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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.74点 書評数:1618件

プロフィール| 書評

No.778 7点 このミステリーがすごい!2001年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/24 22:24登録)
この年の国内1位は泡坂氏の『奇術探偵曾我佳城全集』。既出の短編も収録された短編集にこれほどの支持が集まるとは、正直意外。
2位は横山秀夫氏の『動機』。この年が横山ブームの始まりといえよう。また14位に古泉迦十氏の『火蛾』が入っているのも興味深い。たった1作のみの発表で文庫化もされていない幻の作品になりつつある。
海外はジム・トンプソンの『ポップ1280』、シェイマス・スミスの『Mr.クイン』が1,2位を占めた。ノワール系と呼ばれる小説がこの頃台頭しだした時期。しかしノワール系とはなんぞや?と問われると、その明確な定義が未だにないのが斯界の相も変わらない風潮だが。

海外についてはミステリ作家が乱出される状況故か、約2年のスパンで新旧交代が行われているような感じだ。ずっと共にする作家を決めて、常に支持していくような風潮がこの頃にはない。
内容的にはあくまで企画で勝負しようとしている点が良かった。


No.777 7点 オッド・トーマスの救済
ディーン・クーンツ
(2010/05/23 23:09登録)
前回の事件の後、オッドは元恋人ストーミーの伯父が司祭を務めるシエラネヴァダ山脈にあるセント・バーソロミュー大修道院に住み込むようになる。本書はそこでオッドが遭遇した怪事件について書かれている。

内容的にはクーンツ得意のモンスターパニック系ホラーなのだが、それにサプライズを加味している。
とはいえ、冷静に考えるとこれはバカミスである。クーンツしか思いつかないようなトンデモ系真相なのだ。

あとひとつ要求したいのは舞台となる修道院の見取り図。どこをどう歩いているのかが非常に解りにくい。これは出版社の怠慢だろう。というか、出版社側も解らなかったのかもしれない。


No.776 4点 本格ミステリ・ベスト10 2000
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/22 21:58登録)
この年の1位は『法月綸太郎の新冒険』と、いささか迫力に欠ける。これは本格ミステリ読み達の寡作家法月氏に対するエールなのか?
2位が殊能将之の『ハサミ男』、3位がこれまた綾辻行人の『どんどん橋落ちた』とこれまた願望を込めての票が集まったような結果。ま、『このミス』と違う特色が出ていいのだが。

しかし何とまあ、本作りの下手な出版社であるか、東京創元社よ!これぢゃあ、ミス研の同人誌と大差がないぞよ!もっと本格ミステリファンの裾野を拡げたかったら、装偵に色気がなくては…。
この本を見て購買欲がそそられる一般読者がどれほどいるのか?

内容もまた然り。本格の未来に危機感があるだの、『ハサミ男』の出現によりミステリの新たな可能性が生まれただの、硬い文章でオタクチックに論じていたら、ますます読者は引くで!『このミス』の軽さを、是非はあれど、導入すべきではなかろうか?


No.775 7点 このミステリーがすごい!2000年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/21 22:48登録)
後に東野圭吾は『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞し、大ブレイクを起こし、現在最も売れるミステリ作家になっている。
個人的には私が中高生の時に女子がよく読んでいた赤川次郎現象に似ており、平成の中高生は東野作品を窓口にしてミステリの世界に入っていくことが多いのではないか?

つまらぬ余談はそれくらいにして、その東野氏が最も直木賞に近かったと思われる作品が本年度2位の『白夜行』。
未読だが、本の厚みと世評の高さからいって当事の彼の代表作となった作品である。
その『白夜行』をしりぞけて1位に輝いたのが天童氏の『永遠の仔』。
以下も福井晴敏の『亡国のイージス』、高見広春の『バトル・ロワイヤル』、奥田英朗の『最悪』、殊能将之の『ハサミ男』、本多孝好の『MISSING』と、力作、話題作の目白押し。
ミステリの定義は人それぞれだろうが、今振り返ると作品の質という意味ではこの年は大豊作だったのではないだろうか。

翻って海外はS・ハンター『極大射程』が1位で2位がJ・ディーヴァーの『ボーン・コレクター』、3位がT・H・クックの『夏草の記憶』と3強が続く。
ハンター、クックはそれぞれ2作が20位にランクインし、まさに最盛期だったといえよう。

この年から(?)2色刷りとなった本書は今までの『このミス』よりもレイアウト、構成に関して完成度はかなり向上したように思われ、東京創元社の『本格ミステリ・ベスト10』よりかはムックとして数段ミステリファンの心をくすぐる。
しかし、今年も「新し者好き」の傾向は顕著だ。
確かに良い作品は良いだろうが、もはやミステリとは呼び難い作品がランキング上位に来て貴重な枠を占有するのは何ともいえない悔しさがある。
あまりにも膨張するミステリ&エンタテインメントのジャンルに崩壊の危惧を覚えたのがこの年でもある。


No.774 7点 本格ミステリ・ベスト10 ’99
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/20 21:54登録)
やはりこの年の1位は二階堂黎人氏の超重厚長大本格ミステリ『人狼城の恐怖』。2位は京極夏彦の『塗仏の宴』(笑)。
この1,2位の2作品だけで通常の本の10冊以上の厚みがあるんぢゃないか?
他にも笠井潔氏の『天啓の器』、奥泉光氏の『グランド・ミステリー』、山田正紀氏の『神曲法廷』と分厚い本が10以内を席巻。こってり系のランキング結果に。

さて内容はと云えば、前年度版よりも“開かれた”という感じはしたが、やはり値段をつけて書店に委託販売する商業冊子であるならばまだまだレイアウトに手間暇かける必要があるのでは?ただでさえ、「探偵小説研究会」と固苦しい字面が並ぶのだから一般受けしやすいよう、もっと工夫を凝らすべき。
内容は本当に読みやすく、また理解しやすくなっていた。だが私の期待する位置はもっと高みにある。


No.773 7点 このミステリーがすごい!’99年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/19 22:00登録)
この年の国内1位は最近文庫化された髙村薫氏の『レディ・ジョーカー』。いやあ、10年以上経っての文庫化だったのね。
二階堂氏の狂気の4部作『人狼城の恐怖』が出たのもこの年。
海外1位はセオドア・ローザックの『フリッカー、あるいは映画の魔』。今のところこれ1作限りじゃないか、この作家?
クックの「記憶」シリーズとハンターのスワガーシリーズの第1作が出たのもこの年。

「笠井潔VS匿名座談会事件」で転換期を迎えた感のあるこの年。率直な感想を云わせてもらえば、お互い大人気ないなと。
読んでて気持ちのいいものでもないし、結局は己のドグマのプロパガンダ的行為にしかとれなかった。
また年々募る「新し者好き」の傾向がランキングにさらに拍車がかかってきたように思う。
この頃から『このミス』に違和感が出始めた。


No.772 8点 本格ミステリ・ベスト10 ’98
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/18 21:59登録)
広義のミステリのランキングである『このミス』に叛旗を翻す形で始まった本格ミステリ限定の年間ベスト選出ムック。
記念すべき第1回の1位は麻耶雄嵩氏の『鴉』。
2位が加納朋子氏の『ガラスの麒麟』、3位に谺健二氏の『未明の悪夢』が続き、それ以降も山口雅也氏、折原一氏、有栖川有栖氏、森博嗣氏と当時の本格を代表する作家がベスト10に並ぶ。

しかし内容はといえば実にマニアック。案外読み応えはあるが、いかんせん『このミス』と比べると遊び心が足りない。
本当に本格マニアの手による本格マニアの為のガイドブックの域を脱してない。
同人誌的な作りが手作りの味を醸し出しているのはさほどマイナスではないが中身はページを見開いた時に、エッセイというよりも論文を読まされているような無機質なレイアウトは大いにマイナスだろう。
まあ、これも今回第1回目ということで許せんことも無いが…。


No.771 6点 十日間の不思議
エラリイ・クイーン
(2010/05/17 21:36登録)
本書の主要人物はエラリイと彼の友人ハワード、そしてその父親ディードリッチにその妻サリー、ディードリッチの弟ウルファートのたった4人である。そんなごくごく少ない人間関係の間で起きる殺人事件だから、必然的にドラマ性が濃くなる。

本書におけるエラリイの役回りは謎の脅迫者を突き止める探偵役、ではなく、このハワードとサリーの2人に翻弄される哀れな使い走りであることが異色。前にも述べたがこういう役回りを配される辺り、国名シリーズ以降のクイーンシリーズはパズラーから脱却してストーリーを重視し、ドラマ性を持たせることに重きを置いているように感じる。特に驚くのは事件の真相が解明するのは一旦落着した1年後であることだ。これほどまでに事件を引っ張ったことは今までなかったし、これがエラリイのに初めて犯人に屈服する心情を吐露させる。

正直なところ、結末が好きではない。
人の命を奪うことは決して許されないこととするならばなぜエラリイは人の命を間接的に奪うようなことをしたのか?これが非常に矛盾を感じたのだった。この結末にはやはりエラリイの、もしくは作者の傲岸不遜さがまだ残っているように思える。非常に残念でならない。


No.770 9点 このミステリーがすごい!’98年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/16 21:31登録)
この年は桐野夏生氏の『OUT』が初ランクインにして1位という彼女にとってターニングポイントとなった年でもある。
また京極夏彦氏が妖怪シリーズに加え、怪談シリーズの第1作『嗤う伊衛門』で2作を10位圏内に入れるという健筆ぶり。
異色なのは『硝子の家』という古典作家のアンソロジーがランクインしたこと。
海外ではフロストシリーズの『フロスト日和』が1位を獲得したが、それよりも『赤い右手』、『カリブ諸島の手がかり』などをランキングに放り込んだ国書刊行会の活躍が印象的。

コラムも継続しているがクオリティが下がり、つまらなくなってきた。
またベテラン作家の評価が低くなり、新人礼讃の傾向が強くなったのもこの頃が起源か。


No.769 10点 このミステリーがすごい!’97年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/15 18:09登録)
馳星周がデビュー作にして1位を獲得するという快挙を成し遂げた年。ずいぶん後になって読んでみたが、それほどか?と思ったが。
国内ではその他東野圭吾と宮部みゆきが復活ののろしを挙げているような勢いがあり、西澤保彦がやっとランクインした。

海外はラヴゼイ、エルロイ、フランシス、クラムリー、ジェイムズ、ル・カレ、キングといったベテラン作家とコナリー、ランズデール新興勢力の鎬の削り合いが見られる非常に贅沢な一年だった。

やっぱりこの頃のミステリ・シーンは面白い。

この年から作家の隠し玉コーナーが始まったのと、巻末に過去のこのミスのランキングがまた載っており、かなりのお得感があった。


No.768 10点 このミステリーがすごい!’96年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/14 22:10登録)
この年の表紙絵はようやく出てきたか!の感のある、いまや本棚探偵の方が知名度が高くなった喜国雅彦氏の手になるもの。

そしてランキングは上位3位に『ホワイトアウト』、『鋼鉄の騎士』、『蝦夷地別件』と冒険小説が石鹸。前年の『ミステリーズ』1位に叛旗を翻すかのようなランキング。
しかしこの後にも『魍魎の匣』、『ソリトンの悪魔』、『狂骨の夢』と1000ページクラスの凶器本が続く。長厚壮大さにますます拍車が掛かっている。

海外はかねてより評判の高かったミネット・ウォルターズの『女彫刻家』が1位。この後マキャモンの『少年時代』、ローレンス・ブロックの『死者との誓い』が続く。この頃はマキャモン、ブロック全盛だったなぁ。2人とも20位圏内に2作入っているし。
変わりどころでノンフィクションの『ホット・ゾーン』が入っているのが面白い。

まだまだミステリマニア臭が漂うコラムが豊富だったこの頃。やっぱ面白いね~。


No.767 10点 このミステリーがすごい!’95年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/13 21:49登録)
京極夏彦初登場の年。そして山口雅也が『ミステリーズ』で1位を獲得。さらにもう1作『日本殺人事件』も15位でランクインと山口雅也全盛の年でもあった。

一方海外では平成の一発屋(!)スコット・スミスの『シンプル・プラン』が1位、そしてこの年からマイケル・コナリーとドン・ウィンズロウがランクインと今なお活躍する作家が登場した年でもあった。

いやあ、やっぱりこの頃の『このミス』は面白かったなぁ。


No.766 10点 このミステリーがすごい!’94年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/12 21:58登録)
この年の『このミス』には巻末に過去5年間のランキングがついており、これが後々私の読書に多大なる影響を与えることになった。
このリストこそが私の今の読書の遍歴といっても過言ではない(とはいっても読んでないのたくさんあるけどね)。

この年は以前から評判の高かった髙村薫氏が『マークスの山』で1位を獲った年で、大沢在昌が20位圏内に3作も放り込んで大暴れした年。この年、新宿鮫シリーズが2作も出ている。そんな頃もあったんだね~。

海外では今では絶版のミッチェル・スミスの『ストーン・シティ』が第1位。
トゥローが0.5点差で2位と接戦した年だった。これがトゥローにとっておそらく1位を獲る最後のチャンスだったんではないだろうか。

やっぱり回顧録になってしまうなぁ。


No.765 7点 天使の耳
東野圭吾
(2010/05/11 21:53登録)
交通事故という、通常のミステリで起こる殺人事件よりも読者にとって非常に身近な事件にクローズアップしており、それが非常に新鮮だった。従って諸作品で起こる事故が読者にとっても起こりうる可能性が高く感じ、私を含め特に車を運転する人々には他人事とは思えないほどのリアルさがある。

個人的に好きな作品は「分離帯」、「通りゃんせ」、「捨てないで」の3編。特に「捨てないで」は先が読めないだけに最後の皮肉な結末にニヤリとしてしまった。

いやあ、しかし交通事故だけに絞ってもこれほどの作品が書けるのかとひたすら感服。その読みやすさゆえに物語のフックが効きにくく、平凡さを感じてしまうが、実は完成度は非常に高い。この人はどれだけ引き出しがあるのだろうと、途方に暮れてしまう。この軽い読後感が私を含め本書の評価をさほど高くしていないのがこの作家の功罪か。


No.764 10点 このミステリーがすごい!’93年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/10 21:42登録)
この年の『このミス』が私と『このミス』との出会いである。
大学生協の書店コーナーで見つけたのが最初。
当時まだミステリ初心者だった私は、こんな便利な本があるのか!と驚喜したものだ。
本を開いてみると知らない作家ばかりで西村京太郎とか内田康夫などの名前は一切見当たらないことに驚いた。
それから『このミス』が私の読書の羅針盤になった。

・・・と回顧譚はこのくらいにして、この年の1位は船戸与一の『砂のクロニクル』にレジナルド・ヒルの『骨と沈黙』。
この年の国内2位が宮部みゆきの『火車』で、現在ではこちらのほうが知名度が高い。この頃は宮部みゆきと髙村薫が2大勢力だったなぁ。

この年の表紙絵はなんと高野文子!


No.763 2点 探偵小説の世紀(下)
アンソロジー(海外編集者)
(2010/05/09 16:40登録)
全ての短編が30年代の黄金時代物だから文体が堅苦しく、実に読みにくかった。
最後の方に若干読みやすく、興味を覚えた作品があったが、果たしてこれらが本格黄金期を代表する諸作なのか疑問が残る。特にシリーズものの短編などは読者に予備知識があるものとして語りかける構成のものもあり、戸惑った。
私にもう少し読書のスキルが必要なのか、それとももはや時代の奥底に葬られるべき凡作群なのかは判らないが、十分愉しめなかったのは事実として残った次第である。


No.762 3点 探偵小説の世紀(上)
アンソロジー(海外編集者)
(2010/05/08 23:38登録)
う~、苦しい読書だ。古めかしさが否めないアンソロジー。
ほとんど古典の勉強のような感じで読んでいる。
印象に残ったのはフィルポッツの「鉄のパイナップル」ぐらいか。
下巻に期待するか。


No.761 9点 深海のYrr
フランク・シェッツィング
(2010/05/08 01:03登録)
上中下巻の三分冊で合計1,600ページ以上!いやあ、長かった!

深海に埋蔵されているメタンハイドレードの氷塊に巣食う大きな顎を持ったゴカイの発現を皮切りに、クジラやオルカたちが人間を襲い、世界中で猛毒性のクラゲが異常発生する。そしてフランスの三ツ星レストランではロブスターがゼリー状の物質に侵食され、人間にも害を及ぼす。
さらにゴカイはメタンハイドレードを侵食し、とうとうノルウェー沖の大陸棚の崩壊を招き、大津波がヨーロッパに起き、数万人もの命を奪う。そして被害の外だったアメリカにも白くて眼のないカニが数百万匹という単位で上陸し、病原菌を撒き散らし、ニューヨークを死の街にしてしまう、と地球規模的ディザスター小説。ハリウッドが喜んで映画化しそうな題材。実際ブラッド・ピットだったかが映画化版権を所有しているらしい。

とにかく色んな情報が詰まった作品で書こうと思えばいくらでも感想が書けるが、ここはそういう場ではないので、やめておこう。

とにかくフランク・シェッツィングが作家として全身全霊を傾けた渾身の一作。長いけれど決して退屈はしない作品。
再読するには勇気がいるけどね♪


No.760 7点 贈る物語 Wonder
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/05 22:07登録)
短編集というと、小説に限った物を想像するが、本書に収められた話は実に様々。勿論小説は中心なのだが、エッセイ風作品もあり、マンガもあり、ちょっと変わった映画評論も収められている。またWonder、つまり編者瀬名氏云うところの「すこしふしぎ」な小説もヴァラエティに富んでおり、ホラー、SFは無論の事、純文学あり、ショートショートあり、変わったところでは絵から想像する物語ありと、広範に渡って収拾されている。

個人選集のアンソロジーとはつまりは選者の読書変遷を表す鏡である事は云わずもがなであるが、上に書いたように非常に多岐に渡っていることから、瀬名氏の読書の幅の広さが窺え、感服する。特に瀬名氏自身が博士号を持つ科学者であることを考えるとこのヴァリエーションの豊富さは驚異的と云ってもいいだろう。そういった意味では実に個性豊かなアンソロジーであり、この一連の『贈る物語』の企画の選者の1人を瀬名氏にした光文社の選択眼の確かさを裏付ける事にもなった。

そしてアンソロジーは作品の選定の匙加減が非常に難しい。自分の読書人生で宝物のように大切にしている話を紹介したい思いが募る分、個人の思い入れが強すぎて、万人向けではない作品を選んでしまいがちだからだ。本書は全5章に沿って評価すれば、2:3の割合で作者の好みが出てしまったようだ。第1章の「愛」と第4章の「恐怖」、第2章は9編中3編、第3章は2編のうち1編が万人向けで、第5章とその他の作品が瀬名氏の好みに特化した物と、私は評価する。ただこのアンソロジーでの収穫は平山夢明氏の作品を選んだ事。平山氏が『独白するユニバーサル横メルカトル』で世に知らされるのはこの4年後だから、正に慧眼である。


No.759 7点 新・本格推理05九つの署名
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/04 21:14登録)
今回のアンソロジーで際立っていたのは投稿者の文章力の向上。ほとんどがプロと比肩して遜色がない。いや、名前を伏せて読めばプロ作家のアンソロジーだと勘違いしてしまうだろう。これは神経質なまでに原稿の字組から指導した編者二階堂黎人氏の執念の賜物だろう。ただプロとアマとの大きな隔たりがあるのは否めない。それは過剰なまでの本格どっぷりに浸かったパズル志向である。その最たるものは「水島のりかの冒険」と「無人島の絞首台」と「何処かで気笛を聞きながら」である。

そんな中、傑作といえる作品が「コスモスの鉢」、「モーニング・グローリィを君に」、「九人病」の三作品。

このアンソロジーを読むことは決して無駄ではなかった。特に二階堂氏に編者が代わってからのこのシリーズの充実振りは目を見張るものがあった。このアンソロジーからデビューした作家が私の今後の読書体験の線上に上る事を願おう。

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