えていないものが読者の目にはありありと見える。
こうした臨場感は父親が映画館を所有していて、子供の頃から映画漬けだったという作者の出自が関係しているのかもしれない。
この人は本格向きではなく、サスペンス、スリラーの書き手として優れている。ついでに個人的には本格と映画は相性があまりよくないと思っている。

No.1 7点 2017/07/26 23:14
全身麻痺で、目も見えず、話すことを含めほとんど動けないエリーズの一人称で語られるサイコ・サスペンスです。この主人公設定を見て、なんだか重苦しそうと思われる人もいるでしょうが、全然そんなことはなく、軽快でユーモラスな語り口が楽しめる作品です。そんなエリーズのキャラが、本作の最大の魅力と言ってもいいでしょう。ゾンビ・ホラー『ジャクソンヴィルの闇』も書いている(未読ですが)作者だけに、サイコな事件の方はかなりグロいところがあります。
サイコ・キラーの正体については、可能性の一つとしてごく早い段階で思いついてしまいましたが、その解決に至るクライマックスの逆転劇連続は、なかなかのものでした。その解決、最初の部分でエリーズに森の死神について語る少女の態度やその内容に隠された伏線について、説明不足なのは気になりますが、まあ明かされた真相から逆に考えていけば納得はできます。


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ブリジット・オベール
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