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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] アドリア海の復讐 |
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ジュール・ヴェルヌ | 出版月: 1993年07月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
集英社 1993年07月 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2018/07/25 21:41 |
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作者ヴェルヌによる冒頭の献辞がアレクサンドル・デュマの息子に捧げられているように、本書はヴェルヌ版『巌窟王』、『モンテ・クリスト伯』である。
聡明かつ勇気溢れる主人公、怪力や話術を誇る快男児、そして主人公を心酔する明るい青少年といった藤子不二雄のマンガのように―もしかしたら藤子不二雄氏がヴェルヌから逆にこの定番キャラの着想を得ていたのかもしれないが―、ほぼ固定キャラで統一されていたヴェルヌの物語において、このヴァラエティ豊かさは今までにない内容の濃さである。女性陣はしかしそれまでの作品同様の典型的なヴェルヌ作品のヒロイン像であり、今どきこんな献身的な女性がいるかと思うくらい、尽くすタイプ、苦難に耐え忍ぶ女性ばかりが登場する。 物語の途中から登場する国境なき名医アンテキルト博士。 彼もまたその財力によってアンテキルタ島を買い、そこに自分の要塞を築いているのが、ヴェルヌ作品のある人物と重なるのだ。 それは『海底二万里』に登場するネモ艦長である。彼もまた何処とも知れぬ島を所有し、そこを根城にして世界中の海を巡り、活動の場を陸から海へと移し、そこで衣食住から動力源まで賄い、世捨て人として隠匿生活をしていた男だ。 しかしこのどこか誰にも邪魔されない島で自分の王国を築き、そして復讐をするという設定をこうも繰り返すヴェルヌは、これら2人が自身の潜在意識に救う理想像のように思えてならない。被圧迫民族解放の擁護者であった彼はやはりその内なる意志を作品のこれらの人物に込めていたようだ。 解説の北上次郎氏も述べているように、100年経っても色褪せない作品というものはある。今なお読まれるべき作品の1つとして本書を挙げておこう。 |