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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1604件

プロフィール| 書評

No.764 10点 このミステリーがすごい!’93年版
雑誌、年間ベスト、定期刊行物
(2010/05/10 21:42登録)
この年の『このミス』が私と『このミス』との出会いである。
大学生協の書店コーナーで見つけたのが最初。
当時まだミステリ初心者だった私は、こんな便利な本があるのか!と驚喜したものだ。
本を開いてみると知らない作家ばかりで西村京太郎とか内田康夫などの名前は一切見当たらないことに驚いた。
それから『このミス』が私の読書の羅針盤になった。

・・・と回顧譚はこのくらいにして、この年の1位は船戸与一の『砂のクロニクル』にレジナルド・ヒルの『骨と沈黙』。
この年の国内2位が宮部みゆきの『火車』で、現在ではこちらのほうが知名度が高い。この頃は宮部みゆきと髙村薫が2大勢力だったなぁ。

この年の表紙絵はなんと高野文子!


No.763 2点 探偵小説の世紀(下)
アンソロジー(海外編集者)
(2010/05/09 16:40登録)
全ての短編が30年代の黄金時代物だから文体が堅苦しく、実に読みにくかった。
最後の方に若干読みやすく、興味を覚えた作品があったが、果たしてこれらが本格黄金期を代表する諸作なのか疑問が残る。特にシリーズものの短編などは読者に予備知識があるものとして語りかける構成のものもあり、戸惑った。
私にもう少し読書のスキルが必要なのか、それとももはや時代の奥底に葬られるべき凡作群なのかは判らないが、十分愉しめなかったのは事実として残った次第である。


No.762 3点 探偵小説の世紀(上)
アンソロジー(海外編集者)
(2010/05/08 23:38登録)
う~、苦しい読書だ。古めかしさが否めないアンソロジー。
ほとんど古典の勉強のような感じで読んでいる。
印象に残ったのはフィルポッツの「鉄のパイナップル」ぐらいか。
下巻に期待するか。


No.761 9点 深海のYrr
フランク・シェッツィング
(2010/05/08 01:03登録)
上中下巻の三分冊で合計1,600ページ以上!いやあ、長かった!

深海に埋蔵されているメタンハイドレードの氷塊に巣食う大きな顎を持ったゴカイの発現を皮切りに、クジラやオルカたちが人間を襲い、世界中で猛毒性のクラゲが異常発生する。そしてフランスの三ツ星レストランではロブスターがゼリー状の物質に侵食され、人間にも害を及ぼす。
さらにゴカイはメタンハイドレードを侵食し、とうとうノルウェー沖の大陸棚の崩壊を招き、大津波がヨーロッパに起き、数万人もの命を奪う。そして被害の外だったアメリカにも白くて眼のないカニが数百万匹という単位で上陸し、病原菌を撒き散らし、ニューヨークを死の街にしてしまう、と地球規模的ディザスター小説。ハリウッドが喜んで映画化しそうな題材。実際ブラッド・ピットだったかが映画化版権を所有しているらしい。

とにかく色んな情報が詰まった作品で書こうと思えばいくらでも感想が書けるが、ここはそういう場ではないので、やめておこう。

とにかくフランク・シェッツィングが作家として全身全霊を傾けた渾身の一作。長いけれど決して退屈はしない作品。
再読するには勇気がいるけどね♪


No.760 7点 贈る物語 Wonder
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/05 22:07登録)
短編集というと、小説に限った物を想像するが、本書に収められた話は実に様々。勿論小説は中心なのだが、エッセイ風作品もあり、マンガもあり、ちょっと変わった映画評論も収められている。またWonder、つまり編者瀬名氏云うところの「すこしふしぎ」な小説もヴァラエティに富んでおり、ホラー、SFは無論の事、純文学あり、ショートショートあり、変わったところでは絵から想像する物語ありと、広範に渡って収拾されている。

個人選集のアンソロジーとはつまりは選者の読書変遷を表す鏡である事は云わずもがなであるが、上に書いたように非常に多岐に渡っていることから、瀬名氏の読書の幅の広さが窺え、感服する。特に瀬名氏自身が博士号を持つ科学者であることを考えるとこのヴァリエーションの豊富さは驚異的と云ってもいいだろう。そういった意味では実に個性豊かなアンソロジーであり、この一連の『贈る物語』の企画の選者の1人を瀬名氏にした光文社の選択眼の確かさを裏付ける事にもなった。

そしてアンソロジーは作品の選定の匙加減が非常に難しい。自分の読書人生で宝物のように大切にしている話を紹介したい思いが募る分、個人の思い入れが強すぎて、万人向けではない作品を選んでしまいがちだからだ。本書は全5章に沿って評価すれば、2:3の割合で作者の好みが出てしまったようだ。第1章の「愛」と第4章の「恐怖」、第2章は9編中3編、第3章は2編のうち1編が万人向けで、第5章とその他の作品が瀬名氏の好みに特化した物と、私は評価する。ただこのアンソロジーでの収穫は平山夢明氏の作品を選んだ事。平山氏が『独白するユニバーサル横メルカトル』で世に知らされるのはこの4年後だから、正に慧眼である。


No.759 7点 新・本格推理05九つの署名
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/04 21:14登録)
今回のアンソロジーで際立っていたのは投稿者の文章力の向上。ほとんどがプロと比肩して遜色がない。いや、名前を伏せて読めばプロ作家のアンソロジーだと勘違いしてしまうだろう。これは神経質なまでに原稿の字組から指導した編者二階堂黎人氏の執念の賜物だろう。ただプロとアマとの大きな隔たりがあるのは否めない。それは過剰なまでの本格どっぷりに浸かったパズル志向である。その最たるものは「水島のりかの冒険」と「無人島の絞首台」と「何処かで気笛を聞きながら」である。

そんな中、傑作といえる作品が「コスモスの鉢」、「モーニング・グローリィを君に」、「九人病」の三作品。

このアンソロジーを読むことは決して無駄ではなかった。特に二階堂氏に編者が代わってからのこのシリーズの充実振りは目を見張るものがあった。このアンソロジーからデビューした作家が私の今後の読書体験の線上に上る事を願おう。


No.758 4点 新・本格推理04赤い館の怪人物
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/03 22:39登録)
今回は退化した印象は否めない。全体的に小粒というか二番煎じのような印象を受けた。というのも今まで採用された作者の作品が載っているのだが、それらの作品の傾向が前作と似ており、アレンジが違うだけとどうしても思ってしまった。どの作品も諸手を挙げて絶賛できるものでもなく、何らかのしこりが残るので、カタルシスまで届かないのだ。

選者二階堂黎人がちょっと趣味に走ってきた感じが今回はした。前作で面白くなるだろうと思っていただけに残念だった。次回はどうだろう?


No.757 9点 新・本格推理03りら荘の相続人
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/02 23:08登録)
一人の作者による複数掲載、しかも3作というからすごい。その作者の名は小貫風樹。その3作に共通するのはダークなロジックともいうべきチェスタトンの逆説や泡坂のロジックを髣髴とさせる悪魔のロジックだ(実際アンケートでこの作者は尊敬する作家の中にこの2者を含めている)。

その他5作でよかったのは「Y駅発深夜バス」が文句なしだ。

その他、前回「湾岸道路のイリュージョン」の続きである「悪夢まがいのイリュージョン」、チェスタトンの「見えない人」に挑んだ「作者よ欺むかるるなかれ」、共に孤島物である「ポポロ島変死事件」、「聖ディオニシウスのパズル」も水準作であるのだが、今回は小貫風樹という1人の天才の前に霞んでしまった感が強い。ロジックに精緻さを感じるものの、心情に訴える魅力を感じなかった。

小貫氏の3作品、「とむらい鉄道」、「稷下公案」、「夢の国の悪夢」を読むだけでも本書を買う価値はある。


No.756 7点 新・本格推理02黄色い部屋の殺人者
アンソロジー(国内編集者)
(2010/05/01 22:56登録)
期待値が高い中、8編中、傑作と思ったのは2編。「窮鼠の哀しみ」と「『樽の木荘』の惨劇」の2編だった。
その他6編中、佳作だと思われるのは「湖岸道路のイリュージョン」ぐらいか。

前巻がよかった分、読み手の要求するハードルの高さは高くなった。だからこそ次はどんな作品、トリック、世界を読ませてくれるのかが非常に気になる。プロの作品の出来を求めないよう、こちらも気をつけなければならないのか。それとも商業として成り立つべき最低ラインをクリアしていなければならないと厳しい目で見るのか。難しいところだ。


No.755 8点 ハル
瀬名秀明
(2010/04/30 23:14登録)
各短編、そして幕間で挿入される掌編「WASTELAND」、これらに共通する1つの軸とも云うべき存在がある。それは鉄腕アトムである。マンガの神様手塚治虫が創作した人型ロボットこそ、日本のロボットの研究の始まりであり、究極形であり、ロボット研究者が至る道だという風に瀬名氏は述べている。

2002年時点でのロボット工学の最新技術を取材し、それから類推される人々の生活への影響、意識の変化などをしっかり足が地に着いた物語を紡ぎ、ロボットを扱った作品にありがちな人間がロボットに支配される社会を描くデストピア型の作品を書いていないところが素晴らしい。しかしそれでもロボットが発展する上で直面するだろう云い様の無い畏怖を抱くこともきちんと描いている。

2002年に発表された当時、瀬名氏はこの頃既にロボットは人間生活に入り込み、無くてはならない物と想像していたようだが、2009年の今、残念ながらこの予見はまだ先のことになりそうだ。果たしてここに語られるような未来は来るのか、まだ先は見えないが、こんな未来はまんざら悪くないなぁと思わせる、心温まる作品群だ。


No.754 7点 新・本格推理01モルグ街の住人たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/29 21:42登録)
前シリーズは鮎川氏が全て読み、その時の気分で作品を選んでいたような玉石混交のアンソロジーの様相を呈したが、今回は他の新人賞のように予め複数の審査員が下読みをし、その1次予選を突破したものを二階堂氏が読んで選考するというスタイルに変わった。また、制限枚数が50枚から100枚へと倍になった。
結論から云えば、このことはかなり大きく作品の質を向上させた。選考スタイルの変更は作品の出来のバラツキが少なくなり、かなりレベルが高くなっているし、枚数の倍増は物語がパズルゲーム一辺倒になりがちだった作品群が中心となるトリック・ロジックを肉付けする物語性を高め、推理「小説」として立派に成り立っている。

そんな様変わりを経た中で選ばれた8編の中でも特に印象に残ったのは「水曜日の子供」、「暗号名『マトリョーシュカ』」、次点で「風変わりな料理店」であった。
その他の5編も悪くない。というよりも以前のシリーズの中では1,2位を争うものばかりだろう。

このシリーズに至り、ようやく最近新勢力の本格ミステリ作家の作風、趣向、原点が見えてきた。光文社は二階堂黎人を編者にしたことで幸せな結婚をしたと思う。


No.753 5点 絢爛たる殺人
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/28 21:57登録)
編者は鮎川氏が監修となっているが実質芦辺氏が95%は掲載作品を決定しているであろうアンソロジー。兎にも角にもマニア垂涎という形容がぴったりの濃厚な内容で、逆に自分が本格ミステリマニアでないのを知った次第。

収録された作品は5作。まずペダントリー趣味溢れる「ミデアンの井戸の七人の娘」、宮原龍雄氏、須田刀太郎氏、山沢晴雄氏三者による合作「むかで横丁」、「ニッポン・海鷹」、「二つの遺書」と「風魔」。
最後の2編がそれぞれベストと準ベスト。

しかし、これら昭和初期の本格推理(探偵)小説を読んで意外だったのは、真相が名探偵によって暴露されるのではなく、犯人の独白や手記によって暴かれる事。
これは欧米の名探偵ホームズ、ポアロ、ブラウン神父などがあまりに神がかり的に事件を看破することに対する彼らなりの問い掛けなのか、それともそれら有名な名探偵たちに対する遠慮なのだろうか?その辺の言及が編者から一言も無かったのが悔やまれる。


No.752 5点 本格推理⑮さらなる挑戦者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/27 22:18登録)
『本格推理』シリーズも今回が最終巻。
15冊も巻を重ねて、その中には目を見張るもの、プロ顔負けの巧さが光るもの、素人の手遊び、独りよがりのものと玉石混交という四字熟語が相応しいシリーズだった。

で、今回はといえば、はっきり云って小説として読めたのは石持浅海氏の「利口な地雷」のみだったという印象が強い。もうこれはこの時点においてプロの筆致である。題材も対人地雷禁止条約をプロットに絡ませるなど、他とはオリジナリティが群を抜いており、読み物として非常にコクがあり別格の出来映えだ。
その他には読み物として「六人の乗客」が読み応えがあった。

シリーズ最後で有終の美を飾れなかったというのが正直な感想である。


No.751 5点 本格推理⑭密室の数学者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/25 17:32登録)
相変わらず玉石混交の短編集。こうも並べると文体のレベルの違いが如実に判り、苦痛を強いられる読書もあった。
今回秀逸作は「問う男」、「あるピアニストの憂鬱」の2作。両方とも私が求めるトリック・ロジック+αを備えており、読後感が良い。

以前はこのアンソロジーに採用されていた作品といえば、密室物、クローズド・サークル物とどれもこれも似たような内容で、しかも素人のくせにシリーズ探偵が出てくるというどこか履き違えた作品が多かったが、ここに至ると事件の趣向もヴァラエティに富み、本格の裾野の広がりを感じた。応募作品の集合体という性質上、水準以上という評価が出来るようなインパクトは得られないが、以前に比べ、格段に質は上がっていると正直思う。


No.750 7点 本格推理⑬幻影の設計者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/25 01:19登録)
ミステリのアンソロジーとしては記念すべき13巻目ということで末尾には鮎川氏の未収録ショートショートミステリが5編収められている。殺し屋の依頼料が20万円だの、制服を着ていた大学生だのといった時代錯誤の表現があるのは否めないし、ショートコントのような結末もあえて収録しない方がよかったのではと思われたが、まあ、おまけ(マニアにとって見ればお宝だろうけど)ということで。

今回は特にラストの村瀬氏による「暖かな密室」が何といっても群を抜いていた。
あと小説として読ませてくれたのは「黄昏の落とし物」と「紫陽花物語」ぐらいか。
純粋にミステリとして感心したのは「プロ達の夜会」。

玉石混交という言葉があるが、今回も総括するとその一言に落ち着いてしまうようだ。選者の選択眼の眼力に衰えを感じてしまった。残念。


No.749 5点 怪奇探偵小説集③
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/22 17:02登録)
印象に残ったのは「生きている腸」と「墓地」と「壁の中の女」ぐらいか。
「生きている腸」はなんといっても死者から取り出したばかりの腸が生きているというアイデアがすごく、これがやがて一個の生物として動き出すという奇想を大いに評価したい。最後のオチに至る仕掛けは盆百だが、このアイデアだけで価値がある。
「墓地」はショートショートぐらいの小品だが、最後まで自分の死を信じない男の独白が結構シュールで好みである。「壁の中の女」は最後のオチが良かった。

怪奇小説というよりも残酷小説集の感が最後まで残った。鮎川の怪奇小説に対する考え方は前時代的だったと証明したに過ぎない選集だったのではないか。


No.748 5点 本格推理⑫盤上の散歩者たち
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/21 22:09登録)
全13編中、もっとも優れていたのはやはり現在作家として活躍している光原百合と石持浅海氏の2名の作品だった。これら「消えた指輪(ミッシング・リング)」と「地雷原突破」は文章のみならず物語としてもしっかりとしており、本格ミステリが奇想天外なトリックのみに支えられているのではないことを見事に証明してみせた。

今回はなんと云ってもこの2人に尽きる。これを読んで改めて彼らの作品を読もうと思った。明日の本格はここにあるといっても過言ではないだろう。


No.747 8点 怪奇探偵小説集②
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/20 22:02登録)
「皮肉な結末」ものとでも云おうか、ちょっとしたスパイスを加えたものが多かった。

ポーの「黒猫」のオマージュとも云うべき「悪戯」、最後に泥沼の略奪愛劇が一大詐欺事件に変わる「決闘」、最後はありきたりだが、個展に必要な最後の写真のおぞましさが怖くていい「魔像」。これらはどれも出来はよく、好感が持てた。「決闘」は怪奇小説ではないかも?

幻想味が強く、観念的な趣向の作品は「幻のメリーゴーランド」、「壁の中の男」、「喉」、「蛞蝓妄想譜」。

エログロ趣味・フリーク趣味の作品は今作品集では乱歩の「踊る一寸法師」、「赤い首の絵」。

純然たる怪異譚は「底無沼」、「葦」、「逗子物語」。この中では短編集の末尾を飾る「逗子物語」が秀逸。

「恋人を喰べる話」、「父を失う話」、「霧の夜」、「眠り男羅次郎」の4編は奇妙な味とも云うべき作品。

こう並べてみると第1集に比べ、格段にヴァラエティに富んでいるのが判る。しかもレベルも高いものがそろっており、粒ぞろいといってもいいだろう。


No.746 6点 Twelve Y.O.
福井晴敏
(2010/04/19 21:58登録)
物語の構造はデビュー作にしては実に複雑でかなり情報量の多い作品となった。従って通常の小説の3/4くらいのスピードでしか読めなかった。

また文体は三人称叙述だが、各登場人物の斜に構えた心情が地の文にはさまれており、ほとんど一人称に近い。上に述べた情報量の多さも含め、この辺は推敲しているのだろうが、書きたいことが多すぎて削除してもこれだけになってしまったような未熟さがあり、行間を読ませる文章を綴る、引き算の出来ない作家だという風に受取った。
そして怒りの文体とでも云おうか、全編にわたって横溢する日本という国に対する感情を包み隠さずに表している。特に自衛隊が抱える存在意義の矛盾に対する怒りと自嘲がほぼ全編を覆っている。

こういう情念にも似た熱き物語を紡ぐ文体は好きなほうなのだが、乗り切れない自分がいた。
ツボは押さえてはいる。が、しかしこの感情に任せて先走ったような文体が作者の貌を色濃く想像させて読者の感情移入の障壁となっているような感じを受け、それに加えてやはり軍事用語を主にした専門用語の応酬が映像的なアクション描写とは方向を異にするベクトルを持って、ページを捲るべく所でページを捲らせなかった。


No.745 7点 怪奇探偵小説集①
アンソロジー(国内編集者)
(2010/04/18 21:37登録)
戦前・戦後の探偵作家の怪奇短編を集めたもの。とはいえ、怪奇に対する考え方が現在と当時では明らかに違う。
現在では怪奇とは「何か説明のつかないもの・こと」であり、必ずしも怪異の正体や原因が明かされるわけではなく、むしろ怪奇現象の只中に放り出された形で終わるのに対し、この作品が収められている昭和初期では怪奇とは「恐ろしいもの・こと」や「途轍もなく気味悪いもの」であり、怪奇の正体をセンセーショナルに描く。粘着質の文体で以って執拗なまでにイメージを喚起させる手法が取られている。当時流行ったフリーク・ショーといった見世物小屋の舞台裏に光を当てて怪奇の正体を眼前に見せ付ける、これが現在の怪奇と決定的に異なるところだ。これはこの短編集の名前が怪奇「探偵」小説と銘打たれているからで、「探偵」と名のつく限りはその怪奇現象の謎は解かれなければならない。ほとんどが最後に論理的に怪奇が解決されていたのが特徴的だ。

18編の中には人食、死体愛好もしくは死体玩具主義、殺人願望、異常性欲など江戸川乱歩ばりの変態嗜好を扱った作品が並ぶ。秀逸だったのは「悪魔の舌」、「地図にない街」、「謎の女」の3編か。

各編においては最後のオチが三流落語咄の域を脱していないものがあるのも事実で、「怪奇製造人」、「乳母車」、「幽霊妻」などがそれらに当たる。
また最後のオチが誰々の創作だったというのも目立った。

全作品を通じて思ったのは、これらは怪奇小説集というよりも残酷小説集の方が正鵠を射ている事。玉石混交の短編集だが、なぜか妙に惹きつけられた。

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