Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.73点 | 書評数:1631件 |
No.791 | 6点 | このミステリーがすごい!2006年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/12 21:22登録) 目新しさがなくなってきたように感じたのがこの年ぐらいからかな。前年に引き続き、ランキングを制したのはベテラン作家の東野圭吾であったのは素直に嬉しい。その他佐々木譲の復活、久々の原尞作品が当然の如くランキングされているのもまた嬉しい。北村薫、我孫子武丸のランクインも健在ぶりの証左となって嬉しかった。 しかしやはりこの20位までというランキングで淘汰された作品があるのも気になる。特に伊坂作品や恩田作品など世評が高くなるにつれて『このミス』読者が離れていっているような気がし、マニアのためのミステリ本の域を脱していない感が強い。また島田荘司の復活があまり評価されていないのも腑に落ちなかった。 翻って海外ミステリのランキングに目を向けると、この分野はどんどん拡散している気がする。特に顕著なのはミステリから乖離して行っているのではないかという事。1位のジャック・リッチーやシオドア・スタージョン、アヴラム・デイヴィットスンなどはもろSF作家のようだし、これらの作家を高く評価するよりもウェストレイクやランキンやヒル作品が例年通り訳出している事を喜び、評価すべきだと思う。個人的には2位にランクインしたコナリーに1位を取ってほしかった。 あと国内ランキングで目に付いたのはライトノベル作家の進出が以前にも増して顕著になったこと。ここらへんはライトノベルというよりも通常のミステリとして評価しているのだからまあ、そんなには気にならない。 『このミス』は今後も読むだろうし、また出版された時は嬉々としながら読むだろう事は間違いない。しかしやはり感じる違和感は拭えない。これはこの先ずっと続くんだろうな。 |
No.790 | 6点 | 本格ミステリ・ベスト10 2005 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/09 21:44登録) 『このミス』が常に変化しているのに対し、このムックは毎年同じ企画・コラムが掲載され、変わり映えがしない。尤も、変化した企画・コラムが『このミス』で大当たりしているのかといえば、そうとも云い切れないのだが、このマンネリズムには正直物足りなさを感じる。 国内本格の内容の充実振りに対して海外本格のまるで添え物のような扱いも気になる。アンケートの分母となる絶対数自体が少ないのだ。ミステリを論じる以上、国内も海外も同等に扱うべきである。 コラムもミステリを軸に漫画・ゲーム・映画・コミケとあまりにマニア中心の内容はうすら寒ささえ覚えてしまう。中身が白黒の単色での構成もこの時代では結構厳しいものがある。 これではオタク本に過ぎないではないか。座談会も、おいおいこんなことをこんな言葉で本当に話してんのかよ!?と突っ込みたくなるほど高度だし、全体的にマニアのための知的娯楽でしか表現されていないのが非常に気になった。 このままでは本格はある一部の人にしか受け入れらない限定された世界での展開しか繰り広げられない。もっと多方面の読者を引き込み、初めて本格ミステリを読む方々が手に取りやすい装丁・内容・文章にしてほしいものだ。最後の編集後記の内容もオタクコメントの羅列だし。何か情けなくなってくるなぁ。 しかし上ではこのような批判をしていても、結構のめり込んで読む自分がいるのも情けないのかもしれない。 |
No.789 | 10点 | このミステリーがすごい!2005年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/08 21:36登録) 法月綸太郎が1位だったのは意外だったのと、伊坂の3作全てランクインもびっくりした。またサラ・ウォーターズの連続1位も驚いた。自分の評価では中くらいだったトレヴェニアンの久々の新作『ワイオミングの惨劇』がなんと3位にランクインしていたのも予想外。恐らく久々の新作ということから10位以内には入るだろうと思ってはいたがまさか3位とは。 ミステリのランキングもミステリのジャンル自体が肥大し、拡散していきつつあるのを受けて、他のジャンル、特にSFやファンタジーの作品のランクインが目立った。特に海外はランキング作家の顔ぶれが古今混在しているのにも関わらず、他ジャンルの作家が散見されたのが最初残念だった。 国内は昨年の歌野氏の初登場1位を受けて今度も新本格1期生の法月氏が1位と個人的には非常にうれしい結果となった。ただこの後に読む「本格ミステリ・ベスト10」も1位は同じであり、これも前年同様であるのが気になる。 本格ミステリに特化したランキングである後者が全てのミステリを対象にした「このミス」とかなり似通っているのだ。ハードボイルド、冒険小説が衰退してきているというのが憶測ではなく、正に現実として突きつけられてしまった感が強い。 また今回特筆すべき点は、昨年のライトノベルランクインで「このミス」自体の方向性が嫌な方向になるのではないかと思ったが、「このライトノベルがすごい!」というムックを出すことで見事に区分したこと。混乱を避けた編集部の素早い対応は評価に値する。こんなことを行ってはならないのだろうが、聖域は救われたという感じだ。 特集・コラムも例年通り充実しており、特にミステリー相談所が面白かった。まだまだ拡がるミステリムックのアイデア。斬新な着眼点からミステリを解体・解読するコラム・特集も今後も期待する。ともあれ今回も非常に愉しめた。有難う。 |
No.788 | 5点 | 本格ミステリ・ベスト10 2004 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/07 21:24登録) この年は『このミス』と同じく『葉桜の季節に君を想うということ』が1位となり、記念すべき年となった。 それ以外では石持浅海の『月の扉』、大倉崇裕の『七度狐』、京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』、小野不由美の『くらのかみ』、横山秀夫の『第三の時効』、東野圭吾の『ゲームの名は誘拐』が『このミス』と重なっており、有栖川、京極、島田、西澤、芦辺、貫井、二階堂といった本格作家の名前がベスト20に見られるのがやはり特徴的。 私がこのランキングを好むのは最近の『このミス』に顕著に見られる、新人作家の過大評価とベテラン作家の使い捨て傾向というのがなく、どれも正当に評価していることが素直に嬉しいからだ。ベテランがまだ精力的に魅力ある作品を送り出している事をあまり評価せず、青田買いのように新しい作家を紹介し、そしてやがて3、4年後にはランキングに相手もしないような使い捨て傾向にある『このミス』よりも遥かに良い。 今までよりもベスト20内に入った作品の解説がマニアックでなくなり、非常に理解しやすくなってきたのは良い。また海外作品も多く取り上げるようになったのも良い(解説がベスト5までなのがまだ不満)。 国内復刊ミステリの動向のレポート、装幀大賞の企画はまだまだ続けて欲しいくらい良いが同人誌・映画・ジュヴナイルなどのレポートはあっても良いがこれほど長くなくてもいい。出来れば見開き2ページで完結して欲しい。ここら辺がマニアの域を脱しない枷になっている。 |
No.787 | 7点 | このミステリーがすごい!2004年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/06 21:01登録) 『このミス』も10年以上経て、かなり権威がついてきているせいか、当初のマイナーリーグ故の思いっきりの良さ、怖い物知らずの勢いが成りを潜め、かなりオーソドックス路線へと変貌を遂げつつあることが暗示された。というのもアンケートの回答に「マニアックなものは避けて下さい」というような主旨の但し書きがあったとの意見が散見されたからだ。 今回の『このミス』は国内編では歌野晶午が第1位という予想外の結果だったことがまず嬉しかった。ぽっと出の新人ではなく新本格第1期生のキャリア16年の作家が初登場でしかも1位だったというのが純粋に嬉しかった。また他にも昨年に引き続いて連城三紀彦がランクインと以前見られた作家の使い捨て傾向がやや改善されてきているのも嬉しい。 海外編もマキャモン、ウェストレイク、ヒル、フォレットとかつての『このミス』を席巻していた作家がランクインしていたのが嬉しい。つまりこれは以前のように奇を衒った回答ではなく純粋に面白い作品を回答してくれた事の1つの証左であると思う。だから真保裕一や島田荘司がランクインしなかったのも彼らの作品よりももっと面白かった作品があったのだと納得できる。 今後、ミステリ界はどんどん新人が出て、またジャンルの括りが難しくなるぐらい混沌としていくだろう。その大きな流れにきちんと自分を見失わず、面白いものは本当に面白いんだと正当に評価する冊子になって欲しい。 |
No.786 | 7点 | ある閉ざされた雪の山荘で 東野圭吾 |
(2010/06/05 23:12登録) 「嵐の山荘」でありながらも、実際は雪は降っていないし、殺人も遺体が残らず、事件がどのように起きたかを知らせるメモが残されているのみ。しかし舞台劇を想定しながらその実、劇団員が1人、また1人と消えていくうちに団員たちの中に不信感が生まれ、疑心暗鬼に陥る。これは芝居なのか現実なのか?この辺のフィクションと現実との境が解らなくなっていく展開が非常に上手い。 これを実際に舞台劇として演じられると非常に面白いかもしれない。劇中劇という設定で劇の中の演者がさらに演技を要求され、それが観客に虚実を混同させる効果を生み出し、どこまでが演技でどこからが素なのか解らなくなりそうだ。いや実際既にどこかの劇団で公演されたのかも。 最後はなんだか作者自身が気恥ずかしくなったかのようで、ちょっと拍子抜けしてしまった。 さて皆さん感想で『仮面山荘殺人事件』に触れているので逆にそちらを未読の方は先に『仮面山荘~』を読んだ方がネタバレにならなくていいかも。 |
No.785 | 8点 | 本格ミステリ・ベスト10 2003 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/04 22:15登録) 原書房に出版元が変わってからというもの、このムックの内容の充実振りには目を見張るものがあり、今年もその例に漏れなかった。 まず評価したいのは表紙のデザインが変わった事。デザインとしてはシンプルだが、今まで続いていた何の脈絡も無いおどろおどろしいイラストから解放された爽快感だけでまず十分である。前年までの装丁ではホント、屋外では読めなかったよね、変人扱いされそうで。 あとそれぞれのコラムに「創元語」とも表現すべき小難しい言語が一掃され、非常に読みやすくなったこと。前年もそうだったかもしれないがこの効果は非常に大きい。 しかし残念なのは相変わらず海外本格ミステリの扱いの小さいこと。もっと真剣に取り上げてよ!!今の本格読者のシーンに足らないのは古典ミステリや海外ミステリを読まないで日本の新本格のみを溺愛する傾向にあることは既にメンバー員の中でも周知の事実であり、その弊害が所謂「脱格」系の新人作家を生むことになったことを憂いているのにこの扱いはないだろう。この辺が勿体無く思うのだ。 あと映像関係のマニアックさ、同人誌の紹介などマニア向けの企画が続いているがこれは仇花だろう。 |
No.784 | 8点 | このミステリーがすごい!2003年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/03 21:44登録) 横山秀夫ブレイクの年。ランキングは本格も入り混じってなかなか面白い結果になった。伊坂幸太郎が『ラッシュライフ』で初ランクイン。この頃はまさかこんなに売れっ子になるとは思わなかったけどね。 海外は今なお1冊のみ刊行されているドロンフィールドの『飛蝗の農場』が1位。ポール・アルテ初翻訳の年でもあった。 古典もレヘインとかランズデールとかの有力作家も入り混じって結構盛況。 毎年こういう年末のミステリのランキングはどれをとっても不満が残る。 というのもやはりアンケート回答者の新し物好きの傾向が顕著だからだ。 昔からのミステリ・ファンとしては島田荘司はもっと上位に行って欲しいし、真保裕一や折原一はランキングして当然だと思うし、P.D.ジェイムズやゴダード、ヒルやレンデルももっと評価されていいはずなのだ。これらがどうにも過去に全盛を迎えて今は落ち目の作家という風に目に映るし、作家の使い捨て状態だとも思われるのだ。 今になってみればジャンルの違う作家を同列に並べて評価する行為を嫌った作家、評論家の気持ちがよく判る。しかし、内容はミステリ好きには堪らないムックであることはこの年も証明された。今後は好きな作家がどの位置に復活しているのかを確認するために毎年購読していくのだろうな。 |
No.783 | 7点 | 夜想曲(ノクターン) 依井貴裕 |
(2010/06/02 21:38登録) 実に端正な本格だというのが正直な感想。推理はロジックの積み重ねで整然と解かれていく。 このトリックはネタバレになるので具体的には挙げないが、どう趣向の作品と同様のトリックである。 しかし残念なことに本書の根幹を成すロジックには21世紀の今ではかなり苦しいものがある(本書刊行は1999年8月)。探偵多根井が文書に隠されたトリックを解き明かす端緒として日付の矛盾について指摘するが、現在では国民休日法で当時の祝日のように特定の日が祝日であるとは限らないからだ。しかしそれでも文中に「今年の」と枕詞を入れておけばどうにか通用するか。 また真犯人の正体も実に意外だが、当時のミステリ文壇の流行を取り入れた内容になっている。しかしこの頃すでにこの題材は手垢にまみれていたからさほどの衝撃はなかったのかもしれない。 また探偵役の多根井理のキャラクターが平凡で単純なロジックマシーンになっているのが惜しいところ。理路整然としたロジックもいいがやはり作品として一歩抜きん出るにはトリックの衝撃はもとより、魅力的な探偵というのが必須であることを痛感させられる反面教師のような作品になっている。 |
No.782 | 7点 | 本格ミステリ・ベスト10 2002 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/06/01 21:43登録) 1位は山田正紀氏の『ミステリオペラ』。『このミス』1位の『模倣犯』も9位にランクインしているのは?といったところ。 芦辺氏、くろけん、大倉崇裕氏、島荘、有栖川氏、愛川氏、貫井氏、鯨氏、殊能氏、飛鳥部氏、斉藤肇氏、門前氏と非常に濃い本格ミステリ作家が並ぶ^^まあ、本格ミステリランキングなので当たり前だが。 東京創元社で当初出版されていた頃はそのあまりに同人誌的な内容・構成にどうなるものかと心配したが、前年から原書房に変わり、かなりこなれてきた感じで、特色が漸く出てきたように感じた。とはいえ、新たな門出として出発した昨年は意外にも『このミス』のランキングに付和雷同するしているような感じだったが今回は特色が出ていてよかったように思う。 また添え物のように扱っていた海外ミステリも今回はページをかなり割いて論じているのにも好感が持てた。国内と海外とで座談会を分けていたのも○。希望を云えばせめて国内同様には扱って欲しいのだが。 以前に比べ、だいぶん進歩した本シリーズ。試行錯誤の黎明期は過ぎたと判断する。次回からは充実期に入るゆえ、独自の企画を立ち上げて特色を出してもらうことを期待する。しかし、表紙の絵はどうにかならんのかなぁ。 |
No.781 | 7点 | このミステリーがすごい!2002年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/31 21:28登録) 宮部みゆき初Vの年!1位『模倣犯』、2位奥田英朗氏『邪魔』、3位山田正紀氏『ミステリオペラ』と続く。相変わらず極太本が並ぶ。 翻って問題は海外編である。いや1位になったテランがどうのという問題ではなく、獲得票数を見ると国内編が88点に対し、海外編はわずか55点である。しかもウィンズロウ、ハンター、ゴダートが辛うじて20位以内に食い込み、ハイアセン、コナリーはランキング外なのだ。ここに日本人の熱し易く、冷め易い、云わば使い捨て気質が如実に表れているように思えるのだ。現在アメリカで人気を博しているレナードの新刊はどうなったのか?バークはもう駄目なのか?ランキンは?こんな状況では海外作家が可哀想である。興味本位の投票は無効にすべきだろう。 この年もランキングに並んだ作家達の顔ぶれがだいぶん変わっていた。国内編に関しては1位宮部を筆頭に東野、大沢、逢坂など「このミス」創世紀からの面子がランキングに顔を出し、また昨今の新興勢力もぐんぐん上位に進出してきて面白い所がある。 しかし、ランキングはあくまで指標だよという主張は、書店のランキング作品に対する扱いを見ればもはや現実を直視していない戯言に過ぎない。各投票者は己の内容に責任を持つべきだ。ここまで影響力を有すると、各自のコメントが一人歩きするのだから。 |
No.780 | 7点 | 本格ミステリ・ベスト10 2001 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/30 21:47登録) 表紙が江戸川乱歩フィギュアから何がなんだか解らないグロい幻想画に変わり、手に取るのを躊躇したことをいまだに覚えている。 さてランキングだが『このミス』と同じ泡坂妻夫氏の『奇術探偵曾我佳城全集』であったのが意外。以下も『このミス』に付和雷同するかのようなランキング。本格ミステリが台頭してきたのか、この後しばらく両者のランキングは似通ってくる。 版元が東京創元社から原書房に変わり、前年までの『本格ミステリ・ベスト10』に比べ、かなりソフトな装丁に仕上がっており、かなり『このミス』を意識している。 だが内容の方のディープさはさほど変わっていない。『このミス』と比較するのは反則かもしれないが、トリのコラムにコミケを持ってくるなど、これこそ同人誌の域を脱していないように思える。加えて座談会の内容と云ったら…。こいつら本当にこんな言葉で話してんのかと目を疑うばかりだ。 とは云え、これが本当のスタートだったと今にして思う。 この転換が現在の充実振りの素地を作ったかと思うと、歴史の証人だったのかなぁ。 |
No.779 | 8点 | ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ |
(2010/05/29 22:22登録) ドン・ウィンズロウのデビュー作にして探偵ニール・ケアリーシリーズ第1作。 探偵物語としても上質でありながら主人公ニールの成長物語として実に爽やかな読後感を残す。 次期大統領候補の娘の捜索というメインのストーリーの合間に断片的に挟まれるグレアムがニールを教育し、一人前の探偵に育てていく探偵指南の挿話が実に面白い。 リアルとフィクションのおいしい要素を上手くブレンドした作者の筆致はレナードのそれとは明らかにテイストが違い、デビュー作にしてすでに自分の文体を確立している筆巧者。 裏ぶれた社会に青さと甘さを持ちながらも自らの道徳を大事に事件に当たる若き探偵ニール。このニールはチャンドラーのフィリップ・マーロウを現代に復活させた姿としてウィンズロウが描いた人物であるように思える。 |
No.778 | 7点 | このミステリーがすごい!2001年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/24 22:24登録) この年の国内1位は泡坂氏の『奇術探偵曾我佳城全集』。既出の短編も収録された短編集にこれほどの支持が集まるとは、正直意外。 2位は横山秀夫氏の『動機』。この年が横山ブームの始まりといえよう。また14位に古泉迦十氏の『火蛾』が入っているのも興味深い。たった1作のみの発表で文庫化もされていない幻の作品になりつつある。 海外はジム・トンプソンの『ポップ1280』、シェイマス・スミスの『Mr.クイン』が1,2位を占めた。ノワール系と呼ばれる小説がこの頃台頭しだした時期。しかしノワール系とはなんぞや?と問われると、その明確な定義が未だにないのが斯界の相も変わらない風潮だが。 海外についてはミステリ作家が乱出される状況故か、約2年のスパンで新旧交代が行われているような感じだ。ずっと共にする作家を決めて、常に支持していくような風潮がこの頃にはない。 内容的にはあくまで企画で勝負しようとしている点が良かった。 |
No.777 | 7点 | オッド・トーマスの救済 ディーン・クーンツ |
(2010/05/23 23:09登録) 前回の事件の後、オッドは元恋人ストーミーの伯父が司祭を務めるシエラネヴァダ山脈にあるセント・バーソロミュー大修道院に住み込むようになる。本書はそこでオッドが遭遇した怪事件について書かれている。 内容的にはクーンツ得意のモンスターパニック系ホラーなのだが、それにサプライズを加味している。 とはいえ、冷静に考えるとこれはバカミスである。クーンツしか思いつかないようなトンデモ系真相なのだ。 あとひとつ要求したいのは舞台となる修道院の見取り図。どこをどう歩いているのかが非常に解りにくい。これは出版社の怠慢だろう。というか、出版社側も解らなかったのかもしれない。 |
No.776 | 4点 | 本格ミステリ・ベスト10 2000 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/22 21:58登録) この年の1位は『法月綸太郎の新冒険』と、いささか迫力に欠ける。これは本格ミステリ読み達の寡作家法月氏に対するエールなのか? 2位が殊能将之の『ハサミ男』、3位がこれまた綾辻行人の『どんどん橋落ちた』とこれまた願望を込めての票が集まったような結果。ま、『このミス』と違う特色が出ていいのだが。 しかし何とまあ、本作りの下手な出版社であるか、東京創元社よ!これぢゃあ、ミス研の同人誌と大差がないぞよ!もっと本格ミステリファンの裾野を拡げたかったら、装偵に色気がなくては…。 この本を見て購買欲がそそられる一般読者がどれほどいるのか? 内容もまた然り。本格の未来に危機感があるだの、『ハサミ男』の出現によりミステリの新たな可能性が生まれただの、硬い文章でオタクチックに論じていたら、ますます読者は引くで!『このミス』の軽さを、是非はあれど、導入すべきではなかろうか? |
No.775 | 7点 | このミステリーがすごい!2000年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/21 22:48登録) 後に東野圭吾は『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞し、大ブレイクを起こし、現在最も売れるミステリ作家になっている。 個人的には私が中高生の時に女子がよく読んでいた赤川次郎現象に似ており、平成の中高生は東野作品を窓口にしてミステリの世界に入っていくことが多いのではないか? つまらぬ余談はそれくらいにして、その東野氏が最も直木賞に近かったと思われる作品が本年度2位の『白夜行』。 未読だが、本の厚みと世評の高さからいって当事の彼の代表作となった作品である。 その『白夜行』をしりぞけて1位に輝いたのが天童氏の『永遠の仔』。 以下も福井晴敏の『亡国のイージス』、高見広春の『バトル・ロワイヤル』、奥田英朗の『最悪』、殊能将之の『ハサミ男』、本多孝好の『MISSING』と、力作、話題作の目白押し。 ミステリの定義は人それぞれだろうが、今振り返ると作品の質という意味ではこの年は大豊作だったのではないだろうか。 翻って海外はS・ハンター『極大射程』が1位で2位がJ・ディーヴァーの『ボーン・コレクター』、3位がT・H・クックの『夏草の記憶』と3強が続く。 ハンター、クックはそれぞれ2作が20位にランクインし、まさに最盛期だったといえよう。 この年から(?)2色刷りとなった本書は今までの『このミス』よりもレイアウト、構成に関して完成度はかなり向上したように思われ、東京創元社の『本格ミステリ・ベスト10』よりかはムックとして数段ミステリファンの心をくすぐる。 しかし、今年も「新し者好き」の傾向は顕著だ。 確かに良い作品は良いだろうが、もはやミステリとは呼び難い作品がランキング上位に来て貴重な枠を占有するのは何ともいえない悔しさがある。 あまりにも膨張するミステリ&エンタテインメントのジャンルに崩壊の危惧を覚えたのがこの年でもある。 |
No.774 | 7点 | 本格ミステリ・ベスト10 ’99 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/20 21:54登録) やはりこの年の1位は二階堂黎人氏の超重厚長大本格ミステリ『人狼城の恐怖』。2位は京極夏彦の『塗仏の宴』(笑)。 この1,2位の2作品だけで通常の本の10冊以上の厚みがあるんぢゃないか? 他にも笠井潔氏の『天啓の器』、奥泉光氏の『グランド・ミステリー』、山田正紀氏の『神曲法廷』と分厚い本が10以内を席巻。こってり系のランキング結果に。 さて内容はと云えば、前年度版よりも“開かれた”という感じはしたが、やはり値段をつけて書店に委託販売する商業冊子であるならばまだまだレイアウトに手間暇かける必要があるのでは?ただでさえ、「探偵小説研究会」と固苦しい字面が並ぶのだから一般受けしやすいよう、もっと工夫を凝らすべき。 内容は本当に読みやすく、また理解しやすくなっていた。だが私の期待する位置はもっと高みにある。 |
No.773 | 7点 | このミステリーがすごい!’99年版 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/19 22:00登録) この年の国内1位は最近文庫化された髙村薫氏の『レディ・ジョーカー』。いやあ、10年以上経っての文庫化だったのね。 二階堂氏の狂気の4部作『人狼城の恐怖』が出たのもこの年。 海外1位はセオドア・ローザックの『フリッカー、あるいは映画の魔』。今のところこれ1作限りじゃないか、この作家? クックの「記憶」シリーズとハンターのスワガーシリーズの第1作が出たのもこの年。 「笠井潔VS匿名座談会事件」で転換期を迎えた感のあるこの年。率直な感想を云わせてもらえば、お互い大人気ないなと。 読んでて気持ちのいいものでもないし、結局は己のドグマのプロパガンダ的行為にしかとれなかった。 また年々募る「新し者好き」の傾向がランキングにさらに拍車がかかってきたように思う。 この頃から『このミス』に違和感が出始めた。 |
No.772 | 8点 | 本格ミステリ・ベスト10 ’98 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/05/18 21:59登録) 広義のミステリのランキングである『このミス』に叛旗を翻す形で始まった本格ミステリ限定の年間ベスト選出ムック。 記念すべき第1回の1位は麻耶雄嵩氏の『鴉』。 2位が加納朋子氏の『ガラスの麒麟』、3位に谺健二氏の『未明の悪夢』が続き、それ以降も山口雅也氏、折原一氏、有栖川有栖氏、森博嗣氏と当時の本格を代表する作家がベスト10に並ぶ。 しかし内容はといえば実にマニアック。案外読み応えはあるが、いかんせん『このミス』と比べると遊び心が足りない。 本当に本格マニアの手による本格マニアの為のガイドブックの域を脱してない。 同人誌的な作りが手作りの味を醸し出しているのはさほどマイナスではないが中身はページを見開いた時に、エッセイというよりも論文を読まされているような無機質なレイアウトは大いにマイナスだろう。 まあ、これも今回第1回目ということで許せんことも無いが…。 |