home

ミステリの祭典

login
テツローさんの登録情報
平均点:7.46点 書評数:108件

プロフィール| 書評

No.28 9点 さらわれたい女
歌野晶午
(2002/03/30 01:18登録)
 主人公の行動や身の振り方に、全体的に共感できる。死体処理の描写・顛末もサスペンスフルで面白かったし、ラストで主人公が選択した方法も、本格ミステリ派である僕自身の主観にかなったものであったのが良かった。
 これがもし正統ハードボイルド物語なら、ラスト主人公は死んでいたんじゃないかな?彼を殺さず、こういう結末に持ってきたところに、「ハードボイルドに非ず」という作者の姿勢を感じた(考えすぎかもしれんが)。


No.27 9点 そして扉が閉ざされた
岡嶋二人
(2002/03/30 00:31登録)
 舞台は核シェルターで、登場人物は4人。死んだ仲間を入れても5人。これは、一幕物の舞台劇にちょうど良いんじゃないか。それで思い切って、役者には結末を教えずにアドリブで演じさせ、実際に真相を考えてもらうような趣向にしておけば、役者もびっくりするだろう。もっとも、その方法で演じきれる役者といえば、長瀬裕也(少年マガジン「ザ・スタア」の主人公)を措いて他にはおるまい。 最初読んだ時、妹と上記のようなバカネタで盛り上がった思い出があります。

 とにかくすごかった。登場人物が限定され、手がかりも限定され、それを、思考のみでこねくり回して論理的に解決に導いていく。ただ、勘違いがあったとはいえ、4人の内2人もが「実は真相を知っていた」のはどうかと思うのでマイナス1点ですが、それでもこれは、すごい作品です。


No.26 5点 ひらけ!勝鬨橋
島田荘司
(2002/03/30 00:01登録)
 本格物ではないです。作品紹介等では、ユーモアミステリと紹介されてますが、それも違うと思います。では何かというと、これは間違いなくハードボイルド作品だと思うのです。登場人物達が直面している問題が、ユーモアミステリと見るには過酷すぎるし、ヤクザ共の振る舞いが生々しすぎるので、そう見るのが間違い無いと感じます。
 上記の理由で、本格好きの自分にはどちらかといえばきつい内容でした。でも、島田先生の文章なので読み易いことは読み易く、きついながらも、流れるように読み進められる作品には違いないです。


No.25 10点 殺人!ザ・東京ドーム
岡嶋二人
(2002/03/29 22:54登録)
 主役の一人、佐藤三郎氏(仮名)の行動が、時々鋭かったり時々鈍かったり、そこが少々気になりましたが、それは無視してもよい範囲と思います。
 主役級は3グループあって、それらのグループに属するキャラクター達が、ドーム無差別殺人を軸に、絡まったり離れたりしながら、結末に向かってなだれ込んでいく。また、多数の脇役達も枝葉的に事件に絡んでたり、絡んでなかったり。複数の登場人物を並行して描くことで、何と言うか、人物像にリアルさというものが加味されたかなと思うのです。社会派よりもリアル。だからといって、この作品は社会派ではないです。本格でもない。ジャンル分けしにくい作品ですが、とりあえず再読に耐えうる内容には違いないです。


No.24 9点 生存者、一名
歌野晶午
(2002/03/29 01:27登録)
 犯人指摘の部分は、立派な本格だと思う。「2人しか生き残ってない段階で主人公じゃない方が犯人に決まっている」という評も読んだが、それは無視しても良い。「海中」という言葉一つから唯一可能な犯人を導き出すところの論理が、本格だと思うのである。作中では軽く扱われていて、何かもったいないと感じた。
 最後に生き残った人物、実は最初読み違えていて、善玉の方だとばかり思っていたが、善玉の方か悪玉の方か分からないようになってるんですねえ。素直に善玉にしときゃ後味も良いものを、少々もやもやが残ってしまった。


No.23 9点 Rommy
歌野晶午
(2002/03/29 00:34登録)
 最初の副題「そして歌声が残った」が、文庫化に際して「越境者の夢」に変わって、「なんでだろ?最初の方のが詩的なのに」と思っていたが、実際に読んでみたら後の方が良いと思える。この内容で「そして歌声〜」では、作者ドリーム入り過ぎというもの。
 印象に残っているのはミステリの部分よりも、ROMMYの売込みやロックグループCUBICBALLの顛末の方。坂を転げ落ちるように零落れていく粕屋と、その粕屋を見限ってROMMYに参加する水巻の対比が、えらく面白い。
 ミステリ部分は、実際に起きる殺人事件の方はそれほどの謎は無く、被害者に深い恨みを持つ人間がそのまま犯人だった(それはそれで意表を突いているか?)。むしろ作品全体に仕掛けられた謎の方がメインで、ただ大層分かり易いという評を良く聞くが、僕は気持ち良くだまされた。この意味では、麻耶雄嵩の「鴉」に通じるものがあると、個人的には思っている。


No.22 10点 孤島パズル
有栖川有栖
(2002/03/23 19:14登録)
 良いですね。犯人指摘のロジックもさることながら、嵐の孤島というこの舞台設定、嵐の晩の雰囲気描写が、もう好きで好きで。
 実際途中で何回か、本を置いてしまいました。決して読めなかったのではなく、読み進めるのがもったいないと感じたから。「このまま読み進めてしまったら、やがて嵐は去って行ってしまう。どうして嵐は去ってしまうのだろう。あぁ、嵐が来て、このままずっと嵐だったらいいのに!」などと考えて… まったくもう、身悶えしながら読んだミステリなんざ、これが初めてや。


No.21 8点 伊集院大介の冒険
栗本薫
(2002/03/23 18:54登録)
 収録作のどれだったかで(手元に無いのでタイトル不明)、クリスティー「オリエント急行」の犯人をポロッともらしている。僕はもう読んでいたが、妹がこれからだったので、少々憤慨気味。マイナス2点。
 キャラの魅力も良い方向に出てるし、ミステリとしても小粒ながらまとまり良かったし、全体的には、よく出来てると思います。


No.20 10点 月光ゲーム
有栖川有栖
(2002/03/23 18:33登録)
 これは良い。学生アリスシリーズは軒並み本格テイストにあふれているから好きですね。マッチの燃えカスという一つの遺留品から、唯一可能な犯人を導き出す論理は、震えがくるほど感動しました。その後の「大きな門が軋みながらゆっくりと開いていく情景が僕の頭に浮かんだ」という心理描写も、「そうや、まさしくそうなんや」という感じでうれしかったです。
 解決編までが退屈という意見も、正統な本格ミステリの宿命と思ってます。もっともこの作品は、マーダーゲームに興じる学生達とか、月光の下での語らいなど、僕自身は「あぁ、うらやましい」と感じた、青春物としても魅力的な作品だと思います。


No.19 9点 星降り山荘の殺人
倉知淳
(2002/03/23 17:58登録)
 犯人の人物像が何か嫌だったので、マイナス1点。後は全て良し。
 糸とやかんの跡からの推理の展開のところが、正に本格って感じだし、全体の仕掛けも、見事に引っかかってびっくりした。この引っかけを「いかんだろう」と言ってる人の書き込みもあるけど、嘘書いてないのは間違い無いのだから、いかんことはないだろう!? 何がいかんのさ?


No.18 7点 伊集院大介の私生活
栗本薫
(2002/03/23 01:04登録)
 収録作の一つ「伊集院大介の失敗」は、クイーンの「九尾の猫」っぽいまとめ方だと思う。オマージュかな?
 このシリーズの短編は、メリハリがあって、すっきりまとまっていて、全体的に良いと感じた。


No.17 3点 天狼星Ⅱ
栗本薫
(2002/03/23 00:55登録)
 美少年・胡蝶に入れあげ、入れあげて、失敗する伊集院大介。作者はこれを、決してボーイズ・ラヴのつもりではなく、普通にかいてるのだろうな。あ〜あ。
 事件そのものよりも、伊集院大介と山科警部のいさかいシーンが、「これ、どうなっちゃうんだろう?」という感慨を抱かせたという意味で、僕的には一番印象に残った。


No.16 6点 聖アウスラ修道院の惨劇
二階堂黎人
(2002/03/22 21:43登録)
 読んでて途中で思ったんですが、作者ではなく作中人物の二階堂黎人って、全然存在感ないですよね。記述者なんだからそこにいるのは分かってるんですが、学院内調査中の時、蘭子に「ねえ、黎人」と呼びかけられて、「お前、いたのか」と思ったぐらいです。
 「地獄の奇術師」と比べて犯人分からなかった分は良いと思うし、蘭子の描写そのものは僕は文句無いのですが、上記の件でこの点数。


No.15 8点 浪花少年探偵団2
東野圭吾
(2002/03/21 00:37登録)
 ミステリ的な部分は「日常の謎ミステリ・浪花編」という感じかな?
 しのぶ先生と新藤刑事と本間義彦の三角関係の方は、漫画だけど、「めぞん一刻」を連想した。本間はマジで三鷹そっくり。「しのぶセンセの上京」で薔薇の花束を抱えて現れるところなぞ、しっかり笑わせてもらいました。


No.14 4点 クール・キャンデー
若竹七海
(2002/03/18 20:12登録)
 少々ネタバレします。
 デリカシーの無い嫌な人物で、でも親類縁者としての付き合い上、本人に悪気が無い分も含めて、あまり多くを言えない相手を、他の登場人物が皆して殺してしまおう、という感じですか。いや、実際に手を下したのは1人ですが、第三者的立場から事件に関わる探偵役が設定されていないので、何かそう感じました。後味悪し。
 そして、主人公の隠された真実(叙述トリック)にも、実は見事にだまされたのですが、これもなあ…。自分が年とったせいか、ちょっと感情移入できませんでした。


No.13 7点 地獄の奇術師
二階堂黎人
(2002/03/17 02:26登録)
 犯人はすぐ見当がつきました。論理的に分かったのではなく、この展開でこういう言動を取る以上、こいつが犯人なのだろうという感じでしたが。でも、雰囲気とか濃いし、素人探偵とやたら協力的な警察という配置は好きな方なので、全体的には良かったです。
 この話の途中で、蘭子1度推理を失敗してますよね。その反省から、「確実に証拠を固めるまで、不用意に途中の推理を口にしない」と決意する。探偵が解決をやたらもったいぶる振る舞いをする理由付けですが、こういう風にその心境に至る経緯をきちんと描いてくれる作品て、少ないんじゃないでしょうか。僕が他に思い出すのは「ギリシャ棺」(クイーン)と「月光亭事件」(太田忠司)ぐらいか…。そういう意味でも二階堂黎人という人は、探偵小説の形式に律儀な人なんだなと思いました。


No.12 9点 名探偵の呪縛
東野圭吾
(2002/03/12 19:22登録)
 天下一大五郎シリーズはこちらを先に読みました。(文庫でしか読まない人間なもので)最初はキャラクーについて、???な所がありましたが、これは雰囲気で読み進められます。殺人ドミノ倒し的展開になった時は、「これはもしかして夢落ちでは」とも疑ったのですが、そんなことはなく、きちんと本格ミステリとして解決がついた時は、「さすが」と思いました。
 このシリーズ、続編(第3弾)が出るときいたのですが、デマかな?


No.11 10点 メビウスの殺人
我孫子武丸
(2002/03/11 23:40登録)
 新本格第1期作品群の中でもベストの一つである。
 犯人側のストーリーと探偵側のストーリーが、最初は交わらず平行して進み、やがて小さな接触を繰り返しながら、最後に一本の線になって解決になだれ込んでゆく。岡嶋二人の「殺人!ザ・東京ドーム」と同じような筋立てで、両作品とも何度も何度も再読しているが、それでも飽きない。
 また、犯人が探偵(慎二)を認識し、「こいつに勝たなければいけない」と個人的に闘志を燃やすあたり、古き良き探偵小説時代の「名探偵VS名犯人」という懐かしくも楽しいうれしい感慨を蘇らせてくれた。もっとも、慎二の方は全然犯人を認識してないが(笑)
 ラスト、キャラクターそれぞれのその後を描写した短いセンテンスの連続も、「狂っているのは犯人一人だけで、世間はもう元通りだよ」と言ってるようで、サイコ物礼讃に反対の僕にとっては、理想の結末だった。
 お勧めの点はほんとにたくさん。これは良かった。


No.10 10点
麻耶雄嵩
(2002/03/11 21:13登録)
 作中で起こった殺人事件の解決は、それほど特筆すべきものは無いと思う。本格ミステリとして観るべきところはもっと別のところ、作者が構築したこの世界(埜戸の村)を覆う秘密・からくりの方であろう。注意して、気を張って読んでいても、謎を謎と認識できぬまま、それでも違和感だけは感じながら読み進めてしまい、最後に「ああ、そうだったのか」と、膝を打ち得心する。きっと、ほとんどの人がこうなると思う。というか、是非こうなって欲しい。実際僕がそうだったから。
 ラスト、あの一家がなぶり殺しにされたのは、少々納得いまんが。


No.9 9点 サテンのマーメイド
島田荘司
(2002/03/11 01:40登録)
 作品紹介に「著者が初めて挑むハードボイルド」などと書かれることが多いのですが、確かにスタイルはハードボイルドですけど、中身は紛う方無き本格です。しかも、豪腕島田の通り名に恥じぬ、奇想です。(逆にハードボイルドファンが読んだら怒るんじゃないかと思うくらい)ラストは活劇が有り、苦い結末なんですけどね。

108中の書評を表示しています 81 - 100