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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] モリアーティ シャーロック・ホームズシリーズ(コナン・ドイル財団公認) |
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アンソニー・ホロヴィッツ | 出版月: 2015年11月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 3件 |
KADOKAWA/角川書店 2015年11月 |
KADOKAWA 2018年04月 |
No.3 | 7点 | Tetchy | 2021/05/16 00:39 |
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大胆不敵にもホロヴィッツはホームズとワトソンを一切登場させず、脇役であり道化役でもあったスコットランド・ヤードの一警部アセルニー・ジョーンズとアメリカから来たピンカートン探偵社の調査員フレデリック・チェイスを物語の主人公に据えた。
前作『絹の家』はホームズとワトソンによる真っ当なホームズ譚であったが、本書はホームズがモリアーティ教授と格闘の末にライヘンバッハの滝に落ちた直後から始まる。 本書ではホームズの世界観をバックに2人の主人公が縦横無尽に活躍する内容になっている。 とはいえ登場するのは正典に所縁のある人物ばかりで、本書で主役の1人を務めるアセルニー・ジョーンズは『四つの署名』に登場したスコットランド・ヤードの警部である。 本書では親切なことに訳者による本書で登場するスコットランド・ヤードの面々が正典のどの作品に出たか詳しいリストがついている。 このアセルニー・ジョーンズ、実は正典では無能ぶりが強調された警部として描かれているようだが、本書では実に緻密な観察眼と推理力を持つ、おおよそ正典では存在しえない優秀な捜査官ぶりを発揮する。 私は当初彼は滝に落ちて亡くなったと見せかけたホームズが成りすました人物だと思っていた。というのもその推理振りはホームズのそれを想起させるものであり、更に足が悪くて休み休みでないと歩けないという描写があることから、怪我がまだ治り切れないホームズであると思われ、更に彼の台詞「たとえそれがどんなにありそうにないことでも、問題の本質として充分考慮しなければならない」はホームズのあの有名な台詞を彷彿とさせるからだ。 しかし彼が妻による夕食をチェイスに招待する段になってその確信が崩れてしまう。そしてその妻エルスぺスがチェイスに語る、彼が正典で被った屈辱から徹底的にホームズを研究して彼に比肩する頭脳明晰な捜査官になろうとしていることが明かされる。 つまりは本書においてのホームズはかつてその名探偵とその助手によってコテンパンに揶揄われることに一念発起して切磋琢磨したスコットランド・ヤードの警部である。いわば彼はホームズシリーズにおける「しくじり先生」なのだ。 更にスコットランド・ヤードの警察官たちの中にはホームズの推理に疑問を持つ者をいることが描かれる。曰く、筆跡から書いた者の年齢まで解るものだろうか、歩幅で身長を本当に推定できるのだろうかと云い、今になると彼の推理は何の科学的根拠もない荒唐無稽な代物だとまでこき下ろす。 更には今までさんざんバカにされてきたことに腹を立てたりもする。 つまりホームズに頼ってきたスコットランド・ヤードの警部が物語の中心になることで警官たちのこれまでホームズという奇人に対して募ってきた本音が描かれるのである。 これは緻密な頭脳を持つ犯罪者モリアーティの恐ろしさを知らしめる物語であると同時にホームズに憧れ、ホームズになろうとし、なれなかった男の物語でもあるのだ。 本書はホロヴィッツが一ミステリ作家としてのオリジナリティを発揮することを試みた野心的な作品であることは想像に難くない。 しかしそれは実にチャレンジングな内容であった。 この結末の遣る瀬無さを世の中のシャーロッキアンやホームズ読者がどのように捉えたのか。それが今なお彼が次のパスティーシュ作品を書いていない(書けてない?)答えのように思えてならない。 |
No.2 | 6点 | YMY | 2018/09/24 09:50 |
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シャーロック・ホームズの異色のパスティーシュ(がん作)。
ホームズと宿敵モリアーティがライヘンバッハの滝に消えた。現場を訪れた英国の警部は、米国のピンカートン探偵社から来たという男と出会う。2人は手を組んで、モリアーティに接触を図っていた米国人犯罪者を追跡する。 ホームズは登場しないが、彼の手法を模倣する警部の存在が印象深い。意外な結末へと至る物語の仕掛けも鮮やか。 巻末には、ワトソンが語るホームズ短編「三つのヴィクトリア女王像」も収録。 |
No.1 | 5点 | nukkam | 2018/06/01 09:40 |
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(ネタバレなしです) 2014年発表のコナン・ドイル財団公認シャーロック・ホームズシリーズ第2作ですが外伝的性格が強い作品です。なぜなら作中時代がドイル原作の「シャーロック・ホームズの回想」(1894年)の「最後の事件」の直後という設定なのですから。ホームズは会話の中にしか登場せず、代わって主役を演じるのはフレデリック・チェイス(米国のピンカートン探偵社の探偵という役柄)とアセルニー・ジョーンズ警部(こちらはドイルの「四人の署名」(1890年)に登場しています)です(ホームズが最後まで登場しないのかについてはここでは明言しません)。「四人の署名」ではホームズの引き立て役に過ぎなかったジョーンズが推理で頑張っているのが印象的です。ジョーンズ以外にもドイル原作の人物が何人か登場していますが第14章で登場した人物にはびっくりしました。アメリカの犯罪組織一味との対決を描いたプロットで、冒険スリラーとしてなかなか読ませます。角川文庫版の巻末解説で有栖川有栖がフェアプレイについてコメントしていますが、(第21章で伏線についての説明がありますが)読者に対してこの謎解けますかと要求する本格派推理小説ではないので、作者に騙されたかどうかという感覚はなかったです。 |