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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
地の果ての燈台
ジュール・ヴェルヌ 出版月: 2015年03月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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グーテンベルク21
2015年03月

No.1 7点 Tetchy 2022/08/06 00:16
ヴェルヌ晩年の作品である本書はヴェルヌ執筆後、息子の手によって加筆修正され発表された。なお本書で扱われているエスタードス島の燈台は実在するようだ。
ヴェルヌはSFを中心にこれまで様々なジャンルの作品を著してきたが、本書のような1つの島を舞台にした冒険小説は少なくない。
いわば孤島小説ともいうべきジャンルを複数書いてきたヴェルヌが晩年に書いたのは南アメリカ大陸の最南端、マゼラン海峡に浮かぶ島々の1つ、エスタードス島に建設された燈台を舞台にした冒険小説である。その島に居付いていた強盗一味と彼らによって仲間を殺された1人の燈台守との闘いを描いた、まさにど真ん中の冒険小説なのだ。

この通称<地の果ての燈台>は世界の船乗りの悲願だったようで、風向や潮の流れが複雑であり、なおかつ島々が群存するマゼラン海峡、ルメール海峡はまさに航海の難所であったようだ。それをアルゼンチン政府自らが建造し、最初の燈台守たちの仕事が始まるところから物語が始まる。そう、本書の主人公はアルゼンチン人なのだ。
そしてこのエスタードス島は、航海の要所である場所として灯台建設の場所に選ばれたようだが、なんと河川がない。そのため動植物が多く生育していなく、その代わりその複雑な海流ゆえに豊富な魚が獲れる。燈台守は3ヵ月交代であり、その間の食糧は主にブエノスアイレスから運び込まれた缶詰である。なんとも生活に苦難を強いられる場所である。

一方、燈台守たちの脅威となる海賊コングレ一味たちの成り立ちにもヴェルヌは筆を割く。主要な人物は一味の首領コングレとその片腕カルカンテ、船大工のバルテスの3人。彼らは絞首刑になるところを辛くも脱してマゼラン海峡の港町からフェゴ島に辿り着き、そこで生活するうちに難破船が多いことに気付いて漂流物をくすねる強盗となり、やがて仲間を増やしていったのだった。しかし彼らは金銀財宝や食糧は豊富に持ちながらもそこから脱出する手立てがなく、燻っていたところに燈台建設が同じ島の反対側でなされることが転機になった。
ヴェルヌは面白いことにこの海賊一味のことも均等に物語に描く。例えば彼らが難破したスクーナー船を手に入れるが、転覆の恐れのある船底の修理を行うために燈台守たちのいるエルゴール湾を乗っ取るために沈没の危険と隣り合わせに湾へと向かう描写もまるでこの海賊たちが主人公たちのようにスリリングに描くのだ。読者の側としては彼らはこの物語の元凶であるのだが、なぜか彼らの危なかしい航海の成功を応援したくなるのである。

少年少女に夢を与える空想科学小説を書いてきたヴェルヌの作品はある種の教訓が作品に含まれているが、冒険小説である本書もまた同様だ。
たった1人で極悪非道な海賊たちと立ち向かうことになったバスケスはやがて難破したアメリカの帆船<センチュリー号>の生き気球に乗って五週間残りジョーン・デイヴィス副船長という新たな仲間を得て、隠れ逃れる生活から海賊たちへ立ち向かう姿勢へと変わる。
小さなことでも、2人という小さな力でも最後まで諦めずに足掻けば道は拓けるというメッセージが込められている。

さて本書は電子書籍しかなく、地元の図書館に蔵書があったことで読むことが適った作品である。販売中の作品、図書館や古本でどうにか手に入れて読んできたヴェルヌ作品は本書が最後になる。しかしまだまだ過去に翻訳刊行されながらも絶版となった作品は山ほどあるのが残念だ。

今まで何度も繰り返してきたこの言葉を最後に添えてこの感想を終えよう。
いやあ、ヴェルヌ作品は大人になってからも、いや大人になったからこそ面白い!


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