海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1893件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.30 4点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2022/02/22 13:45
 このトリックは苦しいな~。
 あんな嘘が通用するのだろうか? 葬儀の時とか……。
 死亡推定時刻がどのくらいの幅で出るかは予測不能だから、朝までアリバイ工作すべきでは? “時間を延ばせないか?”“ノー”と言うやりとりがあったが、医師がもう少し無能だったら容疑者の筆頭だよ(しかも間違った推理で)。
 あっ違う、夜更けに帰宅してあっちの彼が死体を発見・通報する想定だったのか。だとしても予測不能なのは同じだし、通報が早過ぎてもアウト。まぁ犯罪に賭けの要素が混ざるのは止むを得ないか。
 アリバイの為に一人殺す鬼畜っぷりは高ポイント。

No.29 5点 火曜クラブ- アガサ・クリスティー 2022/02/09 15:07
 ミステリとしてはたいしたことないが会話劇としての良さでまぁ読めた。
 「バンガロー事件」と似たケースがアイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』シリーズにあるのは意図的な模倣? と言うか “真相がアレなら相応の手掛かりを示す必要があるでしょう”と指導したかったのかも。ミス・マープルは何故気付けたのか。
 「溺死」もミス・マープルの推理の道筋が書かれていないのが残念。野菜売り云々は “もっともらしい(けれど意味が無い)ことを言って煙に巻く” と言うジョークだと思うんだよね。

No.28 3点 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー 2021/12/29 12:15
 何か変だ。
 ネタバレするけれども、加害者には被害者の行動をコントロール出来ない。芝居が終わるまで、見ざる聞かざるで隠れていてくれる保証など無い(被害者にしてみれば、様子を窺っていないと邪魔者が去っても判らないし)。
 であるなら、被害者が計画を知った上で敢えて殺されたと考えるしかない。惚れた弱みで知らぬフリして殺されてあげよう……しかし、そもそもこんな不自然な計画を立てるか? 被害者が協力しないと成立しないことは、事前に見当が付くのでは?
 従って、被害者加害者結託しての、“アリバイ確保の為にこういうトリックで殺されてくれ” “承知したわ” と言う命懸けの殺人劇だった、となる。いや、それなら本人が死体役をやればいいのであって(ポアロは “危険が多すぎる” としてこれを否定しているが、何が危険なのだろう?)、3人目の彼女はいらない。
 つまり、その彼女が発案・主導し、一方で共犯者側としては尻尾切りされない保険として彼女にも口だけでなく手を汚させる為にこの面倒なトリックを組み込んだ、と言うことだ。それはそれで驚きの真相ではないか。

No.27 7点 愛国殺人- アガサ・クリスティー 2021/12/23 12:54
 加害者と被害者が同じ歯科医を選んだのは都合の良い偶然?
 あと、加害者側にとって、入れ替わりの必然性はさほど高くないよね。どうせ某も殺すんだから(→データのすり替えは簡単なのだから)、と行き掛けの駄賃みたいなもの?
 計画が凝り過ぎな気もするが、妻と秘密の生活を “楽しんで” いた加害者の人物像には合っているかも。この連続殺人も楽しかったんだろうな。結末でのポアロとのやりとりも、そう言っているように私には思えた。

No.26 7点 杉の柩- アガサ・クリスティー 2021/12/02 11:13
 第一部の終わりで、真相は読めた、と思った。
 だがそれは全くの間違いだった。
 私の迷推理を開陳します。
 ――M嬢の父が、アレは自分の娘ではない、と言っていた。実はM嬢とR氏は兄妹で、急激に惹かれたのも無意識のうちにそれに気付いていたせい。本人達も知らなかった事実にE嬢が気付き(“数々の手紙”に手掛かりが隠れており、看護婦からE嬢にそれが伝わった)、近親相姦を犯させない為に殺害。その内容ゆえに、動機については沈黙を守っている……。

 あと、薔薇の種類が何であれ、トリックの成否とは関係無いし、推理に必須の手掛かりでもない。アレは作者の余計なサーヴィスだと思うな。

No.25 5点 おしどり探偵- アガサ・クリスティー 2021/10/12 10:11
 コメディとしてはまぁ面白い。
 ミステリとしての他愛のなさが、時々“ミステリそのものに対する茶目っ気のある批評”に思えなくもない。
 探偵の真似をするだけで探偵が出来てしまうなら“本物”とは何ぞや?
 作者のこんな声が聴こえる――“皆さん、先進的なら偉いってもんじゃありませんよ”
 “探偵事務所の内幕なんてこんな程度かもしれないでしょう?”
 このノリで殺人まで起こってびびる。しかしそれもまた或る種の批評なのである。

 クリスティー文庫版59ページ。“口をつむいでいた” → “つぐむ” と “つむぐ” を混同して活用までするアクロバティックなミス?

No.24 6点 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー 2021/07/18 13:18
 ラスト4分の1くらいで表面化する、某氏の異様な自己認識(『 DEATH NOTE 』みたい)について、もっと読みたかった。
 因みに私は、真犯人は秘かに某氏を愛していて、某氏の視線から“この者を殺せ”とのメッセージを(勝手に)読み取って実行しているのかな、ディープなラヴ・ストーリーだな、と推理したのだが……。

No.23 3点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2021/06/12 12:43
 何か変だ。
 犯人は捜査の落としどころとしてどのようなものを期待していたのか(この犯人ならきっとそういう発想をした筈)。自殺・事故は端から無理。特定の誰かに濡れ衣を着せようとしたフシも無い。迷宮入り狙い? 窓に施錠して外部犯を否定したのは失敗では。

 もう一つ。トリックに使ったゴムは現場に残る。それは犯人には予め判ることだよね。上手く隠滅出来たのは単なる幸運だよね。発見されたらそれだけでトリックがバレかねない。ではそのリスクを押してでもゴムの使用が必須かと言うと、そんなことはない。家具がひっくり返る音だけで充分に人は集まる、多分(リハーサル出来ないのが難点か)。余計なことをして、しかもそれがきっかけで破綻していることになる。

 作者のミスだ、と言うか、避けられた筈のミスを犯人特定の為にわざと犯させている?

No.22 6点 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?- アガサ・クリスティー 2021/03/30 12:28
 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
 と言う疑問はなかなか鋭いではないか。そこを疑問として抱けた時点で、(その部分の)真相まであと一歩だ。逆に言うと、死に際にそんな絶妙なヒントを残すのはかなりわざとらしい。
 それに限らず全体的に、入り組んだ要素の間をギリギリで御都合主義的に綱渡りしている感じ。但し、なんとなくそれを許容出来てしまう良い意味で緩い雰囲気はあるな~。
 
 ところで、原題は“ Why Didn't They Ask Evans? ”で主語は They 。
 これを(早川書房版)“なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?”と訳すと主語が二人称みたいじゃない? 被害者が目の前の相手(=ボビイ)に対して“なぜ、あなたは~?”と問うたみたいじゃない?
 勿論、日本語と英語の構造の違いのせいではある。しかし、そもそも読者は翻訳文であることを承知で読んでいるわけで、日本語として不自然になっても原文のニュアンスを優先すべきポイントはあると思う。映えの必要な題名はともかく、本文中の台詞では、二人称ではなく第三者について語っているのだと明確にすべき。他の訳ではどうなんだろう?

No.21 7点 死との約束- アガサ・クリスティー 2021/03/17 12:49
 あのファミリーがなんとも気持悪くて良い。それだけに、最後になって“いま思うとかわいそう”とか言うのはがっかり。
 ところで私はどうも、クリスティの文章から人物は読み取れるが背景はまるで浮かばないらしい。本書がいわゆる中近東シリーズだと解説を読んで初めて気付いた。

No.20 8点 ナイルに死す- アガサ・クリスティー 2020/10/30 17:13
 犯人がこういうポジションで、自分の疑われ易さを踏まえた上で、非常に能動的に騙しに来る、と言った感じの似た印象の作品は過去作に幾つかあって、“また?”との思いが否めなかった。中近東が舞台だからどう、ってことは特に無かった。とは言え良く出来ていて、代表作という評価に異議は無い。
 作家のオッターボーン夫人がイチ推しキャラ。“血文字のJ”は、犯行に於いて全く必然性が無いし、犯人の稚気を表すにも中途半端だし、不要だったのでは。

No.19 6点 もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー 2020/10/27 14:53
 ボブがなんともチャーミング。“彼”と訳されているが原文も“ he ”なのだろうか。とはいえ犬が“変な音をたてて失礼。しかしこれが僕の仕事なんだよ”とか話すわけないのであって、それはみなヘイスティングズおいちゃんの脳内変換であって、ならば真にチャーミングなのはこっちか。依頼者の“何も言ってない手紙”も可笑しい。

No.18 7点 ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー 2020/09/30 11:30
 大胆な犯行だな~と思ったが、4人中1人だけ動き回れる状況がブリッジのルール上必然的に生ずるわけね。そこは予習してから読みたかった。
 終盤の展開――Lが自白、MがLを訪問(この時どのようなやりとりがあったのか全く藪の中)、翌日新たな死が二つ。非常にタイミング良く連続しており、しかしそれらは連鎖反応と言うわけではなく概ね偶然。それでいいのか? なんとも妙な気分だ。
 “人を殺して巧みに逃げおおせた者達を集める”という設定は魅力的。3年後に『そして誰もいなくなった』で大々的に再利用しているのは、作者もそう思ったからだろうか。

No.17 8点 ABC殺人事件- アガサ・クリスティー 2020/07/05 11:26
 ABCパターンは(少なくともそれ単体では)机上の空論に思える。従って、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で再読するにあたり、正直期待薄だったが――いやいやとんでもない。
 作者は私のツッコミなど予め呑み込んでその先を書いていたのだ。『ABC殺人事件』を名乗りつつ、実は重要なのはABCではなく裏テーマじゃないか。思い返せば全編を通じて退屈な場面が皆無だったのも凄い。でも髪に関するいじりは御手柔らかに!
 “ABCパターン”なる呼称を生み出す程に本作があのプロットの代表例として評価されている事実こそ、此度の私にとって最大のミス・ディレクション。

No.16 5点 雲をつかむ死- アガサ・クリスティー 2020/06/26 12:03
 21章で自作品のネタバレを。駄目だポアロ、その真相は内緒でしょ。
 “あの連中(考古学者)ときたら、ほら吹きばかりですよ”にもニヤリ。
 探偵作家クランシイ氏が考えた解決も捨てがたい。

No.15 5点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2020/06/26 12:01
 ハヤカワ版です。
 動機の有無について、心の奥の奥まで他者が証明することはどだい無理なのである。“犯人にはパーティ出席者の大多数に対する秘かな殺意があって、誰でもいいから殺したかった”という推測を否定することは出来ない。それ故に、最初の殺人の動機は是が非でも本人の口から語って欲しかった。
 ところで第一幕の3。ポアロ曰く“ウィスキーはめったに飲みませんので。砂糖水を少々いただければ”――これはジョーク? 砂糖水を飲む習慣が本当にある?

No.14 7点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2020/06/04 11:52
 メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で読み返すと、本作は一幕の舞台劇の如し。いやむしろTVのドッキリ企画か。役者による芸風の違いも(それなりに)書き分けていて見事。肩に力が入ってつい失言しちゃう人。素のままで通したようなハマリ役。そして別人格を演じ切った名優……。

No.13 6点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2020/06/04 11:51
 殺人発生以前からポアロが巻き込まれている設定だが、巻き込んだ人物の考え方は“作者の都合”のようで不自然に感じた。
 
 ところで、7章の冒頭。
 ポアロ「尋問はしたのでしょうな?」
 ジャップ警部「しましたとも、そして、あの十四人が一人残らず云々~」

 これは次作についての大胆な伏線か、それとも自分が何気なく書いた台詞に触発されてアレを思い付いたのか。

No.12 5点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2020/03/30 12:23
 ネタバレするけれど、ラストの部分が良く判らない。
 ポアロが犯人に仕掛けた罠は“然るべき状況を整えれば、犯人はFに濡れ衣を着せるべく行動するだろうから、そこに見張りを付けておく”と言うこと?
 弁護士は口が堅く、ポアロは遺言状の内容を教えて貰えなかった。従って偽遺言状の騒ぎはポアロにとって想定外。“偽造者をとっちめましょう”と言ってNを芝居に引っ張り出したのではない。じゃあどう説明したのだろう?
 “降霊会であなたが登場すれば犯人は驚いてボロを出すでしょう”とか? 名目はどうであれ自分にとって好都合な状況だから話に乗るかな?
 20章がまるごと意味不明。Jは自殺もしくはうっかり自分を撃ったということ?
 ポアロが電報で確かめたかった二点とは何か? “本名”と“手術の日程”?
 斯様に、きちんと作中に書いておいて欲しかった事柄が色々ある。

No.11 5点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2020/02/25 10:54
 冒頭の降霊会は魅力的な謎だが、作中では殆どフィーチュアされていないので、もしやシレッと“本物の心霊現象”として片付けるのか、と心配(期待?)してしまった。
 まぁ冷静に見れば犯人が最も怪しい行動を取っている。しかし心情の描写に少々アンフェアな記述があるような。だから見破れなかったのだ、と強弁はしないけど。
 トリックは良いし、動機の設定も上手い。高評価出来ないのは、中盤の地道な調査行が退屈だから。それにその成果のうち犯人究明に直接役立った手掛かりって最後のアレだけ……?

キーワードから探す
虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1893件
採点の多い作家(TOP10)
山田正紀(104)
西尾維新(72)
アガサ・クリスティー(70)
有栖川有栖(51)
森博嗣(49)
エラリイ・クイーン(47)
泡坂妻夫(39)
歌野晶午(29)
小林泰三(29)
皆川博子(24)