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[ 警察小説 ]
事件当夜は雨
警察署長フレッド・C・フェローズ
ヒラリー・ウォー 出版月: 1963年01月 平均: 6.50点 書評数: 6件

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早川書房
1963年01月

早川書房
1977年02月

東京創元社
2000年05月

東京創元社
2000年05月

No.6 6点 人並由真 2023/09/03 18:41
(ネタバレなし)
 コネチカット州はストックフォードの町。1960年5月12日の雨の夜に、ひとりの男が、果樹園を経営する42歳のヴィクター(ヴィック)・ロベンズを訪ねた。男は玄関先で、夜間の訪問者に応じたヴィクターをダムダム弾で射殺し、そのまま立ち去った。殺人犯は変装していたらしい? ストックフォード署の警察署長フレッド・C・フェローズ以下の捜査陣は、からみあう人間関係の網を丹念に調べてまわるが。

 1961年のアメリカ作品。HM文庫版で読了。
 
 フェローズ署長ものの長編としては、デビュー編の『ながい眠り』、未訳の「Road Block」(翻訳出してよ)に続く第三長編。
 ごひいきのシリーズで、なんとなく大事に長年とってあった一本なのでそれなりに期待して読み始めたが、う~む、期待値が高すぎたためか正直、イマイチ……(汗・涙)。

 途中の絨毯爆撃風の捜査の右往左往をしっかり描くのは、こういう方向性の警察捜査小説において、とても大事なことだと思うのだが、エンターテインメントとしては起伏が少なくて、意外にも、けっこう退屈であった(……)。
 フェローズものじゃないけど、『失踪当時の服装は』での大学での騒ぎとか、あの中盤のビジュアル的にも鮮烈な山場とか、ああいうメリハリがもうひとつふたつ欲しかった。リアル志向の作劇と、ケレン味との兼ね合い・バランスの上で、あくまでサジ加減の問題。
(しかし、こういう作りのせいか、名前の出るキャラクターが紙幅の割にべらぼうに多い。ほとんどモブキャラまで含めて、メモをとっていたら、名前を与えられた登場人物だけで100人以上に及んだ……。)

 ある意味で、今回は作者は、極力、地味目に、地に足がついた感じでなるべくやってみようと、その種の欲を出したんだろうね。

 さすがに終盤、作者が最後に何をしたいかが見えてからはグンと盛り上がるが、一方で作品の構造上、そこまでの淡々とした積み重ねの部分とクライマックスとの分断感もかなり大きかった(個人の感想です)。
 良くも悪くも結局は、犯人像の強烈さだけで、のちのち印象に残りそうな一冊という気もする。トータルとしては、失敗作とまでは決して言わないが、個人的にはお気に入りのシリーズのなかでは下の方。

 それでも本シリーズの未訳のものは、もっともっと読みたい。
 今度出るらしい論創の新刊は、非フェローズものみたいだし(それはそれで大歓迎だが)、ストックフォードの町にもっと光を!

No.5 7点 クリスティ再読 2022/11/14 10:13
「ながい眠り」同様にハヤカワから創元に移籍した本。でも同じ訳者による同じ翻訳のまま移籍、というのはかなり珍しいと思う。オトナの事情が何かあるのだろうか。

で思うのだが、創元の解説の杉江松恋氏も話を「本格」に持っていきたがる...う~ん。確かに大胆な仕掛けがあるのだけども、これって作者が仕掛ける「メタな仕掛け」の部類なんだよね。それを「本格」と呼ぶのが正しいのか?というと評者は疑問だが、逆に「パズラー」と「本格」は全く別な概念だ、と捉える方のが正しいのか?などとも思いついた。
たとえばホームズは「本格」だけども「パズラー」じゃない。「毒チョコ」だってフェアな推理はできない。要するに「黄金期本格」というかなり曖昧なモデルがあって、そのモデルが作り出したファン層が好むタイプの作品が、漠然と「本格」と呼ばれてきた、と理解した方がいいんじゃなかろうか。だったら「本格」はジャンルというよりも、「作品の属性」といったものなのではなかろうか。
そういう「ジャンル横断的な属性」だと、たとえば「女子ミステリ」という「属性」も、確かにある。「パズラー」であっても都筑道夫モデルの「退職刑事」などが今一つ「本格ファン」にアピールしないことを考慮に入れたら、そういう風に捉え直すのもいいんじゃないのかなあ。

あ、作品自体は面白いです。誤殺かどうか延々と堂々巡りするあたり、評者は好きだったりする。あらゆる可能性をフラットに捉えるリアルな捜査の手法に満足しちゃう。「分からないこと」を「わからない」と率直に認める「無知の知」って大事なことなんだよね。

No.4 7点 2017/09/20 23:26
久々の再読ですが、内容はほとんど覚えていませんでした。かなり印象に残るはずだと思われる最後のひねりさえも記憶から抜け落ちてしまっていて。
本格派の立場から言えば、極めて大胆な伏線が張られている作品です。その伏線は犯人が逮捕された後、上述のひねりの部分で生きて来るという趣向です。そんな伏線や様々な可能性についての緻密な検討の他、クイーンの『ギリシャ柩』や『十日間の不思議』にも通じる発想がフェローズ署長により語られるなど、この作家を知っている人には当然でしょうが、本作も本格派ファンが楽しめる作品です。ただ本格派と言ってもクロフツの地味な捜査小説がダメな人にはお勧めできません。なにしろ捜査の試行錯誤はクロフツ以上です。そう言えば、犯人の弄したトリックは、クロフツの某有名作のアイディアを単純化した感じです。
kanamoriさんも書かれていますが、犯人像にも感心させられた作品でした。

No.3 6点 nukkam 2014/08/27 18:26
(ネタバレなしです) 1961年発表のフェローズ署長シリーズ第3作でこのシリーズの特色の一つである、捜査の手詰まり感をひときわ感じさせるプロットの警察小説です。地道かつ丹念な捜査が描かれていますが容疑者を絞り込むどころか可能性が拡大するばかりで20章が終わっても五里霧中。ここを辛抱できるかどうかで読者の評価も分かれそうですね。24章での犯人逮捕はフェローズの直感による唐突な解決にしか思えませんが、謎解きとして面白くなるのは実はここからです。ネタバレしないように説明するのが難しいですが、「どちらが?」を巡ってフェローズが推理を披露し、ウィルクス部長刑事が反論し、フェローズが更なる推理でその反論を埋めていくという展開は本格派推理小説好き読者としてはたまりません。全部を読み終えて真相を把握してからもう一度27章を読むことを勧めます。

No.2 6点 E-BANKER 2013/04/20 20:22
アメリカ版警察小説の大家といえば、このヒラリー・ウォーということになるだろう。
本作はフェローズ署長シリーズの三作目。主役であるフェローズ署長とウィルクス部長刑事の丁々発止のやり取りが楽しい。

~土砂降りの雨の夜。果樹園の主人を訪れたその男は「おまえには50ドルの貸しがある」と言い放つや、いきなり銃を発砲した・・・コネティカット州の小さな町・ストックフォードで起きた奇怪な事件。霧の中を手探りするように、フェローズ署長は手掛かりを求める。その言葉の意味は? 犯人は? 警察の捜査活動を緻密に描きつつ、本格推理の醍醐味を満喫させる巨匠ウォーの代表作~

まずまずの面白さ・・・という感じかな。
巻頭で瀬戸川猛資氏が、作者のミステリーの魅力を「発端の面白さ」と表現しているが、本作にもそれが当て嵌る。
大雨が降る夜、怪しい風体の男が、突然銃を発砲するという謎めいた導入部。
やがて容疑者は近隣の住人に絞られるが、それでも十指に余ったまま、容易に絞り込めない。
フェローズらは一人ひとり粘り強く捜査を進める・・・いわゆる警察小説っぽい展開。

中盤~終盤まではまだるっこしいのだが、終盤に差し掛かったところで急転直下で真犯人が判明する。
ただし、本作はそこで終わりではない。
「誰が真犯人なのか」というところ以外に、工夫というか作者のアイデアが投入されている点が良さだろう。
そこが楽しめるかどうかで、本作への評価は変わってくるものと思われる。

個人的には評価に迷うが、インパクトとしてはやや弱いかなというのが正直な感想。
ということで、この辺りの評点に落ち着く。
(こういう格好の美女を目の前にしたら・・・浮き足だつわなぁ、普通の男なら・・・)

No.1 7点 kanamori 2010/06/15 20:31
警察小説の大家ヒラリー・ウォーの看板シリーズ、フェローズ署長ものの第3作。
著者の代表作といわれる「失踪当時の服装は」は、捜査状況をリアルに描いていて確かに読み応えが充分ですが、ミステリとしての趣向が弱い印象でした。
本書は遅々として進まない捜査状況や捜査官の人物造形の書き込みが弱いという欠点もありますが、フーダニットとして優れていると思います。真犯人像も発表年次を考慮すれば非常に現代的で、今読んでも違和感がない点が評価できます。


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