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ミステリの祭典

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シーマスターさんの登録情報
平均点:5.94点 書評数:278件

プロフィール| 書評

No.118 7点 見えない精霊
林泰広
(2009/03/15 22:10登録)
インド奥地の上空に浮上した飛行船が舞台の、絶対に不可能と思われる連続殺人。

文章はあまり上手くないが幻想的な雰囲気の中でソリッドなシチュエーションを設定した上、客観性の漏れがないように様々な付帯状況を設けるなどして(そのため少なからぬ「ぎこちなさ」は如何ともし難いが)入念かつ緻密に作られたマジック・ミステリといえよう。  
催眠術や「嘘を見抜く力」などの眉をひそめたくなるスキルも出てくるが、本筋ではそれらも不可思議性を徹底させるためのツールになっている。
主人公であるウィザード(魔法使い)と呼ばれる伝説のカメラマンと、特異な能力を持つとされる北インド秘境の美少女が繰り広げるクールでホットな論戦なども読み応え十分で、その上「読者への挑戦状」もあったりして、ミステリを純粋に「ロジック・クイズ」として楽しむにはうってつけの展開を呈してくれる。

ただ、メイントリックが明かされた時、それをミステリとして受け入れられるかどうか・・・・・・・・そのために人種的な背景なども含めて伏線が張られてはいるが・・・・・・・・受容できる人にとっては「多くの不可解な現象が、1つの事象によって全て明快に説明される」という点で『首無の如き祟るもの』に匹敵する傑作となるだろう。
このトリックは「ある禁じ手」のヴァリエーションであり、「んなんアリか、ふざけろ」と罵倒され一蹴されても止むを得ないものであるが、それを使うにあたっての周到なセットアップを鑑みれば、思考を煮詰めて煮詰めて煮詰めれば真相はこれしかない、という究極の論理の結晶として焙り出される「推理小説の解答」になり得るものとして個人的にはアリに一票を投じたい。
もちろん本作の真骨頂は「このネタ」ではなく「このネタを使って『見えない精霊』を作り出した、悪魔的なまでに精巧な演出」であることは一読明白であるが、このネタではミステリとしてあまり高い知名度が得られないのは止むを得ないところ。
何はともあれ、これだけ短い長編の中でこれほどゾクゾク、フーダニット、ハウダニットを楽しませてくれたことに対し作者に謝意を表したい。

(余談だけど・・・・ややネタバレ・・・・・・・・ドイルだっけ?「否定せざるを得ない仮定を全て消去した結果、唯一つ残った可能性・・・どんなに意外なものだとしてもそれが真実なんだよ(ワトソン君?)」という文言、それと彼の『唇のねじれた男』やガストン・ルルーの『黄色い部屋』の人間消失トリックに頭を悩ませる名探偵達の脳内を駆け巡った万華鏡の如きインスピレーションの火花の一片が時空を超え昇華して現代ミステリに具現化した作品といっても過言ではないのではないか、と思ったりもする)


No.117 5点 向日葵の咲かない夏
道尾秀介
(2009/03/13 23:55登録)
これは・・・・個人的には、ちとキビシイ。

好き嫌いがかなり分かれる小説であることは既読者の異論のないところであろうが、自分には「合わなかった」というより言がない。

ラットマンやカラスより数年前の、デビュー間もない頃の作であるから不適切な表現かもしれないが、
道尾作品らしからぬ、途中のダラダラ展開は退屈で倦怠感すら覚えてくるものだし、
道尾作品らしい、本筋とは関係が薄い少なからずの心情描写もあまり共感できるものではなかった。

本格の要素もあるが、サイコでもあり、ファンタジーでもあり、バカミスでもある話である。
「あのネタ」も某作家Aなどの作品では評判があまり宜しくないようだが、これ系に素直に驚ける人には本作は「面白いミステリ」と受け入れられよう。
本格、推理の部分も割とよくできていると思うが、私的に面白いと思えないのは好みの問題で如何ともしがたい。

また「ブラックさ」ももっと衝撃的であったらもう少し楽しめたと思うが、さほど強烈なものとは感じられず。終盤も「暗い緊張感と視覚的な派手さ」はあったが予想以上のインパクトはなかった。

更に、(自分の読み方はいい加減だから勘違いだったら申し訳ないが)いくつか矛盾する(このネタを使う上ではアンフェアといえる)箇所もあったような気もするが・・・・例えば、駅の改札での駅員との会話は実際の事象からするとオカシくなかったかな?


No.116 7点 愚行録
貫井徳郎
(2009/03/01 18:14登録)
これは貫井氏らしい作品。

人の多面性・・・人は単純に善悪に分類できるものではない、見る方向、接する角度によって様々な人物像を呈するものである・・・そう、氏の『プリズム』を彷彿とさせるタッチで話は進む。

舞台は明らかに現実の『世田谷一家殺人』に重ねたものであり、あの事件の現在までの経過を思うとちょっと不謹慎ではないかという気がしないでもない内容だが、人の内面の汚さを剥き出しにではなくジワジワ浮き彫りにしていく展開はヌックの独壇場と言えよう。(そんな愛称はない)
ただドロドロ感が、ありそうにして実はさほどではなかったという印象は拭えず、これだけ丁寧に人間性をあぶり出しながら結局の動機が今ひとつ抽象的だった点も少し物足りない。「あの人が語った実態」も活かしてココを思いっきり生臭いものにして欲しかった。

またリアリティ面での処理も、もう少し何とかしていただきたかったね。
始めのおばさんはともかく、無名のルポライターに初対面で各々そんなに丁寧にそこまで話すか・・・もちろん「話したい気持ち(王様の耳はロバの耳)」の描写もそれなりに配慮されてはいるが、少なくとも物産のご令嬢に自らの醜態をそこまで語らせるほどの必然性は感じられない。(育児ストレスの発散みたいな形で説明づけしようとしているが、とてもそれだけで受け入れられるものではない)
慶應の話も・・・感じ方は個人差が大きいらしいが、あの人は大袈裟に感じ過ぎ。

まぁ、何だかんだ言っても抜群のリーダビリティに塗され「読後感の悪い読みもの」として面白かった。


No.115 4点 被害者は誰?
貫井徳郎
(2009/02/25 23:35登録)
やっぱ貫井さんは短編は上手くないし、ライト系は下手だと思う。
彼の弱点がダブルで味わえる作品。(もちろん主観なので悪しからず)

最終話以外はダラダラ間延びした百ページ前後のショートミステリで、手記を使ったトリックも既に視た感じのものばかり。 最終話の「錯誤」もミエミエ。
「軽さ」も面白ければ文句ないんだけど、面白くないんだよね・・・・ありふれたスタイルで。 こういうのはこういうのを書かなきゃ食っていけない大衆作家に任せて、従来どおり重くて鬱なストーリーの中に「企み」がある長編に徹する方がいいよ、貫井クンは。こんなん書いてヌクヌクしてちゃダメだよ。


No.114 6点 弥勒の掌
我孫子武丸
(2009/02/17 20:23登録)
面白かったー、読み物として。

ミステリとしての構図は、「あっと驚く推理小説」を読み慣れた読者にとっては「まあまあ」か「なかなか」程度だろう(それに、あのネタはつい最近読んだアレと同じじゃないか、と個人的な憤りもあったりする)が、それを驚天動地の如く演出するところは流石「殺戮にいたる病」の作者・・・・・・・・・それでも帯の文言はやっぱフロシキだよなぁ
だけど「これだけのリーダビリティと引き込まれ度を味わわされるとそれも許せてしまう」というのも読後感として偽らざるところではある。

エンディングはその情けなさに苦笑を禁じえないが、新興宗教を絡めたミステリって何でこうも面白いんだろう。


No.113 6点 盤上の敵
北村薫
(2009/02/13 23:55登録)
(ややネタバレ気味かも)

これが「空飛ぶ馬」と同じ作者の作品だとはとても信じられ・・・・・・・・る。

前半の「白のクイーン」のまどろっこしさにはマイッタが、「あの女」の出現以後を際立たせるために延々と語らせるあたりはこの作者らしい。最初のオジサンの話の詳細さも。

意外な真相はよくできていると思うが(いろいろと都合よすぎ?・・作者は始めからそのつもりで書いている)、このタイプは他で見られないこともない。(折原、東野?・・・・他にもあった気がするが具体的にあまり思い出せない)

前書きで作者は「読後感の悪さ」を予告しているが、これは反語ではないかと。
良識ある読者に対して「これが社会通念上、それ以前に道義的に『善』ではないことは百も承知ですが、敢えて私はこの因果を提示します」という作者なりの「正義観」の宣言であったようにも感じられる。
(ていうか、ミステリ、サスペンス小説として、そんな前置きをしなけりゃならんほど悪い話とも思えんがね)

もし自分が(そう、このストーリーの中で)同じ環境で同じ立場に立たされて、(絶対ありえないが)同じレベルの才覚と機知を持ち合わせていたなら、同じ行動をとったことだろう。

最後の最後にチョッと懸念した(脳裏をよぎった最悪の)更なるドンデン(本当はそういうの大好きだが)があったりしないでくれて、ホっと終わりを迎えられた数少ない一冊。個人的にはグッドエンド。


No.112 6点 i(アイ)―鏡に消えた殺人者
今邑彩
(2009/02/07 21:54登録)
カーちゃん張りのマジカル密室殺人には大いにソソられるが、タネを明かされると竜頭蛇尾な感も否めない。
そりゃー不可能に見える現象が成立するためには(故意にせよ偶然にせよ)必ずどこかに「綻び」というものがあるわけだが、本作の不可思議性の綻びドコロはちょっとお粗末ではないかなーと思うわけですよ。

本作は作者の長編ミステリの代表作的な作品とされているが、個人的にはエニシダ荘の方が遥かにインパクト強し。

この他の作品にも登場する貴島という探偵役の刑事・・・何となく東野作品のアノ刑事とダブるねー、ちょっとダラシない加賀って感じ。どっちが先か知らんけど。


No.111 6点 ゲッベルスの贈り物
藤岡真
(2009/02/01 00:00登録)
メインストーリーは正直さほど目新しさを感じさせるものではない。
一個人が些細な謎に巻き込まれ、やがて強大な権力組織に行き当たり、立ち向かう。黒幕の正体は?・・・・・・途中いろいろと趣向も凝らしてあり楽しめるけど、他の小説や映画でも類型は珍しくない。

本作の「売り」はやはり2つのサプライジングなサイドメニューだろう。
個人的な読後感は「ドミノピザLサイズと一緒に食べた大小の骨付きチョリソに当てられた」感じ・・・・といえばニュアンスが伝わるだろうか。
大の方は「もしや」という気がしないでもなかったが、小の方は完全にしてやられたねー、久々に騙される快感を味わっちまったよ。

余談だけど、ドミノと関連して春間源はハルマゲ(ド)ン?という読みは穿ち過ぎだったかな。


No.110 6点 そのケータイはXXで
上甲宣之
(2009/01/24 22:29登録)
「ドタバタ」の連続劇。

そして、とにかくそれぞれの「ドタバタ」が長すぎる。
スリルを演出したいのはわかるが、それを感じるのは始めだけで、読み進むうちにいずれも「いつまでやってんだよ」「そううまくいくか」とツっこみたくなる・・・まさにダラダラB級ホラーサスペンスの繰り返し。
公衆トイレの一番奥の個室に隠れているところを殺人鬼が手前の個室から一つずつドアを蹴破ってくる・・なんて、とても今世紀の作品とは思えない。
レンさんが仰るように文章もうまくないし、いろいろ個性を出そうとしている文体もスベッてる感がタップリ。

しかし読みやすいことも確かで、何だ神田言いながらも最後までページを捲らされる展開であることも間違いない。よって6点進呈。


No.109 6点 正月十一日、鏡殺し
歌野晶午
(2009/01/11 20:51登録)
読みやすくて(第1話を除き)読後感の宜しくない作品が、[暗鬱度]弱→強の順に並んでいる「裏本格」短編集。

いくつかコメントすると・・・
『記憶の囚人』(第4話)は運命に打ちのめされた人々の心の闇と狂気がもたらすトラジディをミステリに仕上げた話。韻文詩調の地文で霧深いスコットランドを鬱々と演出した面白い構成になっている。
続く『美神崩壊』でのグロテスクなフィジカルダメージと陰惨なカタストロフィは底知れぬどす黒さ(or赤黒さ)以外の何物も残さない。
そして表題作での、〈彼女〉の精神を粉砕する壮絶な悲愴劇は何に例えんや・・・・・・・・Kyrie,eleison
                            
歌野氏は決してミゼラブルな話ばかり書く作家ではないが、彼らしい「読む者を引っ張る巧さ」が出てきたのは本作辺りからではないかな?


No.108 6点 この闇と光
服部まゆみ
(2009/01/11 20:47登録)
これについて全くネタバレなしに語るのは針がラクダの穴を通るより難しい。

敵国に占領されたある王国で、水面下に反乱を目論む王である父とともに軟禁されている盲目の王妃レイアの物語・・・悲壮感と文芸色が漂うストーリーの中で彼女の成長が描かれていく。
読みながら「これはアレで、それはヤレかな?」と感じてしまったが、半ばであっさり「両方ともそうだよ」と明かされたときには少々拍子抜け、しかし「やっぱね」と思いながらも○から○○る、あるいは○○に○○する感じの収束感は悪くないし、その先に期待を抱かされもする。
が、後半、真相、結末はどちらかというと尻つぼみの感も否めない。タイトルの意味を十分表現したいという作者の思いはヒシヒシと伝わってはくるが。

もう少しネタバレしちゃうと、映画「〇。〇。〇」のノリだね、この話は。(シュレックではないよ)


No.107 7点 星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン
(2009/01/11 20:44登録)
>チェスタートンの宇宙版
・・・・・これ以上何をか言わんや。

度々出てくるテクニカルタームは軽く流しましょう。
一々引っ掛かっていたら今年中に読み終わらない。

関係ないけど、ある登場人物が呼びかけられる場面で、ふと脳裏に変な応答が浮かんでしまった。
 「ダンチェッカー!」  「なんでっかー?」


No.106 6点 ジェシカが駆け抜けた七年間について
歌野晶午
(2008/12/27 22:38登録)
いやー、確かにトリックについて評すれば「ンなもん知るか」の一言で終わりだよね。

マラソン観戦は割りと好きなので内情話(正直リアリティに疑問を感じるが)は興味深かったし、超絶な運動生理学に唖然とし、本作の仕掛けに驚けたことは間違いないので読み物としては「楽しめた」と言わざるを得ない。(もちろん作者のストーリーメイクの巧さがあるからこそ、ではある)

ただ、やはりこのようなネタは長編としてよりは短編集の中の一編としてサラっと読ませ「ほぅ、面白いことを思いついたね」とフレドリック・ブラウンのショートショートのような「ちょいピリ感」を味わわせる小作品として使われる方が似つかわしいかな・・・・・とは思う。


No.105 6点 クリスマス・プディングの冒険
アガサ・クリスティー
(2008/12/22 21:04登録)
アガサおばさんからのクリスマス・プレゼント。
パーティーのテーブルに並んだ色とりどりのアラカルトのような短編集です。

全体に古き良き英国の香りがそこはかとなく漂い、むごいマーダーも軽く読ませてくれます。

非常に都合がよろしい展開や漫画めいた事象(捜査手段として大真面目に催眠術が使われたりもする)など「???」なシチュエーションも多々ありますが、そこはご愛嬌・・・・目くじらを立てることもないでしょう・・・・この赦しの季節に。


No.104 6点 『アリス・ミラー城』殺人事件
北山猛邦
(2008/12/16 21:28登録)
このメイン・トリック・・・この手の仕掛けは嫌いではないが、本作のようなやり方だと「インチキ」との謗りを受けても止むを得ないだろう。
確かに所々に伏線らしきものはあるが、そこでは「ソレは?・・曖昧だな・・もしや?・・でもそれならもっとちゃんと書いてくれないとアンフェアだよな」と思いながら読ませられ、結局そのとおりなんだからスッキリしないこと夥しい。
まぁチェス盤がね・・・・・・・作者のせめてもの読者への真相暗示のメッセージか・・・・

似たタイプとしては某御大の某作があるが、本作品はアレほど大胆になれないまま逃げとおした印象が強く、読後感は、実質ディフェンスに徹するボクシングチャンプがコソコソ姑息にラウンドをこなしタイトル防衛に終わった試合を見せられた後の感想に近いものがある・・・

密室トリックは割りと面白いし、(机上の空論だったとはいえ同じ結果となった)首切りのカラクリは笑えるほどだし、ストーリー展開も(はじめの100ページは冗長だが、それ以後は)クローズド・サークルの王道を行くものとも言えるだけに、もう少しカタルシスを味わわせてくれる作りにして欲しかった。


No.103 6点 クドリャフカの順番
米澤穂信
(2008/12/03 22:40登録)
高校の文化祭3日間を舞台にした連続盗難事件・・・・・・・・・・かな?

参加団体については「こんな部活あるか」とツっこみたくなるものが少なくなかったが、まぁ「古典部」がありなら何でもありか。

前半はひたすらイベントの情景が延々と続き、その間に「ガラクタを盗られた」エピソードが数回ポツンポツンと入るだけ。
半ばでようやく「事件」の「形」が見えてきて、どうなることかと気を持たせる展開になっていく。

(自分に理解できた部分は少ないが)オタッキー(ってまだ言う?)な高校生達の心情描写を絡めて、ミッシングリンク物として作者なりに巧みを凝らした作りになっている。

ただ、自分はこの他の「古典部シリーズ」を読みたいとは思わないな。
ライト系がお好きな方はどうぞ。


No.102 6点 ウェディング・ドレス
黒田研二
(2008/11/14 22:07登録)
バカミスって聞いてたけど、違うよね?
全体的に何となくバカっぽい感じはするけど・・・・・・そういうのもバカミスというのかな。
何はともあれ、いい意味で裏切られた・・あるいは期待外れだったというべきか。

二人のズレ・・・当初は「またアレかよ」・・・そう、AのSやらMのSなどの「アレ」かと思ったが、それだけでは説明のつかない展開に・・・ん?どうなってんだ・・なるほど、「ソレ」が入っていたのか・・なかなか凝った構成だ、と感心させられ候。
密室は、勝手にガリレろ。

普通にミステリとして読むと、偶然と強引さが目立つストーリーメイクに少なからぬ怒りを禁じ得ないだろうが、細かいことは気にせず大らかな気持ちで読めば、ちょっとドタバタ気味のトリッキー・サスペンスとして面白い話だと思う。


No.101 6点 弁護側の証人
小泉喜美子
(2008/11/07 21:38登録)
(本作を今後読むかもしれない人は以下読まないことをオススメします)


これは・・・・・最初の1ページでピンときて、数ページでメインのネタを確信するに至ってしまった。
別に自分がカンがいいからと言うわけではなく、折原諸作や十角、殺戮、葉桜、消失、慟哭、星降り、ハサミ、イニシエ、ロートレ・・・・などの新本格以後の様々な「叙述」の既読者(「擦れっ枯らし」というのかな?)が構えて読んだら早々に「このシチュエーションで、この曖昧な描写は怪しい」と感じてしまうのではないだろうか。
自分はチェスタトンの『飛び魚の歌』の中の「○とは何ぞ、●とは何ぞ」という一節をすぐに思い出してしまった。

書かれた時代を考慮すれば(という評価のしかたはあまり好きではないが)驚愕ミステリの古典的名作といっていいだろう。

もう一言・・・・・終盤でのネタ明かしがやや早めだったので、本作のタイトルの捩り元になっているクリスティの『検察側の証人』が噛ましてくれたような「最後のもう一撃」も期待したが、それもなかったのは更に残念。


No.100 6点 ハロウィーン・パーティ
アガサ・クリスティー
(2008/10/29 22:40登録)
クリスティ女史が79歳の時の作品です。
彼女の数々の名作のような派手さはなく、どちらかというと静のミステリですが、決して単調ではない構成がコンパクトに纏められた良作です。

ロンドン近郊の片田舎でのハロウィーン・パーティで起きた殺人事件に駆り出されたポワロが、歩き回って調査し、関係者達と会い、彼らの内面を老練に観察し、入り組んだ真実と犯人に迫っていく展開は年を重ねた女史ならではの味わいがあります。

スナップ・ドラゴン・・・・一度実物を見てみたいですね。


No.99 6点 死神の精度
伊坂幸太郎
(2008/10/21 23:10登録)
読み物として普通に面白い短編集。

表題作は「意外な真相」が効いている。(ラストは大方の読者の予想どおり)
その他の作品も悪くないが「最後」まで語られない話が多い。これは話の性格上故意であろうし欠点になるものでもないが、正直さほど内容がある話があるわけでもない。
要は、少し変な死神(変じゃない死神がいるのか知らないが)の目を通してのクールでシニカルな「人間の観察描写」を楽しむ作品集なのであろう。
ただ最終作はちょっと感動モノ。

山本周五郎賞受賞作とのことだが、自分はこの作品以外では宮部みゆきの「火車」しか知らない・・・・この2つからではどんな趣旨の賞なのかまるで分からない。

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