よんさんの登録情報 | |
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平均点:6.58点 | 書評数:90件 |
No.70 | 8点 | ラットマン 道尾秀介 |
(2024/07/17 14:36登録) 結成十四年になるアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで、一人の女性が大型アンプの下敷きになって死んでしまう。 その死の謎をめぐって物語が展開する中、ギター担当の姫川の過去と、姫川の彼女である被害者のひかり、その妹でドラム担当の桂の三人の関係が浮かび上がってくる。 過去の事件と現在の事件を呼応させているばかりか、そこに絡む人間相関図まで重ね合わせたり、二パターンの見え方があるはずの絵が思い込みによって一方の見え方に誘導されてしまう心理を物語全体に有機的に絡めている手際が見事。 |
No.69 | 7点 | 孤宿の人 宮部みゆき |
(2024/07/17 14:30登録) 妻と部下を殺した罪で流刑、預かりの身として四国の丸海藩に幽閉された、元勘定奉行の加賀と、両親に捨てられた少女・ほうの物語。 加賀の世話をすることになったほうが、少しずつ加賀の真実に気付いていく様がいい。加賀がほうに書き残した一文字が何なのかを知ったとき、感動のあまり涙が出た。 |
No.68 | 7点 | 侵略少女 EXIL girls 古野まほろ |
(2024/06/17 15:35登録) 卒業を迎え、徹夜で伝統儀式を進めていた七人の女子高生たちが、「誤差領域」に迷い込んだ。天国の手前にあるというその謎めいた領域で、彼女たちは様々な経験を重ねる。 怪鳥に襲われ、天使と言葉を交わし、仲間が殺される。その後、作者が顔を出して〇〇を殺したのは誰かと読者に挑戦する。そしてその先を読んで、挑戦状までに数百もの伏線が張られていたことに気づく。 なお本書は単体でも十分に楽しめるが、三部作の読者は最後の数ページを余計に楽しめるだろう。 |
No.67 | 6点 | 闇の喇叭 有栖川有栖 |
(2024/06/17 15:26登録) 物語の舞台となるのは探偵行為が違法となった世界で、少しでも探偵っぽいふるまいをした人間を容赦なく追い立てる探偵狩りなるものが行われている。 ミステリは様々なジャンルを組み合わせることができるが、この作品ではSFの世界では定番となったディストピアと組み合わせることで「こんな世の中でなおも探偵をやることの意義とは何か?」「探偵として求められるものは何か?」ということを描き出している。 |
No.66 | 6点 | 在原業平殺人事件 山村美紗 西村京太郎 |
(2024/06/17 15:23登録) 山村美紗の遺作を西村京太郎が完結させた。在原業平ゆかりの古寺へ散策に出かけた明子は、大学教員の細川と出会い、交際を始める。ところが細川の同僚が殺される事件が起き、明子は図らずも探偵のような立場になる。 学長や教授のポストを巡る競争、学説を覆すような新しい資料の発見、複雑な男女関係など興味をそそられる背景が用意されている。 業平を巡る深い知識で物語を回していくのは、山村の真骨頂。西村が考えた結末もなかなかのもの。 |
No.65 | 8点 | 星詠師の記憶 阿津川辰海 |
(2024/05/07 16:14登録) 二〇一八年、星詠師たちの研究施設で発生した射殺事件は、組織の都合で隠蔽された。現場に遺されていた水晶の映像から、星詠師の石神赤司を射殺したのは息子と判断し、内部で彼を幽閉したのだ。 犯行の一部始終を記録した映像がある状況をひっくり返す難題に加え、そこに連なる昭和の事件も探る濃密な一冊。真相の意外性も抜群だし、謎解きの果てに浮かぶミステリとしての構図も意外で、かつ美しい。 |
No.64 | 6点 | ベルリンは晴れているか 深緑野分 |
(2024/05/07 16:10登録) 一九四五年、ドイツの降伏によって連合国の統治下に置かれたベルリンにて、十七歳のドイツ少女・アウグステは謎の事件に巻き込まれる。被害者の死を彼の甥に告げるべく、様々な過去を背負った人々と旅をする主人公。 過去と現在を行き来する構成によって骨太に織りなされるロードノベルにしてミステリ、そして戦争によって暴かれる人間の生きざまを直視した普遍性のある歴史小説である。 |
No.63 | 6点 | 死んでもいい 櫛木理宇 |
(2024/03/07 14:32登録) ある男のストーカーとなった中年女性が、男の妻を鉈で襲った事件を描く「その一言を」は、壊れた感情が幾重にも折り重なった一編で、そうした心の動きが読み手にじわじわと侵食してくる刺激が味わえる。「死んでもいい」の最後で明かされる若い心の虚無感や「ママがこわい」における毒と毒のぶつかり合いなど、生理的に否定したくなる感情が盛り沢山だが、読み物としては魅力的である。 |
No.62 | 7点 | Another 2001 綾辻行人 |
(2024/03/07 14:21登録) シリーズ第三作で、二〇〇一年の夜見山北中学三年三組を描いている。このクラスには、時折死者が紛れ込み、災厄を起こす。災厄が起きた年度では、教師や生徒やその二親等以内の者が次々と死んでいくのだが、今年はどうやらそれが始まったらしい。 超常現象を基本とした物語だが、記憶や記録の改変の中で死者が誰なのかを、手掛かりに基づいて推理することも愉しめるように仕上がっている。中学三年生たちの瑞々しい心が凄惨な死の連続や級友への疑念など散々にかき乱される中、論理とそれを超えたものの鮮やかな融合を堪能できる。 |
No.61 | 9点 | 大誘拐 天藤真 |
(2024/01/18 13:27登録) 紀州随一の大富豪、柳川家の当主・とし子刀自が、三人組の男に誘拐された。ところが、自分の身代金が五千万円と知った刀自は、「見損なうてもろうたら困るがな」と百億円に吊り上げる。かくして、どちらが被害者なのかわからないような誘拐劇が進行し、ついには身代金受け渡しの場面をテレビ中継させるという大作戦まで飛び出す。 奇想天外な発想、ハラハラドキドキの進行、そしてあっと驚くどんでん返し。これぞまさに史上最大の「人を食った話」といえる。 |
No.60 | 5点 | 60% 柴田祐紀 |
(2024/01/18 13:18登録) 派手で華麗なカリスマヤクザ・柴崎を周囲の人物の視点から描く。 マネーロンダリングに関する光と闇が鮮烈に打ち出されるが、柴咲は薔薇の花が舞う中で荒事をこなすなどして、言動にケレン味が増えていく。彼を見る周囲の目も偶像崇拝めいてきて、最後は真実とともに夢幻のかなたに消えていく。 ピカレスクロマンにおいて、リアリティレベルがこのように設定されるのは面白い。金の力、裏社会の反社会的力学を、半ば幻想的に描いている。 |
No.59 | 7点 | 高層の死角 森村誠一 |
(2023/12/05 13:49登録) パレスサイドホテル34階のスイートルームで、老社長が殺された。しかしホテルの部屋は、二重にプロテクトされた密室であり、容疑者には完璧なアリバイがあった。 特筆すべきはホテルの描写。作者は元ホテルマンだったというだけあって、舞台となったホテルやホテルマンは、ディテールまでしっかり書き込まれている。このディテールが、物語に厚みとリアリティを与えている。 幾重にもガードされた犯人の策略を破るべく、刑事たちがさまざまな仮説を立て検証する、試行錯誤の連続。一つの謎を解いたと思ったら、すぐさま次の謎が立ちはだかる。テンポのいい展開と堅実な捜査シーンも魅力の一つ。時代背景に負うところが多いのは事実だが、今でも十分に通用し楽しめる。 |
No.58 | 8点 | 闇よ、我が手を取りたまえ デニス・ルヘイン |
(2023/11/27 13:39登録) 絶対悪との戦いを描く自警団ハードボイルド、連続殺人鬼を追求するサスペンス、捻りのきいたフーダニットとして面白いが、パトリックとアンジーのプラトニックラブの行方が驚くほどの劇的な転換を迎える。 しかもこのシリーズ、男女の恋の行方にとどまらず、二人の家族の過去と現在、ひいてはボストンの歴史まで視野に入れた大河小説の構えももつ奥深さがある。 |
No.57 | 6点 | 夢魔の牢獄 西澤保彦 |
(2023/11/27 12:48登録) 吹奏楽部の仲間が集まった友人の結婚式の直後、恩師の義理の息子が殺された。二十二年前のその事件と主人公は向き合う。夢の中で過去へ遡り、関係者に次々に憑依する形で。 彼は他人の目や耳で見聞きしたことを繋ぎ合わせ、真相に近づいていく。友人同士や恩師が談笑するありがちな風景の裏にあったドロドロの人間模様が浮かび上がる。なかなか強烈な悪夢だ。 |
No.56 | 6点 | 汚れた手をそこで拭かない 芦沢央 |
(2023/11/27 12:41登録) 収録された5編はいずれも、クレーマーや老老介護など、昨今の社会問題とオーバーラップする状況下で繰り広げられる。特に秀逸なのは、小学校教諭がマスコミ沙汰や弁償を恐れてある偽装を思いつく「埋め合わせ」。 本書の凄みは、後ろめたさを抱えた者の視点で語られていくサスペンス感と、ねじれた因果応報となる後味の悪さにある。 |
No.55 | 8点 | 奪取 真保裕一 |
(2023/10/27 13:47登録) フリーターの手塚道郎は、変造テレカで小遣い稼ぎをしていたが、親友がヤクザがらみで作った借金を返済するために、銀行の現金自動支払機をごまかして金を引き出す作戦を立てた。この偽札作戦が成功して大金を手に入れたのも束の間、ヤクザ組織に尻尾をつかまれて追われる身となり、親友は警察に捕まってしまう。道郎は謎の老人の手引きで危機を脱するが、この老人はなんと偽札づくりの名人であった。道郎は名人に弟子入りして、本格的な紙幣贋造に乗り出す。 作者の綿密な取材ぶりには、かねてから定評があるが、この作品でも微に入り細にわたって紙幣贋造の工程が描かれ、物語の約半分は「偽札づくり入門」ともいうべき構成になっている。にもかかわらず、偽札づくりに憑かれた主人公の性格造形に説得力があり、なんとも爽やかな読後感がある。 |
No.54 | 7点 | 蒸発 夏樹静子 |
(2023/10/27 13:38登録) 当時、社会問題化していた人間の蒸発を扱った社会派推理だが、航空機の乗客消失、列車ダイヤ、変装、交換殺人といった本格的なトリックを随所に散りばめ、さらに美しい人妻とベトナム帰りのジャーナリストの悲恋を織り込んだ読みどころの多い作品で、社会派にして本格派という作者の持ち味がよく生かされている。 |
No.53 | 7点 | OUT 桐野夏生 |
(2023/10/27 13:34登録) 東京郊外の弁当工場にパートで務めている香取雅子の静かな日常は、パート仲間の弥生がかけてきた一本の電話によって破られる。浮気した夫を思い余って殺してしまったというのである。 どこにでもいそうな家庭の主婦が、この事件をきっかけに恐ろしい犯罪に加担していく意外性と、そのことを意外に思わせないだけの圧倒的な生活実感と登場人物の描き分けが、なんとも恐ろしいクライム・ストーリーに仕上げている。 |
No.52 | 6点 | フィッシュボーン 生馬直樹 |
(2023/09/25 13:39登録) 小学四年の夏、日本海を望む港町で陸人と航は匡海に出会った。陸人は暴力団組長の息子、航に両親はなく、匡海の父親は服役中の殺人犯だった。つらい境遇が結び付けた三人だったが、まだ見ぬ未来に向けて共に人生を歩み始める、アウトサイダーとして。大人になったそんな彼らの少年時代がカットバックの手法で詳らかにされ、現在と対比されていく。 金目当てに手を染めた令嬢誘拐が彼らの運命を狂わせていくが、さらに事件から五年後、山中で半ば白骨化した男の遺体が見つかる。不条理な世の中とは、真逆の世界を目指し、繋がりあうことで理想を求めた三人を、現実は孤独な闘いに追いやる。それでも後戻りできない人生を懸け、前を向こうとする主人公の姿を、作者は郷愁をこめて見つめ続ける。大胆に仕掛けるミステリとしての衝撃もある。 |
No.51 | 6点 | 火曜新聞クラブ 泉杜毬見台の探偵 階知彦 |
(2023/09/25 13:29登録) 高校一年生の植里礼菜と幡東美鳥は新聞クラブを立ち上げた。創刊一面トップの記事は、謎の人物の寄付金によって駐輪場が建設されるというものだったが、土壇場になって寄付はキャンセルされ、記事は差し替えを余儀なくされた。そして講師館の一室では殺人事件が起きる。 密室状態の現場、意味不明のダイイング・メッセージ。謎の満ちた事件の解明に乗り出すのは、御簾真冬という銀髪の不思議な少年。密室トリックなどは一見シンプルに感じるが、事件関係者たちの動きは思いのほか複雑。しかも読者の先入観を利用した最後のどんでん返しは想定外で驚かされた。 |