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ミステリの祭典

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弾十六さんの登録情報
平均点:6.13点 書評数:459件

プロフィール| 書評

No.99 6点 猫と鼠の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2018/11/28 22:05登録)
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士 第14作。1941年出版。創元文庫で読了。
登場人物が少ないので大丈夫かな?と思うくらいのシンプルな話。特異な性格のキャラが出てくるので良いJDC/CDです。もー少し被害者の描写を多くして、事件前の猫と鼠のいたぶり描写を肉付けしておけば、もっと傑作になったと思います。
奇天烈度がやや低いのと結末に不満(チュートハンパやなー、な感じ)があるので中傑作「弱」という評価になりました。
ところでプールの場(第14-16章)ですが、ずっと「テニスコートの謎」の一場面だと記憶していました。どーゆー狙いの一幕なのか、よくわかりません… 何か隠された深い意味があるのでしょうか?
さてトリヴィアです。原文入手出来ていません。
p8 かつら: 18世紀のコスプレみたいなやつ。まだ続いてるのか、と思ったら、民事裁判では2008年廃止。
p37 年500ポンド: UK消費者物価指数の比較で約54倍(1940/2018)。現在価値は日本円にして393万円ほど。
p54 実話雑誌: 米国では1920年代〜1940年代に流行。英国版Trye Story誌は1922年からHutchinsonが出版。
p146 ナポレオンいわく。男は6時間、女は7時間、愚者は8時間眠るとな。: Six hours for a man, seven for a woman, eight for a fool. 英国の古い諺?歴史上のナポレオンとはあまり関係ないようですが、ナポレオンが引き合いに出されることも多いようです。
p188 公衆電話… 5ペンス… Aボタン: Public telephones in 1940s BritainでWEB検索すれば「A ボタン」が見られます。デザインセンスが実に英国らしいダサさで良い。
p190 水着: 詳しい描写なしです。swimsuit 1940で検索すると、すでにセパレート型が登場しているようですが、ワンピース率が高いかなぁ。
銃は「アイヴス=グラント32口径」リボルバーが登場。「銃身を折ってみると、弾丸は全部装填されて一発だけ撃たれている。」という描写があるのでWebley & Scott .32 Caliber Revolverみたいなトップブレークの拳銃なのでしょう。でもIves Grantというメーカーは全く聞いたことがありません。ニワカマニアなので、存在しない!と断言することも出来ません… この場面で作者が架空のメーカーをでっち上げる必要は無いように思うのですが… (2018-12-14追記: Iver Johnsonにも32口径トップブレークのrevolverがありました。1933年F.D. ローズヴェルト暗殺未遂事件に使われたやつです。この記憶が生々しかったので出版側が難色を示した?のかも。多分JDC/CDは気にしないタイプ。最近入手したかなり網羅的なカタログにもIves又はGrantのいずれも掲載されていなかったので、この名称は架空のものと断言しても良さそうです)
p14 小型の回転拳銃の弾丸: なぜリボルバーの弾と分かるか、というと薬莢にリムがあるからですね。

ここで問題。本書の作中時間は何年でしょうか?
作品中に、4月27日金曜日(p53)、4月30日月曜日(p227)と明示されています。ですから簡単にわかるはず… しかし、この日付は矛盾しているのです。
登場人物がソドベリー クロスの毒殺事件(緑のカプセルの謎)に言及(p84)しており、作中時間はこの事件の後であることが明白です。(震えない男p85にソドベリー クロス事件は1937年10月に発生した、との記述あり)
ところが「4/30月曜」の該当年は原作出版年(1941)に近い範囲(1930-1950)で1934年と1945年だけ。
ああJDC/CDがやらかしたな… 単純ミスだよ… となってしまいますよね。でも日付がもう一つ。p267に「4月30日火曜日」とあり、訳注では「原作の誤り。5月1日火曜日のはず」と指摘しているのですが「4/30火曜」の該当は1940年です。とすると、実はこれが正しく「4/30月曜」が誤りなのか! と結論に飛びついたそこのあなた。あなたは重大な歴史的事実を忘れています。
それは英国では1939年9月1日に始まった灯火管制(blackout)のことです。
この作品中の夜間の光や窓の扱い方は平時のもので、灯火管制下の世界ではありえません。

以下、解決篇です。
多分、作者は1940年「4/30火曜」で初稿を書いたのでしょう。そのあと灯火管制の開始時期を思い出し、1940-1-1は月曜日、1939-1-2は月曜日、というような事実から「日付を一つ後ろ送りすれば1年前にずらせる、それなら灯火管制前になるのでオッケー」と考え1940年「4/29月曜」→(作者のつもりでは)1939年「4/30月曜」などと修正したのだと思います。(1箇所p267は修正漏れ) なのでJDC/CDが執筆中に想定していた事件発生年は1939年だと思うのです。(実際の1939年4月30日は「日曜日」) 作者は閏年のズレ(3月以降は2つズレる)を忘れていた、というのが私の仮説です。Q.E.D.


No.98 7点 ボッコちゃん
星新一
(2018/11/26 05:42登録)
1961年出版『人造美人 ショート・ミステリイ』『ようこそ地球さん』(いずれも新潮社) を中心に自選50篇。文庫オリジナルのようです。私は電子本で読みました。
セリフの感じが60年代です。スマートという形容がふさわしい。
真鍋博のイラストも良いですね。
小学校の教室内にあったように記憶しています。人が読んでると、読みたくなくなるへそ曲がりなので、随分大人になってから読みました。(きっかけは最近のショートアニメだったような気がします)
短い作品は大好きです。そして星さんの作品は読む前から品質に安心感があるのです。(星新一伝、買ってるけどまだ読んでいません…)


No.97 7点 ギャングース
鈴木大介
(2018/11/25 19:26登録)
漫画: 肥谷圭介&ストーリー共同制作: 鈴木大介
ノンフィクションをエンタメにする一つの方法。
現実が、本当にこうなのか、はよくわからないのですが、ただならぬ迫力の若き犯罪者たちの冒険物語です。
現代の悪党パーカーはこれだ!


No.96 7点 連続殺人事件
ジョン・ディクスン・カー
(2018/11/25 08:50登録)
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士 第13作。1941年出版。創元文庫で読了。
スコットランド愛が溢れた作品。子供時分に読んで、こんなに楽しいスコットランドが大好きになりました。(でも作者のスコットランド知識も登場人物のアランとどっこいどっこいじゃなかったのかな) 最近エマニュエル トッド説を知り、やはりスコットランド万歳です。
前に読んだ、といってもほぼ40年前。話の筋や犯人、トリックなど全部忘れています。呑んだくれて大騒ぎの強烈な印象が残っていただけなので再読がとても楽しみでした。(逆に三つの棺とか火刑法廷はなんだか気が重いんですよ… まだ読めていません。)
constant suicidesの適訳はなんなのでしょう? 連続自殺事件でいいのかな。(A Constant Suicideという小説が出ていました。こっちは単数形なので「常に自殺」?)
冒頭は映画のラブコメ。ビリーワイルダーのセンですな。(いやワイルダーならもう一捻りあるか) ブッキッシュな作者なので歴史トリヴィアからスタートです。(ネタのクリーヴランド公爵夫人は歴史上の実在人物、肖像画を見ると「金髪の小柄」では無いようですね…)
途中の記述でトリックを思い出してしまいました。でもそんなに支障は無いです。
スコットランドヤードをスコットランドに呼ぶ、が一番面白いジョーク。
強烈な登場人物が出てくるとJDC/CDは傑作になる可能性が高いです。奇妙奇天烈な筋だから、それにキャラが釣り合っていなければ。この作品は合格です。
最初の事件に比べて、後の事件が弱いのはいつもの通り。昔読んだときは大傑作!という記憶でしたが、今回読んでみると、破天荒度が高くないので中傑作という評価です。「キャンベル家の宿命」ちょっと飲んでみたいですね。(やめておけ)
さてトリヴィアコーナーですが、原文が入手出来ず、調べが行き届きませんでした。
p8 例のスコッチのダジャレ: よくわかりません。
p30 ぺピース: 現在はピープス(Pepys)でお馴染み。
p34 ロックローモンド: The Bonnie Banks O' Loch Lomond スコットランドの古謡
p38 ネクタイ1ダースで3シリング6ペンス: 0.175ポンド。当時のドル換算で70セント。現在価値は16.751ドル(食パン基準1940/2018) 随分安い…
p45 セドリック ハードウィック(Cedric Hardwicke): 41歳(1934)で卿に叙された英国俳優。シュノッズル デュランテはおなじみ(じゃないかな?)Jimmy 'Schnozzle' Duranteですね。
p80 ショオの“医者のジレンマ”(The Doctor’s Dilemma): G.B.Shaw作、初演1906年。邦訳は『医師のジレンマ -バーナード・ショーの医療論』(中西勉訳、丸善名古屋出版サービスセンター1993)だけ?ショーって相変わらず人気無いですね。(「ウォレン夫人の職業」にミステリ味があったようなおぼろげな記憶が…)
p119 ヒースの美酒の秘密よ/とこしえにわが胸に眠れ: 詩の引用らしいのですが、発見出来ず。
p158 文豪スティヴンソン…(中略)…アレン ブレック(アランじゃないんだから間違えないでもらいたい)… (中略)… 映画になった“誘拐”: Kidnapped(1886)にも出てくる実在のAlan Breck Stewartの発音がアランじゃないらしいです。英Wikiより(Gaelic: Ailean Breac Stiùbhart; c.1711–c.1791) 実はアイリーン?
p220 スコットランドの法律には事後従犯なんて無い: これにはビックリ。調べてみると日本の刑法でも事後従犯は処罰の対象ではないらしい。(犯罪を事前に助けると「従犯(幇助犯)」です。ペリー メイスンの読みすぎで全世界共通の罪だと思いこんでいました…)
p235 いとし娘は、かぼそいおぼこ…: 多分実在の唄。Alan Lomax録音のスコットランド古謡のシリーズ(Jeannie Robertson, Jimmy MacBeathなど)を持ってますが、収録されてるのかなぁ。後でじっくり聴いてみます。
銃は「軽い20口径の猟銃」(p238)が登場。20-bore「20番」ですね。延原先生は正しく訳してるのに… (井上一夫さんは弟子) 「強だま」(p255)はheavy loadのことでしょうね。

(以下2019-6-1追記)
やっと原文を入手出来ました。不明の詩はあっさり判明。
p119 Here dies in my bosom/The secret of heather ale.: Robert Louis Stevenson作のHeather Ale. A Galloway Legend(1890)より。
p235 I love a lassie, a boh-ny, boh-ny las-sie –/ She’s as pure as the li-ly in the dell – ! : ミュージックホールコメディアンHarry Lauderの出世作I Love a Lassie(1905)より。Webに音源あり。
p38の現在価値を、上ではドル換算してますが、英国消費者物価指数基準1940/2019(55.52倍)で計算し直すと1360円。きちんと読むと「一本三シリング六ペンスだに」(They’re three-and-sax-pence each.)となってることに今気づきました。じゃあ普通の値段(やや安いか)ですね。


No.95 8点 虎よ、虎よ!
アルフレッド・ベスター
(2018/11/24 19:09登録)
まさか登録されてるとは思いませんでした。ここは懐が深いですね…
1956年英国で初版。ついで米SF雑誌Galaxyに連載。ここら辺の事情は何だったのか?
SFの祭典なら文句なしの10点です。
悪党パーカー的なのが好きな人にも良いのでは?


No.94 8点 夏への扉
ロバート・A・ハインライン
(2018/11/24 18:29登録)
夏、といえばこの作品なのですが、ミステリ興味あったっけ?と思い返すと全く内容を覚えていない! ことにたった今気づきました。
小尾さんが改訳、というのも初めて知りました。
早速、アマゾンで新訳版を注文です。届いたら読みます。
手始めに記憶の印象だけでこの評価です。(悪徳なんか…のユーニスは強烈に覚えてるのに…)


No.93 8点 ユービック
フィリップ・K・ディック
(2018/11/24 17:39登録)
昔はレムが書いたら傑作になってたのに、と思ってました。今は、正反対の評価です。日常生活の中に、突然、裂け目が出来る感覚を、軽いタッチで見事に表現しています。生きることは、少しずつ死ぬことだ、と言う真理をガキだったわたしに強く印象づけました。レムなら哲学論で台無しにしてたでしょうね… 深読みしたくなるほど、表面上はストレートなSF傑作です。
※ なんかアマゾンを今見たら、翻訳が古いとなっててショック… 浅倉先生ももー古いんだ… 久々に再読してみようかな… (ディックが書いた映画版ユービックの脚本もかつて読みましたが、いまいちピンと来なくて、途中で落ちました)


No.92 8点 母なる夜
カート・ヴォネガット
(2018/11/24 14:56登録)
Uブックス版は池澤さんがさらに練った訳、というので買って読まねば! と思いました。情報ありがとうございます。(私は白水社の旧版で読みました)
「チャンピオンたちの朝食」(1973)までは熱心な読者だったのですが、それ以降は読んだり読まなかったりです。
本作はヴォネガットの作品中、もっとも普通の小説でその点の完成度が高いです。確か小鷹さんが引用していた作者の言葉Make love while you can, it’s very good thing.(うろ覚えです)とともにいい思い出として心に残っている作品です。
再読を果たしたら、追記しようと思います…
「デッドアイ・ディック」は殺人が出てくるし、SFっぽくない小説なので追加しようかな…


No.91 7点 一九八四年
ジョージ・オーウェル
(2018/11/24 14:00登録)
この作品自体は素晴らしいと思います。(ロンドンの鐘の音と、ネズミが心に深く残っています)
私が気に食わないのは、日本ではザミャーチンの「われら」との関連が抹殺されてることなんです… 事実を無かったことにする、その行為自体が1984的な世界だと思うのです。まあ一度「われら」(岩波文庫で入手可能)を読んでいただければ、私の言いたいことがわかっていただけるのではないか、と思います。
WikiのZamyatin “We”の項目より引用。
Orwell began “Nineteen Eighty-Four”(1949) some eight months after he read Zamyatin's “We”(1921) in a French translation and wrote a review of it.

<誤解を与えそうなので、追記>
パクリ云々の話(全ての芸術はパクリである)ではなく「われらを読んで強い印象を受けたものと思われ、その設定を発展させ1984年を執筆した」と何故素直に書けないのか?ということです。(パクリアレルギーの人っていますよね…)
英Wikiでも上記の文章は1984の項には書かれていません… (日本Wikiの「われら」の項目が特に気持ち悪い。躍起になって1984年を褒め称えています)
オーウェルの書評 E・I・ザミャーチン著「われら」(Tribune 1946-1-4)がWEB上で読めるんですね… 最後の文はオーウェルの犯行予告です。
This is a book to look out for when an English version appears.


No.90 7点 溺れるアヒル
E・S・ガードナー
(2018/11/24 08:52登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第20話。1942年5月出版。
冒頭はパームスプリングスのホテルで休暇中のメイスンとデラ。やはり主人公とともに何だかわからない事件に巻き込まれて行くこの感じが好きです。地方新聞に動向が乗るほどの有名弁護士メイスンに持ち込まれた依頼は18年前の殺人事件の調査。今は1942年と明示され、出征間近で結婚を急ぐ青年や、この戦争が若者たちを鍛え上げるだろう、といったセリフが開戦直後の雰囲気を感じさせます。豪邸でドレイクと合流し、乾杯は「犯罪を祝して!」(Here’s to crime.) メイスンの無茶な行動はほとんど無く、デラと乗馬を楽しんだり、猛犬を簡単に手なづけたり、路肩でタイヤを交換したり。(ただし危険な助言は結構あり) 舞台がエル テムプロ(El Templo: 架空地名、多分インディオの近く)なのでトラッグはお休み。
法廷ではメイスンは傍聴人席(シリーズ初)でイライラ、最後は「待ってました」の独壇場で得意の攻撃を繰り出し、事件を解決に導きます。
タイトルに動物が登場するの(吠え犬、門番猫、びっこカナリヤ、偽証オウムなど)には傑作が多く、この作品も切れ味がとても良い秀作。
ではトリヴィアです。(◼︎はPerry Mason Bookからのネタ)
銃はライフル銃(rifles)、六連発銃(six-shooters)、散弾銃(shotguns)が登場。詳細不明。
p102「重装の、あの20ゲージの銃を発射して」(You take one of these twenty-gauge guns with a good heavy load): heavy loadは重い散弾(反対語 light load)のことなので「20ゲージの銃で重装弾を発射して」が正確。20ゲージ(.615インチ)は12ゲージ(.729)より小口径で小型鳥獣猟用。
p34「自分が、劇にでてくる主人公のようだと思ってるだろうな。客は腰を打つし…」(must feel he’s like the host in that play where the man broke a hip): この劇はGeorge S. Kaufman & Moss Hart 作の喜劇The Man Who Came to Dinner(1939初演、1941映画化 日本未公開)とのこと。(某Tubeに楽しそうなトレイラーあり) ◼︎
p36「パリス型石膏」(a plaster of Paris cast): ギプスのこと。
p120「清浄剤」(detergent) :「界面活性剤」が正訳。翻訳時(1958)には普及していなかったのかな? 現在「清浄剤」は界面活性作用ではなく、化学作用や物理作用で汚れを落とす洗剤に使われる。なお米国でも本書出版当時detergentは一般家庭で使用されておらず、ライフ誌1939-2-27号に“Aerosol Makes Even Ducks Sink”という記事が載ったとのこと。◼︎
p125「シカゴのセントラル・サイエンティフィック商会、ニューオルリーンズのナショナル・ケミカル商会、ニューヨークのアメリカン・シアン・ケミカル会社」(Central Scientific Company of Chicago, National Chemical Company of New Orleans, and American Cyanamid and Chemical Corporation in New York): いずれも当時実在の会社です。作者はAmerican Cyanamidの社員(その娘は後年のミステリ作家Sally Wright)に取材したので、ここで一つ宣伝、ということでしょう。◼︎
p181「われわれアメリカ人全部にとっても、このあたりで、ひとつがんと喰らわされるのはよいことかもしれないんだ」(It might be a good thing for all of us to get jolted out of it.): 後段で「(我々は)戦争に一度も負けたことがない」と言っています。当時はまだ日本軍も善戦中。(ミッドウェー海戦は1942年6月)

<ちょっと誤訳>
p31「マーヴィンは、研究所の実験に生き物を使用するには、ちょっと神経質すぎると思うよ。」(I think he’s a bit sensitive about using live things in laboratory experiments.) heの直前に話に出てくる男性はFatherだけなので、内容から言っても「お父さんは随分気にするだろうと思う」ということですね。
p87「昔、毒ガス室で、犯罪者を死刑にしたものと同種のものだ。」(It’s the same kind they use to execute criminals in a gas chamber.): 当時バリバリの新方法(カリフォルニア州では1938年からガス室実施)なので、変だと思いました。used toの見誤り。


No.89 6点 鬼平犯科帳 (コミックス)
さいとう・たかを
(2018/11/23 07:19登録)
池波先生には大変申し訳無いのですが、梅安も秋山小兵衛も鬼平も、全部さいとう氏の劇画でしか知りません。でもそれらの劇画のおかげですっかり池波先生の小説のファンみたいな気持ちです。(エッセイは読んでおり大好きです)
さいとう・たかを氏は、リアリティに気を使う主義なので、江戸時代の描写も正確なのでは?と思っています。絵で見ないとわからないものって結構ありますよね。
まー内容は「本格の盗賊」とか、当時はもっと身分制度が窮屈な感じじゃないの?とかフィクション味が多い気がしますが…


No.88 10点 半七捕物帳
岡本綺堂
(2018/11/23 05:53登録)
光文社文庫で全話読了。
1917-1937発表。
他所ではタダで本文が手に入りますが、おすすめは講談社 ≪大衆文学館≫文庫。雑誌掲載時のイラスト付きです!人によっては邪魔に感じるでしょうが、この企画は是非ほかでも実施して欲しいですね。乱歩さんも当時のイラスト付きが見たいと思いますし、パジェット付きのホームズやテニエル付きのアリスは当たり前ですよね。
綺堂先生には本物の江戸時代を感じます。特に、江戸の夜の暗さがイイ。会話の口調も心地良いです。
トリックも雰囲気を壊さないような工夫が見どころ。でも江戸の警察制度のリアルではないとも思われます… (実は謎解き小説より江戸岡っ引き裏話のようなのが読みたいほうです)


No.87 7点 フーディーニ!!!
伝記・評伝
(2018/11/23 05:00登録)
脱出マジック、降霊術、コナンドイルとくればミステリの範疇ですよね!

Kenneth Silverman. Houdini!!! The Career of Ehrich Weiss (New York; Harper Collins 1996) フーディーニ(エーリッヒ・ヴァイス)は科学の時代の子であり、個人の時代の子だったのですね。コナンドイルとの対立について漠然とした知識はありましたが、友情関係が意外でした。1890年代から1920年代、ボードビルなどの興行界、奇術界、手錠抜け(残念ながら謎解きはありません)、脱出(といえば私の時代では初代引田天功ですね。TVで見ていても強烈な体験でした)、黎明期の映画産業、ジャックロンドン(意外な繋がりあり)、降霊術&心霊主義、黎明期の飛行機、などなどに興味があればとても面白いと思います。エネルギッシュで騒々しく挑戦的な人生の記録の後に、姪が書いた短い回想録があり、ほろりときます。この後、世界は大不況・大戦を経て、集団の時代・画一化の時代に移ってゆきます。生フーディーニの手錠抜けや脱出、見たかったですね… (フィルムの記録があるようですが…)


No.86 5点 寝室には窓がある
A・A・フェア
(2018/11/23 02:39登録)
クール&ラム第12話。1949年1月出版。ハヤカワ文庫で読了。
ホテルのロビーでブロンドに出会うラム君。作者お気に入りの「犯罪に乾杯」(Here’s to crime)が出てきます。複雑な展開の物語ですが、登場人物の魅力が薄いです。バーサやセラーズ部長刑事も表面をなぞるような描写。銃は32口径の六連発のリボルバーが登場、詳細不明。
小実昌さんのグチだらけの訳者あとがき(翻訳の日本語について)が面白いです。


No.85 5点 空っぽの罐
E・S・ガードナー
(2018/11/21 05:39登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第19話。1941年10月出版。HPBで読了。
冒頭は中年主婦の家庭の悩みが語られ、全然ワクワクしません。メイスンは第三章(p23)から登場。舞台はロスアンジェルスとサンフランシスコ。依頼が普段とは全然違うのがユニーク。支那と日本の戦争が遠景にあり、支那人の召使い、名前はガウ ルーン(Gow Loong 広東語「九竜」)で正しい音訳のようです。(作者は中国人と交流あり) メイスンの好みはオルガン曲かハワイアンミュージック。ドレイクはメイスンにスカされおかんむり、酔い覚まし炭酸(Bromo-Seltzer)をガブ飲みします。メイスンとデラはS.F.に飛んで、おふざけから無茶な大冒険に発展、口から出まかせ出たとこ勝負のお芝居で何とか危機を切り抜けます。(個人的にはここが一番の見どころ) トラッグ視点の記述が丸ごと一章分あります(第11章)が、活躍は地味です。
いつもの込み入った筋で、スリリングな展開が楽しめますが、全体的にバラけた印象、上手く絵が仕上がらない感じです。(そもそも罐の謎が、それめんどくさすぎでは?なので…)
ではトリヴィアです。
銃は銀色のピストル(revolver)、短い鈍色の自動拳銃(a grim snub-nosed revolver)、38口径のピストル(.38 caliber revolver)が登場。いずれもメーカー等詳細不明です。リボルバー(回転式拳銃)を自動拳銃(これだとsemi-automatic pistolの意味になってしまいます)とか単にピストルと訳すのはいただけません。
p12 洗濯ものを絞り器(mangle)に…: 圧縮ローラー式のやつです。
p13 Webster's Collegiate Dictionary 5th edition(1936)は当時の最新版。「新聞のクロスワードに必要な言葉はみんなはいっているはずよ」クロスワードは、その発明(1913)以来30年程は辞書の定義をそのままカギに使うという暗黙の了解があり辞書は大変な売れ行きだった(遠山顕2002)
p14 [靴下の]中にカガリ玉(darning egg)を入れて…: 私は初めて知りました。
p53 「本で」メイスンの活躍を読んだ、と訳されていますが、原文では単にread aboutなので、新聞とかで有名なのでしょう。
p71 口述録音機(dictating machine)はディスク式の発明(1945)まで記録メディアは蝋管。(と言うことは「あの作品」も蝋管ですね)ガードナーは1933年ごろから全て口述録音。
p180「やなにーも」(maskee) 支那人の召使いが使うピジン英語。
p220 冷蔵庫は、電気製品だった。(The icebox was electric) 完全には普及していない時代です。
デラが先導したメイスンとの乾杯は「犯罪事件に!」(Here's to crime)
ところで、トラッグの「弟」が出てきますが、原文はa brother、年齢の上下は不明です。

<意味不明なので原文を解釈>
p238のメイスンとデラの会話がちょっと…
単なるアクセサリーになろうとしたら、[秘書は]アマチュア資格を喪失する(becomes an accessory, she loses her amateur status): 試訳「共犯者になっちゃったら、シロではなくなるね」
アクセサリーって?(What's an accessory?): 「共犯者?」
賭場の見張り女のことさ(A moll who cases the joint): 「見張り役の女(スケ)」(p214のことなので隠語っぽく訳すのがいいでしょう)


No.84 7点 レスター・リースの新冒険
E・S・ガードナー
(2018/11/18 11:24登録)
本書に収録されているのは全てDetective Fiction Weekly(以下D.F.W.)に掲載されたものですが49作目(1936-3-21)を最後にシリーズ第1作目から続いていた同誌への掲載が一時中断し、Street&Smith's Detective Story誌(月刊誌)が50作目(1938年12月号)から56作目(1939年8月号)までリースものを掲載します。ところが57作目(1939-9-16, Lester Leith, Magician 本書に収録)は雑誌表紙の最上部に大きく"Lester Leith is Home Again!"と書かれ、D.F.W.に再び掲載されました。(これ以降最終話まで同誌及び後継誌に掲載。63作目掲載のDetective Fiction誌及び64作目と65作目<最終話>を掲載したFlynn's Detective FictionはD.F.W.の後継誌) この時期D.F.W.は表紙の雰囲気を変えたり週間から隔週刊、月刊に変わったり版元が変わったり雑誌タイトルを変えたりと台所事情が苦しかったのがうかがえますが、1938年の突然の掲載誌変更(大人気作のライヴァル社への移籍ですから…)にはどんな事情ががあったのか気になります。(長編作家として安定してきたガードナー自身の中短編の寄稿自体が減っており、既にパルプマガジンは主戦場では無かったのですが…)
さて、本書には以下の5作を収録、いずれも楽しい紳士怪盗ものです。(#はリースものの掲載順通し番号)
#19 In Round Figures (D.F.W. August 23, 1930)
#33 The Bird in the Hand (D.F.W. April 9, 1932)
#57 Lester Leith, Magician (D.F.W. September 16, 1939) [aka The Hand Is Quicker Than the Eye]
#2 A Tip from Scuttle (D.F.W. March 2, 1929)
#62 The Exact Opposite (D.F.W. March 29, 1941)


No.83 7点 レスター・リースの冒険
E・S・ガードナー
(2018/11/18 11:03登録)
文庫版で読了。
なぜレスター リースはほんの数作しか翻訳されないのか?
答えは簡単でテキストが手に入らないから。ガードナーの短編集に収録された2作、Ellery Queen編の単行本The Bird in the Hand and Four Other Stories(1969)及びThe Amazing Adventures of Lester Leith(1980)収録の7作以外はパルプマガジンを漁るしかありません。(EQMM採録作で未翻訳のものがあるのかなあ…)
FictionMags Indexという素晴らしいHPで調べるとレスター リースものは全部で65作。Detective Story誌に掲載された7作以外は全てDetective Fiction Weekly誌(以下D.F.W.)及びその後継誌に掲載されました。(ヒューズのガードナー伝付属の全作品リストでD.F.W.1929年夏頃?と記載していたA Sock on the Jawは存在せず、逆に全作品リストに漏れている1作 Vanishing Shadows, D.F.W. 1930-2-8 をFictionMags Indexで見つけました。このHPでは各号の表紙の画像を掲載していて、リースものは人気が高く大抵カヴァーストーリーになっているので当時のリースのイメージがわかります)
私はレスター大好きなのですが、本国での人気が高まるのを待つしかありませんね… (あと56作も楽しみが残ってる!と思うことにしましょう)
怪盗サムでお馴染みの大正ボーイ乾先生の翻訳も快調。いずれも楽しい紳士怪盗ものです。
今回収録されてるのは以下の4作(#はリースものの雑誌掲載順通し番号です)
#23 The Candy Kid (D.F.W., March 14, 1931)
#64 Something Like a Pelican (Flynn's Detective Fiction, January 1943) [aka Lester Leith, Financier]
#51 The Monkey Murder (Detective Story, January 1939)
#58 A Thousand to One (D.F.W., October 28, 1939) [aka Lester Leith, Impersonator]

(2023-4-22追記)
アマゾンで探したら、グーテンベルク21に妹尾訳『レスター・リースの冒険』があることに気づいたので(以前は翻訳の問題でパスしていました…)文庫版未収録の1篇のためにポチりました。収録内容、訳者あとがきから判断してグーテンベルク21版は早川HPBと同一であることはほぼ確実です。(ここまで慎重になる必要ある?「ほぼ」は不要ですね)

訳者あとがきに興味深い文章がありました。

(…)レスター・リースのシリーズは、二十年ほどまえにアメリカの雑誌にのっただけで、まだ単行本にはなっていない。この本におさめた六編のうち、五編までは、最近クイーンマガジンに再録されたのを訳したのである。
(…)
この六編のうち、「いたずらな七つの帽子」だけは、ディテクティヴ・ストーリーといういま廃刊になっている雑誌の、一九三九年二月号からとった。私はいまこの雑誌を探しているがこれ一冊しかもっていない。(…)

単行本出版時には、もう雑誌が行方不明になってたみたい。妹尾さんは1962年(70歳)お亡くなりになっています。蔵書はどうなったのかなあ…

最初の二篇を読みましたが、翻訳はやっぱり怪しげ(口調は良く、日本語にはなっていますが、意味が良くわからないところがちょっと多めにあるのです)。

でもレスター・リース楽しいなあ。筋はすっかり忘れていて、本当に既読物件なの?と思うくらい。人並由真さまのおっしゃる通り、ESGのスピーディーな中篇は現代でも十分通じると思います!(とは言うものの、中篇集の売れ行きは長篇と比べると悪そうだと勝手に感じているので、出版側とすれば二の足を踏むのではないか、とも思ってしまいます…)

文庫本と収録内容を比較後、人並由真さまからご指示のあったHPBと文庫版との異同の詳細を追記します。そして「いたずらな七つの帽子」はネットで原文を入手済なので、読後、妹尾訳の実態を分析(という大袈裟なものではない)したいと思っています…


No.82 5点 検事卵を割る
E・S・ガードナー
(2018/11/18 09:29登録)
ダグラス セルビイ第9話。1949年8月出版。
最後の事件です。冒頭からブレード新聞の新しいオーナーが登場し、セルビイを脅します。A.B.C.は第8話からセルビイ少佐と呼びかけます。セルビイは戦時中、敵のスパイ組織に対抗するスパイ活動をしていたらしい。(A.B.C.はきっと、スパイだったお前はまだ綺麗な手なのか?と言いたいのでしょう) A.B.C.が振る舞うバター入りラム酒を味わうセルビイと保安官。セルビイの武器は頭脳と気魄のこもった誠実。「卵を割る」ところが一番盛り上がるのですが、あとは惰性な感じで結末まで進みます。今回もアイネズは登場しません。
訳者あとがきによると地理的にはマディスン郡はリバーサイド郡のことらしいです。
セルビイvs.メイスン(のような弁護士)という夢の対決が見たかったなー。(まーでも多分、お互いの理想が同じなので対立せず協力しつつ、メイスンのトリックプレーで一気に解決してセルビイ苦笑、シルヴィアおかんむり「あんなズルいやり方って!」という流れですね)


No.81 5点 馬鹿者は金曜日に死ぬ
A・A・フェア
(2018/11/18 08:16登録)
クール&ラム第11話。1947年9月出版。HPBで読了。
井上訳ではラム君の一人称は「私」です。 お金に目が眩んで依頼を受けるバーサ。ラム君は作戦をひねり出し、セラーズ部長刑事は礼儀正しく帽子を脱ぎます。複雑な筋立ては相変わらず、解決も一筋縄ではありません。こんがらがって胃もたれする感じ。


No.80 6点 憑かれた夫
E・S・ガードナー
(2018/11/17 16:58登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第18話。1941年2月出版。HPBで読了。
冒頭、ハリウッドに向かうプラチナブロンドが事件に巻き込まれます。メイスン登場は第五章p23から。あの犬の事件の法廷で有名なメイスン。シナリオ作家あがりで、ここ2年余りでのし上がった34才の映画プロデューサーのモデルってプレストン スタージェスをすぐに思いついたのですが1940年にやっと初の監督・脚本作を仕上げたばかりなので、まだ大物という感じではないはず。メイスン映画(1934-37)の経験から作者が見聞きしたイメージなのでしょう。
メイスンが見つける死体の数は多すぎる、メイスンを信じない警察の人間はすぐ思いつくだけで3876人いる、メイスンには兄弟も妻もいない、いずれもトラッグ調べ。
メイスンとトラッグが味方となり敵となり絡み合って事件は進み、裁判は予審で終了。あとはメイスンが解説するのですが、ちょっと複雑すぎて解決編を2回読み直しました。
トラッグ警部が前作に続き大活躍。メイスンへの好意(僕は君が好きだ。君も僕が好きなんだろう)を隠さずBL好きには堪らないかも。
以下トリヴィアです。
銃は小口径(多分32口径)のオートマチックが登場。メーカー不明です。
p36『映画』誌(Photoplay): 映画関係セレブのゴシップ雑誌(1911-1980)。
p154 3丁目とタウンゼント街の角のサザン パシフィック鉄道駅(Southern Pacific Depot at Third and Townsend Streets): Southern Pacific Depot San FranciscoでWeb検索すると駅ビルの写真が見られます。1914年建造のMission Revival-styleで1970年代に取り壊されたとのこと。
p217 四人で仲良くレストランで夕食の時、デラと先に踊りたいとトラッグが言うと、ドレイクは「年の順だよ。」(Age before beauty, my lad)と返します。トラッグとメイスンの歳はほぼ同じと書かれてるので、ドレイクはメイスンより年上なのでしょうか?作者がメイスンとドレイクの年の差や上下をはっきり書いたことは無いように思います。(60年代メイスンシリーズではトラッグはメイスンより年上な感じの描写ですが、これは多分TVシリーズの逆影響。あるいは翻訳がTVの印象に引きずられたのかも。なお、TVシリーズ主演者の生年はメイスン=レイモンド バー1917年、デラ=バーバラ ヘイル1922年、ドレイク=ウィリアム ホッパー1915年、トラッグ=レイ コリンズ1889年)
p221 乾杯の音頭をとったメイスンは「犯罪のために乾杯」(Here is to crime)、このあとの作品で何度も出てくる作者お気に入りの文句です。(D.A.セルビイやクール&ラムにも出てきます) トラッグが「そして犯人の逮捕に」(And the catching of criminals)とすかさず返すのが可笑しい。

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