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[ 本格 ] ヨルガオ殺人事件 スーザン・ライランドシリーズ |
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アンソニー・ホロヴィッツ | 出版月: 2021年09月 | 平均: 7.57点 | 書評数: 7件 |
![]() 東京創元社 2021年09月 |
![]() 東京創元社 2021年09月 |
No.7 | 8点 | 斎藤警部 | 2024/12/29 00:33 |
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“『カササギ殺人事件』 なんて、最初から存在しなければよかったのに。 アラン・コンウェイなんか大嫌い。”
なにしろ “前の事” があるもので、登場人物表からドキドキの御注意拝読でございます。 今度の 「作中作」 は 『カササギ』 とはまた違う扱いであり、その登場人物表もまた(以下略)。 今回も 「作中作」 が熱い。 その名も 『愚行の代償』。 英国の田舎にホテルを所有する、旬を過ぎた有名ハリウッド女優。 屍体で見つかった彼女の周りには、ミステリ的な疑惑を誘う登場人物がふんだんに往来。 ホテル経営を任された支配人夫婦、使用人親子、友人の医者夫婦、投資儲け話を持ち込む男、映画出演話を持ち込む男、等々。 女優の若い夫もまさかの劇的な死に様を見せる。 こちらにもまた新たな容疑者が追加され、二つの事件で作中作ミステリの場は大いに沸く。 「物語上の効果をねらってのことなんでね!」 『カササギ殺人事件』 の作者アラン・コンウェイが 『愚行の代償』 を著したのは、 ホロヴィッツ 『ヨルガオ殺人事件』 の中で描かれる殺人事件が起きた、やはり英国片田舎のホテルに事件後取材のため彼が滞在した後だと言う。 『愚行の代償』 を読んだ、当ホテル所有者夫婦の次女は事件数年後となる或る日、殺人事件の真相を、当の本の中に発見した! と遠方滞在中の両親へ密かに電話で通告した直後、失踪したという ・・・ そこで、警察の捜査を強力にサポートして欲しいと夫婦から遠路はるばる対面で依頼されたのが、 アラン本人亡きあと最も 『愚行の代償』 にインティメットな関係者と目された、編集担当であった 「私」 こと、現在は出版業界から足を洗い、ギリシャのクレタ島で細々とホテルを経営するスーザン・ライランド。 パートナーのアンドレアスとは婚姻関係を結んでいない。 前述の失踪した次女は幸せな結婚生活を送っていたようだが、性格のおかしい長女とは折り合いが悪い。 次女の娘の乳母や、ホテルの従業員たちにも癖のある者は多く、謎多き “宿泊客“ の殺人容疑で逮捕、後に投獄されたのもルーマニア出身の元従業員。 “宿泊客” の屍体が部屋で見つかったのは次女の結婚式がホテルの敷地内で行われたその日(!)だった。 被害者は別の客と部屋を代わった直後だった事もあり、そちらの客(元学校長)と間違えられた可能性もある。 探偵役スーザンは昔の業界仲間と再会し、アラン・コンウェイの元妻とさえ対面し、この元妻さえも疑惑の対象となってしまう。 更には “元学校長” との因縁が取り沙汰されるホテル従業員まで浮上するに至り、事態は混迷の一途。 一刻も早く 『愚行の代償』 に埋め込まれた ‘何か’ を捜し当て、抉り出さなければならない状況の下、スーザンを思いも寄らぬ人物が訪問、その直後、スーザンは明確な悪意の攻撃に晒される・・ 「きみってやつは、アラン・コンウェイよりたちが悪いな!」 「作中作」 と 「作」 、 各々の登場人物が抱える問題、放つ違和感、匂わす隠し事の錯綜で読者目線の容疑者を容易に絞らせないやり方が激マブ。 これは(似て非なる)真犯人隠匿の技巧にも通じていよう。 アラン・コンウェイは何故 “そんなこと” をしたか、というホワイダニットの牽引も強力。 もう出だしからして、物語進行のグルグル振り回す感が半端無え。 心地よく遍在する(そして読者のナニを先読みする)パロディスピリット。 セミ・メタパロディの水平線もチラと掠った。 オーイェー。 『愚行の代償』 の名探偵アティカス・ピュントと、その創造者アラン・コンウェイとのあまりの人物評価の差に大笑い。 アランの元愛人、新しい名探偵秘書に警察の面々もヴィヴィッドに躍動。 最後は 「作中作」 に忍ばされた “トロイの木馬” が 「作」 の真犯人に向け強烈なストマックブローをかまして打ち倒す。 死せる孔明(コンウェイ)云々という洒落か。。。。 そんなばかな! |
No.6 | 10点 | Tetchy | 2024/12/12 00:43 |
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日本における、今に至るホロヴィッツ旋風の発端となった『カササギ殺人事件』のまさかの続編である。
私は前作を読んだときの衝撃はいまだに覚えており、現代の古典、即ち今後100年遺されていくミステリの傑作だと確信していた。それゆえ正直続編の本書を読むのは期待半分、不安半分、いや期待3割、不安7割といった感じで手に取った。 しかし本書はその私の不安で高められたハードルを易々と越えてしまった。前作に劣らぬ、いや前作にも増して本格ミステリに淫している作品だ。 私は前作を“ミステリ小説をミステリするミステリ小説だ”と評したが、それに倣えば本書は“ミステリ小説の中のミステリで現実のミステリを解決するミステリ”だ。そう、前作よりもミステリの文字が増えているのは、前作が一粒で二度美味しいミステリだったならば本書は一粒で何度も味わいが変わる重層的な味わいを持ったミステリだからだ。 このシリーズの最大の特徴は作中作であるアラン・コンウェイ作のアティカス・ピュントシリーズの1作が丸々読めるところにある。正直作中における現実世界のスーザン・ライランドのパートよりもこの作中作の方が面白い。 前作では物語が始まってすぐに作中作である『カササギ殺人事件』が始まったが、本書ではスーザン事件関係者への一通りの訊き込みが終わった300ページが過ぎたあたりからようやく幕を開ける。但し、本書では題名の『ヨルガオ殺人事件』ではなく『愚行の代償』という作品だ。 邦題は決して前作の大ヒットにあやかって決めたのではなく、原題“Moonflower Muders”とそのものだ。Moonfower、即ちヨルガオはスーザンの依頼人トレハーン夫婦が経営するホテル《ブランロウ・ホール》の1棟、ヨルガオ棟とそれをモデルにした『愚行の代償』に出てくる被害者メリッサ・ジェイムズが所有するホテル《ヨルガオ館》に由来する。さらにメリッサがヨルガオをホテルの名に選んだのは彼女が過去に主演した映画『ヨルガオ』から来ている。因みにヨルガオと夕顔は別の花であるからご注意を。 さてその『愚行の代償』だが、作者ホロヴィッツはまたしてもこの作中作を実にリアルに実在する作品であるかのように模して物語に入れ込んでいる。 とにかくこの作中作が良く出来ている。全ての登場人物が関わるエピソードが解決へ寄与しているのだ。もうこの作品だけで正直1冊の傑作ミステリを読んだなという充足感に満たされるのだが、さらにスーザン・ライランドのパートの事件の解決が待っているのだから全く以て贅沢な作りである。 私が驚嘆したのはその真犯人を補強する最終章での怒涛の畳みかけだ。それは『愚行の代償』の中に仕込まれていた現実世界の犯人への暗示の数々だ。献辞だけでなく物語のそこら辺至る所にライオンのモチーフや隠喩が込められているのだ。その数はなんと献辞を入れると14。私はいつの間にか眼前で繰り広げられるそれらモチーフの連続解明を「すげえ」を思わず連発しながら読んでいた。 つまり最後まで読むと『ヨルガオ殺人事件』よりもふさわしい題名があることに気付かされるのだ。しかしその題名こそはこのミステリの大いなるネタバレになってしまう。 それはズバリ『ライオン殺人事件』。これに関してはここまでに留めておこう。 ホロヴィッツ作品に登場する人物は仕事のできる男ほどイヤな性格の持ち主であるのが玉の瑕だ。 さらに云えば今までホロヴィッツ作品を読んで思うのは明かされる真相が決して爽快感の身をもたらすに終わらないことだ。謎解きの妙味は今が21世紀なのかと疑うほどかつての本格ミステリの妙味に満ちており、盲が啓かれるカタルシスを得られるのだが、明かされる真相そのものは心がざらつくようなドロドロした人間関係である。 さて色々書いてきたがもう1点、このシリーズのみならず、もう1つのダニエル・ホーソーンシリーズにも共通する出版業界や小説家を登場人物に扱っているからこその作家の創作の秘訣や編集者目線での作品に抱く感慨が織り込まれており、それがミステリ読者の興趣と共感を生んでおり、更に評価を一段上げているように思える。 日本のミステリシーンに衝撃を与えた『カササギ殺人事件』の続編として刊行されながら読者の期待値を超えるクオリティを眼前に繰り広げた本書。当然の如く、読者その続編を、いや特にまだ未読のアティカス・ピュントシリーズ残りの7作を期待したいところだが、最後のスーザンがシリーズ作を焼き払うシーンを読むに恐らくこの「カササギ殺人事件」シリーズは本書を以て幕引きとなりそうだ。 なんとも残念である。この渇望感をホーソーンシリーズで癒やすことにするか。 |
No.5 | 7点 | 小原庄助 | 2024/05/06 08:37 |
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前作「カササギ殺人事件」で起きた事件の余波により、編集者を辞めたスーザン・ライランドは、婚約者とともにクレタ島でホテル経営を始めていた。彼女の前に、イギリスで高級ホテルを所有する夫婦が現れた。八年前に自分たちのホテルの客室で宿泊客が殺される事件が起き、ステファン・コドレスクという従業員が逮捕されていたのだ。だが最近になり、夫婦の次女セシリーが、彼の無罪をほのめかした直後に行方不明になってしまった。
八年前の殺人事件と現在の失踪事件を繋ぐ重要アイテムが、作中作として配置された「愚行の代償」である。イギリスに渡ったスーザンは、かつてアランが取材した足跡をたどり、多くの関係者に疎まれながら証言を集め、さらに「愚行の代償」を読み直し真相を掴もうとする。 作中作と現実の事件をシンクロさせて、これまで見たことのない世界を出現させたのが「カササギ事件」であった。再び作中作を入れ込みながら、前作とは異なる工夫を実現させたのだ。現実の事件と作中作で二つの謎解きが楽しめるのはもちろん、その二つが相乗された本格ミステリの高みに誘ってくれる。 |
No.4 | 7点 | 文生 | 2022/09/20 08:39 |
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前作『カササギ殺人事件』にて死亡したミステリー作家の作品に殺人事件の犯人を指し示す証拠が残されていることが判明するという展開は非常にスリリング。おまけに、作中作として挿入されている問題の作品も抜群の面白さです。黄金期探偵小説の雰囲気に満ちており、誰もが怪しい中で意外な真相を提示してみせる手管には感心させられました。
ただ、現実の事件の謎解きはイマイチ。犯人にさほどの意外性がなかったのも不満ですが、なにより肝心の「犯人を指し示す証拠」というのが実はなんの証拠能力もない点がいただけません。これって要は、性格の悪い作家が「こいつが犯人だ」と(根拠も示さずに)勝手に言っているだけでわざわざその秘密を知った人間を殺さなくても言い逃れはいくらでも可能なのではないでしょうか? |
No.3 | 7点 | makomako | 2021/10/17 16:21 |
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謎解きが二度味わえるとのうたい文句どうり、作中作がほとんど長編推理小説並みのボリュームで入っており、まさに二つの推理小説を複雑に組み合わせながら最終的に完結するといった形式です。
ほかの評者の方がおっしょっていたようにこの二つのお話は名前も同一性があって、私のように外人の名前を覚えるのが苦手になってきた読者にとってはなかなか大変でした。若い頃なら平気で覚えたのですが(言い訳に近い)老化した頭では名前のページと首っ引きということになります。そんなに頑張って名前比べしていたのですが、実はそれほどお話の肝ではないので読まれる方はご安心を。 ピュントの出世となった事件のトリックはなんだか手品みたいでちょっといただけませんが、そこを除けば実に緻密で細部まで吟味された素晴らしい推理小説と思います。 カササギよりはちょっと落ちるかもしれませんが、充分に読みごたえがある推理小説です。 |
No.2 | 7点 | HORNET | 2021/10/16 12:11 |
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「カササギ殺人事件」から2年、編集者の職を辞したスーザン・ライランドは、クレタ島に移住して彼氏とホテルを共同経営していた。そんなスーザンのもとに、英国から夫妻が訪ねてくる。夫妻が言うには、経営するホテルで8年前に起きた殺人事件の真相を知ったらしい娘が行方不明になった。娘はある小説を読んで、真相に気付いたという。その小説こそ、かつてスーザンが編集に携わった故・アラン・コンウェイのミステリ「愚行の代償」だった。
報酬を払うので、謎を解き、娘の行方探しに手を貸してほしいという夫妻。スーザンは再び英国に戻り、独自で調査を始める。 前作同様、今回も「作中作」が挿入される二重構造で、上下巻合わせて800ページ以上の厚み。これも前回同様、作中作の「愚行の代償」は小説がまるまる一本入っていて(!)、氏の創作力には舌を巻くばかりだ。 謎の中心はもちろん、コンウェイの「愚行の代償」に、真犯人を明らかにする何が隠されているか。当小説は英国夫妻が経営するホテルをモデルにして書かれたものということで、その作中作の登場人物と、実際の現実の人物の照応を考えながら読み進めることになり、外国人の名前を覚えるのが苦手な人はやや苦労するかも。 とはいえラストには、そうした照応にはあまり意味はなかったことに気づかされるのだが―(笑)仕掛けは全く別のところにあり、そのことに気が付いても真相看破はなかなかできない仕組みだった。 しかし、読みがいがある作品だった。 |
No.1 | 7点 | nukkam | 2021/09/18 22:42 |
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(ネタバレなしです) 2020年発表のスーザン・ライランドシリーズ第2作の本格派推理小説で創元推理文庫版で上下巻合わせて850ページ近い大作です。「カササギ殺人事件」(2016年)と同じくアラン・コンウェイによる名探偵アティカス・ピュントシリーズの本格派推理小説が作中作として挿入され、現実の謎解きと作中作の謎解きの二本立てが楽しめます。しかも本書では作中作の中に現実の殺人事件を解決するヒントがあるらしいという趣向まであります。「カササギ殺人事件」では作中作の見せ方(クライマックス寸前での中断)に個人的にはちょっと不満がありましたが本書は一気に読ませる構成で、これは歓迎です。もっとも300ページほど進まないと作中作は始まらないのですが。本格派黄金時代の雰囲気を漂わせるアンガス・ピュントシリーズは全10作あるという設定なので、残り8作を絡めたスーザン・ライラントシリーズを(2作品分のアイデアが必要なので大変だと思いますけど)今後もぜひ書き続けてほしいですね。 |