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[ 本格 ]
判事への花束
キャンピオン氏
マージェリー・アリンガム 出版月: 1956年07月 平均: 5.00点 書評数: 3件

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早川書房
1956年07月

グーテンベルク21
2018年08月

No.3 5点 人並由真 2020/10/25 05:00
(ネタバレなし)
 20世紀初頭のロンドン。19世紀初頭に創業の出版社「バーバナス書房」は、親族会社として順調に業績を伸ばしていた。だが1911年5月のある日、バーバナス一族の中年トム・バーバナスがロンドンの路上から煙のように消失。その後、20年後の現在まで、彼の行方は杳として知れなかった。そしていま、1931年の1月下旬、先代の「大社長」ジャコビイ・バーバナスの甥のひとりで会社の幹部ポール・レッドファン・ブランドが、ある日忽然と姿を消した。ポールの妻でアメリカ人の美女ジーナは、さほど慌てる様子はないが、会社の周辺ではこれは20年前の事件の再現では? と噂する者もいた。そのポールは失踪してから数日後に変死体で見つかる。ジャコビイの甥の青年マイク(マイケル)・ウェッジウッドの友人で、そしてジーナとも仲のいい名探偵アルバート・キャンピオンは、この事件に乗り出すが。

 1936年の英国作品。アルバート・キャンピオンシリーズの長編、第7本目。
 思わせぶりで格調のあるタイトル(日本語で頭韻を踏んでいるのもいい)が印象的な一冊だが、訳者が「あの」悪評の鈴木幸夫。こりゃ読むのがシンドイだろうなと思って、ついウン十年も積ん読にしてきたが、このたび思い立って一読してみる。そうしたらストーリーやキャラクター描写を味わう分には、ほとんど問題なかった(正確に日本語を添削するような読み方をすれば、また変わってくるかもしれないが)。
 
 ハーバート・ブリーンの『ワイルダー一家の失踪』(1948年)とか鷲尾三郎の『屍の記録』(1957年)に先んじた<とある一族のなかで複数世代にわたって生じる不可思議な人間消失の謎>パターンか? ……と、そう一瞬だけ思わせておいて、ポールの死体発見後は普通の殺人? 事件に転調する流れが、逆に新鮮。

 さる事情からより積極的にこの事件への介入を強いられたキャンピオンが、現在形の事件を暴くカギは20年前の怪異にあるのでは? とそちらに視線を向けるあたりの、良い意味でのお約束ぶりもたまらない。殺人容疑をかけられた某キャラの救済のため、一族のそれぞれが動き出すあたりの物語的な躍動感も悪くないし、少なくとも途中3分の2まではこれまで読んだアリンガムの長編(これで5冊目)のなかで一番面白いんじゃないか、と本気で思った。
 しかし、う~ん。後半3分の1の感想は、クリスティ再読さんにほぼ同意。え、いろいろ興趣ありげなネタをふっておいて、こういうレベルでまとめるの、もっと謎解きもストーリーも弾ませないの? という部分が多すぎる。

 これが乱歩の<1935年以降の海外長編ベスト10部門で、第3位>だそうで、実物を最後まで読んだのなら、そんなに高い評価いくもんか、という感じ。
(まあ、これもクリスティ再読さんの言うとおり、もうひとつの大きな謎解きからエピローグに流れる物語のまとめかたには、ちょっぴり余韻は感じたけれど。)

 しかしくだんの魅力的に思えた題名(日本語タイトルは原題のほぼ直訳)の意味も、実際のところ、よくわからないね。作中でこの題名に相応するのは、殺人事件を審理する法廷が終了して、壇上の花を裁判官が持ち帰る場面だが。とにもかくにもキャンピオンの奮闘のおかげで、事件に一区切りついたタイミング、という含意か?
 
 途中までは楽しめた。ラストも悪くない。でも肝心の山場はう~む……と、そんな作品。
 まあアリンガムは、またそのうち何か読むでしょう。

No.2 5点 クリスティ再読 2018/09/16 23:33
アリンガムというとその昔は訳書が少なくて、よくわからない作家の代表みたいなものだったけど、少ない訳書の本作、読んだらどんな作家か更にわからなくなるような作品だ。
2代目として従兄弟たちが経営する老舗出版社の金庫室で、共同経営者の一人の死体が見つかった。その男、数日前から失踪していて、心配した従兄弟の一人が、友人のキャムピオン氏に調査を依頼していた。が、その従兄弟が検屍法廷での評決で犯人に指名されてしまった。前日にその金庫室に入ったのに、そこにあったはずの死体を見ていなかったのだ。いよいよ裁判が始まる。キャムピオン氏は友人の無実を信じて調査を開始した....20年前に不可解な人間消失を遂げた別な従兄弟の事件、社宝とされてきた古典作家のエロ戯曲原稿の行方は?

と書くととてもおもしろそうなんだけど、ほぼあらゆる要素が腰砕ける、というとんでもない作品なんだよ。「判事への花束」とタイトルはついていてもガチの法廷攻防があるわけでもないし、最終的にはうやむやになる。アリバイ工作もないわけじゃないが、正面切ってどうこうというものでもない。犯行方法はやや変わってるが、びっくりするようなものでもない。人間消失も大したものでもない。キャムピオン氏と元泥棒の召使とのやり取りが気が利いている、というほどでもない....こうやってまとめてみると、いいところ一つもないな(苦笑)。
しかしね、幕切れが関係者の「その後」を描いていて、これがなかなか、いい。いいと言うのもオカシな話だと思いながらも、評者とか妙な共感をおぼえるんだ。アリンガムって、わけがわかんない作家だ....

No.1 5点 mini 2014/10/14 09:56
* 台風スギタ―――(°∀°)――― !!

創元文庫からマージェリー・アリンガム「窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿」が刊行された、本日14日予定だったはずだが早まった?
副題の通りシリーズ探偵キャンピオン氏ものの短編集で、有名な「ボーダーライン事件」も収録されている
今秋は各出版社による注目の海外作品新刊ラッシュだ、今後も公認ポアロ後継作「モノグラム殺人事件」、L・ブロックの殺し屋ケラーの新作、コナリーのリンカーン弁護士、ディーヴァーのライムものの新刊、古典のマニアックなところでは原書房のブルース・グレイム、創元と早川の復刊フェアetc、など目白押し
私1人ではとてもフォローしきれんな(苦笑)

英国4大女流作家の内、マーシュとアリンガムはまだ不足とは言えそこそこ翻訳はされている、ただ読者層が薄い印象が有るのは内容のせいではないと思う、じゃあ理由は何か?
理由は簡単、それは殆ど文庫で読めるものが無かったからだ、マーシュには有ったが絶版でマニアしか読んでないだろうし、アリンガムの場合は今回の短編集の刊行で唯一の入手容易な現役文庫本となったわけだ
ただし両作家とも文庫じゃなくてハードカバーなら何冊も入手容易なので、ハードカバー版だからと敬遠して欲しくないんだけどね

アリンガムといえばシリーズ探偵キャンピオン氏、なぜ”氏”を付けるのが一般的かと言うと、警察官じゃなくてアマチュア紳士探偵だからなんだろう
初中期に業界3部作とも言うべき、ある業界の内部事情が絡む作品群が有って、アリンガムの特色の1つともなっている
出版業界の「判事への花束」、演舞業界の「クロエへの挽歌」、ファッション業界の「屍衣の流行」の3作だが、その第1弾が「判事への花束」である
例の森事典では後の2作に比べてキャンピオン氏の役割がぱっとせず、風俗小説的な部分とミステリー部分とのバランスがとれていないと評価されている
う~んたしかにそんな感じ、森事典の引用だけで書評終りになってしまいそう(微笑)
ただ業界との関わり風俗部分では「クロエ」も謎解き面に偏り過ぎて風俗面の中途半端さ感は有る、逆に言えば本格派偏重な読者には3部作の中では「クロエ」が一番合いそうだけど
「屍衣の流行」になるとアリンガム”らし過ぎて”、一般受けしないだろうしね
「判事への花束」は謎解き面で見るべきものは無いが、皮肉な真相といい斜陽の出版業界の悲哀みたいなものは良く表現されているとも言える

ところで過去に刊行予定が立ちながら未訳のマーシュ「Spinsters in Jeopardy」とアリンガム「More Work for the Undertaker」を出してくれる出版社ありませんか?


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