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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 南十字星 |
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ジュール・ヴェルヌ | 出版月: 1973年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
中央公論新社 1973年10月 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2018/04/24 23:50 |
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ヴェルヌの小説は大きく分けて2つある。地底世界、海底、月世界とまだ誰もが行ったことのない世界を舞台にした空想の世界を舞台にしたものと、世界と地続きである当時未開の地だったアフリカを皮切りにアジア、ユーラシア大陸などさほど知られていない場所を冒険する物語である。本書は当時ダイヤモンドの採掘ラッシュで世界中から一獲千金を夢見て人が訪れた南アフリカを舞台にした後者の側に位置する物語である。
南アフリカでの金採掘を巡る話といえば、私は高校生の頃に読んだシドニー・シェルダンの『ゲームの達人』を思い出す。誰もが他人を出し抜いてダイヤの原石を追い求める物語はもしかしたらこの作品が原型なのかもしれないとも思った。 当時ヴェルヌが南アフリカを訪れていたか否かは寡聞にして知らないが、とにかく相変わらず細部に亘って非常に詳しく南アフリカの各地方の風景や民族、風習が描かれている。そしてダイヤモンドラッシュに沸く当地の煩雑な情景が目に浮かぶように鮮やかに描かれている。アメリカ、ドイツ、イタリア、フランス、イギリスのみならず中国からも一獲千金を夢見て訪れ、ある者は太いコネクションを得て次から次へと採掘し、成り上がる者。上手くいかず、夢破れて去る者、命を落とす者。そんな混沌な南アフリカの喧騒は、物語の舞台として実にマイナーだけにあまり語られることのなかった舞台を知る、しかもその当時の状況を知る意味でも歴史的資料としての価値も高い。 そして何よりも興味を惹かれたのは世界に侵出し、次々と世界各国の未開の地を植民地にしていった西洋人の彼の地での傲慢さが際立っていることだ。特に現地人、そしてアジア人である中国人へのからかいぶりはもはや悪戯を通り越して悪質な虐めである。 ヴェルヌの作品には大航海時代以来、世界を股に掛けてきた欧州人たちの傲慢さが端々に見られるのだが、まさにこのアジア人、現地人への迫害は、高校生、中学生のいじめっ子がいじめられっ子に行うくらいの未熟な精神性で行われ、習慣として悪戯、虐めを行っており、読んでいて気持ちがいいものではない。 さて当時の南アフリカのダイヤモンド・ラッシュに群がる西洋人たちの欲望と喧騒を描いたこの物語は、実は一介のフランス人の鉱山技師シプリアン・メレが現地で出会ったアリス・ワトキンズといかにして結婚するかという物語である。1つの愛を成し上げる男の苦難と苦闘の物語である。荒くれ男どもの汗臭く、泥臭い鉱山を舞台にしながら、軸となっているのはあくまで高潔であろう、そして1人の女性への一途な愛を貫こうとした不器用な男のラヴストーリーというのはなかなか心憎い演出である。今まで未知の地での冒険がメインで、男女の色恋沙汰についてはほんの添え物としてしか語られなかったヴェルヌ作品において、一途な愛を前面に押し出した本書は実に珍しい。 冨の象徴ダイヤよりも愛こそが尊い。幻となった巨大ダイヤよりも愛こそが確かなものとして結論付けた本書はヴェルヌの中でも異色なまでにロマンティックな物語ではないだろうか。 |