海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ サスペンス ]
マーチ博士の四人の息子
ブリジット・オベール 出版月: 1997年02月 平均: 5.78点 書評数: 9件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1997年02月

No.9 7点 斎藤警部 2025/04/27 18:37
金持ちの息子と、家の使用人との間で交わされる、非対称の往復書簡、ではなく往復書簡 "もどき"。 この「息子」が、タイトル通り四人いる内の誰なのか、「使用人」(こちらは唯一人)にも読者にも分からないのがミソ。 「息子」の日記の中では過去、現在、未来の悍ましい猟奇殺人が語られ、いずれ「使用人」の命をも狙う旨、日記の中で「使用人」に向け宣告される。 日記を盗み見た「使用人」は自分でも日記を付けており、その中で「息子」を特定し陥れるための策を練り、恐怖や嫌悪の感情を吐露する。 日記どうしによる往復書簡 "もどき" の途上には喧しい脱線もあるが、その割に話は淡々と進み、スラスラ行けてしまう。 それでも敢えて時間を掛けて読んだ方が、結末に感心出来そうだ。 どうしても読書から離れられない中毒の人は、小説以外の本と並行で読むのが良いかも知れん。

サスペンスはさほど強く醸造されていないと思う。 が「息子」のナスティな胸糞っぷりが実に堂に入っており "十日ほど拷問に掛けてじっくり苦しめて殺してやりたい男オヴザイヤー" の堂々有力候補で、そのあたり心を揺さぶる重要要素とは言える。 が、終盤へ近づくにつれ "もしかしてコレ、アレ系のありがちな真相だったりして・・" との予感も過った ・・・・ しかし、予感は見事に覆されました。 単純なアレのソレではない、かと言って仕掛けが複雑過ぎてちょっと褪めるような類でもなく、ミステリの事象としてちょうどヤバい絶妙な所をシンプルに突く、だが読後の感情として複雑なものが生成される、ちょっと(まさかの)文学な風味の混じる、素敵な結末でした。

"もうこの日記に書くのはいやになった。 何もかもいやになった。 ぼくは気分を害している。 すごく害している。 おまえたちなんか、大嫌いだ!"

そいや前述の "アレ系のありがちな真相" については、「日記」の中でメタなジョークっぽく語られてもいたな。

No.8 6点 2025/04/09 18:22
様々なジャンルを試みながら、独自のスタイルを保持しているオベールの第1作は、やはりこの作者らしいひねりの効いた作品になっています。国内現代の「本格派」が好きな人は、オベールは本作しか読んでいないことが多いでしょう。しかし本作が新本格派ファンに受けるのは、たぶんエピローグの意外性のためだけであり、それまでは手記・書簡形式の、目次からもわかるとおりスポーツ・ゲームを意識したサスペンスものです。
何人かの方も指摘されているとおり、この手記がしつこくてうんざりしてくるところがあります。中心になる発想はいいのですが…マーチ家の4人姉妹の話『若草物語』を念頭に置いたのだろうと訳者は書いていますが、そんなことに拘らず思い切って息子を2人に減らして、どっちが犯人かという謎で押し切っていれば、兄弟の個性を描き分けることができてよかったのではないかとも思えます。

No.7 6点 YMY 2022/09/05 22:05
どんでん返しのあるミステリだが、ラストの仕掛けをはずせば、全編は異様なサスペンスで成り立っている。正体不明の殺人者の日記とそれを盗み見てしまった女性のつづる手記を交互に配する構成が、効果的にサスペンスをあおっている。
奇抜なシチュエーション設定や構成の妙など、極めて技巧的に緊張感を醸造していくあたりは、従来のフランスミステリと一線を画している。

No.6 6点 tider-tiger 2016/11/26 12:11
マーチ博士の家で住み込みのメイドをしている女性ジニーは偶然家人の日記を読んでしまう。とんでもないことが書かれている。博士の息子のうちの一人(どの息子なのかはわからない)がなんと快楽殺人者だったのだ。だが、ジニーには警察に頼ることができない事情があった。ジニーは殺人者の正体を暴こうと奮戦するのだが……。

ジニーと殺人者の日記を交互に読んでいく形式で、かなり個性的な作品。
だが、かなり当惑させられる作品でもある。本格ミステリファンに訴求力あるようで、実はそうでもない話かも。
トリックは賛否両論ありそうだが、私は好き。物語の締め方もいい。フランス小説らしさを感じた。ジニーの一人称の日記文体は良かったし、ジニー(愚かしいところあるが、根はお人好しでわりといい奴)を応援してやりたくもなった。
殺人者の日記はもう少し工夫があっても良かったのではないかと感じた。少し一本調子に過ぎていたような。ジニーの日記はどうしても「受け」となるので、攻め側に伸びがないと潜在能力を発揮できないというか。
地名の類がほとんど(一切?)出てこないことが気になったが、別に意味はなかった模様。

ネタバレは許されない作品なので書きにくいのだが、ミステリとしてはnukkamさんの以下の一言にまったく同感。
『ただ謎解きとしては大胆な真相を成立するためにトリックにかなり無理があるように思えました(トリック成立の説明が十分でない)』
書くべきことを書かず、書く必要のないことを書き過ぎている。例えば薄い心理学の話なんかはいらない。逆にトリック成立の説明にはもっと筆を費やして、読者を納得させなければいけなかった。アンフェアなのではなく、そんなことが本当に可能なのか? そういうリアリティが欠如していた。
最初からかなり無理のある話でそちこちに見られるリアリティの欠如は致し方ない。もうそこはいいから押せ押せ、行け行けと読んでいる最中も思っていた。ただ、最低限押さえてくれないと困るところを押さえ損なっているのは痛い。個人的に嫌いな話ではないだけに、アイデアを活かし切れず非常に勿体なかったと思う。

「悪童日記はハードボイルド?」というような書評を書こうと思っていましたが、なんか書き出せなくて、アゴタ・クリストフが気に入ってた?本作を先に書評してみました。

追記2016/11/30
なんかどっかで読んだことのあるような書き出しだと思っていたが、わかった!
オースン・スコット・カードの『消えた少年たち』だ!

No.5 4点 E-BANKER 2016/03/22 21:32
1992年発表。
作者はフランスの女流作家で、本作を含めて四作の長編小説を著している。
で、本作がデビュー作に当たる(とのこと)。

~医者のマーチ博士の広壮な館に住みこむメイドのジニーは、ある日たいへんな日記を発見した。書き手は生まれながらの殺人狂で、幼い頃から快楽のための殺人を繰り返してきたと告白していた。そして自分はマーチ博士の四人の息子・・・クラーク、ジャック、マーク、スターク、の中のひとりであり、殺人の衝動は強まるばかりであると! フランスの新星オベールのトリッキーなデビュー作~

前々から気になっていた作品を読了したわけだが・・・
紹介文ほど魅力的な作品ではなかった。
そんな読後感。

全編つうじて、『殺人鬼』と称する男(=マーチ博士の四人の息子のうちのひとり)とメイドのジニーが書き付けを通してやりとりするという展開。
「書き付け」や「手紙」ベースのミステリーというと、どうしても叙述系のトリックが仕掛けられているのだろうという先入観になってしまう。
そういった目線で読みすすめたわけなのだが・・・

如何せん途中の展開がまだるっこし過ぎ!!
ふたりのやり取りを通じて徐々にサスペンス感を盛り上げてるのだろうとは思うが、ここまで重ねられるとちょっとゲンナリ。
ラストの“ひっくり返し”はなかなか綺麗に決まっているだけに、そこが惜しいという感想になる。
ただ、「帯」のコメント(「驚愕保証のサプライズ・ミステリ!!」)は煽り過ぎだろう。
正直、そこまでではない。

ということで、書店で本作を手にして買おうか迷ってるのなら・・・あまりお勧めはしません。
(でもまぁそれは個人的な感想ですから・・・。人それぞれだとは思います)

No.4 7点 蟷螂の斧 2015/10/09 09:49
裏表紙より~『医者のマーチ博士の広壮な館に住み込むメイドのジニーは、ある日大変な日記を発見した。書き手は生まれながらの殺人狂で、幼い頃から快楽のための殺人を繰り返してきたと告白していた。そして自分はマーチ博士の4人の息子―クラーク、ジャック、マーク、スターク―の中の一人であり、殺人の衝動は強まるばかりであると。『悪童日記』のアゴタ・クリストフが絶賛したフランスの新星オベールのトリッキーなデビュー作。』~

1992年のサスペンス作品。この手のトリッキーな作品は好みなので高評価としました。殺人者とメイドの交換日記的な展開なのですが、やや長いのが玉に瑕。中編で良かったかも。

No.3 4点 nukkam 2009/10/13 11:04
(ネタバレなしです) フランスのブリジット・オベール(1956年生まれ)はジャンルという枠に縛られない女性作家と評価されていますがどちらかといえばホラー、サスペンス系ではないかと思います。1992年発表のデビュー作の本書は本格派推理小説とされていますがかなり風変わりな作品です。犯人の日記と主人公(メイドのジニー)の手記を交互に配したプロットがユニークで、動きや表情の描写は皆無に近いですがテンポのいい展開のため退屈しません。恐さや不気味さも(デビュー作のためか)控え目です。ただ謎解きとしては大胆な真相を成立するためにトリックにかなり無理があるように思えました(トリック成立の説明が十分でない)。

No.2 6点 給食番長 2009/06/05 23:21
手記を使ったトリッキーミステリとして、なかなかなものだと思う。読みやすいし。

No.1 6点 響の字 2009/02/02 11:13
関口『榎さん、この手の話に○○○はマズい』

・・・ミステリとして読まなければアリなのか。日本の新本格派が同じプロットで書いたら絶対叩かれるんじゃないか、というハラハラ感が(笑)

海外モノにしては読みやすく、一人称での進行も優秀。決してハズレではない。


キーワードから探す
ブリジット・オベール
2003年05月
異形の花嫁
平均:6.00 / 書評数:1
2002年02月
雪の死神
平均:6.00 / 書評数:1
1999年10月
カリブの鎮魂歌
平均:7.00 / 書評数:1
1998年04月
ジャクソンヴィルの闇
平均:6.00 / 書評数:1
1997年10月
鉄の薔薇
平均:6.00 / 書評数:1
1997年06月
森の死神
平均:7.00 / 書評数:2
1997年02月
マーチ博士の四人の息子
平均:5.78 / 書評数:9