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ミステリの祭典

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復刻 エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン No.1-3
ミステリマガジン編集部

作家 アンソロジー(出版社編)
出版日1995年10月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 8点 弾十六
(2019/08/11 15:24登録)
相変わらず1920年代あたりをウロウロしてるのですが(おかげでE.S. ガードナー書評全集が止まったまま…) たまにはいろんなのを読みたくなって、それなら雑誌が一番、そうそうJDC『妖魔』は乱歩先生訳でEQMM日本語版創刊号の巻頭を飾ったんだよね… というわけで、ここにたどり着きました。
創刊号から第三号までの全てのページを復刻した夢のような本。当時、古本屋で安いバックナンバーを漁ってた私にとって素晴らしい企画でした。(特にバークリーが掲載された号が無かったんですよね… ) ところで今気づいたのですが広告が早川書房のものしかありません。雑誌最終ページにその理由が。「マーキュリー社との特約で創刊号から三カ月は他社の広告を掲載出来ません」なぜそーゆー特約が設定されたのでしょうか…
雑誌の復刻としてみればエッセイや広告やミステリ界の時事ニュースがほとんどないのでアンソロジー的な本になっています。当時のタイムカプセルとしては物足りないですね。
初出は例によってFictionMags Indexで調査。
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まずは創刊号(1956年7月号)から。表紙はお馴染み勝呂 忠、カットは北園 克衛。ところで勝呂さんが最初に描いたHPBは何?EQMM表紙の方が先なのかな?(確かミステリマガジンの何周年か何百回かの記念号にご本人が経緯を書いてたような記憶が…) ネットで調べてみると初期の具象画ポケミスも勝呂さん作が結構あるようです。(2019-8-12訂正)
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①The House of Goblin Wood by Carter Dickson (英The Strand 1947-11, John Dickson Carr名義 掲載二番目 挿絵Steven Spurrier; 米EQMM 1947-11, Carter Dickson名義 巻頭話) 「魔の森の家」カーター・ディクスン 江戸川 乱歩 訳: 評価7点
乱歩の主張で翻訳者の名前が作者名と並んで印刷された、という伝説。作者名よりやや小さめの活字ですが、目次や各作品の扉に翻訳者名が明記されてます。ミステリマガジンはずっとその扱いを踏襲。翻訳家にとっては実にありがたい前例となったようです。
或るWebに乱歩の「抄訳」と書かれてたので、最初の数ページを調べましたが省略は一切なし。EQの熱のこもった長い解説が短篇の次に収録されてるのも良いですね。(当時のEQMM日本語版はほぼ全篇にEQの楽しい解説がついてる贅沢仕様です。)
他、作品自体の評価はカー『妖魔の森の家』の書評をご参照ください。
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②House Party by Stanley Ellin (EQMM 1954-5 最終話) 「パーティーの夜」スタンリイ・エリン 田中 融二 訳: 評価6点
昔、読んだときは結構面白かった記憶があるのですが、今読むとなんだか考え方が古めかしくて… 時代のムードとぴったり合いすぎた作風だったのかも知れません。(でも良く考えるとこの時代特有の閉塞感を感じる作品ですね。当時のP.K. Dickもこんな感じ。マッカーシズムが顕著な例ですが、当時から徐々に始まった管理社会の圧迫感なのでしょうか。)
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③De Mortuis by John Collier (The New Yorker 1942-7-18) 「死者を鞭うつ勿れ」ジョン・コリア 青木 雄造 訳: 評価7点
ちぐはぐな会話が収斂するところが素晴らしい。(冒頭の医者の態度が理由づけられてないのはちょっと残念か) 米国が舞台なのでニューヨーカー初出で間違いないでしょう。ところで英国ではsix feet underが基準のようですが、米国ではfour feet平均らしい。
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④Driver’s Seat by Ellery Queen (This Week 1951-3-25 タイトルLady, You’re Dead!)「運転席」エラリイ・クイーン 青田 勝 訳: 評価5点
サスペンス溢れる発端。昔の車の知識が無いと意味不明な解決かも。本作のネタは1960年代初頭まで一般的だったようです。登場するのはキャディラック51年型タウン カー、中古のロールスロイス、シボレー。
結婚許可証の手数料20ドル、治安判事に支払った5ドル(罰金?)は10年前の価格。米国消費者物価指数基準(1941/2019)で17.42倍、当時の1ドルは現在価値1842円。
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⑤Autopsy and Eva by Stuart Palmer & Craig Rice (EQMM1954-8 二番目) 「三人目の男」スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス 砧 一郎 訳: 評価7点
ウィザーズ&マローン第3作。凸凹コンビの掛け合いが楽しい話。ストーリーも短いながら起伏に富んでます。
軍用ピストル…制式は45口径: オートマチックならM1911、リボルバーならM1917。
新聞広告の賞金2000ドルは、米国消費者物価指数基準(1954/2019)で9.52倍、現在価値201万円。定食1ドル25セントは現在価値1259円。
歌がたくさん登場。
トラリーのバラ(The Rose of Tralee)はアイルランド民謡。
マザー マクリー(Mother Machree)もアイリッシュ系の歌。ブロードウェイオペレッタBarry of Ballymoore(1911)の一曲。Rida Johnson Young作詞、Chauncey Olcott & Ernest Ball作曲。
マローンが歌う「女の子のキレイなダブリンの町で」は、In Dublin's fair city/Where the girls are so prettyという歌詞で始まる"Molly Malone" (also known as "Cockles and Mussels" or "In Dublin's Fair City")か。
(以上2019-8-11記載)
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⑥House Dick by Dashiell Hammett (The Black Mask 1923-12-1 タイトルBodies Piled Up 二番目) 「雇われ探偵」ダシェル・ハメット 鮎川 信夫 訳: 評価5点
コンチネンタルオプ第5作。いきなりショッキングな始まり。派手な展開ですが推理味はあまりありません。ポーキーが登場しててちょっとびっくり。他にも出てるのかな?
(2019-8-12記載)
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⑦True or False by Michael Innes (The Evening Standard 1954-8-10 タイトルThe Scattergood Emeralds) 大久保 康雄 訳: 評価5点
アプルビーもの。首飾りが登場する小品。EQの解説なし。
(2019-8-12記載)
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⑧The Comic Opera Murders by James Yaffe (EQMM 1946-2 四番目) 「喜歌劇殺人事件」ジェイムズ・ヤッフェ 西田 政治 訳: 評価5点
ギルバート&サリヴァンのコミックオペラが背景。書簡で語られる物語。いかにもな感じが平凡な作品。
(2019-8-12記載)
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⑨Count Jalacki Goes Fishing by T.S. Stribling (EQMM 1946-9 最終話) 「ジャラッキ伯爵釣りに行く」T・S・ストリブリング 高石 三郎 訳:
ポジオリもの。前後篇の前篇。
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第2号(1956年8月号)この号まで作品は田中 潤司セレクト。カットは川端 実。
❶Dream No More by Philip MacDonald (EQMM 1955-11 掲載二番目) 「夢みるなかれ」 フィリップ・マクドナルド 荒 正人 訳:
❷Lamb to the Slaughter by Roald Dahl (Harper’s Magazine 1953-9) 「おとなしい兇器」 ロアルド・ダール 田村 隆一 訳:
❸The Accused by Ellery Queen (Today’s Family 1953-2 挿絵Al Moore タイトルThe Robber of Wrightsville) 「被告」 エラリイ・クイーン 尾坂 力 訳:
❹How Does Your Garden Grow? by Agatha Christie (Ladies’ Home Journal 1935-6 挿絵Mead Schaeffer 三番目) 「お宅のお庭はどうしたの」 アガサ・クリスティー 村上 啓夫 訳:
オグデン ナッシュによるポアロ讃付き。
❺The Body in the Pool by Rufus King (EQMM 1955-2 三番目) 「水中の死体」ルーファス・キング 峯岸 久 訳:
EQの解説なし。
❻A Note to Count Jalacki by T.S. Stribling (EQMM 1946-10 最終話) 「ジャラッキ伯爵への手紙」T・S・ストリブリング 高石 三郎 訳:
ポジオリもの。前後篇の後篇。
❼For Men Only by Roy Vickers (EQMM 1955-9 巻頭話) 「男子専用」 ロイ・ヴィカーズ 砧 一郎 訳
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第3号(1956年9月号)から巻末に編集後記が登場。筆者(M)は都築道夫編集長ですね。他にも「ぺいぱあ・ないふ」「MYSTERY GUIDE」「望遠レンズ」を開始、都築さんが前面に出た雑誌になります。カットは難波田 龍起。
⑴Dark Journey by Francis Iles (The Sunday News 1934-??-??) 「暗い旅路」 フランシス・アイルズ 村上 啓夫 訳:
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⑵William Wilson’s Racket by John Dickson Carr (Carter Dickson名義, The Strand 1941-2 挿絵Jack M. Faulks 掲載三番目) 「ウイリアム・ウィルスン事件」 ジョン・ディクスン・カー 高橋 豊 訳: 評価5点
マーチ大佐もの。
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⑶The Riddle of the Twelve Amethystes by Stuart Palmer (EQMM 1945-3 四番目) 「十二の紫水晶」スチュアート・パーマー 峯岸 久 訳:
⑷The Gambler’s Club by Ellery Queen (This Week 1951-1-7) 「賭博クラブ」エラリイ・クイーン 青田 勝 訳:
⑸Murder at the Poe Shrine by Nedra Tyre (EQMM 1955-9 二番目) 「ポウ廟の殺人」ネドラ・タイア 中村 能三 訳:
⑹The Case of the Emerald Sky by Eric Ambler (The Sketch 1940-7-10) 「エメラルド色の空」エリック・アンブラー 杉山 季美子 訳:
⑺I Always Get the Cuties by John D. MacDonald (EQMM 1954-11 十一番目) 「悪者は俺に任せろ」 ジョン・D・マクドナルド 中田 耕治 訳:
⑻Don’t Look Behind You by Fredric Brown (EQMM 1947-5 三番目) 「後ろを見るな」 フレドリック・ブラウン 曽我 四郎 訳:
⑼The Wagstaff Pearls by Mignon G. Eberhart (This Week 1952-9-21) 「ワグスタフ家の真珠」 ミニヨン・エバーハート 都築 道夫 訳:
⑽Hunted Down by Charles Dickens (The New York Ledger 1859-8-20 三回分載) 「追いつめられて」 チャールズ・ディケンズ 村上 啓夫 訳:

No.1 6点 mini
(2014/04/25 09:58登録)
本日25日発売の早川ミステリマガジン6月号の特集は、”創刊700号記念特大号”
以前にポケミスうん周年記念特大号の時も大部だったが、今回はミスマガ自身の記念という事で2700円、もう雑誌の値段じゃねえよ(笑)、売れる売れないとかじゃなくてこの際だから派手にやりましょって感じか
並行して早川文庫から700号記念アンソロジーが海外編と国内編との2巻で刊行されている、国内編は編者が日下三蔵氏だけに期待出来そうだ、この2冊は買おうか迷ってるところ(苦笑)
あとおまけ的にNHKドラマ「ロンググッドバイ」の小特集も

藤原編集室でも本日の”日々のあぶく”で採り上げているが、そうかコラム再録にあまり頁数を割いてないのかぁ、まぁ今回は回顧録というより収録短編総目録的意味合いが強いという事情なんだろう、その辺は仕方ないかも
そのかわり藤原編集室でも言及してたが、コラム集みたいなのを早川文庫で出してもいいんじゃないかな、私としてはそれだったら買ってもいい

さて現行の早川ミスマガの前身が日本語版EQMMである、本家EQMMとの専属契約は後に光文社の雑誌”EQ誌”に引き継がれるのだが、早川ミスマガの方は独自路線の編集となり現在に至る
早川ミスマガの功績は大きく、翻訳短編ミステリーの歴史そのものである、長編が最近初めて訳されたような作家でも、実は過去にHMMの何月号に掲載されて短編だけは紹介はされていたというケースはよくある

うわっ!前説が長くなっちゃった、初代日本版EQMMの最初の3冊を1巻に纏めた単行本が「復刻 エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン №1-3」なのだ、最初は雑誌カテゴリに登録すべきか迷ったが、内容は雑誌の復刻であっても本の体裁は単行本なのでやはり出版社編のアンソロジーの一種と見なすべきだと判断した
復刻なのでつまる音の小さい”っ”が普通の大きさだったりと活字が読み難いとか、私にとっては収録短編の半分以上が他の短編集などで既読とかだが、企画ものという事情なので今回は許す(苦笑)

今の視点で見ると当時の息吹が伝わってくるなぁ、第1号の巻頭はカーのあの乱歩訳「妖魔の森の家」、クイーン御大も軽いパズラーながら毎号1篇ずつ書いているし
中でも注目はコリア、エりン、ダールといった異色短篇作家たちが日本に紹介され出した時期に当たっている事だ、当時の読者は古臭い形式から脱した新たな躍動を見出したに違いない
これに比べて現在の日本の読者、特に若いミステリー初心者の脳内は残念ながら保守的に凝り固まっていると思う
他にブラウンのあの「後ろを見るな」、アンブラーの珍しい本格派短編「エメラルド色の空」とか
それから言及したいのは、今はマイナー視されがちだが当時のアメリカでは人気作家だったと分かるのがスチュアート・パーマーだ
パーマーはライスとの合作短編を含めて2編、これ以外にも短編は結構HMMでは紹介されていて、パーマーをマイナー作家だと思い込んでいるのは現在の日本の読者だけだろう
新鋭ネドラ・タイアは案外と期待外れだったが、ベテランのPマクやHIBK派エバハートは健在、ジョン・D・マクドナルドも当時売り出し中だったんだろうな
あと気が付いたのはストリブリングが2編入っている、クイーンにボジオリ教授シリーズの新作を要請されそれに応えた後期作だけど、あの『カリブ諸島の手掛り』に先立って中後期作は断片的には既に紹介されていたんだねえ
それともう1つ、ポーと並ぶ先駆者ディケンズの「追いつめられて」が第3号に掲載されてたんだな、クイーンが発掘した事は有名なので知っていたが、ここで遭遇するとはね

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