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[ 本格 ] その裁きは死 ダニエル・ホーソーンシリーズ |
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アンソニー・ホロヴィッツ | 出版月: 2020年09月 | 平均: 6.60点 | 書評数: 5件 |
東京創元社 2020年09月 |
No.5 | 8点 | Tetchy | 2021/11/03 00:33 |
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今まで作家自身が作品の中に登場して探偵役もしくは相棒役を務めるミステリはたくさんあったが、ホロヴィッツのこのホーソーンシリーズはホロヴィッツの実際の仕事や作品が登場するのがミソで現実と隣り合わせ感が強いのが特徴だ。
例えば本書では彼が脚本を務める『刑事フォイル』の撮影現場に訪れるのが物語の発端だが、その内容は極めてリアルで1946年を舞台にしたこのドラマのロケハンから当時の風景を再現するための道具立てや舞台裏が事細かに描かれ、映画ファンやドラマファンの興味をくすぐる。そんな製作者たちの苦心と迫りくる撮影許可時間のリミットの最中にホーソーンが傍若無人ぶりを発揮して現代のタクシーでガンガンにポップスを鳴り響かせながら登場する辺りは、本当に起こったことではないかと錯覚させられる。特に最後に附せられた作者による謝辞を読むに至っては作中登場人物が実在しているようにしか思えない。 特に私が面白いと感じたのはこのホーソーンシリーズをホロヴィッツは自身のホームズシリーズにしようと思っているらしく、その場合、謎に包まれたホーソーンの過去や私生活を徐々に明らかにするには固定した警察側の担当、ホームズ譚におけるレストレード警部やエラリイ・クイーンに対するヴェリー警部と定番の警察官がいたため、彼としては前回登場したメドウズ警部を望んでいたのだが、現実の事件捜査ではそんなことは起きないことを吐露している点だ。この辺がリアルと創作の歪みを感じさせ、いわゆる普通のシリーズ作品にありがちな固定メンバーによる捜査チームの確立を避けているところにホロヴィッツのオリジナリティを感じる。 他にもワトソン役であるホロヴィッツ自身の扱いが非常に悪く書かれており、警察の捜査に一作家が立ち会うことについて警察が面白く思っていないこと、また自分の捜査の実録本の執筆を頼んだホーソーン自身でさえ、彼の立場を擁護しようとしないこともあり、本書におけるホロヴィッツは正直少年スパイシリーズをヒットさせたベストセラー作家でありながらも至極虐げられているのだ。特に面白いのは彼らが行く先々でホロヴィッツの名前を聞くなり、彼の代表的シリーズ、アレックス・ライダーの名前を誰もがまともに云い当てることができないことだ。これがホロヴィッツとしてのジレンマを表してもいる。 いかにベストセラーを生み出しても所詮ジュヴィナイル作家の地位はさほど高くはならない現実を思い知らされる。それこそが彼がホームズの新たな正典である『絹の家』を著した動機でもあることは1作目の『メインテーマは殺人』でも書かれている。ちなみに今回の事件はホロヴィッツが次のホームズ物の続編『モリアーティ』の構想を練っている時期に起こっている。 この扱いのひどさがワトソン役であるホロヴィッツにホーソーンやグランショー警部を出し抜いて事件を解決してみせるという意欲の原動力となっている。 つまりこのワトソン、実に野心的なのだ。 1作目では彼の不用意な質問が自身を危険な目に遭わせたにも関わらず、彼は止めない。しかしそれがまた警察の、ホーソーンの不興を買ってさらに関係を悪化させる。作家の好奇心がいかに疎んじられているかを如実に示しているかのようだ。 人間関係の網が複雑に絡み、誰もが何か後ろ暗い秘密を持っていることが判明していく。いやはや本当ホロヴィッツのミステリはいつも複雑で緻密なプロットをしているものだと思わされた。したがって私もなかなかな犯人が絞れないまま、読み続けることになった。 私がこのシリーズを大手を広げて歓迎できないのはこのホーソーンの性格の悪さとマイペースすぎるところにある。彼は常に自分のためだけに周囲を利用するのだ。 冒頭の登場シーンも自分の仕事のためならばドラマの撮影など邪魔するのはお構いなしだし、本書では食事代やタクシー代は全てホロヴィッツに負担させる。まあ、作家である彼はホーソーンの事件を作品化することで全て取材費として経費に落とせるが、それを当たり前のように振舞うのがどうにも好きになれない。 通常ならばアクの強い登場人物、特に主役は物語が進むにつれて好感度を増していくが、このダニエル・ホーソーンは逆にどんどん嫌な人物になっていく。行く先々で作家と云う微妙な立場で尋問や事件現場に立ち会うホロヴィッツを周囲の誹謗中傷から擁護もせず、ホロヴィッツが口出しをすると自分から依頼したにもかかわらず、この仕事は間違いだった、もう止めた方がいいとまで云ったりする。 また率直な物の云い方、質問の仕方は相対する人物を不快にさせ、協力的だった相手が次第に顔から笑みを消し、退出するよう促すが、ホーソーンは決してそれを聞き入れない。自分のその時の気分で周囲に当たり、そして自分のペースで物事を運んでは周囲を困らせる、実に独裁的な男である。 明かされる真相のうち、本書が刊行された年はコロナ禍の影響で明日もまたいつものように会うであろうと思われた人々が突然自殺する事件が続発していて、特に女性の自殺が増えているようだが、妙にそれがリンクしていたのが心に残った。 しかし今回も手掛かりはきちんと目の前に出されているがあまりに自然に溶け込んで全く解らなかった。ホロヴィッツのミステリの書き方の上手さをまたもや感じてしまった。 そして本書ではシャーロック・ホームズの影響を顕著に、いや明らさまに出している。 1作目においてもホロヴィッツが自分なりのホームズシリーズとしてこのホーソーンシリーズを書いている節が見られたが、本書において作者自身が明らさまにそれを提示していることからこれはもう宣言したと思っていいだろう。 しかしこのホーソーンと云う男、ホームズほどには好きになれそうにない。今のところは。このダニエル・ホーソーンをどれだけ好きになるかが今後のシリーズに対する私の評価に繋がってくるだろう。 |
No.4 | 6点 | ボナンザ | 2021/03/10 23:06 |
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前作に引き続き地味ながら本筋はしっかりしたフーダニットになっているのが嬉しい。が、周辺の展開が理不尽にうざったいし、長すぎる気もする。 |
No.3 | 6点 | makomako | 2020/12/27 16:32 |
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本格推理小説としてはまずまず良かったのですが、登場人物が感じ悪い。
むちゃくちゃな女警部と部下(イギリスではこんな警官がまかり通っているのでしょうか。日本でこんな事したら絶対告訴になるぞ)、傲慢でヒステリックな日本人作家のアキラアンノ、そして探偵のホーソーンも感じ悪い。 それとともに筋ジストロフィーに関してはきちんと書かれているのに、エーラスダンロス症候群は作者がなにか勘違いしているのでしょうか、通常の病態とはかなり違うように思えます。違う病気としたほうがよかった。 こういったところが私にはとても気になりました。 これを気にしないならホーソーンのシャーロックホームスを思わせるような発言なんかはとても興味深いし、何となくYの悲劇のような感じもうかがわれて、本格推理として楽しめると思います。 ただ「カササギ」よりはちょっとおちるかな。 |
No.2 | 7点 | HORNET | 2020/11/29 19:43 |
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実直さが評判の弁護士が殺害された。裁判の相手方が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた謎の数字“182”。被害者が殺される直前に残した奇妙な言葉。わたし、アンソニー・ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査に引きずりこまれて―。絶賛を博した『メインテーマは殺人』に続く、驚嘆確実、完全無比の犯人当てミステリ。(「BOOK」データベースより)
著者・ホロヴィッツ自身がワトソン役になり、ホーソーンが探偵役となるシリーズ第2弾。そうした設定の妙を別にすれば、いたって正当な本格ミステリ(良い意味)。謎解き嗜好の読者、昔ながらのフーダニット好きの読者なら、十分好まれる内容(私も)。 あとがきによると、著者は本シリーズを10作シリーズと考えているらしく(!)、本作で端緒に触れたホーソーンの秘密が今後明らかになっていくらしい。うーん、釣られていると分かっていても、結局読んでしまいそうだ… |
No.1 | 6点 | nukkam | 2020/09/25 22:41 |
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(ネタバレなしです) 2018年発表のダニエル・ホーソーンシリーズ第2作の本格派推理小説です。きちんと謎解き伏線を用意してありどんでん返しの謎解きも鮮やかではありますが、ホーソーンとワトソン役に敵意むき出しの警察がうざ過ぎて、そこがいいという読者もいるでしょうが個人的には物語が回りくどくなってしまったような気もします。E・S・ガードナーのペリー・メイスンシリーズならこういう相手には巧妙にしっぺ返しをお見舞いして読者の留飲を下げるのですが、本書に関しては中途半端に終わったような感じがします。 |