弾十六さんの登録情報 | |
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平均点:6.14点 | 書評数:488件 |
No.128 | 5点 | ランドルフ・メイスンと7つの罪 M・D・ポースト |
(2019/02/11 09:59登録) 1896年出版。何かの連載をまとめたもの?長崎出版の単行本で読みました。 ⑴を「クイーンの定員」で読んで、随分とエグい話だな〜と他の収録作が楽しみだったんですが、想像してた悪の弁護士とはほど遠い知恵者、曾呂利新左衛門と言った感じ。正直、ネタになってる法律のポイントがよくわかりません。米国法専門家の解説が欲しいです。パークスとの関係性は、この後、どう変わって行くのでしょうか。 ⑴The Corpus Delicti 評価6点「クイーンの定員I」の書評を参照願います。 ⑵Two Plungers of Manhattan 評価5点。トリックスター、メイスンの面目躍如。最後のセリフがいかにも。 p52 五千ドル: 消費者物価指数基準1896/2019で29.91倍、現在価値1638万円。 ⑶Woodford’s Partner 評価5点。堂々と犯罪を犯して罰せられない。A.A. フェアのラム君みたいな感じ? 正直、どーして犯罪を構成しないのか、よく分からないです。(詐欺にならないのかなぁ) (2019-2-3追記: よく考えると、奇跡的にお金が戻ってきたらどう弁明するか、という視点が欠けています…) p72 幾度となく引用される、慌てふためいたダビデの言葉(oft-quoted remark of David in his haste): Psalm 116:11 KJV “I said in my haste, All men are liars.” われ惶てしときに云へらく すべての人はいつはりなりと(文語訳)、[わたしは信じる]不安がつのり、人は必ず欺く、と思うときも。(新共同訳) このくらいは訳注で処理して欲しいなぁ。 p76 電報を頼んで兄の部屋に送った。(calling a messenger, sent it to his brother's hotel.): 1890年代ごろから電報会社は自転車の少年(10〜18歳)を雇って配達していたようです。ここでは電報会社に依頼せず、ホテルからメッセンジャーが直接伝言を運んだのかも。 p84 [車掌は]危険を承知でと言うのなら、列車から飛び降りることができるくらいに十分速度を落として走ろうと言った。(he would slow up sufficiently for Mr. Harris to jump off if he desired to assume the risk.): 車掌の提案のように訳しているが、原文では「(斜面に差し掛かるので)十分速度が落ちますけどね、危険ですよ」と言ってる感じ。(最初のhe=his trainでしょう) 乗客のわがままのために列車のスピードをわざわざ緩めるような鉄道員はいないと思いました。(この場面、特に賄賂を握らされてる訳ではない) (ここまで2019-1-27記載) ⑷The Error of William van Broom 評価4点。⑶同様、舞台はウェスト ヴァージニア。ネタは平凡な感じ。パークスの行動が謎めいています。 (2019-2-3記載) ⑸The Men of the Jimmy 評価5点。メイスン ピンチ!な冒頭が良い。異常な状況を設定しますが、これで本当に罰せられないのでしょうか。奪取は明白なように感じます。パークスの行動がますます怪しい。 (2019-2-3記載) ⑹The Sheriff of Gullmore 評価4点。またもウェスト ヴァージニアンが登場。大げさな身振りのおっさんです。p177に「衡平法(equity)」と「古い判例法(the old common law)」が対照的に出てくるのですが、メイスンの策略が硬直化したコモン・ローと柔軟なエクイティーの狭間を突いたものだとすれば、1938年制定の連邦民事訴訟規則2条でコモン・ローとエクイティの手続が統一されたので、もはや使えないトリックということですね。米国法の専門家の解説が欲しいところです。 p158 聖書に出てくる「神を恐れず、人を重んじない」男 (in the scriptural writings, "neither feared God nor regarded man."): Luke 18:2 Saying, There was in a city a judge, which feared not God, neither regarded man. (KJV) 或町に、神を畏れず人を顧みぬ裁判人あり(文語訳) (2019-2-10記載) ⑺The Animus Furandi 評価4点。またまたウェスト ヴァージニアが舞台。(ポーストの出身地だから仕方ないですね) 最後の犯行はどーみても強盗ですが、これを裁けないってどういうこと?なお、p195の「銀行(賭けトランプの一種)」はfaro。wikiに「ファロ」として載っています。「スペードの女王」の賭けもファロだったんですね。 (2019-2-11記載) |
No.127 | 5点 | ブラウン神父の知恵 G・K・チェスタトン |
(2019/02/09 11:50登録) 単行本1914年出版。創元文庫(福田+中村名義、初版1960年、20版1978年)で読了。 奇想がいっぱい詰まった『マンアライヴ』(1912)の次がこの連載。多分ポスト誌を当て込んだものだと思うのですが、実際には米McClure’s Magazine(最初の6作)と英Pall Moll Magazine(「お伽話」を除く11作)に掲載されました。Premier誌1914年11月の探偵小説クイズ『ドニントン事件』を最後に『犬のお告げ』Nash’s誌1923年12月号までブラウン神父とはお別れです。 雑誌発表順(米国と英国では順番が違う)に読んでみましたが、出がらしチェスタトンという感じ。ネタに苦しんでる作者の姿が浮かびます。 GKCの主要テーマは「物事は見かけ通りではない」と「狂気は真実に至る道」だと思いますが、この連載には狂気成分が不足している感じ。それで私には物足りないのですね。 以下の括弧付き数字は単行本収録順。○付き数字は英国登場順、●付き数字は米国登場順。 掲載雑誌はThe Annotated Innocence of Father Brown(ed. Martin Gardner 1988)とFictionMags Indexで確認しました。金額換算は消費者物価指数基準1913/2019で114.56倍です。 ⑴The Absence of Mr. Glass (初出❶McClure’s1912-11 挿絵William Hatherell, 英初出①Pall Moll1913-3 挿絵W. Hatherell): 評価3点 なぜ神父が犯罪研究家のもとを訪れるのかが全く不明、変な話です。とある有名兄弟への言及があり、作中年代は1860年以降だと思われます。ラストは保男さん捨て身の翻訳で幕。(どう処理してるか他も見てみたくなります…) p8 スカーバラ(Scarborough): ブラウン神父の教会は「町の北はずれに家のまばらな通りがあり… その通りの向こう側に立っている」とのこと。 p13 色の浅黒い小柄な男で、とても快活 (He is a bright, brownish little fellow): brownishは髪の色では?同じ人物を形容するp15「小柄で肌の浅黒い」(Small, swarthy)に引きずられたか。 (11)The Strange Crime of John Boulnois (❷McClure’s1913-2 挿絵William Hatherell, 英初出④Pall Moll1913-7 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点 三角関係だから、もっとスリリングに出来ると思うのですが… p297『血まみれの拇指』(The Bloody Thumb): bloodyはワンピースのサンジが使う「くそ」のイメージですね… 英国人が使うちょっと下品で感情のこもった強調表現。『赤い拇指紋』(1907)が脳裏をかすめました。 なおEdmund Sullivan Father Brown Morganで検索するとPall Mollの挿絵の原画が見られます。随分太っちょの神父です… メガネ無しのようですね。またWilliam Hatherell Wisdom Father Brownで検索するとMcClure’sの挿絵が見られます。こちらは普通の小男、メガネはかけていません。挿絵を見て思ったのですが、ヒゲ率が高いです。大人は半数以上がヒゲありな感じですね。 ⑵The Paradise of Thieves (❸McClure’s1913-3 挿絵William Hatherell, 英初出⑤Pall Moll1913-8 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点 GKCのトスカーナ地方の描写が面白いだけの話。 以下、銃関係の原文。 p41 弾丸をこめたピストル(loaded revolvers): リボルバーと訳して欲しいです…(こればっかり) p45 騎兵銃(carbines): 馬上で取り扱いやすいように銃身を短くしたライフル銃。 p53 短銃の打ち金をあげたり(as they cocked their pistols): cockは「撃鉄を起こす」こと。「打ち金をあげる」だとフリントロック式かな?と誤解されてしまうかも(銃マニアだけ) ただし年代的にフリントロック式もあり得ないわけではないか。 (以上2018-1-12記載) ⑷The Man in the Passage (❹McClure’s1913-4 挿絵William Hatherell, 英初出⑥Pall Moll1913-9 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点 犯行現場の図面がないとわかりにくい感じ。王室顧問弁護士パトリック バトラー(Mr Patrick Butler, K.C.)登場。JDC/CDの元ネタ?珍しい名前ではありませんが… (2019-1-13記載) ⑺The Wisdom of Father Brown: The Purple Wig (②Pall Moll1913-5 挿絵Edmund J. Sullivan, 米初出❺McClure1913-7 挿絵不明): 評価5点 ジャーナリズムのことが生き生きと(皮肉たっぷりに)描かれています。でも誰も気づかないのは変だと思います。 p167 ≪改新日報≫(the Daily Reformer): もちろん架空の名称。 p174 公共の出版物に記載するに適さない話… ≪真紅の尼僧≫の話とか、≪ぶちの犬≫の事件とか、採石場で起こったことだのとか(not fit for public print—, such as the story of the Scarlet Nuns, the abominable story of the Spotted Dog, or the thing that was done in the quarry.): 多分、尼僧はエロ話、犬は残酷な話。採石場は何を想定してるのかな?(Spotted Dogはlungwortという植物のことかも) p179 エリシャ(Elisha):『列王記下』2:23の「禿げ頭」から p182 心霊実在論者(Spiritualist): コナンドイルで有名ですね。 p189 記者のテクニカルな暴行は別として(except for my technical assault): 格闘技ではよく使う表現(〜ノックアウトなど)ですが…「法規を厳密に適用すれば」という意味ですね。 (2019-1-13記載) ⑹The Wisdom of Father Brown: The Head of Caesar (③Pall Moll1913-6 挿絵Edmund J. Sullivan, 米初出❻McClure1913-8 挿絵William Hatherell): 評価5点 フランボウが登場すると何かホッとします。冒頭からの流れが素晴らしい。でもこの真相は(よほど認知能力が低くなければ)あり得ないよ!と思ってしまいます。 p141 前にはエセックスのコブホールで司祭をしていたが、今はロンドンがその任地となっている(formerly priest of Cobhole in Essex, and now working in London.): ⑴ではスカボローでした。 p145 とても根性の曲がった男があったとさ、そいつの歩いた道も曲がっていたそうな(There was a crooked man and he went a crooked mile....): 「根性の」は付け加えすぎ。 p157 2シリング(two shillings): 現在価値1610円。 (2019-1-13記載) ⑸The Wisdom of Father Brown: The Mistake of the Machine (⑦Pall Moll1913-10 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点 神父の発言が当たり前だと思うのは、以前これを読んで血肉になっているからか。昔「コンピュータは絶対に間違えません」というセリフがありました… p114 新しい精神測定法というやつはたいした評判になっていますよ、とくにアメリカで(new psychometric method they talk about so much, especially in America): 米国の発明かと思ったら1902年British heart surgeon Dr James Mackenzie (1853-1925)が脈動を記録する器械を開発したのが最初らしい。本格的なポリグラフは1921年John Augustus Larson(バークレーの医学生で同地の警察官でもあった)の発明だと言う。(Wiki) p116 もう20年も前… 当時ブラウン神父はシカゴの某刑務所つきの神父として働いていた(nearly twenty years before, when he was chaplain to his co-religionists in a prison in Chicago): 神父は1890年代後半、米国で暮らしていたのですね。 p116 奥の手のトッド氏(Last-Trick Todd): 米国風のニックネームか。last trickの意味が良く掴めていません… p127 あの心理測定器をためしてみる: ここでは1890年代に既に存在し、器械がすぐに手に入ることになっています… (2019-1-16記載) ⑻The Wisdom of Father Brown: The Perishing of the Pendragons (⑧Pall Moll1914-6 挿絵E. J. Sullivan): 評価6点 神父の強引な行動が良し。フランボウが頼もしい。語り口もスムーズ。 (2019-1-24記載) ⑽The Salad of Colonel Cray (⑨Pall Moll1914-7 挿絵情報欠) 評価4点 ブラウン神父大活躍なんですが、つまらない話。猿神最大の刑罰は気に入りました。 銃は「拳銃」revolver、リボルバーと訳して欲しいなぁ(←こればっかり) p260 音楽には熱心で、音楽のためとあれば教会に行く(was enthusiastic for music, and would go even to church to get it.): 確かに教会音楽にはそういう効果もありますね。 (2019-1-26記載) ⑶The Wisdom of Father Brown: The Duel of Doctor Hirsch (⑩Pall Moll1914-8 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点 反ドレフュスのチェスタトンが、真実(裏切りじゃなかった)を知った後で、グズグズ言い訳しています。 p82 ヘンリー ジェイムズの書いた妙な心理小説… (a queer psychological story by Henry James, of two persons who so perpetually missed meeting each other by accident that they began to feel quite frightened of each other.): 何という作品かわかりません。ファンならすぐにわかるのでは? (2019-1-27記載) ⑼The Wisdom of Father Brown: The God of the Gongs ((11)Pall Moll1914-9 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価3点 無茶苦茶な話。作者の黒人に対する偏見が凄い。洒落た身なりの黒人を見たフランボウが「あれじゃリンチもしょーがない(I'm not surprised that they lynch them)」と言い放ちます。神父が読み上げる本は実在?(God of GongsでWeb検索しましたが見つからず。出鱈目か) p225 昔つとめたことのあるコボウルの教区(his old parish at Cobhole): コボウルは架空地名「秘密の庭」に出てきます。 p226 日本の木版画(It's like those fanciful Japanese prints): ブラウン神父ものに出てくる数少ないjapanは、他に「サラディン公」と「神の鉄槌」だけです。 p234 機知に富んだフランス人が八つの鏡にたとえた、あのたぐいの帽子(a hat of the sort that the French wit has compared to eight mirrors): イメージが湧きません。どんなのでしょうか。 (2019-2-9記載) (12)The Fairy Tale of Father Brown (雑誌掲載なし、単行本1914): 評価5点 こういうファンタジーめいた舞台がGKCには一番しっくりきます。 p301 特産のビールを飲みまわる: 意外とミーハー行動な神父とフランボウ p302 蝙蝠傘の瘤のような不恰好な頭(the knobbed and clumsy head of his own shabby umbrella): 愛用の傘の持ち手の描写。 p306 お茶の保温袋(tea-cosies): wikiで画像検索するとティーポットにかぶせて保温するカバーのようですね。 (2019-2-9記載) 翻訳では省略されていますが、献辞があります。 TO LUCIAN OLDERSHAW Lucian Oldershaw (1876-1951) an English author and editor, a Chesterton's friend. |
No.126 | 7点 | ハムレット ウィリアム・シェイクスピア |
(2019/01/26 20:13登録) 1603年初版。『ハムレットは太っていた』でおなじみ河合先生の新訳(角川2003、電子本)で読みました。萬斎版2003の台本が元になっており、演劇家の協力で素晴らしい日本語作品に仕上がっています。なお日本語訳で初めてフォリオ版1623を底本にしているとのこと。注で丹念にQ(クォート)とF(フォリオ)の違いを拾っているのですが、Fは冗長な部分を削っていてスッキリした印象。付録で今までのTo be or not to beの翻訳一覧が付いています。 亡き王もハムレットという名前なのですね。(なので原題はTHE TRAGEDY OF HAMLET, PRINCE OF DENMARK、王子のことだよ、と断っています) 最近流行のNTRが裏テーマ? 純度の高いメロドラマが繰り広げられます。でも、やっぱりオフィーリアが薄倖過ぎです。劇中歌のメロディは伝わっていないのかな?(追記2019-1-27: Drury Lane劇場の慣例では、最初の曲How should I your true love knowがWalsinghamのメロディで、次の曲Tomorrow is Saint Valentine’s dayがPlayford “The Dancing Master”のA Soldier’s Lifeのメロディらしいです) 以下トリビア。ページ数は電子本なので全体との率で表示。 p447/3562 できるかぎり服に金をかけろ/風変わりなものはいかん。上等で、上品なものにしろ。/着ている物で、人間はわかるものだ。(...) 金の貸し借り不和の基 (...) 何より肝心なのは 、己に噓をつくなということだ 。(Costly thy habit as thy purse can buy,/But not express’d in fancy; rich, not gaudy/For the apparel oft proclaims the man <...> Neither a borrower nor a lender be <...> This above all: to thine own self be true): 父が息子に与える世渡りのコツ。今も変わらぬ真実ですね。 p863/3562 年金三千クラウン: 流石に消費者物価指数基準は1750までしか遡れないのでWEB検索するとOUPblog ‘Money, money, money’という記事を見つけました。According to the National Archives (2005) site, £1 in 1590 is equivalent to £125.29 today; by 1600, this had fallen to £100.64; and by 1610 to £97.88. (残念ながら元サイトの記事を見つけられず) 3000クラウン=750ポンドなので、1600/2005のレートで3000クラウンは1061万円、消費者物価指数基準2005/2019で1.48倍なので現在価値1570万円です。ただしシェイクスピアが英国のクラウン貨のつもりでなく、デンマークのクラウン貨を意味して使っているなら話は全く違います。だいたいハムレットの作中年代すらわかりませんので… (ハムレット=アムレスの名はデンマークの伝承で2世紀以前まで遡れるらしい) p1070/3562 百ダカット(a hundred ducats): 当時(1600)ducat金貨は金3.5g含有。エリザベス朝のSovereign金貨(=1ポンド)は重さ240グレイン(15.55g)で23カラット(金14.9g)なので1ダカットは0.235ポンド。上述の計算で100ダカットは現在価値50万円。(なお1973年以降の金相場は物価基準の参考にはなりません) p1906/3562 昔話の猿のように 、/自分も籠から飛び出してみようと 、/転がり落ちて 、首の骨を折るがいい(like the famous ape,/To try conclusions, in the basket creep/And break your own neck down.): 注で「この昔話は今に伝わらない 」としています。 |
No.125 | 7点 | ジェニーの肖像 ロバート・ネイサン |
(2019/01/26 03:34登録) 1940年出版。初出は月刊誌Redbook Magazine1939-10〜12、三回分載。創元文庫2005年で読みました。 どー考えても変な設定ですが、みんなが憧れる芸術家の世界を詩情あふれる文章で描いているので、なにもかも許せそうです。世界をまるごと受け入れなければならない子供の感性で読みはじめるべき作品だと思いました。(だんだん作品に引き込まれ変な設定は気にならなくなります) 情景描写が素晴らしく、冒頭の寒そうな冬景色は、札幌が現在マイナス7度なので、とても身体に響きました。(今、結構金欠なので貧乏描写も身につまされます) 25ドルは消費者物価指数基準1938/2019で17.82倍、現在価値49485円。 最後の日付の意味がよくわかりません… (原文のコピーライトは1940年。ということは手直し、ということではなく、最初から、そーゆー設定だったんですね。あの時は若かった、というような記述もありますから…) (追記) 歌が二つ。 p16 Where I come from Nobody knows; And where I’m going Everything goes. The wind blows, The sea flows — And nobody knows.(多分Nathanのオリジナル) p139 I dream of Jeannie with the light brown hair(Stephen Foster 1854) (追記2019-1-27) p14 ハマースタイン ミュージック ホールは何年も前、ぼくが子どものころに取りこわされたんだ。(Hammerstein Music Hall had been torn down years ago, when I was a boy.): 実在のHammerstein’s Olympia Theaterのことなら1895年開業、1898年にハマースタインが手放し、建物は二つの劇場に別れた。1935年取り壊し。子どものころ、は作者4歳のとき、ということか。(主人公は20代なので合わない) 併載の「それゆえに愛は戻る」(初出Saturday Evening Post 1958-9-13〜9-27、三回分載)は今読む気が全くしないので、読んだら追記します。 (追記: 他の方の書評は後で見るたちです) 映画化されてたんですね! ぜひ見たい。ツタ●にあるかなぁ。(どうやら品切れ絶版のようですね) |
No.124 | 8点 | レイトン・コートの謎 アントニイ・バークリー |
(2019/01/20 01:52登録) 1925年出版。国書刊行会の単行本で読みました。 献辞で「探偵小説好きのお父さん」にフェアプレイを高らかに宣誓する作者。超人ではなく、ごく普通の人間を探偵役にした、と自慢げです。当時作者32歳。なぜフェアプレイにこだわった作品が英米でほぼ同時に登場したのか。(米国代表はヴァンダイン) 本作は楽しげな雰囲気の中、アマチュアが伸び伸びと捜査出来る状況作りが上手、シロウト探偵らしい迷走ぶりの小ネタも充実、そして大ネタには非常に満足。爽やかな読後感で、文句のつけようが無いですね。 以下トリビア。原文参照出来ませんでした。 p17 ホームズとワトスン: 探偵の代名詞はやはりこのコンビ。p75あたりには作者の名探偵論が簡潔にまとめられています。 p17 馬券屋には電報が確実: 電話が普及する以前の世界です。 p21 年に千ポンド: 消費者物価指数基準1925/2019で60.36倍、現在価値846万円。 p23 半クラウンの葉巻: 現在価値1060円。 p33 小さなリボルバー: 日本版のカヴァー絵は大型リボルバー45口径コルトSAA(ただしエジェクターチューブ欠)なので全然違います。多分作者のつもりではブルドッグリボルバーみたいな短銃身の拳銃だと思います。残念ながら銃の種類がわかるような具体的な記述はありません。 p127 四千ポンド以上: 現在価値3394万円。 p211 香水…好きなもの… 一瓶1ギニー、(安物)…一瓶11ペンス、普段使っているもの… 一瓶9シリング6ペンス: それぞれ現在価値8910円、390円、4031円。 p213 舞台では執事の名前はいつもグレイヴス: そーゆーもんですか。 p256 二百五十ポンド: 現在価値212万円。 p262 ユダヤ人… 彼がこの世で最も忌み嫌っているもの: シェリンガム(バークリーも同じ?) お前もか。 (2019-10-19追記) ミルン『赤い館の秘密』を読んで、かなりの共通点がある作品だと思いました。(単行本版の解説の羽柴壮一さんも指摘しています。) 題名(館名+Mystery)、献辞、探偵の名前(GillinghamとSheringham)、殺人方法、現場がカントリーハウスの書斎、アマチュアがホームズとワトスンとなり試行錯誤して探偵する… ということはバークリーは意図的におちょくっている?となると「微笑ましい」献辞もナンチャッテなのか。(むしろその方がバークリーらしい。) そして決着のつけ方もパロディと考えれば、旧弊なモラルに砂をかけるような底意地の悪さを感じます… バークリーだからあり得る、と思ってしまいました。 |
No.123 | 5点 | ビッグ4 アガサ・クリスティー |
(2019/01/19 12:54登録) 単行本1927年出版。週刊誌連載に手を加えた、とありますが、そんなに手を加えてないのでは?早川クリスティ文庫(2004)の電子本で読了。 週刊誌Sketch1924-1-2〜3-19(12回)連載。連載時のタイトルはThe Man Who Was Number Four: Further Adventures of Hercule Poirot。(この連載前にThe Grey Cells of M. Poirotというタイトルでポアロの短篇12作×2を同誌に発表しているのでFurther) クリスティの短篇デビューもこの雑誌。次の作品はチムニーズ(単行本1925年6月)、アクロイド(新聞連載1925年7月開始)で、そのあと例の事件(1926年12月)という流れです。 ところでFictionMags Indexを眺めていて気づいたのですが『オリエント急行』の初出はSaturday Evening Post の6回連載1933-9-30〜11-4“Murder in the Calais Coach”だったんですね… 最初から米国読者を当て込んでいたわけです。そして『誰もいなくなった』の初出もポスト誌(1939-5-20〜7-1、7回連載、タイトルはAnd There Were None)です! 全く知りませんでした… Wiki日本版は初出を英新聞Daily Express1939-6-1から連載としています。(実は英Wikiを注意深く読めば初出がポスト誌だとわかるのですが…) この作品は皆さんの評価があまりに低すぎて、逆に読みたくなりました。(45年前の初読書の記憶では結構面白かったような…でも何も具体的なイメージは残っていません) クリスティ作品を読むのもほぼ30年ぶりくらいです。 私はクリスティで大人の活字本の世界に入りました(最初の100冊中60冊)ので、アガサ姐さんは大恩人なのですが、他の世界を知った上で30年前に未読作品を片付けようとしたら、全く興味が続かない文章なので驚いた記憶があります。(多分その時は背伸びしてた若さゆえの過ちです) 今回ビッグ4を読んでみたところ、文章は平明でわかりやすいほどわかりやすく、すぐに作品世界に入り込めます。つい最近ウォーレス『正義の4人』(1905)やチェスタトン『木曜日の男』(1908)を読んだので、それらとの関連性も気になっています。(当然「踏まえている」とは思いますが…) 作品世界はトミタペ風、スリラー小説の軽いパロディのつもりでしょう。まー真面目に受け取るべき要素はありません。頭脳を自慢する小男と正直で間抜けな助手がスリラーに登場するミスマッチを狙った作品?でも笑える要素不足で中途半端な感じです。 肩のこらない軽さを味わうべき作品。スリラー小説の定番やご都合主義が次々と出てくるので、結構楽しめました。 以下トリビア。原文参照してません。ページ数は全体の項数も表示しました。 p38/242 レーニンやトロツキーは操り人形: 書いた時点ではレーニンも存命中。 p41/242 二百ポンド: 消費者物価指数基準1924/2019で60.36倍、現在価値170万円。 p59/242 日本をおそった大地震の後: 意外なところで関東大震災1923-9-1が登場。 p81/242 一万フラン: 金基準で1924年の1フラン=0.0118ポンド。上述の換算で1万フランは現在価値100万円。 p83/242 日本のジュウジュツ: 原文はJiu-JitsuかJu-Jitsu?(wikiによると20世紀前半はこの綴りが多いらしい) p96/242 国会議員の私設秘書: 意外なヘイスティングスの職業経験。 p101/242 自動拳銃: 早川ではrevolverを「自動拳銃」と訳しても編集が直さない例多数あり、なので(セミ)オートマチック拳銃なのかリボルバーなのかはこれだけではわかりません。 p126/242 チェス: ロシアのチャンピオンが当たり前なのは戦後(1948-1972、1975-1999)ボビー フィッシャーがロシア人チャンピオンを破ったのは1972年。 p160/242 駄賃に半クラウン、はずんで: 上述の換算で半クラウン(=2シリング6ペンス)は1061円。「はずむ」というような額ではない。 p202/242 見知らぬ人に塩を回すことは悲しみをあたえること: Pass the salt, pass the sorrowという古い文句があるらしい。塩を直に手渡しするのはマナー違反?(手近なところに置くのが正解なのかな) Why do older people say: 'Don't exchange salt directly hand to hand. It may result in a quarrel.'やWHY IS IT BAD LUCK TO PASS SALT IN SPAIN?などがWeb検索で出てきました。いずれもWhyなので英米でも廃れかけた習慣のようですね。 p204/242 あなたっていつでも、ちょっとお馬鹿さん: ヘイスティングスのこの属性に夫(アーチー)への幻滅を読み取るのは、もちろん裏読みしすぎです… p219/242 ロシアで起こったこと: 1917年のロシア革命は衝撃的で、英国でも戦間期には革命が起こるのでは?というムードがあったらしい。 p225/242 ポケットの中身(ポアロの自動拳銃をふくめて): もちろんベルギー愛に溢れたポアロなら小型自動拳銃の傑作FN M1910で間違いのないところです!(なんの証拠もありません) p235/242 生涯最大の事件: 引退を口にするポアロ。「ベルギーのことなんてほとんど知らない」アガサ姐さんもここいらが潮時と思っていたのか。 |
No.122 | 4点 | 一角獣殺人事件 カーター・ディクスン |
(2019/01/15 21:06登録) JDC/CDファン評価★★★☆☆ H.M.卿第4作。1935年出版。国書刊行会の単行本で読みました。 1935年5月4日土曜日 ジョージ王在位25周年(Silver Jubilee celebrations for King George V)の2日前の事件。ケン ブレイク38歳。(ということは1897年か1898年生まれなんですね) 変装自在な謎の怪盗という幼児的世界が好きならワクワクする話ですが、馬鹿馬鹿しい!と感じる人なら全く向きません。(もちろん私は大好き派) いつものように途中まで素晴らしいのですが、中だるみが著しい。なんとも無駄な会話が続きます。そして解決篇、これが結構面白そうなネタをちりばめてるのですが、いかんせん小説自体が全く面白くない。もー少し工夫が出来れば良い作品になったのでは?と感じました。 以下トリビア、原文は参照できませんでした。 p12 ジャズの歌詞の一節: Yes, We Have No Bananasはブロードウェイ レヴューMake it Snappy(初演1922)中の曲。 (この曲の初紹介はブロードウェイ公演終了後の地方巡業のフィラデルフィア1923?) Frank Silver & Irving Cohn作。1923年の大ヒット曲。(Wiki) p17 ライオンと一角獣: The lion and the unicorn (Roud Folk Song Index #20170) p24 百フラン: 1935年の交換レート(金基準)は1Franc=0.0135Pound、英国消費者物価指数基準1935/2019は70.61倍、現在価値13401円。お礼としては結構高い。(成功すればさらに百フラン追加の約束) p24 馬力のあるS.S. 社製の二人乗りの車: S.S. Cars Limitedはのちのジャガー社。エンジンを強化したSS 90(1935年3月)の可能性あり?(限定生産ですが…) p72 シャンパンはルードレの21年: Roedererのことか。 p90 ポケットからブローニングを取り出すと: 小型サイズのBrowningは数種ありますが一番ポピュラーなのはFN M1910ですね。当時の日本でも単に「ブローニング」と言えばそれ。ラムスデン卿なら9mm(38口径)仕様では?と勝手に想像しました。 p116 バルザックの『風流滑稽談』: Contes drolatiques (1832-1837) p188 アナトール フランスの『ペンギン島』: L'île des Pingouins (1908) p188 モーリス ルブランの『怪盗紳士アルセーヌ ルパン』: Arsène Lupin, gentleman-cambrioleur (1907) p119 『ロビンソン クルーソー』のフランス語訳: 英初版1719年、最初の仏訳は1720年(Thémiseul de Saint-Hyacinthe & Justus Van Effen)、よく知られた版は1836年のPetrus Borel(!)訳。狼狂さん何のつもりでしょうね。是非読んでみたいです。(Wiki) p132 あんた方は『殺人ごっこ』というゲームをやったことがあるだろうな。: Murder Mystery Gameは19世紀前半ごろから余興として行われるようになったらしい。ボードゲームのCluedoは1948年ごろ。(Wiki) 探偵小説の流行があって余興の探偵ゲームだと思っていました。19世紀前半の発祥が正しいなら、順番は逆で余興から小説へ、ということなのでしょうか。 p154 バルベー ドールヴィイの『魔性の女たち』: Jules Barbey d'Aurevilly, Les Diaboliques (1874) JDC/CDさんも好きねぇ、というラインナップ。 p187 六ペンス賭けてもいい: 前述の換算で現在価値248円。取るに足らない金額ですが… p222 古い民謡の『マギンティーは海の底』: DOWN WENT McGINTY(1889)のこと?Down went McGinty to the bottom of the seaという歌詞あり。 p225 ブローニングの自動拳銃: p38に出てきたピストル。p90のピストルとは違います。ハイパワー(1935)はまだ流通してなさそうなのでFN M1910なのか。コルトM1911もブローニング設計による拳銃ですが「ブローニング」とは呼ばれないと思います。 |
No.121 | 4点 | 新ナポレオン奇譚 G・K・チェスタトン |
(2019/01/06 21:35登録) 1904年3月出版。単行本書き下ろし。ちくま文庫版(2010)で読みました。 80年後のロンドンは今(1904年)とちっとも変わってない、とは進歩や科学を信じないチェスタトンらしいのですが、戦闘行為に銃が全く使われないのはどーなんでしょう。(まー寓話なんだから良いですか、そうですか) なお当時英国の同盟国であった日本は本書出版後の1904年8月に世界初の大規模な機関銃攻撃を受けて短時間で多大な損害を出しました。(アジアの片隅の事例と侮ったヨーロッパはWWIで手酷いしっぺ返しを受けます) 出版当時、チェスタトン30歳。自分はもう若くない、という感傷が溢れる作品です。それでも幼児のように生きたい、というわがままぶり。到底、万人受けする作品ではありません。無駄な悲劇が沢山あり、ファンタジーやノンセンスと割り切らなければ読み続けるのが難しいのでは、と思いました。寓話としてもあまり出来は良くありません。(構成が下手なので途中で自爆しています) 文庫版にはわかりやすい地図がついています。Webにあるキャムデンヒルの給水塔(Water tower of Campden Hill、1970年ごろ壊された)の写真も必見。 以下トリビア。 p15 エドワード カーペンター (Edward Carpenter): 1844-1929。文明は病気だ、という主張の人らしい。"return to nature"を提唱した。 p27 芸術的な冗談とか道化ぶりとかに目がない男… そのノンセンスぶりが昂じて… 正気と狂気の区別がわからなくなっちまった…: GKCの自画像ですね。 p36 ニカラグアの色: 黄色と赤色。多分出鱈目。 p69 半クラウン: 2シリング6ペンス。消費者物価指数基準1904/2019で120.72倍、現在価値2121円。子供へのお小遣いなので妥当な感じ。 p78 1シリングの絵具: 上述の換算で849円。非常に安物ということですね。 p124 金に困っており、ここまで書いて原稿を発送する必要があった: 当時のGKCの経済状況がうかがえます。 p129 カルバリン銃(culverin): 中世の長距離銃。大砲の先祖的な武器。軽くて小さい弾を発射、銃身は長め。 p131 ピストル、鉾、石弓、らっぱ銃(pistols, partisans, cross-bows, and blunderbusses): パルチザンは槍の両側に尖った出っ張りがついた英国の武器。ブランダーバスは大口径で先の広がった銃口が特徴の先込め銃。接近戦用。 p138 気つけ薬… ひと瓶8ペンス、10ペンス、1シリング6ペンス: 瓶の大きさの違いではなく、安い・一般的・高級な種類の気つけ薬なのだと思います。現在価値は566円、707円、1273円。 p145 半ペニーの紙挟み、半ペニーの鉛筆削り(halfpenny paper clips, halfpenny pencil sharpeners): 現在価値35円。 p245 1シリングに10ポンドの賭け: 掛け率200倍。 p286 聖書中もっとも神秘的な書にひとつの真理が書かれていますが、それはまた謎でもあります。(And in the darkest of the books of God there is written a truth that is also a riddle.): 訳注では〔伝道の書「日の下に新しきものなし」をさす〕としていますが… |
No.120 | 5点 | マンアライヴ G・K・チェスタトン |
(2019/01/04 23:22登録) 1912年出版。単行本書き下ろしのようです。2006年評論社で読みました。 『童心』の最終話「三つの凶器」が1911年6月雑誌掲載。『知恵』の第1話「グラス氏の失踪」が1912年12月雑誌掲載。その間にこの長編が出版されています。 騒がしさ満点の作品。溢れ出すチェスタトン流イメージと絶え間ない逆説の数々、霊感に撃たれいきなり狂う(正気に戻る)人々が詰め込まれているので読んでて疲れます。ブラウン神父ものが抑制された薄口GKCだというのが良くわかります。若い女性が三人も出てくるのが珍しい。 イノセントというのがテーマ? 『童心』の主人公が全然イノセントじゃなかったので、思い切りイノセントなのを書くぞ! という次第かも。(きっと色々溜まってたのでしょう) 作品自体ははちゃめちゃなおとぎ話。似たようなネタが続くので飽きちゃいます。でもなんとなくGKC流自伝的小説なのでは?と感じてしまいました。このような手放しの楽天主義が科学文明と集団主義の本物の悪夢である第一次大戦を経てどうなったのか、が当面の私のチェスタトン読書の興味です。 ところでマンアライヴ(man alive)のaliveは形容詞として名詞の後ろにしかつかない珍しい例らしい… (alive manは破格) 以下トリビア。 p8 細身で背が高く、鷲のようで、色黒だった(Tall, slim, aquiline, and dark): darkは、多分、髪の色(及び眼の色)。 p12 小柄で快活なユダヤ人…黒人の彼のみなぎる活力(a small resilient Jew... a man whose negro vitality): 多分「(黒人のような)野蛮な」ヴァイタリティという意味じゃないのかな? 後の方で「祖先がセム人」と書かれているけど黒人描写はありません。 p38 黒人が歌うのは、古い農園の歌/白人の間では廃れた流儀で口ずさむ(Darkies sing a song on the old plantation, Sing it as we sang it in days long since gone by): Alfred Scott Gatty’s Six Plantation Songs vol.1 (London 1893?)の6曲目、タイトルはGood Night。ここでの[we]は白人のことじゃないような気がします… p40 若いロチンバ(Young Lochinvar): ウォルター スコットMarmion(1808)より。chiは軟口蓋音で「ヒ」か「キ」が近い。Thomas Attwood作曲(声とピアノ)、Joseph Mazzinghi作曲(3声合唱)が引っかかりました。ここのはアトウッド版か。 p40 よく磨かれた大きなアメリカ製のリボルバー(a large well-polished American revolver): polishedなので多分ニッケル仕上げ(銀色)、青黒鉄色(blued)にはあまり使わない表現。 p48 スイス ファミリー ロビンソン(Swiss Family Robinson): 原著スイス1812出版。英国初版1814、有名なキングストン版は1849出版。 p79 アメリカン モス(a big American moth): American mothという通称のmothはいないようです。北アメリカ最大のmothはHyalophora cecropia。 p80 キュルス ピム(Cyrus Pym): ナンタケット島出身の人を思い浮かべますよね… Cyrusは「サイラス」が普通。 p81 サー ロジャー ド カヴァリイ(Sir Roger de Coverly): このページには6人の名前が登場するのですが、何故かこの人だけ訳注なし。ジョセフ アディソンが作り上げた架空人物。Spectator上で典型的な紳士階級の大地主を演じた。(Encylopedia Britannicaより) p99 歩きぶりは、黒人らしいかんしゃくをおさえつけようとするかのように(with a walk apparently founded on the imperfect repression of a negro breakdown): 「黒人のbreakdownが我知らず出てくるような」歩き方。p103では「ふらつくダンスを踊りながら立ち去」ります。The Break-Down was an African-American Slave dance that was popular around the 1880-90's. p100 昔のホームズ… 鷹の顔の… (old ‘Olmes… The ‘awk-like face…): コックニー。oldは「例の」の意味では? p115 八巻本の『格言』(eight bound volumes of “Good Words”): Good Wordsは英国19世紀の月刊誌。スコットランドのAlexander Strahanにより1860年創刊。初代編集長はNorman Macleod. 福音教会員や非国教徒、特にlower middle class(商店主・下級公務員など)に向けた内容。(Wiki) 「8巻の装幀されたグッドワーズ誌」 p141 安全弁が外されたリボルバー(cocked hammer of a revolver):リボルバーに安全装置はありません。「撃鉄が起こされた」(引き金を軽く引けば発射する)状態のこと。 p145 善と優美さに感謝しよう/それこそ私が生まれたときに微笑んだもの/そして、私をこの奇妙な場所に止まらせた/イギリスの幸福な子供(I thank the goodness and the grace That on my birth have smiled. And perched me on this curious place, A happy English child.) Jane Taylor(1783-1824)の詩 "A Child's Hymn of Praise," from Hymns for Infant Minds (1810)をちょっと改変して引用。(本物は三行目がAnd made me in these Christian daysとなっている) p160 副牧師のカノン ホーキンス(Canon of Durham, Canon Hawkins): 名前がカノン?と思ったら、あとでジョー クレメイト ホーキンスと判明。「ホーキンス師」でいいのに… p169 1891年11月13日: スミスが起こしたある事件の日付。作中年代の何年前かは記載されていない。 p178 小さな煙突掃除人と「ウォーター ベイビー」(little chimney-sweeps, and `The Water Babies’): The Water-Babies, A Fairy Tale for a Land Baby (1863) Charles Kingsley作の子供向け小説。当時、英国で非常にポピュラーだった。主人公の煙突掃除人Tomが川で溺れWater-Babyに変身するらしい… p200 赤い郵便ポスト(a red pillar-box): 英国の特徴か。調べるとフランス・ドイツは黄色。米国・ロシアは青。オランダはオレンジ。 p204 革命の失敗(the failure of the revolution): 1905年のロシア第一革命。レーニンの革命は1917年。この出来事も作中年代の何年前かは不明。 p211 和帝(Emperor Ho): 漢の和帝のことらしいです。Emperor He of Han (79〜106-2-13) p228 われらが厭世的なウインターボトム氏(Our own world-scorning Winterbottom): 重婚云々が出てくるので、アフリカの習俗を観察して、アフリカでは重婚が多いとしたDr. Thomas Masterman Winterbottom(1766-1859)のことか。 p233 九年前… 1907年10月…: 翻訳でも原文でも「9年前=1907年」と読める。でもそうすると作中年代が1915年になってしまう… p240 五ドル紙幣を賭ける(chance a fiver): 米国消費者物価指数基準1912/2019で25.98倍、現在価値14429円。 |
No.119 | 6点 | かくして殺人へ カーター・ディクスン |
(2019/01/03 19:39登録) JDC/CDファン評価★★★★☆ H.M.卿第10作。1940年出版。新樹社の単行本(1999)で読みました。 多分この作品の最大のネタは、大抵のレヴューでバラされちゃう「〇〇が××ない」です。きっとパーティかなんかで誰かに「あんた人殺しの血生臭い作品ばかりでサイテー。文学のブの字もない」と言われて思いついたのでは? 作者がニヤニヤして「ばかり…ではありませんな…」と返すのが思い浮かびます。(だから「ネタバレなし!」とうたってるレヴューも一切信用してません。こないだひどいのがありました。(ここのじゃないです) 読み終えた作品の評を読んでたら、今読んでる別の作品のネタバレが! あー‼︎) 1939年8月23日木曜日からはじまる事件。映画作成現場のドタバタぶりといつものラブコメ的な男女のやりとり。全体の楽しい雰囲気はWWII開戦の緊張感から来たものか。大事なことを言いかけて止める手法の連続にはイライラしますが、ネタの盛り上げ方は流石です。大ネタもJDC/CDらしくて(合わない人多数だと思いますが)気に入りました。ただしキテレツな話を求めている人には物足りないですね。(もっと派手な犯行が良いです) 以下トリビア。 p12 二万ポンドのダイヤのネックレス: 消費者物価指数基準1939/2019で64.9倍、現在価値1億8千万円。 p21 ミスター ダンの説が正しいとすれば、潜在意識の下では非常に奇妙なことがおこっているらしい。(If Mr. Dunne’s theory is correct, some very peculiar things go on in the subconcious mind.): 訳注はFinley Peter Dunneのこと、としているが、何か文脈と合わない。自分の体験した予知夢のことを書いて結構読まれたというAn Experiment with Time(J.W. Dunne作1927)のことでは? p38 つまらなくて馬鹿馬鹿しいあんなトリック、千年経ったって成立しやしないでしょうね。(They are nasty, footling litte tricks that would never work in a thousand years): JDC/CDは流石に良くわかってらっしゃる。 p72『バンジョーを弾く人』(The Banjo Player): 19世紀の部屋に掛かっているありふれた絵という設定。William Sidney Mount作(1856)? p105 ラム チョップとパイナップル(Lamb chops and pineapple): ダイエット法。2週間で10キロ痩せるらしい。なおこのダイエットを実践したとされてるサイレント時代の女優? Dalmatia Divineは架空人物っぽい。 p109 チェスター(Chester): 米国タバコの銘柄。Chesterfieldなら有名ですが… p173 ティペラリ(Tipperary): It’s a Long Way to Tipperary(1912), Jack Judge&Harry Williams作詞作曲。ミュージックホール起源。英国ではWWIを象徴する歌。 p180 50本入りのプレイヤーズ(Player’s): 英国タバコメーカー。銘柄は書いていない。 p180 1ポンド6ペンスの妥当な料金(the modest sum of one and sixpence): タクシー代。現在価値9352円。歩いて行ける距離にしては結構高め。でもこの英語表現だと1シリング6ペンスだと思います。(その場合は684円) p262 一万五千ドル: 米国消費者物価指数基準1939/2019で18.09倍、現在価値3014万円。 p266 ビッグアップル ダンス(dance the Big Apple): 1937年米国で大流行。某Tubeにわかりやすいのがあります。輪になって陽気に踊るのが特徴かな。 p267 鉛で出来たシリング貨(a lead shilling): 本物は.500シルバー、重さ5.6g、直径23mm。当時のジョージ六世コインの裏のデザインはイングランドとスコットランドで違ったようです… p273 あなたって本当に、何とやらの息子ってところね(you are a crafty old son of a so and so): 翻訳が難しいですね… 試訳「古狸なbナンチャラの息子」 銃は38口径のリボルバー(a .38 revolver)が登場。メーカー等記載なし。 最近WWI前の作品ばかり読んでたので、実に快調に読めました。 (2019-1-4追記)文庫版は全面改稿らしいです。書店で見たら、タクシー代は1「シリング」6ペンスに直っていました。Mr. ダンの訳注も削除されてました… |
No.118 | 10点 | 風雲児たち みなもと太郎 |
(2019/01/02 19:37登録) ありがとうございます!これをミステリに入れる方がいるなんて! 今年は良い年になりそうです。 私はこれで真の日本史を知りました。 神奈川在住の甥にも全巻送りつけました。 素晴らしい作品です。電子本も出てますのでぜひお試しあれ。 現在、コミック乱で「幕末編」を絶賛連載中。生麦事件に取り掛かっています。知らなかった事実がごろごろと…(私が無知なだけのような気がする) とにかく元気になれる歴史大河ロマン。 みなもと先生には今後とも好き勝手にお書きいただきたい。 皆様のご多幸を。 |
No.117 | 8点 | 審判 フランツ・カフカ |
(2019/01/01 23:35登録) 1927年初版(マックス ブロート編集)、池内訳の白水社版はカフカ新全集による、カフカ自身の手稿1914-1915に基づくもの。白水uブックスで読んでいます。 私はブロート版を読んでいませんが、訳者によると手稿版に結構手を入れて辻褄合わせをしてるみたいです。 理性の力が弱まった夢の中の世界がカフカの真骨頂。「何故?」は問われることが少なく、前後のつながりが細い現象(夢の中はダジャレで繋がることがもありますよね…)がぶつ切りに出現し、それに対処する「私」の意識と行動が全てです。 チェスタトンのほぼ同時代人なんですね。カフカはGKCを読んでいたのでしょうか? 夢にオチが無いように、カフカの話もオチないのが本質です。でもカフカは(当時の小説概念に従って)落としたかったのだと思います。それが出来ないのは自分の未熟さだと。 カフカが現代に生まれていたら苦悩しなかったか、というとそう上手くは行かないんじゃないかな、と感じます。 まー私は日常論理に落っこちないで夢世界にとどまるアクロバットを見物する感じで読んでいます。微妙なバランスが良いですね。 10章+6つの断片。それぞれに一言批評をつけました。 ⑴銀行に出勤するシーンのおかしな開放感が秀逸。 ⑵結構強引なKさんです。相手のリアクションが薄いのは夢ならでは。 ⑶迷う感覚が素晴らしい。約束が中途半端。突然、人々が出てくる感じも素敵。 ⑷汚ならしい裁判所のイメージが重くのしかかる。 (2019-1-1記載、以下続く) |
No.116 | 10点 | ブラウン神父の童心 G・K・チェスタトン |
(2019/01/01 12:43登録) 1911年出版。創元文庫(2009年 36版) 中村 保男 訳で読みました。私の記憶は全く当てになりませんが、昔、何度も読んだ福田 恆存との共訳名義のものと訳文がちょっと変わってるかも。 JDC/CDやボルヘスが強い影響を受けたチェスタトンの作品をなるべく年代順に読んでいます。新ナポレオン綺譚(1904年3月出版、今のところ未読)、奇商クラブ(第1話の初出は1903年12月、主要部分1904年5月〜7月連載、単行本1905年出版)、木曜日だった男(1908年出版)ときて、次は何?と探してみたら、意外とブラウン神父(第1話の初出1910年7月)でした。FictionMags Indexによると1905年〜1909年にGKCが発表した短篇小説は無いようです。以下の金額換算は全て消費者物価指数基準1910/2018(英国114.4倍、米国26.53倍) 『童心』の12篇の初出が全て、稿料が最も高いと言われた米国の週刊誌Saturday Evening Post(当時40〜76ページ5セント、現在価値1.33ドル151円、毎号三作ほどの小説を挿絵付きで掲載)だと知ってビックリ。英国での初出は(のちにブラウン神父の単行本を出版した)Cassell社の小説中心の月刊誌Story-teller(当時174〜204ページ4.5シリング、現在価値25.7ポンド3670円、毎号10作ほどの小説を掲載)です。 他の雑誌を見ると米国ではCollier’s Weekly誌が28ページ10セント、Harper’s Weekly誌も同じ、いずれも毎号二作ほどの小説を掲載、McClure’s誌(月刊)は120ページ15セント、毎号7作ほどの小説を挿絵付きで掲載。 英国だと以下全て月刊6シリング挿絵付きですが、Strand誌は128ページ、Pearson’s誌は約120ページ、いずれも毎号7作ほどの小説を掲載、Cassell’s誌は108ページ、Pall Mall誌は144ページ、いずれも毎号9作ほどの小説を掲載。 ポスト誌は異常に安く、逆に英国雑誌は随分高い感じです。 今回は、雑誌発表順に読む、という試み。以下の括弧付き数字は単行本収録順、タイトルは初出時のものです。なおAFBはMartin Gardner注釈The Annotated Father Brown(1998)による項目。 ⑴The Innocence of Father Brown: Valentin Follows a Curious Trail ポスト誌1910-7-23(巻頭話、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-9(The Innocence of Father Brown, No. 1. The Blue Cross、巻頭話、表紙に一番大きくチェスタトンの文字。New Detective Stories “The Innocence of Father Brown”と書かれています) 単行本での題は“The Blue Cross”: 評価5点 語り口が上手。小ネタですが読者も探偵と共に引きずり回される感じが好き。フランボウがフランス人なのは有名怪盗ルパン(初登場Je sais tous誌1905-7-15、英訳は1907年4月号からのStory-teller誌の連載が初出か)の影響か。AFBによると、スパイクつきの腕輪(spiked bracelet)、驢馬の口笛(Donkey’s Whistle)、あしぐろ(Spots)はいずれもGKCのでっち上げのようです。今回読んで思ったのですが、カトリックの神父を主人公にしたのは「懺悔の聞き役」というのが最も大きな理由かも。(プロテスタントでは信徒の義務ではなく牧師に特別の権限もない) 以下トリビアです。 p14「考える機械」(a thinking machine): ヴァン ドゥーゼン博士(The Thinking Machine)の英国初出はおそらく1907年12月号のCassell’s誌(Professor Van Dusen’s Problems, (1): The Problem of “Dressing-Room A”)及び同月のStory-teller誌(The Roswell Tiara)です。 p19「最上等タンジール産オレンジ、2個1ペンス」「最良ブラジル産クルミ、1斤4ペンス」: 1ペンスは現在価値0.477ポンド68円。 p25「安直でささやかな昼飯」4シリング: だいたい3300円。二人分なので、このくらいか。 p27 駄菓子屋の骨折り賃 1シリング: 現在価値5.72ポンド817円。 最初に挿絵を描いたGibbsのブラウン神父を見てみたいです… (WEB上のfamous-and-forgotten-fictionにポスト誌での最初の6話がGibbsのイラスト入りで再現されていました。上手な絵ではありませんが、なかなか良い感じです。100年前の物語ですから当時のイメージ喚起にイラストは必須。かつて挿絵付き雑誌は多数あったのですからネタは豊富に埋もれており、電子本なら復刻の敷居は印刷本より低いはず。どこかでちゃんとしたIllustrated Father Brownをやらないかな?) (続きます。ここまで2018-12-19記載、12-22修正) ⑵The Innocence of Father Brown: The Secret of the Sealed Garden ポスト誌1910-9-3(雑誌中で2番目の短篇、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-10(The Innocence of Father Brown 2. The Secret Garden、巻頭話) 単行本での題は“The Secret Garden”: 評価5点 一番驚いたのはブラウン神父の叫び。こんな人だっけ?ところでヴァランタンの神父に対する評価が低いような気がします。(晩餐に招くくらいだからある程度評価してるのでしょうが… フランボウ逮捕はまぐれ当たりと思ってる、ということか) 大探偵ヴァランタンのキャラを描ききれてないのが欠点。いきなり突飛な行動をとる人物はGKCの手癖ですね。 p44 エセックス州はコボウルのブラウン神父(Father Brown, of Cobhole, in Essex): 架空地名(AFB) p72 奇妙な神父(the odd priest): AFBによると雑誌版ではoldとなっていた。 (2018-12-20記載、12-22修正) ⑶The Innocence of Father Brown: Why the True Fishermen Always Wear Green Evening Coats ポスト誌1910-10-1(巻頭話、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-11(The Innocence of Father Brown 3. The Queer Feet、4番目の短篇) 単行本での題は“The Queer Feet”: 評価6点 日常的な風景に突然現れる奇現象と推理の世界。語り口の妙で小ネタを上手に仕上げています。冒頭からの数ページはとても素晴らしいのですが、途中の有閑紳士批判は類型的でダレ場。犯人と神父が出会うシーンも、よく考えると変です。(何の変装もしてないんだからすぐ気付くはず。AFBは暗くて良く見えなかったのだ、と注釈していますが、手の届く範囲で対面してるんですよ…) p87 半ソヴリン金貨(half a sovereign): 銀貨がないので、とクロークに渡したチップ。(文脈からかなり高額な感じ) 半ソヴリン=0.5ポンド。現在価値57.2ポンド8168円。Edward VII Half Sovereignは1902-1910発行 純金 重さ4g 直径19mm、表裏の文字と図像はソヴリン金貨と全く同じ。大きさと重さ(とデザインの質)で区別出来るんですが、どうして額面を書かず分かりにくくしてるんでしょうね。日常使っていれば簡単に区別出来ますが… p88 メニューは、コック連が使う超フランス語で書かれ… (It [the menu] was written in a sort of super-French employed by cooks): 英国でも日本と同じ、ということですね。 p101 温和な灰色の眼(mild grey eyes): AFBによるとブラウン神父の眼の色の初出。 (2018-12-21記載) ⑼The Innocence of Father Brown: The Bolt from the Blue ポスト誌1910-11-5(2番目の短篇、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-12(The Innocence of Father Brown 4. The Hammer of God、2番目の短篇) 単行本での題は“The Hammer of God”.: 評価5点 単純な話ですが、殺人者の心理に神父がダイブインするくだりはスリリングです。でも確実性を欠くネタですね。(基本、このシリーズは寓話ですから…) p244 ボーハン ビーコン (Bohun Beacon): 架空地名(AFB) p261 変わり者の小男 (the odd little man)... (中略) あの爺さん(That fellow)...: いずれもブラウン神父を表しているのですが、AFBによると雑誌版では⑵同様oddはold。fellowを爺さんと訳したのは保男さんが他の作品から類推したのか。 (2018-12-22記載) ⑺The Innocence of Father Brown: The Wrong Shape ポスト誌1910-12-10(2番目の短篇、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1911-1(The Innocence of Father Brown 5. The Wrong Shape、5番目の短篇): 評価6点 フランボウとの珍道中シリーズの幕開けは、実はこの作品。(単行本では「ガウの誉れ」が先に来る) 異常センサーが高度に発達している神父が些細なことで騒ぎ出し、周りを巻き込んで次第に世界全体が狂ってゆく、そんな感じが好きです。解決篇の構成が上手。 p185 セント マンゴウのちいさな教会の神父ブラウン(Father Brown, of the small church of St. Mungo): ⑵では「コボウルの」神父。AFBの注釈ではコボウルにあるSt. Mungo churchという意味だろう、とのこと。Complete Father Brownを全文検索してみるとコボウルは他に3カ所、マンゴウは他に出て来ませんでした。 p185 千八百何十何年かの聖霊降臨節(Whitsuntide of the year 18—): …にこの事件は起こった、と書かれています。ブラウン神父ものの初期作品は1900年以前が舞台という設定だったのですね。 p201 ちょうどコウルリッジの闇のように(like the night in Colridge): 中村訳の注にある「ひとまたぎに夜が来る」の出典はAFBによるとThe Ancient Marriner (At one stride comes the dark.) p205 おまえは、わたしにとってただ一人の友達だから…(You are my only friend in the world.): 某有名探偵に似てるな、と思ったらAFBにもそう書いてました。 (2018-12-22記載) (11)The Innocence of Father Brown: The Sign of the Broken Sword ポスト誌1911-1-7(1番目の短篇(巻頭は記事)、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1911-2(The Innocence of Father Brown 6. The Sign of the Broken Sword、5番目の短篇): 評価5点 非常に上手に構成された名篇。(ただしかなり複雑です) 無駄な死に対する怒りが伝わって読後は気分が悪くなります。(何か元ネタの事件あり?) でも大きな欠点が。多くの遺族や友人たちの恨みはもっと重いはず。そして相手の将軍が弁明してないのが変です。(AFBが引用しているGKCのエッセイでは、最初は中世の戦争話として考えた、と告白しています。確かに遠い過去の話なら充分あり得るネタになりますね) p299 ニューカム大佐ふう(Colonel Newcome fashion): サッカレーThe Newcomesの主人公。(AFB) p315 2ペンスで売っている色刷りの絵(a twopence coloured sort of incident): 2ペンスは現在価値130円ほど。AFBの注はa paltry incidentの意味、とだけ記載。19世紀後半の絵入り週刊新聞The Illustrated Times, The Picture Times, The People's Timesがイラスト入りでtwopenceだった(有名なThe Illustrated London Newsは5ペンス)らしいので、安っぽい絵入り新聞に載ってるような話、という意味でしょうか。カラー印刷はまだ高かったのでcolouredは「色刷り」の意味ではないでしょう。 p325 反ブラジル的な風潮(the anti-Brazil boom): 1900年頃ブラジルと英領ギニアの国境で対立が高まったが1904年に解決し、その風潮は無くなった。(AFB) (2018-12-22記載) ⑸The Invisible Man ポスト誌1911-1-28(巻頭話、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-2(Father Brown, I: The Invisible Man、巻頭話、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価5点 ポスト誌の連載からサブタイトル(The Innocence of...)が取れ、英国では挿絵付きの高級雑誌に移行。多分、6話ずつの契約だったのでしょう。(ドイルのホームズ物も最初はそうでした) ポスト誌では画家が変わり、英国は初の挿絵。いずれも米国版及び英国版の単行本の挿絵に採用されGutenberg AustraliaのInnocence of F.B.のページで見ることが出来ます。 AFBによると、英国挿絵のLucas以降、ブラウン神父は丸眼鏡をかけて描かれていることが多いが(米国挿絵のGibbsとFosterには眼鏡無し)、小説の描写ではシリーズ第48話The Quick One(ポスト誌1933-11-25)で初めて神父の眼鏡への言及(moonlike spectacles)があったとのこと。 素晴らしい流れの物語で、子供じみたラヴロマンス、いるはずの無い男の声、自動人形、雪の上の足跡、消えた死体はまさにディクスン カーの世界。(えー、ってなる結末もJDC/CD風味ですね) でもネタは無理筋です。だって4人が注意深く見張ってるんですよ。絶対誰かが気づきます。上流階級の無関心に対する皮肉というよくある批評も不思議です。目撃者は掃除夫、受付係、警官、栗売りで、紳士淑女は一人もいません。 p136 ラドベリー(Ludbury): 架空地名。雑誌掲載時はSudburyというSuffolkの実在地名だったらしい。(AFB) p142 1ヤードほどの印紙が(some yard and a half of stamp paper): AFBによるとstamp paperとは切手シートの周りを囲う白紙部分で、昔はセロテープみたいに使ったらしい。(p156では同じ語を「切手の耳」と正しく訳しています) p149 火縄銃(harquebuses): 15世紀中ごろのスペイン発祥の火縄銃。肩撃ちの小銃としては最初期のもの。16世紀にはより大型のマスケット銃に取って代わられた。ここでは古い小銃くらいの意味か。 (2018-12-22記載) ⑽The Eye of Apollo ポスト誌1911-2-25(巻頭話、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-3(Father Brown, II: The Eye of Apollo、巻頭話、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価6点 気持ち悪い新興宗教への嫌悪感が伝わる名作。良い子はこの教義(太陽をじかに見る)を真似しちゃダメですよ。なおAFBによると冒頭部分は雑誌掲載時と違い、単行本初版で初めて記載された「J.ブラウン師」という部分も後年の版では「J.」が削除されたとのこと。(いくつかの電子本で調べたら全部「J.」ありでした) 残念ながら、雑誌掲載版によると教祖はこのあと中米に移り沢山の信者を得ているらしい。 p272 ヘルキュール フランボウ、職業は私立探偵(Hercule Flambeau, private detective): フランボウの名前の初出。 p272 J. ブラウン師という聖フランシス ザビエル教会(キャンバーウェル)の坊さんで… (the Reverend J. Brown, attached to St. Francis Xavier’s Church, Camberwell): ⑵や⑺と違うので教区替えがあったようです。他の物語にはCamberwellもXavier’sも出て来ません。 p274 双方とも体が細く、色が黒かったが…(both slight and dark): このdarkは髪の色のことでしょうね。 (2018-12-23記載) (6)The Strange Justice ポスト誌1911-3-25(2番目の短篇、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-4(Father Brown, III: The Strange Justice、2番目の短篇、挿絵Sydney Seymour Lucas) 単行本での題は“The Honour of Israel Gow”: 評価6点 昔からこの話が好きです。読後、朝の清々しい感じが心に残る作品。発端の奇妙な謎に、神父がひねくれ解釈を繰り出すところが良い。後半、おっちょこちょいの神父が悪魔に取り憑かれたようになるのが嫌な感じ。スコットランドをディスっています。 p166 ウィルキー コリンズ式: GKCはかつて「月長石」のイラストを描いたが出版されていない。(AFB) p181 ファージング貨(a farthing): 銅貨 重さ2.9g 直径20mm 現在価値17円。ソブリン金貨は重さ8g 直径22mm 現在価値1万6千円程。表が英国王の横顔なのは共通。この重さと直径はエドワード7世のもの(1902-1910)だが、1860年までのファージング貨は重さ4.9g 直径22mmだったからさらに間違えやすい。 (2018-12-24記載) ⑻The Sins of Prince Saradine ポスト誌1911-4-22(3番目の短篇、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-5(Father Brown, IV: The Sins of Prince Saradine、2番目の短篇、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価4点 昔から面白くないな〜と思っていたけど、やっと理由がわかりました。器用にまとまってるけどチェスタトンの作品やブラウン神父ものである必然性が全く無い。神父はただただ翻弄されてるだけです。内容も不愉快。女性の視点で再構成するとちょっと信じられない成り行きですが、そーゆー女性はあり得ない、とまでは言えません。 p215 リード島(Reed Island): 架空地名(AFB) P233 神父は乱れた髪をかきむしりながら…(rubbing up his rough dust-coloured hair): AFBによるとブラウン神父の髪色の初言及。この表現でlight brownということになるようです。 p240 日本の力士のように一歩を譲った… (He gave way, like a Japanese wrestler): この比喩が正確にどう言う意味なのか、どこでこのイメージを掴んだのか。文脈からは「ひらりと体をかわす」という感じです。GKCは実際の相撲興行をどこかで見たのでしょうか?柔道の可能性は?(例の「バリツ」が思い浮かびます) なおjapanでブラウン神父全集を検索すると他には「神の鉄槌」と「銅鑼の神」(『知恵』収録)に出てくるだけでした。 (2018-12-30記載) ⑷The Flying Stars ポスト誌1911-5-20(2番目の小説(巻頭は長篇の分載)、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-6(Father Brown, V: The Flying Stars、2番目の短篇、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価5点 クリスマスストーリー(ただし初出は5月)にふさわしいおとぎ話、改悛付きです。でも3回目でやっと効いた神父の威光って… まーそれだけフランボウが大泥棒だったということでしょう。ネタ自体は単純。この当時すでに絶滅しかかっている昔ながらの英国流パントマイムの実物が見たいですね。暴力ギャグあり流行歌ありの、いかにもJDC/CDが好きそうな話です。 p107 ユダヤ人をだしぬいて一文無しにする…: オーウェルが非難したべロックやチェスタトンの反ユダヤ主義というのは、GKCの場合「金持ち、資本家としてのユダヤ人」に対することが多いような気がします。『童心』の献辞について最後に書きましたので、ご参照願います。 p110 贈物日(Boxing Day): 英国では公式の休日。クリスマスの次のウイークデー。ギフトを入れたボックスを一年の労をねぎらって召使いや郵便配達に贈る。(AFB) p114 煤… 顔面に塗布致しまして(with soot—applied externally.): ミンストレルショーのことかな?と思ったら、AFBによると2枚の皿(片方に煤を塗っておく)を使った古い隠し芸のことらしい。 p116 コロンバイン、パンタルーン、ハーレキン: アガサ姐さんのおかげでお馴染みです。急に「謎のクィン氏」が読みたくなりました… p121 ≪ペンザンスの海賊≫中の警官隊の合唱(the constabulary chorus in the ‘Pirates of Penzance’): Act 2, When the foreman bares his steel, Tarantara! tarantara!のあたりですね。 AFBによると以下全て当時英国のポピュラー曲とのことです。 ≪その帽子はどこでもらった?≫(Where did you get that hat?): a comic song which was composed and first performed by Joseph J. Sullivan at Miner's Eighth Avenue Theatre in 1888.(Wiki) ≪そのとき別のを持っていた≫(Then we had another one): 不詳。 ≪汝の夢から起きあがる≫(I arise from dreams of thee): Percy Bysshe Shelleyの詩にJames George Barnettが曲をつけた1845年の歌。 ≪荷を背負って≫(With my bundle on my shoulder): I'm Off to Philadelphia in the Morning(Irish Emigrant Song)にほぼ同じ(myがme)歌詞あり。マコーマックの美声がWebで聴けます。 p122 歌詞は≪恋文を送ったら、とちゅうで落っことしてしまったぞ≫(I sent a letter to my love and on the way I dropped it): 不詳。AFBによると雑誌版では ‘and some of you have picked it up and put it in your pocket’と続く。この歌詞はA-Tisket, A-Tasket(1938年 エラ フィッツジェラルドの録音が有名)に似ています。元は英国伝承のハンカチ落とし遊びの歌らしい。 (2019-1-1記載) (12)The Three Tools of Death ポスト誌1911-6-24(3番目の短篇、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-7(Father Brown, VI. The Three Tools of Death、2番目の小説、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価5点 なんとも不可思議な状況を合理的に解決する。実に鮮やかですが、読後感が寒々しいのは何故でしょう…(娘への配慮が全く無いからでしょうか) p327 陽気なジム(Sunny Jim): Force社(US)のシリアルのキャラクター。1903年英国に登場。縫いぐるみ(rag doll)が数種類作られるほど英国で人気があった。(AFB) p342 大型拳銃(a large revolver): 大型の回転式拳銃(リボルバー)と訳して欲しいです… (2019-1-1記載) 献辞について: 中村訳では省略されていますが、この本には献辞があります。 To Waldo and Mildred d’Avigdor 以下は全面的にAFB情報ですが、Waldo d’AvigdorはGKCの少年時代からの友。MildredはGKCがSlade Schoolにいた時に知り合い友人となり、Waldoの妻となった女性。なおGKCの妻はMildredの友人でその縁でGKCと知り合った。Waldoはユダヤ人。 私は、GKCの反ユダヤ的言辞は⑹の反スコットランド的言辞と同じレベルで、ジョンソン博士と同様(馬の餌を食う輩)、親しみを込めたジョークではないか、と(今のところ)思っています。まあ内輪なら許されるけど声高に表現するものではないですね。 (2019-1-1記載) 次のWisdom収録作品からは、発表の舞台が米国の月刊誌McClure、英国の月刊誌Pall Mall誌に変わります。 やっと読み終わりました。全体の印象ですが、気の利いたセリフは一作品に一つだけで充分ですね。それ以上は作者の頭の良さのひけらかしみたいで嫌味な感じです。趣味が悪く軽薄でおっちょこちょいなGKC(はっきり言って小説は上手くない)という印象が強まりました。冷静に評価すると総合7点ですが、でもやっぱりこの本が大好きなので殿堂入り10点としています。この場のお陰で再発見がどっさりありました。 世間で言われてる難解なテーマ(人生の深みとか深遠な神学とか)なんて実はありませんので、敬遠されてる方でちょっと古くさい話に興味があり、トリックや逆説が大好きで捻くれてる方はぜひご一読を。 |
No.115 | 7点 | 正義の四人/ロンドン大包囲網 エドガー・ウォーレス |
(2019/01/01 07:58登録) 1905年出版。2007年の長崎出版版で読みました。 実にスピーディな話。ある意味ハードボイルドな文体。思わせぶりな表現にちょっとイラつきますが、許容範囲です。女っ気がないのもストイックでスリルを盛り上げる一因かも。 読んでてあらためて思ったのですが、探偵小説の誕生は新聞の興隆と切っても切れない関係にあります。新聞は事実(まー事実です)を報道し、〇〇の謎!と大々的にブチ上げますが、推理や解決は出来ません。その不満を埋めるのが探偵小説だった…という訳ですね。 以下トリビア。 p10 19xx年8月14日: p18の年代順事件リストの最後が1902年3月の事件で、2年前のレ ブロア事件はその後に記載されているらしいので、作中時間は1904年以降で確定ですね。 p17 25万フラン: 1904年の交換レートは1フラン=0.0397ポンド。英国消費者物価指数基準1904/2019で120.72倍。25万フランは現在価値1億6842万円。 p33 千ポンド: 現在価値1697万円。 p58 だいたい三万三千ペセタ: 1904年の金基準で1000ポンド=34354ペセタ。 p65 ガボリオやコナン ドイルの作品をほとんど読みまして…(I have read almost everything that has been written by Gaboriau and Conan Doyle): 当時の二大探偵小説作家。ガボリオは時を超えられなかった… p65 半ソブリン金貨(half a sovereign): 0.5ポンド。 p75 拳銃(a revolver): 「リボルバー」と訳して欲しいです… |
No.114 | 5点 | 二壜の調味料 ロード・ダンセイニ |
(2018/12/31 17:17登録) 1952年出版。翻訳2016年。 ダンセイニ卿は「団 精二」こと荒俣 宏さんの力の入った紹介で好きな作家になりました。でも内容がいつも軽くてふわふわしてるのが不満かも。チェスタトンとほぼ同時代(こちらが4歳年下)なのですね。 暫定評価5点としてボチボチと読んでゆきます。初出はFictionMags IndexとJoshi&Schweitzer編のLord Dunsany: A Comprehensive Bibliography (2nd ed. 2014)を参照しました。初出を見ると1950年あたりの発表作を中心に未発表作を加えた感じ。当時、作者74歳。老大家に敬意を評して、という感じの短篇集なのでしょう。 (2018-12-31記載) ⑴The Two Bottles of Relish (Time and Tide 1932-11-12 & 11-19の2週分載): 評価5点 リンリー初登場。語り口だけで成立している作品。語り手の卑下が窮屈な感じ。小男(a small man)を連発するのは何かのフリでしょうか。ところでアレをどう始末したの、という当然の疑問に答えてないように見えるんですが…(掲載した週刊誌Time and Tideはフェミニスト文学雑誌らしいです。どーしてこんなのを載せたんでしょうね。初出時の前篇と後篇の区切りはp19とp20の間あたりかな) p15 200ポンド: 消費者物価指数基準(1932/2018)で68.48倍、現在価値193万円。 (2018-12-31記載) ⑵The Shooting of Constable Slugger (Barrier Minor [Broken Hill, Australia] 1939-7-29): 評価4点 リンリー第3作。初出は豪州の新聞。ネタは単純で、あっさり終わります。 登場する8番径の大型散弾銃(a big shot-gun .... an eight-bore)は、0.835インチ(21.2 mm)の超大口径。現在においては非常に稀な銃。送り蓋(ワッズ)は散弾と火薬の間の蓋のこと。 (2018-12-31記載) ⑶An Enemy of Scotland Yard (Windsor Magazine 1937-12): 評価5点 リンリー第2作。結構スリリングな話ですが推理要素はほとんどありません。 (2018-12-31記載) ⑷The Second Front (EQMM 1951-7, as “The Most Dangerous Man in the World”): 評価5点 リンリー第6作。作中時間は1943年6月末。スパイ大作戦風味。シンプルなネタですが、面白く読ませます。 (2018-12-31記載) ⑸The Two Assassins (Evening News [London] 1946-1-1): 評価4点 リンリー第4作。戦争の少し前の話。パーティに紛れた暗殺者を見つける方法とは?ちょっと逆説風。でも軽いネタです。当時の50ポンドは消費者物価指数基準1938/2018で66.04倍、現在価値46万円。 (2018-12-31記載) ⑹Kriegblut’s Disguise (単行本1952初出?): 評価4点 リンリーもの。戦争の始まる少し前の話。誰も思いもつかない変装とは? 残念ながらあまり良いアイディアとは思えません。 (2019-8-11記載) ⑺The Mug in the Gambling Hell (単行本1952初出?): 評価4点 リンリーもの。大戦前の話。ギャンブルに関する事件。納得する話ですが意外性はあまり… 千ポンド: 1938年と仮定すると66.04倍、現在価値849万円。全て1ポンド札って結構かさばるのでは?(当時の1ポンド紙幣は151x85mm、緑色のBritannia series(1928-1948)) (2019-8-13記載) ⑻The Clue (EQMM 1951-12, as “A Simple Matter of Deduction”): 評価4点 リンリー第7作。新聞のインタビューを受けるスメザーズ、戦前の話を語る。クロスワードが出てきます。読者に手がかりは提示されません。 (2019-8-13記載) ⑼Once Too Often (Evening News [London] 1947-3-25): 評価5点 リンリー第5作。戦争直後の話。変装を見分ける確実な方法とは。確かにそうですね。 (2019-8-13記載) ⑽An Alleged Murder (初出未確認 1950頃?): 評価4点 何かメッセージが隠されてるのでは?と思ったけど… (原文も見ましたが…) 中途半端すぎる。 (2019-8-13記載) (11)The Waiter’s Story (単行本1952初出?): 評価6点 ホテルの給仕が語る恐ろしい物語。二つの大戦の前のこと。チップ5ポンドは1910年と仮定すると英国消費者物価指数基準(1910/2019)で116.81倍、現在価値7万5千円。 (2019-8-13記載) (12)A Trade Dispute (Evening News [London] 1947-11-11): 評価5点 ジョーゲンスものみたいなクラブでの虚実不明な話。昔のインド国境が舞台。軽いネタですがなんか好き。 (2019-8-14記載) (13)The Pirate of the Round Pond (単行本1952初出?) (14)The Victim of Bad Luck (Evening News [London] 1949-8-29) (15)The New Master (単行本1952初出?) (16)A New Murder (初出未確認 1950頃?) (17)A Tale of Revenge (初出不明 1950-12) (18)The Speech (Collier’s 1950-11-25) (19)The Lost Scientist (London Evening Standard 1950-9-12) (20)The Unwritten Thriller (Courier 1951-11) (21)In Ravancore (単行本1952初出?) (22)Among the Bean Rows (単行本1952初出?) (23)The Death-Watch Beetle (単行本1952初出?) (24)Murder by Lightning (単行本1952初出?) (25)The Murder in Netherby Gardens (EQMM 1952-5) (26)The Shield of Athene (単行本1952初出?) |
No.113 | 5点 | O・ヘンリー・ミステリー傑作選 O・ヘンリー |
(2018/12/31 14:07登録) 小鷹さんオリジナル編集。単行本1980年、文庫1984年。文庫版で読んでいます。訳は小鷹チーム。(井上 忝子、郷 睦美、酒井 常子、佐々木 昤子、山崎 秀雄) チェスタトンの同時代人(ひと回りほど年上ですね)ということで読みはじめました。当面評価5で。短いけど短篇小説は一つ一つが小宇宙。ゆっくり読んでゆきます。 (2018-12-31記載) (24)Concience in Art (多分 New York World 日曜版が初出。単行本The Gentle Grafter 1908): 評価5点 ジェフ ピーターズもの。単純だけど楽しい話。ピッツバーグで一稼ぎ企む詐欺師たち。スティールタウンを頭から馬鹿にしきっています。ピッツバーグ=ニューヨーク間の往復鉄道料金が21ドル、ホテルまでのタクシー代が2ドルの時代。1ドルは消費者物価指数基準1905/2018で28.53倍、現在価値3169円。 (2018-12-31記載) (25)Innocents of Broadway (多分 New York World 日曜版が初出。単行本The Gentle Grafter 1908): 評価5点 ジェフ ピーターズもの。ニューヨーク(世界第2の都市)の田舎者は人を疑うことを知らない。詐欺師の正義感が炸裂する! (5000ドルは上述の換算で1585万円) (2019-1-1記載) (26)Shearing the Wolf (多分 New York World 日曜版が初出。単行本The Gentle Grafter 1908): 評価5点 ジェフ・ピーターズもの。ケンタッキーの正直者がシカゴの詐欺師と対決する。偽札詐欺のやり口が興味深い。(1000ドルは上記の換算で317万円) (2020-3-29記載) |
No.112 | 6点 | クイーンの定員Ⅱ アンソロジー(国内編集者) |
(2018/12/30 22:23登録) 1951年出版のEQコメント付き傑作リスト。日本版はそのリスト(1969年改訂の#125まで。EQコメントは一部のみの翻訳、各務 三郎による解説付き)と、リストに挙げられた短篇集からセレクトした短篇を収録。(ハードカヴァー1984年、全3巻; 文庫1992年、全4巻) Ⅱ(文庫版)の収録作品は、 ⑴外務省公文書(クリフォード・アッシュダウン)、⑵千金の炎(アーノルド・ベネット)、⑶緋色の糸(フットレル)、⑷当世田舎者気質(O・ヘンリー)、⑸英国プロヴィデント銀行窃盗事件(オルツィ男爵夫人)、⑹モアブの暗号(フリーマン)、⑺折れた剣の看板(チェスタトン)、⑻ドイツ大使館文書送達箱事件(ホワイトチャーチ)、⑼ナイツ・クロス信号事件(ブラマ)、⑽シナ人と子供(トマス・バーク)、(11)ナボテの葡萄園(ポースト)、(12)偶然の一致(J. ストーラー・クラウストン)、(13)チョコレートの箱(クリスティ)、(14)文法の問題(セイヤーズ)、(15)ウィルスン警視の休日(コール夫妻)、(16)ベナレスへの道(ストリブリング)、(17)ドアの鍵(アンダースン) アンソロジーを一気に読むのは無理。暫定評価を6点として、各作品を読了後に更新してゆきます。なお初出はFictionMags Index調べ。 (2018-12-30記載) ⑴ The Adventures of Romney Pringle[2] The Foreign Office Despatch by Clifford Ashdown (Cassell’s Magazine 1902-7 挿絵Fred Pegram) 深町 眞里子 訳: 評価5点 ロムニー・プリングルもの。ルーレットの場面から始まる話。前段でカモの情報を仕入れるところから描くとさらに良かったと思う。 p11 八十ポンド: 英国消費者物価指数基準1902/2020(123.72倍)で£1=17554円。£80は140万円。 p27 ゴルゴンゾラ・ホール: Gorgonzola Hall 大理石の模様がゴルゴンゾーラチーズに似ていたらしい。昔のカラー写真がWebに見つかりませんでした。 (2020-3-29記載) ⑵ The Loot of the Cities. No. I.—The Fire of London by Arnold Bennett (Windsor Magazine 1904-6 挿絵John Cameron) 山本 光伸 訳: 評価7点 シリーズ第1作。これはやられた。文章が上手くて、展開が良い。続きも読みたいですね。 現在価値は英国消費者物価指数基準1904/2020(122.39倍)、£1=17365円で換算。 p44 九シリング六ペンス: 8248円。小道具の値段。 p44 二ポンド十五: 47754円。従業員への手間賃。 p45 イギリス銀行の千ポンド札: 1737万円。Bank of England Noteの最高額面だが非常に高額。White Note(白地に黒文字、絵なし。裏は白紙)、サイズは211x133mm。1945年廃止。 (2020-3-29記載) ⑶The Scarlet Thread by Jacques Futrelle (多分Boston American紙が初出 1905) 別題Mystery of the Scarlet Thread 宮脇 孝雄 訳: 評価5点 思考機械もの。新聞記者ハッチを手先にして推理します。並みの作品ですね。キャベルの行動がいまいち理解出来ないのですが、隠された意味があるのでしょうか。格闘シーンで教授がぶっ飛ばされたら面白いのに、と思いました… p61 バックベイ地区 (the Back Bay): 19世紀の立派な建物が並ぶボストンの高級住宅街 p62 照明はガス又は電気が選べる: 高級住宅街らしく電化が進んでいます。 p71 時間記録機がありまして… (There’s a time check here): タイムカードは1900年ごろの発明らしい。 p86 月200ドルのアパート代(I pay two hundred dollars a month): 消費者物価指数基準1905/2018で28.53倍、現在価値63万円。間取りはバス付きの2、3部屋。すごい高級住宅ですね… (2018-12-30記載) ⑷Modern Rural Sports by O. Henry (短篇集1908)「当世田舎者気質」小鷹 信光 訳: 評価5点 ジェフ・ピーターズもの。当時からノスタルジアを掻き立てるのが上手な作者。最後の遊びを知ってるとなお面白いだろう。某Tubeにアップされてるので知らない人は是非見てください。 (2022-10-2記載) ⑺The Innocence of Father Brown: The Sign of the Broken Sword (Saturday Evening Post 1911-1-7) 深町 眞理子 訳: 評価5点 評は『ブラウン神父の童心』を参照のこと。 (2018-12-30記載) ⑻The Affair of the German Dispatch-Box by Victor L. Whitechurch (多分Pearson‘s Weeklyが初出か。単行本Thrilling Stories of the Railway 1912) 浅倉 久志 訳: 評価5点 ソープ・ヘイズルもの。ややメカニカルな解決なので趣味に合わず。変テコな属性たっぷりの探偵にも魅力なし。この車両は通路なしのコンパートメント独立式(進行中は他のコンパートメントに移れない。直接コンパートメントのドアから地上に出入りする車両)なので、車両の両側の窓のどちらでやるか、が重要なポイントだった。 (2020-2-16記載) ⑼The Knight’s Cross Signal Problem by Ernest Bramah (News of the World 1913-8-24と翌号(2回連載) 連載タイトルThe Mystery of the Signals) 池 央耿 訳: 評価7点 マックス・カラドスもの。謎の解明やトリックには感心しないが、意外にも社会への切り込みがしっかりしていてビックリ。流石カイ・ルンの作者。 p240 指で印刷インクを読む: 本当に可能なの? p259 スズメの叉骨(メリーソート)を象った金のブローチ: merrythoughtはラッキーアイテムとして使われているようだ。 (2020-2-16記載) (10)The Chink and the Child by Thomas Burke (Colour 1915-10) 大村 美根子 訳: 評価5点 ロンドンの裏の顔。英国人にはエキゾチックな話として面白いかも、だがアジア人たる我々にとっては違和感を覚えざるを得ない。でもエキゾチックってそんなものだろう。リアリティが感じられるのは作者がチャイナタウンの近くで育ったからか。 初出のColour誌は現代アートが天然色で掲載された52ページのタブロイド。1シリング(=734円) p288 ファン・タン: Fan-Tan、広東語で「番攤」Wikiに「ファンタン」として記載あり。 (2020-2-18記載) (12)Coincidence by J. Storer Clouston (初出不明 単行本Carrington's Cases 1920) 池 央耿 訳: 評価8点 キャリントンもの。これは面白い。上手な語り口と構成。人に話したくなるような話。 p325 矢じりマークの囚人服: broad arrowは1870年代から1922年まで英国囚人服のマークとして採用されていた。Wiki “Prison uniform”に画像あり。 (2020-2-18記載) (13) The Grey Cells of M. Poirot XII. The Clue of the Chocolate Box by Agatha Christie (初出Sketch 1923-5-23) 深町 眞理子 訳: 評価6点 『ポアロ登場』参照。翻訳は深町さんのがずっと良い。特にp382「俗世との縁を切った(no longer of this world)」、ただしp376「錠剤はチョコレートでできている(tablets were of chocolate)」は「チョコレート色」だと思います。(スーシェ版TVドラマを観たらチョコレート「糖衣」で正しいようだ。薬にチョコレートを使うとは思わなかった…) (2020-3-1記載; 2020-3-9訂正) (14)The Entertaining Episode of the Article in Question by Dorothy L. Sayers (Pearson’s Magazine 1925-10) 宇野 利泰 訳: 評価5点 ウィムジイもの。ネタはつまらないが、ピーター卿の会話が楽しい作品。バンターとのコンビ技や公爵夫人のキャラも良い感じ。原文ではフランス語に英訳はついていない。ここに出てくるアテンベリーがピーター卿最初の事件「エメラルド(或いはダイヤモンド)事件」の関係者、という設定なのかな? p393 姉のメアリー(his sister Mary): もちろん「妹」が正解だがここの文章だけではわからない。五歳年下、と『雲なす証言』に出てきます。 p407 トリ(bird): 英俗(魅力的な)若い女、と辞書にあり。「小鳥ちゃん」でどう? p407 少年刈り(shingled head): 1920年代に美容師Antoni Cierplikowskiが流行らせたらしい。Webで検索すると辞書には出てくるが美容用語として「シングル・カット」は通用していないようだ。 (2020-2-18記載) この作品、セイヤーズが1920年ごろにSexton Blakeものとして書いた習作を元にしてる、という。それなら犯人逮捕時の見得もわかる。あれは有名な犯人(多分、オリジナルではLeon Kestrel)じゃないと効果が上がらない。 (2020-3-1追記) (15)Wilson’s Holiday by G. D. H. & M. I. Cole (初出不明 単行本1928) 深町 眞理子 訳: 評価6点 ウィルスン警視もの。リアリスティックな設定と構成が良い。淡々と捜査してても過程が良いので飽きない。足跡付きの図面もあります。 p417 モリス=オクスフォード: 1913年からのブランド。1926年からFlatnoseになった。作中の「新型」は、それを指してるのか。 p461 拷問みたいなやりかた… アメリカの警察の専売特許: 英国人のイメージ (2020-3-1記載) (16)A Passage to Benares by T. S. Stribling (初出Adventure 1926-2-20) 田村 義進 訳 ポジオリ教授もの。単行本でまとめて読むつもりなので、今回はパス。この最終話だけ読んでもねえ… (2022-10-2記載) (17)The Door Key by Frederick Irving Anderson (初出TheSaturday Evening Post 1929-12-28 挿絵Hubert Mathieu)「ドアの鍵」浅倉 久志 訳: 評価5点 パー&アーミストンもの。のんびりした米国の田舎の情景。牛の乳搾りとかナマズ釣りの描写が良い。飼い猫が乳牛の番をしているのが面白い。 ミステリ的には乱暴な話。ベルティヨン式がまだ有効だった時代なんですね。 (2022-10-2記載) |
No.111 | 5点 | クイーンの定員Ⅰ アンソロジー(国内編集者) |
(2018/12/30 04:41登録) 1951年出版のEQコメント付き傑作リスト。日本版はそのリスト(1969年改訂の#125まで。EQコメントは一部のみの翻訳、各務 三郎による解説付き)と、リストに挙げられた短篇集からセレクトした短篇を収録。(ハードカヴァー1984年、全3巻; 文庫1992年、全4巻) Ⅰ(文庫版)の収録作品は、[⑹は文庫版のみ収録] ⑴王妃の犬と国王の馬(ヴォルテール)、⑵盗まれた手紙(ポー)、⑶人を呪わば(コリンズ)、⑷舞姫(トマス B. オルドリッチ)、⑸世にも名高いキャラヴェラス郡の跳び蛙(トウェイン)、⑹バチニョルの小男(ガボリオ)、⑺クリーム パイを持った若い男の話(スティーヴンスン)、⑻赤毛連盟(ドイル)、⑼サミー スロケットの失踪(モリスン)、⑽罪の本体(ポースト)、(11)ダイヤのカフスボタン(グラント アレン)、(12)代理殺人(ボドキン)、(13)ディキンスン夫人の謎(ニコラス カーター)、(14)ラッフルズと紫のダイヤ(ホーナング) 私は単行本版で読んでいます。(文庫を発注したつもりだったのに…) アンソロジーを一気に読むのは無理。暫定評価を5点として、各作品を読了後に更新してゆきます。なお初出はFictionMags Index調べ。 (2018-12-30記載) ⑴The Dog and the Horse by Voltaire (単行本1747、EQMM 1954-10) 小鷹 信光 訳: 評価5点 推理力の高い知恵者の話は古今東西にあるはず。(一休とかナスレッディンとか) ただし大抵は作者不詳。作者が明確なのはこの作品が初ということか。知恵は権力から危険視される、という常変わらぬ真理。(今、ふと思ったのですが、英国TVシリーズSherlockの最終シリーズは、そーゆーテーマにすれば良かったのにね。) 金400オンスは現在なら5600万円相当。(ここ数日相場が荒れてるので1トロイオンス1300ドルで換算) (2019-8-7記載) ⑵The Purloined Letter by Edgar Allan Poe (1844) 深町 真理子 訳: 評価5点 Purloinと言えば、この作品が連想されるめったに使われない単語とのこと。「偸まれた」としてる翻訳もあり。ドイルの『ボヘミア』がこれの変奏曲というのは指摘されるまで気づきませんでした。デュパンの解説が非常に長くてびっくり。愉快な話ですがこの程度のトリックで本当に警察の徹底探索から逃れられたのか。 報酬五万フランの換算は、作中時間が不明確(18--年秋)ですが、金基準(1840)で1フラン=0.1997ドル、米国消費者物価指数基準(1840/2019)で29.44倍なので、50000フランの現在価値は3109万円。 (2019-8-8記載) ⑼Martin Hewitt, Investigator. II. The Loss of Sammy Crockett by Anon. [Arthur Morrison] (Strand 1894-4、雑誌中2番目の小説、挿絵Sidney Paget) 山本 光伸 訳: 評価5点 マーティン ヒューイットもの。華のない探偵です。最初の2篇は作者名無しで掲載されました。タイトルにもなっている中心人物の苗字は雑誌では上記クロケット、単行本でThrockettに変更しているようです。ストランド誌のこの号は広告を除く全内容がWeb公開されています。ちぎった手紙の切れ端の図がちゃんと掲載されていました。英国の田舎の賭けレースの裏側が興味深い。探偵ものとしては平凡だが語り口で読ませる。 (2019-5-16記載) ⑽The Corpus Delicti by Melville D. Post (単行本1896、初出誌不明。単行本書き下ろしとは考えにくいのですが…) 池 央耿 訳: 評価6点 悪徳弁護士ランドルフ メイスンもの。気持ち悪い描写があるのでご注意。この結末でいいのかなあ。(まー金持ちってのは鈍感ですからね) (2018-12-30記載) (11)An African Millionaire, II. The Episode of Diamond Links by Grant Allen (Strand 1896-7、雑誌中5番目の小説、挿絵Gordon Browne) 池 央耿 訳: 評価6点 クレー大佐もの。シリーズ第2話。(第1話「メキシコの予言者」は『シャーロック ホームズのライヴァルたち①』(早川1983)に収録) 50シリング程度(消費者物価指数基準1896/2018で129.21倍。現在価値約45000円)のまがい物?に300ポンド(約545万円)出そう、と平気で言うのが大金持ちの嫌らしさ。(しかも本当の価値は3000ポンド以上と見抜いている) ネタは単純明解ですが、面白い話に仕上げています。(まー金持ちってのは鈍感ですからね) (2018-12-30記載) (12)The Murder by Proxy by M. McDonnell Bodkin (Pearson’s Weekly 1897-2-6、ただし雑誌掲載時の探偵はAlfred Juggins。単行本1898でPaul Beckに変更) 深町 真理子 訳: 評価5点 親指探偵ポール ベックもの。元のジャギンズ中年探偵の活躍はシリーズ第1作目が『シャーロック ホームズのライヴァルたち①』(早川1983)で読めます。こちらはシリーズ第3作、単行本では4番目の話。作中で言及されてる「サザン公爵のオパール」事件はシリーズ第2作By a Hair’s Breadth(単行本3番目)です。 8月12日の事件。「年千ポンドの手当」は英国消費者物価指数基準(1897/2019)で128.9倍、現在価値1736万円。本作のネタは乱歩先生が「この着想はアメリカの古い探偵作家P…と、フランスのL…が使っている」と書いてるやつ。実は本作が一番早い発表。説明過多になってないのが良い。 銃は「古い“マントン”の先込め銃(old ‘Manton’ muzzle-loader)」が登場。「撃発雷管(caps)… 火薬をニップルに振りいれた(had shaken the powder into the nipples)…」とあるのでパーカッション式の狩猟銃です。(ニップルにキャップを被せて発射準備完了。撃鉄がキャップを叩くと点火し弾丸発射。ニップルに入れたのは導火用の火薬と思われる。キャップを外すと発火しません。) Joseph Manton (1766-1835)は英国ガンスミスで猟銃の改革者、とのこと。「なまじ照準器つきのなんかより、よっぽど強力だし、遠くへも飛ぶぞ。それに、二発撃つごとに掃除をしなくても、錆が出る心配もない」元込め式の現在の猟銃と比べると色々利点があったのですね。よく考えると、古い銃なら発火機構が表に出ているので… (以下自粛) (2019-8-7記載) (14)A Costume Piece by E. W. Hornung (Cassell誌1898-7) 浅倉 久志 訳: 評価5点 ラッフルズもの。単行本の第2話。ルパン三世みたいなノリ。言及されてる「ポンド街の冒険」(第1話The Ides of March)はどんな話なのか気になります。 p298 [それぞれ]二万五千ポンド(fifty thousand pounds): 二つで五万ポンド。英国消費者物価指数基準1898/2020で130.83倍、25000ポンド=4億6千万円。 p299 ばかでっかい拳銃(a whacking great revolver!)… 弾丸で自分の名前を書く(write his name in bullets): シャーロックの狼藉はMusgrave Ritual(Strand 1893-5初出)。名前(イニシャル?)を書くには、拳銃だと一度にまとめて6発しか撃てないので、かなりの手間だと思います。 p315 十シリング: 9223円。馬車の御者への手間賃。 (2020-1-5記載) |
No.110 | 5点 | シャーロック・ホームズのライヴァルたち① アンソロジー(国内編集者) |
(2018/12/26 06:43登録) 1983年出版のオリジナルアンソロジー。押川 曠さんはかつてHMMにS.H.のライヴァルものをコツコツ翻訳されていた山田 辰夫さんの筆名です。(オスカー ワイルドのもじり、とのこと) 最近、すっかりヴィクトリア朝の作品のペースに慣れてきました。でも全部一気に読むのは無理。ボツボツと更新します… (当座の評価は5点です) 以下の初出は、文庫のゆきとどいた記載を(いつもの通り)FictionMags Indexで補正しました。(タイトルや作者名はなるべく初出時のものを採用) 収録作家は ⑴L.T. ミード、⑵モリスン、⑶グラント アレン、⑷ポドキン、⑸ヒューム、⑹ディックドノヴァン、⑺アシュダウン、⑻ロバート バー、⑼ウォレス、⑽ホワイトチャーチ、(11)ヘスキス プリチャード、(12)ホーナング、(13)R.C. レーマン、(14)ブレット ハート ⑴Stories from the Diary of a Doctor, VII. The Horror of Studley Grange by The Authors of “The Medicine Lady”. (L.T. Meade & Clifford Halifax M.D.) (Strand Magazine 1894-1、雑誌の巻頭話、挿絵A. Pearse) 押川 曠 訳: 評価4点 ハリファックス博士もの。文庫のタイトル裏の絵が怪奇現象の場面。(ちょっと潰れ気味で目の下の手が見えない) 執念が心に残る話。仕掛けがよくわからないので低評価。ストレプトマイシン発見前ですね。シリーズの筆名「The Medicine Ladyの作者たち」の意味は不明。(先行してThe Medicine Ladyという作品があったわけでもない様子) Web検索で当時のSpectator紙の記事(1894-6-9)が引っかかったのですが読んでません… Clifford Halifaxは英国の医師・作家 Edgar Beaumont (1860-1921) の筆名。ストランド誌のこの号は無料で全内容(イラスト付き)がWeb公開されてます。(合本版なので、当時の広告がないのが非常に残念) (2012-12-26記載) ⑵Martin Hewitt, Investigator. IV. The Case of the Dixon Torpedo by Arthur Morrison (Strand 1894-6、巻頭話、挿絵Sidney Paget) 押川 曠 訳: 評価4点 ヒューイットもの。どう考えても容疑者は二人に絞られるのですが、依頼人が全く疑わない時代です。ひねりのない素直な作品。探偵に華がありません。ストランド誌のこの号も無料公開されてます。 p76 20ルーブル紙え幣(twenty-rouble notes): 1894年の交換比率で20ルーブル=2.1ポンド。英国消費者物価指数基準1894/2018では126.24倍、現在価値37268円。 20ルーブル紙幣をWorld Paper Money カタログで探したら1822年発行Crowned double-headed eagle with sheild. First signature printed, second signature handwritten. 色はGreenのとReddishの2種類、大きさは不明。なぜか帝政ロシアで20ルーブル紙幣はそれ以降発行されていないようです。 (2018-12-27記載、追記2019-1-19) ⑶An African Millionaire, I. The Episode of the Mexican Seer by Grant Allen (Strand 1896-6、雑誌中3番目の小説、挿絵Gordon Browne) 押川 曠 訳: 評価4点 クレー大佐もの。シリーズ最初の作品。(第2話「ダイヤのカフスボタン」は『クイーンの定員』に収録) コンゲームなのですが切れ味に欠けます。ミラクル変装術が嘘くさい。5ギニー =5ポンド5シリング=5.25ポンド、現在価値95363円(消費者物価指数基準1896/2018で129.21倍)最初5ギニーと言ってすぐに5ポンドに変更したのは値切り?それともほぼ同価なので心理的には同じことを言っているのか。5000ポンドは約9000万円。この額でヘナヘナとならないのが大金持ちらしいです。ストランド誌のこの号も無料公開あり。 (2018-12-28記載) ⑷The Vanishing Diamonds by M. McDonnell Bodkin (Pearson’s Weekly 1897-1-23) 押川 曠 訳: 評価5点 ここではジャギンズ中年探偵だが単行本で親指探偵青年ポール ベックに書き直された話。シリーズ第1作。ちょっと凝ったプロットですが、犯人側から再構成すると無茶苦茶な筋。語り口が良いので好印象。手紙でちょっとした要件を伝える(馬車がメッセージを運ぶ)時代です。シンプソンズの食事が美味しそう。 (2018-12-29記載) ⑸The Florentine Dante by Fergus Hume (初出不明 単行本1898) 押川 曠 訳: 評価5点 質屋のヘイガーもの。女性探偵。ありがちな話ですが面白く読めました。 p132 五ポンド: 消費者物価指数基準1898/2019で129.05倍、現在価値90710円。 (2019-1-1記載) ⑹The Queensferry Mystery by Dick Donovan (初出不明 単行本1900) 押川 曠 訳: 評価3点 タイラー タットロックもの。特に取り柄のない作品。 p153 約百ポンド相当の宝石類… 百五十ポンドはするダイヤの首飾り: 消費者物価指数基準1900/2019で122.03倍。現在価値は100ポンドが172万円、150ポンドが257万円。 (2019-1-20記載) ⑺The Adventures of Romney Pringle, (3) The Chicago Heiress by Clifford Ashdown (Cassell’s Magazine 1902-8, 挿絵Fred Pegram) 乾 信一郎 訳: 評価5点 ロムニー プリングルもの。どんな種類の話なのか良く分からず読んで最後にちょっとびっくり。そーゆーシリーズだったとは。ひねりはありませんが綱渡りの妙。翻訳は上質。千ポンドは英国消費者物価指数基準(1902/2019)で121.89倍、現在価値1566万円。 (2019-8-9記載) ⑻The Triumphs of Eugene Valmont: Lord Chizelrigg’s Missing Fortune by Robert Barr (Saturday Evening Post 1905-4-29, 挿絵Emlen McConnell) 押川 曠 訳: 評価6点 ユージェーヌ・ヴァルモンもの。短篇集(1922)の第4話。語り口がうまくて楽しい話。国書刊行会の単行本を思わず発注してしまいました… p219 十万ポンド以上: 英国消費者物価指数基準1905/2020で122.39倍、10万ポンドは17億円。 p233 定価が12シリング6ペンスでそれに小包送料が6ペンス… 重さはまあ4ポンド以下: 12シリング6ペンス=10784円。送料6ペンス(=431円)は4ポンド(=1814g)以下のものということ。 (2020-1-20記載) ⑼ The Man Who Sang in Church by Edgar Wallace (20-Story Magazine 1927-9) 押川 曠 訳: 評価5点 正義の三人もの。押川さんはNovel Magazine 1921年(月不明)を初出としていますが、上記が正解。(FictionMags Index及びThe British Bibliography of Edgar Wallaceによる) 混乱のもとは短篇集の英国版と米国版のタイトル。ストランド誌やNovel誌などに1921年に発表した短篇を集めた「正義」シリーズ四作目が英The Law of the Four Just Men(1921)、米Again the Three Just Men(1933)で、20-Story誌などに1927年に発表した短篇を集めた「正義」シリーズ六作目が英Again the Three Just Men(1928)、米The Law of the Three Just Men(1931)なのです。(見事に入れ違ってますね。) 本作は後者(シリーズ六作目、英国版1928年出版)の第9話。 正義の三人も丸くなったもんだな〜。まー私は『正義の四人』(1905)しか読んでませんが。このシリーズの他の作品が日本語で読める日が来るかなあ。 p244 彼女は色が黒く、ほっそりとして(She was dark and slim): お馴染み「黒髪で」。まー「顔色」としてないのでギリギリセーフか。(でも「色が黒く」は肌の色だと思っちゃうよね…) p245 玄関のドアには、ここが“正義の三人”の住み家であることを示す銀の三画印がついている(the silver triangle on the door marked the habitation of the Three Just Men): アレ? 世間に公表して大丈夫なの? p247 名前はどうでもよいのです(a man whose name will not interest you): 依頼のターゲットの名前なんだから「どうでも良い」は違和感ありまくり。試訳「言っても知らない名前だと思います。」 p248 二人が深い関係になる前に(before our friendship reached a climax): 若い女性の発言として、この訳はちょっとどうか。試訳「私たちの関係が深くなる前に」 p248 年2000ポンドの母の遺産(I have money of my own—my mother left me two thousand pounds a year): 英国消費者物価指数基準1927/2020で63.24倍、1ポンド=8916円で換算すると、年1783万円。 p263 指紋を信じたってだめなのさ。なぜなら…(With all his faith in fingerprints gone astray because...): この訳ではダメなのさ。「指紋は確実だって信じてたのに(その信頼が)裏切られちゃって。でも…」ということ。 (2020-1-25記載) ⑽ The Affair of the German Dispatch-Box by Victor L. Whitechurch (初出不明、Pearson’s WeeklyかRoyal Magazineか。単行本Thrilling Stories of the Railway 1912) 押川 曠 訳: 評価5点 ソープ・ヘイズルもの。単行本では15篇中6番目に収録。このコンパートメントは廊下なしのもの。作戦がメカニカルで気に入りません。隣のコンパートメントの動きを想像すると、そこからバレそう。映像化したら楽しそうです。 (2020-3-14記載) (11)The Seven Lumber-Jacks by Hesketh Prichard (初出不明、このシリーズはPearson’s Magazine連載のようだ。単行本November Joe; Detective of the Woods 1913) 押川 曠 訳: 評価5点 ノヴェンバー・ジョーもの。単行本では9篇中4番目に収録。続きものなので冒頭に記載されてる事件がよくわかりませんが、本篇とは関係ありません。荒っぽいカナダの森の男たちの描写が楽しい作品。50ドルは米国消費者物価指数基準1913/2020(26.13倍)で14万円。 (2020-3-14記載) (12)A Schoolmaster Abroad by E. W. Hornung (英初出Red Magazine 1913-??-??; 米初出Everybody’s Magazine 1913-11 as “A Matter of Two Ciphers”) 乾 信一郎 訳: 評価6点 ジョン・ダラーもの。シリーズ5作目。スイスの休日と演芸とスポーツ。廻りくどい文章ですが原文もそんな感じ。筋の流れが良く、ダラー博士のキャラも立っている。掲載誌のEverybody’s Magazineは当時15セント144ページ。ピアソン系雑誌の再録が多かったようだ。ということは初出は押川さんの記載通り英国誌Red Magazine(当時4シリング半160ページ)と思われる。 p317 トボガン(toboggan): シンプルな作りの橇。北米インディアンの言葉otobanask, odabaganから? p319 肌の浅黒い紳士(black-avised gentleman): ここは「肌が浅黒い」の意味で間違いない。『ピクウィック・ペーパー』(Pickwick)からの一節を披露して爆笑を誘う。 p322 イートンのスクールカラー・ネクタイ(Old Etonian tie): Eton Collegeのストライプ柄ネクタイのことですね。 (2020-3-15記載) |
No.109 | 6点 | ねじの回転 ヘンリー・ジェイムズ |
(2018/12/25 01:19登録) 1898年発表の「ねじの回転」を中心にした短篇集。南條 編の創元文庫(2005)で読みました。 「ねじの回転」だけでも読了に数週間かかりましたが、雑誌初出が約三ヶ月にわたる続き物だと知ってペースは間違っていなかったのだ、と変に納得。うねうねした文章に感心したりウンザリしたりドキドキしたりの不思議な読書体験でした。しばらく他の作品を読む気にならないので書誌データだけ示して保留です。 ⑴The Turn of the Screw (Collier's Weekly連載 1898-1-27〜4-16): 評価6点 不思議としか言いようのない話。ぼかした表現にイライラ。でも納得させられる力技の文章。理に落ちた解釈をせずぼんやり受け入れるのが一番のような気持ちになる作品です。 p89 フィールディングの「アミーリア」: Amelia, by Henry Fielding (published in December 1751) (ここまで2018-12-25記載) ⑵The Romance of Certain Old Clothes (Atlantic Monthly 1868-2 as by anon.) ⑶The Ghostly Rental (Scribner’s Monthly 1876-9 as by Heny James Jr.) ⑷Owen Wingrave (Graphic 1892-11-28) ⑸The Real Right Thing (Black and White 1892-4-16)※FictionMags Indexにより創元文庫の初出データを修正。 |