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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1626件

プロフィール| 書評

No.426 5点 死が二人をわかつまで
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/29 23:05登録)
ストーリー展開は実に巧みで読者をぐいぐい引っ張っていく。
まず婚約者が毒殺魔ではないかという情報を聞いた当事者の周辺で実際にその毒殺事件が起き、次は我が身!?と疑惑の渦中に放り込まれていく。
そしてその進言をした病理学者の意外な正体をフェル博士が明かす、とここまでは実に面白い。

しかし物語はそこから失速してしまう。
特に真犯人は納得行かない。自ら首を絞めるようなことをしているのだから、全く以って論理的ではない。カーの諸作には犯人の意外性を重んじて、人間の関係性や行動心理をうっちゃることがよくあるが、本作もまたその1つ。
そして延々と説明がなされる密室殺人のトリックは図解が必要。
長らく絶版となっていた作品のようやくの復刊はなんとも味気ないものになってしまった。


No.425 7点 エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/28 14:31登録)
英国の犯罪史上のミステリといえば、やはり切り裂きジャックが一番に思い浮かび、本作で取り上げられているエドマンド・ゴドフリー卿殺害事件については日本の読者には馴染みの薄いものであろう。私自身、この本に当たるまで全く知らなかった。

まず驚かされるのは登場人物表に記載された人物の多さだ。なんと75名!しかしそれにも関わらず、登場人物の混乱は起きなかった。それぞれに個性があり、またカーの書き分けが素晴らしかったのだろう。

もっとも驚かされるのは犯罪調査委員会の委員長の横暴ぶり
非常に非人道的で、自分の意に沿わない関係者を平気で脅迫する。
つまり裁判も公平なものでは勿論なく、証人、被告人が事実を告白しても、その者がプロテスタントではなくカトリックならば、嘘をついている、証言は出まかせだといって取り上げないのだ。いやはや、ものすごい時代である。

本作は正確には未解決事件の真相を探るノンフィクション物だとして読むよりも、17世紀のチャールズ二世政権時代を語った歴史書として読む方が正しいだろう。この事件の真相は?というよりもこの事件が当時イギリスに何を起こしたのか?
カーの、未解決事件の推理力は元より歴史物作家としての技量の高さを知る上でも貴重な作品だろう。


No.424 7点 深夜の密使
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/27 20:47登録)
最初は読みづらくて、難儀したが、やはりカーの歴史物は名作が多い。
一般的にはあまり知られていない作品だが、実に痛快な読み物になっている。

ただカーの作品だとイメージして読むと、期待外れになるだろう。
どちらかといえば、冒険活劇物に近いので、大掛かりなトリックや怪奇性はほとんどないので、ご用心を。


No.423 7点 眠れるスフィンクス
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/26 22:28登録)
読後にこの題名の示唆する意味が仄かに立ち上って来る心地良い余韻・・・。

事件は小粒だが、物語に二面性を持たせているところを高く買う。
こういう一見、何の変哲もなさそうな事件なのに何かがおかしいというテイストがセイヤーズを髣髴とさせており、カーの中でもちょっと珍しい部類に入る。
しかもこれが冒頭述べたようにこの謎めいた題名の意味を徐々に腑に落ちさせる所もカーらしくなく、手際が良い。


No.422 5点 黒い塔の恐怖
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/25 14:56登録)
通常の短編2編に加え、ラジオドラマ版短編2編にシャーロック・ホームズのパロディ1編、エッセイが2編に江戸川乱歩の有名なエッセイ「カー問答」が収録された、雑多な内容。

それぞれの短編の導入部は面白いものの、読後感は普通ないし佳作といったもの。
乱歩の「カー問答」がお宝といえばお宝か。

まああ、コレクターズアイテムであるのは間違いない。


No.421 3点 亡霊たちの真昼
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/24 23:55登録)
カーの晩年の作品は明らかに勢いが衰えており、もはや物語としての興趣すら湧いてこない。

2人のブレイクという名の男が出逢う物語でありながら、その設定を全く活かしきれていない。
とにかく物語に起伏がないのだ。

それでも最後の最後にちょこっとだけ救われるものがあった。
ほんのちょこっとだけだけどね。


No.420 1点 テニスコートの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/23 23:20登録)
これはひどい・・・。

雨に濡れたテニスコートの真ん中に横たわる死体。しかも周囲には発見者の足跡しかないという、傑作『白い僧院の殺人』の向こうを張るような不可能状況なのに、このトリックはひどすぎる。

しかも犯人は奇抜さを狙いすぎて全く納得の行くものではない。解けんだろ、普通!

また早々に事件は起きるのに、そこからが回りくどく、読中退屈だったのもマイナス要因。


No.419 4点 疑惑の影
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/22 23:08登録)
死が二人をわかつまで』、『火刑法廷』でも使われる、愛する女性が毒殺魔では?というカーの作品ではよく見られる内容だ。
最後に判明する犯人の趣向も同作者のある作品と同じ傾向にあり、どうも複数の作品をミックスして作ったような感が否めない。
それよりも本作で登場する弁護士バトラーが生意気でフェル博士がサブキャラクターに甘んじているのも、この作品の評価が自分の中では凡作と思える要素なのかもしれない。

しかし最後に明かされる意外な真相は、かなりぶっ飛んだ物。ちょっと飛躍しすぎだろう。
この真相を「面白い!」と受け入れられる人は、カーがとことん好きな、海のように心が寛容な方に違いない。


No.418 4点 猫と鼠の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/21 13:50登録)
被告人に容赦なく死刑を下す血も涙もない判事が、自ら殺人の容疑に立たされるという趣向はドラマチックでいいのだが、この作品はそれだけのような気がする。
この判事が窮地に立たされ、改悛するといった人間ドラマが見られるわけでもなく、最初から最後まで嫌なヤツであるから、読者の感情移入を注ぎにくい人物になっており、自然この判事が主張するような無罪をいかに証明するかという方向にどうも乗っていきにくい。

で、本作ではまたもトンデモ真相が明かされる。こういういかにもありえそうに思えない真相がこの頃には多いのかもしれない。『仮面荘の怪事件』でも同様の感慨を抱いた。

で、真犯人を知るにあたり、カーのやりたかった趣向が見えてくる。ま、これで溜飲も下がるようなものだが、もう少し何かが欲しかった。


No.417 5点 神の子の密室
小森健太朗
(2008/12/21 00:21登録)
本書は前書きにも書かれているように小森氏が調査に携わっている1945年にエジプトのナグ・ハマディで見つかった古文書群のうち、イエス・キリストについて書かれた雑記を基に物語形式にされたものだ。小森氏によれば、他の記録に関しては公表されているのに、このイエスに関する記録については50年経った今(1997年当時)も公開される模様がないので彼はミステリという体裁を取って公表しようとしたのが本書に当るとのことだ。

その中で本書はあの有名なキリストの復活について謎解きを行っている。

しかしこの解明された謎の真相が、なんとも陳腐だといわざるを得ない。まさしくこの謎はそっとすべき謎だと云いたい。
意気込みは買うが、突かなくていい藪を突いてしまった、そんな読後感が残る作品だ。


No.416 6点 ネヌウェンラーの密室
小森健太朗
(2008/12/17 22:42登録)
古代エジプトの遺跡の中で起こる連続殺人事件。
そう聞くと誰もが殺人事件の謎解きを連想するだろう。私もそうだったが、さにあらず、これは“ミステリ”というよりも“ミステリー”の方が正解と云える作品。
つまり本作で主眼となっているのは遺跡に仕掛けられた殺人装置の謎解きなのだ。

こういう趣向であれば、本作の題名は明らかに不適切であろう。
“密室”を冠していながら、実は王墓に残されたパピルスの暗号解読が主眼であるから、ここは『ネヌウェンラー王の墓の謎』という風にすべきではないだろうか?

本作の主眼となっているパピルスの解読、古代エジプトの薀蓄などは知的好奇心を満たすものであるだけに、この違和感がなんとも勿体無い。


No.415 6点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/16 22:30登録)
カーの傑作として名高い本書だが、オイラとしては微妙な読後感だった。
まず真相があまりに突飛過ぎて、その離れ技の凄さに信じられない思いが今もしている。再読の要ありだ。
とはいえ、やはり2つの殺人、特に第2の殺人はかなり危ういバランスで成り立っているといわざるを得ない。
なんとも凄い偶然ではないだろうか?
実にきわどい。

そして本作でもカーは作品の外側ですら読者にミスディレクションを行っている。
ネタバレになるので伏せるが、これが実に有効に働いているのだ。

しかし密室講義には笑った。特にフェル博士の爆弾発言が。


No.414 5点 夜歩く
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/15 22:55登録)
カーのデビュー作ですが、もうこの頃からカーだ。
怪奇・オカルト趣味に溢れている。
野心溢れる作品だが、やはり若書きの荒さが目立つし、なにしろ文章が読みにくい(訳者の筆にも寄るのだろうけど)。
そしてあの最後のサプライズをどう受取るかで評価も分かれるだろう。
私はカーをある程度読んだ後に本作を読んだので、まあカーらしいんじゃない?と思ったが。


No.413 9点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/14 17:19登録)
カーの作品で何から最初に読もうかと人に面白い本を訊いてみると、恐らくいくつか挙げられる作品の中にこの作品が挙げられると思う。
その時点で読んでも、確かに面白いが、本作はやはりいくつかカーを読んだ後で読む方が断然面白い。
この作品は怪奇・オカルト趣向の本格ミステリを書くカーがこういう作品を書いたという事に最大の驚きがあるからだ。
しかし本作はカーらしからぬ、実に細やかな構成が成されており、後で読んでみても、本格ミステリともホラー両方とも読めるのだ。
で、逆にカーはそれがために多少強引な解釈も入れており、しかも全てを合理的に解決するわけでなく、あえて曖昧に残している記述も見られる。
逆にこれが最後のサプライズに説得力を持たせてくれるわけだ。

ポーを開祖とする本格ミステリ、つまり今まで怪奇現象だと思われていた不可解な出来事が、最後に実に論理的に解明される小説を敢えて本格ミステリの意匠をまとって、再び怪奇の世界に戻すカーのこの傑作はポーに対する敬意を表した返歌であるのかもしれない。


No.412 6点 顔に降りかかる雨
桐野夏生
(2008/12/14 00:26登録)
ミステリを読み慣れた人ならば、この真犯人は容易にわかったのではないか?
私は結構早い段階で解ってしまった。

上手さを感じたのはネクロフィリア及び性倒錯の世界をモチーフにしたアングラパフォーマンスなど、読者の心に揺さぶりを掛ける要素を取り入れた事と失踪人である耀子が行ったベルリンでの取材を物語に盛り込み、膨らみをもたせた事。

ただ1作目ではそれぞれの登場人物がステレオタイプに感じて、さほど魅力を感じなかったなぁ。
特に肝である失踪人宇佐川耀子の存在がもっと魅力的に浮かび上がるかと思ったら、結局訳のわからないコンプレックスの塊のような女性でしかなかったというだけで、陳腐な感じを受けたのが痛かった。


No.411 1点 死の館の謎
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/11 22:34登録)
大味だ、あまりにも大味だ。
作品の構築したトリックが単なる研究成果の発表会と化し、全くの自己満足となっている。

“老いてなお、最新の知識を導入し、斬新な試みに挑む”
とでも云いたかったのだろうか?
しかし、なおざりにされた登場人物の多い事!


No.410 6点 不可能犯罪捜査課
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/10 14:35登録)
収録作10編中、6編がタイトルともなっているスコットランド・ヤードの不可能犯罪捜査課マーチ大佐を主人公にした連作短編集。
このマーチ大佐は基本的に本作でのみ探偵役を務め、他の作品では『剣の八』でもお目見えするが、その作品では他に出てくる探偵達の中に埋没してしまっている。

基本的に、カー特有のガジェット溢れたストーリーテリングと後期カーに見られる歴史を扱ったミステリ短編で構成されているが、ネタ的には小粒。穿った見方をすれば、ネタの小粒さをおどろおどろしい語り口や視点を描ける事で、ごてごてしく飾り立てて、隠そうとしているようにもとれる。

「空中の足跡」は推理クイズでよく取り上げられる足跡トリックだし、「ホット・マネー」の真相には「えっ、それだけ?」と呆気に取られる。
個人的には「銀色のカーテン」、「もう一人の絞殺吏」と「目に見えぬ凶器」が印象に残った。


No.409 10点 ビロードの悪魔
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/09 23:00登録)
今まで読んだカー作品を全て振り返ってみると、この作品が1番面白かったのかもしれない。
カーの歴史ミステリで最初に触れたのが本作。当時山口雅也氏のリクエストで復刊された作品だった。

悪魔に魂を売って17世紀のロンドンにタイムスリップした歴史学教授のニコラス・フェントン氏が、同姓同名の貴族に乗り移り、史上では毒殺された妻の犯人を探るという物。

この最初の設定の突飛さを無理なく受け入れれば、もうそこには目くるめく物語世界が待っている。
一番印象に残っているのは活劇シーン。邸を襲ってくる暴徒どもを迎え撃つ剣戟シーンの迫真性はカーのストーリーテラーぶりが横溢している。

そして最後に驚嘆の真相!これは多分納得の行かない人もいるかもしれないが、よく読み返すとカーがかなり計算高くこの設定を編み出しているのが判る。

アクションに加え、当時の歴史風俗、そして男たちの友情に、サプライズエンディングと、エンタテインメントの醍醐味が詰まった1冊だ。


No.408 7点 ブルータスの心臓−完全犯罪殺人リレー
東野圭吾
(2008/12/08 23:31登録)
普通、倒叙物であれば、作品の主眼というのは完全犯罪を目論む側に不測の事態が起きて、果たして成功するか否かに終始する。
つまりこの作品で云えば死体移動中に事故が起きたり、共犯者がいなかったりと殺人リレーが成立か否かに焦点を当てて、スリルを描く事も出来るのだが、それを東野はそこをさらりと流す。
特に本作では運んだ死体が犯行の主謀者だったというのがミソ。
なんともまあ、物語のツイストが効いていることよ。

これにより、警察側のみならぬ共犯者側でも犯人捜しが重奏的に行われるようになるのだから。
なんでもないように書いて、実はかなり凝った構成の作品である。

ただ真犯人は相変わらず推理して判明するような物ではない。これは単純に物語に身を委ねるのがいいだろう。


No.407 4点 盲目の理髪師
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/07 17:49登録)
大西洋を航行する豪華客船上で起こる事件をフェル博士が安楽椅子探偵で解き明かす本作は、カー随一のスラップスティックコメディミステリとして知られている。
こういうドタバタ劇は作者のギャグや悪ふざけを愉しめるか否かにかかっているが、オイラはどうもダメだった。
カーがやりたかったのは一連のドタバタ劇が実はミスディレクションであり、シンプルな事件を複雑に見せるということだろうが、このドタバタ劇のアクが強すぎて、結局、何がやりたかったのだろうという読後感になってしまっている。
まあ、カーもまだ若かったんだろうね。

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