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[ 警察小説 ]
失踪者
警察署長フレッド・C・フェローズ
ヒラリー・ウォー 出版月: 1965年02月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1965年02月

No.1 7点 人並由真 2019/09/08 02:22
(ネタバレなし)
 アメリカのコネティカット州。晩夏のある朝、ストックフォードの町にある遊泳場リトル・ボヘミアの周辺で、絞殺された若い美しい女性の死体が見つかる。ストックフォード警察署のフレッド・C・フェローズ署長は、側近のシドニー(シド)・C・ウィルクス部長刑事以下の署員とともに捜査に乗り出した。まもなく近所の写真屋でたまたまポートレートが撮影されていた事から、被害者の名前は、近所の旅館に寄宿するエリザベス(ベティ)・ムーアと判明。さらに旅館の女主人の証言から、エリザベスの夫ヘンリーが三か月前に交通事故で死亡し、彼女はその亡き夫の友人に言い寄られていたらしいという情報が入ってくる。しかしフェローズたちが調べても、最近ヘンリーという夫を失ったエリザベス・ムーアという女性の実在も、ヘンリー・ムーアという交通事故死亡者の記録も確認できなかった。一方で、事件当夜の海水浴場にいた者たちの中から気になる証言がもたらされてくる。

 1964年のアメリカ作品。全11冊の長編が書かれたフェローズものの8本目の作品。今回の謎はシリーズ第1作『ながい眠り』を想起させる、被害者は(本当は)誰なのか? さらに彼女が生前に話題にした「夫」は本当に実在するのか? という興味。

 例によって実にゆったりした丁寧な叙述で捜査が進み、しかしあるポイントにフェローズが着目してからは、物語に弾みがついて強烈な加速感でクライマックスをめざしていく。じれったさの果てに実感する、長いトンネルを抜けるような快感。これこそ正にウォー作品の魅力。

 なお、ここではあまり詳しく書けないが、本作では主要登場人物の関係性というか一方が一方に傾ける感情が重要なドラマ上のファクターになっており、その構図が貫徹されることにものすごいカタルシスを感じる作劇になっている。ある種の情念が勝利を納める物語でもあり、その意味でも実に手ごたえのある一作だ。
 反面、細部の描写などには、シリーズを重ねた作品ならではの余裕も感じた。特にフェローズが聞き込み捜査に赴いて、その家のむずかる赤ん坊に悩まされながらも仕事を完遂する場面など、50~60年代のアメリカテレビドラマ風のコメディチックな叙述ですごくゆかしい。

 終盤の犯人が露見する際の意外性の演出も、その直後の事件に関わりあってしまった人々の情感ある描写も印象的。
 ラストは、50年代のあの〇WA賞受賞作品を思わせる(シナリオの流れは違うのだが、(中略)という共通項ですごいシンクロニティを感じた)。
 事件そのものは地味目なんだけど、全体としてはフェローズシリーズの中でも悪くない方じゃないかな。

 創元なんかは今年の『生(ま)れながらの犠牲者』の新訳(改訳)もいいけれど(個人的には同作をけっこう評価している)、しかしそれよりは、まだ日本語になってないフェローズもの5冊の発掘紹介の方を優先してほしい。
 残りの全作が秀作かどうかは知らないけれど、少なくともこのシリーズで5作も未訳があるんなら、そのうちの2~3冊以上には十分以上に期待できるよね?


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