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ミステリの祭典

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インビジブル

作家 坂上泉
出版日2020年08月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 よん
(2024/08/08 14:10登録)
作者が近代日本史の研究者だけあって、時代の描写がリアル。大阪市警視庁というその時代にしかなかった組織が、現代の警察へと変わっていく転換期を背景にしたバディ型の警察小説で、罪の動機にも登場人物たちの心理や背負っているものにも、戦中戦後の時代に確かにあったのであろう心の傷や社会の歪みが活用されていて、登場人物各々が昭和の歪みに立ち向かっていく様が胸を打つ。

No.1 7点 麝香福郎
(2023/07/15 22:15登録)
昭和二十九年の大阪を舞台にした、ユニークかつハードなミステリ。戦後に新しく施工された警察法により、日本には「自治警」と呼ばれる米国式の自治体警察と、「国警」と呼ばれる国家地方警察があった。大阪市警視庁は自治警である。だが警察法の改正により、警察組織の一本化が迫っている。そんな時、大阪城付近で政治家秘書が、頭を麻袋で覆われた刺殺体で発見される。さらに、やはり麻袋で頭を覆われた轢死体も見つかった。連続殺人の可能性に捜査員たちは色めき立つ。
その中に、若手刑事の新城洋がいた。国警から派遣されてきた守屋恒成とコンビを組まされた新城。互いの立場や性格の違いから、ぶつかり合いながら、二人は事件の真相に肉薄していく。自治警と国警、大阪人と東京人、庶民とエリート。作者はこのコンビに、何重もの対立構図を重ね合わせる。それゆえに何度も衝突するが、次第に相手を認め良き相棒になっていく、二人の姿が読みどころになっている。
また一連の事件の大まかな真相は、登場人物より先に読者が分かるようようになっている。それでもページをめくる手が止まらないのは、ストーリーが面白いからだ。上司の忖度による現場の混乱や、新城の家庭の問題が縁となって発見された手掛かりなど、物語の組み立ては巧みである。戦中、戦後を通じて庶民を踏みにじる人々への怒りも、犯人を通じて鮮やかに表現されている。

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