みりんさんの登録情報 | |
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平均点:6.66点 | 書評数:385件 |
No.385 | 7点 | 幽玄F 佐藤究 |
(2024/11/14 08:51登録) 傑作 戦闘機に魅入られて自衛隊に入隊した主人公透。透は自衛隊に入隊し、あれほど夢見た戦闘機を操縦することになるが、音速飛行における原因不明の窒息に悩まされる。 自衛隊を辞職し、観光用フライトのパイロットに転職した透。なぜ戦闘機に心を奪われたのかと改めて自問する。透は重力や地上のしがらみの束縛を断ち切り、血の補色である空を切り裂く力が欲しかった。領土の奪い合い(戦争)が水平的であれば、それを脱してはじめて垂直的。それが少年期に夢見た自由な飛翔。あの窒息は地上(水平)のしがらみにまみれた「護国の空」の息苦しさからくるものであった。フライトがただの仕事と割り切れるほどに、自分を見失っていた透は、バングラデシュで様々な人物に出会ったことで、とある転機が訪れる。結末は…まさにこれ以外ない!!! ミステリか疑わしいが、純文学寄りのアクション系エンターテイメント作品として逸品。三島由紀夫が好きな人や戦闘機に詳しい人は更に楽しめると思われる。私は知らなくても楽しめた。 |
No.384 | 6点 | QJKJQ 佐藤究 |
(2024/11/12 01:20登録) 純文学で勝負した『サージウスの死神』にはなかったエンタメ性・ミステリ要素が付与されて、それでもミエミエな展開なのはハナから織り込み済みか、最後はやはり純文学に終わる。どうもこの作者の作品には薬物中毒者のような世界観が広がっていて、読んでいると誇張抜きで頭痛や眩暈に襲われているような感覚になる。いや、たまたま体調不良だっただけか?ともかく、楽しい読書ではない…が…今まで読んできた優等生の権化のような江戸川乱歩賞作品とは一線を画す。ミステリの賞を与えるべきかどうかはともかく、この作者が新人離れした(当然か)とんでもない作家であることは間違いなさそう。 |
No.383 | 7点 | 天狗の面 土屋隆夫 |
(2024/11/10 17:18登録) 先日読んだ『猫は知っていた』と乱歩賞を争った作品だったのですね。 あちらと違って、こちらは語り口にいささか古さを感じさせますが、閉塞的な因習村の風土を味わうにはピッタリでした。こういう作風で読者への挑戦状の如きものがあるのには違和感がありますが、読者に挑戦しても問題なさそうなくらいフェアプレー精神です。半分当たって嬉しい。 実現可能か不可能かその狭間にある、いやむしろ宗教と風土を活かしたリアリティのあるトリックと同情の余地のある動機が私には新鮮で、定期的に補充していきたいところ |
No.382 | 7点 | 丸の内魔法少女ミラクリーナ 村田沙耶香 |
(2024/11/10 00:06登録) 魔法少女ごっこは幼児退行でなく処世術。決して、偽善や怒りの捌け口にしてはいけない真剣なパトロール。ミントスプラッシュ! 初恋という幻想の決壊『秘密の花園』 性愛を否定するこれこそ真愛『無性教室』 性格の伝染に対する警鐘『変容』 「エモい」とかいうワード嫌いなんだろうな。唱えたくなるパブリック・ネクスト・スピリット・プライオリティ・ホームパーティ! 荒唐無稽な設定と破茶滅茶な展開に笑える短編集。 |
No.381 | 8点 | だれもがポオを愛していた 平石貴樹 |
(2024/11/09 11:13登録) 『アッシャー家の崩壊』『ベレニス』『黒猫』『アナベル・リー』を予習し、楽しむ準備万端。 人間より物質、心理より論理、物語よりパズル。1985年の作品なのにド直球の本格推理小説! アメリカ文学専攻の東大教授だったら、もっと衒学趣味に彩られたポオづくしの作品にしてもいい所なのに、真相に関わる最低限の情報だけにとどめるあたり読者への配慮が伺えます。 かなり飛躍気味で唯一性に欠ける気がしなくもないが、壊れた窓を起点とする論理はよく練られていますし、見立て殺人の必然性もあって大満足でした。なにより『アッシャー家の崩壊』の読み方を根底から覆す衝撃的な新説が事件の真相に密接に関わっている点に感動しました。どんでん返しもトリックもほぼない作品に珍しく8点を(^^) しかし悲しきかな、私は『アッシャー家の崩壊』を3回以上は読んだはずなのに、ポオの真の狙いを1ミリも読み取れていなかったということか…………。 不満点は読んでいるとお腹が空いてくること。あと、女探偵には「お前が犯人だ」で決めて欲しかった! |
No.380 | 6点 | ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人 エドガー・アラン・ポー |
(2024/11/09 11:09登録) 某理由から『ベレニス』を再読したくて、どうせならと登録しました。本サイトのサ…(以下略) 実はちょっと前に一読している短編集なのですが、初読ではお話についていくので精一杯だった覚えがあります。新潮文庫ミステリー編と比較すると、詩を含めてマイナーなのが結構載っています。 記憶薄めの感想をいくつか 『告げ口心臓』 前も思ったけど、被害者と犯人はどういう関係?読み飛ばした? その時は罪悪感のある等身大の人間だなんだとか書いたが、ふつうに異常な感覚神経の持ち主ですね。 『ベレニス』 【ネタバレ注意】 ポーこそが死者蘇生のモノマニアではないかというくらい鉄板ネタ。偏執狂の語り手はベレニスに対する恋慕の情はなく、あくまで分析対象であることが強調されているのがポイントか。1835年の作品なので、何気に犯罪小説などを除いて○○が犯人の元祖だったりする?? 『詐欺-精神科学としての考察』 どの国どの時代にも巧妙な詐欺を考えつくやつはいるもんですね。 『楕円形の肖像画』 ドッペルゲンガーを扱った『ウィリアム・ウィルソン』と同じく、短編ながら前衛的というか着想が凄いですよね。 残りの80ページくらいに作品解題とポーの用語集あり。満足度アップ。 |
No.379 | 7点 | アッシャー家の崩壊/黄金虫 エドガー・アラン・ポー |
(2024/11/08 02:36登録) 某理由から『アッシャー家の崩壊』を再読したくて、どうせなら新しい訳で読もうということで登録しました。本サイトのサルガッソー海をさらに荒らす私は海の藻屑です。 ただ、ポーに振り落とされずに余裕を持って楽しめる小川高義さんの翻訳はなかなか良いぞよ。愛する女性との死別を描いた『アナベル・リー』『ライジーア』『大鴉』が3作並んでいて比較しやすい所も超ナイス。 『アナベル・リー』と『ライジーア』は愛する女性の名がそのままタイトルになっているだけでなく、語り手の思慕の情も似通っています。例えば引用すると↓ 「夜空に星が出るたびに 美しきアナベル・リーの輝く星が見えている」 「ライジーアの美しさが私の精神に染み込んで美神が居を定めたようになってからは、現実界に存在するさまざまなものを見るにつけ、あの大きな明るい双眸が私の内部にもたらす感覚と似たものを呼び起こされていたのだった-(中略)-望遠鏡で天の星を眺めていても、その一つか二つにはそんな感想を抱いた」 などです。詩と小説で表現媒体は違えど、同一のテーマでしょう。『ライジーア』は更に意志の超越や死者蘇生(ポー愛好)が加えられますが。『大鴉』に登場する大鴉の定型句「ネバーモア」は『ポー詩集』の阿部保訳では「またとない」と翻訳されていましたが、こちらでは「もはやない」となっています。死別に対する冷徹なアンサーであることを考えると、「またとない」の方が適していそうです。 この次が『ヴァルデマー氏の真相』。これまた生死の境界の曖昧さが催眠術の例を用いて説かれている。しかしこちらは上3作と違って、意志の強さや情は絡んで来ず、怪奇小説風味な終わり方となっています。 |
No.378 | 7点 | 世界名作探偵小説選 山中峯太郎 |
(2024/11/06 04:18登録) 『モルグ街の殺人』『黒猫』『盗まれた手紙』の復習が完了したので、ようやく人並由真さんにおすすめ頂いた本作を読みました(^^) 山中峯太郎という作家は本サイトにも2件の書評(どちらも人並さん)がありますが、ホームズシリーズを児童向けに翻案した『名探偵ホームズ全集』で人気を博していたそうです。原作と比較したい方は『告げ口心臓』『お前が犯人だ』も読んでおくべし。 いやあ、原作と違ってキャラクターが活発なジュブナイルは楽しいねぇ。小学生の時に読んだらモルグ街の衝撃にぶっとばされ、盗まれた秘密書で「なわけねえだろw」とか笑ってただろうな。 『モルグ街の怪声』 語り手と被害者が旧友であること、殺し方のマイルドさ、女記者の存在、釘と窓の話(これ原作より非常に分かりやすい!)などなど細かな変更点に加えて、なんと真犯人が変わっています。子供に馴染み深いように変更したのではないかと注釈には書いてありますが、高いキンキン声を出すイメージがあまりないなあ(笑) 意外な犯人像に忘れがちですが、原作の『モルグ街の殺人』は、分析力が独創性を包含する(分析力⊃独創性)の関係を示すために用いられた話です。そういった話を児童にしても仕方がないと思ったのか、この辺はカットですし、デュパンのプロファイリング描写もほぼなしです。そのかわりに<友だちとバナナ>の話が加えられており、これは「観察するだけではその人のことはほとんど何も分からない」という著者なりのデュパンに対する抗議でしょうかね。 『盗まれた秘密書』 元々は非常に短い分量であるためか、かなり魔改造されています。原作では手紙の隠し場所以外に謎はないのですが、山中版ではスパイは誰なのかという謎も追加。これにより、原作の「いやいや警察ならいくらなんでも気づくでしょう問題」や「犯人が分かってるのなら襲撃すればよくね問題」がある程度解消されています。他にも犯人の盗みの手口を明確に示すことで、後に効果的な使い方もされており、これは原作のリライトとしてかなり優秀だと思います。 『黒猫』 原作のゴシックホラーと呼ぶに相応しいラストが好きですが、本作は児童向けなので配慮されています。また、原作の方の妻は寡黙で優しくおしとやかな女性のイメージですが、本作の妻は黒猫に完全に取り憑かれており、語り手が狂っていく過程が丁寧に描写されています。というか原作の語り手は救いようのないクズなんですよね。その点、情状酌量の余地があって感情移入のできる『黒猫』はなんだか新鮮でした。原作にはいないデュパンの分析も見所です。ちなみになぜか『お前こそが犯人だ』も乗っています。現代基準では苦しいと感じたであろう所が色々改訂されてます。 このポーリライト企画は全5巻の予定だったそうですが、『マリー・ロジェの謎』と『黄金虫』は刊行されず3巻で終わっています。惜しい。 ※バロネス・オルツィとサックス・ローマーの方は原作を読んでから感想を追記しようと思っているので、点数は暫定ですm(_ _)m |
No.377 | 7点 | 黒猫/モルグ街の殺人 エドガー・アラン・ポー |
(2024/11/04 23:36登録) 本日2度目の『モルグ街の殺人』であるが(^^;)、これは素晴らしい! 翻訳は小川高義という方。『黒猫』『モル殺』はおそらく翻訳違いのをそれぞれ3つ以上は読みましたが、先ほど読んだ新潮文庫のポー短編集Ⅱの巽孝之の翻訳などに比べても圧倒的な読みやすさです。同時読み比べをすると、ワンセンテンスが短く、平易な語彙が用いられていることが明らかです。ポオの晦渋で格調高い文章を楽しみたい方にはおすすめできませんが、物語を全力で楽しみたい方にはこれがぴったりでしょう。 『本能vs理性 黒い猫について』 採点不能 ポーの飼っていた黒猫を例にとって本能と理性の境界の曖昧性について説くエッセイ。知的生命体という驕りによって、我々は理性を神格化する。 『アモンティリヤードの樽』 7点 こちらも犯罪小説。地下室、壁、モルタル、塗り固め、『黒猫』の人間版であり成功バージョン。やはり慢心は良くない。 『告げ口心臓』 5点 なんとこちらも犯罪小説。『黒猫』の使い回し多すぎ笑 しかしこちらは異常心理を持った犯罪者ではなく、罪悪感によって心臓が掻き乱されるような等身大の人間でありました。 『邪鬼』 8点 おいおいこれも犯罪小説だった。人間の行動原理は器官の作用によるもの。それとは別にひねくれた精神による作用「邪鬼」が存在するという。たとえば動機がないのが動機、というようなもの。それは魔性の情熱となり、人間を犯罪に駆り立てる。犯罪を白状させたのは理性かそれとも… 『ウィリアム・ウィルソン』 どっかで書評済み。 『早すぎた埋葬』 6点 こちらもどっかで書評済み…かと思いきやしてなかった。医学が未発達だった頃、生きたまま埋葬されることへの恐怖は尋常じゃなかったのでしょう。この作品集だけでも生者の埋葬は既に3作目、ポーはこのネタ多いよね。こちらはユーモア小説。ヨカッタネ |
No.376 | 5点 | 大渦巻への落下・灯台 -ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編- エドガー・アラン・ポー |
(2024/11/04 17:36登録) ゴシック編、ミステリ編に続きSF&ファンタジー編。前半の3つと『灯台』だけ拾い読みで良いと思います。『パノラマ島奇譚』が好きな方は『アルンハイムの地所』も読むべきかな。『ポー短編集Ⅳ 冒険編』みたいなのが一向に出る気配がないの、このアンソロのチョイスのせいだろ笑 『大渦巻への落下』 白髪になってしまった青年が、その原因となった奇怪な出来事を振り返る。これまた乱歩の『孤島の鬼』と似通っていますね。中身はまったくの別物で、サバイバル小説。語り手は生存本能よりも知的探求心が打ち勝ったからこそ生き延びた。図らずも人間讃歌になっていることが面白い。 『使い切った男』 今まで読んだポオ作品らしからぬコミカルな雰囲気。これなんでSF/ファンタジー編に入ってるの?と疑問に思っていたら、なるほど(笑) 『タール博士とフェザー教授』 これが本当の狂人の解放治療か!いやしかし現代の精神医療を風刺した夢野久作と保守派のポオでは逆のスタンスだな(すぐに登場人物の言動=作者の思想と決めつけるのは私の悪癖) 『メルツェルのチェスプレイヤー』 これははっきり言ってつまらなかった。プロに完勝する現代のコンピューターをポオに見せたい。 『メロンタ・タウタ』 2848年が舞台の正真正銘のSFだが、物語性がなくこれもつまらん。ちなみに未来予測は大外れ。いや2024年だからまだ断言はできないか…笑 『アルンハイムの地所』 なるほど、これも面白くはないけれど人工楽園系小説の始祖か。個人の資産で8兆円て… 『灯台』 とある灯台守が持ち場の灯台について違和感を抱く冒頭4ページだけで終わる、ポーの遺作?なにこれ、続きが気になりすぎるんだが。特に1.2メートルの厚みは怪しい、死体とか埋まってんのかな。 |
No.375 | 7点 | モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編- エドガー・アラン・ポー |
(2024/11/04 09:48登録) ゴシック編に続きミステリ編ですが、編集者の趣味か?非ミステリも混じっています。3読目ともなればかなり余裕を持って読める。隠し場所の意外さに気を取られてサラッと流していたが、何気にデュパンは数学の公理は異教の伝説みたいなもんだとディスりまくっているのを見逃してはいけない。代数学専門の兄に読ませたら発狂しそうな内容だ。ポーは知り合いの数学者に大嫌いな奴でもいたのだろうか、それとも詩人としてのプライドか。論理の『モルグ街の殺人』、心理の『盗まれた手紙』と記憶しておこう。 『群衆の人』は人間観察が趣味の語り手がとある老人に惹かれて尾行するお話。都会人なら誰しもが持つ感情、罪悪の権化、ただ集団にいるだけでは幸福も人生の意味も見出せないといった群衆の本質たるものが描かれているのだと思うが、まあよく分からん。翻訳もイマイチなそうなので他のでも読んでみるかな。 目玉は『ホップフロッグ』これが読みたかった!江戸川乱歩の『踊る一寸法師』はこれに影響を受けたらしいので。道化師とは基本的にいじられキャラなわけですが、それも度がすぎるとこういう結果を招いてしまうという教訓ですね。小学校の学級文庫に置いておくべきでしょう。ましてや彼は親友への暴力がきっかけになっているので、まだ幾分か優しいのですが… ホップフロッグは身体能力の欠如。それに対して、オランウータン(またもや笑)に仮装させたことは知性・品性の欠如を揶揄した皮肉でしょうか。天井を見上げるときたねえ花火が見えるという映像的に派手なラストは『踊る一寸法師』よりはるかに印象に残りました。 |
No.374 | 8点 | ぼくは化け物きみは怪物 白井智之 |
(2024/11/02 04:28登録) 「みんな教えて」のこのミス予想企画の期限もあと1ヶ月(隙あらば宣伝)、さすがにランキングに高確率で関わるであろう白井智之の新刊は読まねばなりませんね。はじめの方は「2年連続大傑作を拵えてきたシラユキ先生でもたまには凡作も書いちゃうよね…(安心)」と油断していたら……… 『最初の事件』 5点 掴みとしてはかなり良い、なんたって小学生名探偵の最初の事件だからね。ここからアフリカ・韓国・時間兵器…etcとお話が広がっていくかと思いきや、ぶつ切り!もったいない!! 『大きな手の悪魔』 6〜7点 「尼崎事件」が元ネタか。狡猾な老婆と紳士な悪魔の頭脳戦。いくらなんでも紳士すぎるでしょ山羊さん… 『菜々子の中で死んだ男』 7〜8点 犯人探しの遊郭巡りと飛躍ロジック楽しく、最後に浮かび上がるタイトルの意味もお見事。 『モーティリアンの手首』 6点 まさかの地学ミステリ。化石に執着する男とその貴婦人、それぞれの思惑は3万年の時を超えて地層に生き続ける。設定がいつもよりSF特化。いつかハードSFとかも読んでみたいね。 【以下ネタバレ注意 『名探偵のいけにえ』に関する言及もあり】 『天使と怪物』 9〜10点 1つ1つの密室は既出のアイデアであるが、本作の凄さは3通りの不具者に適した3通りの真相、多重解決に対する新たな試み、異様な現場の状況に筋を通す真犯人の動機。何から何まで計算され尽くさている。密室に対して数通りの解を出し、多重解決を意味のあるものに昇華させたという点で『名探偵のいけにえ』を思い出さずにはいられない。そう、怪物とは白井智之だったんだな… 短編でここまでの完成度の作品は正直見たことがない。 ただ、短編集としてみると『死体の汁を啜れ』の方が上かな。 |
No.373 | 7点 | 蛇影の館 松城明 |
(2024/10/30 16:09登録) 特殊設定ミステリって要は「オレの考えた最強のルール」の中で謎解きが行われるわけなので、ネタ切れ気味のトリック界隈に新風を吹き込ませるのが魅力です。(例:エレファントヘッド) その一方で、①設定に上手く馴染めなかったり、②設定そのものが壮大すぎたり、③制約がなさすぎたりすると、「もう勝手にやっとけ」「殺人なんてこの際どうでもよくね?」「なんでもありかよ」となるのが弱点です。 本作はどうも①と②のきらいがあって、合わない方も結構いると思われますね。私もルールを追うのにかなり苦戦して読み疲れました。 本作の設定は寄生獣みたいな感じ。蛇だけど。 部屋密室・蛇密室・肉体密室の三重の密室をどう突破するのかに引っ張られてずっと読んでましたが、なるほどその手があったかと思わずニヤリとするトリックでした。想像を絶するほどではありませんでしたが、個人的にはこういう作品は好意的に評価したいところです。 |
No.372 | 7点 | 一寸法師 江戸川乱歩 |
(2024/10/29 04:43登録) 『地獄の道化師』の続きに収録。あちらと比べると、やたら読みにくい上に真相の納得感で数段落ちますが、『黒蜥蜴』『蜘蛛男』『暗黒星』よりは本格推理小説としてよく練られている印象です。明智小五郎って日本三大探偵なのに結構ダークなやつだな。結末がお決まりパターンから脱却していて気に入ったのでこちらも7点。 |
No.371 | 7点 | 地獄の道化師 江戸川乱歩 |
(2024/10/29 04:41登録) 犯人消失トリック・犯人の意外性・真相の納得感など、今まで読んできた乱歩の通俗物の中では出色の出来映えだと思いました。私は空さんが指摘している誘拐の描写ですっかりミスリードされたせいで、真相は普通に衝撃的でありました。なにかと謙遜(というか卑下)するイメージの乱歩でさえも「通俗ものながら、犯人の意外性の構成は、ややうまくできていたのではないかと思う」と言っています。それにしても、男の○○○は流石にズルいwww 話の流れは毎度お決まりのパターンですが、それでそれなりに面白くなってしまうので仕方ないです。 |
No.370 | 5点 | 少年探偵団 江戸川乱歩 |
(2024/10/29 04:28登録) 俺みたいなハタチ超えて、児童書コーナーで少年探偵団シリーズ漁ってる野郎、他に、いますかっていねーか、はは 少年時代はつゆ知らず、これは匂うなあ…小林芳雄少年と明智小五郎のただならぬ関係…怪しいロマンスの雰囲気が… 頬を赤らめたり、○○させたり、『暗黒星』でもそうだったが、明智はひょっとして美少年嗜好が強いのだろうか。そういう描写をあえて入れてるような気がするんだが、考えすぎか? 少年探偵団シリーズ26作を読んで書評していこうかと思ったが流石にやめておこう(笑) 大人向けの方に戻ります。 |
No.369 | 6点 | 怪人二十面相 江戸川乱歩 |
(2024/10/29 04:23登録) 掲示板にて大人になってから再読したという方がいて、私もつい。 怪人二十面相はその存在自体がミステリアスな神出鬼没の超人というイメージでしたが、意外と協力者をお金で買収したり、明智と煽り合ったり、子供にいっぱい食わされたりと、人間臭いのが意外でした。 当時の少年達が寝る間も惜しんで、夢中に読んでいる姿が目に浮かびます。 乱歩がティーン向けに書いた作品は、区別のために「明智小五郎シリーズ」より「少年探偵団シリーズ」にした方が良さそう…? |
No.368 | 7点 | 眼の壁 松本清張 |
(2024/10/27 11:57登録) 鮎哲サンのせいで松本清張が読みたくなり、清張を崇拝する祖母から借りた『眼の壁』を本棚から取り出した次第。 手形詐欺事件を苦に自殺した上司の仇を撃つべく、萩崎は記者の友人と組んで調査に乗り出す。相手は右翼の大物。事件の鍵を握る女の影。萩崎は密かに恋心を抱く。 『ゼロの焦点』とは違って、ラストはあっけない点や黒幕の背景がボカされた点が悔やまれるところではあるが、テンポも良いし、サスペンスとしてもすこぶる面白い。が、祖母の御眼鏡には適わない様子である。 |
No.367 | 7点 | 黒い白鳥 鮎川哲也 |
(2024/10/26 17:27登録) 【松本清張作品のネタバレもあり】 輝かしい道を歩いてきたと思われる人間がその実… というのがタイトルに隠された意味でしょう。知らんけど。 似た内容に対して鮎川哲也は『黒い白鳥』、松本清張は『ゼロの焦点』と題して同時連載をしていたなんて、ものすごい偶然があるもんなんですね。それともただ終戦直後の日本の暗部を描くのが流行っていただけなのでしょうか?同じ意味だとしても私は清張のタイトルの方がおしゃれで好きです。 内容について。鮎川哲也というより鬼貫警部シリーズ?はやはり激渋です。このアリバイトリックは流石にリスクありすぎだろというようなつまらんツッコミはさておき、やはり鬼貫の捜査プロセスを楽しむものです。たとえ容疑者に犯行が絶望的に不可能に見えたとしても、あらゆる可能性を検討し、一縷の望みに賭け続ける鬼貫サンが魅力なのです。そして犯人の動機にも… |
No.366 | 5点 | 猫は知っていた 仁木悦子 |
(2024/10/22 22:25登録) 1957年出版とは到底思えません。今年出版されたと言われても、レトロなアイテムが出てくること以外に違和感は抱かないでしょう。ただ、65年以上前であることを考慮しても、鮎川哲也・横溝正史・高木彬光あたりが既に台頭していたわけで(たぶん)、本格ミステリとしてはそこまで傑出した出来だとは思えません。柔らかくて温かみのある筆致と適度にゆる〜くほのぼのした雰囲気で凄惨な連続殺人が起こるというそのギャップが受けたのかなあ?と妄想です。当時は女流の本格推理作家というのも大変珍しかったそうですね。 |