home

ミステリの祭典

login
ことはさんの登録情報
平均点:6.28点 書評数:254件

プロフィール| 書評

No.234 6点 招かれざる客
笹沢左保
(2024/07/14 02:12登録)
「有栖川有栖選 必読! Selection」シリーズのカバーがなかなかよいので、もう1冊。
前半は記録の抜粋にして、後半、主人公による捜査行というのがなかなか良い構成。前半で提示される情報の量が多くて、かなりスピード感があって楽しいし、後半の捜査行は、鮎川哲也の鬼貫ものを思い出させる地道なものだが読ませる。(鮎川哲也と比べると、順調にいきすぎだが)
いくつかのトリックは、それだけ取り出すとシンプルすぎたり無理があったりで、驚けなかったが、楽しむ部分は、トリックを解明していく捜査の道行きだろう。
動機については、ちょっとどうかな。1つめの事件の動機はドロドロしすぎだし、2つめの事件の動機については、原因となるある事実が無理すぎる(誰か気づく!)。ミステリに徹して、この部分は無いほうが好みだった。


No.233 6点 1(ONE)
加納朋子
(2024/07/14 02:07登録)
駒子シリーズの新作ということだが、だいぶ読み心地が違う。作中の年代が変わってしまいすぎだよ。学生アリスシリーズみたいに、ずっと同じ年代でやってもらうほうがいいのにな、と思う。
ミステリ的興趣も薄いし、ジャンル分けするなら、ファンタジーかなぁ。まあ、いい話であるし、今の駒子が知れるのは嬉しかったりもするのだが、期待していたものとはちょっと違った。
残念なのは、もう駒子シリーズは書かれそうもないことかな。最終回的なものがあるわけではないけれど、作中年代と執筆時期を重ねる方針ならば、次回作は難しいと感じた。クリスティーの「トミーとタペンス」もののように、かなり時間をおけばもう1作あるかもしれないけど、期待しているのはそういうものではないしなぁ。


No.232 6点 孔雀屋敷 フィルポッツ傑作短編集
イーデン・フィルポッツ
(2024/07/14 02:03登録)
良くも悪くも、古き良きミステリかな。良くとるか悪くとるかは、読む人次第。
想像以上にトリッキーな部分が多く、それも含めて、古き良きミステリ。小説家としてのフィルポッツの地力は感じられる。
唯一「鉄のパイナップル」だけは、キャラの特殊性から、現代的に感じられる。


No.231 7点 すみれ屋敷の罪人
降田天
(2024/06/11 01:31登録)
過去の出来事が、複数の証言で浮かび上がってくるミステリ。
ミステリを読み込んでいる人には、全体の構図は途中の段階で思いつくもので、どんなことがあったのかという点には意外性はない。焦点は登場人物のドラマだろう。これは、なかなか切なくて滲みる。
配置されたエピソードの組み上げ方も複雑で、構築感があってよくできている。良作。


No.230 6点 Y駅発深夜バス
青木知己
(2024/06/05 01:26登録)
1作毎に作風が違うバラエテイに富んだ短編集。前半3作はいまひとつ、後半2作は良作と感じた。以下、各作の寸評。
「Y駅発深夜バス」。チェスタトン風のミステリ。なのだが、前半の不可解さが弱いし、後半、地に足のついた語りになって、そのせいで真相の無理筋を強く感じた。この手の作品は、少し地面から浮いた感じのほうがいいと思う。(でもネットをみると本作を好きな人も多くて、この辺はもう好みしかないんだなぁと思う)
「猫矢来」。青春ミステリ。真相がわかると「こんな重大事を伝えないのはどうなの?」との思いが強くて、どうものれない。青春物の雰囲気はよい。
「ミッシング・リング」。クローズド・サークルの犯人当て。探偵役に頼む展開が唐突すぎないか? 動機も、その目的でそれを行うのは説得力がなく、結末の転がし方も無理筋が目立つ気がする。
「九人病」。特殊な病気を設定した怪談。本サイトで本作を「怪談」と紹介している人がいて、たしかに本作は「ホラー」より「怪談」と呼ぶほうが似合う。九人病に関する顛末が読み応えがあり、描写もいい。結末の転がし方もよい。これが5作の中では抜群に好き。
「特急富士」。コメディ・タッチのサスペンス。ヒッチコックの「ハリーの災難」を思い出した。コメディ・タッチなので無理が目立たず、楽しく読めた。作者、こんなのも書けるんだ。器用。


No.229 4点 ビール職人のレシピと推理
エリー・アレグザンダー
(2024/06/05 01:21登録)
前作同様、ミステリは風味づけ。
お仕事小説としても、前作ほど面白くない。新作ビールがちょっと目新しいくらい。
ミステリ部も、主人公が偶然事件に関わることが多かったり、主人公の嘘の証言をした人物に対する扱いが適当だったり、主人公が調査をすすめる動機がよくわからなかったり、いろいろ雑。
読みやすいところだけが、よいところかな。


No.228 7点 煉獄の時
笠井潔
(2024/05/26 12:38登録)
いやあ、長かった。
長さを感じたのは、第二次世界大戦の前後の時代を描いた第2部が、なかなか読みづらかったから。今回、シリーズの他作とは少し違った読み心地だった。
シリーズの他作は、ミステリ部分以外に、哲学/思想談義ががっつり盛り込まれるのが定型だが、本作では、第二次世界大戦の前後の社会情勢やイデオロギー対立がどっぷり描かれていて、哲学/思想談義は、それをふまえて展開される。趣旨をひろいだすと「所有と剥奪の論理が極限に達した時代が近代で、それが大量死を現実化した。それに対して、消失が抵抗の原理となる」というところだが、難しすぎで納得感がうすく感じた。
それだけでなく、第2部の半分以上がその社会情勢やイデオロギー対立の描写で、まるで近代ヨーロッパ史の勉強のようだった。若い頃とは違って、そこも「へぇ、そうなんだ」と思いながら退屈しないでは読めたが、まだ私には積極的に面白いといえるものではなかった。
第1部の事件も地味だし、第2部まで読み終わった時点では、シリーズでは一番面白くないかもと感じた。
(第1部の事件の1つは「首のない死体」なのに、描写/演出が猟奇性をほとんど強調していなくて、事件発生時の時系列の確認にかなりの筆を費やしているから、地味に感じるんだよね)
第3部に入って、新事実がいくつも出てきてから解決編に入る。第1部で謎としてフックしていた「手紙の消失」、「船の出入りの不可能性」の真相は、強行突破的な単純なもので、ちょっとこれはどうなのと一旦は思ったが、解決編の見せ場はそこではなかった。1、2、3部のエピソードが次々ときっちりと積み上がって、大きな構図を描いていくのだ。「手紙の消失」、「船の出入りの不可能性」の真相も、その構図の中にかっちり収まっていく。いや、これは、京極堂シリーズのような構築感あり、非常にに読みごたえがある。
シリーズの上位にはいかないまでも、シリーズの期待値には十分に達した。
それにしても、「連載時は犯人も違った」とのことで、これ以外にないような構築感なのに、連載時はどうなっていたんだ?
あとは、ナディアの精神的問題について、あまり分量を割かれることなかったのが残念かな。それも、今回で回復という状況のようで、次作以降には着目されなさそうだしなあ。
ちょっと気づいたトピックとしては、日本人とユダヤ人の比較について、島田荘司も「ローズマリーのあまき香り」で触れていること。本書では「まったく違う」と書かれているのだが、島田はまったく違う切り口で「類似している」と書いていて、新本格前から活躍する同時代の2人の作家が、同時期に同じテーマを違う切り口で取り上げているのも、面白い符合だなと思った。


No.227 6点 アリバイの唄
笹沢左保
(2024/05/26 12:11登録)
「有栖川有栖選 必読! Selection」シリーズのカバーがなかなかよいので、1冊選択してみた。
これは、ちょっと事前情報を入れただけで、余計な気付きにつながる作品だ。なので、明確なネタバレはしないけど、未読の人は下記を読まないほうがいいかも。
1990年の発表の作品なので、笹沢左保が新本格をふまえたうえで書いた作品ととらえるのが適当で、そう考えると、メインの趣向はいかにも新本格的だ。
読み口は軽快で、軽快さを優先させるためか、情景描写/心理描写には深入りしていない。そのため作品全体の印象はあっさりしている。事件が発生するのがかなり遅いし、質疑応答や試行錯誤も少ないので、読み終わって記憶に残るのは、メインの趣向だ。あえて、メインの趣向に全振りしたのかもしれない。
あと、タイトルはどうなのかな。タイトルと事件の様相から犯人わかっちゃうよ。


No.226 6点 コンビニ人間
村田沙耶香
(2024/05/26 02:04登録)
ジャンルを問われたら、ミステリでなく文芸作品と答えるが、面白さのポイントとしては、早川の異色作家短編集に近い感じなので、そのあたりのジャンルを楽しめるミステリ読みには楽しめる気がする。
ラストの取り方は人それぞれになりそうだが(取り方によって、読者の感性のほうがみえてくる感じで面白そうなのだが)、私は「語り手である主人公が覚醒した」と感じた。


No.225 5点 ラメルノエリキサ
渡辺優
(2024/05/26 00:58登録)
プロットは、事件が起きてから解決するまでを描いているので、すっかりミステリだ。
しかも、前半は思わせぶりな言葉を軸にすすむので、ミステリ的興趣が濃い。けどなぁ。その意味は、だいぶ肩すかし。ミステリ的にはまったく面白くない。
それでも楽しめるのは、解説にもあるように、ハードボイルドに近い味わいのためで、面白さのポイントはキャラクターの行動やセリフだ。
謎解きミステリの興趣は強くないので、好みのど真ん中ではないのだが、楽しめる点も多いので、作者の他の作品も手にとって見る気になった。


No.224 6点 スーツケースの半分は
近藤史恵
(2024/05/26 00:51登録)
ミステリではないですが、ミステリ系の作者なので、それも含めての情報連携としての登録ということで。採点はミステリでないことは考慮しないで。
スーツケースと、それを取り巻く人たちを描く、連作短編集。初出は雑誌連載だったのか、全部30ページ強で統一されている。
30ページ強の中で、旅先のイメージを感じさせ、主人公のキャラクターを過不足なく描写し、ラストは主人公の思いに焦点をあてて締める。うまいなぁ。
例えば、キャラクター描写はこんな感じ。
夕方に電話をかけてきて、
「ねえ、ヒマ?」
「ヒマじゃない。掃除してるけどなに?」
「ベルギービールフェスティバルっていうのをやってるの見つけたんだけど、行かないかなと思って」
「いく」
ふたりのキャラクターと関係性が、短いやりとりでわかる。うまい。
最後の話は、きっちりタイトルに寄り添わせて、本の最後もきっちり締める。
うん、職人技です。堪能しました。


No.223 6点 ホームズ連盟の冒険
北原尚彦
(2024/05/26 00:33登録)
ホームズの脇役をフィーチャーした、よくできた短編集の2作目。1作目の「ホームズ連盟の事件簿」と同様の読み心地だ。
作品でよかったのは、モラン大佐が主人公の「R夫人暗殺計画」かな。他の話は、キャラクターは楽しいものの、展開には意外性がなくて予定調和的だが、この話は展開が読めずに緊迫感がある。ラストもなかなかよい。


No.222 5点 ジョン、全裸連盟へ行く
北原尚彦
(2024/03/09 21:42登録)
イギリスのテレビ・シリーズ『SHERLOCK(シャーロック)』を元にしたパスティーシュ。
『SHERLOCK(シャーロック)』を見てから読むと、じつに特徴を捉えている。まあ、でも、『SHERLOCK(シャーロック)』自体が映像向きのプロットづくりなので、その特徴を捉えて小説化しても、ほどほど以上にはならなかったかな。


No.221 6点 ホームズ連盟の事件簿
北原尚彦
(2024/03/09 21:32登録)
ホームズの脇役をフィーチャーした、よくできた短編集。ミステリ的な謎と解決にはみるべきものはないが、キャラクターはじつに楽しい。まあ、でも、ホームズの元キャラを知らないと楽しめないかもしれない。私はホームズ好きなので、十分楽しめました。
作品でよかったのは、ハドスン夫人が主人公の「読書好きな泥棒」。ミステリ的プロットは、ホームズのあの作品を元にしたものだが、本のネタに変換したのが、やっぱり本好きには面白い。
他には、レストレードの家庭が描かれていたりするところが楽しくて、全体にストーリーに関わらない描写に冴えがある。


No.220 5点 最後の希望
エド・マクベイン
(2024/02/18 16:03登録)
いつものウォレン視点に加えて、犯行側視点、キャレラ視点なども組み込み、ホープ視点がかなりすくない。事件も87分署物にありそうなもので、ホープがゲストの87分署物とみても違和感がないほどだ。シリーズても下位かな。
ホープ・シリーズをひととおり読み終わったということで、全体を概観。
大きく3期に分けられる。1期は、1から5作。2期は、6から8作。3期は、9から13作。
1期は、女に弱い主人公が、女と関わりながら事件を調査する物語。ホープのひとり語りで、ホープの私生活にもウェイトがおかれている。70年代後半に書きはじめられているので、同時期のネオ・ハードボイルの流れを組んでいるのだと思う。(マット・スカダー・シリーズの始まりが同時期) 個人的にはこの時期が好き。
2期は、人称を3人称にし、主人公と距離をとったため、1期の個性が薄れて、あまり特徴のないミステリになったと思う。
3期は、主人公の周りにサポートメンバーを追加し、キャラクター小説のウェイトを増した。それぞれ語りかたを工夫してあるので、面白さはある。
全体を通して評価すれば、リーダビリティがどれも高く、一定の面白さが保証されているところが最良。けれど安定はしているのだが、突出している作品はほとんどない。例外が5作目「白雪と赤バラ」で、これだけは抜群の傑作。
まあ、昔の記憶をたよりに書いているので、今読んでどう思うかは、保証できないのだが。1期を読んだのは20年以上前ばかりだしなぁ。再読してみようかな。


No.219 5点 寄り目のテディベア
エド・マクベイン
(2024/02/18 16:03登録)
今回、ウォレン、トゥーツは別行動。87分署でつちかったモジュラー型のスタイル。
メインの事件は、導入はなかなか魅力的で、すこしずつ新たな情報が明かされ、飽きさせない。この辺の手管は、さすがマクベインだ。
しかし、最終的に明かされる真相は、途中である程度、予想がつき、インパクトはない。標準作というところ。
ホープに関しては、前作の怪我の状況にもいろいろ触れられ、シリーズをキャラで追っている人には楽しめる。
最後の1行は、気がきいていて、ニヤリとさせられた。


No.218 6点 小さな娘がいた
エド・マクベイン
(2024/02/18 16:01登録)
構成が凝っている。
事件の内容から、ホープが普通に調べていく展開だったら、それほど面白くなかっただろう。ホープが撃たれて、シリーズ・キャラが並行して調べていく構成だから面白くなったと思う。この辺の語り方(誰の視点で何を語るか)は、さすがマクベイン。熟練の技を感じる。
どちらが先に構想されたかはわからないで、この構成にしたことで、シリーズ・キャラの内面が語られることになり、その部分がとくによい。
まあ、いいところを先に書いたが、事件のほうは、人間関係が複雑で見通しが悪いし、偶然がおおいし、謎と解決という点では物足りない。


No.217 7点 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編-
エドガー・アラン・ポー
(2024/02/12 02:00登録)
新潮社のポー短編集「ミステリ編」を読んだ勢いで、同じ新潮社のポー短編集「ゴシック編」も読んでみた。
ホラー系は、好みの真ん中というわけではないが、それでも面白く読める。今読んでも、演出に凝ってるように感じるのがすごいな。
目次を見ると、きいたことのある作ばかりで、ポーから選ぶとすると、(別冊にしたミステリを除くと)これらになるよねという作品。実際、集英社の「黒猫 エドガー・アラン・ポー短篇集」の収録作と比べても、本編集6作の内、5作が重なっている。
重なっている5作を拾い読みして比べると、全体的に集英社版のほうが好み。ポーで最も好きな「群衆の人」が集英社版には入っているのもあわせて、集英社版が私のおすすめだな。
今訳で好きなところは、いままで多かった”赤死病”を、”赤き死”としている点かな。”黒死病”と対比するための”赤死病”だったのだろうけど、”赤き死”とするほうがイメージ喚起力があっていいよね。


No.216 5点 モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編-
エドガー・アラン・ポー
(2024/02/10 19:06登録)
久しぶりにポーを読む。ポーほどの古典になると、個々の作品の評価は難しいので、評価は編集を主にしたもの。
「モルグ街の殺人」は、いくら評価しても足りない、ミステリの原点だなぁと思う。今読んでも、伏線や展開が現代の作と見劣りしないのは、すごいよなぁ。
「黄金虫」は、何度読んでも良さがわからん。つまらなくはないが、なぜこんなに評価が高いのか、わからない。
アマゾンの評などにもあるが、たしかに翻訳はよくないと思う。「群衆の人」は、本サイトにも登録されている集英社の「黒猫 エドガー・アラン・ポー短篇集」で読んだときは抜群によかったのに、今回はいまひとつ。読み比べてみると、やっぱり集英社版がいい。
ひとつ、本新潮社版で意味が読み取りずらかった部分を拾い出して比較すると、こんな感じ。
・新潮社
「格好のいい連中は枚挙にいとまがないが、しかしこのところ大都市を騒がせている腕利きの掏摸の一味だということは、たちどころにわかってしまった」
・集英社
「見たところ威勢のいい連中もたくさんいたが、これは大都会にきまって出没するハイカラ趣味の掏摸たちであると、すくぐにわかった」
全体に、こんな感じで差異があるので、「群衆の人」は、ぜひ集英社版で読んでほしい。


No.215 6点 透明人間の納屋
島田荘司
(2024/01/03 15:01登録)
さすが島田荘司。謎の盛り上げは実によい。不可能興味が半端じゃない。しかし、解決はあっけないもので、すこし物足りない。
全体の語りも、視点人物の終盤の感慨はよい感じだが、色々な要素を詰め込んでいて、すこしゴタゴタしている。まあ、そのゴタゴタ感も、島田荘司の味なのだけれど。
「ミステリーランド」叢書としては、(このシリーズには多いけど)あまり子供向けではないよね。

254中の書評を表示しています 21 - 40