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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1636件

プロフィール| 書評

No.436 2点 絞首台の謎
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/08 22:25登録)
色々な意味で全体を捉えるのが難しい作品だった。
怪奇趣味が横溢しているものの、明かされる真相がほとんど子供だましの領域であったのが、大きな原因か。
バンコランの非情さが色濃く出た作品であるのはあるのだが、改訳した方がいいと思う、いい加減この作品は。


No.435 7点 占い師はお昼寝中
倉知淳
(2009/01/07 19:39登録)
本作は北村薫を起源とする日常の謎系ミステリで、殺人事件は一つも起きない。
出来映えだが、これは!と目を見張るものは正直云って、ない。謎の難易度も比較的軽めで、作品によっては霊鑑定に入る前に真相が解ったものもあった。

本作の特徴として面白いのは従来の本格ミステリの依頼人が持ち込んだ事件を探偵が解き明かすというフォーマットは踏襲しているものの、依頼人にはそれらの謎が怪奇現象などではなく、人間によって為された事である事を直接依頼人には説明しないところにある。
したがって霊鑑定の後、辰寅叔父と美衣子の間で成される謎解きはあくまで彼の推論であり、証拠も何もないので、実は単なる1つの解釈に過ぎない。
この辺が倉知氏の本格ミステリに対するしたたかな視座だと見た。
つまり推理で解ける事が必ずしも真理では無いと既に自覚的であるように取れた。

あと倉知氏のミステリ作家仲間から伝え聞く人と成りからどうも辰寅叔父=作者とダブってしょうがなかったなぁ。


No.434 1点 死者はよみがえる
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/06 23:14登録)
この作品を手に取る人はミステリに対してかなりの寛容さを持ち、なおかつカーの稚気が解るほどに精読しておかなければならない。
私はこの作品はカーを読むに当たり、かなり初期の段階だったので、「何じゃあ、こりゃ~!!!」と憤ったクチです。

いやあ、ほとんど反則の連続なんですよ、コレ。
「えっ?」、「ええっ!?」、「えええっ!!?」となること、請け合いです。


No.433 8点 妖魔の森の家
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/05 22:29登録)
玉石混淆の短編集だが、逆にそれが故にメリハリが出て、総体的にはカーの短編集の中でも最も好きな一冊である。

表題作は傑作。短編のみならず長編も含めて上位に来る作品。一瞬チェスタトンかと思った。

「ある密室」はほとんどアンフェアだが、まあこのずるさもカーならではか。

「赤いカツラの手がかり」は真相は解るものの、なかなかコミカルで、記憶に残る作品だ。

「第三の銃弾」はハヤカワ・ミステリ文庫で完全版が出ているので読む必要はないかな。


No.432 4点 アメリカ銃の秘密
エラリイ・クイーン
(2009/01/04 19:07登録)
まず驚いたのは登場人物表に載せられた人数の少なさ。挑戦状が入っているのにも関わらず、この少なさに戸惑いを感じた。

今回は何か掴みようのないままに物語が進行していく。なんだか作者クイーン自身が暗中模索しながら書いている、そんな印象を受けた。事実、最後の真相解明を読んでも、ところどころ歯切れが悪い。

特に真犯人の真相はありえんだろうと思う。クイーンのミステリは指紋の検証、歯型の採取など通常行う警察の捜査を行わない、ロジックに特化したミステリと認識しているので、そこらへん云々については云わないまでも、あれだけ知っている人が間近に見ていてあの真相はないだろう。

また殺人方法も頭で考えただけで採用したという、至極現実味のない方法である。どう考えても神業としか思えない。

しかし指紋や歯型を利用した科学捜査を行わないながらも、映像による犯行の検証や弾道学を応用した謎解きをやるのだから、混乱して仕方がなかった。
もう作者の都合のいい捜査技術のみを使用している、実に恣意的なミステリだな、こりゃ。

唯一見つからない拳銃の隠し場所に関しては、「おおっ、なるほど」と思ったが、それまで。
やはり国名シリーズ全てが名作ではないということか。


No.431 5点 パリから来た紳士
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/04 00:38登録)
表題作は最後の意外な真相も含め、楽しめた。
同趣向として、「黒いキャビネット」も面白く読めた。
ただ総体的には各編が地味なように感じる。
フェル博士やHM卿に加え、マーチ少佐物の短編が収められているものの、小粒な感じがしてしまう。


No.430 5点 幽霊射手
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/02 22:21登録)
このぐらいまでなら読み物として成立していると認められる雑多な作品集。
「B13号船室」は小さい頃、似たような怖い話を読んだっけなぁ。
表題作のトリックにちょこっと感心した。ちょこっとだけだけど。


No.429 3点 ヴァンパイアの塔
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/01 22:55登録)
ラジオ・ドラマの脚本を集めた異色短編集。
従って地の文が無く、登場人物同士の会話だけで成り立っているため、読み易く、テンポも良い。

が、しかしもはやそれまで。
各々のプロットは興趣をそそるものではなかった。結論するに、全く以って本書はカーマニアのコレクターズ・アイテムに過ぎない。

『赤後家の殺人』や『死が二人をわかつまで』の原形と思われる作品や別の短編で使われたトリックが散見したのもマイナス要因。


No.428 4点 仮面劇場の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/31 18:16登録)
確かに短編で同様のトリックがあり、しかもチェスタトンの某有名短編でも同様のトリックがあるので、新味はない。
そして起こる事件はそれ一つのみだから、私も冗長さを感じたのは全く同感。
本筋から関係のない脱線気味の笑劇もあり、カーのサービス性がどうも悪い方向に働いたようだ。


No.427 5点 依頼人の娘
東野圭吾
(2008/12/30 23:04登録)
内容は基本的にオーソドックスで2時間サスペンスドラマ用のストーリーとも云える。私は特に政財界のVIPのみを会員とする調査機関ということで、『家政婦は見た!』シリーズのようなテイストを感じた。

この頃の東野は『鳥人計画』以降、『殺人現場は雲の上』、『ブルータスの心臓』、そして本作とノベルスで上梓されたミステリが連続して刊行されており、逆に東野氏はキオスクミステリに徹して軽めの作品を書くことを意識していたようだ。
生活の糧を得るためとしてこういうライトミステリに手を出さざるを得ないのが当時の新進作家の状況であったのは十分理解できることだ。
したがってこの手のミステリに読書を趣味とする人間やミステリ愛好者があれこれいちゃもんを付けるというのは全く筋違いという物だろう。
が、あえてその愚を犯すならば、やはりもう少しミステリとしての熱が欲しかったなぁと思う短編集だ。


No.426 5点 死が二人をわかつまで
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/29 23:05登録)
ストーリー展開は実に巧みで読者をぐいぐい引っ張っていく。
まず婚約者が毒殺魔ではないかという情報を聞いた当事者の周辺で実際にその毒殺事件が起き、次は我が身!?と疑惑の渦中に放り込まれていく。
そしてその進言をした病理学者の意外な正体をフェル博士が明かす、とここまでは実に面白い。

しかし物語はそこから失速してしまう。
特に真犯人は納得行かない。自ら首を絞めるようなことをしているのだから、全く以って論理的ではない。カーの諸作には犯人の意外性を重んじて、人間の関係性や行動心理をうっちゃることがよくあるが、本作もまたその1つ。
そして延々と説明がなされる密室殺人のトリックは図解が必要。
長らく絶版となっていた作品のようやくの復刊はなんとも味気ないものになってしまった。


No.425 7点 エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/28 14:31登録)
英国の犯罪史上のミステリといえば、やはり切り裂きジャックが一番に思い浮かび、本作で取り上げられているエドマンド・ゴドフリー卿殺害事件については日本の読者には馴染みの薄いものであろう。私自身、この本に当たるまで全く知らなかった。

まず驚かされるのは登場人物表に記載された人物の多さだ。なんと75名!しかしそれにも関わらず、登場人物の混乱は起きなかった。それぞれに個性があり、またカーの書き分けが素晴らしかったのだろう。

もっとも驚かされるのは犯罪調査委員会の委員長の横暴ぶり
非常に非人道的で、自分の意に沿わない関係者を平気で脅迫する。
つまり裁判も公平なものでは勿論なく、証人、被告人が事実を告白しても、その者がプロテスタントではなくカトリックならば、嘘をついている、証言は出まかせだといって取り上げないのだ。いやはや、ものすごい時代である。

本作は正確には未解決事件の真相を探るノンフィクション物だとして読むよりも、17世紀のチャールズ二世政権時代を語った歴史書として読む方が正しいだろう。この事件の真相は?というよりもこの事件が当時イギリスに何を起こしたのか?
カーの、未解決事件の推理力は元より歴史物作家としての技量の高さを知る上でも貴重な作品だろう。


No.424 7点 深夜の密使
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/27 20:47登録)
最初は読みづらくて、難儀したが、やはりカーの歴史物は名作が多い。
一般的にはあまり知られていない作品だが、実に痛快な読み物になっている。

ただカーの作品だとイメージして読むと、期待外れになるだろう。
どちらかといえば、冒険活劇物に近いので、大掛かりなトリックや怪奇性はほとんどないので、ご用心を。


No.423 7点 眠れるスフィンクス
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/26 22:28登録)
読後にこの題名の示唆する意味が仄かに立ち上って来る心地良い余韻・・・。

事件は小粒だが、物語に二面性を持たせているところを高く買う。
こういう一見、何の変哲もなさそうな事件なのに何かがおかしいというテイストがセイヤーズを髣髴とさせており、カーの中でもちょっと珍しい部類に入る。
しかもこれが冒頭述べたようにこの謎めいた題名の意味を徐々に腑に落ちさせる所もカーらしくなく、手際が良い。


No.422 5点 黒い塔の恐怖
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/25 14:56登録)
通常の短編2編に加え、ラジオドラマ版短編2編にシャーロック・ホームズのパロディ1編、エッセイが2編に江戸川乱歩の有名なエッセイ「カー問答」が収録された、雑多な内容。

それぞれの短編の導入部は面白いものの、読後感は普通ないし佳作といったもの。
乱歩の「カー問答」がお宝といえばお宝か。

まああ、コレクターズアイテムであるのは間違いない。


No.421 3点 亡霊たちの真昼
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/24 23:55登録)
カーの晩年の作品は明らかに勢いが衰えており、もはや物語としての興趣すら湧いてこない。

2人のブレイクという名の男が出逢う物語でありながら、その設定を全く活かしきれていない。
とにかく物語に起伏がないのだ。

それでも最後の最後にちょこっとだけ救われるものがあった。
ほんのちょこっとだけだけどね。


No.420 1点 テニスコートの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/23 23:20登録)
これはひどい・・・。

雨に濡れたテニスコートの真ん中に横たわる死体。しかも周囲には発見者の足跡しかないという、傑作『白い僧院の殺人』の向こうを張るような不可能状況なのに、このトリックはひどすぎる。

しかも犯人は奇抜さを狙いすぎて全く納得の行くものではない。解けんだろ、普通!

また早々に事件は起きるのに、そこからが回りくどく、読中退屈だったのもマイナス要因。


No.419 4点 疑惑の影
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/22 23:08登録)
死が二人をわかつまで』、『火刑法廷』でも使われる、愛する女性が毒殺魔では?というカーの作品ではよく見られる内容だ。
最後に判明する犯人の趣向も同作者のある作品と同じ傾向にあり、どうも複数の作品をミックスして作ったような感が否めない。
それよりも本作で登場する弁護士バトラーが生意気でフェル博士がサブキャラクターに甘んじているのも、この作品の評価が自分の中では凡作と思える要素なのかもしれない。

しかし最後に明かされる意外な真相は、かなりぶっ飛んだ物。ちょっと飛躍しすぎだろう。
この真相を「面白い!」と受け入れられる人は、カーがとことん好きな、海のように心が寛容な方に違いない。


No.418 4点 猫と鼠の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/21 13:50登録)
被告人に容赦なく死刑を下す血も涙もない判事が、自ら殺人の容疑に立たされるという趣向はドラマチックでいいのだが、この作品はそれだけのような気がする。
この判事が窮地に立たされ、改悛するといった人間ドラマが見られるわけでもなく、最初から最後まで嫌なヤツであるから、読者の感情移入を注ぎにくい人物になっており、自然この判事が主張するような無罪をいかに証明するかという方向にどうも乗っていきにくい。

で、本作ではまたもトンデモ真相が明かされる。こういういかにもありえそうに思えない真相がこの頃には多いのかもしれない。『仮面荘の怪事件』でも同様の感慨を抱いた。

で、真犯人を知るにあたり、カーのやりたかった趣向が見えてくる。ま、これで溜飲も下がるようなものだが、もう少し何かが欲しかった。


No.417 5点 神の子の密室
小森健太朗
(2008/12/21 00:21登録)
本書は前書きにも書かれているように小森氏が調査に携わっている1945年にエジプトのナグ・ハマディで見つかった古文書群のうち、イエス・キリストについて書かれた雑記を基に物語形式にされたものだ。小森氏によれば、他の記録に関しては公表されているのに、このイエスに関する記録については50年経った今(1997年当時)も公開される模様がないので彼はミステリという体裁を取って公表しようとしたのが本書に当るとのことだ。

その中で本書はあの有名なキリストの復活について謎解きを行っている。

しかしこの解明された謎の真相が、なんとも陳腐だといわざるを得ない。まさしくこの謎はそっとすべき謎だと云いたい。
意気込みは買うが、突かなくていい藪を突いてしまった、そんな読後感が残る作品だ。

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