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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:242件

プロフィール| 書評

No.122 7点 騙し絵の檻
ジル・マゴーン
(2022/08/25 22:58登録)
殺人の罪で終身刑を言い渡された男が、仮出所の機会を得て、自分を陥れた人物を捜し出し復讐を遂げようとする。彼は女性新聞記者のアシストを受けながら、かつての妻や同僚たちを追求していく。
容疑者がいったん全員容疑圏外に置かれるというスリリングな展開が、鮮やかな逆転の発想を一発で劇的に様相を新たにする終盤はお見事。


No.121 7点 密室殺人ゲーム2.0
歌野晶午
(2022/08/25 22:54登録)
ネットを介して繋がっている密室殺人愛好家が、実際に自分で密室殺人事件を起こして、その真相を同好の士に推理させるというこの小説の初期設定がそもそも本格マニアの気持ちをそそる。
このどっぷりとゲーム感覚に淫した虚構世界にあっては、解答者をより驚かせたほうが勝利となる。したがって結果的にいかに奇天烈なトリックであっても、それが意外であれば許されるのである。「いくらなんでも無理筋でしょ」と一笑に付すようなトリックこそ、この設定では至宝の輝きを放つ。
この虚構すぎる世界が、実は極めて現代的な問題をついているという意味でも考えさせられる作品。


No.120 6点 彼女が最後に見たものは
まさきとしか
(2022/08/10 23:07登録)
クリスマスイブの夜、空きビルの一階で、ホームレスらしき女性の遺体が発見される。50代と思われたが、身元は不明。しかし女性の指紋が、前年の8月に千葉で起きた男性刺殺事件の遺留指紋と一致した。二つの事件にどんな繋がりがあるのか。
ホームレスを殺してしまう犯人の追い詰められ方は説得力十分だし、被害者は被害者で大切な存在をかばい、罪をかぶろうとする切実な思いが胸を打つ。母親を殺された過去を持つ三ツ矢の、事件関係者に寄り添うやさしさが、とりわけ印象深い。


No.119 6点 シリウスの反証
大門剛明
(2022/08/10 22:59登録)
冤罪被害者の救済活動に取り組む「チーム・ゼロ」が、1996年に岐阜県で起きた一家4人殺害事件を再調査する物語。弁護士や学者らスペシャリストが集まるチーム・ゼロの中でも、特に理想に燃える若手弁護士藤嶋たちがさまざまな観点から冤罪の可能性を探っていく。
重視されるのは指紋鑑定。犯罪現場に残された指紋の多くが一部欠けている片りん指紋で、指紋鑑定においては特徴が12点一致するかどうかが分かれ目となる
。科学捜査の危うさ、鑑定における心理的バイアアス、検察側による裁判資料の隠蔽問題などが追求されていて面白い。正義感がやや鼻につく部分もあるが、刺激的な仕掛けがある。


No.118 10点 硝子の塔の殺人
知念実希人
(2022/07/27 22:56登録)
孤立した奇妙な館、連続密室殺人事件、ダイイングメッセージ、エキセントリックな名探偵、暗号、読者への挑戦状。本書には、本格ミステリならではのネタが、これでもかと詰め込まれている。先達の作品の言及も多く、本格ミステリファンならば、楽しく読めるのではないか。なかでも一九八〇年代後半からの新本格ムーブメントの原点になった「十角館の殺人」の扱いには驚いた。
しかもストーリーが凝っている。物語は、第一の殺人の犯人の視点である遊馬の視点で進む。彼は月夜の助手になり、第二第三の殺人の犯人に、自身の殺人もなすりつけようと考えている。これにより異様なサスペンスが生まれている。
事件の真相はびっくり仰天。本格ミステリを愛する作者が、ジャンルに捧げた大いなるオマージュといっていい。だから、本格ミステリについて、名探偵という存在について、深く考えずにはいられない。


No.117 5点 ミッドナイト・ジャーナル
本城雅人
(2022/07/27 22:43登録)
主人公の関口豪太郎は、事実に誠実であり続ける新聞記者。七年前に起こった誘拐殺人事件には共犯がいたのではないかと関心を持ち続けていた。
報道に携わる者としての使命感を多くの者が失いつつある中で奮闘する豪太郎は、一筋の希望でもある。
報道の現場の熱気と矛盾を、マスコミの矜持と堕落を垣間見ることが出来る一冊。


No.116 6点 残虐記
桐野夏生
(2022/07/14 22:51登録)
題材は、十歳の少女の誘拐・監禁事件。作家になった彼女の元に、出所した男から手紙が舞い込みb、これを機に彼女は事件を「残虐記」と題して小説化する。手紙、作中作となる手記、小説の草稿などが入れ子状に組み込まれ、「真相」を追えば追うほど、虚実の境が後退していく。少女がある事実を世間に隠し通したのはなぜか。本当に復讐したかった相手とは誰か。覗き見ることの罪。想像することの残虐さ。誰が被害者で加害者なのか。
語り手が実は犯人というミステリは時にあるが、本作には読み手にお前こそ加害者だと切っ先を突き付けるような恐ろしさがある。実在の事件をモデルにしてその真相を暴くかに見せながら、本書で暴かれるのは虚構の本性である。


No.115 7点 花束は毒
織守きょうや
(2022/07/14 22:35登録)
大学生・木瀬芳樹と探偵・北見理花の二人の視点から語られるサスペンス。
木瀬のかつての家庭教師・真壁が「結婚をやめろ」という脅迫を受けていると知り、北見に調査を依頼する。北見が調べていくと真壁の過去のある秘密につきあたる物語で、隠された事実の一つ一つが明らかになる過程がスリルに満ちている。
物語に奥行きがあるのは、中学時代に木瀬がいとこへのいじめを止めてほしいと一年先輩の北見に頼んだ過去が生きているからだ。彼女が導いた「解決」は正しかったのかという問いがずっと残り、新たな事件の追求と解決でもまた大いに苦悩することになる。謎解きの面白さに、真実は人を傷つけるのかという主題が鋭くかみ合って終幕に至る。ラストシーンが胸に残る。


No.114 5点 ステップ
香納諒一
(2022/06/27 23:14登録)
「死んだとたん、過去の時点の自分に戻り、またやり直す」というアイデアを生かした長編作。
バーを経営する斎木のもとに、突然、弟分の悟が転がり込んできた。やくざの幹部を刺してしまったという。斎木は殺し屋に追われる悟を助けようとしたが、反対に殺されてしまった。
しかし気が付くとなぜか斎木は「昨日の自分」に戻っていた。改めて同じ事件に立ち向かったものの、またしても命を落としてしまう。彼は生と死のループを繰り返しつつ、意外な真相へたどり着くまでのステップを踏んでいく。
すでに基本アイデア自体は珍しくない。だが、これを謎に富んだクライムアクションへ導入したというところがよい。主人公は、それまでの行動の反省や新たに判明した手掛かりをもとに、最終局面まで攻略していく。奇想サスペンスになじみがなくても、読み応えを感じるでしょう。


No.113 6点 断絶
堂場瞬一
(2022/06/27 23:07登録)
閉塞感に満ちた地方都市・汐灘に全てを捧げた老政治家と、正義感あふれる刑事が、互いの信念をかけて対峙する。
次期選挙に向けて後継者選定を迫られる剣持隆太郎。剣持家は三代続く代議士一家で、剣持は息子、一郎に跡を継がせたい。しかし一郎には覇気が足らず、地元の支持を十全に取り付けられていない。そこへ現職の知事が出馬を表明し、後継者争いが勃発する。
一方、銃で頭を撃ち抜かれた女性の遺体が、汐灘で発見された。事件を担当する県警の石神は、自殺と他殺の両面で捜査に当たるが、そこに上層部からの圧力がかかる。自殺で決着させられそうになり、納得できない石神は単独での捜査を継続する。
別々に進行する2つのエピソードが絡み合い、最後に二人をつなぐ因縁が明らかになるラストは圧巻。登場人物の内面は鳴沢シリーズに劣らず濃密に描かれ、「家族」というテーマに真摯に取り組んでおり、読み応えがある。


No.112 5点 馬疫
茜灯里
(2022/06/13 23:57登録)
舞台は2024年の東京。欧州で再び新型コロナウイルス感染が拡大してパリでの開催が断念され、夏季五輪は再び東京で開催されることに。しかし五輪提供馬の審査会で、複数の候補馬が馬インフルエンザの症状を示す。しかも馬が凶暴化する「狂騒型」の新型馬インフルエンザだった。馬術連盟の獣医師一ノ瀬駿美が新たなパンデミックの調査に乗り出す。
まさにコロナ禍にある現代にぴったりの作品だろう。鳥や豚のインフルエンザは知っていたが、馬にもあるのが新鮮で、その脅威の実情をさまざまな観点から捉える。感染拡大の原因に人為的なものを見出して犯人を追求していく謎解きもいい。やや題材が特殊で専門的な解説が必要となり、会話でかみ砕いてくれるのはいいが、全体的に2時間サスペンス的な安逸感が漂って緊張感をそいでいる印象は否めない。


No.111 7点 悪の芽
貫井徳郎
(2022/06/13 23:48登録)
無差別大量殺人の動機をめぐる物語。銀行員の安達はニュースを見て驚く。大規模イベント「アニメコンベンション」の会場で大量殺人事件が起きた。犯人は多数の客に火炎瓶を投げ、ナイフで警備員を殺し、最後は自ら油まみれになり火をつけて死んだ。犯人の斎木は小学校の同級生だった。小さな恥と見栄がきっかけとなり、同級生のいじめが加速して不登校になった。一体斎木はどんな人生を歩み、大量殺人犯になったのか。安達は斎木の人生と動機を探ろうとする。
殺人犯斎木の動機を、かつての同級生や事件を撮影した大学生、事件の被害者の家族らが追求していき、少しずつ靄を晴らして核心へと向かう。悪の芽はどこで生じたのかを調べていくのだが、最終的には善の芽にも言及して、この生きがたい時代に生きる読者への優しく熱いエールにしている。


No.110 7点 新世界より
貴志祐介
(2022/06/13 23:39登録)
未来の日本が舞台で、伝奇SFもしくは新世界冒険ファンタジーとでもいえる。
物語はヒロイン早季が子供時代を回想する手記形式で描かれている。いまから4年後の子供たちは呪力を手に入れることで大人になっていく。一方で、外界と町を隔てる「八丁標」から外に出てはならないなど、徹底的に社会に管理されていた。また、マケネズミやフクロウシなど奇妙な生き物が共存している世界だった。
いったいどうしてそれまでの文明が滅び、千年後にこのような世界が出現したのか。子供たちが消えるのはなぜか。恐るべき悪魔とはなにか。いくつもの謎をはらみつつ、早季たちは異形の怪物たちと戦い、隠された真実を暴こうとする。
奇抜な発想による世界観の妙とスリリングで波乱に満ちた冒険行の興奮。作者はあらゆる小説ジャンルの要素を混ぜ合わせ、新たな神話を生み出した。
なにより戦争を繰り返し、他人を攻撃してやまない人類の根源に迫るテーマを内包している。


No.109 7点 双蛇密室
早坂吝
(2022/05/22 23:01登録)
かつて藍川の母・誉と内縁関係だったSM作家が密室で殺された。作家にも同じ部屋で倒れていたが、一命をとりとめた誉にも蛇に噛まれたような傷があるも、雨でぬかるんだ建物の周囲には、犯人の足跡も蛇が逃げた跡もなかった。
本書の驚天動地のトリックには、絶賛も批判もあると思うが、空前絶後なのは間違いない。たとえ否定派でも、罪とは、真実とは、探偵の役割とは何かを問うミステリ論の部分には感銘を受けるだろう。


No.108 6点 処刑までの十章
連城三紀彦
(2022/05/22 22:56登録)
まさに連城節前回の序章から、物語は直行と義理の姉との禁断の恋をはらみながら、思考が追い付かないほどの反転劇を繰り広げてゆく。
連城小説のキーワードのひとつである「疑心暗鬼」が極限まで突き詰められた作品。


No.107 6点 九月が永遠に続けば
沼田まほかる
(2022/05/08 23:25登録)
物語は、かすかな不安とともに始まる。佐知子の一人息子の文彦が、ゴミ捨てに行ったまま帰ってこないのだ。翌日、若い恋人の犀田がホームから転落し、電車にひかれて死亡する。文彦が事件に関係しているのか。
失踪という日常生活に穿たれた不安から物語は始まり、過去の亡霊が押し寄せるおぞましいサスペンスへと変貌していく。人の心の奥底に眠る忌ぬべきものを、ひとつひとつ丁寧に顕在化していくその過程が何とも生々しい。
しかも鋭く研ぎ澄まされた悪意と、ふてぶてしいグロテスクな狂気が融合し、恐怖を増幅する。気色悪い物語。


No.106 6点 剣と薔薇の夏
戸松淳矩
(2022/05/08 23:19登録)
万延元年の遣米使節団歓迎にわくニューヨークを舞台にした歴史ミステリ。奇妙な殺人事件が次々に起きて、アメリカ人の新聞記者と挿絵画家、そして元漂流民で在米の日本人の三人がその謎を解いていく。
なぜサムライ使節団が、それほどまでに歓迎されたのかという事情や、南北の対立という緊張をはらんだ一八六〇年のアメリカがディテール豊かに活写されていて、歴史小説としてもミステリ小説としても興趣に満ちている。


No.105 8点 蒼海館の殺人
阿津川辰海
(2022/04/22 23:18登録)
学校に来なくなった葛城に会うため、田所と三谷が彼の実家の蒼海館を訪ねる。折からの暴風雨で館に留まらざるを得なくなったところに、さらに殺人事件が。葛城は、自分の家族に関わる事件の謎に挑む。
災害と事件が押し寄せる前半から中盤、そして二重三重の複雑な企みを解き明かす後半と、密度の高い展開で読ませる。
真相の解明と、失意の探偵が復活する過程が重なり合い、最後まで飽きさせない。


No.104 6点 プラチナデータ
東野圭吾
(2022/04/22 23:12登録)
犯罪捜査における情報を問題にしている。作品の舞台である近未来の日本では、DNAデータの提供が国民の義務になろうとしている。このデータが登録されれば、犯罪者はその網から逃れる術がなく、凶悪犯罪もすべて検挙可能になるという理屈からである。DNAデータを集めるとことそのものは難しくない。だが、問題はその膨大な情報を検索可能にするシステムの構築だ。
そのシステムにもし不備が生じたら、あるいはこのシステムを恣意的に統御しようとする者が現れたらどうなるか。作者は、お得意の超絶技巧ミステリの体裁を借りて、情報の恐怖という現代の喫緊のテーマに挑んでいる。


No.103 7点 堕天使拷問刑
飛鳥部勝則
(2022/04/08 22:30登録)
牧歌的な田舎町を舞台に典型的な「ボーイ・ミーツ・ガール」風の人物配置をしておきながら、この作者ならではのグロテスクな異形の物語が展開する。
一見、平和な田舎道に隠されていたおぞましい秘密もさることながら、最後に明かされる真犯人の造形はまさに衝撃の一言。

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