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ミステリの祭典

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留吉さんの登録情報
平均点:5.40点 書評数:25件

プロフィール| 書評

No.25 7点 霧越邸殺人事件
綾辻行人
(2005/08/29 18:15登録)
正統派本格と幻想譚の融合を試みたレアタイプのミステリ。
(SFっぽいのは結構あるけど、こういうのは珍しいのでは)
非現実ファクターがロジックに障らずにサスペンスを盛り上げるのに功を奏している。
最終的な動機は苦しい気もするが、これも霧越邸の人知を超えた神秘性がもたらした狂気の発現、ということでアクセプトしていいのではないかな。

また「幕間(一)」は絶妙。
残りの厚さを嬉しく思いながら読めた数少ない一冊。

終わり近くで、冷然たる人生観を持っている(はずの)人物が、告発されたくらいであわてふためくのは何とも滑稽で笑えた。
それに、あの珍妙な名前とあの童謡の関連はわかるよね。
(子供のナゾナゾじゃあるまいし)


No.24 3点 暗闇の囁き
綾辻行人
(2005/07/28 23:15登録)
児童心理を巧みに練り込み、ミステリアスな童話風に仕立ててはあるが・・・

この作者にしては薄味という印象。
どうせなら、もっと「おどろおどろしく」して欲しかった・・・ていうか、この人にはそれを期待しているのだから・・・
家庭内にもっと深い事情が潜んでいるのかとも思ったが、結局、子供達のちょっとしたネタ以外は何もなく、ストーリーはシンプルそのもの。

話の展開上、○○が死ななければならなかったのは、あまりにも不憫。


No.23 6点 黒い家
貴志祐介
(2005/06/30 21:59登録)
「怖い」「怖い」って・・・・・・・・・・・怖いね。
2度のクライマックス・・・B級ホラー映画よりもゾクゾクさせてくれる文筆力はさすが・・・

こういう本を読むと、騒音おばさんやカレー母さんみたいなのが現実にいることも、さほど不思議ではない気がしてきますね。

この人の本は教養的な含蓄にも富んでいるよね・・・
生命保険の内情は当然としても、心理学の造詣の深さには驚き・・・勉強になりました。


No.22 5点 空飛ぶ馬
北村薫
(2005/05/31 01:37登録)
 安楽椅子探偵型の短編集。 本邦では珍しいのでは・・
ただ殆どの話で推理過程が、あまりにもムリヤリズムの色が濃い。
また、何かと付きまとう文芸のウンチクも、好きではない人にはウザいだけだろう。(自分は殆ど読み飛ばした)

・「織部の霊」 この本の中では一番まともな思考過程が披露されるが一番面白くない。
・「砂糖合戦」 面白いが、こういう逆説ネタはどうしてもチェスタトンがダブってしまう。
・「胡桃の中の鳥」 前4/5は、本筋とは無関係の旅行日記。終盤、突如出現する謎と謎解きはゴリ押しを極めている。
・「赤頭巾」 話がややこしいが、童話の全く違った解釈をドロっと展開させているストーリーは味わい深い。
・「空飛ぶ馬」 う〜ん、狙いはよーくわかる・・・
最後に心温まる話を・・・が、仕掛けが幼稚すぎる・・・かと言って子供向けの話とも思えない。 推理は相変わらず、強引ぐマイウェイ。

 日常がベースとなっている話ばかりだけに、人により感じ方が千差万別なのは当然。
少なくとも他人の感想に感想を述べるような本でないことだけは確かだろう。


No.21 5点 緋色の囁き
綾辻行人
(2005/04/27 20:23登録)
 迷路館に続いて(懲りずに?)△△がキーポイントの一つになっているのはイタダケない気もするが、犯行との関連性などの辻褄が合わされているところは面白い。

 ミステリとしての評価が高くないのも止むを得ないが、十分mysteryを楽しめる舞台設定、展開になっている。
 幻影と狂気、妖美と悪魔性・・・・作者の感性が惜しみなく染み込まれている作品ではないだろうか。


No.20 4点 火車
宮部みゆき
(2005/03/30 23:44登録)
 今読むと、社会色の濃い小説に対する「時の試練」の厳しさを、痛切に感じさせてくれる作品。
 ITや金融には素人の自分にも、この古臭さはちょっとね・・・
 ストーリーのインプレッションは(故?)土屋隆夫氏の「地図にない道」や「影の告発」と似ているが、こちらは本作より遥かに昔の話で、貨幣価値や交通・通信システムなどは博物館的であるがミステリーとしては今でも十分楽しめるものである。
 恐らく宮部さん自身が本作で、いわゆる名作などを狙うつもりなど毛頭なく、タイムリーなソーシャル・ワークを書きたかっただけなのだろうから、これはこれで良作と言えるのではないかな。 


No.19 7点 生存者、一名
歌野晶午
(2005/02/28 18:16登録)
・少人数のクローズド・サークル、サバイバル・サスペンスが短時間で手軽に楽しめ、コストパフォーマンスはサティスファクトリー
・新聞記事は笑える。この状況で「・・島での生存者は一名にとどまる・・」とか「○性一名を救出・・」などと報道するメディアがあるだろうか。
・タイミングが悪かったが、登場人物の一人の口調が、どうも「富豪刑事」の主人公とダブってしまった。
・結末は、全編を覆う厚い暗雲から、一筋の陽光が射し込む感じで悪くないだけに、(本作では)はっきり「白勝ち」にした方が良かったと思う。


No.18 6点 MAZE
恩田陸
(2005/01/28 17:53登録)
 不思議な話やミステリー・クイズが好きな読者には、中盤までのアブソービングはかなりのもののはず。 シンプルな設定、何らかの人間消失ルールを有するという不条理な建造物・・・確かに、下の方が言うように『CUBE』という映画が連想されるが、終盤はむしろ『GAME』(仲間由紀恵のではなく、洋画の方)が思い出される様相を呈してくる・・・
 結末は、途中までのワクワク感に見合うものとは言えないが、この話のイリュージョニックな部分は(勿論、ミステリアスな演出に十分功を奏しているが、それ以上に)作者が最後に見せた「一瞬一瞬の中の生命の輝き」を描き出すための舞台装置ではなかったのだろうか。


No.17 8点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
麻耶雄嵩
(2004/12/27 18:56登録)
 「夏と冬のソナタ」の作者のデビュー作。スケールの大きさは、やっぱスゴイ。
 圧巻は、名探偵・木更津が山籠りの末、思い至った「密室と首と胴体のナゾ」に対する解答・・・・某人気作家の超人気作品に匹敵する、ほほえましい現象・・・・ですが、さすがに、このムチャクチャは通しませんでしたね。  
 全体に醸し出される荘厳な雰囲気の中で、神妙な面持ちで、ふざけまくっている感じがいいですね。 


No.16 3点 姑獲鳥の夏
京極夏彦
(2004/11/27 18:49登録)
 文章の巧緻性、読み物としての完成度から言ったら、高い評価を受けて然るべきでしょう(十分、受けていますね)。 しかし、ミステリーとして採点した場合、厳しいアセスメントにならざるを得ないと思います。 
 その理由は、本作のトリック(?)は「理論的に誤りである」からです。(絶対に起こりえないことが一つあります) 
 ミステリーというものはリアリティーが皆無でも、その世界の中で論理の整合性が通されていればいいと思います。 例えば綾辻さんや島田荘司さん等の著名な奇想トリックの多くは「実際にはあり得ないが、紙上での理屈は成り立っている」し、西澤保彦氏や山口雅也などの、一部の特異なシチュエーションを擁する作品も、そのミステリー・ワールド内でのロジックは矛盾なく帰結していると言えるでしょう。 対して、本作は(憑き物や妖呪物の話の関わりが多いが、明らかに)現実世界の設定の中で、科学的、医学的に成立不能な現象・・・(「見える、見えない」に関しては否定しません。少し違うけれどブラウン神父の「見えない男」も秀作だと思います)・・・に基づいて主要なネタが構成されている点で、推理小説としては、名作の称号に相応しいとは言い難いのではないでしょうか。
 勿論、本作が(京極堂の認識観念論や民俗学の薀蓄なども含めて)人間ドラマとして、味わい深い物語であることに異論はなく、ミステリーとして評価すること自体、新体操を十種競技として採点するようなものかもしれません。


No.15 3点 メビウスの殺人
我孫子武丸
(2004/11/01 16:32登録)
 『0』や『8』に比べると、明らかにネタが手抜きで、造りも薄っぺらい。 ストーリーは、確かに乗りやすいが、偶然に頼る所が目立つし、おかしくもない余計なエピソードも多い。 被害者のリンクが〇〇〇〇とは少し驚いたが、犯人が××××というのは、あまりにも安易だし、数字メッセージが〇×とはね・・・。 どうせなら、もっとドタバタにした方が、おもしろくなったかもね。
 
  ただ『殺戮』のアペリティフには最適かも。   


No.14 5点 101号室の女
折原一
(2004/10/26 16:57登録)
 折原さんの3番目の短編集ですね。
・『101号室の女』 ヒッチコックの「サイコ」を、どう捻ってくるかと思えば・・・これは予想範囲内かな・・登場時点で〇〇が、いかにも××。
・『眠れ、わが子よ』 二人の男(特に後からの方)の行動の理由が全く不可解。 二人とも「おかしい」から、か。
・『わが子が泣いている』 タイトルがそのまま感想に。
・『殺人計画』 こんなラストにするのなら、この一編くらい、ハッピーエンドにしてあげてもよかったのでは。
・『追跡』 これも大筋は見えてしまう。ただ客観描写部を△△だと言うのなら、いわゆるアンフェアでは・・・この程度の小作品でうるさく言うなと言えば、それまで。
・『わが生涯最大の事件』 この短編集では一番「らしさ」が出ている、と思います。    この作者の著名な作品の多くが、結末がコネクリ過ぎで一般読者には受け入れ難いとも言われるが、本作くらいなら程がよく、良くも悪くもクリアな読後感が得られるのだが・・・


No.13 6点 倒錯の死角−201号室の女−
折原一
(2004/10/19 11:50登録)
 『本編』だけでまとめておけば、なかなかの叙述ミステリーになったのだが、当然それでは収まらず、最後に捏ねくり回してくるので、その結果ー以後の作品群の先駆けになるが如くーすっきりしない終わり方になっている。『本編』が読ませてくれるだけに「袋とじ」にはかなり期待させられたものだが・・・


No.12 5点 日曜の夜は出たくない
倉知淳
(2004/10/15 18:37登録)
 日曜の夕方のペーソスを味わいながら・・という感じではないけど・・
・『空中散歩者の最期』  このカラクリでは、この検死報告の衝撃度は生じ得ない!・・・と思うが・・?  物理が得意な方の御意見をお伺いしたいところ。(高校物理の初級レベルで十分なはず)
・『海に棲む河童』  チェスタトンの1,2作を思わせる構成とダンセイニ(他多数)のネタなどを軽く書き流している。 加工が程よいからOK.
・表題作  これもF.ブラウン等、洋邦問わず類作多いサスピシャス・ラヴァー物だが、これほど喉元をむずがゆくさせてくれるのは、この作者ならでは。
 番外の2編は、やはり不必要な気がするけど、この人の性格を知るのにはいいかも。


No.11 7点 慟哭
貫井徳郎
(2004/10/08 17:50登録)
よく言われるように、このトリックは少し慣れてる人には途中からバレバレだと思いますが、読み返してみると、作者も、最後に一発あっと驚かせてやろうとは、それほど考えていなかったようですね。  
後半はかなり露骨なサジェストも多く、それが逆にダブル・ビジョンのサスペンスを盛り上げていくのに成功していると思う。  
個人的には最後の三行はかなり怖いと思いました。(途方もない想像をかきたてられてしまう気がする)


No.10 4点 倒錯のロンド
折原一
(2004/10/04 11:56登録)
 だらだらした情景描写もなく平易な文体で読みやすい。話の展開もサスペンスとして申し分ない〜八合目くらいまでは。  しかし終盤は・・ 作者自ら「衝撃的などんでん返し」と述べているので、かなり期待して読んだものだが、結局は作中作と楽屋捻りを、これでもかと掛けまくってくる・・ 本当のラストに至る頃には、この人自身、落選のショックで少し・・・と思えてくる。 解説に「早すぎた逸品」との評もあるが今でもまだ「早すぎる」のだろうか。


No.9 3点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2004/10/01 16:27登録)
この手の叙述トリックとしては草分けに近いとは思うが、今読み返すと、読者のハンディ:『盲目』を最大限に利用された印象しか残らない。 確かに叙述トリックとはそういうものだが、これ以後(あるいは以前)の優れた叙述物の中には、痛快な読後感を残すものも少なくない。 本作の読後は、目隠しされたまま弄ばれたあげく体落としを喰らわされた気分。「本を読む」ことの寂しさすら感じられる。犯人の供述章(作者のフェア宣言章)も、その内容と相俟って虚莫感を際立たせてくれる。


No.8 6点 正月十一日、鏡殺し
歌野晶午
(2004/09/28 09:57登録)
相変わらず独特の重鬱感とコンパクトな文体で読ませてくれる。
・『盗聴』 この作者にしては極めて珍しい、健全な読後感を残す作。
・『猫部屋の亡者』 加害者が「あるもの」に気づかず妄想に捕らわれ破滅していく話だが、普通気づかないはずがない。
・『プラットホームのカオス』 題名通り、込み入った構成になっているが、謎解きよりも(いじめや教育問題にかすりながら)浅はかな人知と運命の悪戯により、幼気な命が無駄に失われる痛ましさとやりきれなさがフィーチャーされている。
・表題作 運命が人間を嘲嗤う様をさらに陰惨な形で具現化、あるいは、人は悲劇を回避し得るかという問いに対する、作者自身のアレゴリカルな考察提示なのかもしれない。
 
 こういう短編集は深く考えずに読み流すべきものなのだろうね。 


No.7 8点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2004/09/25 17:18登録)
普通、驚くでしょう。最後の1(〜2)ページは、まず何が起こったのか分からず、次の瞬間、段違い平行棒を2段落とされる感覚のあと、しばし呆然となった。ストーリーは3者の視点から三交代で順次進み、終盤、急速に3色ソフトクリームのように絡み合いながら、悪魔の絶頂へ昇りつめて行く。途中、時系列の交錯も多いが、文章そのものは(内容に耐えられれば)読みやすい。


No.6 5点 ハサミ男
殊能将之
(2004/09/21 17:55登録)
多少とも叙述トリックの経験がある読者ならスタートから「これは『場外』だな」とピンとくるはず。ただ読み進むうちに「思い違いかな」と惑わされる構成は評価すべきでしょう。最後は「やっぱり『場外』でした」だけどね。真犯人に至っては、「黄色い部屋」以来(ポー以来と言うべきか)使い古されてきたカビ生えもの。ラストシーンもB級ホラーの骨董品並み。それに(脇道だが)「デブだけど世の男性が鼻の下を伸ばすような美人」というのもミステリーでのキャラクターとしてはちょっと無理では。しかし文章は(上手くないかもしれないが)読みやすいし、前評判を全く知らずに本書に出会えれば(そんなことは殆ど不可能だが)、かなり印象深い作品であろう。

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