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ミステリの祭典

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死が二人をわかつまで
ギデオン・フェル博士シリーズ/旧題『毒殺魔』

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1960年01月
平均点5.73点
書評数11人

No.11 6点 ROM大臣
(2022/03/24 15:25登録)
一応密室の謎はあるものの、怪奇趣味や複雑極まりない謎といったものはない。だが、それにも増して目を引くのは、全編を支配する強烈なサスペンスである。迫りくる事件を予感させる嵐の鮮烈な描写から始まり、自分の婚約者が毒殺魔かもしれないという、名作「火刑法廷」におけるサスペンスに比肩する。
それにしても、カーはストーリーテリングのうまい作家である。レスリーに対する疑惑の積み重ね、二人の女性の間で揺れ動くディックの心の葛藤など、物語の導入部から興味をひきつけて離さない。

No.10 7点 レッドキング
(2022/01/29 07:51登録)
「完全なる密室」毒殺事件の、あまりにも基本的なトリックAを成り立たせるためのトリックB、
「『Aを容疑者にするためのトリック』を仕掛けるB」を偽装する真犯人X・・・この手の「複雑系」好きよ。
褐色の髪と瞳の女Aと、金髪青眼の女B、二人の美女のうちどちらかが虚偽を述べている・・犯人は?
Till Death Do Us Part(死が二人を別つまで)・・結婚宣誓の表題が、最後の一行に適合して、まるで落し噺みたい。

No.9 6点 弾十六
(2022/01/02 22:10登録)
1944年8月出版。フェル博士#15。私は昔、国書刊行会で買ったのですが、書庫のどっかに埋もれてて、あらためてグーテンベルグ電子版を入手して読みました。翻訳は仁賀先生なので国書刊行会やハヤカワ文庫と同じもののはず。
ダグラスグリーンの伝記によるとJDC作品として良く売れた(1944年末で12829部)とのこと。同時期の『皇帝の嗅ぎタバコ入れ』は六千部ほどだったらしい…
さて、プロットは素晴らしいのですが、小説が追いついていかないJDCのガッカリパターン。だって主人公とヒロインの感情的な行き違いが見事なほどに描かれないんですよ!さすがアンチノヴェリスト!と言いたいですね。本当はハラハラドキドキのサスペンス小説になるはずなのに!とあらゆる小説読みが思うネタだと思います。サブヒロインの絡み方も無茶苦茶。JDCの感情ってマトモなんでしょうか?と心配されてもおかしくない作品の作り方だと思いました。
ミステリとしては、中期の傑作らしい捻りを加えた作り。ちょっと説明が難しいネタなので効果が下がってますが、JDC/CDの今までの密室ものを知ってるとさらに感慨深い、良いトリックだと思います。いつものように後半が行き当たりばったり、まあこれはJDCの手癖なので諦めて、ああ、またやってるね、と楽しむのが正しい。
ダグラスグリーンとかは当時のJDCの不倫をダブルヒロインに読み込んでいるようですが、こーゆーシチュエーションって、この作家に珍しくないのはファンならよく知ってるはず。『夜歩く』にだってダブルヒロインだ。本作のヒロインたちとの関係に特別な切実さも感じないしね。
以下、トリビア。
時代設定は「ヒトラーの戦争がはじまる一年ほど前」と冒頭にあり、「六月十日木曜(p436)」は1937年が該当。なお本作はCBSラジオドラマ "Will You Walk into My Parlor" (1943-2-23放送)をBBCラジオ用に書き直した "Vampire Tower" (1944-5-11放送)を長篇に発展させたもの。
p56/3169 ココナッツ落としから金魚すくいまで(From the coconut-shy to the so-called 'pond' where you fished for bottles)♣️バザーの出し物。“pond”がどんな仕組みなのか気になる。
p108 六発で半クラウン(Six shots for half a crown)♣️=2.5シリング。ライフル射的の値段。チャリティなので高め。英国消費者物価指数基準1937/2022(72.58倍)で£1=11325円。半クラウンは1416円。
p108 ウィンチェスター61、撃鉄を尾筒におさめた型(Winchester 61 hammerless)♣️「撃鉄内蔵式」が良いかなあ。Winchester Model 61, Hammerless Slide-Action Repeater(1932-1963) 銃身24インチで全長104cm、重さ2.5kg。撃鉄が撃っても動かないので狙撃視線を邪魔せず、22口径ライフルなので反動が非常に軽くて撃ちやすいと思います。
p379 コイン投入式電気メーター(shilling-in-the slot electric meter)♣️shilling slot meter vintageで検索すると良い感じのが見られます。英国ではガスや電気がこういう仕掛けで供給されるのがよくあったようです。コインを入れ丸いのを回転させるとコインが落ちる仕組み。コインが溜まったのに集金人が来なくて次のコインが落ちず、寒さに凍えた、という話を読んだことがあります。また戦時中は金属不足で、こういう生活必需品のコインを集めるのが大変だった、という話もありました。
p497 落とし錠(bolted)♣️こういう錠前関係の訳語が最近気になっています。密室ものだとかなり重要な要素なのでは?
p526 二つの掛け金(two-bolt)♣️同上。上もここもボルトで良いと思う。
p767 審問(inquest)♣️完全公開の制度(つい最近、テロ関係でようやく例外が設けられたらしい)なので、場合によってはマスコミも大々的に報道する。
p790 ウッドハウスの小説に出てくるようなよぼ老人(dodderingly futile)♣️ウッドハウス用語なんだろうか?私が参照したのはPenguin 1953だが米版では dodderingly Wodehouse となってるのかも。(そういうふうに書いてるブログがあった)
p960 ふつうのサッシ窓で、内側には金属の掛け金(ordinary sash-windows, fastening with metal catches on the inside)♣️これも錠前用語が気になる。「差し錠」あたりでどうか。
p960 ドアには鍵はかかっておらず、部分的な掛け金だけ(door… unlocked and only partly on the latch)♣️同上。試訳: ドアは…ロックされておらず、ラッチが中途半端に掛かっていた。
p979 鍵がかかっており、小さいが頑丈な掛け金はしっかりと内部に固定されていた(The key was turned in the lock, and a small tight-fitting bolt was solidly pushed fast on the inside)♣️同上。こうしてみると「掛け金」が多用されすぎ。ここはボルトとしたい。
p1293 アントニー・イーデン帽(Anthony Eden hat)♣️公務員と外交官の間で流行、とのこと。
p1364 アメリカ製品で網戸… イギリスにはない(an American thing called "screens". We don't have 'em in England)♣️ちょっと意外な情報。
p1379 [銀行の]支店の警備厳重な部屋の金庫に大事なものを入れて(keeping valuables for them in a sealed box in our strong-room)♣️貸金庫が無い代わりに金庫室に貴重品を入れる仕組み。
p1404 絵入り新聞(illustrated papers)♣️もう絵の時代では無い。「新聞の写真で」
p1580 切手自動販売機(stamp-machine)♣️GPO Stamp Vending Machines - Colne Valley Postal History Museumという凄いWebページあり。英国では1907年から導入されたようだ。
p1741 フィービ・ホッグ… ミセス・パーシー(Mrs Pearcey… Phoebe Hogg)♣️Wiki “Mary Pearcey”参照。1890年の殺人事件。
p1774 緑色フェルト張りのドア(the green-baize door)♣️開け閉めの音がしないように工夫した使用人が出入りするためドア。ブログJane Austin Worldの記事The Green Baize Door: Dividing Line Between Servant and Master参照。
p1792 派手ばでしい(gaudy)
p1871 フロリダ・ブルドッグ製金庫(Florida Bulldog safe)♣️架空ブランドのようだ。
p2014 なんてこった!わうわうわう!(Archons of Athens! Wow, wow, wow!)♣️ファンならお馴染みのセリフ回しなので忠実に訳して欲しいなあ。
p2102 掛け金付きの… ドア(door with a latch)♣️ここも「掛け金」latchはスライド式ボルトっぽい形状のものを指すようだ。ボルトとの違いは外から鍵でも開けられる、ということだろうか。
p2248 ウイリアム・ハズリット(William Hazlitt)
p2534 同じホテルの回転ドアを外と内から押しつづけ永遠に逢えなかった恋人ふたりの悪夢の物語(a nightmare story of two lovers for ever condemned to push through the revolving doors of the same hotel)♣️何のネタだろうか。

No.8 6点 ボナンザ
(2017/11/05 00:13登録)
中期の佳作の一つ。密室、意外な犯人、ラブロマンスとカーの得意分野が詰め込まれているが、どれもなかなかの水準。主人公はヘタレですが。

No.7 6点 了然和尚
(2015/08/13 16:46登録)
最初に毒殺話をしたおっさんですが、誰でも嘘話だとわかりますよね。(偽モンとは思わなかったけど)なぜなら、フェル博士が、しかも密室の事件において、犯人にしてやられて未解決なんてありえないです。(ハハハ)
 まあ、平均点ぐらいかなという感じです。皆さんご指摘の通り、後半の殺人は不要ですね。犯人の動機面について、とってつけたというか、物足りなさはありますが、最も意外な犯人という結論ゆえにしかたがないかなと思います。これらの不満点についても本格の手がかりを細かく提示しているところは、カーはさすがです。
 

No.6 6点 E-BANKER
(2013/05/03 17:57登録)
1944年発表。
ラジオドラマのシナリオとして書かれた短編「ヴァンパイアの塔」を原型として、長編に焼き直したのが本作。

~雷鳴とともに、劇作家ディックは幸せの絶頂から不幸のどん底へと叩き落とされた。婚約したての美女レスリーと訪れたバザーの会場で、婚約者の正体を教えようといった占い師が銃弾に倒れたのだ。撃ったのはレスリー。ディックは彼女が三人の男を殺した毒殺魔だと知らされる。婚約者への愛と疑惑に揺れるなか、密室での不可解な毒殺事件が新たに発生。名探偵フェル博士が真相究明に乗り出す。カー中期の代表的傑作~

本作の印象を一言で表すなら、ズバリ「龍頭蛇尾」ということになる。
とにかく冒頭から序盤での謎の提示は魅力的だ。
婚約者の女性が実は毒殺魔(何とワクワクする響きだろう!)だと知らされた当夜、実際に毒殺事件が発生するのだ、しかもお約束の「堅牢な密室」で・・・
この辺りまでは、「いかにもカー」らしいケレン味に溢れた展開で、読者の心を惹きつけずにはおかない。

ただし、そこからがいけないのだ。
フェル博士が登場するやいなや、「毒殺魔」の正体が明かされ、何だかミステリーとしての勢いが失速してしまう。
真犯人自体はまずまず意外性もあり悪くはないけれど、動機や事件の背景など、いわばミステリーとしての補強部分が実にあっさりで納得性が薄い・・・この辺がどうしても「薄っぺらい」印象を残してしまう原因になっているのだろう。

密室トリックは古き良き時代を感じさせる・・・っていう感じ。
正直、説明文のみでは今ひとつピンとこないトリックなのだが、今回の密室は“How done it”よりも“Why done it”に重点が置かれているのがミソ。毒殺魔に関する何気ない条件(エピソード?)のせいで、真犯人が密室を構成せざるを得なくなる、という設定がさすがにウマイ。銃弾の使い方もさすがに老練さを感じさせるプロット。

ということで、ちょっと惜しいなぁという水準になってしまった感がある本作。
他の代表作と比べれば一枚も二枚も落ちるという評価は止むを得ないかな。
(若竹七海氏の「文庫版あとがき」もなかなか面白くて楽しめた)

No.5 6点 nukkam
(2011/09/06 16:26登録)
(ネタバレなしです) 1944年発表のフェル博士シリーズ第15作の本書は愛情と疑惑の狭間で揺れ動く若者を物語の中心に据えた心理サスペンス小説風な作品です。密室の毒殺事件というと普通の密室に比べると大した謎でないように思えるでしょうが本書の場合は注射による毒殺のため不可能性は勝るとも劣らないのがポイント高いです。本格派推理小説としての謎解きもしっかり組み立てられており密室トリックは古いトリックの流用ながらそこにある工夫を加えることによって新鮮味を出すことに成功しています。一方で意味のない巻き添え的な事件を起こしているのは蛇足としか思えず、ここはマイナスポイントです。

No.4 5点 kanamori
(2011/01/10 18:34登録)
物語の前半部は、短編「ヴァンパイアの塔」のプロットを借用したような、主人公の婚約者である女性の毒殺魔疑惑を中心にサスペンスを盛り上げ、例によってメインは密室殺人になっています。この密室を構築するトリックそのものは陳腐ですが、ある心理的トリックを併せることで、なかなか巧妙なものになっていると思います。
しかし、本書のタイトルはどうなんでしょう。まだ旧題の「毒殺魔」のほうが内容をイメージしやすい感じがします。

No.3 4点 teddhiri
(2009/02/04 11:46登録)
 途中で読むのがしんどくなりました。自分の想像力の貧困さゆえか海外ものの古典の読みにくさゆえか密室がまったくイメージできませんでした。

No.2 5点 Tetchy
(2008/12/29 23:05登録)
ストーリー展開は実に巧みで読者をぐいぐい引っ張っていく。
まず婚約者が毒殺魔ではないかという情報を聞いた当事者の周辺で実際にその毒殺事件が起き、次は我が身!?と疑惑の渦中に放り込まれていく。
そしてその進言をした病理学者の意外な正体をフェル博士が明かす、とここまでは実に面白い。

しかし物語はそこから失速してしまう。
特に真犯人は納得行かない。自ら首を絞めるようなことをしているのだから、全く以って論理的ではない。カーの諸作には犯人の意外性を重んじて、人間の関係性や行動心理をうっちゃることがよくあるが、本作もまたその1つ。
そして延々と説明がなされる密室殺人のトリックは図解が必要。
長らく絶版となっていた作品のようやくの復刊はなんとも味気ないものになってしまった。

No.1 6点
(2008/12/21 11:14登録)
密室を構成するのにあるものを使っていたという点が、不可能犯罪の巨匠らしくないと不満を言う人もいるかもしれません。しかし、今回の密室の最大のポイントは、そんなものを使える余地がなかったと錯覚させる工夫でしょう。「毒殺魔」(創元推理文庫版のタイトル)疑念に対する解決も、きれいに決まっていますし、その疑念と密室殺人とを結びつける手際が巧妙です。
ただ、第2の事件はサスペンスを盛り上げるために無理に付け足したような印象がありました。

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