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ミステリの祭典

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ことはさんの登録情報
平均点:6.26点 書評数:265件

プロフィール| 書評

No.245 5点 本所深川ふしぎ草紙
宮部みゆき
(2024/09/08 18:47登録)
さすがに語り口はいい。会話だけでキャラクターがイメージできて、練達の語り。
ただストーリーは、定型的かな。そのためあまり高評価にならなかった。
このストーリーだと、現代の設定にしてしまうと映えなくて、時代物にするのでしっくりしている気がする。意図的な選択だとするとうまい。


No.244 6点 飛越
ディック・フランシス
(2024/08/26 01:23登録)
さらにつづけてフランシス。
本作のストーリーは、あまり紆余曲折なく、一本道だ。 前半は主人公の人生の悩みが主で、ネオ・ハードボイルドの作にあった、ライフ・スタイル小説の趣を思い出した。この辺の雰囲気も含めて、クリスティ再読さんの評で”ハイソで上品な「ロッキー」みたいなもの”とあるのは、実に的確に感じる。さすがです。
終盤、急展開の場面には驚いた。それからは一気呵成で楽しめたが、どうなったかわからないでおわるところがあるのは気になる。エピローグがあればいいのに。


No.243 5点 血統
ディック・フランシス
(2024/08/26 01:12登録)
フランシスをつづけて読む。今度は初期の頃の作を手にとる。
本作、ハヤカワ・ミステリ文庫「名門」の池上採点表では満点だが、失敗作だと思う。
主人公がある願望をもっている設定だが、それが実感をもつところまで掘り下げられないので、どうも惹きつけられない。
ストーリーは、あまり紆余曲折なく一本道で、簡単に犯人にたどりつきずきだし、主人公のピンチの場面も、定型のためハラハラしない。
ラストになると、主人公とある人物の関係に焦点があたるが、そこまで二人の関係を描いてきていないので(主人公と他の人物との関係のほうが丁寧に書かれていると思う)、胸に迫ってこない。
描写がよく、いいシーンもあるので、つまらなくはないのだが、それらをうまく活用できていないと思う。
あと、本作、冒険小説風味よりハードボイルド風味が強い。池上さんは、各種書評から、きっと冒険小説風味よりハードボイルド風味が好きだと私は思っているが、だから本作が好みにあって満点だったのだろうなと思う。


No.242 7点 反射
ディック・フランシス
(2024/08/26 00:55登録)
これはうまいなぁ。「写真の謎を解く」、「騎手としての進退」、「妹を探す」の3つの話が、主人公の人生の岐路に関わってくる。
それぞれの話は事件として直接つながるところはないのだが、3つの話とも「主人公の選択」への影響が感じられて、奥ゆきがある。
ミステリ-としてのシャンル的面白さより、小説としていい小説だ。
終盤、主人公が苦難にみまわれるところはフランシス印。これも主人公の決意に関わってきていい。
やはり、フランシスはこの時期のものが好みに合いそうだ。


No.241 7点 彼と彼女の衝撃の瞬間
アリス・フィーニー
(2024/08/26 00:30登録)
作風は、暗く、不安定なトーンで、リチャード・ニーリィを思い出した。
序盤は、ふたりの別々の視点から事件が語られていき、これがなにか裏がありそうで、深読みを促すのだが、読み終わってみると、あまり深読みしなくてよかった。この作品は、流れにのっていっきに読むほうがよいと思う。
おおくの章の終わりにフックをかけ、「これはこういうこと?」、「あの人が?」と匂わせてくる。匂わせた内容が違ったり、合っていたり、なかなか予想を絞らせない。なかには(フリが全く無いので「気づけるかっ!」というものだが)かなり意外な展開もぶち込んでくる。しかも、中盤から後半にかけて、これがどんどん加速する。流れにのれれば、かなり楽しめると思う。私はかなり楽しめた。
読み終わってから振り返ると、偶然が過ぎるところや、辻褄があわないように思えるところがおおいので、すこし減点。
あとは、ある人物の過去エピソードがきつすぎるので(こんな経験があったらトラウマ)、その手のものがだめな人はやめたほうがよい。


No.240 7点 へびつかい座ホットライン
ジョン・ヴァーリイ
(2024/08/16 16:16登録)
「八世界」シリーズは、相変わらず特殊な世界設定を使って、まあ奇妙な話が展開する。これを最初に読んだら、世界設定の把握に注力させられて、筋を追うだけでいっぱいいっぱいだったと思う。本書は、短編を読んで、世界設定を把握してから読んだほうがいいと思う。
いまでは、ラノベやアニメに類似の設定/展開も多いけれど、この作品が先駆けのひとつなのだろう。ラストは、「ファースト・コンタクト」テーマに収斂して、じつに面白い。「残像」と同様、ある有名作の影響を感じた。


No.239 7点 冬期限定ボンボンショコラ事件
米澤穂信
(2024/08/16 15:53登録)
うまい。1章50ページで、章の区切りごとに一息つける構成がよい。過去と現在の行き交い方も自由自在。春、夏と比べたら、断然うまくなっている。事件も相変わらずビターだし、中学時代の小佐内さんも可愛いし、期待通り。
解決に無理がある(それを期待して行動するなんて、無理があり過ぎて納得行かない)けど、それはシリーズのいつものことだしね。
でもこれでシリーズ完結かぁ。Wikipediaをみると、「""都市""""スイーツ""の謎」の短編3作が、まだ単行本未収録なので、もう1冊短編集はでそうだが、その後は無いのだろうな。
アニメもはじまりましたが(2024/7-)、映像は美麗だが、アニメとしてはプロットが薄味すぎかな?


No.238 5点 ソー・ザップ!
稲見一良
(2024/08/16 15:42登録)
これはあわなかった。
サバイバルの描写は、極めてリアルで読み応えがあるが、対決シーンになると、漫画のようで現実感がない。どうにも食い合わせが悪くて、のれなかった。
それに、対決の理由がないので、「彼らはなんで戦ってるの?」となってしまった。いや、戦うことが存在証明のような描写はあるのだか、それなら、冒頭にバーでたむろしていないだろうとか、納得感が感じられなかった。
まあ、これはもうジャンルに対する好みですね。「戦うことが存在証明」なんかは冒険物の”お約束”なのかもしれない。「名探偵」は”お約束”で流せるのに、これが流せないのは、冒険物に対する琴線が私に無いのでしょう。
採点は、サバイバルと対決シーンでプラス・マイナス・ゼロということで。
稲見一良のハードボイルド・タッチの方は好きなので、いままでの稲見一良作では、「セントメリーのリボン」の表題作がもっとも好み。


No.237 5点 ガラスの橋 ロバート・アーサー自選傑作集
ロバート・アーサー
(2024/07/15 21:16登録)
有名短編「ガラスの橋」はどうもあわない。シンプルな謎にシンプルな解決で、面白みを感じなかった。
でも、本サイトで書評済みのおふたりの「イメージ」に対する言及で、評価しているポイントは理解できた。なるほど!
「なるほど」とは思ったけれど、私にはそこまで魅力的なイメージには感じられないのだよなぁ。本サイトで言及されている「本陣」、「斜め屋敷」ほうが、私には圧倒的に魅力的なイメージに感じられる。
他短編も、謎はシンプルで、キャラもあまりたっていないく、それほど面白くはなかった。比較的よかったのは下記作。
「マニング氏の金の木」は、途中から終盤の展開はよめるものの、他と違ってエモーショナル。
「住所変更」は、いかにもヒッチコック好み。スレッサーの良作に似た味わい。
「一つの足跡の冒険」は、ひねったホームズ・パロディでなかなか楽しい。


No.236 8点 七十四秒の旋律と孤独
久永実木彦
(2024/07/15 20:53登録)
ミステリではないが、いや、これはいいなぁ。
表題作と以降の「マ・フ クロニクル」は、同じ世界線で”マ・フ”についての物語。”マ・フ”の設定がかなり魅力的で、分類するならロボットものだろう。よいロボットものの常として、ロボットを通して人間について考察している。
描写されている映像も、魅力的にイメージにあふれている。きれいな絵でアニメ化したら、じつに映えそう。
ぜひ、”マ・フ”視点でなくてもいいので、同じ世界線の別の物語を読んでみたい。


No.235 5点 大渦巻への落下・灯台 -ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編-
エドガー・アラン・ポー
(2024/07/15 20:45登録)
同じ新潮文庫の「モルグ街の殺人・黄金虫」「黒猫・アッシャー家の崩壊」を読んだので、本作も読んでみた。
やはり落穂拾いは否めないかな。お話として面白いのは、有名な「大渦巻への落下」だけ。「使い切った男」、「タール博士とフェザー博士の療法」は、なかなか振り切っている落ち(というか、設定)はよいが、それだけだし、「メルチェルのチェス・プレイヤー」、「メロンタ・タウタ」、「アルンハイムの地所」は、ストーリ展開がなし。「灯台」は数ページの掌編。
ただ、「アルンハイムの地所」は、乱歩の「パノラマ島」の元ネタだと読めて、かなり興味深かった。


No.234 6点 招かれざる客
笹沢左保
(2024/07/14 02:12登録)
「有栖川有栖選 必読! Selection」シリーズのカバーがなかなかよいので、もう1冊。
前半は記録の抜粋にして、後半、主人公による捜査行というのがなかなか良い構成。前半で提示される情報の量が多くて、かなりスピード感があって楽しいし、後半の捜査行は、鮎川哲也の鬼貫ものを思い出させる地道なものだが読ませる。(鮎川哲也と比べると、順調にいきすぎだが)
いくつかのトリックは、それだけ取り出すとシンプルすぎたり無理があったりで、驚けなかったが、楽しむ部分は、トリックを解明していく捜査の道行きだろう。
動機については、ちょっとどうかな。1つめの事件の動機はドロドロしすぎだし、2つめの事件の動機については、原因となるある事実が無理すぎる(誰か気づく!)。ミステリに徹して、この部分は無いほうが好みだった。


No.233 6点 1(ONE)
加納朋子
(2024/07/14 02:07登録)
駒子シリーズの新作ということだが、だいぶ読み心地が違う。作中の年代が変わってしまいすぎだよ。学生アリスシリーズみたいに、ずっと同じ年代でやってもらうほうがいいのにな、と思う。
ミステリ的興趣も薄いし、ジャンル分けするなら、ファンタジーかなぁ。まあ、いい話であるし、今の駒子が知れるのは嬉しかったりもするのだが、期待していたものとはちょっと違った。
残念なのは、もう駒子シリーズは書かれそうもないことかな。最終回的なものがあるわけではないけれど、作中年代と執筆時期を重ねる方針ならば、次回作は難しいと感じた。クリスティーの「トミーとタペンス」もののように、かなり時間をおけばもう1作あるかもしれないけど、期待しているのはそういうものではないしなぁ。


No.232 6点 孔雀屋敷 フィルポッツ傑作短編集
イーデン・フィルポッツ
(2024/07/14 02:03登録)
良くも悪くも、古き良きミステリかな。良くとるか悪くとるかは、読む人次第。
想像以上にトリッキーな部分が多く、それも含めて、古き良きミステリ。小説家としてのフィルポッツの地力は感じられる。
唯一「鉄のパイナップル」だけは、キャラの特殊性から、現代的に感じられる。


No.231 7点 すみれ屋敷の罪人
降田天
(2024/06/11 01:31登録)
過去の出来事が、複数の証言で浮かび上がってくるミステリ。
ミステリを読み込んでいる人には、全体の構図は途中の段階で思いつくもので、どんなことがあったのかという点には意外性はない。焦点は登場人物のドラマだろう。これは、なかなか切なくて滲みる。
配置されたエピソードの組み上げ方も複雑で、構築感があってよくできている。良作。


No.230 6点 Y駅発深夜バス
青木知己
(2024/06/05 01:26登録)
1作毎に作風が違うバラエテイに富んだ短編集。前半3作はいまひとつ、後半2作は良作と感じた。以下、各作の寸評。
「Y駅発深夜バス」。チェスタトン風のミステリ。なのだが、前半の不可解さが弱いし、後半、地に足のついた語りになって、そのせいで真相の無理筋を強く感じた。この手の作品は、少し地面から浮いた感じのほうがいいと思う。(でもネットをみると本作を好きな人も多くて、この辺はもう好みしかないんだなぁと思う)
「猫矢来」。青春ミステリ。真相がわかると「こんな重大事を伝えないのはどうなの?」との思いが強くて、どうものれない。青春物の雰囲気はよい。
「ミッシング・リング」。クローズド・サークルの犯人当て。探偵役に頼む展開が唐突すぎないか? 動機も、その目的でそれを行うのは説得力がなく、結末の転がし方も無理筋が目立つ気がする。
「九人病」。特殊な病気を設定した怪談。本サイトで本作を「怪談」と紹介している人がいて、たしかに本作は「ホラー」より「怪談」と呼ぶほうが似合う。九人病に関する顛末が読み応えがあり、描写もいい。結末の転がし方もよい。これが5作の中では抜群に好き。
「特急富士」。コメディ・タッチのサスペンス。ヒッチコックの「ハリーの災難」を思い出した。コメディ・タッチなので無理が目立たず、楽しく読めた。作者、こんなのも書けるんだ。器用。


No.229 4点 ビール職人のレシピと推理
エリー・アレグザンダー
(2024/06/05 01:21登録)
前作同様、ミステリは風味づけ。
お仕事小説としても、前作ほど面白くない。新作ビールがちょっと目新しいくらい。
ミステリ部も、主人公が偶然事件に関わることが多かったり、主人公の嘘の証言をした人物に対する扱いが適当だったり、主人公が調査をすすめる動機がよくわからなかったり、いろいろ雑。
読みやすいところだけが、よいところかな。


No.228 7点 煉獄の時
笠井潔
(2024/05/26 12:38登録)
いやあ、長かった。
長さを感じたのは、第二次世界大戦の前後の時代を描いた第2部が、なかなか読みづらかったから。今回、シリーズの他作とは少し違った読み心地だった。
シリーズの他作は、ミステリ部分以外に、哲学/思想談義ががっつり盛り込まれるのが定型だが、本作では、第二次世界大戦の前後の社会情勢やイデオロギー対立がどっぷり描かれていて、哲学/思想談義は、それをふまえて展開される。趣旨をひろいだすと「所有と剥奪の論理が極限に達した時代が近代で、それが大量死を現実化した。それに対して、消失が抵抗の原理となる」というところだが、難しすぎで納得感がうすく感じた。
それだけでなく、第2部の半分以上がその社会情勢やイデオロギー対立の描写で、まるで近代ヨーロッパ史の勉強のようだった。若い頃とは違って、そこも「へぇ、そうなんだ」と思いながら退屈しないでは読めたが、まだ私には積極的に面白いといえるものではなかった。
第1部の事件も地味だし、第2部まで読み終わった時点では、シリーズでは一番面白くないかもと感じた。
(第1部の事件の1つは「首のない死体」なのに、描写/演出が猟奇性をほとんど強調していなくて、事件発生時の時系列の確認にかなりの筆を費やしているから、地味に感じるんだよね)
第3部に入って、新事実がいくつも出てきてから解決編に入る。第1部で謎としてフックしていた「手紙の消失」、「船の出入りの不可能性」の真相は、強行突破的な単純なもので、ちょっとこれはどうなのと一旦は思ったが、解決編の見せ場はそこではなかった。1、2、3部のエピソードが次々ときっちりと積み上がって、大きな構図を描いていくのだ。「手紙の消失」、「船の出入りの不可能性」の真相も、その構図の中にかっちり収まっていく。いや、これは、京極堂シリーズのような構築感あり、非常にに読みごたえがある。
シリーズの上位にはいかないまでも、シリーズの期待値には十分に達した。
それにしても、「連載時は犯人も違った」とのことで、これ以外にないような構築感なのに、連載時はどうなっていたんだ?
あとは、ナディアの精神的問題について、あまり分量を割かれることなかったのが残念かな。それも、今回で回復という状況のようで、次作以降には着目されなさそうだしなあ。
ちょっと気づいたトピックとしては、日本人とユダヤ人の比較について、島田荘司も「ローズマリーのあまき香り」で触れていること。本書では「まったく違う」と書かれているのだが、島田はまったく違う切り口で「類似している」と書いていて、新本格前から活躍する同時代の2人の作家が、同時期に同じテーマを違う切り口で取り上げているのも、面白い符合だなと思った。


No.227 6点 アリバイの唄
笹沢左保
(2024/05/26 12:11登録)
「有栖川有栖選 必読! Selection」シリーズのカバーがなかなかよいので、1冊選択してみた。
これは、ちょっと事前情報を入れただけで、余計な気付きにつながる作品だ。なので、明確なネタバレはしないけど、未読の人は下記を読まないほうがいいかも。
1990年の発表の作品なので、笹沢左保が新本格をふまえたうえで書いた作品ととらえるのが適当で、そう考えると、メインの趣向はいかにも新本格的だ。
読み口は軽快で、軽快さを優先させるためか、情景描写/心理描写には深入りしていない。そのため作品全体の印象はあっさりしている。事件が発生するのがかなり遅いし、質疑応答や試行錯誤も少ないので、読み終わって記憶に残るのは、メインの趣向だ。あえて、メインの趣向に全振りしたのかもしれない。
あと、タイトルはどうなのかな。タイトルと事件の様相から犯人わかっちゃうよ。


No.226 6点 コンビニ人間
村田沙耶香
(2024/05/26 02:04登録)
ジャンルを問われたら、ミステリでなく文芸作品と答えるが、面白さのポイントとしては、早川の異色作家短編集に近い感じなので、そのあたりのジャンルを楽しめるミステリ読みには楽しめる気がする。
ラストの取り方は人それぞれになりそうだが(取り方によって、読者の感性のほうがみえてくる感じで面白そうなのだが)、私は「語り手である主人公が覚醒した」と感じた。

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