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ミステリの祭典

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ミステリアム

作家 ディーン・クーンツ
出版日2021年04月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2024/07/05 00:31登録)
名作『ウォッチャーズ』のアインシュタインを彷彿とさせる人語を解する知能の高い犬が再び登場するのが本書である。
しかもそれは1匹だけでなく、何頭も登場する。ごく僅かな人間しか知られていない高度な頭脳を有する犬たち、すなわちミステリアムが存在する世界を描いている。

作中、ミステリアムの1匹キップを飼っていたドロシーがこの犬たちについて遺伝子工学の産物ではないかと話すシーンがある。彼女は画期的な実験で生み出された犬が研究所から逃げ出したのではないかと述べる。
『ウォッチャーズ』は知性ある犬アインシュタインの子供たちが生まれ、主人公がそれら遠くへ巣立っていき、そしてアインシュタインの子孫が広がっていくと述べて閉じられることから、このミステリアム達の存在はアインシュタインの子孫たちと思って間違いないだろう。従って本書は『ウォッチャーズ』から33年を経て書かれた続編と捉えることが出来よう。
クーンツはもしかしたらキングが『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』が36年後に書かれたことに触発されて本書を著したのかもしれない。クーンツはいつもキングを意識しているように思えるので。

しかしやはり読書というものは不思議なものだ。今回の敵の1人リー・シャケットは古細菌を取り込んだゆえに超人的な能力を手に入れた人狼になり、人々を次々と噛み殺していくが、この前に読んだ田中芳樹氏の『髑髏城の花嫁』もまた敵の正体は人狼であった。

しかし、幕切れは何とも呆気ない。
その後物語はダイジェスト的にその後のブックマン親子たち仲間の行く末などが語られて閉じられる。これらはなんと560ページ中最後の50ページ強でバタバタと片付けられるのである。

またもやクーンツの悪い癖が出てしまったように感じる。
圧倒的なまでに強大な敵を仕立て上げ、到底敵わないと思わせながら最後は101匹ワンちゃん大襲撃的力技で物語を片付けてしまう強引さ。特に敵の1人ロドチェンコが極度の犬恐怖症だったことで数多くの犬に囲まれて恐怖のあまりに全てを自白することで発覚すると云う低次元の情報漏洩なのだから苦笑せざるを得ない。

今回は題材が良かっただけに本当にこの終わり方は勿体ない。

No.1 8点 人並由真
(2022/01/29 08:54登録)
(ネタバレなし)
 余命いくばくもない老婦人ドロシー・ハメルの愛犬で、ゴールデンレトリバーの「キップ」。先天的に通常の犬とは違う資質を備えたキップはドロシーとの死別後、何かを知覚してある人物のもとに旅立つ。一方その頃、カリフォルニア州の一角にあるブックマン家では、高機能自閉症(特化した能力を持つ、自閉症)で大学生以上の天才的な頭脳を持つ11歳の少年ウッドロウ(ウッディ)が、ハッキングを通じてさる秘められた悪事に接近していた。だがそんなブックマン家に近づく、恐怖の影が……。

 2020年のアメリカ作品。
 邦訳も昨年に出たばかりで、評者にとっては久々のクーンツ、なんか面白そうなので、手にとってみる。

 ほぼ30年前の人気作『ウォッチャーズ』の系譜を継ぐ、スーパードッグからみのストーリーだが、世界観そのものは……これは読んでのお楽しみ?

 実のところ、評者は『ウォッチャーズ』に多くのファンがいることは認めるものの、個人的にはいまひとつ思い入れがないのだけど、はたして今回はずっと楽しめた。
 終盤、残りページが少なくなるなか、まだ複数のかなりの事態が未解決のまま。これはどうすんだろ? 少なくとも<あの手>は使うだろうな、とも予想し、とりあえずソレは当たった。
 が、残りのあれやこれやの局面をまとめたり結着づけたりの手際がとにかく無手勝流かつパワフルで、その辺はじつにオモシロイ。
 個人的には、断続的に三件ばかり「アア、ソウクルカ」という感慨を覚えた。
 特にアウトロー連中への対処ぶりは、ブラックユーモア的な興趣でニンマリさせられる。
 
 あえて不満を言うなら、未来を展望するSFビジョン的なメインテーマが、本来はもっと物語の軸に据えられるべきところ、ちょっと中心からずれちゃったみたいな印象を受けるところで。まあ(中略)化したあのキャラクターの存在も、主題の対比になっているともいえるかな。
 あと、メインヒロインが風来坊的に現れた男性キャラを、非常事態のなかで緊張している割に、あまりに軽く受け入れすぎるよね。そこは気になった。

 というわけで個人的には、作品トータルの完成度はソコソコなれど、なんやかんやの得点の累乗で面白く読めた一冊。
 おおざっぱに言えば、いかにも実質B級の、大冊エンターテイメント(クーンツにはまだまだもっと長い作品があると思うが)。
 でもこれはこれで、色んな興味が満たされて、なかなか楽しかった。
 評点はちょっとオマケ。

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