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ミステリの祭典

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モグラの対義語はモゲラさんの登録情報
平均点:5.95点 書評数:44件

プロフィール| 書評

No.24 6点 ぼくと、ぼくらの夏
樋口有介
(2021/11/20 04:57登録)
読んだのは文庫本版。
主人公のキャラおよび周りのキャラや雰囲気が人を選ぶだろうなというのが、序盤を読んでいる最中の印象であった。今日日流行らないような情景や設定が頻出し、どちらかというと悪い意味で古臭く感じるのだが、実際古い作品なので仕方がない。でもここまで来ると正直ファンタジーに片足を突っ込むようなレベルなのだが、実際昭和の先っぽや平成初期はこういう高校生たちがいたのだろうか?
作品の内容は綺麗にまとまっている。出てきた登場人物たちがちゃんと回収されていき、最初の事件の犯人の指名の根拠も分かりやすい。
青春小説としてはあまりリアリティが無いが、まあ何というか、ライトハードボイルドみたいなジャンルだと思って読んでいて面白いと感じたので、そういう姿勢で読むのが正解なのかもしれない。
つまらなかったわけではないのだが、ミステリとしてはこじんまりとしていて、ベタな展開といえばベタな展開だったのでこの点数。


No.23 4点 神酒クリニックで乾杯を
知念実希人
(2021/11/16 05:45登録)
読んだのは文庫本版。
非常に軽いノリの刑事ミステリもどきだった。事件を捜査する主人公らは刑事ではなく医者なので、刑事ミステリとは言えないのかもしれないが、コージーミステリというには話が大きく、また扱ってる話が社会派過ぎる気がし、ではサスペンスやハードボイルドの類かというと、雰囲気が軽すぎるので違うと思われた。こういうののジャンルって難しい。
一昔前ならもしかしたらラノベとして扱われさえしそうな雰囲気やキャラクターの描写に、正直最後まで慣れなかったのだが、ストーリーそのものは真っ当に楽しめた。特に麻薬密輸関連の話題はニュースでも聞いた話であり、それまで作中で出てきた裏社会の繋がりだの資産家や政治家限定を相手にする医者だのというベタな設定群と比較して妙なリアリティがあり、そこからそこそこ惹きこまれた。
が、少々ありきたり過ぎるというか教科書的過ぎるというか、まあ映像化される作品らしいテンションではあるのだが、どうしても受け入れきれなかった。
キャラの立ってるベタな捜査ものを読みたい人にお薦めできるだろうが、私の好みではなかった。


No.22 6点 時空犯
潮谷験
(2021/10/18 18:38登録)
読んだのは単行本版。今年の作品だしそりゃそうか。
主人公がループする回数は数回程度なのだが、他のこの手の作品と違いかなりの人数がループを認知し繰り返しており、またそれぞれが己の仕事や目的を全うしようとするので、同種のギミックを扱う「七回死んだ男」や「サクラダリセット」とはまた違った魅力を湛えている作品になっていると思った。これら二つの作品は「同じことを同じ場所で繰り返す」という前に進まない感じに引っ張られているような、若干覇気のない平和な雰囲気が全体的に流れているように感じるのだが、この「時空犯」にはそれが無かったのだ。刺激的に話が動いている。
特に三章後半からのセンミウアートとの邂逅までは、実にメフィスト賞でデビューした作家らしい過激かつ予想外な展開で、ページに噛り付いた。それらがちゃんと推理の屋台骨を支えるのもらしいポイントだと思う。
が、情景描写の点やループ現象に関する考察や博士の研究の考察などで、もの足りないというか、もっと言葉が欲しいと思うことが多かった。もっともっと映像的に凝ってもいいし、論理展開もどうも思い込みゆえの飛躍があるように感じられたのだ。展開や話を進めることそのものに引っ張られているというか。ある意味小説全体に無駄が無いと言えるかもしれないが、私には味気無さというマイナスポイントに映った。
事件も単純すぎる。一本の推理で終わってしまうのは物足りない。時間を利用した巧緻で遠大なミステリを望んでいる人には勧められない。ミステリ好きよりクラークが好きだったりするような古典的なSF好きの方が楽しめる…かも。


No.21 6点 自由研究には向かない殺人
ホリー・ジャクソン
(2021/10/07 16:56登録)
読んだのは文庫本版。ていうか文庫しかないし。
自由研究(EPQ)の課題で過去の事件の真相を少女が暴いていくという、どちらかというとミステリ小説によくある現実味の若干欠けた指向の作品なのだが、その割に読んでいる最中はリアリティを感じながら楽しめた。
その秘密は解説にもある通り、EPQ課題という枠内で、徹底的に主人公の視点で物語を描いているからであろう。随所に挟まれる課題の作業記録内で、電子画面上でのやり取りを描く際にはネットスラングが省かれること無く描かれ(「笑」として訳されている部分が、恐らく原著では'lol'だったのではないか)、参考資料を纏めている記録では架空のurlまで引用元としてしっかりと書かれている。メッセージアプリのやり取りや警察の開示情報などにも工夫があり、それらがリアリティを生んでいるのだろう。ここまで執拗に主人公の視点をそのまま書こうとしている、紙面で再現しようとしている作品に出会ったのは初めてだ。きっと探せば他にあるんだろうけども。
PC内の履歴やSIMカード、SNS上でのやり取りやスマホアプリが物語のカギを握るのも、非常に現代的で好きだ。まあ現代を舞台にミステリを書くなら、それくらい無ければ不自然というものだが。
EPQ課題というもの自体が、どうやらここ20年の間に広まっていった文化らしい。時代をかなり反映したミステリなのではないか。
しかし、若干こじんまりとした容疑者の範囲や、そもそも探偵役が素人である点や薬物等が出てくる割に血の気の多い描写が少なかったり恋愛要素があったりと、ややコージーミステリに近いテンションでそれがあまり好みではなかった。


No.20 7点 紅蓮館の殺人
阿津川辰海
(2021/09/27 20:46登録)
これ文庫本書下ろしなんですってね。
とにかく後半の息もつかせぬ解決編が面白かった。次々と前振りを拾っていき登場人物たちの不自然なふるまいを解き明かしつつ、館脱出に当たっての件も隠し通路の看破やその過程で伏線を回収、さらに意外な人物の登場が示唆され、そしてちゃんと最後には殺人事件の犯人も解決しつつ最後に苦いものが残る、と全く飽きさせないものになっている。展開だけなら非常に私好みで、1章終盤からは夢中になって読んでいた。
特に釣り天井の部屋の秘密と被害者の具体的な死に方については、もしかしたら私が寡聞にして知らないだけかもしれないが、なかなか斬新な騙し方だなと思った。
ただ文章、というか作品全体の雰囲気がよく引っかかった。メディアミックスを意識しているかのような、というより映像や漫画をそのまま文章に落とし込もうとしたような過剰な演出が目立ち、またキャラも台詞も心象風景もクサかった。のっけから主人公勢が合宿を抜け出すという私としては若干引くシーンで、以降もどの人物に対しても感情移入しにくい描写が続き、作者の操り人形感が否めなかった。まあこの作品、設定のどこをとってもリアリティとはかけ離れたもので、だからこそ描ける面白さを持つ作品であるので、キャラ描写云々という指摘は野暮かもしれない。探偵についての哲学のぶつけ合いも、キャラ描写のせいか正直退屈だった。どこかで見たような議論や主張の、焼き直しにさえなっていないように思えた。総じて小説としてはかなり低得点である。
作中の推理も、幾つかは決定的な突き付けというより、やや爪の甘いものを連打して積み上げているような感じで、快刀乱麻というほどでもなかった。良くも悪くも数で勝負する作品と言える。
館ものやクローズドサークルものの王道を行かず(そもそも多分、厳密にはクローズドじゃないし)、独自のテンポで話が進んでいくので、タイトルに悪い意味で騙されたという気分も無くはない。
が、それだけたくさんのマイナス点があっても、なお高く評価できるくらいのパワーと勢いと謎解きの快感のある作品だった。


No.19 8点 写楽殺人事件
高橋克彦
(2021/09/18 06:52登録)
読んだのは文庫本版。
前半の写楽や日本画に関する蘊蓄の数々、また作中内で提示された写楽の正体は非常に興味深かった。全く歴史に詳しくない私でも楽しめたのは、非常に丁寧に作中で個々の人物が説明されるだけでなく、田沼や松平と言った江戸期のビッグネームがその中で言及されたからもあろう。芸術や日本史に暗くても楽しめる歴史ミステリというのは珍しい、と勝手に思っている。
そしてその歴史ミステリで終わらず、陰謀渦巻く日本画界隈を舞台とした殺人劇も面白かった。特に犯人らの目的の変遷の仕方が好きだ。ちゃんと前半部分で語られた蘊蓄が論理的に絡んでいて良い。「罠」の張り方も面白かった。てっきり最後まで絵の蘊蓄で攻めると思っていたから、予想を外してしまった。
最後まで飽きず色々な楽しみ方が出来たので、個人的にはこの作品はポイント高い。


No.18 5点 「死霊」殺人事件
今邑彩
(2021/09/14 00:59登録)
読んだのは文庫本版。
死人が殺したとしか思えない事件を発端として、ドロドロとしたかつて俳優志望の若者だった者たちの人間関係や過去の事件、そしてそれらが落とした影が作り出した第二第三の事件が起こる、という展開は飽きないものだった。しかし、読み切ってみるとどうも作品の印象がぼやけるものだなと感じた。
多分、作品のメインとなる死体が起こしたような事件に、その俳優の元嫁の死や判明していなかったもう一つの事件は、ほとんど関わりが無いものであるからだろう。なんというか、とっ散らかっているようで気になったのだ。
とはいえ「死霊」がテーマであるという点がどれも共通しているのは好きだ。「死者」の桐子がある意味原因であったり(例の成功体験が無ければ多分奥沢の事件は起きてないし)、本来死んでいるはずの者が生き残り生きているはずの者が死んだために事件が複雑化したり……と徹底的に生死の違いが話を面白くしている。まあそうでなきゃこんな題名にしないよなあ。あとがきにもある通りアリバイ崩しに拘っているのも良い。そうした統一感があるからこそ最後まで楽しく読めた。
とはいえどの事件のオチもベタといえばベタで、やっぱり事件同士のつながりの薄さも気になる。5点が丁度いいんじゃないかなあ。


No.17 7点 モザイク事件帳
小林泰三
(2021/09/07 06:40登録)
読んだのは「大きな森の小さな密室」と改題された文庫版。
個々の短編の質にはかなり差があり、多分何が良くて何が悪いかも人に寄りけりだろうなと思わせる、要するにかなりごった煮な短編集だったのだが、その一冊で様々な味が楽しめる点が気に入った。強いて共通項を挙げるなら、どの作品も起こっている事象の割にあまりにもノリが軽すぎる点か。まあそもそもどの話もリアリティに欠け、何なら「バカミス」章以降は全部バカミスにしてもいいくらいな短編集である。そのノリや文は内容に合っていて、個人的にはマイナス点に映らなかった。
特に面白かったのは「犯人当て」と「メタ」の話だ。前者は犯人の検討こそ簡単なものの、作中でも書かれていた私のような初級者が囚われがちな「密室は好んで計画にしない」という思考の裏をかいている。そのテーマをちゃんと説明してくれる点も含めて良かった。後者も論理学を用いた裏テーマを感じ、メタネタによって強引かつ上手に落とし込んでいるのが好きだ。単なるメタネタからの犯人当てで終わっていたら全く楽しめなかっただろう。寧ろこの犯人当てしたいがためのメタネタなんだろうなあ。
やや爪の甘い話があったり冗長な会話にうんざりしたこともあったが、それは作品全体のテンションでちょっと許しちゃうかな。別に大真面目な小説の看板を掲げていたわけじゃないし。


No.16 6点 天使が開けた密室
谷原秋桜子
(2021/09/04 09:20登録)
読んだのは創元推理版。
元々ライトノベルレーベルの作品だったので仕方ないのだが、キャラクター描写はかなりそっちより、それも相当古いタイプのそれだったので、読んでる最中もこれは人を選ぶだろうなと思わずにはいられなかった。とはいえ、近年の小説はむしろもっと味付けが濃く、それが悪い方に振れてしまい読んでて不快なことも少なくないので、相対的には自分に合っていたと思う。
その文体のせいで読み進めるのが億劫だったが、内容は結構普通の本格ミステリだったので読後の印象は良い。トリックや真実や展開の雰囲気は逆転裁判を思わせた。事件が起こるのが後半で前振りが長すぎるのが難だが、程々にフェアなミステリをやりつつ定石通りの意外な真実を魅せてくれて、前半部で抱いた印象を覆してくれた。
色々と軽い作品だが、軽いことを一つの目的としているのがラノベなので、そこをクリアしているのも個人的にはポイントが高い。


No.15 5点 厭な小説
京極夏彦
(2021/09/02 03:22登録)
読んだのは文庫本版。
いつもの京極夏彦らしい割と読みやすい文章で延々と続く厭なホラーは面白かった。
が、名前の割にあまり「厭」という感じのしない題材だったなあというのが正直な感想。もっと生理的に受け付け難い何かのようなものを想定していたので、結構普通の「世にも奇妙な物語」だったので拍子抜けしてしまった。決してベタ過ぎて退屈とかそういうことではないのだが、巧みな構成で驚くという事も無く、震え上がるという事も無く、楽しめるほどの不快感を描写から感じることも無かった。もっともっと「厭」を前面に押し出して読むのも辛くなるような物を想定していたのだが、読む前の期待値が無駄に高すぎたかもしれないなあ。
普通の怖い話が読みたいと言っている人間には勧めやすいのだが、自分の欲しかった魅力にはあまり答えていないのでこの点数。


No.14 5点 バルコニーの男
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2021/08/14 14:08登録)
真っ当な警察小説で満足した。
連続強盗事件と連続女児強姦事件が同時進行し、それらが関わり合い結構濃密なストーリーになっていて面白いと思った。当時の(もしかしたら今でも同様な)スウェーデン社会の暗部や歪み、それらに対するスウェーデン警察としての態度や現代にも通じる風刺も良い味付けになっていると思う。
実際にあった事件をモデルにしてるからか、かなり吹っ飛んだ事件であり捜査も結構偶然に頼っているものなはずなのに、そこそこリアリティを感じて読めるのも良い。まあむしろ実際の事件程偶然に助けられる要素が多いのかもしれないが。
嫌いな作品ではないのだが、ほんのちょっとコミカルというか、事件の重大さや社会の暗さを描く割に、ルンドグレンの証言の信ぴょう性を確かめる件などほんの少し滑稽劇的な展開や文がありそれが浮いているような気がしたのでこの点数。
でも気分が沈み過ぎずに読めると考えたらむしろ評価点、かも。


No.13 5点 瓶詰の地獄
夢野久作
(2021/07/19 10:57登録)
読んだのは表紙が凝ってる文庫版。
ミステリというよりは、ホラーを取り入れた文学作品、といった趣向の短編集だった。タイプの違った人間の業を非常に読みやすい文章で魅せてくれた。
とはいえミステリっぽい要素を持っている作品も多かった。『死後の恋』『支那米の袋』『一足お先に』がそれにあたると思う。
最も面白かったのは『鉄槌』だ。異能力系経済小説という現代でも見られないジャンルで、どの人物もキャラが立っているだけでなく、だいたいの読者が考えるであろうオチを越えたラストを持ってきていて、考察でずっと楽しめる。作品のスピードも良い。
でもミステリというジャンルでの面白さはそこまで大きくなかったので、点数としてはやや低め。


No.12 7点 グリーン家殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2021/07/05 03:12登録)
読んだのは59年の文庫版の34刷り目。
面白かった。陳腐な表現だが普通に面白かった。古い作品だからどうだろうなんて心配は杞憂だった。犯人像を掴ませず展開を右往左往させながら、解くべき犯人の心理やトリックのある事件を重ねていくという、お手本のような本格ものだった。そもそもお手本なのだがら当たり前だが。

特に第三の殺人の種で唸ってしまった。いやそれはベタ過ぎるし狡いだろというトリックだったのだが、作中で示されていた謎を考えたら、そこまでたどり着くのが不可能な後出しでもなかった。ちゃんと推理してないくせに「えそれは狡くね」なんて言ってごめんなさい。でもベタだと思う。まあトリックそのものは過去からの模倣だし。

が、その過去の犯罪者のやり口の模倣と言うのも、歴代の犯罪者たちの知恵の結晶で勝負に出ているという、なんというか少年漫画とかゲームに出てくるような展開で好きだ。まあそもそも古典作品なのだから、この頃からあった物語の方法論を現代のコンテンツも使っているというだけなんだろうが。

面白かったのは間違いないが、誰がやったかは割と分かりやすく、先述のトリック(?)も、どんなに暗示する手掛かりがあったとは言っても、人によっては受け入れ難いタイプのものだと思う。でも古典ということも考えると点数はこれぐらいかなあ。


No.11 7点 妖魔の森の家
ジョン・ディクスン・カー
(2021/06/20 19:34登録)
どれも上手くミスリードして心地よく裏切ってくれた。特に表題作は脱出トリックのことばかり考えていたので、最終的に全然違う結末に持っていかれて度肝抜かれた。こういう作品を知らないわけではないのだが、既に一回起こっている密室からの脱出および侵入の事件にうまく誘導されて完全に油断してしまった。他の作品も、特に「第三の銃弾」や「軽率だった夜盗」は「こういうトリック、構成を書きたい」という明確なテーマが感じられつつ綺麗なミスリードがあって面白かった。

非常にどうでもいいことだが、どの作品も志向は違うのに何故か統一感が感じられたのが不思議だった。なんでだろう。奇妙で複雑な事件ばかりなのは勿論、「誰かの想定している前提条件が事件時変わっていた」という点が共通しているんだろうか。特に表題作以外は、計画と現実のすり合わせの結果奇妙で複雑な事件になっているというものばかりだった。そういえばここまでハプニング尽くしな短編集読んだのは初めてかも。


No.10 7点 黒い仏
殊能将之
(2021/06/05 19:08登録)
読んだのはノベルス版。事前にコズミックや夏と冬の奏鳴曲とある意味並ぶと聞いていたのが良かったのだろう、普通に楽しめた。

禁じ手が繰り出されるだろうと言う予想は、二章の最後で早々に分かるものだし、そのためにミステリとしての面白さが無くなったと言う事も個人的には無かった。「探偵がどういう論理で犯人やトリックを推理するのか」と言う事にしか興味がない人間は、普通に楽しめるのではないだろうか。むしろその推理によって事象がゆがめられていく感じは真っ当なアンチミステリ、メタミステリ的で面白かった。そんなのに真っ当も糞もあるのかはともかく。逆に真実がどうであるか拘りたい人がこれを読むと本をひっ割いてしまうだろう。

キャラも、設定面はともかく性格的には程よく立っていて丁度よかった。文章も読みやすい。この手のはキャラの味が濃すぎて読みづらかったりすることがあるので、そういう意味でも自分の中ではこの作品はポイントが高い。ふざけた作品なのに澄まして欲しいところは澄ましている。
あと微妙にセカイ系っぽい味付けなのも、自分の嗜好にマッチしていたのかもしれない。全てが詳細に語られること無く終わる感じが特に。

本当ならコズミックと同じく5点ぐらいがいいのかもしれないが、まあでも、真っ当なミステリ作品として楽しめないことも無いような気がしないでもないので7点で。
ああでも、もっと低い点数のがいいかなあ……。地雷ではあるもんなぁ……。まあいいか。踏み抜け踏み抜け。


No.9 7点 涙香迷宮
竹本健治
(2021/05/31 06:40登録)
読んだのは文庫版。
黒岩涙香、いろは歌、連珠、その他の完全情報ゲームなど、さまざまなジャンルの蘊蓄がこれでもかとつまっていて、非常に面白かった一方、疲れた。
ストーリーそのものはそこまで入り組んでおらず、軽快な会話の中で蘊蓄が続くので、読むのが苦痛になるというほどではなかったが、人によってはダレてしまうかもしれない。ミステリ小説らしいテンションになってくるのは、主観ではページ全体の3分の2ぐらいを読んだあたりからで、ここもダレる要因かも。

だがそこはこの作品の醍醐味ではなく、作者が作り上げた圧倒される量のいろは歌と、それに仕込まれた難解な暗号がメインディッシュであろう。帯に書いてあった「日本語の新たな可能性まで切り拓く小説である」という文に偽りなかった。ミステリ小説としてどうかはともかく、その凄まじい言葉遊びは存分に楽しめた。


No.8 2点 増加博士の事件簿
二階堂黎人
(2021/05/28 01:01登録)
ショートショート集なので多くを求めるのは間違いなのかもしれないのだが、あまり人に薦められる作品では無かった。

ダイイングメッセージ系が多く、それも結構強引なものが大半であまり面白くなかったし、しかしダイイングメッセージで統一されているわけではなかったので、「次のを当てよう」というモチベーションも湧かなかった。そしてダイイングメッセージ以外のもすぐ看破できるものであったり強引な物であったりと、ミステリとして楽しんで読めるものではなかった。

せめてキャラ以外にもう一つ統一感が欲しいなあ。


No.7 8点 模倣の殺意
中町信
(2021/05/20 18:39登録)
読んだのは文庫本版。所々引っかかる点がちゃんと回収されて心地よかった。今となっては割とベタなタイプの作品なのだが、それでもフーダニットが読み切れなかったので最後まで楽しめた。分かる人はちゃんと推測っていうか推理できるんだろうけどなあ。自分もまだまだ。

割と複雑な構成なので、断続的に読むと頭の中でぐちゃぐちゃになるかもしれない。というかなった。そこは人によってはウィークポイントに映るだろうか。まあそもそもそういう不自然さとその昇華が醍醐味の作品なので当たり前っちゃあ当たり前か。

細やかなトリックから大胆なアイデアまでふんだんに盛り込みながらこの短さ、もっと知名度があっても良い、隠れた良作だと思う。


No.6 4点 眼球堂の殺人~The Book~
周木律
(2021/05/10 05:39登録)
トリックや真相、展開を読みやすい作品だったのでずっと楽しめたわけではないが、全部が完全に分かってしまってつまらないと言う事も無かった。
あまりミステリーを読んだことが無い人は度肝を抜かれてかなり面白がれると思う。逆にメフィスト賞作品をよく読んでいる人は、良くも悪くもメフィスト賞らしい作品なので結構退屈するんじゃないかなあ。100点回答を出来る人もかなりいると思われる。

個人的にこれを読むにあたって大いにネックだったのが、文章である。胡乱な言い回しが多いというか、書きたいキャラクター性に引っ張られ過ぎてるというか、文体の標準が合わないというか。この作者と全く合わないというわけではなく、処女作らしい文章と言う事なのかもしれない。
キャラクターも合わなかった。特に、主人公の探偵役には、はっきり言って最後まで魅力を感じなかった。どこが、と指摘は出来ないのだが、何となく書きたい展開に合わせた結果言動に一貫性が無いように思われた。

大きいトリックの作品は結構好きなのだが、解決編が始まってちょっと経ったぐらいまで作品に没入できなかったのと、もっと予想外のことをして欲しかったりもっと鮮やかな論理を見せて欲しかったという不満もあるので、点数としてはこれくらいかなあ。


No.5 5点 パノラマ島奇談
江戸川乱歩
(2021/04/19 16:05登録)
ミステリとして面白い作品ではなく、幻想小説というか、パノラマ島の非現実的な描写を楽しむ作品だったなという印象。その辺りが一番惹きこまれた。描写に明らかに熱がこもっており、またその世界を実現させるために使った技術がぶっ飛んだ物でないのが良い。今こういう作品を書くとすると、CGだのAR技術だのが入ってきてしまいそうで、それらを使ってしまうとこの小説程の浪漫は出せない気がする。
一応、ミステリらしい謎と解決的な要素はあるのだが、まあそれは別に巧みな推理というわけではない。
単純に読み物として面白く、恐らく人を選ばない文章で、オチが個人的に好きな一方、先述の通りミステリとして楽しめるわけではないので5点。

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