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ミステリの祭典

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フリップ村上さんの登録情報
平均点:7.73点 書評数:26件

プロフィール| 書評

No.26 9点 GOTH リストカット事件
乙一
(2003/08/24 23:37登録)
巧すぎるぞ! 乙一!
「この主人公を容認することは、人間としてまかりならん」という意見には120%賛同しつつ、確立された世界観そのもの含め、あまりにハイレベルな内容には脱帽。
基本的には《人物認識の錯誤》を中核にすえた同音異曲の集積なのに、一話一話違った落としどころで意外性を持続するあたりには唖然とするばかり。
最後の最後で主人公の存在を否定するヒロインの「まっとうさ」に救いを見出しつつ、これはこれで「切ない」乙一の面目躍如たる作品集だと思う。


No.25 9点 コールドゲーム
荻原浩
(2003/08/24 22:52登録)
「コールドゲーム」
私も「噂」を読んだ時には、編集者の陰謀でむりむりミステリ書かされているな、と思ったクチでしたが、こいつは第1級の作品ざんすよ。
かつてのいじめっこが、ひそかにホームタウンへと帰還。ビルドアップした体躯とIT知識を駆使して、凄惨な復讐を開始する。元野球部の主人公光也は、仲間たちを集めて自警団を結成するが、という復讐モチーフの物語。
つるべうちのサスペンス、細かな伏線使い等々、読物としての完成度は熟練のレベルで全く評判にならなかったのが信じられないほど。重苦しいテーマの持つ問題意識と娯楽小説としての面白さを、どちらも損なうことなく両立させた隠れた大傑作である。


No.24 8点 浦賀和宏殺人事件
浦賀和宏
(2003/08/24 22:44登録)
究極の自己満足勘違い野郎のウサ晴らし罵詈雑言集と見せかけておいて、相手の懐下から巴なげを仕掛けるが如き怒涛の大ドンデン返しに突入。
こいつをメタと評価するならば、なによりも『浦賀ブランド』に対するミステリ文壇守旧派の持つパブリックイメージを逆手にとった構造そのものがキモ。左手で仕込みをする時は右手を見せろ的ミスディレクションの基本を、いつの間にやらシッカリ手にいれてます。最初の10ページ読んで「なんじゃこいつは腹立つなぁ」と思った人ほど楽しめるかも。(ただし、基本としてメフェスト賞を中心とする近年のミステリ界の動きが基礎知識として要求されるあたりは、やっぱり一般向けとは言い難いか……)


No.23 10点 姑獲鳥の夏
京極夏彦
(2003/03/07 20:44登録)
再読によるコメント。
量産型とは設計思想からして違う、最強にして突出した『京極堂シリーズ』のプロトタイプ。
発表より9年。あるいは初読では気のつかなかった瑕疵が目に付くかと思いきや、改めて本作の突出した構築美に酔わされる結果となった。
確かに《密室からの人間消失》で引っ張ってあのオチでは、納得がいかぬと立腹する向きもわからぬではないが、言うなればそれさえも《謎の解明》以前に《事件のありよう》を明らかにすることが眼目であるという本作の特殊な構成を隠蔽するための(相当ひねくれて難易度の高い)ミス・ディレクションなのだと理解しては如何だろうか?
本作においては、全ての登場人物、全てのセリフ、全ての設定が《世界の見え方の差異が生み出す悲劇の連鎖》という《事件のありよう》を浮かび上がらせるためのパーツとして機能している。常識であるとか物理法則であるとかはこの際無視して、物語の世界に身を沈めれば、恐ろしいまでの精密さで破綻なく組み立てられた《ロジックの美しさ》に圧倒されることだろう。
キャラクターの魅力が前面に立って物語を牽引していく次作以降とは完全に似て非なる独自世界。怪談・SF・哲学・ミステリ・エロス・民族学。全てがないまぜとなった幻惑感は、それこそが《京極印》と認識される以前ならではの、原初的混沌に満ちあふれている。
日本ミステリ史上五本の指に入る屈指の大名作という確信は強まるばかりである。


No.22 8点 密閉教室
法月綸太郎
(2002/12/17 21:08登録)
ノーカット版による読み直し。
発表当時は《新本格バッシング》の最も激しい槍玉だった本作だが、若書きすらも《作家の個性》として認識されるほどにミステリ・マーケットが成熟した今日では、冗長部分をカットする以前の状態ですらも、非常に良く書けた《小説》に思えるというこの不思議。法月ミステリらしく二転三転する推理や、文句のつけようがないほど理路整然とした密室の構成理由など、ミステリとしての完成度も水準以上で、ニ十代の新人のデビュー作としては出色の出来ではないか。84年のノベルス版と内容自体に大きな差異はないが、特筆すべきは以前の版では今ひとつ趣旨のはっきりしなかった幕切れの《コーダ》部分が、作者自身のどうしようもない内的欲求から書かれた、本作の根幹部分(グロテスクなラブレター)だったことが明かされている点だろう。
当時の本作をめぐる毀誉褒貶ぶりを知る年長の読者にも、法月なんて読んだことがないという『いーちゃん』や『ゆーやくん』好きの新来者にも、ぜひとも手にとって欲しいものである。


No.21 5点 時の鳥籠
浦賀和宏
(2002/11/26 20:36登録)
採点不能。ある意味10点満点。ある意味0点。間をとって5点という玉虫色の決着である。
ミステリなのか、SFなのかというジャンル分別以前に、おそらく作者の創作意図は、己の心中の《ある気持ち》を表現することにしかなく、そういう意味ではあらかじめ読者オリエンティッドなエンタテイメント性は放棄されていると割り切った方が良いか。
親子の関係性を扱いながら、決して家族を描かず、血の問題=己の出自のみに拘泥しているところからもわかるように、テーマとしては頭デッカチな青年の自意識過剰的自己言及に他ならないわけだが、そいつをここまで異形の物語に変質させた手腕には、唖然とするばかりだ。
不要な寄り道、饒舌、繰り返しが多すぎるという読物としての弱点も、本作品においてはマイナス要因ではなく、他人のユルい悪夢に無理やりつきあわされているような、収まりの悪い酩酊感を読者に与える唯一無二の武器ともいえる。よって評価基準には良い悪いではなく、好き嫌いしか入り込む余地がない。
いずれにせよ、多少の破綻があろうと、とにかく物凄くぶっとんだ話を読みたい方には大のオススメ。
ちなみに前作とは同じテーマの変奏曲のようなもので、両方合わせて興趣が倍増なことは事実だが、単独でも十分楽しめる。


No.20 8点 空飛ぶ馬
北村薫
(2002/09/26 20:45登録)
乗り切れなかった人には、心から「残念でしたね」と声をかけたい。
ぶっちゃけ、本作も発表以来十余年。当時ですら浮世離れしていた「わたし」という設定が、もはや完全な絵空事と化したといわれても反論は出来ない。
裏目読みをすれば《不惑を過ぎた高校教師(♂)が書いた娘へのラブレター》という創作意図も露骨に透けて見えるわけで、そんな臭気を感じて《うざい》《偽善》と感じる読者がいても、ちっとも不思議ではない。
けれども、人の本質なんて十年やそこらでそうそう変わるものではない。決して声高ではないが、地に足のついたゆるぎない人生肯定が、素直に心に響く可能性だって捨てたもんじゃない。未読のかたはぜひ、無心の状態でチャレンジして欲しい。
さて、そうはいってもこの作品、誰もが楽しめる娯楽の王道というよりは、もとより相性の良い一部読者がひっそりと愛読する類の物語。
推理文壇にてリマーカブルな位置を獲得している理由は
? 安楽椅子探偵って(英国での黎明期をのぞいて)実はそれほど存在しない。成功例はさらに少ない。
? 死体の発生しない《日常の謎》でミステリが成立するなど、本作以前には考えられなかった。
? 覆面作家ゆえの話題性もあった。
等々、歴史的な背景があることも、蛇足ながら追記しておきたい。

《円紫さんとわたし》シリーズ復権プロジェクト(電通案より抜粋)
「わたし」を眼鏡っ子という設定にして、イラスト付で講談社ノベルス化すれば、まったく違ったファン層に大々的にその魅力を訴求できるはずである。(嘘!)


No.19 9点 夏と花火と私の死体
乙一
(2002/09/23 19:47登録)
「作品のみを評価する」って、現代においては至難の業。文学ですらもが、作者の人となり、人生経路を背景としてセット販売されているのだから。
というわけで、本作執筆時の作者はなんと16歳! ということを素直に勘定に入れて、手放しで驚き、かつ、評価したい。
「夏と〜」における死体の一人称も抜群のアイディアだが、「優子」での見事な語り口でもわかるように、この作者は、どこに《視点》をもってくれば、一番効果的な驚きが表現できるかを、感覚的に知り抜いている。
確かにそれは、年齢を超越した部分での才能だろう。


No.18 5点 僧正の積木唄
山田正紀
(2002/09/19 20:56登録)
僧正殺人事件は終わっていなかった。 続発する惨劇。風雲急を告げる大戦前夜のニューヨーク。 解決に乗り出すのはアメリカ放浪時代の金田一耕助!
という、オールド・ファンにはそれだけでたまらない設定。
大陸浪人金田一の活躍は、ファンなら誰もが一度は思い浮かべる夢物語だが、 おそらく長編は本作がはじめて。
ていうより、これは「やったもん勝ち」の世界で、 ミステリ・プロパーではない作家ならではの冒険(暴挙?)とも言える。
で、肝心の内容の方はというと……。
私の個人的見解では、この作家には基本的なミステリ・スピリット(ぶっちゃけ、ミステリが本気で好きって感じ) が欠落しているような気がしてしかたがない。
何ゆえ金田一が終始着物姿で通すようになったのか、 という理由付け等、楽しく読める場面も多々あるだけに、解決のあっけなさが惜しい。


No.17 1点 魔神の遊戯
島田荘司
(2002/09/17 21:09登録)
島田荘司いまだ浮上せず。
ていうか、こいつは第二のトリック盗用疑惑でないの、ハッキリ言って。
確かにこれなら記述者が石岡でないことに必然性はあるが、高木彬光の超有名作を露骨に想起してしまったのは私だけか? ひねりなしで一発勝負的アイディアを引用している分『夜は千の鈴を鳴らす』の五万倍(当社比)悪質な感じがする。
文中の記述から動機を推測するのが不可能。ロジックだけで犯人を特定することが出来ない等、本格を標榜するにはあまりに瑕疵が多いが、それでも《未来の記憶の再現》というのは、見立て殺人における新機軸。借り物のドンデン返しなどなくても、読物としては充分なレベルをクリアしているのに、返す返すも惜しい。というより悔しい。
21世紀のミステリに、トリックの前例云々を問題視すること自体ナンセンスかもしれないが、他ならぬ島田自身が『金田一少年』であれほど痛い目にあっているのだ。例えそこに悪意はなくとも、とうてい許される行為ではなかろう。猛省を請う!


No.16 8点 トキオ
東野圭吾
(2002/08/21 21:59登録)
瀬死の床にひんした息子が時を越え、素寒貧で捨て鉢な毎日を送る若き日の父親に会いに行くという、東野版《時と人の物語》。SF的設定の導入で《家族》のあり様を描くという意味で『秘密』、バブル前後の世相回顧という意味で『白夜行』、といった具合に過去の代表作の発展型としてとらえることも出来るが、いずれにしても、ミステリというジャンル外で評価されるべき作品であろう。
作者一流の《悪意》や《毒》が薄味と感じるコアなファンもいるだろうが、直球勝負の展開が功を奏して読みやすさ&読後感は最高。正直言って泣けます! そりゃあ、もうボロボロと。
およそ読み手を選ばない完成度の高い娯楽作品ではあるが、「明日だけが未来じゃないんだ」というセリフに託された熱い想いは、夏休み後半のヒマもてあました十代の少年少女にこそおすすめしたいです。
今度こそ直木賞とれるかな?


No.15 7点 バイバイ、エンジェル
笠井潔
(2002/08/03 21:55登録)
採点者諸氏も折に触れコメントしているように、本格ミステリ文壇最高の論理的支柱みたいな顔してる笠井潔だが、実作が口でいうほどレベルの高いミステリかどうか、と言うとはなはだ疑問である。
デビュー作である本書は、自らの政治闘争における挫折を文字通り《総括》するために書かれた評論『テロルの現象学』を、よりわかりやすい形でアレンジしなおした別テイクようなもの。つまりはミステリというジャンル自体が《観念の地獄との絶え間なき闘い》というテーマを描き出すために選別された後づけに過ぎないわけで、誤解を恐れずに言えばミステリ《風味》でしかないのも無理はない。
それでもこの物語が《小説》として圧倒的に面白いのは、そうでもしなければ語ることの出来なかった笠井潔のその時の《ホンキ》が、細大漏らさずつめこまれているから。
マチルドと対峙したカケルの口にする血の出るような言葉は、今も私の胸をこがしてやまない。


No.14 10点 哲学者の密室
笠井潔
(2002/08/03 21:41登録)
ミステリという文学のジャンルが、百年近い年月をかけて到達したひとつの金字塔。最小に見積もっても本邦推理文壇屈指の大名作。広く海外に訳出し、その価値が世界的に認められることを願ってやまない。
ともすればマニアの衒学趣味に終わりかねない密室殺人に対するメタ視点からの分析を、《特権的な死の封じ込め》というキーワードを導入することで、戦争による未曾有の大量死を生み出した《二十世紀》を無慈悲なまでにあぶり出しにするジャンピング・ボードへと変換させる鮮やかな手口。これこそが奇想。これこそが論理のアクロバット。フェアかアンフェアか、トリックに前例があるか、そんな瑣末なゲーム的こだわりなど軽く一息で吹き飛ばす、怒涛の物語力。
暗黒へとひた走る《死の哲学》を目の当たりにした語り手が、ラストシーンで手にする力強い確信を知るとき、読者はミステリと人類、その双方の未来に確かな希望を得ることができるであろう。

と熱くなったのは良いものの、明らかに無駄に長い第一部。シリーズ先行作を読了していないと不明な部分が多い等、ちょっと見逃しえない瑕疵があることも事実だな。
冷静にエンターテイメントって意味でいったら4点くらいかも……(急に弱気)


No.13 8点 覆面作家は二人いる
北村薫
(2002/07/23 21:45登録)
わざわざカギかっこ付きで『お父さんは心配性』と引用してみたり、突然おーなり由子とのコラボレイトを展開したりと、隠れ少女まんがマニアぶり(『りぼん』系)が伺える北村薫。趣味大爆発の本作は、ミステリ史上にありそでなかった《美少女名探偵》の魅力が堪能できる軽娯楽編。(少なくとも、二階堂蘭子に《可愛い》という形容詞は使えないでしょう?)
『円紫さんと私』シリーズの主人公がどうにも鼻持ちなら無いと感じていた御仁もこれならOKか?
1人称の語り手が双子の兄弟、という凝った(浮世離れした)設定がだんだん先細りになっていく等、散漫な印象を与える部分もあるが、反面《才能を巡る葛藤》といった深刻な動機から悲劇がひき起こされたりするなど、決して《心優しい》だけではない北村薫の一面がかいまみれる部分も興味深いのでは。


No.12 9点 異邦の騎士
島田荘司
(2002/07/20 21:20登録)
世に受け入れられぬ自尊心をもてあましながら、ギリギリの踏ん張りで孤高の魂を謳歌する若き御手洗潔のなんと魅力的なことか。
奇を衒った態度の裏に見え隠れする、痛々しいまでにピュアな感性は、傲岸不遜が鼻につく現在の姿とは完全に似て非なるもの。
それはまた、己の存在を世間に認めさせようとあがき続けていた、当時(デビュー前夜)の島田荘司本人の姿なのかもしれない。
そういう意味では限りなくパーソナルな、青臭い情熱の叩きつけであり、作中人物に共感することさえ出来れば、読者にとっても生涯の宝物となるだけのポテンシャルを秘めている。
ミステリー的な完成度うんぬんを越えた、青春小説の一大傑作。
それにつけても、危機一髪の場面で御手洗がバイクを駆ってはせ参じるシーンの異様なまでの格好よさ。ここはぜひとも、《リターン・トゥ・フォーエヴァー》の「ロマンチック・ウオーリァー」をBGMにページをめくっていただきたいものである。鳥肌ものですよ。


No.11 5点 ロシア幽霊軍艦事件
島田荘司
(2002/07/19 22:47登録)
もはや大家の島田荘司。小説としての面白さはやはり熟練の味。
ただし、「普通の人なら全く知らない」けど「軍事or航空機マニアなら常識」という、単なる歴史上の《知識》を《発端の魅力的な謎》と言い切ってしまう神経はどんなものか?
いや、確かにアレは、先っぽだけなら軍艦に見えるとは思うけどさぁ……


No.10 8点 斜め屋敷の犯罪
島田荘司
(2002/07/19 22:43登録)
《建築トリック》という唯一無二のジャンルを創生したという点において、『占星術〜』をそのぐ島田ミステリの真骨頂と言い切ってしまいましょう。
「例のページが見えたらおしまいだから」、とばかりに輪ゴムで袋とじ状態にして友人に勧めまくったのも懐かしい思い出です。
ただし、本来ならば一発勝負であるこのトリックを、後の作品でバリエーション展開させてしまったことは大いに不満。いくら自分が考案したからといって《補助線を引く場所が違う》というだけでは二番煎じも良いところ。
それさえなければ文句なしに満点なのに……


No.9 10点 姑獲鳥の夏
京極夏彦
(2002/07/19 22:13登録)
はっきり言ってとんでもない大傑作。
チェスタトン、天城一ばりのシニカルな認識論トリックを中心にすえて、このボリューム、めくるめく物語。
超能力探偵という物理法則を無視した設定を持ち込むことで、一見ミステリに背を向けていると思わせて、「実は超能力があるからではなく……」と明かされる真相の凄まじさ。比喩でなく腰を抜かしそうになったものだ。
構成の巧みさ、世界観のこなれかた、キャラクターの魅力等々、小説としての完成度は後に続くシリーズにおいてますます深まってゆくとになるが、これはこれで、独立した作品として、ある意味別の地平に屹立する奇跡のミステリといえるのではなかろうか。


No.8 5点 世界の終わり、あるいは始まり
歌野晶午
(2002/07/18 21:40登録)
本格ミステリ・プロパーなのか、脱境界エンターテイメントを目指しているのか、今ひとつ方向が定まらないように(私には)感じられる歌野氏ですが、常に全力投球のスタンスが見受けられる点は好感大です。
本作においても「どんなに避け難い災厄に見舞われても、未来に対する選択肢は、個人の責任の名のもとに必ず残されている」というテーマの気高さは◎。それを描き出す手段として、限りない妄想の連打と破局という展開を導入したのもアイデア賞もの。とにかく読んでる最中は主人公の運命が気になってページをめくるのさえもどかしいほどでした。
反面、読了後に「結局のところ《夢オチ》つないだだけじゃん」というネガティブな印象がぬぐいがたいという弱点があるのも事実。
結局のところ、ミステリの範疇で読むか否かが評価の分かれ目になるかも。


No.7 8点 ドミノ
恩田陸
(2002/07/17 23:16登録)
痛快すっ飛ばし小説。
手に汗握ってメージをめくって、「ああ、面白かった」という感想以外何も残らない潔さ。なかなか出来るもんじゃないですよ。
実はあれだけの登場人物と連発するトラブルを時系列的に収斂させるのは至難の業のはずで、軽く書き飛ばしているように見せて、シノプシス段階で、東京駅の周辺地図片手の入念な練りこみがしのばれるというもの。
おしむらくは巻頭の登場人物紹介で、この手の物語は、誰と誰がどういう関係なのかが次第に明らかになってゆくのが醍醐味のはずなのに、最初に全部ばらしているのはどういうわけかしら? おそらく編集の差し金だと思うが、猛省を請いたい。

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