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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.88点 書評数:304件

プロフィール| 書評

No.284 4点 暗殺者たちに口紅を
ディアナ・レイバーン
(2023/12/21 22:33登録)
秘密組織の暗殺者として、40年に渡って共に働いてきたビリーら4人の女性。引退記念に組織がプレゼントしてくれた豪華客船の旅に出る。だが、組織は彼女たちの命を狙って、船に殺し屋を送り込んできた。体力こそ下り坂だが、ベテランの知恵と技術で彼女たちは生き延び、そして反撃を試みる。
ビリーたちは、息の合ったチームワークと殺しの技術で、数々の危機を乗り越えていく。カリブ海からアメリカへ、そして欧州へと移動しながら、あの手この手を駆使した戦いを堪能できる。
深みに書ける物足りなさ、ややご都合主義な面も感じるが痛快なエンタメ小説だ。


No.283 5点 その罪は描けない
S・J・ローザン
(2023/12/21 22:26登録)
ニューヨークを舞台に、白人男性のビル・スミスと中国系女性のリディア・チンの二人の私立探偵が活躍する第13作。
ビルを訪ねてきた男は、殺人で服役し、仮釈放されたかつての依頼人。彼はビルに奇妙な依頼をする。最近起きた2件の殺人事件の犯人が自分だと証明してほしいというのだ。
風変わりなシチュエーションが忘れ難い。依頼人の有罪を立証するのだ。二人の探偵や奇妙な依頼人をはじめ、登場人物の個性が印象に残る。ミステリとしては真相に大きな驚きはないものの、ユニークな幕開けから解決までの流れは安定している。


No.282 7点 破果
ク・ビョンモ
(2023/12/08 22:18登録)
45年のキャリアを持つ女性の殺し屋で現在65歳。正確無比な腕前の持ち主だが、年齢とともに心身の衰えを感じている。犬を拾って飼い始め、仕事でミスを犯し、冷徹な感情にも揺らぎが生じる。若い同業者トゥはなぜか彼女に反感を抱き、挑発を繰り返す。
老いた女性の殺し屋を主人公に、アクションやサスペンスを基調にしつつ、特定のジャンルの様式から逸脱する過剰な語りで読ませる。読者を軽々しく感情移入させない硬質なスタイルと、社会や人間に対する皮肉なまなざしを帯びた文体が印象に残る。


No.281 5点 金庫破りときどきスパイ
アシュリー・ウィーヴァー
(2023/12/08 22:10登録)
戦争を背景に、国家の任務を遂行する者が活躍する作品。第二次大戦下のロンドンで、複雑な生い立ちの女性が諜報戦に飛び込む物語である。
錠前師のミックと、彼を手伝う姪のエリー。二人の裏の顔は金庫破りだ。だがある日、二人は犯行現場で取り押さえられてしまう。二人を捕らえたのは警察ではなく陸軍。ラムゼイ少佐は、二人を投獄しない代わりに諜報活動への協力を要求する。
ドイツ相手の諜報戦を中心にしつつ、エリーの人間関係が描かれる。彼女を引き取ったおじ一家や旧友とのぬくもりある関係性。腕利き金庫破りのエリーと堅物のラムゼイ少佐の関係は幾分コミカルに、そしてロマンチックに。戦時下のスパイ活動という緊張感ある物語ながら、温かさにも満ちている。


No.280 9点 野獣死すべし
ニコラス・ブレイク
(2023/11/27 22:29登録)
推理作家フィリクス・レインは最愛の一人息子を轢き逃げで失ってしまう。しかし六カ月にわたる捜査にもかかわらず、警察は犯人の車を発見することが出来なかった。レインは独力で犯人を捜し出し、自らの手で復讐することを決意する。
作品の約三分の一にあたる第一部がレインの日記形式、その後は三人称で語られるという、異色の構成による本格ミステリ。この構成により単なる謎解き小説にとどまらず、心理サスペンスとしても強烈な印象を残す。


No.279 8点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2023/11/27 22:24登録)
ウエスト・バージニアのある交差点で首なし死体のはりつけ事件が起こる。小学校の校長、百万長者、スポーツマン、そして未知の男と、次々にはりつけにされてゆく死者を前に、エラリーは手をこまねいているばかりである。事件の背景に浮かび上がった異教徒のしるしであるT字形の十字架は何を語るのか。
陰惨な首なしのはりつけ死体と、大団円での自動車、急行列車、飛行機など現代のあらゆる交通機関を駆使して展開する大追跡があることで、クイーンの作品としては、かなり派手な印象を与えるものとなっている。解決で示される緻密な論理は、やはりクイーンならではのものであろう。


No.278 7点 密偵ファルコ/白銀の誓い
リンゼイ・デイヴィス
(2023/11/14 22:29登録)
舞台は紀元一世紀のローマ。軍隊勤めを終えたファルコが、故郷のローマに帰ってきて、ひょんなことから皇帝の密偵になる物語。
通常歴史ミステリは時代の設定、当時の風俗描写を重視するあまり、ストーリーが平板になりがちだが、本作は現代ものに比べても違和感なく主人公の描写も巧み。


No.277 7点 完璧な絵画
レジナルド・ヒル
(2023/11/14 22:26登録)
絵に描かれたような小村の美しい田園風景、一癖も二癖もありそうな村人や地主一家。そこに駐在の若い警官が行方不明になる。
のどかそうな村にも、地主一家の家督相続問題や村の小学校の存続問題、住人たちの複雑な関係など、何か犯罪が起きてもおかしくない雰囲気。
イギリス・ミステリのお得意の小さなコミュニティを舞台に、生き生きとした登場人物が楽しませてくれる。


No.276 6点 ポピーのためにできること
ジャニス・ハレット
(2023/10/31 23:00登録)
この小説は、オルフェとシャーロッとが渡された資料と、それに関する二人の推理を記録したチャットの会話とで構成されている。資料からは、関係者たちのうち数人が何らかの秘密を抱え込んでいる様子や、ある相手に親切に接している人物が別の関係者にはその相手のことを非難しているなど、裏表のある人間関係が浮かび上がってくる。
そしてオルフェとシャーロットのチャットによる会話は、錯綜した情報を整理し、読者の推理を手助けする役割を担っている。果たして、誰が殺され、誰が殺すのか。物語がある地点まで到達した時、一種の「読者への挑戦」といっていいメッセージが現れる。登場人物は実に四十一人。しかし、個性の強い人物ばかりなので混乱することはないはず。


No.275 6点 ファイナルガール・サポート・グループ
グレイディ・ヘンドリクス
(2023/10/31 22:54登録)
リネットは22年前の惨劇で生き残った「ファイナル・ガール」だった。他の同様な事件で生存者となった女性たちとともに、10年以上にわたってグループでセラピーを受けている。彼女たちが遭遇した事件と同じような惨劇が報じられたその日、その身に再び危機が襲い来る。リネットは逃走を続けながら、敵の正体を暴こうとする。
現実に起きた数々の大量殺人をもとにホラー映画のシリーズが作られ、実在の生存者が「ファイナル・ガール」として世に知られている、という設定の物語だ。惨劇の記憶ゆえに強い猜疑心の持ち主となったリネットの、精神に危うさを抱えながらもたくましく危機に立ち向かう姿は魅力にあふれている。ピンチと逆転が連続する、波乱に富んだ展開も忘れ難い。


No.274 5点 図書室の死体
マーティ・ウィンゲイト
(2023/10/20 22:23登録)
主人公は、新米キュレーターとして図書室に就職した女性。探偵小説の素人ながら奮闘する彼女が、図書室で死体が発見され、皮肉なことに探偵小説的な謎解きに乗り出すことに。
クリスティー作品の二次創作サークルの面々をはじめとする癖の強い登場人物たちが印象深い。ミステリとしてはやや薄味だが、愉快な読後感を残す、丁寧に組み立てられた小説である。


No.273 6点 ローズ・コード
ケイト・クイン
(2023/10/20 22:18登録)
ドイツと開戦した1940年の英国。上流階級の令嬢オスラ、下町育ちのマブは、ブレッチリー・パークの政府施設で働くことに。そこで大勢の人々がドイツの暗号解読に挑んでいた。二人は下宿先の娘ベスの意外な素質に気付き、彼女もまた暗号解読に従事することに。だが、三人の友情はある事件でバラバラになる。
戦時下と47年とを行き来しながら、三人に何が起きたのか、そして隠された企みが解き明かされる。謀略もさることながら、三人のヒロインの、ブレッチリ―・パークでの出会いと成長が印象深い。冒頭から悲劇を予感させつつも、三者それぞれの心のきらめきを描き出している。


No.272 6点 囚人同盟
デニス・リーマン
(2023/10/06 23:09登録)
舞台はワシントン州に実在する小島の刑務所で、その雑居房に居着いた囚人たちが主要な登場人物。彼らは、刑務所内の権力関係をそれなりに平穏に泳いでいたのだが、そこにある日、正体不明の男が入所してくる。ロバート・レッドフォード似のハンサムで、巨漢をひとひねりで倒す腕力。医学、法律、何でも詳しいこの囚人、当局の回し者かと警戒される。しかしやがて、雑居房仲間の信頼を勝ち取ると、ある壮大な計画をみんなの前に打ち明けた。
二転三転のストーリーづくり、切れ目なく仕掛けられた「山」の設定、小悪人たちへの愛のこもった描写、からりと乾いたユーモアに魅せられた。


No.271 7点 フリッカー、あるいは映画の魔
セオドア・ローザック
(2023/10/06 23:01登録)
「薔薇の名前」ほどのペダントリーはないにせよ、映画という素材を徹底的に煮詰めた、見事な思想史エンターテインメント。
このミステリには「映画についての映画」どころか、「映画を解体する映画」、「見ることの不可解な映画」なんてものまで登場して、記号論好きにはたまらないのではないか。最後の漂うような感覚もいい。


No.270 7点 毒の神託
ピーター・ディキンスン
(2023/09/21 22:13登録)
舞台はアラブの砂漠に聳え立つ巨大な逆ピラミッド形の宮殿という変なところ。主人公はそこでチンパンジーの意思伝達能力を研究していて、近くの沼地には独特の言語・風俗をもつ沼族の人々が生活している。
SFミステリそのものと誤解されそうだが、そこはディキンスンというわけで、いかにも英国的といった細部に凝る文章が物語にリアリティを与えているばかりか、まともな謎解きミステリにもなっているから不思議。


No.269 5点 図書館の美女
ジェフ・アボット
(2023/09/21 22:08登録)
のどかな田舎町ミラボーで、犬小屋や道具小屋が次々に爆破されるという事件が起きる。最初は単なるいたずらと思われたが、ジョーダン自身が被害にあって腕を負傷したあたりから、にわかに怪事件の様相を帯び始める。退院したジョーダンの前に一人の美女が現れる。ボストンの出版社に勤めていたころ付き合っていたヤンキー娘のローナ。今は開発会社の社員で、コロラド川沿いに建設するリゾートマンションの用地買収が目的だという。やがて彼女の上司が殺され、さらに地元の不動産業者が爆殺されて、事件の謎が深まっていく。
ユーモラスな語り口と軽妙な会話。捻りのきいたプロットとスピーディーな展開。まさしくコージーな快作である。


No.268 7点 帽子屋の休暇
ピーター・ラヴゼイ
(2023/09/06 22:33登録)
ロンドンから汽車で数時間の海水浴場、ブライトンで双眼鏡越しに魅せられた女性、プロセロ夫人とその一家を観察し続けるモスクロップ。ある日、プロセロ母子と子守りの少女が消え、切断された人間の手首が見つかった。
覗き屋の目を通したブライトンの風俗描写は、ヴィクトリア朝世紀末の危うげな雰囲気を醸し出す。さらに、ストーカーのような変人を始めとする個性の描き分けといい、捜査が急展開されて謎をほぐし、何とも悠然たる結末に収束させる構成の妙といい、間然とするところがなく存分に楽しめる。


No.267 7点 捜索者
タナ・フレンチ
(2023/09/06 22:27登録)
主人公はシカゴ警察を辞めてアイルランド北部の小さな村にやってきたカル。廃屋の修繕をしながら暮らしていたが、行方不明の兄を捜してほしいと地元の子供に頼まれて調査をしていく。
悠然とした筆致、何よりも素晴らしいのは、謎を解くだけで事態は解決しないという構成だ。大切な人を失った心の痛みを克服しなければ前に進むことは出来ない。
遠く離れたアメリカに住む娘と電話するラストシーンで、愛しさが一気に噴出して熱いものがこみ上げる。


No.266 5点 闇の中の男
ポール・オースター
(2023/08/20 22:40登録)
眠れぬ夜、元書評家の老人が物語を夢想する。舞台は9・11もイラク戦争も経験していないもう一つのアメリカ。代わりに、ある州が国から独立を宣言し、内戦が起きている。主人公の青年は「現実の世界」に戻ることを願うが、そのためには物語の作者である老人を殺さねばならない。
著者は作中作を巧みに配し、現実と虚構の境界を揺るがせることで、戦争が生む「傷」を浮き彫りにしていく。残酷な結末で唐突に物語を終えた老人は、孫娘に家族の歴史を語り始める。
やがて明らかになるそれぞれの抱える喪失。終盤、娘の引用する詩人の一節が、国や家族を「再生」へと導く光のように輝く。


No.265 6点 空のオベリスト
C・デイリー・キング
(2023/08/20 22:33登録)
物語は、ニューヨークを飛び立った旅客機の乗客が、犯行予告通りに数千メートルの上空で倒れたという不可能犯罪を扱っている。
大時代的なトリックは感心しないが、一九三〇年代初めの空の旅の描写は興味を引く。また事件の舞台が飛行中の飛行機であるだけに、豪華列車が舞台の「鉄路のオベリスト」より展開が速く、結果としてサスペンスが豊かで読みやすい。

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