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ミステリの祭典

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ギャンブラーが多すぎる

作家 ドナルド・E・ウェストレイク
出版日2022年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/09/03 17:15登録)
(ネタバレなし)
 1960年代(たぶん)のニューヨーク。「おれ」こと29歳のタクシー・ドライバー、チェット・コンウェイは、競馬やカード・ゲームなどのギャンブル好きだ。ある日、偶然に乗せた紳士から勝ち馬の情報をもらったチェットは、大穴の勝率で1000ドル近い儲けを得た。チェットは大穴の馬を、なじみのノミ屋トミー・マッケイに賭けていたので、電話をかけたのちにお金を貰いに行くが、マッケイのアパートで出くわしたのは何者かに惨殺された彼の死体だった。チェットはなんとか自分の配当金を、マッケイの属するシンジケートの筋から回収しようとするが、思わぬトラブルが向こうの方から次々とやってきた。

 1969年のアメリカ作品。ウェストレイクの同名義での長編11冊目で、作者の転機となったコメディ・スリラー『弱虫チャーリー、逃亡中』をすでに上梓した時期の作品。本作の翌年にはドートマンダーものの第一弾『ホット・ロック』も書かれるので、正にユーモア&ギャグ&スラプスティック路線に方向転換した作者の躍動期の一冊である。

 主人公チェットが、序盤から思わぬ知人の死体に遭遇。この手の設定で開幕する巻き込まれ型ミステリのうちの90%では第三者または警察に殺人犯と誤認され、そのまま逃亡という流れになると思うが、チェットの場合はさっさと警察を呼び、自分の潔白を理解させる。このあたり、地味に変化球でよろしい。
 しかし一方でやはりこの手のミステリのパターンなら、成り行きでアマチュア探偵になりそうなものだが、当座のチェットにはそんな意識はなく、頭にあるのは配当金の回収だけ。それがモタモタしているうちに、暗黒街の筋やら、マッケイの妹の美女でラスヴェガスのディーラーであるアビーなどが登場し、チェットに接触。話がどんどん転がっていく。

 半世紀前の旧作だけに途中のツイストなど、今ではどんでん返しの効果が弱くなってしまった面もちょっとあるが、全体的にハイテンポで筋運びは快調。事態の流れからアビーとお約束の共同戦線を張ることになるチェット、彼らが出会う適度にクセのある連中とのやり取りも楽しめる。

 それでも終盤は連続するクライシスの果てに、関係者を集めてアマチュア探偵さてと言い、のパターンになるが、本作ではそんな状況の組み立て方、そして正に意外な犯人! が非常に楽しい。さすがにガチガチのフーダニットパズラーではないが、それでもウェストレイク、ちゃんとミステリファン向けに仕込みをしておいたよ、とほくそ笑んでいる図が目に浮かぶようだ。
 
 木村二郎氏の翻訳も軽快。こーゆーものの発掘翻訳は本当に嬉しいと思っているが、今年はさらに論創社からも近い時期のウェストレイク作品の発掘がもう一本あるようで、実に素晴らしい。残りの未訳作品も続けて出しておくれ。『サッシー・マヌーン』も、そろそろ本にしておくれ。

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