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ミステリの祭典

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みりんさんの登録情報
平均点:6.66点 書評数:385件

プロフィール| 書評

No.205 5点 アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎
(2023/10/03 02:40登録)
大御所の方ってリーダビリティの高さが異常ですね。360ページ一気読みです。
魅力溢れるキャラクターと軽快な会話から生まれるユーモアで終始心地良く読書に浸れます。まあ青春ミステリというジャンルの割に大変シリアスなのですが…(笑)
本筋以外の要素だけである程度どの作品も面白さは保証されてそうな作家さんだなという印象を受けました。他の作品も気になるところです。


No.204 8点 厳冬之棺
孫沁文
(2023/10/01 19:27登録)
お二方の書評で気になり、普段読まない翻訳物を購入。5時間の楽しい読書体験でした。
トリックを重視する方・不可能犯罪に興奮を覚える方・実現可能性を気にしない方・島田荘司が好きな方
ぜひ1200円を握りしめて書店に向かいましょう。 

【ネタバレあります】



密室殺人×3に見立て殺人に首無死体となんとサービス精神旺盛なミステリでしょう。
トリックはいつも通りちっとも見当がつかないのですが、私途中で確信を持って犯人が分かってしまいました。何作品ぶりの快挙かと喜びを噛み締めていると、「密室の王」はそこまで甘くなかったです。
ハウダニットとフーダニットどちらも高い次元で楽しめるでしょう。
不満点を挙げるとすると作中の謎が100%明かされないこと(続編匂わせか?)。あとタイトルの『厳冬之棺』と装丁から想像していた荘厳で幻想的な雰囲気が欲しかったことでしょうか。


No.203 6点 私雨邸の殺人に関する各人の視点
渡辺優
(2023/10/01 04:16登録)
探偵役以外にあまり真新しさはないのですが、ロジックがよく練り込まれている作品だと思いました。フーダニットが好きな方におすすめできます。
改名前のツイッターという言葉が出てくるのには時代を感じさせますよね、今年の作品なのに笑 ある人がある人を犯人だと気付いた理由もいかにも現代らしくて良いです。


うわ〜読む前に人並由真さんの書評を読んでおけば良かったですね〜 クリスティのおそらく有名作(?)に関してネタバレの如き仄めかすものをくらいました。実は私、今年の新刊でもう一つクリスティの超超有名作のネタバレをされているのでまたか〜と少し消沈。まあこちらは流石に読んでない私が悪いと思うのですが、クリスティは必修という共通認識があるんですかねぇ… 国内作品に逃げずに海外古典も読めよというメッセージだと前向きに受け取っておきます。


No.202 6点 死後の恋
夢野久作
(2023/09/30 15:10登録)
アレを読んでから毎日1度は夢野久作のあの荘厳な尊顔を思い浮かべる時がくる。これが『死後の恋』か…
という冗談はさておき収録作は『死後の恋』『瓶詰の地獄』『悪魔祈祷書』『人の顔』『支那米の袋』『白菊』『いなか、の、じけん』『怪夢』『木魂』『あやかしの鼓』
私が読んだのは新潮文庫の「夢野久作傑作選」なのでどうやら前の方が読んだ作品集とは違うようですがここに書評します。

【ネタバレあります】



『死後の恋』9点 『瓶詰の地獄』9点
この二つはどの作品集にも収録されていますね。『死後の恋』の猟奇と耽美の融合、臓器と宝石の対比がホントに好きで、まだそれほど読んでないのに夢Q中短編の最高作だろうと勝手に思ってます。

『悪魔祈祷書』 6点
タイトルを見るからに著者らしい作品かと思いきや予想外の方向へ。こういうのも書くんだね。

『人の顔』6点 『支那米の袋』7点
既に読んでいましたね。『瓶詰の地獄』で感想書いたのでソチラで

『白菊』5点
幻想的な雰囲気に誘い出される犯罪者と世にも美しい少女。んんん…つまりどういうこと?

『いなか、の、じけん』3点
いなかで起こる少し奇妙な事件が無数に載っているショートショート。吝嗇家なおばさんが窒息する話以外はあまり記憶に残らず

『怪夢』4点
これまた怪しい夢に関するショートショート。『病院』では精神病患者=主人公が発狂すると同時に研究が完成するという研究者が登場するが、これまさにドグマグの原形ですね。ずっと前から構想を練っていたのが伺えます。

『木魂』6点
妻と子を無くし、どこからともなく声が聞こえるという狂人。異常な現象を数学で解釈する部分はユニークです。終始陰鬱、暗澹たる雰囲気が続く中、ラストは一筋の光明が差した…のかどうか 

『あやかしの鼓』はどうせならこれがタイトルになってる作品集で読もうと決意。デビュー作の中編、楽しみですな

未読作で刺さったのが少なくてこの評価に。相変わらず「狂人」「夢」「ロシア」が好きなんですね


No.201 5点 夜は短し歩けよ乙女
森見登美彦
(2023/09/29 00:20登録)
京都府民なので作中で巡る場所を「あ〜あそこね〜イイよね〜」と脳内で思い浮かべながら楽しく読めた。こんなふうに少し不思議で情緒溢れるオシャレな青春大学生活憧れますねぇ…

※アオハルの祭典なら10点満点です


No.200 5点 夜のピクニック
恩田陸
(2023/09/26 21:54登録)
ただ本当に友達と歩くだけで、物語に起伏はない。でも高校の頃って友達とくだらない話をするのが1番楽しくて、あれこそが黄金の日々なんですよね。清涼感100%、ノスタルジーにたっぷり浸れる青春小説。ああ…たまにはこういう非ミステリ作品も良いな

※『アオハルの祭典』なら10点満点です


No.199 6点 狂骨の夢
京極夏彦
(2023/09/24 03:52登録)
皆様が『鵼の碑』を読んでいるであろう頃に自分はまだ狂骨の夢(´-ω-`)
いや〜すごいねぇ…京極夏彦。1000ページほどあるのに1日半ほどで読み終えちゃったよ。しかし『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』に比べると蘊蓄部分のとっつきにくさと事件の真相の複雑さを感じました。作者自身は特にこのシリーズを推理小説だと思って執筆しているわけではないそうですが、今作の本格度はなかなか高いと思います。
相変わらず京極堂の推理力は神のレベルに達しているな。もしも「名探偵推理力トーナメント」があれば決勝で亜愛一郎を打ち負かして余裕で優勝するぞコイツ。


No.198 9点 日本探偵小説全集(4)夢野久作集
夢野久作
(2023/09/22 17:48登録)
収録作は『瓶詰の地獄』『氷の涯』『ドグラ・マグラ』
いやあ、『氷の涯』以外は再読なのに読破に5日かかった。
ふつう再読って忘れた頃にするもんだろうけど、『ドグラ・マグラ』に関してはある程度本筋を整理している状態の方が楽しめるのではと思い再読。例によって細部は忘れていて「こんな文章、前読んだ時あったか?」と疑う始末です。

【ネタバレあります】



『瓶詰の地獄』 9点
4読目くらいですね。やはり妹とは一言も書かれていないため、兄弟ではないかという思いを強くしたところです。聖書に同性愛って禁止されてたり…? 3通の手紙の順番が実は3→2→1だというのが通説ですが、3通目は2人だけのユートピアに行ってしまったと牽強付会な解釈をしておこう。

『氷の涯』 7点
著者の数少ない100p超えの作品かな?ロシア好きなんですねぇ夢野久作。やはりこの作品でも、夢久は探偵小説というのを上空から冷静に俯瞰しているような印象を受けます。考えすぎですか?
なんやかんやあってラストのロマネスクな逃避行。そのなんやかんやは色々ワケアリでしたが、こういうの好きですよウン。

『ドグラ・マグラ』 10点
"胎児よ 胎児よ なぜ躍る 母親の心がわかって おそろしいのか"

ドグラ・マグラ単体の書評欄で「混沌の渦の中に実にウェットな人間ドラマが描かれている」みたいな書評があったのですが、それを見てから読むと確かにウェットな気がしてきたぞ。
「正木教授が生涯をかけて2つの学説を証明する物語」だと1読目の時は解釈したが、「2人の教授間での学術研究を超えた闘争」に上書き。呉一郎が2人の教授を両方とも「お父さん」と認識し、若林教授が激怒するシーン。初読時はすっかり忘れていたが腑に落ちた。
まあ相変わらず分からんところは分からんし、奇書に酔ってるだけな気もする。しかし、精神医療なんてないに等しく、狂人になると隔離される上にその家族までも村八分にされてしまうようなこの時代に一介の探偵小説家である夢野久作がこんな先見性のある物語を作ったというのはやはり脱帽せざるを得ない。

※冒頭のブウウウーンと夢遊病者の書いた作中作「ドグラマグラ」のブウウウーンではウの数が違うっての初めて知りました。気づいた人よう気づいたなと。


No.197 9点 飢餓海峡
水上勉
(2023/09/17 23:06登録)
take5様の書評に釣られて高得点配布おじさんが駆けつけてきましたよ(王者の如き〜は大好きな作品ですけどね笑)
社会派はほぼ食わず嫌い状態なのでチラッと読んで合わなかったらやめようと図書館で借りると、一気に200ページほどノンストップで進んでしまいました。60年前に書かれたとは思えないほど文章が読みやすい(これ大変ありがたい^^)上に風情があり、1000ページの長さを感じさせない抜群のリーダビリティです。

蟷螂の斧さんと斎藤警部さんも仰っていますが再度警告を。
【新潮文庫で読む方は裏のあらすじを絶対に読まないこと】
これめっちゃ大事です。そこが作品の真価でないにしてもネタバレのオンパレードで笑ってしまいました。

【ネタバレがあります】


1963年刊行の作品ですが最初の舞台は終戦直後の1947年。とうもろこしが6円で買える時代。船の転覆事件に扮した2つの身元不明死体が発見され、事件の影には六尺の大男。六尺ってそんな大きいのかと調べると180cmらしく「アレ?そこまで目立たなくね?」と思ってしまった。

上巻では貧困と病魔が蔓延る退廃的なこの時代における娼婦の艱難辛苦がありありと描かれ、読み応え抜群。そういえばそれこそ三津田先生の物理波多矢シリーズもこの時代&こんな雰囲気でしたねぇ…『飢餓海峡』が好きな方はぜひ。
下巻ではガラリと雰囲気が変わり、警察の執念の捜査編。倒叙ミステリの色が濃くなります。上巻に登場したキャラクターが10年後に再登場するこの同窓会感には込み上げるものがあります。私が再会したのは数時間後でも、作中で10年経っていれば私の脳内でも10年後になっているのです。

下巻p110より引用
「徒労の日々が、今大きく助けになったと、弓坂はよろこんでいるのである。10年前の苦労を、弓坂はいま、いっきに思い起こしたのだ。誰にぶつけるようにも出来なかった10年の憤懣を、いま、消し飛ばすことが出来たのだ。」
その中でもやっぱり弓坂警部が報われるここがグッときましたね。

主題は"刑余者保護制度の欠陥"だと思われますが、東京という魔都や舞鶴・大湊などの田舎が抱える種々の問題点、そして人間としてのあり方など1000ページの中に大小様々なテーマが見え隠れします。


正直なところは8点だけど、大作を読み終わった後の達成感+犯人の独白に心打たれたので9点に。なにより説教臭くなく、全てのメッセージが物語に自然に落とし込まれているところがイイですね!

※本格だらけのランキングに紅一点の社会派 
1件目の空様の書評から13年を経て10件揃うって本サイト新参者の私でも何か感慨深いものが…


No.196 8点 瓶詰の地獄
夢野久作
(2023/09/16 14:56登録)
『ドグラ・マグラ』を読んでから頭が夢Qで埋め尽くされ、いつのまにか購入していました。角川の可愛いカバーで読了。収録作は『瓶詰の地獄』『人の顔』『死後の恋』『支那米の袋』『鉄鎚』『一足お先に』『冗談に殺す』の7作ですが、そのうち『瓶詰の地獄』と『死後の恋』は他の短編集で既に読んでいましたねぇ… もしかして夢野久作って作品数少ない?(泣) ちなみに解説はあの中井英夫です。滅多に見ないので驚いてしまいました。

【ネタバレがあります】


瓶詰の地獄 9点
再読です。代表作ですね。現代にも通用する趣向が見事。これは兄妹ではなく兄弟という可能性もあるのか?だとしたら聖書燃やしたくなるのも当然よね。

人の顔 6点
作中唯一のコメディタッチですね(嘘)

死後の恋 9点
再読となったがやはりこれが1番素晴らしい。臓器と宝石、猟奇と耽美の融合がなんとも美しく、初読時でもあのシーンでゾワッと鳥肌が立ったのを覚えています。なるほど『死後の恋』か

支那米の袋 7点
この作者の独白体好きですねぇ。しかしアレ、当時の日本で本当に流行っていたのでしょうか

鉄槌 7点
稀代の悪女の色気や艶かしさには読者も幻惑されてしまいます。しかし主人公、そこまで悪魔か?

一足お先に 8点
これはドグラ・マグラを構想するきっかけとなったオリジナルではないかと思われます。片足を無くしたモノに発症する特有の夢遊病、まさに短編版ドグラ・マグラという感じです。答えは闇の中ですねぇ… いつか整合性を分析して、論理的に犯人を導き出したいです。

冗談に殺す 6点
完全犯罪を完遂させた男による自供の謎。
ようわからん。自分が認識している時点で完全犯罪はあり得ない。必ず鏡にソレが滲み出る、鏡の恐ろしさといったテーマか。


No.195 7点 黒いトランク
鮎川哲也
(2023/09/15 15:45登録)
地理・地名・駅名に疎く、時刻表で思考停止する私には途中まで殺人現場やどこが犯罪不可能とされてるアリバイなのかを把握するのですら難解でした(笑)
しかし物語中盤、久々のアリバイリスト表に出会って興奮はマックスに。鮎川哲也の自信満々な声が幻聴する。「ヒントをたくさん示したぞ。このトリックがお前には見破れるか?」と…
複数の人間やトランクが錯綜する複雑な物語の末には、大変シンプルにして絶大な効果をもたらす仕掛けが明かされる。評価の高さにも納得ですね。星影龍三より鬼貫警部シリーズを少しずつ読み進めていけたらいいなと思います。
読破には8時間とページ数を考慮すると最長クラスの時間がかかった。やはり古典はまだまだ読むのがニガテだ。

※作品と関係ない余談
なぜ私の好きな作家が揃いも揃って鮎川哲也が好きなのか少し垣間見えました。なんと私は鮎川も連城も泡坂も土屋も笹沢も未読作ばかりですよ幸せ者ですなあ。本作品の元ネタ(?)らしいクロフツの『樽』も当然未読なので読まんと。 いやでも昔の作品は読み疲れるのでたまにで(笑)


No.194 8点 パノラマ島奇談
江戸川乱歩
(2023/09/13 21:17登録)
冒険モノを期待して読むと耽美で絢爛な幻想小説でした。
ここまでこの舞台を映像で見せてくれ!!と思わせたのは初めてで、パノラマ島の幽玄な描写に魅了されました。初恋の女性かずっと夢見たユートピアのどちらを選び取るのか見届ける作品でもあります。

(再読)これがいまのところ『芋虫』『孤島の鬼』に並んで最高作かもしれない。7点→8点


No.193 8点 八つ墓村
横溝正史
(2023/09/12 21:58登録)
当サイトのジャンル分けを全面的に信用すると、冒険/スリラー小説を読んだのは『孤島の鬼』に続いて2作品目。これはまずい。こちとら本格だけで手一杯なのに冒険小説の面白さに目覚めてしまう…

『八つ墓村』は横溝正史の代表作5つ(という認識で合ってるかは分からないが)の中で唯一冒険モノとなっていたので余り読む気力が湧かなかったんだけど、島田荘司の某作で気になり手にとって見た。

が、これはまさしく極上のエンターテイメント!!『孤島の鬼』同様私はラブストーリーに弱いのかもしれないし、ラブストーリーと冒険小説の相性が抜群なのかもしれない。
横溝正史の描く芯の通った頼もしい(時には恐ろしい)女性像はどれも心に残ります。
この名作に一つだけケチを付けるなら金田一耕助がちょっと頼りなさすぎ…(笑) その分典子の頼もしさが際立つのでアリだとは思いますが…

個人的には著者の代表5作品のうち本作品と『悪魔の手毬唄』が突出して好きですねぇ


No.192 10点 ドグラ・マグラ
夢野久作
(2023/09/10 15:40登録)
書評200作品目(嬉しい!)はコレで。拙い感想ばかりですがとりあえず300作まではがんばりたいところ…

私はライトな文体の新本格が大好物、古典は読むのが超ニガテ。しかしながら、読書歴の浅い私の早合点だとしても『ドグラ・マグラ』は他の追随を許さない作品、国内で最高評価を受けて然るべき作品ではないかと思ったので満点を献上。この作品を心の底から好きかと聞かれると答えはノーですが、宇宙からミステリ星人がやってきて「この国で1番優れた作品を出せ」と言われれば、迷いなく『ドグラ・マグラ』を差し出します。

一文一文が何一つ妥協のない選び抜かれた文章。構想に10年を要するのも納得の「胎児の夢」「脳髄論」などといった凄まじいガジェット。斬新奇抜にして驚天動地、眩暈のする真相には読了後に思わず本を置いて天を仰ぎ、こんな作品を世に出した夢野久作に感謝していました。
作中のとある絵巻物の魔力は1000年持続し、人々を狂わせていった。時代と共に節々に色褪せを感じさせる作品が多い中、本作品が内包する魅力はこの絵巻物と同様に、1000年後も色褪せない不変なモノであるとそう信じたいです。夢野久作の心理を遺伝した作家は今後現れないものか

【ネタバレなしのただの感想文】
社会進出を志した女性が大正時代に生きることの理不尽さや空虚さを描いたのが同じ夢野久作の『少女地獄』なら本作はさしずめ『狂人地獄』といったところか。な〜んだ奇書だとか良いつつ分かりやすいテーマじゃねぇかと序盤は思っていた。しかし、「キチガイ地獄外道祭分」あたりから一気に奇書らしくなり、やにわに探偵小説の頂点たる「脳髄小説」が始まる。

上巻182pより引用
「探偵小説というものは要するに脳髄のスポーツだからね。犯人の脳髄と、探偵の脳髄とが、秘術を尽くして鬼ゴッコや鼬ゴッコをやる。その間に生まれるいろいろな錯覚や、幻覚、倒錯観念の魅力でもって、読者の頭を引っぱって行くのが、探偵小説の身上じゃないか。ねッ。そうだろう」

いやあこれ、大変共感ですなあ。その脳髄の本質を探究するとはまさに絶対的探偵小説… 探偵小説の頂点に相応しい。さらに、作中で提唱されるトンデモ新学説「胎児の夢」では作者の美しい言葉選びに納得せざる…いやペテンをかけられているような…なんにせよこの陶酔感はなかなか味わえるものではない。



【要注意】【ここから核心に触れるネタバレあり】




語り手が犯人なんていう作品はたくさん読んできたが、語り手が実は胎児だったなんて作品は探偵小説においてはおそらく空前絶後だろう。この胎児、心理遺伝を考慮すると呉一郎とモヨ子の子供かなあ?
この作品は「心理は細胞単位で遺伝する」「胎児は10日で森羅万象の夢を見る」という2つの仮説を正木教授が倫理観を犠牲にしてでも証明する物語であり、それ以外のほとんどが作者からの目眩し(=ドグラ・マグラ)なのではないか。前者は正木自身が完遂し、後者は未遂に終わったため、この世界の創造者たる作者自らが答えを提示したんだと個人的には思っている。素人意見で全くの見当ハズレを言っているかもしれないが、こう考えると入り組んだ大迷宮に見えて本筋は実にシンプルな気がします。しかし、私が多くを理解できるほどシンプルなら三大奇書などと呼ばれるはずもなく、「斎藤教授は正木に殺害されたのか?」「絵巻物を呉一郎に見せたのは正木なのか?」「夢遊病者が執筆したドグラ・マグラは何だったのか(あくまでメタフィクションとしての役割としか持たないのか?) 。」「呉モヨ子は本当に生き延びて病棟にいるのかそれとも替え玉なのか。」「正木教授の自殺もしくは他殺の真の理由は?」などなど一読では曖昧な(ドグラマグラな)部分がその他多数存在する。初読よりむしろ2読目、3読目の方が楽しめるんではないかと思われます。
夢野久作の作品は大衆小説とは言え、私には大変重く、700ページ読むのに14時間もかかった。ので、古典文章を読み進められる熱量とこの作品を奥深くまで読みとこうという気概がある時に再読できたらいいな…いつになることやら…スカラカ…チャカポコ…スカラカ…チャカポコ


No.191 7点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2023/09/10 15:25登録)
【ネタバレなし】
乱歩賞作家の2作目繋がりでこれを読もうと手に取った。ハードカバーで450ページとなかなかのボリュームです。
前作『此の世の果ての殺人』の魅力的な舞台設定には敵いませんが、本格としては数段パワーアップしている印象を受けました。前作が合わなかった方も本格好きや人情モノが好きなら一読の価値は大いにあると思います。私だけかもしれませんが、第二部を読んで2000年代のあの国内作品を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか(伝わるんかなこれ)
とりあえず本ミスで3番には入って欲しいなと期待を込めて8点を付けたいところですが、この分量を支えるにはあと一つ衝撃成分が欲しかったのでこの点数で…申し訳ない。
あと帯の「Z世代のクリスティ」ってのいる??


No.190 6点 数学の女王
伏尾美紀
(2023/09/09 15:16登録)
【ネタバレなし】
博士号を持つ異色のノンキャリ警察官・沢村依理子シリーズ
『北緯43度のコールドケース』で江戸川乱歩賞を受賞した伏尾美紀先生のシリーズ2作品目。書評がゼロなのが寂しいところ。

偉大なるドイツの数学者カール・フリードニヒ・ガウスは数論が美しい理論であるだけでなく、他の分野に役に立たないことから「数論は数学の女王である」と言ったそう。
美しさと孤高を兼ね備えたのが『数学の女王』、本作品のタイトルの由来はここから来てるのかな?しかし、数学に関する記述はとても平易で最低限に留められており、ガウスのガの文字も出てきません。よって、そちらを求める方にはあまりお勧めできません。どちらかというとジェンダーバイアスや理系の女性研究院の苦悩がテーマです。
作品内では1990年代の大学院の情勢ですが今でも院に進学する理系の女性は非常に少ないですよね。自分の所属する研究室は20人中たった2人です。リケジョって言うの失礼なのかな〜って己の発言などを内省する機会となりました。


No.189 8点 涙流れるままに
島田荘司
(2023/09/03 19:39登録)
吉敷竹史シリーズ第15弾
15作品も読んでられねーよって方は『北の夕鶴2/3の殺人』→『羽衣伝説の記憶』→『飛鳥のガラスの靴』と読んでから『涙流れるままに』を読むと満足度が上がると思います。
あと読んでないの自分だけかもだが、横溝正史の『八つ墓村』も読んでおくと良いかも。横溝代表5作(?)のうち唯一未読だったので近々読むのが楽しみになった。


No.188 6点 飛鳥のガラスの靴
島田荘司
(2023/08/29 22:11登録)
吉敷竹史シリーズ第14弾 宗肖之助氏による解説にはシリーズの第十作にあたると書かれているがこれ如何に?

『奇想、天を動かす』から始まった吉敷と主任との対立は深まるばかりです… 無事、犯人を突き止めるが、主任にギャフンと言わせるわけでもないので読者の溜飲は下がらん。が、あえてそうしているのでしょうね。根強く残る男性中心主義から徐々に性差が緩和される昭和から平成への移り変わり。その構造が犯罪動機を生み、悲劇をもたらすこともしばしば。日本という特殊な島国が内包するあらゆる問題について考えさせられる一冊です。


No.187 5点 ら抜き言葉殺人事件
島田荘司
(2023/08/27 18:56登録)
吉敷竹史シリーズ第13弾
このシリーズの中で異彩を放っていて気になっていたタイトルでした。
「ら抜き言葉」を下品で軽薄で無教養で最低の言葉だとみなす「ら抜き言葉」撲滅論者vsら抜き言葉を使ってしまった人気作家の2人によるしょうもないバトルが繰り広げられます。ヒジョ〜に読んでいて楽しかったです。


No.186 7点 羽衣伝説の記憶
島田荘司
(2023/08/26 19:00登録)
吉敷竹史シリーズ第12弾 (どうやら『展望塔の殺人』も吉敷竹史シリーズに入るらしいので、過去のシリーズ第○弾と書いたのが1つずつズレている笑)

【ネタバレあります】

『北の夕鶴』以降シリーズ9作品を跨いで5年ぶりの登場となった加納通子。いやもう待望でしたよ。最近読み始めた私なんぞは10日ぶりの再会でしたが、シリーズ読者は待ち焦がれていたことでしょう。
そして、10日前に読んだ『北の夕鶴』の展開を結構忘れている私の記憶力に絶望しましたよ。
本編はミステリーが本当にオマケで、吉敷竹史と加納通子の5年ぶりの再会がメイン。『北の夕鶴』ではラブストーリーと事件がややミスマッチな感じがしましたが、こちらは程良い謎、程良い解決でした。麻衣子さん恐るべしです。

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