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[ 本格/新本格 ]
黒面の狐
物理波矢多シリーズ
三津田信三 出版月: 2016年09月 平均: 6.80点 書評数: 5件

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文藝春秋
2016年09月

文藝春秋
2019年03月

No.5 8点 ALFA 2023/07/26 08:14
満州帰りの青年物理波矢多は筑豊の小駅にあてもなく降り立つ。汽車の黒煙越しに見える茜色の夕焼。まるで映画のような書き出しである。

前半三分の一は事件も怪異も起きない。坑夫として働く主人公や周辺の人々、過酷で猥雑な炭鉱町が生き生きと描き出される。短いセンテンスによる情景描写や人物造形は清張さながら。考証にもとづく戦中戦後の炭鉱事情はとても詳細だが、言耶シリーズでの民俗学の蘊蓄ほど煩わしくはない。巧みに物語に織り込まれている。
そして落盤事故をきっかけに事態は急変する。
以下少々ネタバレ


作者らしい緻密な伏線が張られている。ただ最も重要な伏線は、読者が受ける「印象」としか言いようのない感覚的なものである。
最後の反転もいい。
時おり感じる雨月物語のようなストイシズムとよく響きあう。

メイントリックの強引さを芳醇な物語が補って余りある名作。


No.4 7点 みりん 2023/07/17 22:11
おお〜刀城言耶シリーズ以外の三津田先生の作品の中では最もミステリ度が高いのではないでしょうか。
戦後の炭鉱という視覚的にも社会背景的にも薄暗い舞台で密室殺人が立て続けに起こる。その動機はとある手記を読むまでは全く想像だにできないが、なかなかハードで社会派的要素を多分に含んでいます。
ラストでは、そこまでばら撒かれていた伏線やミスリードすらも丁寧に拾う物理並矢多の多重推理が刀城言耶を彷彿とさせます。

No.3 7点 HORNET 2017/03/20 23:28
 久々の三津田ワールドって感じで、よかったんじゃないでしょうか。
 戦後の炭鉱社会の薀蓄は単純に面白かった。やっぱり自分があんまり知らないことについて知る(くどくない程度に、わかりやすく)ってのは楽しいんだなぁと改めて実感。坑内の薄暗い感じと、さびれた炭鉱村の様子がよくマッチしてて、雰囲気出てたと思う。きっと映像化しても面白い(ただし、昨今の洗練された映像とイケメン・美女の組合せではなくて、昔の横溝映画のような、野暮ったさと辛気臭さ、泥臭~い感じでね)
 ラストに畳みかけられる、「可能性を一つ一つ潰していく」という論理性とセットの「どんでん返しの連続」にはもう慣れた。でも、と言いながら……それを期待していた!!(笑)それなりに満足。
 筋道やからくりはわからなかったが、正直、真相は想定内というか予想していた。

No.2 5点 mozart 2016/11/29 10:29
戦前から戦後にかけての炭坑関連の記述については、「幽女の~」の蘊蓄に比べるとそれほどくどくなく、比較的読みやすかったと思います。ただ、最後の「多重解決&棄却」は、やや「言耶シリーズの劣化版」の感が・・・。トリックもちょっとご都合主義ぎみだったし。肝心のフーダニットもひとひねりがあったとはいえ、その破壊力はイマイチでした。
とはいえ、久々に「言耶テイスト」を味わうことができたのも事実で、次作では是非とも「首無」を凌ぐような言耶ワールドを(もちろん言耶の「~の如き」シリーズで)現出してもらいたいものです。

No.1 7点 人並由真 2016/11/03 03:07
(ネタバレなし)
 昭和二十年代初頭。先に満州の建国大学に学び、亜細亜と世界の諸国がいずれ平和で文明的な将来を迎えるようにと願っていた青年・物理波矢多(もとろいはやた)。そんな彼は大戦の現実に心身をすり減らして帰国し、九州の炭鉱地帯に流れ着いた。そこで波矢多は、3歳年上の親切な美青年・合里光範(あいざとみのる)と知り合い、その紹介で合里の勤務先である抜井炭鉱の炭鉱夫として働くことになる。だがある日炭鉱に落盤事故が生じ、さらにそれと前後して宿舎の周辺で不可解な怪死事件が連続して発生する。そしてその周囲には、黒い狐面をつけた何者かの姿があった…。

 大戦直後の九州の炭鉱地という特異な場を舞台にした、ホラーティストの不可能犯罪パズラー。当時の時代まで日本の国力を支えた石炭採掘現場の実状が仔細に語られ、同時に暗く深い地の底で奮闘する炭鉱夫の実態、そしてそんな彼らの側に常にいる神がかり的な、あるいは魔性めいた存在が物語の重要な要素となる。
 ミステリ的には複数の密室で生じた連続変死(自殺? 殺人?)事件がキモとなるが、ほぼ同時に発生した落盤事故現場からの生存可能者救出の可能性、さらに時を隔てて別の炭鉱で起きた不思議なできごととの関係性を探る興味などがほど良い歩幅で絡み合い、なかなかの求心力となっている。
 犯人の正体とその犯行までの経緯の大きな部分のひとつは何となく見当はつくかもしれないが、盛り込まれた仕掛けを細部まで見抜くのはちょっと難しいかとも思う。真相らしきものを順々に並べていっては、ひとつひとつやっぱりダメ、とひっくり返していく解決編の趣向も楽しい。いずれにしろ筆者には、カーのオカルト趣味系不可能犯罪ものを読むのと近い興味でかなり面白かった。
 ちなみにこの主人公・物理波矢多、シリーズ化されそうなので今後の展開を見守ることにしよう。


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