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ミステリの祭典

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夜想曲(ノクターン)
多根井理シリーズ

作家 依井貴裕
出版日1999年08月
平均点6.50点
書評数8人

No.8 7点 nukkam
(2016/01/27 17:57登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の多根井理シリーズ第4作で、期待に違わず「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説です。相変わらずミステリーらしからぬロマンチックなタイトルと、叙情性をまるで感じさせない文章のミスマッチが気になります。特に本書のプロットなら人物描写をもう少ししっかりしてくれたらと思わずにはいられません。手掛かりの中に時代の古さを感じさせる物があるのもちょっと残念です。とはいえこの大胆な真相はなかなかの衝撃を与えます。いかに緻密に考えられた仕掛けなのかを再読して確認したくなる磁力を持った作品です。これだけのアイデアを持っている作者が本書の後、長い沈黙期に入ってしまったのが大変残念です。

No.7 6点 メルカトル
(2013/03/17 22:31登録)
再読です。
作中作の部分が特に読みづらかった。そう、まるで教科書を読まされた気分である。
もう少し情感を込めて描写できないものだろうか、よく言えば端正、悪く言えば文章が固すぎるのであろう。
まあ、それは置いておいて、作中作の第二章から既に違和感を覚えた。どうもおかしいなと思いながら、結局トリックは見破られなかったのが悔しいが、真相が明かされたときに最初に思ったのが、これはアリなのか?ということだった。
そうだったのかと納得できる半面、何か姑息な感じが否めなかった。
その後の仕掛けは、これは単純に驚かされた。よくあるパターンと言ってしまえばそれまでだが、こうした使い方はあまり見られないし、私としては素直に感心出来た。
前半はいささか退屈、解決篇はなかなかの出来栄え、ということで、良い点悪い点相半ばする感じの、ややアンバランスな作品だというのが正直な感想。

No.6 7点 E-BANKER
(2013/01/31 21:57登録)
1999年発表。どうやら、今のところ本作が作者最後の作品になってしまっているようだが・・・
「読者への挑戦」も挿入した王道の本格ミステリー。

~同期会が催された山荘で三日三晩に三人のメンバーが絞殺された。俳優の桜木もこの会に参加していたが、なぜかその間の記憶が抜け落ちていた。ただ、ひとつロープで他人の首を絞めた生々しい感触を除いては・・・。そして、その追い討ちをかけるように何者かからワープロの原稿が送られてきた。そこには空白の三日間が小説として再現され、桜木を真犯人として断罪していたが・・・。トリック&ロジックの本格派が新たに叩き付ける「読者への挑戦状」~

粗も目立つが、前向きに評価したい作品。
作者が仕掛けたトリックは主に二つ。
一つ目は結構面白かった。
もちろん、ミステリーを読み慣れた者にとっては、最初からなんとなく違和感を持ちながら読み進めていたわけで、こういう手のトリックじゃないかという予想は付いた。
見せ方があまりうまくないせいか、「鮮やか!」というわけではないが、探偵役・多根井の推理により真相が見事に反転する場面はなかなか唸らされるのではないか。真犯人絞込みのロジックも実に端正。
ただ、一つ気になるのは警察の捜査の具合。この真相であれば、警察の捜査はいったいどのように行われたのか? いわゆる「作中作」的な仕掛けなのだから・・・

で、もうひとつのトリックが問題。
これって必要か?
まぁ一つ目のトリックだけでは弱い、ということかもしれないが、唐突すぎてちょっと「どうかなぁ・・・」という気になった。
(一応伏線は張ってあるのだが、これは気付かないよなぁ)

でも、こういうチャレンジブルな本格ミステリーはなるべく評価してあげたいというのが本音。
基本的にはこういう作品は好物なのだ。
(もう少しプロットを煮詰めていればなぁ・・・。ちょっと惜しい)

No.5 6点 蟷螂の斧
(2012/02/11 10:11登録)
文章が読みにくいのには、少し閉口しました(笑)。2つのトリックをうまくミックスした構成は良いと思いました。1つは現在ありふれたものですが、使い方は初めてのもので納得できました。もう1つは今邑彩「○○荘の殺人」(1996)と同様なモチーフのような気がします。

No.4 8点 テレキャス
(2010/08/01 01:37登録)
記念樹や歳時記よりは読みやすくなってはいるが、まだまだ文章はイマイチ。
でも緻密なロジックと大掛かりなトリックを見事に同居せしめた手腕には脱帽。
ラストの役者の苦悩するシーンは結構好み。

療養所(サナトリウム)を執筆中と言う噂を聞いたのが数年前。
氏は筆を折ってしまったのか?師匠亡き今、氏の新作を切に求む。

No.3 7点 Tetchy
(2010/06/02 21:38登録)
実に端正な本格だというのが正直な感想。推理はロジックの積み重ねで整然と解かれていく。

このトリックはネタバレになるので具体的には挙げないが、どう趣向の作品と同様のトリックである。

しかし残念なことに本書の根幹を成すロジックには21世紀の今ではかなり苦しいものがある(本書刊行は1999年8月)。探偵多根井が文書に隠されたトリックを解き明かす端緒として日付の矛盾について指摘するが、現在では国民休日法で当時の祝日のように特定の日が祝日であるとは限らないからだ。しかしそれでも文中に「今年の」と枕詞を入れておけばどうにか通用するか。

また真犯人の正体も実に意外だが、当時のミステリ文壇の流行を取り入れた内容になっている。しかしこの頃すでにこの題材は手垢にまみれていたからさほどの衝撃はなかったのかもしれない。
また探偵役の多根井理のキャラクターが平凡で単純なロジックマシーンになっているのが惜しいところ。理路整然としたロジックもいいがやはり作品として一歩抜きん出るにはトリックの衝撃はもとより、魅力的な探偵というのが必須であることを痛感させられる反面教師のような作品になっている。

No.2 6点 江守森江
(2009/05/29 08:47登録)
この作品を最後に筆を断った感のある作者。
最終的結論には辿り着けないまでも読み始めてすぐに作者の狙いが透けて見える。
そのあたりに、読者挑戦物を書く限界が垣間見えている。

No.1 5点 vivi
(2009/01/28 00:57登録)
ロジック&トリックという肩書きどおり、
緻密なロジックと大技のトリックを入れて、
読者への挑戦も挿入した意欲作ですね。

ただ、解決編が「くどい」というのが難点でした。
数ある論証の1つを指摘すれば、
事件の様相ががらりと変わるのは理解できるのに、
全てを検証しようという細かさが、
逆に、ラストへ向かう物語の流れを阻害しています。
机上のロジックという感じがしてなりませんでした。

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