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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2758件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.98 8点 七人のおば- パット・マガー 2009/06/05 14:59
(ネタバレなしです) 1947年発表のマガーの第2作で、「被害者を探せ!」(1946年)と共にマガーの代表作とされる被害者当て本格派推理小説です(犯人当てでもあります)。この2作は雰囲気が大きく異なっていて、「被害者を探せ!」はクリスティーに通じるような洗練された語り口とゲーム感覚あふれる推理合戦の楽しさが、本書はどげとげしい人間関係が醸しだす重苦しさが特徴です。日本人読者の間ではどちらかといえば本書の方が評価が高いというのはエラリー・クイーンの「Xの悲劇」(1932年)と「Yの悲劇」(1932年)で、暗い作風の後者の方が人気が高いのと似ていますね。いやー、しかしこのどろどろした人間関係といったら!どの夫婦もみんな一発触発、誰が人殺しになっても全然おかしくない。女性作家だからここまで恐い書き方ができるのかな(あっ差別的コメントかも)。私は何度でも再読できる「被害者を探せ!」(1946年)の方が好きなんですが...。

No.97 6点 ふたたび赤い悪夢- 法月綸太郎 2009/06/04 09:36
(ネタバレなしです) 1992年の法月綸太郎シリーズ第5作の本格派推理小説です。文章も展開も巧みですらすらと読めますが悲劇色と緊迫感の強い物語が(講談社文庫版で)600ページに渡って続くので読み疲れる作品でもあります。物語性豊かなのを否定する気は毛頭ありませんがもう少し謎解きの面白さを前面に出してほしかったと贅沢な注文を付けたくなりました。「雪密室」(1989年)と「頼子のために」(1990年)の続編的な内容なので、できればこの2作品を読んでから本書に取りかかることを勧めます。エラリー・クイーンの「九尾の猫」(1949年)を読んでいればなおいいと思います。

No.96 7点 グリンドルの悪夢- パトリック・クェンティン 2009/06/01 17:31
(ネタバレなしです) リチャード・ウエッブ(1901-1970)とメアリー・アズウェル(1902-1984)のコンビによる作品としては「死を招く航海」(1933年)に次ぐ1935年発表の作品ですが、同じコンビの作品とは思えぬほど雰囲気が違いました。「死を招く航海」がどちらかといえば洗練された本格派推理小説だったのに、本書は同じ本格派でも息詰るようなサスペンスが特徴です。次々と動物や人が死に、しかも死体の演出も凝りまくりで横溝正史もかくやと言わんばかりのおどろおどろしさです。それでいて目まぐるしいほどスピーディーな展開で、さんざん息苦しい思いをさせた読者に最後は新鮮な空気を味わうような気分にさせているところが計算高く、しかも謎解きプロットは緻密に構成されているのですから大満足です。

No.95 3点 真夜中のユニコーン 伊集院大介の休日- 栗本薫 2009/06/01 16:19
(ネタバレなしです) 2003年発表の伊集院大介シリーズ第23作で、「伊集院大介の休日」という副題付きですが伊集院大介はほとんど登場しません(アトムくんこと滝沢稔はそれなりに出番あり)。だから「休日」なのか(笑)?前半は傷心のヒロインが何事にも消極的な姿勢をとる場面がずっと続いてほとんどミステリーらしさがありません。後半は巻き込まれ型サスペンス風で、最後にやっと伊集院大介が登場して解決しますが結局のところ読者のあずかり知らぬところで探偵活動していたわけで、推理に参加する余地がほとんどなかった読者としては本書を本格派推理小説としては高く評価できないでしょう。

No.94 4点 首のない女- クレイトン・ロースン 2009/05/28 09:59
(ネタバレなしです) ロ-スンは「帽子から飛び出した死」(1938年)の冒頭で作中人物を通して「容疑者は7人か8人まではいいが、それ以上はいけない」と主張していながら、1940年発表のマーリニシリーズ第3作である本書では数える気にならないぐらいの容疑者が登場させています。厳密にルール化できる問題ではないでしょうが自己主張を自ら破ってどうする(笑)!事件も乱発気味で何がメインの謎なんだか焦点が定まりません。ロースンにしては不可能犯罪要素が少なくてアリバイと動機調査が中心の地味な謎解きになっていて、一概に地味なのが駄目とはいいませんが本書の場合は読みにくさに拍車をかけてしまっています。

No.93 4点 呪縛の家- 高木彬光 2009/05/27 10:25
(ネタバレなしです) 2度に渡る「読者への挑戦状」が挿入される1949年発表の神津恭介シリーズ第2作の本格派推理小説です。作者は「私の意図したのは、決して前世紀の犯罪ではない」と主張していますが、ことトリックに関しては21世紀の読者視点では「現代では通用しない前世紀のトリック」にしか感じられず、作品の古さが目立っているのは否めません。とはいえ最終章で明かされる「自分の力量で描き得るかぎりの極悪人」の正体には時代を越えた凄さがあります。ただこの正体は名探偵・神津恭介の推理で判明したわけではないのですっきり感は全くありませんが。

No.92 8点 ケンネル殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2009/05/27 09:45
(ネタバレなしです) 1932年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第6作で、解決へのプロセスがもたもたしているように感じられるところもありますが謎解きは素晴らしく、個人的には「グリーン家殺人事件」(1928年)に次いでお気に入りの本格派推理小説です。密室トリックはもはや古典的ですが図解入り解説が明快でトリックに無理がないところは今読んでも十分に納得できるものです。それ以上に印象に残るのは最後に明かされる「恐ろしい真実」で、これは専門知識が求められるので読者が事前に予測するのは大変困難ですが、それさえ不満に思えぬほど衝撃的でした。

No.91 5点 月光ゲーム- 有栖川有栖 2009/05/27 09:20
(ネタバレなしです) 新本格派を代表する1人の有栖川有栖(1959年生まれ。男性作家です)が1989年に発表したデビュー作(江神二郎シリーズ第1作)で、「Yの悲劇’88」のサブタイトルを持っています。本書の原型がまだ学生時代の1978年に書かれていたそうで、若手作家にしか書けない勢いのようなものがあります。タイトルから月の輝く夜に静かに行われる殺人を想像したのですがこれが全くの勘違いで、なんと噴火した火山から逃げまどうパニック冒険小説風な舞台背景にはびっくりしました。作中でエラリー・クイーンのダイイング・メッセージを批判している割には本書のダイイング・メッセージも五十歩百歩の出来映えなのは残念。多すぎる登場人物を整理しきれていないところも弱点だと思います。しかし派手な謎やトリックにはそれほど重きを置かず、論理による犯人当てを主眼にしているところはまさに「日本のエラリー・クイーン」と呼ばれるにふさわしい作品です(「読者への挑戦状」があります)。

No.90 3点 ボルヘスと不死のオランウータン- ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ 2009/05/25 17:00
(ネタバレなしです) ブラジルのルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ(1936年生まれ)は小説の他にコラムや漫画なども手がけています。2000年発表の本書は実在のアルゼンチン人文学者ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)を登場させた本格派推理小説です。(エラリー・クイーンの某作品に酷似しているパターンが気になりますが)ダイイング・メッセージと密室の2つの謎解きを中心に据えていますが、メッセージの解釈については途中で何度もああでもないこうでもないと議論が盛り上がっているのに、密室の方はちっとも意見が出ないまま終盤に至っているのが物足りません(大変古典的なトリックなので作者が読者にあまり期待させてはまずいと遠慮したのでしょうか)。時に文学的、時に神学的な会話が入り乱れて何が本筋なのかわからなくなり、(扶桑社文庫版で)200ページにも満たない短さの長編なのに読み終えるのに大変手こずりました。

No.89 6点 弁護側の証人- 小泉喜美子 2009/05/25 16:32
(ネタバレなしです) 海外本格派好きの私にとって小泉喜美子(1934-1985)はクレイグ・ライスやルース・レンデル作品の翻訳家というイメージが強い人でした。ミステリー作家としては短編はそれなりの数を残したものの長編はわずか5作品にとどまっています。その中で代表作とされるのが1963年発表の長編第1作である本書です。作者はクレイグ・ライスを信奉して「洗練されたミステリ-」、「洒落たミステリー」を目指していたと思っていましたが、本書はそのイメージとは大分違いました。雰囲気は暗めで登場人物もどちらかといえば陰気な人が多いです。そして時制が唐突に過去になったり現在に戻ったりするのでストーリーの流れもどちらかといえば停滞しがちでやや読みにくいです。しかしイメージと異なるとはいえ緻密でトリッキーな本格派推理小説(やや異色系ですが)としてはよくできていると思います。謎解きだけでなく主人公の心理描写も読みどころです。

No.88 5点 絞首人の手伝い- ヘイク・タルボット 2009/05/20 09:29
(ネタバレなしです) 米国のヘイク・タルボット(1900-1986)は様々な職歴を持っていますが本業といえるのは舞台演出を手がけたり演劇に関する本を書いた演劇家で、ミステリー作品はわずかに長編2作と短編2作にとどまりました。その作品は同時代のクレイトン・ロースンと同じく不可能犯罪の謎解きを中心にした本格派推理小説でしたが、不幸にして米国で本格派の人気が下降線をたどる時期に重なったこともミステリー作家として成功できなかった理由の1つではと思われます。本書は1942年発表のミステリー第1作です。会話が噛み合わないような場面がいくつかあって全体的に読みにくいのが難点ですが、極めて短時間で腐敗した死体や怪物(らしきもの)による襲撃事件など謎の魅力は1級品で、トリックも合理的で納得できるものです。丁寧な説明にもかかわらずトリック成立のための条件が十分クリアされているのかがいまひとつ理解できなかったのは私の読み込み不足かもしれませんが。

No.87 6点 冷たい密室と博士たち- 森博嗣 2009/05/19 12:38
(ネタバレなしです) 1996年発表のS&Mシリーズ第2作の本格派推理小説で、太田忠司が「『すべてがFになる』(1996年)が口に合わなかった読者でも、この作品は飲み下すことができるだろう」と評価していますが私も賛同します。理系要素はありますが前作に比べれば控え目になっており、謎も謎解き説明も理系が苦手な(私のような)読者にもわかりやすいです。評論家やマニア読者は本書よりも(こだわりの強い)前作の方を支持するのでしょうけど。密室トリックは山村美紗の某作品を連想しました。

No.86 5点 QED 百人一首の呪- 高田崇史 2009/05/18 11:08
(ネタバレなしです) 高田崇史(たかだたかふみ)(1958年生まれ)の1998年発表の桑原崇シリーズ第1作の本格派推理小説です。百人一首と謎解きを組み合わせたミステリーは山村美紗の「百人一首殺人事件」(1978年)や内田康夫の「歌枕殺人事件」(1990年)などいくつかあるようですが100首全部が引用されている作品は本書ぐらいではないでしょうか。文学史に疎い私には謎解きの面白さよりも読みづらさの方が上回ってしまいましたが、作者のこだわりは十分に伝わってきます。

No.85 7点 摩天楼の密室殺人- J・C・S・スミス 2009/05/18 10:38
(ネタバレなしです) 米国の女性作家J・C・S・スミス(1947年生まれ)はジェーン・S・スミスというノンフィクション・ライターの別名義で(ほとんど違いがない名前ですね)、もと警官のクェンティン・ジャコビー(本書では56歳)を主人公にしたミステリーを書いています。前作の「少女が消えた街」(1980年)は普通のハードボイルド作品という印象しかありませんが1984年発表のシリーズ第2作である本書はハードボイルドに本格派推理小説の要素をたっぷりと注ぎ込んでおり、謎解き伏線も丁寧に張ってあって個人的には謎解きハードボイルドの中では上位に位置づけしています。麻薬や売春絡みではなく暴力シーンも控え目なのでハードボイルドが苦手な読者でも受け入れやすい作品です。またニューヨークの舞台描写に優れているのも長所の一つです。ただ本格派にかなりすり寄っているのでガチガチのハードボイルドファンの評価は分かれるかもしれませんが。

No.84 6点 赤の組曲- 土屋隆夫 2009/05/15 18:44
(ネタバレなしです) 1966年発表の千草検事シリーズ第2作の本格派推理小説です。犯人が早い段階から見当のつきやすい土屋作品の中で本書は最後まで犯人当ての謎を残すプロットになっているのが個人的には気に入ってます。失踪という地味な事件で引っ張りますがプロットが堅固な上にスムーズな展開なので全く退屈しませんでした。容疑者が少ないので意外性は低いですが手掛かりが巧妙で、謎解きの面白さとリアルな捜査を両立させることに成功しています。

No.83 7点 第四の扉- ポール・アルテ 2009/05/15 10:29
(ネタバレなしです) ハヤカワポケットブックの巻末解説によれば、アルテ(1955年生まれ)はフランスの作家ながらジョン・ディクスン・カーを目指した作品を書いており、フランスでも異色の存在だそうです。1987年発表の本書はアルテの出世作です。謎も沢山、トリックも沢山のぜいたくな本格派推理小説です。あまりにも展開が早くて雰囲気づくりが台なしだと思っていると、後半になるにつれて物語はだんだん不気味な様相を呈してきて、読者はこれが現実の世界のことなのか悪夢の世界のことなのかわからなくなってきます。謎が沢山ある分、トリックもいろいろあります。中には子供だまし的なトリックや偶然に頼ったトリックもありますが、密室殺人のメイントリックはなかなかよくできていると思います。残念ながら謎が謎のまま放り出されてしまったり、手がかりが不足している個所があって、「すべてが解明された」という読後感はありませんでした。それでもあれだけのありえない謎を合理的に解決する手腕は大したもので、最後の一行も実に衝撃的です。

No.82 6点 キングとジョーカー- ピーター・ディキンスン 2009/05/14 15:40
(ネタバレなしです) 1976年発表のルイーズ王女シリーズ第1作である本書ですが確か日本で最初に紹介されたのがサンリオSF文庫版だったので認知しなかったミステリーファンも多かったと思います。SFらしさは全くなく、通常の本格派推理小説といってよいと思います(これがSFミステリーならエラリー・クイーンの「第八の日」(1964年)もSFミステリーの範疇に入るでしょう)。13歳の王女を主人公にしていますが、同じように少女を主人公にしたクレイグ・ライスの「スイート・ホーム殺人事件」(1944年)のような元気溌剌といった雰囲気はなく(といってもそれなりには活動的です)、家族愛は描かれているけどシリアスでほろ苦い内容です(ルイーズの兄アルバートが癒し役としていい味出しているが登場が少ないのが残念)。前半は犯人当て(ジョーカー探し)よりも王家の秘密に関する物語が中心でミステリーとしてはあまり面白くなく、唐突に挿入されたミス・ダーディーの回想シーンなどは結構読みづらいです。しかし後半になると一見ばらばらに思えた王家の謎解きと犯罪の謎解きがうまく絡み合う展開になりサスペンスも盛り上がります。もう少し明るく楽しい要素があってもいいのではと思いますがよく出来た作品です。

No.81 6点 そして誰かいなくなった- 夏樹静子 2009/05/13 19:29
(ネタバレなしです) 1988年発表の本書はアガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」(1939年)を意識した本格派推理小説で、ぜひクリスティー作品を先に読んでおくことを勧めます。後発作品なので当然ながら単なる模倣に終わらないような工夫がありますがそれがクリスティーの別作品を連想させるのはどう評価すべきかちょっと悩みました。また最後の仕上げを成立させるためにかなりご都合主義的な箇所があるのも気になります。とはいえ難しい注文を付けなければサスペンスに富んだプロットは読み応えたっぷりで、一気呵成に読み終えました。

No.80 4点 ランプリイ家の殺人- ナイオ・マーシュ 2009/05/11 11:37
(ネタバレなしです) 1940年発表のアレンシリーズ第10作の本書はパトリシア・モイーズの「殺人ファンタスティック」(1967年)と共に個性豊かな登場人物が織り成すユーモアが好評の本格派推理小説です。英語苦手な私は後から知ったのですが、「ランプリイ」というのは「やつめうなぎ」を意味するそうで、殺人が起きてアレンの取調べを受けてものらりくらりとした姿勢を保ち続ける一族の名前にはふさわしいですね。ただこののらりくらり描写が結構しつこいので、まじめに犯人探しをしようとする読者はいらいらするかもしれません。殺人方法が結構残虐だったのは意外でした。ネタバレになるので理由は書けないのですが真相に魅力を感じることができず、個人的には期待はずれでした。

No.79 6点 黒祠の島- 小野不由美 2009/05/11 11:23
(ネタバレなしです) 小野不由美(1960年生まれ)というと「十二国記」シリーズなどのファンタジー小説やホラー小説の書き手のイメージが強く、2001年に発表された本書が本格派推理小説だったのにはかなりの読者が驚いたのではないでしょうか。舞台の特殊性のためか21世紀に書かれたとは思えぬほど古風な雰囲気が漂います(私は横溝正史の「獄門島」(1947年)を連想しました)。前半はシンプルな展開で読みやすいのですが中盤からは名前は会話の中に出てくるけど生身の人間としてはなかなか登場しない人物が増えて頭の整理が大変になるので、登場人物リストを作成することを勧めます。ホラー小説で評価の高い作家だけあってきちんと謎解きをしながらも通常の本格派推理小説の常識を超越した決着の仕方はかなり衝撃的です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2758件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(79)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)