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ミステリの祭典

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インビジブル

作家 坂上泉
出版日2020年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 麝香福郎
(2023/07/15 22:15登録)
昭和二十九年の大阪を舞台にした、ユニークかつハードなミステリ。戦後に新しく施工された警察法により、日本には「自治警」と呼ばれる米国式の自治体警察と、「国警」と呼ばれる国家地方警察があった。大阪市警視庁は自治警である。だが警察法の改正により、警察組織の一本化が迫っている。そんな時、大阪城付近で政治家秘書が、頭を麻袋で覆われた刺殺体で発見される。さらに、やはり麻袋で頭を覆われた轢死体も見つかった。連続殺人の可能性に捜査員たちは色めき立つ。
その中に、若手刑事の新城洋がいた。国警から派遣されてきた守屋恒成とコンビを組まされた新城。互いの立場や性格の違いから、ぶつかり合いながら、二人は事件の真相に肉薄していく。自治警と国警、大阪人と東京人、庶民とエリート。作者はこのコンビに、何重もの対立構図を重ね合わせる。それゆえに何度も衝突するが、次第に相手を認め良き相棒になっていく、二人の姿が読みどころになっている。
また一連の事件の大まかな真相は、登場人物より先に読者が分かるようようになっている。それでもページをめくる手が止まらないのは、ストーリーが面白いからだ。上司の忖度による現場の混乱や、新城の家庭の問題が縁となって発見された手掛かりなど、物語の組み立ては巧みである。戦中、戦後を通じて庶民を踏みにじる人々への怒りも、犯人を通じて鮮やかに表現されている。

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