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ミステリの祭典

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猫サーカスさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:437件

プロフィール| 書評

No.97 6点 氷の秒針
大門剛明
(2018/04/05 19:15登録)
2010年4月27日、殺人事件など凶悪犯罪の公訴時効を廃止、延長する法律が成立し、即日施工された。この作品は、この時効廃止にまつわる事件を扱っている。時計修理技能士として働く原村俊介は、15年前の5月に起きた殺人事件で妻を失っていた。いまだ事件は解決していないが、時効寸前の2010年4月に法が成立、この先も犯人を追えることとなった。その一方、近くの松本市で起きた「社長一家惨殺事件」の犯人が、同年2月の時効を過ぎてから自首したものの、後日何者かに殺される。警察は、社長一家でただ一人生き残った長女の薫に疑いの目を向けた。時効廃止の法成立をめぐり、わずか3カ月の違いで明暗をわけることになった二つの事件。それぞれの遺族である俊介と薫の人生が交錯していく。時効をテーマにした単なる犯罪ものに終わっていない。時計とその修理にまつわる幾つものエピソードを効果的に扱っており、家族をめぐるドラマとしても見事に描けている。


No.96 5点 美しい家
新野剛志
(2018/04/05 19:15登録)
いくつもの人捜しの物語が重なり、その背景にあった意外な事実が、次第に明らかになる。ある種の探偵小説のように、尋ね歩きまわることで、隠されていた過去が現実とつながっていく。こうした構成が見事。また「家族」を持たない者たちをめぐる本作は、現代の歪んだ一面を映し出している一方で、どこかやりきれない悲しさを覚えずにおれない。望んでいた幸福を得られず、どこまでもさまよう者たちの孤独な姿が浮かび上がってくる。


No.95 7点 ミレニアム5 復讐の炎を吐く女
ダヴィド・ラーゲルクランツ
(2018/03/27 18:52登録)
ミレニアムシリーズ第5作。もともとの作者スティーグ・ラーソンの急死を経て、シリーズを引き継いだ新しい作者の2作目。前作で人命を救ったリスベット。だが、その行動が法に触れたため、2カ月の懲役刑を受けることに。収容された女子刑務所では、ある囚人が看守をも恫喝して支配下に置いていた。リスベットは彼女と対決する・・・。一冊ごとに趣向を変えてみせる本シリーズだが、今回は監獄もののサスペンスとして幕を開ける。囚人という制約の中で展開する物語には、やがてリスベット自身の過去に関わる謎、さらなる殺人事件が絡み合う。複雑にしてスピーディーな展開は健在。シリーズを通じて培われた主人公の魅力を、生かしきった一作。


No.94 5点 限界捜査
安東能明
(2018/03/27 18:52登録)
小1少女が行方不明となる場面で幕を開ける。そして失踪は誘拐事件へと転じたばかりか、恐ろしい悲劇へと向かっていく。警察捜査を本格的に描いた本作。一冊の本の中に、多くのテーマを含んでいる。その最大のものは<わが子に対する親の行いと巨大団地が生み出した犯罪>という側面。人が抱くさまざまな欲望の歪んだ形がそこにある。やりきれない悲惨な事件の裏表を描いた警察小説。


No.93 6点 確信犯
大門剛明
(2018/03/19 19:19登録)
司法界の格差問題をテーマに、ミステリアスな事件を見事に描きあげている。広島で起きた、ある殺人事件に対し、無罪判決が下された。ところが14年後にその元被告が「犯人は自分だ」と告白し、その直後、事件を担当していた裁判長が殺されてしまった。はたして被害者の息子による「確信犯」的凶行なのか。裁判に関わった二人の判事や容疑者の恋人など、多視点で展開していく本作は、単なる犯人捜しで終わらず、人間ドラマの妙でぐいぐいと読ませていく。それぞれの複雑な思いが交錯したまま、新たな事件が巻き起こっていくからだ。そのほか、法廷内だけではなく、広島の野球スタジアムが舞台だったり、司法改革の問題に切り込んでいたりするなど、物語に広がりや深みが感じられる。最後に待ち受けているのは驚愕の真実で、巧みな仕掛けに驚かされた。


No.92 6点 アルファベット・ハウス
ユッシ・エーズラ・オールスン
(2018/03/19 19:19登録)
第二次世界大戦の英軍機パイロットがたどる数奇な運命の物語。ドイツ上空で撃墜された二人は親衛隊将校になりすますが、搬送された先は虐待が横行する精神病院。一人はどうにか脱走し、28年後再び現地を訪れる。陰惨な場面も多い過酷な物語だが、常に精神的な緊張に満ちた、息苦しくも興奮に満ちた小説に仕上がっている。


No.91 6点 怪笑小説
東野圭吾
(2018/03/13 20:54登録)
ブラックな味わいの物語を集めた短編集。どの作品も構成が秀逸で、グイグイ入り込んでいくと、シュールで見事なオチが用意されている。例えば、混雑する電車の乗客たちの心の声が延々とつづられる「うっせき電車」。赤裸々で容赦ない本音の数々にうなずいたり、苦笑したり、面白おかしく読み進めると、最後の数行で唖然とさせられ、苦い後味の中に読者を引きずり込む。小気味良い演出で、しかも不思議と温かい気持ちになれる作品集。


No.90 5点 ブラックボックス
フランシスコ・ナルラ
(2018/03/13 20:53登録)
作りは荒っぽいけれど、驚くべき大風呂敷を広げてみせる。フライト先で衝撃的に殺人を続ける旅客機パイロットの物語、そしてスペインの礼拝堂の秘密を探る超常現象研究家の物語。この二つを並行して描きながら、さらにパリや中米での猟奇的な事件を絡めて、最後に巨大な図式を浮き上がらせている。


No.89 7点 骨の刻印
サイモン・ベケット
(2018/03/08 17:33登録)
法人類学者デイヴッドを主人公にしたシリーズ第2作。不審な焼死体が発見され、デイヴィッドは島に向かう。常体は燃え尽きているのに、手足だけがきれいに焼け残った異常な状態の死体だった。殺人だと判断したデイヴィッドは、地元警官と元刑事の助けを借りて捜査を始めるが、本土での列車事故や嵐で応援の捜査員は来ず、閉鎖的な島民の敵意にさらされながら孤軍奮闘せざるを得ない。しかし、骨を保管していた建物に放火され命を狙われたり、警官が殺害されたりと、不穏な出来事が起き始める。燃え残った骨の残骸から被害者を割り出す緻密な描写が非常に興味深い。「死者は証言者となり」「真相を語ることができる」とはスリリング。デイヴィッドは妻と娘を事故で失ったトラウマに苦しみ、新たな恋愛でも悩んでいるが、彼の葛藤にも共感を覚えた。後半から一気に加速するストーリー展開と衝撃のラストは読み応え十分。


No.88 6点 僕の心の埋まらない空洞
平山瑞穂
(2018/03/08 17:33登録)
自分は決して大きな罪を犯す事はない。誰もそう思っているだろう。しかし時には、単なる過失ではなく、いつの間にか一線を越え、向こう側に行ってしまう場合がある。検事は事件に至るまでには、さまざまな恋愛の駆け引き、心の変化があったことを知るばかりか、その奥に潜む人ごとではない何かを感じ始める。愛する人がいながら、別の女性に興味を抱き、関係をもつ。その過程につきまとう感情と葛藤が細やかに語られている。単なる好意が、やがて人生を狂わせるほどの切実な思いへと変化する恐ろしさが堪能できるサスペンス。


No.87 6点 終わりの感覚
ジュリアン・バーンズ
(2018/03/01 18:27登録)
2011年英ブッカー賞受賞作。語り手のトニーは60歳を過ぎ、離婚をはじめ人生の挫折をたっぷり味わっている。前半は、初めての交際相手ベロニカを中心に、青春時代が生き生きと回想される。友人のエイドリアンにベロニカを奪われてしまったことも、その恨みも、エイドリアンの突然の自殺も、よくある青春の苦いエピローグと読めるでしょう。しかし、ある女性がエイドリアンの日記と現金500ポンドをトニーに遺贈したとの連絡が弁護士から入り、物語は一気に緊張する。日記はベロニカの手元にあり、彼女は頑なに引き渡しを拒む。なぜなのか?トニーは大きな謎を突きつけられ、やがて知った真実に打ちのめされた。人生の折り返し点を過ぎた人には、主人公の痛みと後悔が胸に突き刺さるでしょう。悲哀漂う美しい小説。


No.86 6点 アマルフィ
真保裕一
(2018/03/01 18:27登録)
イタリアを舞台にした誘拐ミステリ。もともとオール・イタリアロケを前提とした映画の原作として作られた物語だという。華やかな観光都市を移動しながら進行していく物語は、スケールの大きさと豊かな娯楽性を感じさせるばかりか、犯人側の目的が隠されたまま展開していくため最後まで緊張や興奮が途切れることはない。すべての要素にメリハリが利いているため、大変読み心地の良い作品に仕上がっている。


No.85 6点 五番目の女
ヘニング・マンケル
(2018/02/22 20:50登録)
長年不仲だった父親とヴァランダーのローマ旅行から始まる。帰国した彼を待ち受けていたのは、竹で串刺しにされた老人の死体だった。さらにもう一人の惨殺された死体が発見され、彼は連続殺人を予見する。被害者たちの過去を徹底的に洗い、共通点を探ろうとするヴァランダー。このシリーズの魅力の一つは、警察の捜査や刑事の姿が極めて丹念に等身大で描かれていることでしょう。とりわけ本作では、育児と仕事を両立しようとする女性刑事が印象に残る。地道な捜査がじりじりと真相に近づいていく過程は、相変わらずスリリングで、作者のストーリーテラーぶりを再認識させられた。今回のヴァランダーは恋人との間がなかなか進展せず、娘にも批判的な事を言われ、父親も亡くなり焦燥と苦悩を募らせる。しかし、そうした弱さを併せ持つ人間臭さゆえに、彼は犯人の心の奥に分け入ることが出来るのでしょう。魅力的なシリーズ。


No.84 7点 汚れた檻
高田侑
(2018/02/22 20:48登録)
現代の病む者たちをリアルに描き、生理的な嫌悪やおぞけの走る恐怖を感じさせることを得意としている作者。この作品で語られるのは、出口なしの地獄へ追い込まれた男の恐怖。主人公の辻原は、単調な作業、嫌がらせする上司、少ない給料の三重苦に不満を抱きつつ、小さな工場で働いていた。ある時幼馴染の牛木に、彼の父が経営する会社の社員にならないかと誘われた。就職にまつわる主人公の苦難は序の口で、最悪な出来事の後にもっとひどいことが起こる。暮らしていた家は次第に血で染まっていく。作者の代表作「うなぎ鬼」に出てきたうなぎの養殖場と似た、なんともいえない不気味さが漂っている。なにより登場人物ひとりひとりの描き方が見事で、ページをめくらずにおれない。ホラーファン必読の一冊。


No.83 5点 禁止リスト
コーティ・ザン
(2018/02/22 20:48登録)
親友とともに3年以上監禁されていた少女の「その後」を描く。救出されてから10年、事件のトラウマでいまだに外出もままならないセアラ。犯人の仮釈放を阻止するため、彼女は過去を探る旅に出る。監禁中の出来事はほとんど語られないけれど、陰惨な印象強く残す。ミステリとしての謎解きの妙味は薄いけれど、不穏な状況と困難の連続で読ませる作品。


No.82 7点 誇りと復讐
ジェフリー・アーチャー
(2018/02/14 21:41登録)
無実のダニーが殺人犯として逮捕され、22年の刑を宣告された。実は作者のアーチャーは司法妨害と偽証罪の罪で、2年ほど刑務所で過ごした経験があるらしい。その実体験のおかげで?、ダニーの刑務所生活の描写は詳細でリアル。やがて、無実の罪を晴らし、4人に復讐するために、ダニーが刑務所仲間の力を借りて立てた驚くべき計画とは・・・。冒頭とラストの息詰まる法廷シーンはもちろん、読み書きも出来なかったようなダニーが、論文で賞を取るまでになる努力など、読みどころ満載。人間の信義と善意に読後は、温かい気持ちになれる上質のエンターテインメント作品。


No.81 7点 冬の光
篠田節子
(2018/02/14 21:41登録)
四国遍路の帰路、徳島発のフェリーから冬の海に消えた父親の死の謎を次女が追求する家族ミステリ。父親は家族に隠れて長年愛人と関係を持っていた。次女は遍路をたどり、父親の人生とは何だったかを探ることになるが、小説ではそれと並行して父親の回想が入る。家庭にも恵まれ、企業人としても評価を得ていたのに、どこで踏み迷ったのか。今時珍しいくらいに人生とは何か、自分とは何かを正面から問いかける本格小説。次女が最後に見出す死の真相が静かな感動を呼ぶ。


No.80 6点 喪失のブルース
シーナ・カマル
(2018/02/08 19:14登録)
厳しい過去を背負った女性が主人公のハードボイルド。幼くして里親の家を転々とし、路上生活も経験したノラ。野生の勘を頼りに人探しを請け負う今も、古傷をえぐるような事件に向き合うことに・・・。カナダの都市バンクーバーの美しい街並みの裏に潜む、社会の矛盾をえぐり出す。暗く重い物語だが、語り口の情緒が深い余韻を残す。


No.79 7点 潜入 モサド・エージェント
エフタ・ライチャー・アティル
(2018/02/08 19:14登録)
イスラエル諜報機関モサドの諜報員を描く物語。謎めいた言葉を残して失踪した元スパイのレイチェル。機密漏洩を恐れるモサドは彼女の行方を追う。かつての上司だったエフードは、彼女との記憶を振り返る・・・。回想と追跡を通じて描かれる、レイチェルの半生が記憶に残る。元イスラエル兵軍事情報将校という作者の経歴からの予想を覆す、味わい深い作品。


No.78 6点 凍てついた墓碑銘
ナンシー・ピカード
(2018/02/01 19:00登録)
17年前、米国カンザスの田舎町で吹雪の夜に身元不明の娘の死体が発見された。その夜、恋人のミッチと過ごしていたアビーにとって、それは運命を変える事件になった。翌朝、ミッチは理由も告げずに突然、町を出て音信不通になったからだ。だが、前触れもなく町に戻ってきたことで波紋が広がる。真相があぶりだされ、登場人物たちの秘められた過去が露になっていく過程が、狭い地域社会ならではの連帯感や義理人情とともにじっくりと緊密に描かれている。深みのある人間ドラマは読みごたえがある。カンザスならではの竜巻や猛吹雪の描写にも圧倒された。なによりも明るくまっすぐなアビーがいい。陰惨な事件にもかかわらず、彼女の存在はこの作品を温かなものにしている。

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